2024年02月03日更新
地盤調査・地盤改良業界のM&A動向!売却・買収事例5選と成功のポイントを解説!【2024年最新】
地盤調査・地盤改良業界は近年M&Aが増えています。移動世帯の減少や築年数の伸長で、新築住宅の着工戸数が減り続けており、市場環境が大きく変化しています。今回は、地盤調査・地盤改良業界のM&A動向や事例、M&A成功のポイントを解説します。
目次
1. 地盤調査・地盤改良業界の概要と動向
まずはじめに地盤調査・地盤改良業界の概要と動向について確認していきます。
地盤調査・地盤改良業界とは
地盤調査とは、建設事業などに関して、地質構造、基礎地盤、土あるいは岩の工学的性質などについて、機械や器具を使って調査・計測を行います。その結果を解析および判定して設計や施工、管理などのための資料の提供を行うとともに必要な所見を伝えます。
地盤改良業界とは建物や構造物などを支えきれない地盤へ補強を施す作業を行う業界です。住宅はもちろん、ビルや工場などの大型の建築物、トンネル、橋脚、空港などの土木構造物でも行われています。
地盤調査・地盤改良業界の市場規模と動向
基礎・地盤改良工事の現在の需要ですが、新築工事から維持修繕工事の割合が大幅に増加しています。新築工事と関連が高い基礎・改良工事ですので、新築工事が減少するのは大きな影響があるでしょう。
また、こちらも関連性の高い新設住宅の着工戸数を見てみます。消費税が上がる前の駆け込み需要や大規模災害からの復興需要などの例外の時期もあるものの。基本的には右肩下がりの減少傾向が顕著です。今後もこの減少は続くと考えられます。背景には移動世帯が減るとともに建物の平均築年数の伸長が挙げられます。
新設住宅着工戸数の推移
年度 | 着工戸数(千戸) |
2002 | 1146 |
2003 | 1174 |
2004 | 1193 |
2005 | 1249 |
2006 | 1285 |
2007 | 1036 |
2008 | 1039 |
2009 | 775 |
2010 | 819 |
2011 | 841 |
2012 | 893 |
2013 | 987 |
2014 | 880 |
2015 | 921 |
2016 | 974 |
2017 | 946 |
2018 | 953 |
2019 | 884 |
2020 | 812 |
2021 | 866 |
日本経済新聞社によると戸建て住宅の地盤改良工事の市場規模は1,200億円程度です。
2. 地盤調査・地盤改良業界のM&A動向
地盤改良業界でのM&Aは年々増加しています。下記は業界の公開ベースのM&A件数の移り変わりを表にしたものです。この数は公表されている案件のみなので一見すると数は少ないですが、件数は堅調に増えています。
年度 | 件数 |
2015 | 1 |
2016 | 1 |
2017 | 0 |
2018 | 3 |
2019 | 2 |
2020 | 5 |
2021 | 3 |
2022 | 4 |
3. 地盤調査・地盤改良会社をM&Aするメリット
地盤調査・地盤改良会社のM&Aに関するメリットを売却側・買収側それぞれの立場から解説します。
売却側のメリット3選
地盤調査・地盤改良会社がM&Aを行うと売却側は以下のメリットが期待できます。
1.買い手企業の経営資産を活かし事業の成長・発展を目指せる
M&Aにより会社を売却すると、買収側が保有するノウハウや営業リソースを活用した売上上昇や、スケールメリットを生かしたコストダウンなど、買収側との間で相乗効果が期待できます。そのため、事業の更なる成長や発展の実現が可能です。
また、自社よりも大きく、堅実な会社の傘下に入り、買収側企業が持つ資本やインフラを使える場合もあります。その場合は、円滑な資金調達や生産体制の強化、販路の拡大などの買収側が持つ強みを活用しつつ、市場競争に勝ち残れるようになります。
2.後継者不在でも廃業せずに社員の雇用を守れる
中小企業において大きなメリットと言えるのが、事業承継の実現です。実際に後継者不足を理由として黒字であるにもかかわらず、事業承継を行えずに廃業するケースも少なくありません。
しかし、M&Aを行えば、親族や社内に後継者がいない場合でも事業承継を行えます。廃業しなくても済むので、従業員の雇用を守れます。同時に取引先との関係も維持可能です。廃業コストもかかりません。
譲渡収入とともに連帯保証を解消し経営から退ける
中小企業では経営者や親族が、金融機関借入の連帯保証人になっていたり、個人資産を担保に入れていたりします。
M&Aが成立し経営権が買い手側に移り後継者問題が解決すると、それらの連帯保証や担保提供は解除されるのが一般的です。
また、経営者は年齢を重ねると、事業の承継や自身の健康不安がプレッシャーになっているケースが多くあります。M&Aが成立すればそれらの重責から解放され、譲渡収入とともに経営から退くことができます。
買収側のメリット3選
