2023年01月10日更新
調剤薬局のM&Aの流れを解説!手続きにどれくらいの期間がかかる?
調剤薬局は薬剤料などの経費が高く、経営の難しい業種の1つです。M&Aで調剤薬局を売却するために、その流れや手続きを把握しておきたい方も多いでしょう。本記事では、調剤薬局のM&Aの流れやポイント、手続きにかかる期間や注意点などを解説します。
目次
1. 調剤薬局のM&A
本記事では、調剤薬局のM&Aの流れや手続きに要する期間、注意点などを解説します。まず本章では、調剤薬局の定義や、M&Aの基本的な用語の意味を説明します。
調剤薬局とは
調剤薬局とは、調剤を主に行う薬局を表す言葉として一般的に普及している通称であり、「薬局」が正しい呼び方です。
法律で定められた正式な呼び方ではないので注意する必要がありますが、一般に医院の処方箋による薬を受け取る薬局を「調剤薬局」と呼ぶことが普及しています。
薬局とは薬剤師が常駐して調剤の設備を有し、都道府県知事の許可を受けて営業している医療機関のことです。
ドラッグストアでも薬を売っていますが、こちらは都道府県知事の許可を受けなくても営業でき、販売できる薬の種類も限られています。
M&Aとは
M&Aとは、会社を売却・買収したり、合併・分割したりする取引の総称です。英語で合併は「Merger」買収は「Acquisition」を意味するので、頭文字をとってM&Aと呼ばれています。広義には、資本業務提携などもM&Aに含めることがあります。
M&Aは、会社を買収して事業を拡大するだけでなく、後継者がいない会社を売却して廃業を阻止したり、業界再編や経営基盤を強化したりするなど、期待できるメリットが多いです。
高齢化が進む近年では、後継者不在で中小企業が廃業しないための事業承継手段としてM&Aが注目されています。
2. 調剤薬局のM&Aの流れ
調剤薬局のM&Aを成功させるには、あらかじめその流れを理解しておくことが重要です。
調剤薬局のM&Aの実際の流れは選択したスキームや個々の会社の事情などによって変わる部分もありますが、大まかな流れは共通しているので、まずは大枠を把握しておきましょう。
- 専門家への相談
- 企業価値評価の提出
- アドバイザリー契約の締結
- 譲渡先・承継先の選定・打診
- 譲渡先・承継先との交渉
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終契約の締結
- クロージング
- 情報公開・公表
①専門家への相談
調剤薬局のM&Aには、調剤薬局業界の動向や薬機法など法律の知識、財務・税務など幅広い知識と経験が必要です。
経営者が自分だけの力でM&Aをやり遂げるのは困難であるため、まずはM&A仲介会社などの専門家に相談することが必須といえます。
M&Aの相談先は、M&A仲介会社やアドバイザリー、M&Aコンサルタントが一般的ですが、銀行や信用金庫などの金融機関、事業承継・引継ぎ支援センターなどの公的機関でも受け付けています。金融機関は大企業、M&A仲介会社や公的機関は中小企業に強い傾向があります。
秘密保持契約の締結
調剤薬局のM&Aでは、仲介会社のスタッフや売却先企業に自社の情報を教える必要があります。情報の漏えいや悪用を防ぐためにも、秘密保持契約の締結は必須です。
秘密保持契約は法律上の守秘義務ではなく、あくまでも当事者間で結ぶ契約であるため、守秘する情報の範囲や違反したときの罰則など、お互いの同意のもとで自由に決められます。
②企業価値評価の提出
M&Aでは売却後の経営方針や従業員の雇用確保など、さまざまな条件を相手側に提示しますが、やはり売却価格が一番気になるところです。
売却価格を正しく算出するためには、売却する企業の価値評価を正確に行う必要があります。企業価値評価は現在の資産・負債だけでなく、目に見えない資産である「のれん」の評価や、将来的なキャッシュフローなども考慮する必要があります。
企業価値評価の手法には「コストアプローチ」「マーケットアプローチ」「インカムアプローチ」などさまざまな手法があるので、専門家と相談しつつ、最適な手法を選んで評価することが大切です。
③アドバイザリー契約の締結
M&A仲介会社では、本格的な仲介業務に入る際にアドバイザリー契約の締結を顧客に求めます。アドバイザリー契約とは、M&Aを依頼する経営者とM&A仲介会社が結ぶ契約であり、お互いの権利義務関係を明確にするために締結します。
書面は条文になっており読みにくい部分もありますが、今後M&Aを遂行していくための重要な内容なので、しっかり読み込んでおかなければなりません。流し読みするのではなく、わからないところは仲介会社のスタッフに聞いて疑問点を解決しておきましょう。
