管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡はどちらが得する?手法を解説

企業情報本部長 兼 企業情報第一本部長
辻 亮人

大手M&A仲介会社にて、事業承継や戦略的な成長を目指すM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、経営者が抱える業界特有のお悩みに寄り添いながら、設備工事業や建設コンサルタント、製造業、医療法人など幅広い業種を担当。

管工事業界ではM&Aが活発であり、事業譲渡・事業売却と株式譲渡が多く用いられています。では、管工事会社の事業譲渡・売却と株式譲渡ではどちらが得なのでしょうか?今回は、事業譲渡・事業売却と株式譲渡の手法、どちらが得するのかを解説します。

目次

  1. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡
  2. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡を行う際の手法の違い
  3. 管工事会社の事業譲渡・事業売却・株式譲渡ではどれが得するか?
  4. 管工事会社をM&Aする際に気をつけたいポイント
  5. 管工事会社のM&Aを成功させるには?
  6. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡・案件探しの相談先
  7. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡の事例
  8. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡のまとめ
  9. 電気工事・管工事業界の成約事例一覧
  10. 電気工事・管工事業界のM&A案件一覧
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1. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡

近年、管工事会社のM&A動向は活発化しています。主な理由は、後継者問題の解決・技術者や有資格者の獲得・民間受注へのシフト・管工事設備から総合的な設備への対応など、事業拡大におけるさまざまな課題解決のために有効と考えられていることなどです。

M&Aの手法も戦略的な事業譲渡・事業売却や株式譲渡などに変わってきており、新しいビジネスモデルを確立するため、企業規模を問わず積極的な動向が見られます。

当記事では、管工事業界の概要をはじめ、事業譲渡・事業売却や株式譲渡の具体的な解説を通じて、どの手法が収益化に向けて得なのかを見極めます。

管工事会社とは

管工事会社とは、空調や冷暖房、ガスなどの設備、管を使ったガス・水・水蒸気・油などを通すための設備を設置するための工事を行う会社のことです。

管工事にはさまざまなものがありますが、主な工事には以下が挙げられます。

  • 空気調和設備工事
  • 冷暖房設備工事
  • 浄化槽工事
  • 給排水/給湯設備工事
  • 冷凍恵贈設備工事
  • 衛生設備工事
  • 水洗便所設備工事
  • ガス管配管工事
  • ダクト工事

管工事業界の動向

2022年に国土交通省が行った「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」によると、管工事業における住宅に係る工事の受注高は前年同期比で43.9%増加し,非住宅建築物に係る工事の受注高は前年同期比で3.9%増加し、どちらも前年より上回っていることがわかります。 

参照:国土交通省「建築物リフォーム・リニューアル調査報告(令和3年度計)
 

事業譲渡・事業売却とは

事業譲渡・事業売却とは、事業の一部や事業の全部を対象企業に譲り渡すM&A手法の一つです。

事業譲渡・事業売却に関する手続きは、譲渡会社や譲受会社ともに経営状況が大きく変わるため、株主保護の観点から会社法で定められています。

株式譲渡とは

事業譲渡・事業売却と似た方法に、株式譲渡があります。株式譲渡とは、売却企業が保有株式を買い手へと譲渡し、会社の経営権を買い手に譲り渡す方法です。

株式譲渡の取引の手続きはシンプルで、株式譲渡契約書を締結した後で株式の対価が支払われると、株式名簿を書き換えるだけで完了します。

ただし、株式譲渡では会社に関するすべての資産や負債を譲渡するので、利益率の高い事業を残したい場合は、一部のみを譲渡できる事業譲渡・事業売却のほうがよいでしょう。

2. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡を行う際の手法の違い

管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡を行う場合、それぞれのメリットを把握し、どのような手法が適切なのかを判断することが必要です。

この章では、メリットやデメリットを交え、管工事会社の事業譲渡・事業売却に関する特徴、管工事会社の株式譲渡に関する特徴を、それぞれ解説します。

管工事会社の事業譲渡・事業売却に関する特徴

まずは、管工事会社の事業譲渡・事業売却に関する特徴を、メリット・デメリットの視点から解説します。

管工事会社の事業譲渡・事業売却のメリットとデメリットは、以下のとおりです。

  • メリット:後継者問題の解決
  • デメリット:想定していた価格では譲渡できない

メリット:後継者問題の解決

管工事会社の事業譲渡・事業売却のメリットには、後継者問題の解決があります。2014年度の管工事業就業者数の動向調査によると、2013年よりもマイナス8.2%となっており人材不足が深刻化していることがわかります。

