デイサービス・通所介護業界のM&A動向!売却・買収事例10選と注意点を解説!【2024年最新】

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

デイサービス・通所介護業界は、少子高齢化が進む今後の成長が見込まれる業界です。その一方、人材不足が業界の課題となっており、人材確保目的のM&Aが活発に行われています。この記事では、デイサービス・通所介護業界のM&A動向や注意点などを解説します。

目次

  1. デイサービス・通所介護の概要と現状
  2. デイサービス・通所介護業界の動向
  3. デイサービス・通所介護業界のM&A動向
  4. デイサービス・通所介護業界のM&A・買収・売却事例10選
  5. デイサービス・通所介護業界のM&Aのメリット
  6. デイサービス・通所介護業界のM&Aのデメリット
  7. デイサービス・通所介護業界のM&Aの流れ
  8. デイサービス・通所介護の運営が社会福祉法人の場合のM&A手法
  9. デイサービス・通所介護のM&A売却相場
  10. デイサービス・通所介護業界のM&Aの注意点
  11. デイサービス・通所介護のM&Aにおける成功ポイント
  12. デイサービス・通所介護業界のM&Aした経営者のその後
  13. デイサービス・通所介護業界のM&A・事業譲渡まとめ
  14. 訪問介護・デイサービス業界の成約事例一覧
  15. 訪問介護・デイサービス業界のM&A案件一覧
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1. デイサービス・通所介護の概要と現状

高齢化の進む日本では、デイサービス・通所介護のニーズがさらに高まると考えられており、デイサービス・通所介護業界は成長の見込める業界です。

施設数も増加傾向にありますが、デイサービス・通所介護業界では人材不足や経営効率化が課題となっている企業が多く、M&Aを活用して課題解決に取り組む動きが活発になってきています。

デイサービス・通所介護とは

デイサービス・通所介護とは、要介護者に対する日帰りでの介護・機能訓練サービスをいいます。

主な事業内容は、身体機能の維持・向上を図るための訓練を実施、社会的孤立感を解消と認知症予防のための交流やレクリエーションの提供などです。

また、ほとんどのデイサービス・通所介護施設は、要介護者の自宅から施設までの送迎サービスも行っています。

高齢者が要介護状態となった場合でも、可能な限り自立した日常生活を過ごせるように訓練などを行うだけでなく、介護する家族の負担を軽減することも目的のひとつです。

デイサービス・通所介護施設の種類

デイサービス・通所介護施設にはいくつかの種類があり、都道府県・政令市・中核市または市区町村が管轄しています。

それぞれが管轄しているデイサービス・通所介護施設は、規模や事業内容によってさらに細かく分類されており、下の表は2023年時点の介護保険制度による施設分類です。

 

  類型 規模要件
一般型 地域密着型 利用定員数18人以下
通常規模型 月間利用者の延べ数が300超~750人
大規模型Ⅰ 月間利用者の延べ数が900人以内
大規模型Ⅱ 月間利用者の延べ数が900人超
認知症対応型通所介護 認知症高齢者が対象 利用定員が12名以下 ※要支援者も利用可能
療養通所介護 要医療ケア高齢者が対象 利用定員が18名以下 ※管理者が常勤看護師

現在のデイサービス・通所介護はほとんどが「一般型」に該当します。また、療養通所介護を行っている施設は非常に少なく、事業所数がゼロの都道府県も多いです。

デイサービス・通所介護の市場規模

厚生労働省「介護分野の最近の動向について 」

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001099975.pdf

厚生労働省「令和4年度介護保険事業状況報告(年報)」によれば、保険給付(介護給付・予防給付)費用額は、2021年度が11兆2830億円、2022年度が11兆3778億円であり、1年間で940億円の増加(対前年度比0.8%増)となっています。

2021年度の介護保険給付に係る総費用の内訳をみると、通所介護が約1兆2799億円、地域密着型通所介護が約4105億円、認知症対応型通所介護は約796億円、小規模多機能型居宅介護が2779億円となりました。

上のグラフをみてわかるように介護保険給付金の額は年々増加しており、少子高齢化に歯止めがかからない日本では今後もさらに増えるのは間違いないと考えられます。

参考:厚生労働省「令和4年度 介護保険事業状況報告(年報)」
参考:厚生労働省「介護分野の最近の動向について」

報酬改定

介護報酬の改定は3年に1度行われており、介護職員の処遇改善や安定的な人材確保が主な目的です。改定内容は社会情勢を考慮してうえで決まりますが、必ずしもプラス改定となるわけではなく引き下げとなる場合もあります。

