株式移転と株式交換の違いとは?仕訳・会計処理から税務までわかりやすく解説

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

株式移転や株式交換は、組織再編で活用される手法です。本記事では、両者の違いから、株式移転における仕訳・会計処理、税務上の注意点までをわかりやすく解説します。

目次

  1. 株式移転とは?株式交換との違いも解説
  2. 株式移転における「取得企業」の判定方法
  3. 株式移転の会計処理で重要な「適格要件」とは
  4. 株式移転の仕訳・会計処理
  5. 株式移転における税務処理の重要ポイント
  6. 株式移転の仕訳・会計処理のご相談はM&A総合研究所へ
  7. 株式移転の仕訳・会計処理まとめ
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1. 株式移転とは?株式交換との違いも解説

株式移転とは
株式移転とは

株式移転とは、持株会社を設立する目的で実施される組織再編手法です。

株主移転では、1社または複数の会社の発行済株式を、新設した株式会社にすべて取得させます。このときに既存会社数で呼称が分類され、既存会社1社の場合は単独株式移転、既存会社が複数の場合は共同株式移転です(上図参照)。

共同株式移転の場合、子会社となった両社間に上下関係はなく、親会社(持株会社)である新設会社のもと、円滑な経営を行えます。

株式移転の後には、新設された親会社と既存の子会社の仕訳や、資本余剰金などの処理を行わなければなりません。資本金に関しては、株式移転計画書にて「資本金」と「資本余剰金」の配分が事前に取り決めます。

株式移転が認められるには、株式移転計画を作成し、株主総会で承認されるなど、いくつかの要件を満たすことが必要です。

株式移転の手法

株式移転と混同されやすい手法に株式交換があります。どちらも完全親子会社関係を創設する組織再編行為ですが、完全親会社となる会社が既存の会社か、新設の会社かという点で明確な違いがあります。

株式移転では、事業を子会社化して統括する持株会社(ホールディングス)を「新設」して完全親会社とします。一方、株式交換は「既存」の会社を完全親会社とする手法です。この違いを正しく理解しておくことが重要です。

株式移転に多い事例としては、経営者が引退する際などに行われる経営統合です。これは複数の後継者がいる場合などに、そのうちの1人にのみ重責を負わせることを避け、それぞれは各子会社の事業に責任を持ちつつ、グループ全体を統合する持株会社にて共同経営するスタイルを取ります。

そのほかの代表的な手法は、ホールディングス化を目的とした緩やかな統合です。例えば、新たにC社を設立し、既存のA社とB社が保有する全株をC社が取得する場合、A社とB社は新設されたC社の子会社としてグループ会社化されます。

株式移転における完全親会社・完全子会社の関係性

株式移転で、既存会社の持株すべてを取得するために新設された会社の呼称が完全親会社です。このときに資本余剰金が発生する場合がありますが、詳細は後述します。

完全親会社に全株式を取得させた既存会社は、完全子会社と呼ばれます。

共通支配下の取引とは

株式移転に伴い、新設会社は新株発行によって資本金や資本余剰金を増やし、子会社から取得した株式の仕訳・会計処理をしなければなりません

新設したC社が既存のA社とB社の持ち株を全て取得すると、C社がA社とB社の唯一の株主です。

既存のA社とB社が新設のC社によって支配される状態を「共通支配下」と呼び、その状態のときにA社とB社間で行われる取引のことを共通支配下の取引と呼びます。

共通支配下とは、一時的な経営支配ではなく継続される支配関係であることが条件です。

【関連】株式移転と株式交換の違いとは?手法やメリット、費用も解説【事例あり】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

