会社売却のデメリットとは?7つの注意点と回避策、手続きの流れを徹底解説

取締役副社長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

会社売却には後継者問題の解決など多くのメリットがある一方、想定外のデメリットで後悔するケースも少なくありません。本記事では会社売却で注意すべき7つのデメリットと、その回避策、手続きの流れをわかりやすく解説します。

目次

  1. 会社売却の基礎知識【株式譲渡】
  2. 会社売却の一般的な手続きと流れ
  3. 会社売却に最適なタイミングとは?3つのケース別に解説
  4. 【重要】会社売却で後悔しないための7つの注意点
  5. 会社売却のデメリットを回避・軽減するための対策
  6. 会社売却の価格相場
  7. 会社売却の注意点に関する不安はM&A仲介会社に相談
  8. 会社売却の注意点まとめ
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1. 会社売却の基礎知識【株式譲渡】

ひとことに会社売却といっても、M&Aにはさまざまなスキーム(手法・手段)があり、結果的に会社売却の方法は多数あります。その中でも、中小企業の会社売却方法として最も多く用いられているのが株式譲渡です。本章では、株式譲渡の概要を解説します。

株式譲渡の定義

株式譲渡とは、売り手企業の株主が持つ株式を買い手企業に譲渡し、経営権を移転させるM&Aの手法です。会社の支配権を得るには、株主総会で議決権の過半数の株式取得が最低ラインとなります。

ただし、会社の重要事項を決定する「特別決議」には3分の2以上の賛成が必要です。そのため、買い手は安定した経営を目指し、可能であれば100%の株式取得を希望するのが一般的です。

特に中小企業ではオーナー経営者が全株式を保有するケースが多く、手続きがシンプルな株式譲渡が主流となっています。
 

会社売却を行うメリット

一般的に会社売却のメリットとして考えられているのは、以下のようなものです。

  • 後継者不在の場合、買い手に事業承継することで会社が存続する。
  • 会社の存続(廃業の回避)により、従業員の雇用は守られ取引先・顧客に迷惑がかからない。
  • 買い手が大手企業の場合、そのブランド力や資金力などを背景に経営の改善、安定化が望める。
  • 買い手の事業と親和性が高ければ、シナジー効果でより一層の業績向上が見込める。
  • 売り手経営者は、相応の売却益を獲得できる。
  • 株式譲渡であれば売り手企業の債務は買い手に引き継がれるため、売り手経営者が負っていた個人保証や担保差し入れが解消される。

会社売却で起こりうる5つのデメリット

会社売却を行うと、主に以下のデメリットが問題となることがあります。

  • 希望に合致した買い手探しが難しい(急いで売却したくても時間がかかる可能性)。
  • 買い手が見つからなければ成立しない。
  • 買い手が見つかっても売却条件を下げられることも多い。
  • 交渉過程で情報が漏れると、反発した従業員が離職したり先行きを不安視した取引先が契約解除したりする場合がある。
  • 上記の結果として、交渉が破談になりやすい。

会社売却についてもっと詳しく知りたい方は、以下の記事をご一読ください。

【関連】会社売却とは?手続きの流れやメリットデメリットを徹底解説!

2. 会社売却の一般的な手続きと流れ

会社売却を実行するためには、一定の手続きを踏む必要があります。以下が一般的な会社売却の流れです。各プロセスの概要を順番に説明します。

  1. M&A仲介会社などとの契約
  2. 会社売却先の選定・交渉
  3. 基本合意書の締結
  4. デューデリジェンスの実施
  5. 最終契約書の締結
  6. クロージング

①M&A仲介会社などとの契約

会社売却には、法務や税務、企業価値評価など高度な専門知識が不可欠です。自社のみで進めると、不利な条件で契約してしまったり、法的なトラブルに発展したりするリスクがあります。そのため、実績豊富なM&A仲介会社などの専門家に相談し、適切なサポートを受けることが成功への近道です。M&A仲介会社との契約形態は、主に以下の2種類に分けられます。

  • 仲介形式
  • アドバイザリー形式

仲介形式は、M&A仲介会社が売り手と買い手双方と契約し、両者の利害・意見を調整しながら交渉を行うスタイルです。条件がまとまりやすく交渉が早期に完結する点が特徴ですが、その分、条件に妥協を求められやすくなります。