2022年度は、2021年に政府が決定した「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を踏まえた改定となっており、具体的には介護職員の収入の3%程度(月額9000円相当)を引き上げ目的にした内容となりました。

介護報酬改定による加算率は0.5~2.4%となっており、サービスの種類ごとに異なります。2022年度のデイサービス・通所介護の加算率は、通所リハビリテーションが1.0%、認知症対応型通所介護2.3%です。

これを基に対象サービスごとの介護職員数に応じた加算率を設定するため、月額9000円の賃金引上げが必ず見込めるわけではありません。

デイサービス・通所介護などの介護業界は、介護報酬改定の影響を大きく受ける点が特徴ですが、介護報酬改定時の算定率は大規模事業者のほうが高くなる傾向にあります。

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2. デイサービス・通所介護業界の動向

日本の少子高齢化は加速する一方であり、政府もさまざまな対策を講じています。高齢化に伴いデイサービス・通所介護の需要は年々増加していますが、具体的にはどのような動向がみられるのでしょうか。

ここでは、デイサービス・通所介護業界の動向にみられる4つの特徴について解説していきます。

要介護者が増加

厚生労働省「令和4年度 介護保険事業状況報告(年報) 」

出典:https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/22/dl/r04_point.pdf

厚生労働省「令和4年度介護保険事業状況報告(年報)」によれば、2023年3月末時点における要介護認定者(要支援を含む)は約694万人であり、2022年3月末時点の690万人から5万人増加(0.7%増)となりました。

要介護認定者数は年々増加しており、2000年には約256万人だったものが2023年は約3倍にもなっていることがわかります。

2025年にはすべての団塊世代者が75歳を迎え全人口の約18%となり、2040年には全人口の約35%が65歳以上になると推計されているため、要介護者数の増加はほぼ間違いない状況です。

参考:厚生労働省「令和4年度介護保険事業状況報告(年報)」

介護給付費の増加

厚生労働省「令和4年度介護保険事業状況報告(年報)」

出典:https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/jigyo/22/dl/r04_point.pdf

高齢化の進行とともに、国内の要介護認定者数は大きく増加しました。それに伴い、デイサービス・通所介護などの介護サービスを利用する割合も高くなってきています。

高齢者の割合増加が予想される今後においては、デイサービス・通所介護などの需要はさらに拡大するのは間違いない状況ですが、問題となっているのは社会保障給付費の増加です。

厚生労働省「令和4年介護保険事業状況報告(年報)」」によれば、2022年度の介護保険給付費用額(累計)は11兆3778億円であり、前年度から940億円の増加(前年度比0.8%増)となりました。

また、同年度の利用者負担分を除いた給付額は10兆5100億円であり、前年度から783億円増加(前年度比0.8%増)し過去最高額を更新しています。

しかし、社会保障を支える若い世代(生産年齢人口)は年々減少しており、2025年以降はその減少割合が加速する見込みです。そのような状況を打破するため、政府は2040年頃を見据えた社会保障制度の見直しを進めています。

参考:厚生労働省「令和4年度介護保険事業状況報告(年報)」

施設が増加

厚生労働省「令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況」によれば、2020年のデイサービス・通所介護施設数は43754施設です(地域密着型を含む)。

デイサービス・通所介護施設数は、2012年時点では34107施設だったものが3年後の2015年には43406施設へと急増しました。以降は、微減しながらも全体としてはほぼ横ばいの状況です。

通常規模型や大規模型のデイサービス・通所介護施設数は一貫して増加する一方、地域密着型のデイサービス・通所介護施設のなかには閉鎖・統合するところもあり、総数では横ばいの状態が続いています。