2. 株式移転における「取得企業」の判定方法

株式移転に伴う仕訳・会計処理を考える際は、まず「取得企業」と「非取得企業」の判定を行う必要があります。

M&Aにおける一般的な会計処理の定義では、対価の支払い時に現金を出した側が「取得企業」です。

しかし、現金ではなく株式で対価を支払った株式移転の場合、6つの観点から多角的に取得企業となる企業を検討する必要があります。

①株主比率の大きい方はどちらか

持株比率とは、株式の出資割合を示す経営指標のことです。
 

(例)C社の筆頭株主は、旧A社個人オーナーで、議決権の38%を保有しています。

この条件で株主比率の大きい方はどちらかというと、議決権を多く保有しているA社と判断できます。

②最も大きい議決権比率を持った株主はどちらか

議決権比率が高いと、会社経営に強い影響力を持ちます。
 

(例)C社の議決権比率が、旧A社株主46%と旧B社54%でした。

この条件で議決権比率を持った株主はどちらかというと、B社と判断できます。

③取締役会の過半数の人事権はどちらにあるか

取締役会の過半数の人事権を確保していると、会社経営において実権を持ちます。
 

(例)C社の取締役会における人事権について、B社出身の役員が過半数を占めるよう規定されました。

この条件では、B社が取締役会の過半数の人事権を持つと判断できます。

④取締役会の構成比率の多い方はどちらか

株式会社は、取締役会が業務意思決定機関として位置づけられます。取締役会の構成比率が高いほど、経営権を得たことになる仕組みです。
 

(例)C社の取締役会構成比率は、A社出身者が2名、B社出身者が3名と合意されました。

この条件で取締役会の構成比率の多い方はどちらかというと、B社と判断できます。

⑤対価の支払いにてプレミアムを支払った側はどちらか

対価の支払い時に多く対価を支払うことを、プレミアムを支払うと呼びます。
 

(例)移転比率の設定時に、プレミアムをB社側が支払ったとします。

この条件で対価の支払いにてプレミアムを支払った側はどちらかというと、B社と判断できます。

⑥売上高・純資産・純利益の大きい方はどちらか

(例)売上高はB社が大きいが、純利益はA社がより規模が大きく、資産規模に差はありません。

この条件では、売上高・純資産・純利益の大きい方は、どちらとも判断できません

3. 株式移転の会計処理で重要な「適格要件」とは

株式移転の会計・税務処理を考える上で極めて重要なのが、その取引が「適格株式移転」に該当するかどうかです。適格要件を満たすかどうかで、課税関係が大きく異なります。

適格株式移転のメリット

適格株式移転と認められた場合、税務上の大きなメリットがあります。具体的には、子会社となる企業の資産や負債を簿価のまま親会社に引き継ぐことができ、譲渡損益が発生しないため法人税が課税されません。また、子会社株主に対しても、株式の譲渡益に対する課税が繰り延べられます。これにより、追加の税負担なく組織再編を進めることが可能です。

適格株式移転と判定されるための主な要件

適格株式移転と判定されるには、主に以下の要件を満たす必要があります。

  •  金銭等の不交付: 完全子会社の株主への対価が、完全親会社となる新設会社の株式のみであること。
  •  支配関係の継続: 株式移転後も、元の株主による支配関係が継続することが見込まれていること。
  •  事業の継続: 完全子会社となった会社が、その主要な事業を継続することが見込まれていること。
  •  従業員の引継ぎ: 完全子会社の従業員のうち、おおむね80%以上が引き続き業務に従事することが見込まれること。

これらの要件は、株式移転の形態(グループ内再編か共同事業かなど)によって詳細が異なります。

非適格株式移転となる場合とその影響

上記の適格要件を一つでも満たさない場合、その株式移転は「非適格株式移転」と判断されます。非適格とされた場合、完全子会社が保有する一部の資産(含み損益のある資産)は時価で評価し直され、評価損益に対して法人税が課税されます。また、子会社の株主側でも、みなし配当課税や株式の譲渡損益課税が発生する可能性があり、想定外の税負担が生じるリスクがあります。

4. 株式移転の仕訳・会計処理

株式移転完全親会社とは、株主となるために株式移転で設立された株式会社をさします。一方で、株式移転によって全ての株式を親会社に取得させ、完全子会社化した既存の株式会社は、株式移転完全子会社です。

そして、その際の税務処理では、以下の仕訳ルールがあります。

  • 適格要件を満たす場合は非課税となる
  • 非適格の場合は課税対象となることがある

株式移転における仕訳・会計処理は、完全親会社と完全子会社、それぞれの立場で異なります。また、前述の「適格要件」を満たすかどうかによっても処理方法が変わるため、誰が・どの取引を処理するのかを正確に把握することが不可欠です。

