2023年12月06日更新
印刷会社の事業承継のポイントを徹底解説!手続き方法や事例・注意点は?
近年は印刷業界の市場規模は縮小傾向にあるものの、企業間の事業承継が精力的に行われています。今回は印刷会社の事業承継ポイントを解説し、手続き方法や事例、注意点を紹介します。
目次
1. 印刷会社とは?
本や漫画、雑誌などをはじめ、ポスターやカレンダー、パンフレットの印刷物を制作する動向の会社を印刷会社といいます。
印刷会社が作る商品の中でも特に広いシェアの動向を占めているのがポスターやチラシなどの商業印刷で、次に伝票や名刺などの事務印刷、最後に新聞や本などの出版印刷という動向になっているのが現状です。
印刷業界で最も多い事業規模が中小企業で、市場のほとんどを中小企業が占めています。
印刷会社の業務内容
印刷会社の業務内容は最初に原稿の企画や雑誌のデザインを手掛け、文字入力や刷版の基本になるフィルムへの出力を行う「ポリプレス」を行って印刷物を印刷する工程である「プレス」に進みます。
最後に機械を使用して広告やカタログなどを折り込んで広告を仕上げる業務である「ポストプレス」を行います。
現在の印刷業界では、商業印刷のプレスを主な業務にしている動向の印刷会社がほとんどです。
また前述のようにポスターやチラシなどの商業印刷を主に手掛ける会社や、雑誌や本などの出版印刷を主に手掛ける動向の会社など多様な会社が見受けられます。
他にも名刺や伝票など事務的な印刷業務を手掛けるビジネスフォームや、段ボールや各種パッケージ品の印刷業務を行う包装資材業などその業務はさまざまです。
印刷会社の事業承継の動向
印刷会社の事業承継の動向として事業譲渡の他にもさまざまな手法が行われていますが、現在は株式譲渡による事業承継が積極的に行われています。
この方法は自社株式を他社に売却すると同時に経営権も譲渡する動向の方法です。反対に資本の売却や移動が行われない業務提携は、印刷業界ではあまり使われていない動向の手法です。
では印刷会社におけるM&Aの動向をさらに詳しく解説します。
将来的な不安から事業承継ニーズが向上している
近年の少子高齢化の動向により、多くの印刷会社の経営者が高齢化しているのが現状です。
そして経営者の中には、自分が健康な間に事業を引き継ぎたいと考える動向も多く見受けられます。
また現在は多くの印刷会社が経営不振に頭を抱えており、従業員の雇用を確保するために早めの事業承継を望む経営者が増えているのも現状です。
今後も堅調なM&Aが増加する
現在印刷業界では大手企業同士のM&Aが積極的に行われているうえに、中小の印刷会社でも生き残りのためのM&Aも盛んに行われています。
このような状況を踏まえると、これからも堅調なM&Aが増加する動向が強いです。
2. 印刷会社の事業承継手続き方法
近年は大手企業や中小企業で積極的なM&Aが行われていますが、実際にどのような手順で行われているのでしょうか。
では印刷会社の数点の事業手続き方法を紹介します。
株式譲渡
印刷会社のM&Aで最も多く用いられているM&Aの手法が株式譲渡です。
株式譲渡では買い手企業は、売り手企業側の半分以上の株式を買収して子会社化を進めます。
株式譲渡が完了すれば売り手企業側内で取締役会や株主総会を開催し、その後に買い手企業が代表取締役や新役員の選任を行います。
その際に売り手側と買い手側の双方で効果的な経営統合を図るのが一般的です。
株式譲渡の手続きは、単純な株式譲渡と株式名簿名義書換の記載で比較的簡単に手続きが完了します。
事業譲渡
売り手企業の一部事業や一部資産のみを買い手企業に譲渡する方法を事業譲渡といいます。
事業譲渡を活用すれば、売り手側企業は不採算事業だけ買収して事業の立て直しを図ることも可能です。
買い手の立場で考えれば、シナジー効果が見込める事業のみを買収したり、買収後のリスクが高い事業などを省いて譲受できるのもメリットといえます。
しかし個別の譲渡を行えば事業の権利義務の移転に手間がかかったり、手続きに時間がかかってしまうのも現状です。
会社分割
会社の全ての事業を分断し、それぞれの事業を別会社に移転するM&A手法を会社分割といいます。
一般的な会社分割では企業再編を図るため、第三者に事業を引き継いでもらうのがポイントです。
会社分割が行われる企業の事業や権利は移転先の会社にそのまま引き継がれ、新設会社に移転するケースを「新設分割」、既存会社に移転するケースを「吸収分割」といいます。
3. 印刷会社の評価を高めるポイント
M&Aを行い自社の事業を売却する際には、できるだけ高額で売却を進めたいものです。
そこでここからは、印刷会社の評価を高めるポイントを紹介します。
