病院/医療法人の事業譲渡・売却の手続きやメリット・デメリット、動向を解説

企業情報本部長 兼 企業情報第一本部長
辻 亮人

大手M&A仲介会社にて、事業承継や戦略的な成長を目指すM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、経営者が抱える業界特有のお悩みに寄り添いながら、設備工事業や建設コンサルタント、製造業、医療法人など幅広い業種を担当。

病院/医療法人の事業譲渡・事業売却は、株式会社の事業譲渡とは異なる部分があるため、慎重に行わなければなりません。この記事では、病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の手続きの流れ、メリットやデメリット、売却を成功させるコツなどを解説しましょう。

目次

  1. 病院/医療法人の事業譲渡・売却
  2. 病院/医療法人の事業譲渡・売却を行う際のポイント
  3. 病院/医療法人の事業譲渡・売却の手続き
  4. 病院/医療法人の事業譲渡・売却のメリット・デメリット
  5. 病院/医療法人の事業譲渡・売却時の注意
  6. 管理医師がいない場合の譲渡の可能性
  7. 病院/医療法人の事業譲渡・売却を成功させるコツ
  8. 病院/医療法人の事業譲渡・売却を行う際は専門家への相談がオススメ
  9. 病院/医療法人の事業譲渡・売却のまとめ
  10. 病院・医療法人業界の成約事例一覧
  11. 病院・医療法人業界のM&A案件一覧
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1. 病院/医療法人の事業譲渡・売却

本記事では、病院/医療法人のM&Aによる事業譲渡・事業売却の手続きの流れ・メリットやデメリット・注意点を解説します。まずこの章では、病院/医療法人、事業譲渡・事業売却といった、基本的な用語の意味を説明しましょう。

病院/医療法人とは

病院とは、病気やけがをした人を治療し、病人やけが人を入院させて収容する施設のことです。病院と似た言葉に「診療所」がありますが、ベッドの数が20床以上あれば病院、20床未満は診療所と分けられています。

病院は医師の数が3人以上で、外来患者40人、または入院患者16人に対して医師を一人必要とすると定められています。病院の形態は国立、公的医療機関、社会保険関係機関、そして医療法人です。

医療法人は全国の病院数、診療所数、病床数が最も多く、医療の根幹となっています。病院の形態は、以下のように分類されます。

  • 国立:国立病院、国立大学法人
  • 公的医療機関:都道府県立病院、市町村病院、赤十字病院
  • 社会保険関係機関:社会保険病院、厚生年金病院
  • 医療法人:病院や診療所、介護施設などの運営を目的とする法人(医療法人社団・医療法人財団などの区別あり)

医療法人は、株式会社と違い、株式ではなく出資持分や基金で資金が集められます。株式会社では、利益に応じて株主に配当金が支払われますが、医療法人では配当の支払いは禁止されています。

病院/医療法人の事業譲渡・売却とは

事業譲渡・事業売却とは、法人や個人事業主が営んでいる事業を譲渡・売却するM&A手法のことです。株式を譲渡して経営権を移動する株式譲渡とともに、M&Aの代表的な手法の一つです。

病院/医療法人は株式を発行しないので、株式譲渡は行えません。株式譲渡のように病院/医療法人を丸ごと譲渡したい場合は、出資持分を譲渡します。

事業売却の用語もよく出てきますが、事業譲渡や株式譲渡などを、売却側から見たときに事業売却、買収側から見たときに事業買収といったいい方をします。

【関連】病院/医療法人の売却・売買マニュアル!動向や相場からM&A案件も解説!

