調剤薬局のM&A・買収・売却・譲渡について解説!【事例あり】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

M&Aが盛況の日本において、特に調剤薬局業界はそれが盛んです。調剤薬局の買収・売却・事業譲渡について、売買動向・価格相場・手数料・事例などの情報とともに、調剤薬局におけるM&Aでの買収・売却・譲渡のメリット・デメリットも交えて解説します。

目次

  1. 調剤薬局業界の現状
  2. 調剤薬局を売却・譲渡したい理由とは?
  3. 調剤薬局をM&A・買収したい理由とは?
  4. 調剤薬局M&Aのメリット・デメリット
  5. 調剤薬局の譲渡価格と相場について
  6. 調剤薬局M&Aの事例5選!
  7. まとめ
  8. 調剤薬局業界の成約事例一覧
  9. 調剤薬局業界のM&A案件一覧
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  • 調剤薬局のM&A・事業承継

1. 調剤薬局業界の現状

この数年来、日本におけるM&Aの成約数は上昇し、毎年、記録更新している状況です(公表されている上場企業のM&A成約数)。そのなかでも、特に盛んにM&Aが実施されている業界の1つが、本記事で取り上げる調剤薬局業界になります。

M&Aでは、売り手と買い手、双方の思惑が一致しなければ、売買(買収・売却・譲渡)は成立しません。そのあたりの事情をひも解きながら、調剤薬局のM&Aの実態やメリット・デメリットなどについて述べていきます。

本筋に入る前に、まずは、調剤薬局業界の現状について確認してみましょう。

調剤薬局業界とは?

調剤薬局業界は、M&A・廃業の増加、薬剤師の不足、薬価・調剤報酬の改定など、複雑な動きがある業界です。厚生労働省が2020(令和2)年8月に公表した「令和元年度 調剤医療費(電算処理分)の動向」によると、2019(令和元)年度の調剤医療費は7兆7,464億円でした。

この金額は、前年度の7兆4,746億円より増えましたが、2013(平成25)年度以降、調剤医療費は7兆380億円から7兆8,746億円(2015(平成27)年度)の間を上下しており、毎年上昇しているとはいえない状況です。

また、同省の「平成30年度衛生行政報告例」によると、2018(平成30)年度末時点の調剤薬局数は、59,613 施設でした。前年より475施設の増加です。そして、この数は、コンビニエンスストアの数を超えています。

一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会(JFA)が、2020年9月に発表した「JFAコンビニエンスストア統計調査月報2020年8月度」によると、コンビニの店舗数は55,841店となっています。また、コンビニは、2018年度に過去最高の58,340店に達しており、そこから減少中です。

つまり、コンビニの店舗数は飽和状態を迎え、淘汰の時期に入ったともいわれています。果たして、調剤薬局の場合、今後、施設数がどうなっていくのか、医薬行政との兼ね合いもあり、今後も注視が必要でしょう。

ただし、大手コンビニのフランチャイズとして運営されているコンビニと違って、調剤薬局の場合は、個人経営や小規模チェーン経営の割合が多いという特徴があります。

調剤薬局は小規模事業者が中心

調剤薬局の規模は、個人経営や10店未満での運営が過半数です。厚生労働省が2017年3月にまとめた「患者のための薬局ビジョン実現のための実態調査報告」では、大手の調剤薬局よりも、個人・小規模で営む調剤薬局の割合が多いのがわかります。

同じ経営者・事業者によって営まれている店舗の割合は、1店舗のみ27.6%、2~9店舗36.2%で、合計63.8%です。また、それ以上の規模の運営において9%を超える割合の店舗数はありませんでした。

なお、大手企業による大規模運営に該当するのが500店舗以上のグループと考えられますが、この割合はわずか6.4%という数字となっています。

調剤薬局の市場は縮小する見込み

調剤薬局業界の調剤利用費を見れば、市場の規模は維持されているように受け取れます。しかし、この先の調剤薬局市場は、縮小することが予想されています。どのような理由で市場が縮小してしまうのでしょうか。

調剤薬局の市場規模が小さくなる要因には、次の2つが挙げられています。
 

  • 少ない利益
  • 医薬分業率の停滞

厚生労働省が公表している2019度の「第22回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告」では、調剤薬局グループほど利益を上げていることがわかりました。同じ事業者が運営する調剤薬局では、次のような利益額が報告されています。

