2022年12月11日更新
株式移転の仕訳・会計処理を徹底解説!
株式移転では、完全親会社と完全子会社と呼ばれる共通支配下関係が成立します。本記事では、株式移転における仕訳・会計処理に着目しました。税務、資本余剰金などのポイントも交えて、株式移転で生じる仕訳・会計処理を解説します。
1. 株式移転とは
株式移転とは、持株会社を設立する目的で実施される組織再編手法です。
株主移転では、1社または複数の会社の発行済株式を、新設した株式会社にすべて取得させます。このときに既存会社数で呼称が分類され、既存会社1社の場合は単独株式移転、既存会社が複数の場合は共同株式移転です(上図参照)。
共同株式移転の場合、子会社となった両社間に上下関係はなく、親会社(持株会社)である新設会社のもと、円滑な経営を行えます。
株式移転の後には、新設された親会社と既存の子会社の仕訳や、資本余剰金などの処理を行わなければなりません。資本金に関しては、株式移転計画書にて「資本金」と「資本余剰金」の配分が事前に取り決めます。
株式移転が認められるには、株式移転計画を作成し、株主総会で承認されるなど、いくつかの要件を満たすことが必要です。
株式移転の手法
株式移転と混同しやすい手法に株式交換がありますが、この2つはまったく異なる手法であるため、違いを把握しておきましょう。
株式交換では既存会社が完全親会社になりますが、株式移転では新規設立した株式会社だけが完全親会社になる点が異なります。
株式移転に多い事例としては、経営者が引退する際などに行われる経営統合です。これは複数の後継者がいる場合などに、そのうちの1人にのみ重責を負わせることを避け、それぞれは各子会社の事業に責任を持ちつつ、グループ全体を統合する持株会社にて共同経営するスタイルを取ります。
そのほかの代表的な手法は、ホールディングス化を目的とした緩やかな統合です。例えば、新たにC社を設立し、既存のA社とB社が保有する全株をC社が取得する場合、A社とB社は新設されたC社の子会社としてグループ会社化されます。
完全親会社と完全子会社
株式移転で、既存会社の持株すべてを取得するために新設された会社の呼称が完全親会社です。このときに資本余剰金が発生する場合がありますが、詳細は後述します。
完全親会社に全株式を取得させた既存会社は、完全子会社と呼ばれます。
新設会社と共通支配下の取引
株式移転に伴い、新設会社は新株発行によって資本金や資本余剰金を増やし、子会社から取得した株式の仕訳・会計処理をしなければなりません。
新設したC社が既存のA社とB社の持ち株を全て取得すると、C社がA社とB社の唯一の株主です。
既存のA社とB社が新設のC社によって支配される状態を「共通支配下」と呼び、その状態のときにA社とB社間で行われる取引のことを共通支配下の取引と呼びます。
共通支配下とは、一時的な経営支配ではなく継続される支配関係であることが条件です。
2. 株式移転の際の取得企業の判定
株式移転に伴う仕訳・会計処理を考える際は、まず「取得企業」と「非取得企業」の判定を行う必要があります。
M&Aにおける一般的な会計処理の定義では、対価の支払い時に現金を出した側が「取得企業」です。
しかし、現金ではなく株式で対価を支払った株式移転の場合、6つの観点から多角的に取得企業となる企業を検討する必要があります。
①株主比率の大きい方はどちらか
持株比率とは、株式の出資割合を示す経営指標のことです。
(例)C社の筆頭株主は、旧A社個人オーナーで、議決権の38%を保有しています。 |
この条件で株主比率の大きい方はどちらかというと、議決権を多く保有しているA社と判断できます。
②最も大きい議決権比率を持った株主はどちらか
議決権比率が高いと、会社経営に強い影響力を持ちます。
(例)C社の議決権比率が、旧A社株主46%と旧B社54%でした。 |
この条件で議決権比率を持った株主はどちらかというと、B社と判断できます。
③取締役会の過半数の人事権はどちらにあるか
取締役会の過半数の人事権を確保していると、会社経営において実権を持ちます。
(例)C社の取締役会における人事権を、A社とB社で同数付与しました。 |
この条件で取締役会の過半数の人事権は、B社と判断できます。
④取締役会の構成比率の多い方はどちらか
株式会社は、取締役会が業務意思決定機関として位置づけられます。取締役会の構成比率が高いほど、経営権を得たことになる仕組みです。
(例)C社の取締役会構成比率は、A社出身者が2名、B社出身者が3名と合意されました。 |
この条件で取締役会の構成比率の多い方はどちらかというと、B社と判断できます。
⑤対価の支払いにてプレミアムを支払った側はどちらか
対価の支払い時に多く対価を支払うことを、プレミアムを支払うと呼びます。
(例)移転比率の設定時に、プレミアムをB社側が支払ったとします。 |