運営するにあたり従業員が確保できているか
現在はさまざまな業界で人口減少に伴う労働力不足が問題視されており、印刷業界においても多くの企業が人材不足に頭を抱えています。
したがって事業運営のための従業員を確保できている企業を買収すればその後のシナジー効果などを見込めるので、売り手企業は高い評価を得ることが可能です。
設備が整っているか
十分な設備が整っている点も印刷会社の評価を高めるポイントの1つです。
事業に必要な設備が備わっていない事業を買収しても、買い手側は十分なシナジー効果を得ることはできません。
また設備が整っていない事業を買収すれば、その後に莫大な設備投資費用がかかってしまうかもしれません。
一方で売り手企業の設備が事業に必要な設備が整っていれば買収後すぐに事業展開できるうえに、シナジー効果も期待されて高評価で買収されます。
デザインや企画もできるか
印刷業務だけでなく、デザインや企画もできる印刷会社は高評価される可能性が高くなるのも重要なポイントです。
デザインや企画もできれば受注できる案件の幅も広いので、買い手側から考えれば高いシナジー効果を得られると判断されて高評価に繋がる可能性が高くなります。
そしてデザインや企画から印刷まで、ユーザーに一貫したサービスを提供できる印刷会社は希少価値が高くなり、買収金額も高くなります。
4. 印刷会社の事業承継を実施するメリット
印刷会社で事業承継を行えば労働力確保や効率的な事業展開などのメリットを得ることができますが、具体的にどのようなメリットを得ることができるのでしょうか。
では印刷会社の事業承継を実施するメリットを買い手側・売り手側の双方の立場から紹介します。
売り手側
印刷会社で事業承継を行えば、売り手企業はさまざまなメリットを得ることができます。
ここからは印刷会社で事業承継を行った際の売り手側のメリットを解説します。
従業員の雇用を確保できる
従業員の雇用を確保できるのも、印刷会社でM&Aを行った際に売り手側が取得できるメリットの1つです。
現在は印刷業界においても業績不振により倒産・廃業する事業者も多く見受けられます。
そして倒産・廃業すれば従業員も職を失ってしまいます。
そこで業績不振になる前に事業承継を行って他社に事業を引き継げば、従業員もそのまま他社に雇用されて労働者保護に繋がるのも重要なポイントです。
経営者利益を確保できる
印刷会社でM&Aを行えば、経営者は経営者利益を確保できるのも売り手側のメリットの1つです。
業績不振や人手不足で倒産・廃業すれば、経営者は事業を失うと同時に莫大な負債を抱えてしまいます。
そこで事前に事業承継を行えば廃業を免れて事業を他社に引き継げるうえに、事業売却による売却益を得ることも重要なポイントの1つです。
後継者問題を解消できる
後継者問題を解消できるのも、印刷会社で事業承継を行う際の売り手側のメリットの1つです。
現在は多くの業界で後継者問題が問題視され、印刷業界においても多くの中小企業が後継者不在により廃業に追い込まれています。
そこで事業承継を行えば、後継者がいなくても他社に効率的に事業を引き継げるのも重要なポイントです。
買い手側
印刷会社で事業承継を行えば、売り手側同様に買い手側も複数のメリットを得ることができます。
では買い手側のメリットを解説します。
優秀な人材を確保できる
優秀な人材を確保できるのも、印刷会社で事業承継を行った際の買い手側のメリットの1つです。
新規事業を立ち上げれば人材を確保し、1から教育・指導を行わなければいけません。
しかし事業承継を行って他社を買収すれば、売り手企業の人材も引き継がれるので業務になれた優秀な人材を確保できるのもポイントの1つです。
新規事業を簡単に開始できる
印刷会社で事業承継を行えば、買い手企業側は新規事業を簡単に開始できるのもメリットです。
事業承継ではなく、通常通りに新規事業を開始する場合には莫大な資金や時間がかかってしまいます。
一方事業承継を行って他社を買収すれば買収金額のみで他社を買収し、すぐに事業を開始できます。
5. 印刷会社の取引相場
現在は多くの印刷会社が事業拡大や収益性向上のために積極的な事業承継を展開している事例も多いですが、実際の取引相場はどのように算出するのでしょうか。
では印刷会社の事業承継における取引相場や算出方法を解説します。
価格相場
印刷会社の事業承継における価格相場は事業規模や企業価値によって異なるので、価格相場を断言するのは困難です。
しかし一般的な相場事例を参考にすると億単位を超える相場事例も多数見受けられ、中小企業であれば数千万円から数億円程度の相場で取引されています。
価格相場の算出方法
印刷会社の事業承継の価格相場の算出方法は、他の企業と同様に企業価値評価を算出するのが一般的です。