1店舗のみの調剤薬局は約168万円、20店舗以上では約1,901万円という利益額で、いずれも前年度より減少という状況でした。

そして、小規模事業者は、大手よりも得られる利益が少ないことがわかります。さらに、薬価・調剤報酬の改定により、中規模・大手企業にも利益の減少が予想されています

また、調剤薬局業界の動向からは、医薬分業率の停滞も見て取れます。近年の医薬分業率は、増加をしているものの目立った上昇は見られません。つまり、新規の出店が少ないということがわかります。

そのため、大手企業によるM&Aが増加しています。報酬を維持しようとして、M&Aによる買収を実施し、かかりつけ薬局へ切り替えを行っている状況であり、調剤薬局の市場は、これから縮小していくと予測されています。

調剤薬局業界の課題・問題点

調剤薬局業界の動向からは、次のような課題と問題点を見て取れます。調剤薬局の売却や買収、M&Aによる株式譲渡事業譲渡を考えている方は、以下の点を押さえておきましょう。
 

  • 薬価の改定と調剤報酬が引き下げられて利益が減ってしまう
  • 資金が乏しい個人薬局であると、かかりつけ薬剤師の獲得が難しい
  • 経営を維持するには、地域住民に対するケアが求められる
  • 経営者の高齢化が進んでいる
  • 調剤薬局の売却が増えてM&Aの譲渡価格が下がってしまう
  • ドラッグストアやスーパーなどの参入により競争が激しくなる

以上のように、調剤薬局の今後は厳しい状況となっています。これまでどおりの経営を続けるだけでは、売上が落ち込んだり、人材が不足したりといった事態になりかねません。

また、経営者の高齢化が進んでいるにもかかわらず、後継者を見つけられていないケースも多い状況です。特に小規模な調剤薬局は、かかりつけ薬剤師の定着も難しく、人材不足で悩んでいることがよくあります。

今後も調剤薬局を残したいのに、後継者候補となる従業員がいなくて困っているという経営者が珍しくありません。

そこで、事業承継のために有効なのが、M&Aの株式譲渡や事業譲渡によって、第三者に調剤薬局を譲り渡すこととされています。

親族や社内に後継者がいなくても、株式譲渡や事業譲渡の買い手が後継者となるわけですから、それで調剤薬局の事業承継が実現可能です。

M&Aを実施すれば、売り手側も相応の売却益を獲得できます。新たな事業資金や老後の生活資金など、自由に使えるまとまった額が手に入るわけですから、後継者がいない場合は、M&Aによる事業承継を積極的に検討しましょう。

主要企業

調剤薬局業界では、どのような企業が業界をけん引しているのでしょうか。主要企業の情報から、各社の調剤薬局事業のみの売上高を抜き出してみると、上位10社は以下の顔ぶれです。
 

調剤薬局事業の売上高上位企業 売上高(円) 薬局数 決算期
アインホールディングス 2,637億5,000万 1,088 2020年4月
日本調剤 2,310億100万 649 2020年3月
クラフト 1,937億 580 2020年3月
ウエルシアホールディングス 1,554億5,200万 1,437 2020年2月
クオールホールディングス 1,531億8,500万 805 2020年3月
総合メディカル 1,020億9,800万 735 2020年3月
スズケン 964億3,900万 613 2020年3月
東邦ホールディングス 961億2,400万 778 2020年3月
スギホールディングス 926億4,596万 1,163 2020年2月
メディカルシステムネットワーク 899億1,900万 416 2020年3月
※持株会社の場合は単独決算数値ではなく連結ベース
※売上高は端数切捨て
※総合メディカルの薬局数は2020年10月1日現在、その他は決算時の数値

以上の上位10社のうち、スズケンと東邦ホールディングスは、医薬品卸売が主事業の企業です。参考までに両社の会社全体の売上高は、2020年3月期で以下のように発表されています。
 

  • スズケン:2兆1,253億7,300万円
  • 東邦ホールディングス:1兆2,637億800万円

また、ウエルシアホールディングスとスギホールディングスは、調剤併設型ドラッグストア事業を展開している企業です。したがって、それ以外の6社が、調剤薬局事業を主事業としている企業ということになります。

調剤薬局事業を行うドラッグストア

近年の調剤薬局業界の1つの傾向として、上述したウエルシアホールディングスとスギホールディングスのような、ドラッグストア運営企業が調剤薬局事業に参入してくる動きが顕著です。