買収側のさまざまなメリットを見てきましたが、ここからは買収側のメリットを見ていきましょう。
1.事業規模を拡大
M&Aでは、譲渡側企業が保有している「事業用資産」や「不動産」などの有形資産を取り込むことができます。さらに「技術」「事業ノウハウ」「既存の取引先」などを始めとする無形資産も吸収できます。そのため、買収側企業はその分自社の事業規模を拡大できます。
一般的に、取引量が増えてくれば、固有の取引先に関する交渉力が強まり、「仕入れコストの値下げ」や「設備の稼働率の上昇」、「知名度およびブランド力の向上」が望めます。M&Aで売却側の顧客層を取り込めれば、自社のビジネスを一気に加速可能です。
2.新規事業の立ち上げや参入に要する時間を削減できる
買収側がM&Aを行う最大のメリットといえるのが、新規事業の立ち上げや成長にかかる時間を削減できる点です。
たとえば、すでに事業として成り立っている地盤調査・地盤改良をさらに拡大したいと考えた場合でも、人員の確保や機器の購入、市場調査など多くの時間がかかります。さらに新規に参入するとなると、顧客の確保や認知力の形成なども必要になるので、さらに多くの時間がかかります。
そこでM&Aを行えば、売却側企業が保有する人員や設備機器、ブランド力などの経営資源を得られます。必要なリソースが揃った状態で事業を始められるので、事業の立ち上げや参入に要する時間が削減できます。
3.競合企業を自社に取り込める
市場における需要が最高潮に達して「成熟期」に入ると、市場の成長はそれ以上見込めず、競合企業同士のシェアの奪い合いが盛んになります。
しかし、この状態を続けると、多くの顧客を獲得するために価格競争なども発生するので、市場全体が疲弊してしまうリスクがあります。そのため、M&Aを行いライバル企業を取り込めば、価格競争から抜け出せるので、業界内の持続性も保てるのです。
4. 地盤調査・地盤改良会社のM&A・買収・売却事例5選
ここからは、地盤調査・地盤改良会社のM&A・買収・売却事例を5例ご紹介します。
ライト工業がFecon Underground Construction Joint Stock CompanyをM&Aした事例
2023年1月19日、ライト工業株式会社は、持分法適用関連会社のFecon Underground Construction Joint Stock Company(以下FCU社)による第三者割当増資を引き受け、同社を連結子会社化しました。
FCU社とライト工業の連結子会社であるRaito-Fecon Innovative Geotechnical Engineering Joint Stock Company(以下RFI社)の経営統合に伴い実施されました。
ライト工業は、法面保護工事や斜面安定・防災工事、地盤改良工事などを行う企業です。一方のFCU社はライト工業が36%出資する地下関連工事会社です。深層混合処理をはじめとする地盤改良工事やトンネル・シールド工事などを行っています。
今回のM&Aにより、FCU社とRFI社の組織体制を一本化し、ベトナムでの地盤改良分野の事業拡大につなげます。
なお、RFI社は2年以内にFCUが吸収合併する予定です。
参考:Fecon Underground Construction Joint Stock Companyを子会社化
応用地質がGeosmart International Pte. Ltd.をM&Aした事例
2022年10月、応用地質株式会社はシンガポールのGeosmart International Pte. Ltd.の株式を取得し、連結子会社化しました。議決権所有割合は60%となります。
応用地質は、建設コンサルタント業、地質調査業などをメイン事業に、インフラ・メンテナンス、防災、環境、エネルギーなどの各分野に事業を展開しています。
一方のGeosmartは、インフラモニタリングおよびモニタリング機器設置、地盤調査。地盤改良、井戸の腹水処理などのシンガポールの公共事業をメインに据えサービスを提供しています。
今回のM&Aにより、応用地質は、設計や施工管理、インフラ点検を行っているシンガポールの子会社との連携を進め、建設市場でのワンストップサービスの提供を目指します。
参考:Geosmart International Pte. Ltd.を子会社化
テノックスが広島組と亀竹産業をM&Aした事例
2020年10月30日、株式会社テノックスは、株式会社広島組および同社の子会社亀竹産業の発行済株式の全株式を取得し、完全子会社化しました。
デノックスは、コンクリートパイルや、鋼管パイルの販売およびその杭打ち工事や地盤改良工事を請け負っています。
一方の広島組は、杭工事や地盤改良工事・土留工事を主な事業としています。また、その子会社の亀竹産業は、土木建築用機械および工具の販売、修理、リースが主な事業です。
今回のM&Aにより、テノックスはグループで関西地区での施工体制や営業力の強化に努め事業の発展拡大を目指します。