人材が不足

デイサービス・通所介護などの介護職は、他業種に比べると労働条件が低く、離職率も高いため慢性的に人材が不足している状態です。

さらに、介護サービスを行う従業員は有資格者でなければならないため、事業者間では必然的に有資格者の奪い合いが起こりやすくなります。

十分な人材を確保するためには賃金・処遇面での改善や新規採用が必要ですが、中小規模の事業者(施設)では難しいのが現状です。

当社のアドバイザーが業界に関して説明した動画もございますので、そちらもご覧ください。

効率化が求められる

介護業界は慢性的な人材不足を抱えているうえ、国内の労働人口も将来的に減少が見込まれています。近年は介護報酬も切り詰められつつあるなか、デイサービス・通所介護の事業者にとっては経営の効率化が課題のひとつです。

効率化向上にはITやAIの活用が有効とされており、たとえばITによる管理システムの導入やAI・ロボットの活用強化などが挙げられます。

これらを活用すれば、人材不足の解消につながるだけでなく、サービスの高度化や他社との差別化を図ることも可能ですが、なかなか進んでいないのが現状です。

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3. デイサービス・通所介護業界のM&A動向

デイサービス・通所介護業界では、近年M&Aが活発に行われています。ここでは、近年のデイサービス・通所介護業界にみられる2つのM&A動向をみていきましょう。

人材不足を補うM&Aが活発

人材不足の解消はデイサービス・通所介護業界の大きな課題であり、その解決手段としてM&Aが活用されるケースが増えています。

デイサービス・通所介護施設には配置人員の基準があり、一定数の生活相談員・介護職員・看護師などを常勤させなければなりません。

同業種間の企業を買収することで、スキルやノウハウをもつ人材をまとめて確保することができ、新規人材の採用コスト削減も可能です。

M&Aにより事業規模が拡大すれば、経験を積んだ従業員をグループ内の他施設へリーダー格として異動させることもできるようになり、従業員のキャリアアップにもつながります。

キャリアアップ制度など従業員教育に力を入れていることは、人材採用時のアピールにもつながるため、新規人材が集まりやすくなる点もメリットです。

新規参入目的でのM&Aが増加

デイサービス・通所介護業界への新規参入を目的として、M&Aを活用するケースも増えています。介護業界は今後成長が見込めるため、新規参入を狙う異業種企業も多いです。

自社で新規事業を立ち上げての参入はリスクが高くなるため、すでにデイサービス・通所介護事業を展開している企業をM&Aによって取得すれば、スムーズな事業展開が可能になります。

特に介護サービスを提供する従業員・有資格者を確保できるのは、人材が経営資源の基本となるデイサービス・通所介護業界では大きなメリットといえるでしょう。

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4. デイサービス・通所介護業界のM&A・買収・売却事例10選

①アルトがサンライフケアのデイサービス事業を譲受

2022年1月、メイホーホールディングス子会社のアルトが、サンライフケアのデイサービス事業を譲受した事例です。

M&Aの概要

2022年1月、メイホーホールディングス子会社のアルトは、愛知県のサンライフケアが手掛けるデイサービス事業を譲受しました。

アルトはデイサービスと居宅支援を中心とする事業を展開しており、岐阜市と常滑市に合計5か所の通所施設を持っています。

サンライフケアは、愛知県常滑市でデイサービス事業「リハビリデイ えみふる」を運営する企業です。

M&Aの背景

メイホーホールディングスは、建設事業・介護事業・建設関連サービス・人材関連サービスの4事業を展開しており、子会社のアルトは介護居宅サービスや居宅介護支援などを手掛けています。

本M&Aによりサンライフケアの居宅サービス事業を譲受し、地域密着型施設の運営を強化および効率向上、地域内でのサービス品質均一化(高水準)を図り、他社との差別化につなげる狙いです。

M&A手法

事業譲渡

参考:株式会社メイホーホールディングス「当社連結子会社における事業譲受に関するお知らせ」

②ポラリスがMACHIKOのデイサービス事業を譲受

2021年8月、ポラリスがMACHIKOのデイサービス事業を譲受した事例です。

M&Aの概要

2021年8月、ポラリスはMACHIKOのデイサービス事業を譲受しました。ポラリスは「自分の足でしっかりと」をコンセプトとし、歩行・リハビリを中心とした自立支援特化型デイサービスを全国展開しています。

一方、MACHIKOはデイサービス「フォレストデイサービスセンター安倉」のほか、貸画廊・貸展示場、イベント開催などを行う企業です。

M&Aの背景

ポラリスは、宝塚市を主力エリアのひとつと位置付けています。同エリアでリハビリ特化型の短時間デイサービス「フォレストデイサービスセンター安倉」をMACHIKOから譲受することで事業拡大を図るとともに、自立支援介護の普及を進めていくとしています。