そこで、参考までに、上記2社も含めた調剤併設型ドラッグストア事業を行う上位5社の売上高について掲示しておきます。

企業名 調剤薬局売上高
(円)
全社売上高
(円)
調剤薬局
店舗数
全店舗数
ウエルシア
ホールディングス
1,554億5,200万 8,682億8,000万 1,437 2,005
スギホールディングス 926億4,596万 5,419億6,400万 1,163 1,287
ツルハホールディングス 855億9,700万 8,410億3,600万 615 2,150
ココカラファイン 642億6,700万 4,038億7,500万 314 1,345
マツモトキヨシ
ホールディングス
499億8,100万 5,905億9,300万 312 1,717
※ウエルシアホールディングスとスギホールディングの決算期は2020年2月、ツルハホールディングスは2020年5月、ココカラファインとマツモトキヨシホールディングスは2020年3月

なお、ココカラファインとマツモトキヨシホールディングスは、最終的な経営統合も視野に入れた資本業務提携契約を2020年1月に締結しています。これにより、マツモトキヨシホールディングスは、ココカラファインの株式20.04%を所持する筆頭株主となりました。

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2. 調剤薬局を売却・譲渡したい理由とは?

調剤薬局の売却・譲渡を行う方は、どのような理由で売買を望んだのでしょうか。これから店舗の売却・買収を行う方は、他人が売却・譲渡した情報を得たいと思うはずです。そこで、ほかの方の売却・譲渡理由をまとめてみました。

これまでの情報を獲得すれば、自社に当てはまる事例を見つけられます。過去の情報では、調剤薬局の売却・譲渡の理由には、次の3つが挙げられていました。
 

  • 自ら経営を続けていくことが困難
  • 閉鎖はしたくないという意思
  • 閉鎖できない現状

これらの理由に心当たりがあるという経営者も多いはずです。それぞれの売却・譲渡理由について、順番に確認していきましょう。

自ら経営を続けていくことが困難

調剤薬局を売却・譲渡する理由には、1人では経営を続けられないことが挙げられます。その原因は、高齢化・健康問題を抱えていることと、従業員の離職・雇用の失敗による人材不足の2つです。

厚生労働省が調べた2016(平成28)年の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、60歳以上の薬剤師は、全体の17.4%でした。体力が減ってきたり、病気にかかってしまったりと、年齢からくる体の衰えを理由に、店舗の売却・譲渡が行われています。

人材不足を理由とするケースでは、「薬剤師が急に辞めてしまった」、「募集をかけても薬剤師が集まらない」ことが原因です。小規模の調剤薬局は限られた人数しか雇用していません。

そのため、1人が辞めることで経営者に負担がかかってしまい、売却・譲渡が選ばれるのです。

さらに、従業員側としては、雇用先について、小規模事業者よりも大手の調剤薬局チェーンやドラッグストアを選ぶため、個人の店舗では人材が集まりにくい状況にあります。従業員の獲得が難しいため、仕方がなく経営をあきらめ、店舗を譲渡・売却しているのです。

閉鎖はしたくないという意思

2つ目に挙げる調剤薬局の売却・譲渡理由には、店舗の閉鎖を避けたいという強い意思が挙げられます。経営者は、店舗を残したまま、第三者に経営権を譲りたいと考えているのです。

地方の調剤薬局では、自店だけが近隣で唯一の調剤薬局というケースも少なくありません。経営者がお店をたたんでしまえば、利用者たちを離れた調剤薬局まで通わせることになります。

また、困るのは利用者だけではなく、今まで働いてきてくれた従業員たちも同様です。調剤薬局を閉鎖してしまうことで、従業員の職が失われてしまいます。身近に調剤薬局がない場合、再就職が難しい場合もあるでしょう。

したがって、経営者は調剤薬局の閉鎖は選ばず、親族や従業員に譲り渡したり、M&A・事業譲渡を行ったりして、事業の存続を望みます。事業承継が成功すれば、利用者や従業員が困ることにはなりません。

閉鎖できない現状

3つ目の調剤薬局の売却・譲渡理由は、閉鎖できない事情を抱えている点です。病院や診療所のそばに店舗を構える門前薬局は、医療機関との連携により患者さんを獲得しています。

つまり、調剤薬局の意思だけでは、店舗を閉められない状況が作られているのです。そこで、調剤薬局の売却やM&A・事業譲渡を実施しようと考える経営者は少なくありません。経営を他社に任せることで、医療機関とのつながりを継続させるのです。