参考:広島組と亀竹産業を子会社化
不動テトラが愛知ベース工業グループをM&Aした事例
2020年10月1日、株式会社不動テトラは、愛知ベース工業を中核とする愛知ベース工業グループ3社の全株式を取得し子会社化しました。3社は愛知ベース工業の株式の保有と管理をしている株式会社ABホールディングス、地盤調査や環境調査を行っている株式会社BASE・ECO、土質試験を行っている日本土質試験センターです。
また、愛知ベースは、地盤改良工事、地盤調査などの事業を行っています。一方の不動テトラは土木事業、地盤事業、ブロック事業が主な事業です。
今回のM&Aにより不動テトラとしては、愛知ベース工業グループを迎え、技術力や資金面でサポートし中小規模の建築構造物基礎の地盤改良工事への参入を加速させます。その結果グループとして戸建住宅基礎から大規模土木・建築構造物の基礎までさまざまな地盤改良工事の施工が可能になります。
参考:愛知ベース工業グループを子会社化
日本乾溜工業がニチボーをM&Aした事例
2020年8月31日、日本乾溜工業株式会社は株式会社ニチボーの発行済全株式を取得し子会社化しました。ニチボーは地盤改良や地滑り対策、法面保護などの土木工事を手掛けています。一方の日本乾溜工業は、建設事業や防災安全事業、化学品事業が主な事業です。
今回のM&Aで、日本乾溜工業はグループの主力事業である建設、その中でも法面工事において、九州一円のネットワークがあるグループの営業力と2社の技術力が合わさり、受注機会の拡大や更なるシナジー効果を目指します。
参考:ニチボーを子会社化
5. 地盤調査・地盤改良業界のM&Aの成功のポイント
ここからは、地盤調査・地盤改良業界のM&Aを成功させる4つのポイントをご紹介します。
シナジー効果のある売却先を探す
M&Aでのシナジー効果とは、2つ以上の企業が1つに統合されたときに、従来通り別々に事業を続ける場合の合計よりも大きな結果を得られることです。
自社の事業と大きな効果を期待できる買収側であれば、期待できない相手よりも事業の高い評価を期待できます。そのため、高額で売却したいのであれば、なるべく大きなシナジー効果を期待できる買収先探しに注力しましょう。
買収側企業にシナジー効果を認識してもらうには、客観的なデータや事業計画の準備が必要です。
自社の強みを分析・アピールする
高い金額で自社を売却するには、「強みを明確化」し、「買い手への的確なアピール」が大切です。
どんなにすぐれた技術や顧客などの経営資源を持っていても、それを自社が認識できていなかったり、買い手に価値が認めてもらえないと、満足できるM&Aを行いにくいです。
純資産や収益性などの企業価値はもちろん大切ですが、それだけが会社や事業の売却価格を決める基準ではありません。最終的には買収側と売却側の交渉によってM&Aの価格が決まります。
具体的には、優秀な人材や特定の地域における知名度やブランド力、安定的な受注実績などが高く評価される要素です。
進行中の案件を売却先と協議する
長期の案件を抱えている場合は、工事が進行中の状態でM&Aを実施するケースがあります。その際は、現在進行中の案件をどうするかを買収側と協議する必要があります。基本的には買収先に案件を引き継いでもらうのか、他の建設会社に依頼するのかの二択です。
買収先若しくは他の建設会社に案件を引き渡す場合は、後々トラブルが発生することのないように、工事費用の負担割合を明確にしておく必要があります。
なお、他の建設会社に案件を引き渡す場合は、発注元の会社にも承諾してもらわなければなりません。
専門家に相談する
M&Aの専門家は売却手続きのサポートはもちろん、M&Aを進める上での経営者の不安や焦りを受け止めながら、正しい方向に進めてくれる役割も持っています。また、地盤調査・地盤改良業界のM&Aには、業界特有の知識が必要です。さらに、買収先を探すにあたり業界に対する幅広いネットワークが求められます。
したがって、満足のいくM&Aを達成するには、M&Aの実績や知識・高い交渉力を持つ専門家のサポートが不可欠です。
M&Aのご相談はお気軽にM&A総合研究所までお問い合わせください
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6. 地盤調査・地盤改良業界のM&A・事業譲渡まとめ
事業承継や人材確保などの目的をスピーディに行えるM&A・事業譲渡は、厳しい経営環境が続く地盤調査・地盤改良業界にて非常に有効です。
近年では大手企業が、新規事業や他地域への進出を目的としたM&Aも増えています。そのため、優れた人材や作業実績などがあれば、満足できる条件で売却できる可能性があります。
M&Aはメリットやデメリットを慎重に検討し、最終的に売却側、買収側双方にメリットが大きい取引内容を目指すのが重要です。
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