2. 病院/医療法人の事業譲渡・売却を行う際のポイント

病院/医療法人の事業譲渡・事業売却を行う際は、以下のようなポイントを押さえておきましょう。

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却を行う際のポイント】

  1. 経営状態や強みなどを資料としてまとめる
  2. 事業譲渡・売却の目的を明確にする
  3. 譲れない条件を絞る
  4. 手法ごとのポイント

①経営状態や強みなどを資料としてまとめる

病院/医療法人は競争が激しい業界です。公的医療機関の7割、医療法人の3割が赤字といわれています。買い手側としては、売り手の経営状態が気になるところでしょう。

病院/医療法人を事業譲渡・事業売却する際は、経営状態がわかりやすく買い手に伝わるように、簡潔にまとめた資料をあらかじめ用意しておくとよいでしょう。

「高価な設備や特殊な設備を有している」「地域住民から信頼を得ていて評判がよい」など、事業譲渡・事業売却の際に強みとなるポイントを洗い出し、資料にまとめておくのも効果的といえるでしょう。

②事業譲渡・売却の目的を明確にする

事業譲渡・事業売却の目的は会社によってそれぞれ異なるものです。目的を明確にして、買い手にわかりやすく伝えるのが重要になります。

目的をあいまいにしてしまうと、買い手との交渉がスムーズに進まないこともあるでしょう。納得がいかない条件で契約を結んでしまう事態も起こりやすくなってしまいます。

事業譲渡・事業売却の目的には、経営状態の悪い事業やノンコア事業を売却、売却益を主要な事業に注ぐ選択と集中、経営者の高齢化による事業承継などが考えられます。

③譲れない条件を絞る

病院/医療法人の事業譲渡・事業売却は、買い手・売り手それぞれに目的があります。手に入れたい資産や求める条件も異なるでしょう。

こちらの希望条件だけを一方的に主張しても、交渉はスムーズに成立しません。お互いの意見を考慮しつつ、適切な妥協点を模索していくことになります。

買い手・売り手双方が納得できる条件を見つけるためには、譲れない条件をある程度絞っておくことが重要といえるでしょう。相手に譲歩してもいい部分と譲歩できない部分を明確にしておくことで、相手との交渉もスムーズに進みます。

お互いが納得できる条件も見つけやすくなるでしょう。

④手法ごとのポイント

病院/医療法人の事業譲渡・売却を行う際のM&A手法には、主に、合併、事業譲渡、出資持分譲渡が用いられるでしょう。それぞれのスキームは以下のとおりです。

【合併】
2つ以上の複数の法人を1つに統合することをいいます。新設合併・吸収合併の2つがあります。多く用いられるのは吸収合併でしょう。

【事業譲渡】
一部の事業また全部をほかの会社に売却することをいいます。会社を全て売却するわけではないので、売却側の経営権は保有したままとなります。

【出資持分譲渡】
出資持分とは、設立の際に医療法人に出資した者が、出資割合に応じて払い戻せる財産権のことです。一般的には、出資者は社員であることが多いため、出資持分譲渡が行われます。

合併前後の法人類型

医療法人の類型によって、合併前後の法人類型が変わってきます。厚生労働省の「第3回 医療法人の事業展開等に関する検討会」資料には、合併の条件は以下のとおりとなっています。

合併前後の法人類型

厚生労働省「第3回 医療法人の事業展開等に関する検討会 資料」

出典:https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10801000-Iseikyoku-Soumuka/0000031413.pdf

合併のスケジュール・期間

病院/医療法人の合併を実施する際のスケジュールは以下のような流れです。

  1. 行政への事前相談・事前調査
  2. 合併契約の締結
  3. 合併許可申請提出
  4. 医療審議会へ諮問、答申後、認可書交付
  5. 債権者保護手続き
  6. 開設手続き
  7. 各種届出・登記
  8. 広報・システム・規定などへの対応

病院/医療法人の合併の場合、医療審議会の認可を受けることと、債権者保護の手続きがあることが特徴といえるでしょう。医療審議会は、都道府県によって1年間に開催される回数が異なります。事前にその回数と開催時期、必要書類などを確認しておきましょう。