この章では、株式移転に伴う親会社と子会社の仕訳・会計処理の違いと、共通支配下の取引に適した仕訳・会計処理の方法を解説します。

株式移転完全親会社の仕訳・会計処理

株式移転完全親会社の株式評価額と資本金は、子会社の金額をもとに仕訳を行います。

親会社の資本金と資本余剰金の配分は、株式移転計画書で取り決めた金額で調整するものです。株式移転完全親会社が非課税となるのは、適格要件に該当する場合になります。

仕訳・会計処理で、非適格要件の場合は課税対象となることがありますが、一般的に新しく設立された親会社が課税対象となるケースはまれです。

株式移転完全子会社の仕訳・会計処理

株式移転完全子会社側では、原則として新たな会計処理は発生しません。株主が親会社に変わるだけで、会社の資産や負債に変動はないためです。

ただし、移転前に発生した繰越欠損金は、一定の支配関係がない限り、原則として親会社に引き継ぐことはできません。繰越欠損金の引継ぎには厳しい制限があるため、税務上の注意が必要です。

子会社では、株式移転計画書に取り決めた資本金・資本余剰金にて仕訳します。

株式移転による新設会社の仕訳・会計処理

株式移転に伴い、新設会社は資本金・資本余剰金を増やすために新株を発行します。その後、子会社の株式を全て取得する仕訳・会計処理を行うことで、新設会社の資本余剰金を確保する仕組みです。

資本余剰金とは、会社の事業活動により生まれた利益とは異なり、新株発行などによって発生した余剰金をさします。

資本余剰金となる主な事例は、以下のとおりです。

  • 資本金に組み入れなかった株主からの出資金
  • 自己株式を譲渡した場合の差額損益
  • 組織再編による増加資本で、資本金や資本準備金に組み入れなかった金額

取得企業の株式評価は、取得前日の取得企業の株主資本と適性簿価により判断され、仕訳・会計処理を行います。

被取得企業の株主が保有していた議決権比率と同じ比率で、新設会社の株式が交付されたものと「みなし算定」して仕訳を行います。これは、会計処理を簡便化するためのルールです。

共通支配下の取引の仕訳・会計処理

同じ親会社に所属する子会社同士の取引など、トップの株主が共通する会社同士の取引のことを共通支配下の取引と呼びます。

共通支配下の取引にある元親会社株式を取得したケースでは、株式資本の適正な簿価で仕訳・会計処理をしなければなりません。

共通支配化の取引で元子会社株式を取得した場合、2つの仕訳パターンがあります。

  • 100%子会社の場合
  • 100%子会社ではない場合

100%子会社の場合は、元親会社株式と同様に、株式資本の適正な簿価で対応します。

100%子会社ではない場合の元親会社の保有分計算は、株式資本の適正な簿価に元親会社が保有比率を乗じた金額で計上するのが規定です。


他の株主が保有する分は、被取得企業株式と同様の仕訳・会計処理を行います。

【関連】適格株式移転の要件を総まとめ!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

5. 株式移転における税務処理の重要ポイント

株式移転における税務処理は、その取引が「適格要件」を満たすかどうかに大きく左右されます。

非適格株式移転と判断された場合、完全子会社が保有する一部の資産は時価で評価替えが必要となり、含み益があれば課税対象となります。意図しない税負担を避けるためにも、計画段階で適格要件を十分に検討することが極めて重要です。