M&A手法

事業譲渡

参考:株式会社ポラリス「自立支援介護を展開しているポラリス、事業譲渡に関するお知らせ」

③揚工舎によるまんまるの子会社化

2021年6月、揚工舎はまんまる(現ヨウコーキャッスル三鷹)の子会社化を決議しました。

M&Aの概要

2021年6月、揚工舎はまんまる(現ヨウコーキャッスル三鷹)の子会社化を決議しました。揚工舎は有料老人ホーム・訪問介護サービス・デイサービスなどの介護事業、教育事業(介護資格)、介護人材の紹介・派遣などを手掛ける企業です。

まんまる(現ヨウコーキャッスル三鷹)は、デイサービス施設と介護付き有料老人ホームを東京都三鷹市で運営しています。

M&Aの背景

揚工舎は東京近郊での事業拠点拡大を検討しており、まんまるの運営する介護付き有料老人ホーム「みんなの家6丁目」とデイサービス「みんなの家6丁目」は立地面で合致すると判断し、本M&Aに至りました。

M&A手法

株式譲渡

参考:株式会社揚工舎「有限会社まんまるの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」

④シダーによるデイサービス事業の譲渡

2021年5月、シダーが運営するデイサービス事業所「あおぞらの里 建部デイサービスセンター」を第三者へ譲渡した事例です。

M&Aの概要

2021年5月、シダーが運営するデイサービス事業所「あおぞらの里 建部デイサービスセンター」を第三者へ譲渡しました。

譲渡先は守秘義務のため非公表となっていますが、滋賀県内においてデイサービス事業を新たに計画している企業であると述べています。

M&Aの背景

シダーは、滋賀県東近江市で2004年より、リハビリテーション特化型のデイサービスを運営していましたが、今後の事業展開および収益性改善の観点から、M&Aや売却などを検討している状況でした。

そのようなタイミングで営業権譲渡の打診を受け、「あおぞらの里 建部デイサービスセンター」の事業譲渡を決定しています。

M&A手法

事業譲渡

参考:株式会社シダー「営業権の譲渡に関するお知らせ」

⑤ユニマット リタイアメント・コミュニティがパナソニック エイジフリーのデイサービス事業を譲受

2021年4月、ユニマットリタイアメント・コミュニティがパナソニックエイジフリーのデイサービス・ショートステイ施設6か所の事業を譲受した事例です。

M&Aの概要

2021年4月、ユニマットリタイアメント・コミュニティは、パナソニックエイジフリーが運営するデイサービス・ショートステイ施設6か所を譲受しました。

ユニマットリタイアメント・コミュニティは、全国約320か所を拠点として包括的な介護サービス事業を展開するほか、ホテル事業や飲食事業なども手掛けています。

パナソニックエイジフリーは、サービス付き高齢者住宅や介護ショップの運営、介護用品・設備の開発・販売・レンタルなどのサービを行う企業です。

M&Aの背景

ユニマットリタイアメント・コミュニティは、住み慣れた地域で高齢者が自分らしく生活できることを目指し、ワンストップ支援サービス「そよ風の地域包括ケア」の拡充を進めてきました。

今回の事業譲受はその一環であり、パナソニックエイジフリーの運営する介護サービス施設のうち6施設を譲受することでサービス提供体制をさらに拡充するとしています。

M&A手法

事業譲渡

参考:株式会社ユニマットリタイアメント・コミュニティ「パナソニック エイジフリー株式会社から 6 施設を事業譲受 4 月 1 日より「そよ風」ブランドで新たに運営開始」

⑥元気な介護による幸房の子会社化

2021年4月、元気な介護が幸房の全株式を取得して子会社化した事例です。

M&Aの概要

2021年4月、元気な介護は幸房の全株式を取得して子会社化しました。元気な介護はデイサービスや訪問介護サービスなどの総合介護事業のほか、高齢者向け住宅事業や障害福祉サービス事業なども展開しています。

子会社となった幸房は、デイサービス事業のほか、訪問介護やサービス付き高齢者住宅事業を行う企業です。

M&Aの背景

元気な介護は、本M&Aによって幸房を完全子会社化すると同時に、幸房が全株式を保有している株式会社大幸も連結子会社化しました。

グループ傘下となった2社は広島県でデイサービス事業所を運営しており、元気な介護は新たに広島県の2事業所を加えることで、介護サービスの拡充および地域包括ケアの向上・実現に向けた取組みを強化していくとしています。