このように、調剤薬局を閉鎖したくても簡単にはできないケースもよくあります。もしも、門前薬局を経営しているものの経営者の立場から退きたいなら、M&Aによる事業承継を行うのがよいでしょう。

調剤薬局の事業承継

以上が、調剤薬局を売却・譲渡したい理由についてでした。もしもあなたが調剤薬局を手放すことを考えているのなら、3つのいずれかの理由に心当たりがあった可能性は高いです。

このように、調剤薬局を売却・譲渡したいと考える経営者のほとんどは、事業承継を目的にしています。事業承継とは、事業を後継者に引き継ぐことです。

自らが経営を続けていくことは難しいものの、調剤薬局を閉鎖したくない意思や現状があるのであれば、事業承継のための売却・譲渡を検討してみてください。

調剤薬局の事業承継については、以下の記事でくわしく解説しています。理想どおりの事業承継を果たすために参考にしてください。

【関連】調剤薬局が事業承継をするにはコツがあった!成功法を徹底解説!

3. 調剤薬局をM&A・買収したい理由とは?

調剤薬局のM&A・買収を望む側は、どのような理由で店舗を譲り受けるのでしょうか。業界の動向を把握したら、M&A・買収の理由も押さえておきましょう。M&A・買収を希望する理由は、次の2つです。
 

  • 新規マーケット開拓の効率化
  • 人材確保のため

新規マーケット開拓の効率化

調剤薬局のM&A・買収を望む理由は、新しいマーケットを効率的に開拓できる点です。新規の市場を探したり、ほかの業種から参入したりする場合、たくさんの費用と時間を必要とします。そこで、M&A・買収により、既存の調剤薬局を獲得するのです。

これなら、市場調査や物件の確保、仕入れ先の選定、設備の導入などが短時間ですみます。M&A・買収で事業を譲り受ければ、出店する地域のデータを集めたり、物件を探したりする手間が省けるのです。

しかも、営業を行っている調剤薬局なら、顧客もついているため、すぐに売上の計上が見込めます。事業を軌道に乗せるまでの時間を短縮できるので、調剤薬局のM&A・買収は、「他県や遠隔地にマーケットを広げたい」「異業種から参入を望む」場合に選ばれているのです。

人材確保のため

調剤薬局のM&A・買収を望む理由には、従業員を確保できる点も挙げられます。薬剤師の募集をかけるには、手間と費用がかかります。しかも、中途採用では大手のチェーン店に人気が集まり、小規模の調剤薬局では思うように人材を獲得できません。

そこで、既存の調剤薬局をM&A・買収しているのです。これなら、働いている薬剤師を引き継ぐだけで、人材が確保できます。

しかも、譲渡側の経営者は、売買の条件に雇用の継続を挙げていることが大半です。調剤薬局の売買では、M&A・買収により、従業員を確保しやすい状況も作られていることがわかります。

調剤薬局のM&AならM&A総合研究所

調剤薬局のM&Aなら、M&A総合研究所にお任せください。M&A総合研究所は、中小・中堅規模のM&A仲介を主に扱っており、知識・実績豊富なM&Aアドバイザーが調剤薬局のM&Aをフルサポートいたします

当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)となっております。無料相談はお電話・Webより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。

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4. 調剤薬局M&Aのメリット・デメリット

実際に調剤薬局を譲渡・買収した場合、売り手と買い手にはどのようなメリット・デメリットが生じるのでしょうか。M&Aによる調剤薬局の売買では、次のような利益・不利益が挙げられます。
 

  M&Aのメリット
売り手側 資金力のある企業へ譲渡することで、人材不足が補える
雇用・取引関係が継続する
利用客のために、店舗を残しておける
体力的・精神的な疲労を軽減できる
創造者利益を得られる
個人保証・担保を外せる
買い手側 事業を大きくできる
短期間・低コストで新規参入を果たせる
従業員・設備・営業権が手に入る
店舗が増えるため、コストが削減できる

  M&Aのデメリット
売り手側 従業員の離職の可能性がある
医療機関からの理解が得られない
買収してくれる企業が見つからない
M&Aの仲介会社を挟まないと、安い譲渡価格を提示される
買い手側 従業員の離職の可能性がある
引き継いだ従業員が、新しい環境になじめない
簿外債務を引き継ぐケースがある

【関連】調剤薬局のM&Aのメリット・デメリット!譲渡が増えている背景も解説

5. 調剤薬局の譲渡価格と相場について

調剤薬局の譲渡・買収を考えるとき、気になるのは薬局店舗の売買価格でしょう。そこで、調剤薬局の譲渡価格・相場についての情報をまとめました。また、そのほかにも、赤字店舗の譲渡についても触れています。
 

  • 調剤薬局の価格相場
  • 赤字店舗の売却

相場の決まり方とは?