この条件で対価の支払いにてプレミアムを支払った側はどちらかというと、B社と判断できます。
⑥売上高・純資産・純利益の大きい方はどちらか
(例)売上高はB社が大きいが、純利益はA社がより規模が大きく、資産規模に差はありません。 |
この条件では、売上高・純資産・純利益の大きい方は、どちらとも判断できません。
3. 株式移転の仕訳・会計処理
株式移転完全親会社とは、株主となるために株式移転で設立された株式会社をさします。一方で、株式移転によって全ての株式を親会社に取得させ、完全子会社化した既存の株式会社は、株式移転完全子会社です。
そして、その際の税務処理では、以下の仕訳ルールがあります。
- 適格要件を満たす場合は非課税となる
- 非適格の場合は課税対象となることがある
株式移転完全親会社と株式移転完全子会社では、適切な仕訳・会計処理の流れが異なります。
仕訳・会計処理の対象が、株式移転親会社か株式移転子会社なのかにより算定方法が変わり、適切に処理しなければなりません。
この章では、株式移転に伴う親会社と子会社の仕訳・会計処理の違いと、共通支配下の取引に適した仕訳・会計処理の方法を解説します。
株式移転完全親会社の仕訳・会計処理
株式移転完全親会社の株式評価額と資本金は、子会社の金額をもとに仕訳を行います。
親会社の資本金と資本余剰金の配分は、株式移転計画書で取り決めた金額で調整するものです。株式移転完全親会社が非課税となるのは、適格要件に該当する場合になります。
仕訳・会計処理で、非適格要件の場合は課税対象となることがありますが、一般的に新しく設立された親会社が課税対象となるケースはまれです。
株式移転完全子会社の仕訳・会計処理
株式移転完全子会社が保有していた資産を基準に、株式移転完全子会社の評価額に関して仕訳を行います。
親会社と同様に完全子会社の課税判断は、株式移転における適格要件の該当判断次第です。
仮に完全子会社の株式移転が非適格と判断された場合、時価評価によって処理されます。その際に発生した損益に対しては課税され、仕訳・会計処理されます。
移転前に発生した繰越欠損金などの負債調整は、株式移転に伴う子会社の要件が適格・非適格を問わず、計上することは認められていません。
子会社では、株式移転計画書に取り決めた資本金・資本余剰金にて仕訳します。
株式移転による新設会社の仕訳・会計処理
株式移転に伴い、新設会社は資本金・資本余剰金を増やすために新株を発行します。その後、子会社の株式を全て取得する仕訳・会計処理を行うことで、新設会社の資本余剰金を確保する仕組みです。
資本余剰金とは、会社の事業活動により生まれた利益とは異なり、新株発行などによって発生した余剰金をさします。
資本余剰金となる主な事例は、以下のとおりです。
- 資本金に組み入れなかった株主からの出資金
- 自己株式を譲渡した場合の差額損益
- 組織再編による増加資本で、資本金や資本準備金に組み入れなかった金額
取得企業の株式評価は、取得前日の取得企業の株主資本と適性簿価により判断され、仕訳・会計処理を行います。
被取得企業の株主が保有する議決権比率と同じ比率を、被取得企業の株式が新設会社に対し交付したと「みなし算定」にて仕訳を行う決まりです。
共通支配下の取引の仕訳・会計処理
同じ親会社に所属する子会社同士の取引など、トップの株主が共通する会社同士の取引のことを共通支配下の取引と呼びます。
共通支配下の取引にある元親会社株式を取得したケースでは、株式資本の適正な簿価で仕訳・会計処理をしなければなりません。
共通支配化の取引で元子会社株式を取得した場合、2つの仕訳パターンがあります。
- 100%子会社の場合
- 100%子会社ではない場合
100%子会社の場合は、元親会社株式と同様に、株式資本の適正な簿価で対応します。
100%子会社ではない場合の元親会社の保有分計算は、株式資本の適正な簿価に元親会社が保有比率を乗じた金額で計上するのが規定です。
他の株主が保有する分は、被取得企業株式と同様の仕訳・会計処理を行います。
4. 株式移転の税務処理
株式移転の会計・税務処理は、株式移転における適格要件の該当判断によって決まります。
もしも完全子会社の株式移転が非適格と判断された場合、子会社の特定資産は時価評価をもとに仕訳され、その際に発生した損益に対しては、課税措置として仕訳・会計処理されるルールです。
この章では、株式移転を行った際の具体的な会計・税務処理を解説します。
株式移転完全親会社の税務処理
株式移転完全親会社の会計・税務処理は、適格要件に該当すれば非課税とされます。資本金と資本余剰金の配分は、株式移転計画書で取り決めた金額での対応です。
課税対象となる事例として親会社が非適格要件と判断された場合がありますが、一般的に新しく設立された親会社が課税対象となるケースはまれです。
株式移転完全子会社の税務処理