債権者保護とは、債権者が異議申し立てをできることを公告し、債権者の利益を守る目的で行うものです。異議申し立てがあった場合には、弁済や担保提供などを行います。

上記のような流れで進められる合併には、行政への事前相談から1年ほどの期間を予定しておきましょう。

事業譲渡のポイント

病院/医療法人が一部の事業を譲渡する場合、下記のようなポイントを押さえておくとよいでしょう。

  • 事前に行政に承認を得る
  • 譲渡側は事業閉鎖の届出提出・従業員の退職手続き
  • 譲受側は開設の届出提出・従業員との再雇用手続き
  • 地域医療構想調整会議へ承認を得る

病院/医療法人の事業譲渡の場合、経営主体が変わるため、従業員の退職手続きをいったん取り、再雇用する形となります。このことを従業員に伝える際、従業員からの同意を得る必要があります。しかし、この時に従業員が退職してしまうことも考えられるでしょう。

取引先への説明や、資産の手続きを個別に行うため、手間がかかることを覚えておきましょう。

事業譲渡のスケジュール・期間

病院/医療法人の事業譲渡を実施する際のスケジュールは以下のとおりです。

  1. 基本合意契約の締結と行政への事前相談
  2. デューデリジェンスの実施・地域医療構想調整会議(病床ありの場合)
  3. 定款変更申請
  4. 最終契約の締結・職員への説明会・面接など
  5. 開設許可申請・取引先交渉
  6. 各種届出書変更
  7. 登記変更
  8. 広報・システム・規定などへの対応

以上のような流れとなっています。職員への説明会は、外部に情報漏えいすることのないよう、適切なタイミングで行うようにしましょう。

職員・取引先への説明だけでなく、個別に再契約が必要となるため、時間がかかります。このような流れで行うため、期間は半年以上、余裕をもって予定しておくとよいでしょう。

出資持分譲渡のポイント

病院/医療法人の出資持分譲渡を実施する場合は、以下のようなポイントを押さえておきましょう。

  • 従業員・取引先との契約を継続できる
  • 役員交代がある場合の届出提出
  • 当事者のみで進められる
  • 短期間で実施できる
  • デューデリジェンスの実施を徹底させる

従業員や取引先との契約をそのまま引き継げることや、行政への事前相談などの必要がないため、期間を短くできるところがメリットといえるでしょう。場合によっては、1~2カ月ほどで終えられることもあります。

出資持分譲渡の場合、事業譲渡とは違い、医療法人をそのまま譲渡するため、さまざまなリスクもそのまま引き継ぐことになるでしょう。医療事故などの訴訟リスクや、労働関係の訴訟リスクなども含まれます。

デューデリジェンスを徹底し、事前にどのようなリスクがあるのか把握しておきましょう。

3. 病院/医療法人の事業譲渡・売却の手続き

この章では、病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の手続きを解説しましょう。手続きは個々の事例によって変わる部分もあります。おおむね以下のような手順で遂行されます。

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の手続き】

  1. 売却・売買の専門家への相談
  2. 病院/医療法人の評価
  3. 売却先の選定・交渉
  4. 基本合意書の締結
  5. デューデリジェンスの実施
  6. 最終条件交渉・最終契約の締結
  7. 承認・引き継ぎ
  8. 譲渡・売却の成立

①売却・売買の専門家への相談

昨今は、自分自身で病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の相手を探して交渉できるマッチングサイトも盛んになってきています。しかし、事業譲渡・事業売却に精通したM&Aの専門家に相談したほうが効率的といえるでしょう。

特に病院/医療法人の事業譲渡・事業売却は、株式会社の事業譲渡・事業売却とは異なる部分があります。それだけでなく、地域医療を維持する社会的責任が大きいこともあるでしょう。

このようなことを踏まえると、M&Aの専門家に依頼したほうがスムーズに進められます。事業譲渡・事業売却の専門家としてまず考えられるのは、M&Aを専門に取り扱っているM&A仲介会社です。

そのほか、銀行や信用金庫といった金融機関、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関で、相談を受けられます。M&A仲介会社には、医療・介護・薬局を専門に取り扱っているところもあるので、専門性の高い仲介会社に依頼すれば成功率を上げられます。