④譲渡先・承継先の選定・打診
アドバイザリー契約を結んで本格的な仲介業務に入ると、どの企業と交渉するか、譲渡先・承継先の選定と打診を行います。譲渡先の選定では、仲介会社が保有している買収先候補のリストの中から、まず条件に合う候補を数十社程度洗い出します。
その候補の中から、高いシナジー効果が期待できる企業や、売却企業の強みを高く評価してもらえそうな企業を数社ほど選別し、コンタクトをとって交渉に入る流れです。
⑤譲渡先・承継先との交渉
譲渡先・承継先の選定は終わり売却先候補が決まったら、次は売却先候補企業の経営者と連絡をとって具体的な交渉に入ります。M&Aは買い手・売り手ともに何らかの利益を求めて行うものなので、お互いの意見を尊重しつつ双方が納得できる条件を模索する必要があります。
売却金額などの金銭面はもちろん重要ですが、自分が育ててきた会社の理念を理解して受け継いでくれそうか、相手の経営者の人間性に問題がないかなど、人的・精神的な部分も見極めていくことが大切です。
意向表明書の提示
交渉によりお互いよい感触が得られたら、買い手側から売り手側へ「意向表明書」と呼ばれる書面が提示されます。意向表明書の提示が義務付けではありませんが、買収の意思があることを売り手側に示すものであり、交渉をスムーズに進めることが可能です。
意向表明書で独占交渉権を提示しておけば、買い手側としては安心して交渉を進められるメリットもあります。
⑥基本合意書の締結
意向表明書を提示して基本的な契約内容が固まったら、基本合意書を締結して合意内容を書面にしておきます。
基本合意書の作成はデューデリジェンス前に行うので、最終合意の時点で内容を変更することも可能です。法的拘束力があるわけではないので、現時点で合意した部分について記載しておけば問題ありません。
具体的な内容としては、事業譲渡・株式譲渡などのM&Aスキーム、譲渡価格と今後のスケジュール、売り手側に対してデューデリジェンスに協力する義務、独占交渉権の付与などが記載されます。
⑦デューデリジェンスの実施
基本合意書が締結されたら、売り手側企業の内容を詳細に調べる「デューデリジェンス」を実施します。M&Aでは売り手側企業と買い手側企業に今まで面識がないので、買収前にデューデリジェンスを行うのは必須です。
会社の内容といっても多岐にわたるので、重要と思われる部分に絞ってデューデリジェンスを実施するのが一般的です。比較的多いのは、財務内容を調べる「ファイナンシャルデューデリジェンス」、業務内容や組織構造を調べる「ビジネスデューデリジェンス」などです。
そのほかにも必要があれば、定款や訴訟履歴などを調べる「リーガルデューデリジェンス」、法人税の未払いがないかなどを調べる「税務デューデリジェンス」などを実施します。
⑧最終契約の締結
デューデリジェンスの結果、売り手側企業に問題がないとわかったら、次は最終契約を締結して契約を確定させます。最終契約書は法的拘束力を持つため、基本合意書とは違って後で内容を変更できません。
契約内容に違反したり破棄したりした場合は、相手から損害賠償や違約金を請求されることもあります。
⑨クロージング
最終契約書を締結して契約が確定したら、実際に株式や資産の譲渡を行うクロージングに入ります。
クロージングの具体的な内容は、選択したスキームによって変わります。例えば、株式譲渡ならば売り手側企業の株式を買い手側企業または経営者に譲渡し、対価として現金を受け取ります。
事業譲渡では譲渡する資産を個別に移管していく必要があるので、株式譲渡よりも手続きは複雑です。クロージングにかかる期間は、スキームによって大きく変わってくるので注意しましょう。
⑩情報公開・公表
基本的にM&Aでは最終契約を締結するまでは情報を公表しませんが、最終契約を締結してM&Aが完了したら順次情報を公開します。情報公開・公表は、まずは従業員や取引先に対して行います。M&A完了後に情報公開することで、従業員の離職や取引先の撤退を防ぐことが可能です。
上場企業などの大企業の場合は、公告やネット上の書面などによって、M&Aを実施したことを広く一般に開示することもあります。
3. 調剤薬局のM&A手続き前に行うこと
調剤薬局のM&Aは、十分な準備や心構えがなく始めるとうまくいきません。以下の点を明確にし、交渉や手続きがスムーズに進むように準備しておきましょう。
- M&Aの目的を明確にする
- M&Aを行う際の相談先を決める
- M&A手法を決める
①M&Aの目的を明確にする