若い人材の減少は後継者問題を助長しており、経営者が高齢となった場合は長く経営を続けられず、最終的には廃業に追い込まれるケースも多いです。

しかし、事業譲渡・事業売却を成功させれば、会社を適切な後継者へと承継できます
 

デメリット:想定していた価格では譲渡できない

管工事会社の事業譲渡・事業売却のデメリットには、想定していた価格で譲渡できない場合がある点が挙げられます。

事業譲渡・事業売却を行う際は売却のタイミングと相手先が重要であり、特に売るタイミングを間違えてしまうと、想定していた価格より低くなる可能性が高いです。

成功させるコツは、「最も高く売れるタイミングと最良の譲渡先を選択する」ことです。

管工事会社の株式譲渡に関する特徴

次は、管工事会社の株式譲渡に関する特徴を、前章と同様にメリット・デメリットの視点から解説します。

管工事会社の株式譲渡に関するメリット・デメリットは以下のとおりです。

  • メリット:株式公開よりも早く現金が手に入る
  • デメリット:債券債務や契約関係がすべて引き継がれる

メリット:株式公開よりも早く現金が手に入る

管工事会社の経営者は、株式譲渡を行うことで現金が手に入るメリットを享受できます。前述したように株式譲渡の手続きは簡単で、経営者には直接譲渡代金が入ります。

経営者同士の同意がある場合は、最短で譲渡を行えるのも大きなメリットです。

デメリット:債券債務や契約関係がすべて引き継がれる

管工事会社が株式譲渡を行うデメリットとしては、譲渡会社が持っている債券債務や契約関係がすべて引き継がれることです。

M&A前に行ったデューディリジェンスで判明しなかった簿外債務や、想定外の事項などが後から発覚するなどのリスクをはらんでいます。

管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡の主な違い

管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡の主な違いは、売買の対象です。

売買の対象は、事業譲渡・事業売却が一部または全部の事業譲渡、株式譲渡が会社の株式です。株式譲渡では、経営権そのものを売買するのと同じ意味を持ちます。

事業譲渡・事業売却と株式譲渡では手続き方法が違うことも把握しておきましょう。

【関連】事業譲渡・事業売却の戦略策定方法!目的や注意点も解説【事例あり】

3. 管工事会社の事業譲渡・事業売却・株式譲渡ではどれが得するか?

管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡ではどちらが得かは、一概に断言できません。

したがって、それぞれのメリットと相場価格を見極め、自社の方針と一致した手法を選択するのが望ましいです。

売買価格の相場を比較すると、事業譲渡よりも株式譲渡が高いです。事業譲渡は、前述のとおり会社の一部の事業のみを切り離すM&Aであるため、一般的には株式譲渡よりも相場が低くなります。

事業譲渡・事業売却では相場が低いとはいえ、譲渡側のメリットには「継続保有したい資産・法人格を残せる」ことが大きいです。

株式譲渡であれば譲渡側にとって大きな金額が期待できるので、それだけでメリットがあると考えられますが、中小企業にとっての課題である後継者問題を意識せずに会社を存続できる点がメリットです。

【関連】事業売却とは?手続きの流れやメリット・注意点を知って高値で事業売却しよう
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4. 管工事会社をM&Aする際に気をつけたいポイント

管工事会社のM&Aにおける事業譲渡・事業売却と株式譲渡などを解説しました。

ここでは、M&Aを実際に行う場合に気をつけたい、5つのポイントを解説します。

  1. 企業年金・保険料などの金銭負担がある
  2. 自社における直請け・下請けなどの比率
  3. 過去の受注歴・実績について
  4. 進行中・未着工の工事案件がある
  5. 受注先・発注先が一社に偏重している

①企業年金・保険料などの金銭負担がある

管工事会社をM&Aする際に気をつけるべきポイントは、時価純資産を算出しておくことです。時価純資産とは、貸借対照表に記載された簿価の純資産を時価で評価し、その時価評価した金額から企業年金・保険料などの金銭負担を差し引いた金額のことです。