秘密保持契約の締結

秘密保持契約とは、事業譲渡・事業売却などの取引を行う際に、交渉時に知った情報を第三者に開示しないことを約束する契約のことです。病院/医療法人の事業譲渡・事業売却では、買い手候補の経営者やM&A仲介会社などに情報を明かさなければなりません。

情報漏えいを防ぐために、秘密保持契約の締結は重要です。秘密保持契約書には、保持する情報の範囲・保持義務を負う人物・契約内容を破った場合の損害賠償の有無などが記載されます。

秘密保持契約書は、ネット上に公開されているひな形などを利用して自分でも作成できます。しかし、後のトラブルを避けるためにも、M&A仲介会社など専門家のサポートを受けながら作成するのがおすすめです。

②病院/医療法人の評価

秘密保持契約を締結したら、次は売却する病院/医療法人にどれくらいの価値があるか評価をします。病院/医療法人の売却価格の算定方法は、主にコストアプローチ・インカムアプローチ・マーケットアプローチの3つです。

コストアプローチは、簿価または時価の純資産から負債を引き、のれんなどの無形資産を加えて算定します。インカムアプローチは、将来得られる利益に着目し、将来的なリスクや不確定要素を考慮して割り引く手法です。

マーケットアプローチでは、ほかの病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の事例などを参考に価格を算定します。

③売却先の選定・交渉

売却する病院/医療法人の売却価格が定まったら、次は売却先の選定・交渉を行います。売却先候補の選定では、まず条件に合う売却先をできるだけ多く洗い出し、その中から最も適した相手を絞り込んでいきましょう

売却先候補が決まったら、買い手・売り手双方の経営者が面談して本格的な交渉に入ります。この時点では経営者と一部の社員以外には、事業譲渡・事業売却をしていることを公開しないほうがよいでしょう。

交渉の途中で従業員や取引先に明かしてしまうと、不安に感じて離職してしまう可能性があるからです。

意向表明書の提出

トップ面談をしていい感触が得られたら、買い手側が「意向表明書」を作成して売り手側に提出します。意向表明書とは、買い手側が事業譲渡・事業売却の本格的な意思があることを売り手側に示すための書類です。

意向表明書の作成は義務ではありません。しかし、提出によって売り手側へ買収の意思を示し、交渉をスムーズに進められます。

意向表明書の書き方は特に決まりはありません。一般的には、買い手側の病院/医療法人の概要や、今後のスケジュールなどが記載されます。

④基本合意書の締結

交渉により基本的な譲渡内容に合意が得られたら、基本合意書を締結して現時点での合意内容を書面にします。基本合意書の記載内容に特に決まりはありません。一般的には、取引形態や譲渡価格、今後のスケジュールなどを記載します。

基本合意書を締結した時点で、買い手側に独占交渉権を付与するのが一般的です。売り手側としては、ほかの売却先候補と交渉できなくなるデメリットがあるので、締結は慎重に行う必要があります。

基本合意書は、最終的な契約内容を記しているわけではありません。後に実施するデューデリジェンスの結果を加味して、条件の変更も可能です。

⑤デューデリジェンスの実施

基本合意書を締結した段階では、買い手はまだ売り手の病院/医療法人の詳細がわかっていません。詳しい内容を調べるために、デューデリジェンスを実施します。

デューデリジェンスは調査する内容によって、法務デューデリジェンス・財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンスなどに分けられます。デューデリジェンスは専門の会計士や弁護士などに依頼することが一般的です。

それだけでなく、売り手側の病院/医療法人に直接赴いて、社員から話を聞くこともあるため、手間と費用がかかるのが注意点といえるでしょう。全てのデューデリジェンスを行うのは難しいので、普通は重要な点に絞って実施します。

病院/医療法人のデューデリジェンスは、株式会社とは異なる部分もあります。病院/医療法人に詳しい専門家のもとで慎重に行うようにしましょう。

⑥最終条件交渉・最終契約の締結

デューデリジェンスを実施して、売り手側の病院/医療法人に問題がないとわかったら、次は最終契約の締結に向けて交渉をまとめます。最終契約書は、基本合意書の内容をベースに、デューデリジェンスの結果を加味して作成されます。