アドバイザリー形式は、M&A仲介会社が売り手か買い手のどちらかとのみ契約し、依頼側の最大限の利益を追求するサポート形式です。交渉がまとまりづらく長期化したり、破談してしまったりする懸念があります。

仲介会社によって、どちらの形式で契約となるかわかりません。どちらか一方で別の選択肢がないこともあれば、どちらかを選べることもあります。事前確認が必要です。

秘密保持契約の締結

秘密保持契約とは、会社売却で開示する自社の秘密情報を守るために締結する契約書です。会社売却では必須の手続きですが、締結する相手・タイミングは2回あります。

はじめは、正式依頼前のM&A仲介会社に自社情報を開示して相談をする場合で、事前に秘密保持契約の締結が必要です。次は、M&Aの交渉相手が定まり、交渉開始にあたって自社情報を開示する場合で、その直前までに秘密保持契約を締結します。

②会社売却先の選定・交渉

M&A仲介会社と契約すれば、仲介会社側が業務上のネットワークを用いて、条件に合いそうな売却先を探します。その中から候補を選び、ノンネームシート(匿名の会社概要書)を配布・提示して反応を待ちましょう。

最終的な取引候補が選定できたら、秘密保持契約を締結し本格交渉に入ります。

意向表明書の提示

意向表明書とは、譲受・買収に対して前向きな意思があることを示す書面です。今後の交渉を円滑にする目的で、買い手側から売り手側に提出されます。

③基本合意書の締結

基本合意書とは、現段階の交渉内容に双方の合意が得られていることを示す契約書です。契約書といいながら、法的な効力は持たないのが基本です。基本合意書は、交渉内容の整理と今後のスケジュール確認を行うものと位置付けられています。

例外的に、独占交渉権や秘密保持などの一部条項は、法的な効力を持たせるのが一般的です。基本合意書の法的な効力を巡ったトラブルは珍しくないので、注意点として認識しておきましょう。

④デューデリジェンスの実施

デューデリジェンス(DD)とは、買い手が売り手企業の価値やリスクを精査する買収監査のことです。財務・税務・法務・事業など多岐にわたる分野について、弁護士や会計士などの専門家が調査を行います。

この過程で未払いの残業代や訴訟リスクなどの「簿外債務」が発覚すると、売却価格の減額や交渉決裂につながる恐れがあります。売り手側は、誠実な情報開示と資料提出に協力する姿勢が極めて重要です。

⑤最終契約書の締結

最終契約書とは、最終的な交渉内容に双方が合意していることを示す契約書です。デューデリジェンスの結果が反映されたもので、すべての条項で法的な効力を持ちます。便宜上、最終契約書と呼ばれることもありますが、株式譲渡であれば「株式譲渡契約書」が一般的な契約書名です。

注意点としては、契約書の内容に反する行為は損害賠償問題に発展する可能性がある点です。各条項の内容をしっかり把握しておきましょう。

⑥クロージング

クロージングとは、最終契約書の内容を履行することです。株式譲渡であれば売り手は株式の引き渡し・株主名簿の書き換え、買い手は対価の支払いなどを行います。各種準備のために最終契約書の締結日から一定の期間を空けて実行されるのが一般的です。

最終契約書の締結段階で引き渡し準備が終わっている場合は、同日中にクロージングを行うこともあります。

【関連】M&Aのフロー・流れを徹底解説!検討〜クロージングまで【図解あり】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

3. 会社売却に最適なタイミングとは?3つのケース別に解説

会社売却は、実施するタイミングが重要です。以下の3つのケースで会社売却する場合、どのようなタイミングが適切なのか解説します。

  1. イグジット目的でバイアウトを図るケース
  2. 業界再編への対応を図るケース
  3. 後継者不在による事業承継を図るケース

①イグジット目的でバイアウトを図るケース

イグジット(出口戦略)とは、主にベンチャー企業やスタートアップなどが、投資資本回収を図ることをさします。この場合、できるだけ高額で会社売却することが主論です。そうなると、まずは自社の業績が良いタイミングが、1つの売りどきといえます。2期・3期と続けて業績が上がっていれば高額オファーを得られやすいはずです。

次に、自社を取り巻く社会環境が良いタイミングも、有力な売りどきです。一例としては、自社の行っている事業の市場・業界全体が膨張しているときなどが該当します。

②業界再編への対応を図るケース

会社売却を検討している前提条件付きですが、自社の事業が属す業界に再編の動きがある場合は、大手の再編が一段落してしまう前に急いで会社売却に向けて動き出すのが得策です。大手の再編が完了し、新たな市場シェアが確定した後では、好条件での会社売却は期待できません。

