2023年12月06日更新
サービス付き高齢者向け住宅のM&Aを解説!動向や事例・メリットは?
サービス付き高齢者向け住宅を取り巻く業界では、事業規模拡大で競争激化に対応すべく多くの企業がM&A実施しています。当記事では、過去事例を交えながら、サービス付き高齢者向け住宅のM&A動向を解説します。メリットや注意点も一緒に確認しましょう。
目次
1. サービス付き高齢者向け住宅のM&A動向
まずは、サービス付き高齢者向け住宅の基本的知識から押さえましょう。業界の現状とM&A動向、業界の課題点を解説します。
サービス付き高齢者向け住宅とは?
サービス付き高齢者向け住宅とは、生活相談員による安否確認や食事提供などの生活サポートといった支援サービスを提供する高齢者向けの賃貸住宅のことです。基本的には自立した状態で生活ができるシニア層か、軽度の要支援者を受け入れます。
入居者が介護を必要とする場合は、個別に外部の介護サービスを契約すれば利用可能です。有料老人ホーム・特別養護老人ホームに比べて待機時間が短めであるという特徴もあります。
サービス付き高齢者向け住宅のM&Aの現状と動向
サービス付き高齢者向け住宅は、2011年の法改正により新しい介護施設として普及が進み、多くの施設が誕生しました。国内では高齢化が進んでいる影響もあり、各企業でサービス付き高齢者向け住宅への新規参入を行うなどM&A動向が多く見られる点が現状です。
一方中小規模事業者は、競争激化や介護報酬の低下による収益リスクが高まる前にサービス付き高齢者向け住宅事業を他社に売却する動向も見られます。各企業から市場動向が注目されているため、M&Aには一定の需要が見込める業界と言えるでしょう。
サービス付き高齢者向け住宅のM&Aの課題
サービス付き高齢者向け住宅は高齢化社会により需要が見込める業界ではありますが、競争激化により入居者の獲得が従来よりも難しくなっています。中には入居者が見込めず経営状況が悪化し、廃業せざるを得なくなるケースも見られる点が業界の課題です。
入居者確保のためには、施設規模の拡大やサービス面で差別化を図るなど各企業による工夫や対処が求められています。M&Aは、ノウハウや人材を有効活用できるため競争激化や課題の対処として検討・実施する企業が多く見られるようになりました。
2. サービス付き高齢者向け住宅のM&Aの流れ
サービス付き高齢者向け住宅でM&Aを行う際に進められる手続きを、以下6つのステップに分けて解説します。基本的なM&Aの流れを押さえましょう。
- M&Aの選定・交渉
- 基本合意の締結
- デューデリジェンス
- 最終条件交渉
- 最終契約締結
- クロージング
①M&Aの選定・交渉
まずは、会社の課題点とM&Aの実施目的を明確にします。M&A仲介会社などの専門家に相談しながら市場動向や会社状況に適したスキームの選定を行い、多くの効果を見込めそうな相手企業を見つけましょう。
候補が見つかったら企業経営者と会談を行い、経営理念や事業方針で共感が得られたら交渉に進みます。交渉では双方が有益といえる内容にまとめることがポイントです。
②基本合意の締結
交渉でM&Aの取引条件がまとまったら、基本合意書を締結します。基本合意書は、当事者双方がM&Aへの合意を示すための書類で、法的拘束力を持たないという点が特徴です。
基本合意書には、当事者の基本情報、M&A実施日、手法(スキーム)、譲渡する株式の種類と数量(株式譲渡の場合)売却価格、支払い方法といった項目が記載されています。
③デューデリジェンス
基本合意書の締結後に実施されるのが、デューデリジェンスです。これは売却側の財務や税務、リスクや負債などあらゆる項目を調査するプロセスで、売却側が交渉で開示した内容に虚偽が無いかを確認する目的で実施されます。
また、M&A後に売却側の簿外債務発覚リスクを軽減できる効果もあるため、買収側においては重要です。専門家に依頼して入念に調査を行いましょう。
④最終条件交渉
基本合意書に記載された内容とデューデリジェンスの実施結果から、再度細かい条件調整を実施します。いずれかに不利益な内容にならぬように配慮が必要です。売却側の場合は、M&A実施後の自社従業員の処遇の確保にも努めましょう。
⑤最終契約締結
M&Aの取引条件がまとまったら、当事者間で最終契約書を締結します。最終契約書は基本合意書とは異なり、法的拘束力が発生する点が特徴です。契約後のトラブルを防ぐために、売却側も買収側も締結前に入念に条件を確認することが重要です。
⑥クロージング
最終契約書に記載されたスケジュール・内容に従って株式譲渡や事業の引き継ぎを実施します。これがクロージングで、M&Aの手続きの最後に行われるプロセスです。クロージング完了後はシナジー効果を得るために、双方の文化や事業を効率よく融合させていきましょう。