調剤薬局の価格相場は、3つの基準によって決められます。
 

  • 時価純資産価額
  • 営業権
  • 技術料と処方箋応需枚数

M&Aで譲渡・買収を検討するなら、これらの基準を参考にして、おおよその譲渡価格を把握してみましょう。基準の詳しい内容は、次のとおりです。

時価純資産価額

1つ目に取り上げる譲渡価格・相場の基準である時価純資産価額とは、将来の価値を含まずに、現在の企業価値を測る方法です。調剤薬局の資産には、薬局で使用するレセコン(調剤報酬証明書を作成する機器)や、調剤機器、在庫の医薬品、建物などがあります。

純資産は、企業が所有する全ての資産から、負債を引いた額のことで、時価は現在に置き換えた価値のことです。つまり、時価純資産価額は、資産から負債を引いて、現在の価値に換算した企業価値が表されます。

譲渡価格が相場よりも高い場合は、調剤薬局が所有する資産を確かめてみましょう。ほかの案件にはない資産が、含まれているかもしれません。

営業権

2つ目の譲渡価格・相場の基準は、営業権です。譲渡側の営業利益から将来のリスクを引き、買収による付加価値を加えて、企業の価値を算出します。

営業権は、1年分だけではありません。3年~5年先の利益を含むので、営業権の企業価値は、「1年の営業権×3年~5年」で計算されます。

営業権には将来の価値が含まれているわけですから、仮に、譲渡価格が相場に対して高かったり、低かったりする場合は、営業権が反映されているかを確かめてみてください。

調剤技術料と処方箋応需枚数

3つ目の譲渡価格・相場の基準は、ひと月の調剤技術料と処方箋応需枚数です。調剤技術料がわかれば、売上に占める調剤技術料が把握できます。そして、処方箋応需枚数を知ることで、従業員の数が想定できるのです。

ただし、2018年には診療報酬が改定されました。調剤薬局によっては、これまでよりも調剤技術料が減ってしまうことがあります。これからM&Aを通じて調剤薬局を買収する場合は、売り手の処方箋の枚数と処方箋の出どころを確かめておきましょう。

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以上、調剤薬局の譲渡価格について考えるときのポイントを解説しました。実際、譲渡価格を決めるのは非常に難しいので、専門家に相談しながら慎重に行わなければなりません。その際、本記事の内容を押さえておけば、スムーズに相談できるはずです。

仲介会社などに相談し、株式を適正価格で買い取ってくれる会社を見つければ、まとまった資金が手に入ります。もちろん税金が引かれるため満額が手に入るわけではありませんが、現金があればリタイア後の暮らしにも役立ちます。

また、会社譲渡で得た利益をもとに、新たな事業を始めることも可能です。調剤薬局を手放して新事業をやりたいという場合にも、会社譲渡は有効であるといえます。

しかし、赤字経営の調剤薬局でもM&Aできるのかについて、気になっている人もいるはずです。ここで、赤字を出している調剤薬局のM&Aについて見ていきましょう。

赤字経営の調剤薬局でもM&Aは可能なのか?

赤字を出している調剤薬局でも、M&Aを通じた譲渡・売却が行えます。業績が悪化していても、買収側の企業にとっては利益を生む企業と判断されることがあるのです。M&Aの売買が成立するケースには、次の3つが挙げられます。
 

  • 資金不足の調剤薬局
  • 高い基本調剤料を得ている調剤薬局
  • 素早いM&A・事業譲渡

資金不足の調剤薬局

1つ目の例は、資金不足の調剤薬局です。個人の調剤薬局では、資金が足りず、必要な設備を導入できていなかったり、運営に必要な人材を確保できていなかったりします。つまり、運営に必要な資金があれば、財務状況が改善し、利益が見込めるのです。

そのように判断されれば、豊富な資金を持つグループ企業などが、買収に名乗りを上げてくれます。適切な設備・人材を揃えられる資金力があるため、赤字店舗でも事業譲渡にふさわしい店舗であると認識してくれるのです。