企業価値評価の方法には時価純資産法やDCF法などの相場計算法があり、事業承継のケースに応じた使い分けが重要になります。
しかし計算には専門的な知識が必要なので、専門の仲介会社に依頼するのもおすすめの方法です。
6. 印刷会社の事業承継事例
現在は多くの印刷会社が積極的な事業承継を展開し、自社の収益性向上を図っています。
では実際に今までに行われた印刷会社の事業承継事例を紹介します。
凸版印刷によるMajend Makcs社のM&A
2020年5月には大手印刷会社である凸版印刷が、タイで軟包装の製造・販売を手掛けるMajend Makcs社と株式譲渡契約を交わして子会社化しました。
このM&Aは凸版印刷が、事業規模とサービスの拡大化を計るために行った事例です。
日本創発グループによる小西印刷所のM&A
2020年10月には印刷事業を中心にセールスプロモーションやデジタルコンテンツ事業を展開している日本創発グループが、主に印刷業を手掛ける小西印刷の株式を追加取得して子会社しました。
このM&Aは日本創発グループが事業の拡大化を図るために行った事例です。
共同印刷による共同日本写真印刷のM&A
2021年1月には出版印刷・商業印刷をメインに紙器やチューブなどのパッケージ品やICカードの製造・販売を手掛けている共同印刷が、主に写真印刷事業を手掛ける共同日本写真印刷の全株式を取得して子会社化しました。
このM&Aは、共同印刷がより高いサービスを提供するための体制を整えるために行った事例です。
スキットによるアヤトのM&A
2020年8月にはオリジナル印刷商品の製造・販売や商業印刷事業を手掛けるスキットが、公的機関向けの各種印刷物の製造・販売を手掛けるアヤトの全株式を取得して子会社化しました。
このM&Aはスキットが事業規模・シェア拡大のために行った事例です。
キャノングループによるイーデールのM&A
2020年4月には印刷会社大手であるキャノングループが、主にラベルやパッケージ印刷を手掛けるイーデールの株式を取得して完全子会社化しました。
このM&Aはキャノングループがラベル・パッケージ分野への進出を図ると同時に、生産性向上を高めるために行った事例です。
7. 印刷会社の事業承継の注意点
印刷会社で事業承継を成功させればさまざまな効果を得ることができますが、成功させるためにはいくつかの注意点があります。
では印刷会社の事業承継の注意点を紹介します。
土壌調査・消防法・建築基準法の確認を行う
土壌調査や消防法、建築基準法の確認を行うのも、印刷会社の事業承継を行う際の注意点の1つです。
印刷会社の設立・運営には特別な許認可も不要で、誰でも簡単に工場を設立して運営することができます。
そこで規約や取り締まりが緩い点を悪用し、事業で試用したインクや油をそのまま土壌に流す事業者も多いです。
このような事態を予防して適正な事業承継を行うためにも、専門家に依頼して売り手企業側の工場の土壌調査を行うなどの措置を行いましょう。
また規制などが緩い点から、建物の構造に関しても手抜き的な部分も多い可能性があるので消防法や建築基準法に沿った点検も事前に行うのも重要なポイントです。
独自印刷技術等の情報漏洩リスク
印刷会社で事業承継を行う際には、独自印刷技術などの情報漏洩リスクも懸念しなければいけません。
独自の技術を持った事業を買収して市場における自社の専有性を高めようと思っても、承継後に他社にその技術が漏洩すれば意味が無くなってしまいます。
このような事態を防いで適正なシナジー効果を得るためにも、取引開始前に秘密保持契約を結んで事業承継後の情報漏洩を防止するのも重要なポイントです。
8. 印刷会社の事業承継は専門家に相談しよう
印刷会社で事業承継に成功すれば、後継者問題に関係なく事業の引継ぎができるうえに自社事業の活性化にも繋がります。
しかし取引には税務や財務、法務に関する専門的な知識が必要なので、自社のみで対応するのは大変です。
そこで事業承継の専門家に相談すれば豊富な実績を活かして適切に取引を進めてくれるので、一度相談を検討してみてはいかがでしょうか。
印刷会社の事業承継を進めるのであれば事業承継の専門家も良いですが、効率的な取引を望むならM&Aの仲介会社がおすすめです。
仲介会社に依頼すれば専門的な知識を活用し、承継完了までスムーズに取引を進めてくれます。
特に近年は事業承継に特化している仲介会社も多いので、一度利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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