事業譲渡・事業売却などのM&Aでは、企業評価の大きな目安となるので、どの程度のコストがかかるのかを把握できます。

②自社における直請け・下請けなどの比率

管工事会社には直請け・下請けがあるので、事業譲渡・売却の際は、これらの比率を考慮しておかなければなりません。

直請けとは、ある仕事の依頼を発注主から直接受けることです。一方の下請けとは、仕事を直請けした企業がその仕事の全部または一部を別会社に発注した際、取引対象となる受注先のことです。

直請けの場合は発注主からの仕事を受けているため、下請けに発注する際は「中間マージン」を徴収しています。

中間マージンの差によって同じ仕事でも報酬の差が出てしまうため、事業譲渡・事業売却と株式譲渡後に受ける利益は直請けのほうが多いです。

③過去の受注歴・実績について

管工事会社がM&Aによって事業譲渡・事業売却をする前に、管工事における過去の受注歴・実績の確認を行うのが大切です。

なぜなら、管工事会社を買収する企業は、できるだけ管工事実績や受注歴が豊富な会社を買収し、企業動向を確認したいと考えているためです。

④進行中・未着工の工事案件がある

管工事会社をM&Aするにあたり大切なのは、進行中・未着工の工事案件があることです。近年、管工事会社の課題は人材不足問題であり、人材確保・育成が急務となっているため、事業譲渡・事業売却案件は急増しています。

M&Aの際、ベテランの有資格者の補充に加えて進行中・未着工の工事案件があれば、短時間に割安な金額で経済資源の補充が完了します。

⑤受注先・発注先が一社に偏重している

管工事会社をM&Aする際に気をつけるべきものは、受注先・発注先が一社に偏重している場合です。

管工事会社で一社に偏重してしまうと発注先の取り組み動向に左右されるケースが多く、事業譲渡・事業売却後に問題を抱える可能性があるためです。

【関連】管工事会社の事業承継の動向は?相談先や事例を解説!

5. 管工事会社のM&Aを成功させるには?

管工事会社のM&A(事業譲渡・事業売却と株式譲渡)を成功へと導くためには、仲介会社の利用に限らず、M&Aの目的や事業譲渡先・事業売却先の選定など、そのほかさまざまなポイントを考慮しておく必要があります。

①M&Aをなぜ行うのかを考える

事業譲渡・事業売却、株式譲渡などのM&Aをなぜ行うのかを考えておくのがポイントです。M&Aを行うにあたり、代表的な目的を把握しておきましょう。

  • 後継者を見つけるため
  • 経営の健全化を目指すため
  • 債務超過を解消するため
  • 大手企業の傘下に入り会社の安定へとつなげるため
  • 多角化した子会社や事業を売却して中核事業に注力するため

②譲渡・売却先を厳しく選定する

事業の譲渡・売却先は、特に慎重に行うべきポイントです。近年では異業種の企業同士が新規の会社を興し、互いの特長を生かすケースがあります。

管工事会社を含め建設業では、下請け業者の存在があります。その下請け業者にも「一次下請け」「二次下請け」「三次下請け」など階層的に仕事の流れがあり、これらの共同作業によって建設物が成り立つ仕組みです。

他社に事業譲渡する場合は、長く一緒に仕事をしてきた下請け会社が今後どうなるのかまで考慮しておく必要があります。

これまでどおりに仕事を回せるか否か、譲渡先・売却先を厳しく選定しなければなりません。

③実績や有資格者など自社の強みをリストアップする

事業譲渡や株式譲渡などのM&Aを行う売り手企業では、買い手企業が自社の成長を目的としてM&Aを考えていることを認識しておきましょう。

買い手企業がゼロから新規事業を立ち上げるよりも、技術・ノウハウ・販路により生み出した実績や有資格者の有無などによって買収のほうが有利と思われる必要があります。

実績や有資格者を含めた自社の強みをリストアップにて明確にし、譲渡企業へアピールできるよう準備しておきましょう。

④業界動向に目を向けてタイミングを決める

業界動向を考慮し、事業譲渡のタイミングを決めることもポイントです。管工事会社のM&A動向は活発なので、タイミングは早いに越したことはありません。

社内で準備を地道に行っている間に、他社から先を越される可能性があるためです。

より良い条件で事業譲渡へ繋げるためには、他社よりも先に人材・技術・事業シェアを獲得することが大切です。

⑤M&Aの専門家に相談する

大半の経営者は、M&A(事業譲渡や事業売却、株式譲渡など)は未経験であるケースが多いです。成功ポイントは理解できても、具体的にどのように取り組むとよいのかは難しく感じる場合もあります。

このような場合、M&Aの専門家に依頼してサポートを受けながら進めていくことがおすすめです。

M&A仲介会社などの専門家は戦略の策定や交渉をサポートしてくれるため、スムーズにM&Aが進み、成功率も高まります。

無料相談を行っているM&A仲介会社も多いため、まずは相談してみるのも1つの方法です。

【関連】株式譲渡の税務の扱いは?譲渡益についてや注意点から税金対策まで解説!

6. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡・案件探しの相談先

M&Aを成功させるためには、買収先のさまざまなリスクや将来性を把握し、自社に合った戦略をたてて進めなくてはなりません。

M&Aを進めるうえでは、専門的知識・見解のほかに高い交渉力も求められるため、専門家のサポートをおすすめします。

M&A総合研究所では、管工事会社の事業譲渡・事業売却・株式譲渡に精通したM&Aアドバイザーが専任につき、案件探し・戦略策定・交渉・クロージングまでをフルサポートいたします。

当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ。譲受企業様は中間金がかかります)となっており、着手金は譲渡企業様・譲受企業様とも完全無料です。管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡をご検討の際は、どうぞお気軽に無料相談をご利用ください。

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7. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡の事例

最後に、管工事会社の事業譲渡・事業売却および株式譲渡の代表的な事例を3つピックアップし、ポイントを順番に解説します。

それぞれのポイントを把握し、自社のM&Aに役立てましょう。

TVEによる太陽電業の子会社化

2021年11月、TVEは、太陽電業の株式を取得し、子会社化すると発表しました。本件M&Aの取引価格は非公開です。

買収側は、各種バルブの製造販売及びメンテナンス、各種鋳鋼製品の製造販売を手掛けている企業です。各種バルブ、鋳鋼製品の製造販売および各種バルブのメンテナンス業務を営む子会社の株式を所有することによる事業活動の支配・管理などを手掛けています。

売却側は、東日本地区原発における放射線計測機器管理及び電気・計装事業を行っている会社です。

本件M&Aにより、買収側では当時会社の持つノウハウとリソースを連携・協調させることで、さまざまな相乗効果を発揮し、より一層の企業価値向上を目指していくとしています。

四電工による横山工業の子会社化

2021年4月、四電工は、横山工業の株式すべてを取得し、完全子会社化したと発表しました。本件M&Aの取得価額は非公開です。

買収側は、香川県高松市に本社を置く四国電力グループの電気設備工事、電力関連工事、電気通信工事などを行う総合設備企業です。

売却側は、主に栃木県内を中心に病院や教育施設など幅広い施設の空調・管工事等を手掛ける老舗企業として知られています。

本件M&Aにより、買収側では営業面・施工面での協力関係を構築し、首都圏近傍のエリアにおいて、総合設備企業としての収益基盤のさらなる拡充を目指していくとしています。

高田工業所による渡部工業の子会社化

2020年8月、高田工業所は、渡部工業の株式すべてを取得し、完全子会社化したと発表しました。本件M&Aの取得価額は非公開です。

買収側は、福岡県北九州市八幡西区に本社を置く、製鉄・化学プラントの建設などを行う会社です。

売却側は、北海道を中心に、石油・天然ガスプラント分野におけるプラント設備の各種配管の設計・製作・施工などを手掛けています。

本件M&Aにより、買収側では、グループにおけるプラント事業の事業基盤の強化および拡大を図っています。

8. 管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡のまとめ

管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡の解説を通じて、実際にM&Aを行う際に把握しておくべきポイントを紹介しました。

近年、事業譲渡・事業売却と株式譲渡を含めたM&Aの動向は急増している傾向にあり、期待値が高まっています。

しかし、実際にM&Aを成功に導くためには、事業譲渡・事業売却と株式譲渡の違いを見極め、成功ポイントをおさえておくことが大切です。

管工事会社の事業譲渡・事業売却と株式譲渡は、進行中の案件や直請けと元請け会社の比率などがあり、特殊なM&Aといえます。

M&A・事業売却の専門家に相談し、サポートを受けながら進めていくのが成功のカギです。

9. 電気工事・管工事業界の成約事例一覧

10. 電気工事・管工事業界のM&A案件一覧

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