高い基本調剤料を得ている調剤薬局

2つ目の調剤薬局は、高い基本調剤料を得ている店舗です。制度の改正後も高い基本調剤料を得ている店舗には、買い手が現れてくれます。

2018年に改正された調剤報酬料制度では、該当していた基本調剤料から外れてしまうことが起こるようになってしまいました。

同じ医療機関からの処方箋や、ひと月の処方箋枚数が一定数を超えると、基本調剤料が減ってしまいます。そこで買収側は、高い調剤報酬料を得ている店舗を求めているのです。

そのため、赤字を出している調剤薬局であっても、高い基本調剤料を得ていれば、事業譲渡が見込めます。グループ薬局は、コストを削減したり、経営方針を変えたりして、経営を立て直すことができるため、赤字の調剤薬局にも買い手がつくのです。

素早いM&A・事業譲渡

3つ目のケースは、素早く事業譲渡を実行に移せる調剤薬局です。赤字が出てからも判断に迷い、店舗の売買に二の足を踏んでいると、適切なタイミングを逃してしまいます。買い手は、できる限り赤字・負債を背負いたくはありません。

したがって、赤字が出ても早い時期にM&A・事業譲渡に取りかかることで、買い手がつきやすくなります。赤字や負債の額が小規模なら、買収側のノウハウを適用させることで財務状況が改善する、と判断されるのです。これで、赤字の調剤薬局でも売買が成立します。

ただし、M&A・事業譲渡が完了するまでは、一般的に数カ月から1年ほどの期間を要するのが常です。赤字が出てからも、しばらくの間は経営を続けなければいけません。譲渡のタイミングを逃さないためには、M&Aの仲介会社の利用をおすすめします。

調剤薬局の売買はM&A総合研究所へ

調剤薬局の株式譲渡・事業譲渡などM&Aを検討している場合には、M&A総合研究所にご相談ください。調剤薬局のM&Aに携わってきたM&Aアドバイザーが、クロージングまでを一貫してサポートします。

通常は10カ月~1年以上かかるとされるM&Aを、最短3カ月でスピード成約した実績を有しているなど、機動力も強みです。

当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)となっております。無料相談はお電話・Webより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。

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6. 調剤薬局M&Aの事例5選!

調剤薬局のM&Aでは、どのような店舗が譲渡の対象となっているのでしょうか。実際の売買を知りたい方のために、5つの事例をまとめました。調剤薬局の売買では、次のようなケースで譲渡が成功しています。

薬局M&A事例①

1つ目に取り上げる調剤薬局のM&A事例は、7店舗の調剤薬局を売却した事例です。売り手は、高齢と人材不足を理由に、事業譲渡を決意しました。そこで、M&Aの仲介会社を利用し、地域密着型の店舗を探す大手を紹介してもらい、成約に至っています。

人材不足は、ほかの店舗の薬剤師を移動させることで問題を解消し、M&Aを行ったことで、従業員にかかる負担を軽減させました。継続して雇用された従業員は、改善された労働環境に満足をし、業務を続けています。

M&Aの仲介手数料は?

この事例でM&A仲介会社に支払われた手数料は、着手金と成功報酬です。買い手企業を探す・マッチングを依頼する段階(提携仲介契約)で、着手金を支払います。その後、買収先が見つかり、最終契約書の締結に合わせて成功報酬を納めました。
 

M&A仲介手数料 手数料を支払うタイミング
着手金 提携仲介契約の締結
成功報酬 最終契約書の締結

薬局M&A事例②

2つ目に紹介する調剤薬局のM&A事例は、関東の調剤薬局です。譲渡を行った理由は、後継者がいなかったためでした。安定した財務業況により、すぐに大手の調剤薬局グループとの買収が決まって、成約に至っています。

M&Aの仲介手数料は?

この事例でのM&A仲介手数料は、中間金と成功報酬でした。
 

M&A仲介手数料 手数料を支払うタイミング
中間金(成功報酬の10%) M&Aの買い手が決まる
成功報酬(成功報酬の90%) M&Aの成立

薬局M&A事例③

3つ目に挙げる調剤薬局のM&A事例は、医療系の企業に譲渡した事例です。売り手は、行き先の不安と資金不足を抱えていました。そこで、M&Aを仲介会社に打診し、医療分野に精通した企業への譲渡を決めました。

譲渡を決めた理由は、買い手側が潤沢な資金を持っていたことです。それならば、譲渡後の経営も順調に進むと判断し、店舗を手放しました。

また、売り手側は、譲渡の際に取引先の関係維持と雇用の継続を求めました。買い手はこれを承諾し、これまでの取引を維持し、従業員の雇用も引き継いでいます。

M&Aの仲介手数料は?