M&A手法

株式譲渡

参考:株式会社元気な介護「有限会社 幸房の子会社化に関するお知らせ」

⑦グッドタイムリビングによる舞浜倶楽部の子会社化

2021年4月、グッドタイムリビングが舞浜倶楽部の株式を99.75%を取得して子会社化した事例です。

M&Aの概要

2021年4月、グッドタイムリビングは、舞浜倶楽部の株式を99.75%を取得して子会社化しました。

グッドタイムリビングは大和証券の子会社です。ITを活用した介護サービス事業を展開しており、有料老人ホームや住宅型老人ホームの運営、高齢者向けの賃貸住宅事業を行っています。

子会社となった舞浜倶楽部は、千葉県浦安市を経営拠点として介護付き有料老人ホームやデイサービス施設運営する企業です。

M&Aの背景

グッドタイムリビングと舞浜倶楽部は、以前より浦安市の介護福祉サービスにおいて地域連携を深めていました。

今回の子会社化は、舞浜俱楽部の親会社であるエムシーホールディングスから「新浦安フォーラム」「富士見サンヴァーロ」の運営体制を強化したいという打診を受けたことがきっかけとなっています。

これに対してグッドタイムリビングは、自社が進めてきたICT導入や多職種人材採用によって業務効率化が見込め、安定した経営が可能になると判断して本M&Aに至りました。

M&A手法

株式譲渡


参考:グッドタイムリビング株式会社「株式会社舞浜倶楽部の株式取得に関するお知らせ」

⑧ポラリスが幸和ライフゼーションのデイサービス事業を譲受

2021年1月、ポラリスが幸和ライフゼーションのデイサービス事業を譲受した事例です。

M&Aの概要

2021年1月、ポラリスは幸和ライフゼーションの手掛けるデイサービス事業を譲受しました。「自分の足でしっかりと」をコンセプトとするポラリスは、歩行・リハビリを中心とした自立支援特化型デイサービスを全国展開する企業です。

譲渡側の幸和ライフゼーションは、デイサービス施設運営のほかに車いすのオーダーメイド製作販売や福祉用具レンタルサービスなどを行っています。

M&Aの背景

享受側のポラリスは介護サービス事業の拡大を目的として、ライフゼーションが手掛ける事業のうちデイサービス事業の譲受を決定しました。

一方、幸和ライフゼーションは事業譲渡理由として主要事業の集約を挙げています。

M&A手法

手法:吸収分割

参考:株式会社ポラリス「会社分割(吸収分割)による事業承継に関するお知らせ」

⑨出光興産によるQLCプロデュースの完全子会社化

2021年4月、出光興産がQLCプロデュースの全株式を取得して完全子会社化した事例です。

M&Aの概要

2021年4月、出光興産はQLCプロデュースの全株式を取得して完全子会社化しました。出光興産は石油などのエネルギー開発および供給、高機能素材や化学製品の製造販売事業を中心として事業を展開しています。

子会社となったQLCプロデュースは、自立支援デイサービスを全国展開している企業です。直営・フランチャイズの両形態をとっており、全国で163事業所(直営・フランチャイズの合計)を運営しています。

M&Aの背景

国内の石油需要は減少傾向が続いており、出光興産は全国にある自社系列の販売店舗網を活かした新規事業展開を検討していました。

今回の子会社化はその一環であり、QLCプロデュースを子会社とすることで介護事業業界への新規参入を目的としています。

今後は系列特約販売店の強みを活かしサービス提供および開発を進めるとともに、事業多角化支援に取り組む予定です。

M&A手法

株式譲渡

参考:出光興産株式会社「QLCプロデュース株式会社の株式譲渡契約を締結」

⑩ソラストによる恵の会および日本エルダリーケアサービスの完全子会社化

2020年3月および10月、ソラストが恵の会と日本エルダリーケアサービスの2社を完全子会社化した事例です。

M&Aの概要

2020年ソラストは、3月に恵の会の全株式を取得、10月に日本エルダリーケアサービスの全株式を取得して、両社を完全子会社化しました。

ソラストは医療や介護にかかわる事業を多数展開しており、医療事務などの医療関連業務受託や介護事業所の運営を行っています。

子会社となった恵の会は、大分県でデイサービス施設や有料老人ホームの運営などを手掛ける企業です。

同じく子会社となった日本エルダリーケアサービスは、デイサービス事業や訪問介護事業を首都圏エリアを中心に展開しています。

M&Aの背景

ソラストは中長期計画において、2030年までに介護サービス対象エリアを300エリアに拡大すること(現在の3倍に相当)、全種類の介護サービスを提供できる「トータルケア・ワンストップサービス体制」の構築を目指しています。