実際には「最終契約書」という書類は存在しません。事業譲渡の場合は「事業譲渡契約書」、株式譲渡の場合は「株式譲渡契約書」といったように、選択したスキームによって実際の書類の名前は変わります。

最終契約書は、意向表明書や基本合意書と違って、法的な拘束力があります。契約を破棄した場合は、損害賠償を請求される可能性もあるので注意しましょう。

⑦承認・引き継ぎ

最終契約を締結したら、内容に基づき実際に事業譲渡・事業売却の手続きを実行します。具体的には、不動産や医療設備といった資産の移転手続きや、社員の退職手続きと譲受側での新たな雇用手続きなどの必要な手続きを進めます。

クリニックを事業譲渡・事業売却で獲得して新たに開設する場合は、保健所への開設届なども行わなければなりません。事業譲渡・事業売却の手続きは、株式会社の株式譲渡に比べると、複雑で期間も長くなる傾向があるので注意が必要です。

⑧譲渡・売却の成立

全ての承認・引き継ぎ作業が終了すると、事業譲渡・事業売却の成立となります。しかし、ここで病院/医療法人の事業譲渡・事業売却は終わりではありません。この後は、統合プロセス(PMI)の作業が必要です。

統合プロセス(PMI)とは、事業譲渡・事業売却が成立した後に、譲渡先の病院/医療法人の運営がスムーズに進むためのすり合わせ作業のことです。新しい職場で社員が戸惑わずに働くための業務プロセスの統合、経営理念や風土の統合などが行われます。

統合プロセス(PMI)は、病院/医療法人の事業譲渡・事業売却を成功させるために、非常に重要なプロセスとなります。

【関連】LOI(意向表明書)とは?MOU(基本合意書)との違いは?【契約書サンプル/雛形あり】
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4. 病院/医療法人の事業譲渡・売却のメリット・デメリット

この章では、病院/医療法人を事業譲渡・事業売却するメリットとデメリットを解説します。

メリット

まずは、病院/医療法人の事業譲渡・事業売却のメリットを見ます。病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の主なメリットには、以下の2つがあります。

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却のメリット】

  • 簿外債務の発覚するリスクがない
  • 資金効率の悪化がない

簿外債務の発覚するリスクがない

病院/医療法人の事業譲渡・事業売却では、資産を個別に売買することになります。買収後に想定外の簿外債務が発覚するリスクが少ない点が特徴といえるでしょう。

経営権を譲渡して会社を丸ごと売却する株式譲渡と比べると、メリットの一つといえるかもしれません。しかし、持分を売買して病院/医療法人を包括的に譲渡した場合は、株式会社の株式譲渡と同様の取引になるため、簿外債務を引き継いでしまうリスクもあります。

簿外債務の例としては、医療機器のリース料を負債ではなく経費に計上したときに、その資産が帳簿に計上されないといったケースが挙げられるでしょう。そのほかには、法人税や消費税の計算間違い、残業代の未払いなども簿外債務の一因となります。

資金効率の悪化がない

病院/医療法人を一から開業すると、不動産や設備の取得・従業員の確保など、多額の資金が必要になります。事業譲渡・事業売却を利用すれば、すでにある施設・設備を手早く獲得し、その病院/医療法人をひいきにしている顧客も引き継げ、資金を効率的に使えるでしょう。

事業譲渡・事業売却なら、後で簿外債務が発覚する恐れも少ないので、予想外の出費で資金効率が悪化するリスクも抑えられます。

デメリット

ここでは、病院/医療法人の事業譲渡・事業売却のデメリットを見ます。病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の主なデメリットは、以下のとおりです。

