2025年09月18日公開
マレーシアのM&A事情とは?企業買収のメリットや注意点と成功ポイントを解説!
今後の国内市場の縮小へ対応するために、成長が期待できるマレーシアなどの東南アジアへのM&Aによる進出を考える企業が増えてきました。この記事では、マレーシアでのM&Aを成功させるための注意点や成功ポイントなどについて解説します。
1. マレーシア・国の特徴
日本国内では少子化による人口減少が確実な中、今後の経済発展が期待できる東南アジアへの進出を考える企業が増加しています。東南アジアにもいろいろな国がありますが、まだ日本企業の進出が少ない国の一つがマレーシアです。
この記事では、海外へのM&Aによる進出を検討している企業の経営者に向けて、マレーシアという国の特徴や、M&Aを検討するときの注意点などについて開設します。まずは、マレーシアの国の特徴についてみていきましょう。
マレーシアの概要
マレーシアは、東南アジアにあるマレー半島南部とボルネオ島北部からなる国です。かつてはイギリスの植民地だったことから、現在もイギリス連邦の加盟国です。
国境は、陸上でタイ、インドネシア、ブルネイと接しており、海上でシンガポール、フィリピンと接しています。
気候は熱帯気候に属しますが、海に囲まれているためにそれほど高温にはなりません。年間降水量は2,500mmに達するほど雨が多く、1年を通して湿度が高い国です。
政治体制は立憲君主制で、国王は5年の任期です。国王は世襲ではなく、マレーシア国内13州のうち9州の君主による投票によって選ばれる、世界的に珍しい選挙制ですが、実質的には輪番制となっています。
ビジネス環境の特徴
マレーシアのビジネス環境の特徴は、多様性と東南アジアで第2位を誇る経済規模です。
マレーシアは多民族国家で、マレー人が最も多く、次いで中国系の華僑が2割ほど、それからインドからの移民の印僑もいます。また、マレーシアの現地人にはマレー人以外の少数民族もいるので、民族の多様性が特徴的です。
各民族がそれぞれの食習慣や生活習慣を持っており、食事はマレーシア料理、中国料理、インド料理、更には近年は韓国料理や日本料理、それぞれの料理の特徴をミックスしたものなど、近年食の多様性が広がっています。
経済は1人あたりのGDPが約1万ドルで、東南アジアではシンガポールに次ぐ規模を誇ります。シンガポールの経済規模と比較するとまだまだですが、首都のクアラルンプールには近代的な高層ビルが立ち並び、近代化に成功している国の一つです。
近年では、ビジネス環境の整備が進んでおり、投資家保護の整備や、建設許可の取得しやすさなど、海外企業が進出しやすい基盤が築かれつつあります。また、他の東南アジア諸国と比較すると電力需給が安定しており、事業を安定して行いやすい国だといえます。
消費市場の特徴
マレーシアの消費市場は、若年層人口が多い点に挙げられます。国全体の平均年齢が29歳ととても若い国です。ちなみに、少子高齢化が進む日本の平均年齢は48.4歳です。
また、経済的には1人当たりのGDPも増加しつつあります。消費行動が盛んな若年層の収入が増加しつつあるということは、今後の消費の拡大も期待できるので、消費市場としても期待できるのがマレーシアです。
ハラル・マーケットの実例
マレーシアではイスラム教が国教である点も大きな特徴です。イスラム教では、教義で禁忌とされる食材や料理があり、製造過程でも禁忌食材が混入することは許されません。
イスラム教徒が食べてもいい食事は、イスラム教の教義に沿って製造される必要があり、教義に沿って製造された製品やサービスに対して「ハラル認証」が与えられます。
現在、世界的にイスラム教徒が増加しており、ハラル認証を受けた製品の需要が世界的に増加しています。
マレーシアでは、国家戦略としてハラル認証の普及を進めており、イスラム教徒が安心して働けるハラル専用工業団地や、ハラル認証の製品の製造やサービスの提供に対する投資優遇などを行っているところです。
マレーシア政府は中東のイスラム国家向けのハラル製品の輸出も推進していることから、日本企業でもM&Aによるマレーシア進出で、世界のハラル市場へ打って出ることを検討する価値があるでしょう。
近年、マレーシアでは日本食人気が高まっており、マレーシアのスーパーでも日本食材がよくみられるようになってきました。ハラル認証を受けた和牛などが人気です。
親日
マレーシアでは、1981年に当時のマハティール首相が「ルックイースト政策」を掲げました。これは、マレーシアの経済発展を図る上で、西洋諸国に倣うのではなく、日本などの東洋で発展した国を見習うべきだというものです。