今回行った2社の子会社化はその一環であり、サービス体制の構築を進めていくことが目的です。

M&A手法

株式譲渡

参考:株式会社ソラスト「恵の会の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
参考:株式会社ソラスト「株式会社日本エルダリーケアサービスの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」

5. デイサービス・通所介護業界のM&Aのメリット

デイサービス・通所介護業界でM&Aを行うメリットは、買収側と売却側とで違います。計画策定時は、事前に享受できるメリットを想定しておくことが大切です。

売り手側メリット

後継者問題の解決

近年は、団塊世代の経営者の多くが引退を迎えるタイミングに差し掛かっていますが、事業承継を考えていても後継者候補がいない企業も増えています。また、子などの後継者候補が経営者の周りにいても、引き継ぐ意思がないというケースもあるでしょう。

M&Aによる売却は事業承継の方法としても活用することができ、第三者の企業へ事業を引き継ぐことが可能です。幅広いなかから相手先企業を選ぶことができるうえ、一般的に買収側は規模の大きい企業であることが多いため、自社のさらなる成長にも期待できます。

売却益の獲得

株式譲渡の場合、M&Aで得た利益は現経営者(株主)が現金で受け取ります。事業譲渡では会社が対価を受けとりますが、その場合は退職金などのかたちで現経営者が受け取ることも可能です。

まとまった額を得られるので、引退後の生活に充ててハッピーリタイアメントを実現したり、新たな事業の立ち上げ資金にしたり自由に使うことができます。

従業員の雇用継続

従業員の雇用を継続できるというのも、売り手側も大きなメリットです。もし廃業を選択した場合は従業員を自社都合で解雇しなければなりませんが、M&Aでは買い手側へ雇用契約を引き継ぐことができます。

雇用契約は株式譲渡の場合は包括承継となるため手続きは特に必要ありませんが、事業譲渡を活用する場合は契約は個々に引き継がなければならず、M&A後に売り手側の従業員と買い手側企業とで雇用契約を結びなおしが必要です。

利用者へのサービス継続

デイサービス・通所介護サービスからの撤退・廃業となれば、利用者は新しく利用先を探さなければなりません。廃業という選択は利用者への影響も大きくなりますが、M&Aの場合は利用者との契約も買い手側へ引き継ぐことができます。

利用者は運営元(事業者)は変わりますがサービスをそのまま継続できるので、M&Aは事業者と利用者の双方にメリットがある方法です。

経営の安定化

中小規模のデイサービス・通所介護サービス事業者は、経営基盤の安定化が難しいケースも多いです。また、経営の効率化を図るためにITやAIの活用したくとも、資金面が障壁となることもあります。

経営の安定化を図るためには、M&Aを活用することも手段のひとつです。M&Aによって大手グループなど経営基盤の安定した企業の傘下に入れば、経営の効率化だけでなく事業のさらなる成長にも期待できます。

買い手側のメリット

従業員の確保

慢性的な人材不足に悩むデイサービス・通所介護業界では、人材確保を目的として買収を行うケースも多いです。

前述したように、デイサービス・通所介護施設は有資格者の配置が定められています。質の高いサービスを常に提供するためにはスキルやノウハウを持つ従業員は不可欠ともいえるでしょう。

新規採用で人材確保を行う方法もありますが、他業種に比べ労働条件や賃金の低さなどの待遇がよいとはいえないデイサービス・通所介護業界はなかなか人材が集まりにくいのが実情です。M&Aで同業種を買収することにより、買収側はまとまった人数の従業員・有資格者を確保することができます。