M&Aには身内や従業員に後継者がいないための事業承継、不採算事業の売却によるコア事業への専念、体調不良や気力の低減による引退など、さまざまな理由があります。調剤薬局のM&Aに臨む際は、自社がなぜM&Aをしたいのか、目的を明確にしておかなければなりません。
目的が明確であれば、M&A仲介会社などの専門家も適切なサポートを行えて、相手先企業にも意思が伝わりやすくなりスムーズに交渉が進みます。
②M&Aを行う際の相談先を決める
調剤薬局のM&Aを決断したら、次はM&Aを行う際の相談先を決めます。M&Aの相談先には、M&A仲介会社・金融機関・行政機関などさまざまな選択肢がありますが、自社の規模や状況に合った相談先を選ぶことが重要です。
ひとことにM&A仲介会社といっても、それぞれの会社に得意分野や強みがあります。最近は薬局や医療関連事業に特化した仲介会社も増えているので、こういった仲介会社からコンタクトをとってみるのもよいでしょう。
③M&A手法を決める
調剤薬局のM&Aには株式譲渡(株式売却)・事業譲渡などさまざまな手法があるので、自社の目的に合った手法を選択することが重要です。
調剤薬局のM&Aでは、株式譲渡か事業譲渡を選択するケースが比較的多いです。M&A手法には吸収合併や会社分割などもありますが、これらは大企業の組織再編などに使われる手法なので、調剤薬局のM&Aで使われることは少ないといえます。
株式売却
株式売却または株式譲渡とは、自社の株式を新しい経営者に譲り渡して、経営権を譲渡するM&A手法です。株式を売買するのみなので手続きが簡単なことと、会社自体はそのまま残るので許認可を引き継げる点がメリットとして挙げられます。
一方で、株式売却では会社全体を引き継ぐことから、買収した後に簿外債務など予想外のリスクが発覚するケースもあるため、デューデリジェンスを徹底することが重要です。
事業譲渡
事業譲渡では、株主は変更せずに事業に係る資産そのものを売却・買収します。株式を売買するだけの株式売却に比べて手続きが複雑になるのはデメリットですが、会社全体ではなく事業の一部を売却・買収できるのがメリットです。
売り手側は事業の一部だけを売却して会社は残せる一方で、買い手側は簿外債務などの予期せぬリスクを引き継ぐ可能性を軽減できます。
事業承継
事業承継とは、会社の事業を他の経営者や企業に譲渡する行為のことです。株式売却や事業譲渡と違い、M&A手法の名前ではありません。
事業承継には、親族を新しい経営者に据える親族内事業承継、従業員など親族以外の人間を後継者にする親族外事業承継、M&Aによって外部の人間に事業を承継するM&Aによる事業承継の3種類があります。
近年は親族内事業承継が減少しており、M&Aによる事業承継が増加傾向にあります。
4. 調剤薬局のM&Aの手続き・契約完了にかかる期間
調剤薬局のM&Aでは、手続き・契約完了にどれくらいの期間がかかるのか把握しておくことが重要です。
もちろん、手続きに入ると予想外の出来事もあり、なかなか予定どおりにはいきませんが、期間をある程度予測してスケジュールを立てておけば、怠慢による不要な先延ばしを防げるうえに本業との兼ね合いもスムーズです。
手続きから契約完了までにかかる期間
調剤薬局のM&Aの手続きから契約完了までにかかる期間は、選択したスキームや個々の事情によって変わる部分はあるものの、おおむね3カ月から半年程度のケースが多いと考えられます。
条件に合った売却先がなかなか見つからない場合や、デューデリジェンスで問題が発覚した場合などは、契約完了までに要する期間が長くなります。
実務など引き継ぎにかかる期間
調剤薬局のM&Aは契約が完了して終わりではなく、クロージングやPMIといった実務の引き継ぎにかかる期間も考慮しておかなければなりません。
実務など引き継ぎにかかる期間は事例によって大きく開きがあり、小規模な調剤薬局の株式譲渡なら数日で終わるケースや、事業譲渡の場合は数カ月程度かかるケースもあります。
実務など引き継ぎに要する期間はM&A仲介会社の専門家と相談し、自社の事例ではどれくらいかかりそうか綿密に相談しておくことが大切です。
期間短縮を目指すポイント
調剤薬局のM&A実施期間を短縮したい場合、以下の内容を中心に事前の準備を徹底することが大切だと考えられています。
- 必要な情報をしっかり公開する
- 従業員に対して誠実に対応する
- M&A後のことを綿密に計画しておく
- 情報漏えいに注意する
- M&Aの専門家に相談しサポートを受ける