このルックイースト政策で、マレーシアでは国費を使って留学生を日本へたくさん送り、日本で勉強した人材が現在のマレーシアの政財界の中心を担っています。
また、日本からもマレーシアへ多額の援助をしたために、親日感情は他の東南アジア諸国と比較しても高いのが特徴です。
2. マレーシアのM&A事情
マレーシアではM&Aがどのように行われているのでしょうか。マレーシアでのM&A事情について詳しくみていきましょう。
マレーシアのM&A
近年、東南アジア諸国でのM&Aは活発化しています。2010年には東南アジア諸国全体で年間50件にいくかどうかという件数でしたが、2015年には100件を超えており、たった5年で倍増しました。
ところが、マレーシアだけでみると、マレーシアでのM&Aの件数は東南アジアでは少ない方です。2010年以降、マレーシアでもM&A件数は増加傾向にありますが、他の東南アジアの国と比較すると件数はあまりありません。
しかし、マレーシア政府としては先進国入りを目標とした政策の実施を進めており、規制緩和などが進んでいます。2015年には新たにASEAN経済共同体が発足して、マレーシアを含めた加盟国の経済発展が期待されます。
日本企業でも、マレーシアでのM&Aを検討する動きが活発化しているようです。
マレーシアのM&A件数推移
マレーシアで実施されているM&Aの件数は、2005年から2009年までが27件、2010年から2014年までが67件、2015年だけでみると11件となっています。
ASEAN諸国でのM&A件数が、2005年から2009年までが158件、2010年から2014年までが411件、2015年だけでみると110件であるので、マレーシアでのM&A件数はかなり少ないことがわかるでしょう。
2015年以降は、日本企業とマレーシア企業とのM&Aは年間20件程度とみられています。日本企業のマレーシアでのM&Aは今後の成長が期待できます。
マレーシアのM&A取引金額推移
日本企業とASEAN諸国全体の企業とのM&Aの取引金額は、2005年から2009年までが136億2,500万円、2010年から2014年までが185億9,800万円とかなりの規模になっています。しかし、2015年には41億2,600万円と落ち込みがみられます。
一方、マレーシアだけでの日本企業とのM&Aの取引金額をみると、2005年から2009年までが30億8,600万円、2010年から2014年までが21億7,900万円、2015年だけでは1億6,100万円と、ASEAN全体での落ち込みと比べるとかなり大きく落ち込んでいます。
マレーシアでは多くの産業が成長途中にあるために、M&Aでも高額な取引になりにくく、比較的安価に取引されていることが背景にあるようです。
2015年のマレーシアM&A低下の背景
取引件数と取引金額のどちらも、マレーシアでのM&Aは2015年に大きな落ち込みがみられます。M&A取引の落ち込みの原因は、2015年にASEAN経済共同体が発足したためであるとみられています。
ASEAN経済共同体の発足により、法規制やビジネス環境の変化などが予想されたために、今後の動向を見極めるために、2015年にはM&Aの実施を見送った企業が多くあった模様です。
マレーシアM&Aの増加傾向理由
2015年にはマレーシアでのM&A件数は大きく落ち込みますが、2016年以降は元に戻り、その後は増加傾向にあります。マレーシアでのM&Aが増加している理由は、マレーシア政府が先進国入りを目指して、積極的な経済政策を行っているためです。
マレーシアでは1991年に「ワワサン(ビジョン)2020」という長期開発計画を掲げていました。これは、年率7%の経済成長により、2020年にはマレーシアを先進国入りさせるというビジョンです。
マレーシア政府では、2020年の先進国入りに向けて、産業の工業化、IT先進国入りを目指した政策の推進、天然資源の開発、リゾート開発などに力を入れています。さらに、公共交通網や生活インフラの整備なども進めています。
経済を活発化させるための投資を呼び込むために、マレーシアでは新規参入企業は外資100%でも参入可能です。
地理的にみると、マレーシアはASEANの中心に位置しており、東南アジアでの貿易を検討している企業には、M&Aによるマレーシア進出は重要課題として検討されています。
マレーシアと日本のM&A
マレーシアは隣国のシンガポールと比較すると、日本企業がM&Aで進出を図る例が極端に少ないのですが、近年増加傾向にあります。