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却のデメリット】

  • 手続きが複雑になる
  • 資金効率が悪くなる

手続きが複雑になる

病院/医療法人の事業譲渡・事業売却は、株式会社の株式譲渡に比べると、手続きが複雑になるデメリットがあります。例えば、病院/医療法人の賃貸契約は、譲渡側の病院/医療法人でいったん解約して譲受側が新たに契約します。その際に大家から償却費を請求されたり、不動産会社に仲介手数料を請求されたりする場合があるでしょう。

そのほか、従業員との雇用契約を改めて締結し、ベッドの申請も新たに行わなければなりません。ベッドの申請は、基準病床数を超えていた場合は、申請が保留されてしまうので注意が必要です。

ベッド数が基準病床数を超えている場合は、事前に都道府県と相談しながら事業譲渡・事業売却を進めていく必要があります。

資金効率が悪くなる

病院/医療法人を事業譲渡・事業売却すると、譲渡側に法人税や消費税が発生します。事業譲渡・事業売却の税金は、株式会社の株式譲渡より高く、資金効率が悪くなるデメリットがあります。

譲渡側の院長が土地を代々引き継いでいる場合は、含み益が非常に大きくなっていることもあるでしょう。営業権や生命保険の解約金なども、予想以上の税金が発生する場合があるので注意が必要です。

営業権や生命保険は売却益を退職金として支払うことで、ある程度節税できるでしょう。しかし、退職金の額が不当に高額の場合は、後で追徴されてしまう可能性もあるので注意しましょう。

【関連】事業譲渡のメリット・デメリット30選!手続きの流れ・方法、税務リスクも解説

5. 病院/医療法人の事業譲渡・売却時の注意

病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の際は、以下のような点に注意しておきましょう。

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却時の注意】

  1. 難解な売却価格の算出
  2. 建物・土地・機材の扱い
  3. 建物の築年数
  4. 発生する税金

①難解な売却価格の算出

病院/医療法人の事業譲渡・事業売却では、資産・負債に加えて、営業権(のれん)をどう評価するかが重要になります。特に個人医院にいえることですが、クリニックの資産と院長の個人的な資産が明確に分離されていないケースも少なくありません。

こういった場合、資産とのれんを正しく評価できず、売却価格の算定が難しくなってしまいます。

②建物・土地・機材の扱い

譲渡側の病院/医療法人で使用していた不動産や医療機器は、譲渡側の病院/医療法人が所有していた場合は譲受側の買い取りになります。リースや賃貸の場合は、譲渡側がいったん契約を解除します。

譲受側が新たに契約を結びなおすことになるため、土地・建物・機材の取り扱いを、慎重に行うように留意しておきましょう。譲渡側の病院/医療法人が土地・建物を所有していたとしても、譲受側は買い取る必要はありません。

所有権を譲渡側に残したまま賃貸にする方法もあります。この場合は、譲渡側に賃料収入が入り、譲受側も土地・建物の取得に多額の資金を投入しなくて済むメリットがあります。

③建物の築年数

長年営んできた古い病院/医療法人を事業譲渡・事業売却で譲受する場合、現行の基準に合っているかを確認する必要があります。古い病院/医療法人の場合、開設した当時の基準には合っていても、現行の基準では建物の面積が足りないといった場合もあるでしょう。

当時の基準で、病院/医療法人を開設した譲渡側が基準変更後も営業を続けることは問題ありません。しかし、譲受側が現行の基準に適さない施設をそのままでは使えません

こういった病院/医療施設を譲受した場合、現行の基準に合うように増築・改造しなければならないので注意しましょう。

④発生する税金

病院/医療法人の事業譲渡・事業承継では、法人税や消費税などの税金が発生します。どういった税金がいくらかかるのか正しく把握しておく必要があるでしょう。

不動産や設備などを譲受側に売却した場合は、その譲渡益に対して法人税や消費税がかかります。売却ではなく贈与・相続した場合は、譲渡側ではなく譲受側に贈与税・相続税がかかるので覚えておきましょう。

6. 管理医師がいない場合の譲渡の可能性

診療をしていない医院の場合、もし医院で主治医がいなくなったら、その医院は診察を行うことができません。このような状況では、保健所に一時的に閉院するという届け出を出す必要があります。