この事例でのM&A仲介手数料は、成功報酬のみです。着手金や中間金はありません。最終契約書を締結した段階で、報酬の支払いを求めています。
 

M&A仲介手数料 手数料を支払うタイミング
成功報酬(レーマン方式 最終契約書の締結

薬局M&A事例④

4つ目に取り上げる調剤薬局のM&A事例は、1店舗の事業譲渡です。譲渡側は、複数の調剤薬局を運営していました。ところが、ある店舗で薬剤師が辞めてしまい、後任を見つけられずにいたのです。

そこで、M&Aの仲介会社に相談し、薬剤師を補充してくれる買い手が見つかり、1店舗だけを事業譲渡しました。成約までは1カ月ほどで、短期での売買を実現させています。

M&Aの仲介手数料は?

利用したM&Aの仲介会社は、譲渡側に手数料を求めていません。支払う料金は、遠隔地への交通費と、士業に依頼する譲渡契約書のチェック費用のみです。
 

  M&A仲介手数料 手数料を支払うタイミング
譲渡側 交通費 最終契約書の締結
 
譲渡契約書のチェック費用
買収側 成功報酬

薬局M&A事例⑤

5つ目に紹介する調剤薬局のM&A事例は、調剤薬局・ドラッグストアを営む会社のM&Aです。売り手側は、薬剤師の確保を重荷に感じていました。そこで、M&Aの仲介会社に相談をして、調剤薬局を手放すことを決めたのです。

紹介された買い手企業は、大手の調剤薬局グループで、店舗の拡大を望んでいました。そこへ、売り手企業の情報が入り、交渉を開始したのです。成約までの期間は約3カ月で、短期間でのクロージングを実現しています。

M&Aの仲介手数料は?

この事例でのM&A仲介手数料は、成功報酬のみです。最終契約書を締結した後に、譲渡額から成功報酬が支払われました。
 

M&A仲介手数料 手数料を支払うタイミング
成功報酬(レーマン方式) 最終契約書の締結

事例からわかること

以上、調剤薬局の5つのM&A事例を紹介しました。事例を読んで、自分が経営している調剤薬局のM&Aをするイメージがわいてきたという人も多いはずです。そのようなときは、ぜひ専門家であるM&A総合研究所にご相談ください

調剤薬局の市場は、これから急速に中小規模の調剤薬局には厳しいものとなっていきます。したがって、生き残るためには何らかの対策をしなければなりません。そして、生き残りのために役に立つのが、調剤薬局のM&Aです。

調剤薬局では、規模を問わず多くのM&Aが行われています。事業拡大のため、または人材確保のため調剤薬局を買いたいと考えている経営者は多くいることを知っておくべきです。

また、株式譲渡や事業譲渡といった手法を中心に行われるM&Aでは、事業承継や経営課題の解決ができます。調剤薬局を引き継いでくれる人がいない場合も、M&Aを活用するのが良策です。

同業他社以外から買い手が見つかることもあるので、良い相手探しができるように専門家に希望を伝えましょう。できるだけ具体的な希望を伝えることによって、理想的な調剤薬局のM&Aが行えるはずです。

【関連】調剤薬局のM&A手数料を徹底比較!相場や仲介会社ごとの違いも解説

7. まとめ

調剤薬局のM&Aについて、解説しました。調剤薬局の売買を検討するなら、売却する理由や自社の強みを明確にしておくと、買い手を見つけやすくなります。

また、現在の調剤薬局業界の動向を読み取ると、ドラッグストアによる買収が目立つことがわかりました。調剤薬局の専門事業者のほかにも、買い手が存在することを認識しておきましょう。

そして、売り手側の動向では、隣接業種への展開が見られます。調剤薬局業を軸に、介護・福祉事業へ進出することで、かかりつけ薬局・地域包括ケアの強化を図っているのです。

調剤薬局事業には、激しい業界再編の波が訪れています。業界の流れに乗り遅れないためには、それぞれの立場にあったM&Aを選びましょう

8. 調剤薬局業界の成約事例一覧

9. 調剤薬局業界のM&A案件一覧

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