完全子会社の課税判断は、株式移転における適格要件の該当判断によって決まります。適格株式移転の場合、株式移転完全子会社では処理の必要はありません。
ただし、完全子会社の株式移転が非適格と判断された場合、子会社の特定資産は時価評価で処理されます。その際に発生した損益に対しては、課税対象です。
子会社の資本金・資本余剰金は、親会社と事前に取り決めた金額で処理します。
株式移転による新設会社の税務処理
株式移転における完全親会社は新たに設立されるため、取得会社と判断されません。これは通常のM&Aや株式交換とは異なる点です。
株式移転により子会社化した企業が複数ある場合、その子会社の中から取得会社となる子会社を選定する必要があります。
完全子会社の株式取得原価は、直前の決算時の価額による仕訳です。ただし、以下の金額に重大な差分がないことを条件としています。
- 株式移転前日の帳簿価額
- 直前決算時の帳簿価額
被取得会社と判断された完全子会社の株式取得原価は、取得対価としての費用を加算して計上しなければなりません。
株式移転の場合は、子会社によって新設される親会社へ取得株式を交付した形とされます。
共通支配下の取引の税務処理
共通支配下の取引とは、同じトップ株主のもとに子会社が支配されている状態での取引のことです。
なお、株式譲渡などによって新たな企業を子会社化した場合は、共通支配下ではなく「取得」と判断され、区別されます。ここで重要な点は、株式移転を行う前後で支配関係があるかどうかです。
共通支配下の取引に起こり得る税務処理は、以下のとおりです。
- 財務諸表は移転前の簿価で処理する
- 連結時に内部取引として消去する
- グループ間同士の資産・負債の移動は「みなし会計」で処理する
トップ株主にあたる元親会社の株式取得に伴う仕訳・会計処理は、株式移転における適格要件の該当判断によって決まります。
適格株式移転の場合、株式移転完全子会社では会計処理を行う必要はありません。共通支配下の取引にある100%元子会社の株式取得に伴う会計処理は、元親会社の株式取得と同じように、株式資本の適正な簿価によって処理されます。
100%子会社ではない株式取得に伴う会計処理は、株式資本の適正な簿価に基づいて、元親会社の保有比率に乗じた金額で計上する決まりです。
共通支配下の取引で現金を対価として支払っても、仕訳・会計の処理は時価ではなく、簿価で計上します。
5. 株式移転の仕訳・会計処理のご相談はM&A総合研究所へ
株式移転の判断基準は煩雑なため、その仕訳・会計方法を適切に判断するのは非常に困難です。
企業価値から株価の算出や、株式移転後によって起こり得る損益リスクや余剰資金の計上なども念頭に置く必要があります。
株式移転を実施する際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所は中小企業のM&Aに数多く携わっており、株式移転やM&Aの税務に精通したM&Aアドバイザーが一貫サポートいたします。
当社は、完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)を採用しております。随時、無料相談を受けつけておりますので、株式移転をご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。
6. 株式移転の仕訳・会計処理まとめ
株式移転とは、持株会社を設立する目的で実施される組織再編手法です。株式移転に伴う仕訳・会計処理は、以下の観点で判断します。
- 株式移転の会計処理 → 対象が株式移転親会社か株式移転子会社なのか
- 株式移転の税務処理 → 株式移転における適格要件の該当判断
【株式移転完全親会社】
会計処理 | 子会社の金額をもとに計上 |
税務処理 | 適格要件に該当すれば非課税 |
【株式移転完全子会社】
会計処理 | 株式移転完全子会社の評価額を計上 |
税務処理 | 適格要件に該当すれば不要 |
【株式移転による新設会社】
会計処理 | 新設会社が子会社の株式を全て取得 |
税務処理 | 取得した子会社の株式を計上 |
【共通支配下の取引(100%子会社の場合)】
会計処理 | 株式資本の適正な簿価で計上 |
税務処理 | 株式資本の適正な簿価によって処理 |
【共通支配下の取引(100%子会社ではない場合)】
会計処理 | 元親会社が保有比率を乗じた金額で計上 |
税務処理 | 元親会社の保有比率に乗じた金額で処理 |
特に忘れがちなのが、子会社となる企業の経営状況によって適応される株式移転後の仕訳・会計処理が複雑化する場合の対策準備です。
株式移転に伴う仕訳・会計処理は、多角的な判断が必要となるので、専門家のサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。
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