この章では、株式移転を行った際の具体的な会計・税務処理を解説します。

株式移転完全親会社の税務処理

株式移転完全親会社の会計・税務処理は、適格要件に該当すれば非課税とされます。資本金と資本余剰金の配分は、株式移転計画書で取り決めた金額での対応です。

課税対象となる事例として親会社が非適格要件と判断された場合がありますが、一般的に新しく設立された親会社が課税対象となるケースはまれです。

株式移転完全子会社の税務処理

完全子会社の課税判断は、株式移転における適格要件の該当判断によって決まります。適格株式移転の場合、株式移転完全子会社では処理の必要はありません

ただし、完全子会社の株式移転が非適格と判断された場合、子会社の特定資産は時価評価で処理されます。その際に発生した損益に対しては、課税対象です。

子会社の資本金・資本余剰金は、親会社と事前に取り決めた金額で処理します。

株式移転による新設会社の税務処理

株式移転における完全親会社は新たに設立されるため、取得会社と判断されません。これは通常のM&Aや株式交換とは異なる点です。

株式移転により子会社化した企業が複数ある場合、その子会社の中から取得会社となる子会社を選定する必要があります。

完全子会社の株式取得原価は、直前の決算時の価額による仕訳です。ただし、以下の金額に重大な差分がないことを条件としています。

  • 株式移転前日の帳簿価額
  • 直前決算時の帳簿価額

被取得会社と判断された完全子会社の株式取得原価は、取得対価としての費用を加算して計上しなければなりません。

株式移転の場合は、子会社によって新設される親会社へ取得株式を交付した形とされます。

共通支配下の取引の税務処理

共通支配下の取引とは、同じトップ株主のもとに子会社が支配されている状態での取引のことです。

なお、株式譲渡などによって新たな企業を子会社化した場合は、共通支配下ではなく「取得」と判断され、区別されます。ここで重要な点は、株式移転を行う前後で支配関係があるかどうかです。

共通支配下の取引に起こり得る税務処理は、以下のとおりです。

  • 財務諸表は移転前の簿価で処理する
  • 連結時に内部取引として消去する
  • グループ間同士の資産・負債の移動は「みなし会計」で処理する

トップ株主にあたる元親会社の株式取得に伴う仕訳・会計処理は、株式移転における適格要件の該当判断によって決まります

適格株式移転の場合、株式移転完全子会社では会計処理を行う必要はありません。共通支配下の取引にある100%元子会社の株式取得に伴う会計処理は、元親会社の株式取得と同じように、株式資本の適正な簿価によって処理されます。

100%子会社ではない株式取得に伴う会計処理は、株式資本の適正な簿価に基づいて、元親会社の保有比率に乗じた金額で計上する決まりです。

共通支配下の取引で現金を対価として支払っても、仕訳・会計の処理は時価ではなく、簿価で計上します。

【関連】株式移転の手続きやスケジュール・期間まとめ!登記の流れも解説!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

6. 株式移転の仕訳・会計処理のご相談はM&A総合研究所へ

株式移転の判断基準は煩雑なため、その仕訳・会計方法を適切に判断するのは非常に困難です。

企業価値から株価の算出や、株式移転後によって起こり得る損益リスクや余剰資金の計上なども念頭に置く必要があります。

株式移転を実施する際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所は中小企業のM&Aに数多く携わっており、株式移転やM&Aの税務に精通したM&Aアドバイザーが一貫サポートいたします。

当社は、完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)を採用しております。随時、無料相談を受けつけておりますので、株式移転をご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。

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7. 株式移転の仕訳・会計処理まとめ

株式移転とは、持株会社を設立する目的で実施される組織再編手法です。株式移転に伴う仕訳・会計処理は、以下の観点で判断します。

  • 株式移転の会計処理 → 対象が株式移転親会社か株式移転子会社なのか
  • 株式移転の税務処理 → 株式移転における適格要件の該当判断

【株式移転完全親会社】

会計処理 子会社の金額をもとに計上
税務処理 適格要件に該当すれば非課税

【株式移転完全子会社】

会計処理 株式移転完全子会社の評価額を計上
税務処理 適格要件に該当すれば不要

【株式移転による新設会社】

会計処理 新設会社が子会社の株式を全て取得
税務処理 取得した子会社の株式を計上

【共通支配下の取引(100%子会社の場合)】

会計処理 株式資本の適正な簿価で計上
税務処理 株式資本の適正な簿価によって処理

【共通支配下の取引(100%子会社ではない場合)】
会計処理 元親会社が保有比率を乗じた金額で計上
税務処理 元親会社の保有比率に乗じた金額で処理

特に忘れがちなのが、子会社となる企業の経営状況によって適応される株式移転後の仕訳・会計処理が複雑化する場合の対策準備です。

株式移転に伴う仕訳・会計処理は、多角的な判断が必要となるので、専門家のサポートを受けながら進めていくことをおすすめします。

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