新規事業への参入・開拓

近年は、将来性を見込んでデイサービス・通所介護事業など介護業界へ進出する異業種企業も増えてきました。

自社でゼロから新規事業を立ちあげる場合、事業運営が軌道にのるまでに時間・コストが必要です。また、介護業界の事業者数は多いため、他社との差別化やサービスの質向上を図らなければ事業の安定した成長を見込むことは難しくなります。

このような理由により、新規参入時のリスクを軽減しスムーズに事業を展開してくために、M&Aですでにデイサービス・通所介護を手掛けている企業を買収するケースも多いです。

売却側企業のもつノウハウや人材も譲受することができるため、買収側はコスト削減だけでなく参入後すぐに効率的な事業展開が可能になります。

事業エリアの拡大

デイサービス・通所介護事業の場合、事業エリアの拡大するためには開設場所をみつけて市町村からの許可を得なければなりません。そこから必要設備の工事や人材の確保が必要となるため、時間もコストもかかります。

M&Aを活用してデイサービス・通所介護事業者を取得すれば、許認可・人材・サービス利用者をそのまま引き継ぐことができるので、短期間での事業エリア拡大が可能です。

シナジー効果

シナジー効果にはコストシナジー・事業シナジーなどがあり、M&Aの買い手側においてはシナジー発揮が大きな目的のひとつです。

デイサービス・通所介護事業のM&Aでは、たとえば消耗品や介護用品の大量仕入れによるコスト削減や、IT・AIの導入コストも減らして業務効率向上を図ることもできます。

6. デイサービス・通所介護業界のM&Aのデメリット

デイサービス・通所介護業界でM&Aには当然デメリットもあります。起こり得るデメリットは買収側と売却側とで異なるため、理解したうえで実施を検討することが必要です。

売り手側のデメリット

希望の条件で売却できないリスク

M&Aでは買い手側との交渉で価額や条件を決めるため、両社ともになにかしら譲歩する部分が出てくるのが普通です。もちろん、希望条件どおりのM&Aが成立する可能性もないわけではありませんが、そのようなケースはあまりありません。

売り手側はその点をあらかじめ把握しておき、自社の希望条件に優先順位をつけておくと交渉が成功しやすくなります。また、価額においてはM&A前に磨き上げを行っておくことで、企業価値を挙げられる可能性があるので、自社で行えるものはしっかり対応しておくこともポイントです。

買い手が見つからないリスク

M&Aは交渉を行う相手先がみつからなければ先にす進めることができませんが、買い手企業が必ずしもみつかるわけではありません。よい買い手がみつかるかは、M&Aを行うタイミングや自社の事業エリア、希望条件などによっても変わります。

売り手側はよい相手先がみつかったら交渉へ望めるよう、M&A実施を決定したら早い段階から準備を進めておくことがポイントです。

競業避止義務

競業避止義務とは、M&Aの売却対象と同種の事業を行うことを一定期間禁ずる契約あるいは義務のことです。M&Aにおいては、ノウハウや技術力などをすでに有している売り手側が同種の事業を始めれば、買い手側が不利益をこうむりかねないため、一般的に最終契約で協業義務について定めておきます。

禁止期間は当時会社間での取り決めがない場合は原則20年間ですが、協議のうえ短縮することも可能です。注意すべきなのは事業譲渡を用いた場合であり、事業譲渡では最終契約に定めていなくとも売り手側は会社法により協業避止義務を負います。

買い手側のデメリット

シナジー効果が出ない可能性

シナジー効果が十分に発揮されれば、M&A後の事業成長スピードを大きく加速させたり多くのメリットを得たりできます。M&Aでシナジー発揮は重要な意味を持ちますが、必ずしも想定してとおりのシナジー効果が得られるとは限りません。

シナジー効果が得られない要因となりうるのは、市場環境の変化やPMIの失敗などがありますが、M&A前に期待していたシナジーが発揮されなければ買収費用の回収が難しくなるだけでなく、既存事業へ影響を及ぼす可能性もでてきます。

そのため、買い手側はシナジー効果が発揮されない可能性も考慮し、買収価額を決定する際は慎重に検討することが重要です。

従業員の離職

M&Aで売り手側の従業員を引き継いだ場合、自社(買い手側)従業員との摩擦や業務内容や環境の変化が原因で、従業員が離職してしまう場合があります。

どの事業においても人材は重要なリソースですが、デイサービス・通所介護業界は慢性的な人材不足であり、もし大量離職がおこれば事業運営に大きな支障を与えかねません。

また、従業員の離職によって想定していたシナジーが発揮されない可能性もでてくるので、M&Aについては従業員へ丁寧に説明するとともにPMIを慎重に進めていくことが重要です。