業界再編が完了する前であれば、大手企業も相応の買収予算を組み、多くの中小企業を巻き込んで再編を進めていくので、高額オファーによる会社売却も十分あり得ます。

③後継者不在による事業承継を図るケース

経営者自身の年齢、健康状態を考慮し、引退したい時期を見定めましょう。そこから逆算して、会社売却の準備・実行に移すことが最適です。ただし、逆算の時期をどの程度にするかは、M&Aに不慣れだと見極めづらいかもしれません。

その場合、M&A仲介会社などに全ての事情を説明し、いつから会社売却の準備に入るべきか相談すると良いでしょう。

【関連】イグジット(EXIT)とは?意味やメリット・デメリットを徹底解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所
【関連】事業承継と廃業(清算)を比較!どちらが得する?| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

4. 【重要】会社売却で後悔しないための7つの注意点

会社売却は、経営者や従業員の将来に大きな影響を与える重要な決断です。しかし、デメリットや注意点を軽視すると、思わぬトラブルに発展し、後悔する結果になりかねません。ここでは、会社売却を成功させるために必ず押さえておくべき7つの注意点を解説します。

  1. 譲渡所得に対する税金に注意
  2. 希望額どおりの会社売却ができるとは限らない
  3. 従業員・役員の処遇を要確認
  4. 会社売却のタイミングを逃さない
  5. 売却後の拘束に注意
  6. 情報漏えいに注意
  7. 個人で交渉することへの注意

①譲渡所得に対する税金に注意

会社売却によって得た譲渡所得には、税金がかかります。2024年現在、税率は合計20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)です。復興特別所得税は2037年まで課される予定ですが、今後の税制改正で変更される可能性もゼロではありません。最新の税制情報を確認し、手残り額を正確に試算しておくことが重要です。


経営者が獲得できる売却益は、税金が差し引かれた金額です。税金を考慮していないと、資金運用計画に支障が出る可能性もあるので、注意点として認識しておきましょう。

②希望額どおりの会社売却ができるとは限らない

会社売却の注意点2つ目として、希望額どおりの会社売却ができるとは限らない点が挙げられます。会社売却を行う際は希望額を定めたうえで買い手を探しますが、必ずしも買い手が見つかるかとは限りません。

買い手が見つかった場合でも、交渉を進めるうえで値下げを求められることがあります。希望額どおりの売却にこだわり過ぎると、会社売却のタイミングを失ってしまう可能性もあるので、ときには譲歩することも大切です。

③従業員・役員の処遇を要確認

会社売却の注意点3つ目は、従業員・役員の処遇を確認しておくことです。会社売却で利用するM&Aスキームの中には、従業員・役員の自動的な引き継ぎが行われない手法もあります。

引き継ぎが行われなかった場合、従業員・役員は失業することになるので、交渉段階から買い手側の意向を確認しておくことが大切です。

④会社売却のタイミングを逃さない

会社売却の注意点4つ目は、会社売却のタイミングを逃さないことです。会社売却のタイミングは業界再編が進んでいるときが最適です。買い手側が積極的に買収しているときも、売り手市場なので、高い評価を得られやすくなります。

業界再編が落ち着くと、買い手を見つけることが難しくなるため、タイミングを逃さないよう常に準備を進めておきましょう。

⑤売却後の拘束に注意

会社売却の注意点5つ目は、売却後に拘束される可能性があることです。会社売却では、取引後に売り手側の経営者を会社・事業に関わらせる「キーマン条項(ロックアップ)」があります。

キーマン条項の目的は、買い手側の事業安定です。多くの場合で経営者が事業のキーマンであるため、早期の事業安定を図るために売り手側の経営者を1年~数年にわたり拘束します。

拘束内容は契約次第ですが、契約期間中は自由に行動できないことが多いため、会社売却後に新たに事業を起こそうと考えている場合はキーマン条項に注意しましょう。

⑥情報漏えいに注意

会社売却の注意点6つ目は、情報漏えいです。会社売却の情報が不完全な形で流出すると、従業員の不安をあおって自主退職を招いてしまうおそれがあります。交渉相手が上場企業の場合、株式市場への影響も大きいです。