それでも、医院が休業状態であっても、医院の経営権を他人に渡す、つまり売却することは法律上可能です。ですが、実際に問題となるのは、新しい経営者を見つけられるかどうかです。なぜなら、主治医がいないために患者さんは他の医院に移ってしまう可能性が高く、また医療スタッフも雇っていないかもしれないからです。したがって、譲受人を見つけるのは難しいかもしれません。

主治医が辞める予定で新しい医師がまだ見つかっていない場合、医院を売却するためには、できるだけ早くM&Aの専門業者に相談して、新しい経営者を見つける準備を始めるべきです。

診療をしている医院の場合、現在患者さんを診ている医院を他人に売却するとき、新しい経営者は今の医師たちがこれからも働いてくれることを望むかもしれません。しかしながら、医師との雇用契約は現在の医療法人との間で結ばれており、自動的に新しい経営者には移行しません。新しい経営者のもとで医師が働き続けるためには、以下のステップが必要です。

  • 労働組合や関係者との事前の話し合い
  • 引き続き雇用される医師との個別の話し合い
  • 雇用契約を引き継ぐための医師の同意

これらの手続きを怠ると、医院の売却後に主治医が退職してしまい、新しい経営者が困る事態が発生する可能性があります。だからこそ、事前にしっかりと準備をすることが大切です。

7. 病院/医療法人の事業譲渡・売却を成功させるコツ

病院/医療法人の事業譲渡・売却を成功させるには、譲渡企業・譲受企業、それぞれのポイントを押さえるとよいでしょう。

【譲渡企業側】

  • 早期に検討を始める(できれば2~3年前)
  • 交渉の際はマイナス面含め全て伝える
  • 利害関係者に対する対応は誠実に行う
  • 内部への公表タイミングに注意を払う
  • 相手企業に対して感謝の気持ちを持つ

【譲受企業側】
  • M&Aの目的を明確化する
  • 秘密保持を徹底する
  • 相手企業に対する思いやり
  • 法令遵守を徹底する
  • 日頃から人材育成に努める
  • トラブルがあっても解決に向け努力する

8. 病院/医療法人の事業譲渡・売却を行う際は専門家への相談がオススメ

病院/医療法人の事業譲渡・事業売却を検討中の方は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所では、事業譲渡・事業売却の実績経験のあるM&Aアドバイザーが在籍しています。

培ったノウハウを生かし、親身になってクロージングまでフルサポートします。M&Aは、成約まで半年から1年かかるのが一般的です。M&A総合研究所は、成約まで最短3カ月の実績を有しており、機動力にも強みがあります。

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9. 病院/医療法人の事業譲渡・売却のまとめ

本記事では、病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の手続きの流れやメリット・デメリットを解説しました。病院/医療法人の事業譲渡・事業売却は株式会社の場合とは違う部分があるので、M&A仲介会社などの専門家と相談しながら進めましょう。

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却を行う際のポイント】

  1. 経営状態や強みなどを資料としてまとめる
  2. 事業譲渡・売却の目的を明確にする
  3. 譲れない条件を絞る
  4. 手法ごとのポイント

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却の手続き】
  1. 売却・売買の専門家への相談
  2. 病院/医療法人の評価
  3. 売却先の選定・交渉
  4. 基本合意書の締結
  5. デューデリジェンスの実施
  6. 最終条件交渉・最終契約の締結
  7. 承認・引き継ぎ
  8. 譲渡・売却の成立

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却のメリット】
  1. 簿外債務が発覚するリスクがない
  2. 資金効率の悪化がない

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却のデメリット】
  1. 手続きが複雑になる
  2. 資金効率が悪くなる

【病院/医療法人の事業譲渡・事業売却時の注意】
  1. 難解な売却価格の算出
  2. 建物・土地・機材の扱い
  3. 建物の築年数
  4. 発生する税金

10. 病院・医療法人業界の成約事例一覧

11. 病院・医療法人業界のM&A案件一覧

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