M&Aの専門家に相談して進めれば、スムーズなプロセス進行につながります。専門家によるサポートは、適正な企業評価価値の算出や専門的な交渉を進めるうえでも非常に大切です。
5. 調剤薬局のM&Aを行う理由
調剤薬局のM&Aを行う主な理由は以下の3つです。自社がこれらの理由に当てはまる場合は、M&Aを検討する時期が到来しているといえます。
- 事業の継続が難しくなった
- 後継者がいない
- 薬局を廃業したくない
①事業の継続が難しくなった
調剤薬局は売上が立地条件に強く依存したり、薬剤費の高さから黒字なのに不渡りを出してしまう「黒字倒産」の事例があったりと、事業の継続が難しい業種の1つです。こういった理由で事業の継続が難しくなったとき、M&Aで売却することで廃業や倒産を回避できます。
「事業の継続が難しくなった調剤薬局に買い手がつくのか」と思うかもしれませんが、債務超過でも買い手が見つかるケースもあるので、仲介会社などに相談して現状を把握しておきましょう。
②後継者がいない
近年は調剤薬局に限らずいかなる業種でも経営者の高齢化が進んでおり、事業は順調にもかかわらず後継者がいないために廃業せざるを得ないケースが増えています。
親族など身近な人間に後継者がいなくても、M&Aであれば幅広い買い手候補から後継者を探すことが可能です。
③薬局を廃業したくない
調剤薬局を廃業すると、これまで築き上げてきたノウハウや、顧客・取引先とのネットワークなどが失ってしまいます。廃業するには在庫や施設の処分など、意外に費用がかかるのも難点です。
調剤薬局を廃業したくないときは、M&Aで譲渡先を見つけることで会社を存続できます。
6. 調剤薬局のM&Aを決断した際に注意すること
調剤薬局のM&Aはメリットも多いですが、後々トラブルを起こさないためにも以下の点には注意しておく必要があります。
- 従業員・薬剤師の雇用状態
- マイナスな情報の扱い
- M&A後の組織づくり
- 情報管理の徹底
- M&Aの全体像を把握する
①従業員・薬剤師の雇用状態
調剤薬局をM&Aで他社に売却する際は、従業員・薬剤師の雇用状態を悪化させないよう気をつけなければなりません。
給与面など表面上の条件は良くても、売却先企業の風土・業務システム・人間関係などが原因で辞めてしまうこともあるので、売却後の雇用状態まできちんとケアしておく必要があります。
②マイナスな情報の扱い
もしも売却を考えている調剤薬局に、簿外債務や労務問題など買い手にマイナスな情報がある場合、隠さずに事前に全て開示しておくのが賢明です。マイナスな情報を隠したまま契約して後でそれが発覚した場合、訴訟問題に発展する可能性もあります。
事前にマイナスな情報を開示すれば買い手は買収を止めてしまうかもしれませんが、それは仕方がないと考えるべきでしょう。調剤薬局のM&Aでは、事前に負債を処理するなどしてマイナスな情報をできるだけ減らしておくことが重要です。
③M&A後の組織づくり
調剤薬局のM&Aはクロージングしたら終わりではなく、M&A後の会社をうまく組織づくりしていくことが重要です。このプロセスは「統合プロセス」または「PMI」と呼ばれており、M&Aのプロセスの中で最も重要なものに位置付けられています。
④情報管理の徹底
調剤薬局のM&Aでは、自社の情報およびM&Aに関する情報を適切に管理しておくことが大切です。情報管理を徹底するためには、M&Aに関与する人間の数を最小限に抑えておき、交渉に関わる人数は部門ごとに1人か2人、合計で10人程度とするのがよいでしょう。
⑤M&Aの全体像を把握する
調剤薬局のM&Aを行う際は、売り手側の経営者が全体の流れをしっかりと把握しておくことが必要です。なぜなら、買い手側と対等の立場で取引を進めていくことが可能になるためです。
主導権を握ろうとして、自社の薬局の情報を過度に後出しするようなことは控えましょう。M&Aはビジネス上の取引でもあるので、売り手と買い手の間に築く信用は非常に重要です。
7. 調剤薬局のM&Aのおすすめの仲介会社
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8. 調剤薬局のM&Aの流れまとめ
調剤薬局のM&Aは、手続きの流れを把握し、事前準備をしっかりと行っておくことが大切です。経営者の高齢化もあり、今後調剤薬局のM&Aは増えてくると考えられるので、早い段階からM&Aを意識して、情報収集や事前準備を整えておくことが重要です。
9. 調剤薬局業界の成約事例一覧
10. 調剤薬局業界のM&A案件一覧
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