3. サービス付き高齢者向け住宅のM&Aのメリット・デメリット
ここでは、サービス付き高齢者向け住宅でM&Aを実施するメリットとデメリットを解説します。M&Aに成功すれば多くの恩恵がもたらされますが注意すべき点もあるので、メリット・デメリット両方を把握した上で手続きを進めましょう。
メリット
まずは、サービス付き高齢者向け住宅のM&Aを実施するメリットから確認しましょう。買収側・売却側それぞれの視点に分けて解説します。
買収側
サービス付き高齢者向け住宅のM&Aで買収を行う場合、当事者が得られるメリットは以下の通りです。
- 売却側のサービス付き高齢者向け住宅設備を獲得できる
- 事業に必要なスタッフや資格保有者を得られる
- 事業のノウハウや顧客を獲得できる
- 売却側との協業により事業拡大ができる
- 事業拠点を獲得しエリアを拡げられる
サービス付き高齢者向け住宅の事業エリアや規模の拡大を効率的に行える点がM&Aの大きな魅力です。売却側の事業拠点や人材を獲得できれば、すぐに事業を軌道に乗せられるでしょう。また、ノウハウも得られるので人材教育に時間とコストを費やす必要もありません。
売却側
サービス付き高齢者向け住宅のM&Aで売却側が得られる主なメリットには、以下のような点が挙げられます。
- 経営者が会社や事業の売却による利益(譲渡益)を得られる
- 大手傘下に入ることで経営状態を改善させられる
- 大手グループ企業になればスケールメリットが得られる
- 経営者が抱える個人保証などの債務が解消される
- 廃業を阻止しスタッフの雇用を維持できる
冒頭でも記載しました通り、サービス付き高齢者向け住宅業界は競争激化が顕著です。入居者の確保が不安な場合は、経営が安定しているうちに売却することで、対価を得られるでしょう。多額の費用をかけて廃業するよりも、メリットは多いと言えます。
また、経営安定化を狙うのであれば大手傘下に入るという手もあります。このように、M&Aによる売却は経営面や人材面など幅広い課題を解決できる可能性があるという点が魅力です。
デメリット
では次に、サービス付き高齢者向け住宅がM&Aを実施するデメリットを押さえましょう。こちらも買収側・売却側に分けて解説します。
買収側
サービス付き高齢者向け住宅のM&Aで買収を行う際に想定されるデメリットは、次の通りです。
- 売却側のスタッフや従業員が待遇に不満を抱くおそれがある
- 売却側の顧客や取引先が離れていくおそれがある
- 金融機関にも協力を得ながら買収資金を調達しなければならない
- 売却側企業の簿外債務が見つかるリスクがある
売却側企業の簿外債務(貸借対照表に計上されていない負債)が見つかった場合は損失が増えることになるので、この点が買収のデメリットです。ただ、デューデリジェンスを行うなど事前の対策を徹底することで防ぐことができます。
売却側
サービス付き高齢者向け住宅のM&Aで売却を行う側に想定される主なデメリットには、以下のような点が挙げられます。
- 必ずしも相手企業が見つかるとは限らない
- 希望条件が交渉で通らない場合もある
- M&Aの話を聞いたスタッフや従業員が退職するおそれがある
- 不安を感じた顧客が別の施設を利用する可能性がある
M&Aは相手企業がなかなか見つからない場合もあります。長期戦になる可能性も想定した上で、手続きを進めなければなりません。また、途中で情報漏洩があると従業員が退職し、M&Aが失敗に終わるリスクもあります。
4. サービス付き高齢者向け住宅のM&A・売却・買収事例
サービス付き高齢者向け住宅における過去の事例を5つ紹介します。ケースごとにスキームやM&Aの実施目的を確認しましょう。
- 東京建物シニアライフサポートとSOMPOケア
- 穴吹ライフサポートと四国ビジネス
- ワイグッドケアとアーバンアーキテック
- エブリーと元気な介護
- 揚工舎とケアクリエイト
①東京建物シニアライフサポート×SOMPOケア
こちらは、介護事業を行う大手企業が不動産会社大手傘下の同業社を買収した事例です。売却側は東京都・神奈川県・埼玉県で事業拠点を保有しており、買収側の首都圏における事業拡大戦略の目標地域と合致していたためM&Aが実施されました。
売却側 | 東京建物シニアライフサポート |
---|---|
買収側 | SOMPOケア |
M&Aスキーム | 株式譲渡 |
M&Aの実施目的 | 介護サービス事業における取り組みの強化・加速化 |
時期 | 2020年9月 |
売却価格 | 非開示 |
②穴吹ライフサポート×四国ビジネス
こちらは、サービス付き高齢者向け住宅の事業を持つ不動産会社から同事業を買収した事例です。買収側は、売却側が持つ施設を獲得し、より地域社会のニーズに対応できる事業展開を目指しました。