マレーシアはワワサン2020での経済成長の見本を日本に定めています。また、国民の対日感情も他の東南アジア諸国と比較しても、日本とは良い関係を築くことができている国です。
マレーシアでは、日本企業を含む外国企業の投資を望んでおり、日本企業が望めばM&Aでの進出が比較的しやすい国といえます。しかし、安定しない政治体制や、他のASEAN諸国と比べると高めの人件費をリスクと捉える企業も多いのも現状です。
3. マレーシアのM&A・伸び悩んでいた背景
他のASEAN諸国と比較すると、マレーシアでM&Aが実施される件数が伸び悩んでいたのはどうしてなのでしょうか。マレーシアでのM&Aが遅れている背景をみてみましょう。
ブミプトラ政策
マレーシアでM&Aが実施されにくかった最も大きな原因は、1971年にマレー政府が始めたブミプトラ政策にあります。
ブミプトラとは、マレー語で「土地の子」「現地の子」を意味する言葉で、マレーシアの現地人であるマレー人や山地やボルネオ島の少数民族のことを指します。ブミプトラ政策とは、マレーシア国内で現地人を経済的に優遇するための政策です。
多民族国家のマレーシアには、マレー人の他に、中国からの移民である華僑と、インドからの移民である印僑も多く、特に経済的に豊かな華僑とマレー人との経済格差が大きな問題になっていました。
そこで、マレー人などの現地人に対して、会社設立の際の優遇措置や減税政策、公務員採用の際の優遇、国立大学への優先的な入学などが行われてます。
ブミプトラ政策によって、特にマレー人の富裕層は経済的に豊かになりましたが、マレーシア全体でみると経済発展は他のASEAN諸国と比較すると遅れ気味になったことは否めません。
また、このような民族差別的な政策が実行されている国に対して、海外から積極的に投資しようという企業も少なかったことが、マレーシアでのM&Aが今まで少なかった理由です。
ブミプトラ政策は、華僑や印僑からの反発や、イギリスやアメリカなどの外国からの批判もあり、徐々に緩和されつつあります。しかし、2024年現在も完全に撤廃されたわけではないので、今後も中止する必要があります。
M&Aを実施しにくいビジネス環境
ブミプトラ政策以外にも、マレーシアの経済状況やビジネス環境が、海外企業からのM&Aによる進出を妨げてきた面もあります。
海外企業が比較的進出しやすいサービス業や物流業界への外国資本の参入禁止、金融分野ではマレーシア中央銀行の事前承認が必要といった規制が多く、M&Aがしにくいという背景がありました。
このような理由により、今までマレーシアで日本企業がM&Aを行うことが少なかったのです。
4. マレーシアでのM&Aのメリット
上記のような理由で、日本企業がM&Aによってマレーシアへ進出することは難しかったのですが、近年はマレーシアへの進出を検討する企業が増加しています。マレーシアでのM&Aにはどのようなメリットがあるのでしょうか。
経済発展中の市場への進出
ブミプトラ政策や、厳しい外資規制によって、日本企業のM&Aでのマレーシア進出は以前は難しかったのですが、近年は外国資本の受け入れ態勢がかなり整備されてきて、M&Aをしやすい環境が整いつつあります。
マレーシアは、平均年齢が29歳と比較的若い国です。さらに、経済成長が続いており、今後、購買意欲が高い若者によって経済が牽引されていくので、市場拡大や事業拡大も期待できます。
地理的にも東南アジアの中央に位置する国なので、他の国へのアクセスもよく、物流などの拠点として考えても、マレーシアへのM&Aでの進出には大きなメリットがあると考えていいでしょう。
安い労働力
マレーシアでは、近隣のタイや中国と比較すると労働者の賃金が高めだといわれていますが、正規雇用者の月額賃金の平均は10万円に届きません。マレーシアの正規雇用者の月額平均賃金は約8万6,000円です。
日本と比較すると、正規雇用での労働力をかなり安く使うことができます。また、マレーシアでは公用語はマレー語ですが、華僑は中国語など他の言語を使う人も多いことから、共通語として英語も多くの人が使っています。
英語のレベルは世界的にみても比較的高く、中国語を使う人もいるので、英語や中国語が堪能な人が必要な企業にも、人件費を抑えることができるマレーシアへの進出はメリットが大きいでしょう。
5. マレーシアのM&A・成功のための注意点
日本企業がマレーシアでのM&Aを成功させるためには、いくつか注意点があるのでみていきましょう。
M&A目的の明瞭化
マレーシアでのM&Aは近年増加してきたとはいえ、隣国のシンガポールと比較するとまだまだ件数が少なく、懸念される点も多くあります。