投資家は公式に発表された情報以外にも敏感に反応するため、株式市場の公正な取引環境が維持できなくなる可能性が高まります。会社売却の情報は会社や従業員に与える影響が大きいため、情報管理を徹底して交渉を進めながら、契約成立の段階で公表する流れが理想です。

⑦個人で交渉することへの注意

会社売却の注意点7つ目は、個人で交渉することです。会社売却を個人交渉で進めることも不可能ではありませんが、交渉トラブルや情報漏えいなどの注意点を考えると大きなリスクを伴います。

交渉では主観的な意見がぶつかり合うため、双方が納得できる形で落ち着かせるのは難しく、トラブルも起こりやすいです。各プロセスで客観的な意見が必要となるため、個人交渉には限界があります。

買い手への直接打診は、情報漏えいリスクも否定できません。会社売却の買い手選定は、専門家を介してノンネームシートで行う方が安全でスムーズに進みます。

【関連】株式譲渡時の源泉徴収や税金は?注意点も解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所
【関連】キーマン条項(ロックアップ)とは?意味や期間、注意点を解説【具体例あり】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

5. 会社売却のデメリットを回避・軽減するための対策

会社売却のデメリットは、事前の準備と適切な対応によって最小限に抑えることが可能です。ここでは、後悔しないための具体的な対策を3つ紹介します。

対策1:専門家(M&A仲介会社)に相談する

会社売却を成功させるには、M&Aに関する専門知識と経験が不可欠です。信頼できるM&A仲介会社に相談することで、自社にとって最適な買い手候補の選定や、有利な条件での交渉が可能になります。また、複雑な手続きや契約に関するリスクを回避し、安心してプロセスを進められます。
 

対策2:従業員や取引先への丁寧な説明を準備する

会社売却の情報は、従業員や取引先に大きな不安を与える可能性があります。情報が漏洩して混乱を招く前に、どのタイミングで、誰に、何を伝えるかを事前に計画しておくことが重要です。買い手企業と協力し、売却後の雇用維持や取引継続について誠実に説明することで、関係者の理解を得やすくなります。
 

対策3:売却後のビジョンを明確にしておく

経営者自身が会社売却後に何をしたいのか、ビジョンを明確にしておくことも大切です。売却益の使い道、引退後の生活、あるいは新たな事業への挑戦など、目的がはっきりしていれば、交渉の軸がぶれません。また、ロックアップ(売却後の一定期間、売り手経営者が会社に残ること)の条件交渉においても、自身の希望を明確に伝えられます。

6. 会社売却の価格相場

会社売却を検討するうえで気になるのは売却額ですが、実際のところ価格相場は存在しません。会社売却では、企業価値評価を行って取引価格を算出します。

企業価値評価の算定方法はさまざまありますが、中小企業の場合は「時価純資産法+営業権」が一般的です。時価評価した純資産に無形資産を評価した営業権を上乗せして価格を算出します。

算出された価格を参考に交渉を進めていくので、最終的な取引価格は交渉次第です。こうした過程を経たうえで売却額が算出されるので、不動産のような価格相場はありません。

【関連】会社売却、M&Aの相場を解説!企業評価とは?| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

高く売却するためのポイント

高く売却するうえで、会社の磨き上げは効果的な施策の1つです。具体的には、「自社の課題を調査・改善する」「自社の強みを洗い出す」ことを行います。これら2つの施策により、会社の企業価値の最大化につながります。

会社売却の交渉を前に磨き上げを行っておくと、より良い条件・金額で会社を売却可能です。赤字の企業であっても、磨き上げを行うことで、会社売却に成功した事例も少なくありません。

7. 会社売却の注意点に関する不安はM&A仲介会社に相談

会社売却にはさまざまな注意点があり、すべての注意点に対応しようとすると大変な労力です。すべての注意点を押さえて会社売却の成功率を高めるためには、M&A仲介会社のサポートを受けることをおすすめします。

M&A総合研究所は、M&A・会社売却の仲介を請け負っているM&A仲介会社です。さまざまな業種の仲介実績を保有しており、M&A規模は中堅・中小規模と幅広く対応しています。

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8. 会社売却の注意点まとめ

会社売却を進めるうえで、多くの注意点は事前に対策を施して対応できますが、中には法的な内容が伴うものも存在します。必要に応じて専門家に相談することで、注意点に対して適切な対応を取りましょう。

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