売却側 | 穴吹ライフサポート |
---|---|
買収側 | 四国ビジネス |
M&Aスキーム | 株式譲渡 |
M&Aの実施目的 | 社会のニーズに応える事業を展開するため |
時期 | 2022年4月 |
売却価格 | 非開示 |
③ワイグッドケア×アーバンアーキテック
こちらも、同業種2社によるM&A事例です。売却側はサービス付き高齢者向け住宅を3拠点保有しており、13拠点を保有する買収側はこのM&Aによるスケールメリットを見込みました。
売却側 | アーバンアーキテック |
---|---|
買収側 | ワイグッドケア |
M&Aスキーム | 事業譲渡(対象はサービス付き高齢者向け住宅3施設) |
M&Aの実施目的 | ・売却側の事業拠点獲得 ・スケールメリットの創出 ・サービスの向上 |
時期 | 2020年7月 |
売却価格 | 非開示 |
④エブリー ×元気な介護
こちらは、北海道に拠点を置く買収側と大阪府に拠点を置く売却側で行われたM&A事例です。両社とも介護事業を展開する企業で、今回のM&Aにより、買収側は大阪エリアへの事業進出を実現しました。
売却側 | エブリー |
---|---|
買収側 | 元気な介護 |
M&Aスキーム | 株式譲渡 |
M&Aの実施目的 | ・売却側の拠点である大阪への進出 ・事業エリア拡大 |
時期 | 2016年7月 |
売却価格 | 非開示 |
⑤揚工舎×ケアクリエイト
こちらも、事業拡大を目的に行われた同業2社によるM&A事例です。売却側が保有する有料老人ホームの事業拠点(東京都青梅市)と、買収側が掲げる「東京近郊の拠点を増やす」という事業戦略が合致したためM&Aが実施されました。
売却側 | ケアクリエイト |
---|---|
買収側 | 揚工舎 |
M&Aスキーム | 株式譲渡 |
M&Aの実施目的 | 買収側の事業戦略(事業拡大)と売却側の事業拠点が合致したため |
時期 | 2020年8月 |
売却価格 | 非開示 |
5. サービス付き高齢者向け住宅のM&Aを行う場合の注意点
M&Aを実施する際は、注意しなければならない点があります。ここでは、サービス付き高齢者向け住宅のM&Aを進める際に留意したいポイントを4つ紹介します。
- M&Aの目的を明確にする
- M&A実施後のシナジー効果を考える
- 自社の価値・評価をよく理解する
- 実績のある専門家に相談する
M&Aの目的を明確にする
スキーム策定や相手企業の選定を行う前に、まずはM&Aの目的を明確にすることが重要です。目的が漠然とした状態では、売却側と買収側の方向性でミスマッチが生じ、M&Aを行っても結果的に効果が得られません。会社状況を客観的に分析し、M&Aの方向性を正しく設定しましょう。
M&A実施後のシナジー効果を考える
M&A実施の際は、どのようなシナジー効果を得たいのか考えながら交渉を進めましょう。売上面での効果なのか、顧客面での効果なのか、それとも事業エリアの効果なのか、さまざまな方向性が考えられます。
経営者同士でM&A後の事業展開を確認し、求めるシナジー効果など方向性で共感を得られていることが重要です。また、M&A後は双方のリソースを効率的に統合させ、迅速にシナジー効果を創出させましょう。
自社の価値・評価をよく理解する
自社の価値を正しく把握しておくことも大切です。自社の強みやアピールポイントが明確な企業は、相手候補に挙がりやすくなります。そのためには会社の分析を入念に行う必要があるでしょう。また、企業価値評価は専門知識が欠かせません。専門家に依頼した上で算出を行ってください。
実績のある専門家に相談する
サービス付き高齢者向け住宅の業界だけに限ったことではありませんが、M&Aの手続きには法務や税務の専門知識が必要です。トラブルを最小限に抑えて円滑なM&Aを目指すためにも、専門家に相談することをおすすめします。
個人の力だけでM&Aを進めるのは、非常に労力がかかるのでおすすめできません。サービス付き高齢者向け住宅のM&A実績があり知識が豊富なM&A仲介会社を見つけましょう。
6. サービス付き高齢者向け住宅のM&Aは専門家へ!
サービス付き高齢者向け住宅は、高齢化による需要増加が見込める反面、入居者の確保では競争が激化しやすいという課題には留意しなければなりません。競争激化に対処するには、事業規模を効率的に拡大できるM&Aが有効です。
M&Aがうまく行けば売却側にも買収側にも多くのメリットをもたらしますが、当然リスクも存在します。成功確率を上げるためには、専門家のサポートが欠かせません。ぜひ、M&A仲介会社などの専門家に相談しながら、サービス付き高齢者向け住宅のM&A成功を目指しましょう。
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