マレーシアでのM&Aを検討するのであれば、特に、M&Aを行う目的の明瞭化が大切です。M&Aでは、シナジー効果を最大限に発揮するためにも、最初の目的の明瞭化が大切なのは、国内企業同士の場合でも同じです。
しかし、マレーシアでM&Aを行う場合には、どうしてシンガポールや中国ではなくマレーシアなのか、そこを突き詰めておくように注意しましょう。
また、M&Aでなければいけないのか、現地法人の設立だけでもいいのではないか、そのような点もよく検討することをおすすめします。
対象企業の具体化
マレーシアの企業を買収しようとするときには、対象となる企業を具体化して、徹底的に事前調査を行いましょう。
買収しようとする企業の業務内容、強み、事業を展開している地域の特性などをよく調べた上で、どのような条件であれば買収に応じてもらえるのか、事前に戦略を練っておくことが大切です。
マレーシアでは、近年外資規制がゆるくなってきたことから、買収を希望していた企業が、すでに他の海外企業の子会社になっているような例もあるようです。事前の調査をしっかりと行うように注意しましょう。
現地情報の取得
マレーシアに限らず、企業が海外への進出を図るときには、現地情報を的確に取得して、事前に現地で対応する担当者によく理解させておくように注意しましょう。
国が変われば、法律も、文化も、国民性も、政治体制も全く異なります。企業がビジネスを行う上では、現地の法律や税務に精通していなければ、ビジネス自体を続けることが難しくなるでしょう。
また、現地の人を雇用して事業を行うのであれば、その国民性や民族性への理解も欠かせません。規律を守り生真面目に働く日本人とは違い、マレーシアの人は大雑把でおおらかな人が多く、多少のミスにも寛容です。
そのような点もよく理解した上で、現地でのビジネスを展開するようにしましょう。
現地事情に長けたM&Aアドバイザーを選ぶ
さまざまな面で日本のビジネス環境や、M&A事業に違いのあるマレーシアでのM&Aでは、現地の事情に長けたアドバイザーが欠かせません。
M&Aを行うためには、M&Aについての法律や財務についての専門性が高い専門家のサポートが必要ですが、マレーシアでのM&Aには、マレーシアの法律や財務、文化、国民性なども理解している専門家が必要です。
社内の関係者だけでM&Aを進めようとはせずに、必ず、マレーシアでのM&A事情に詳しいアドバイザーのサポートを受けるように注意しましょう。
M&Aのご相談はお気軽にM&A総合研究所までお問い合わせください
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6. マレーシアのM&A事例
日本企業が実施したマレーシアでのM&A事例を紹介します。
インターネットイニシアティブとマレーシア企業のM&A事例
2023年12月1日に、株式会社インターネットイニシアティブから、PTC SYSTEMS SDN.BHD.(以下、PTCマレーシア)の全株式を取得して完全子会社にしたことが発表されました。
インターネットイニシアティブは、東京都千代田区に本社のある、主に官公庁や法人向けのインターネットサービスプロバイダーで、インターネット接続、システム・インテグレーションなどの事業を行う会社です。
PTCマレーシアは、シンガポールのPTC SYSTEM(S) PTE.LTD.の創業者が創立した会社で、マレーシアでのストレージサーバー関連のシステム構築などの品質の高いソリューションを、グローバル企業や地場企業に提供しています。
インターネットイニシアティブでは、欧米やアジアで海外拠点を拡充しており、国際事業展開を進めています。
同社としては、PTCマレーシアを子会社化することで、現地ビジネスやグローバルビジネスの経験豊かな人材の獲得や、現地の顧客や営業拠点の確保ができるため、同社グループのさらなるグローバル化に資するM&Aであるとのことです。
参考:PTC SYSTEMS SDN.BHD.の株式取得(子会社化)のお知らせ
7. マレーシアのM&Aまとめ
親日感情が強く、今後の経済成長も期待できるマレーシアには、M&Aでの進出によるビジネスチャンスが広がりそうです。しかし、今までに実例が少ないことから、まずはマレーシアでのM&Aの可能性から調査する必要があるでしょう。
マレーシアでのM&Aを検討しているのなら、まずは、マレーシアのM&A事情に精通した専門家への相談から始めることをおすすめします。
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