簿外債務の可能性

簿外債務とは貸借対象表に記載されていない債務のことで、未払い残業代・退職給付引当金・未払いの社会保険料・買掛金・リース債務などがあります。また、偶発債務も簿外債務のひとつです。

株式譲渡のような包括承継の手法を使用する場合、買い手は売り手の資産だけでなく負債もM&Aによって引き継ぐので、もし簿外債務額が大きければ自社の既存事業へ影響を及ぼすおそれもあります。

簿外債務の引継ぎリスクをゼロにするのは現実的に難しいですが、買収前のデューデリジェンスをしっかり行うことで大幅に軽減することが可能です。

7. デイサービス・通所介護業界のM&Aの流れ

デイサービス・通所介護業界に限らず、M&Aを行う場合は多くの行程を経て成約を迎えます。

スムーズに手続きや準備を進めていくためにも、事前に大まかな流れを把握しておくとよいでしょう。ここでは、デイサービス・通所介護業界のM&Aにおける売却側の流れを順に確認していきます。

専門家に相談

M&Aでは専門的な知識が必要な場面も多く、準備や複雑な手続きも必要になります。自社の通常業務に支障が出ないように進めていくには、M&A仲介会社など専門家にサポートを依頼するのがおすすめです。

会社あるいは事業の売却・買収などM&Aを検討し始めたら、まずは専門家に相談して進めていくとよいでしょう。

企業価値の算定

企業価値は簡単にいえば「会社全体の価格」であり、事業価値だけでなく非事業資産も含んだ価値のことです。また、事業価値にはノウハウや特許などの無形資産も含まれます。

M&Aの価格交渉は、企業価値をベースに行うことが一般的です。自社の企業価値がいくらなのかを知っておくと戦略が立てやすくなるだけでなく、企業価値向上に向けた対策を事前に行うこともできます。

企業価値の算出方法にはいくつかの種類があり、実態に合った価値を求めるためには専門的な知識も必要です。

M&A仲介会社などの専門家は企業価値の算定も行っています。簡易的な算出であれば無料で行っているところも多いので、一度相談してみるのもよい方法でしょう。

【関連】M&Aの企業価値評価とは?算出方法を詳しく解説!

仲介契約の締結

M&Aのサポートを依頼するM&A仲介会社が決まったら、仲介契約を締結して本格的にM&Aを進めていきます。

仲介契約は、M&A仲介会社が売却側企業と買収側企業の間に入って仲介する契約です。双方の希望を考えながら中立的な立場からM&A交渉をサポートしていくため、効率的に進めることができます。

買収候補の選定・交渉の打診

次の段階は、買収候補先の選定と交渉の打診です。自社の希望する条件をM&Aアドバイザーに伝えると、候補先を数社ピックアップしてくれるので、そのなかから交渉したい企業を絞り込みます。

交渉希望の企業へはアドバイザーを通して打診し、相手先もM&Aに前向きであれば次の段階へと進むかたちです。

この段階では売却側・買収側は互いの詳細情報を伏せているので(ノンネーム)、交渉を進めることが決まった時点で秘密保持契約を締結し、詳細情報を開示します。

秘密保持契約の締結

秘密保持契約書とは、知り得た秘密情報の第三者への開示および漏えいの禁止などを取りきめたものです。

M&Aにおいては、自社の財務情報、ノウハウや技術に関する秘密情報などを相手企業へ開示します。万一、M&A成立前に当事者以外の第三者へ漏れれば、企業価値を損なうことにもなりかねません。

そもそもM&Aを検討・交渉している段階では、その事実自体が第三者へ漏れることもあってはならないことです。

そのような事態を避けるために秘密保持契約は締結し、ほとんどのケースでは万一違反があった場合の法的措置なども内容に盛り込まれます。

トップ面談・条件交渉

交渉相手先が決まったら、売却側・買収側のトップ同士が直接顔を合わせる場が設けられます。

M&Aではこれまで面識がなかった企業同士が行うケースが多いので、経営理念など事前資料ではわからない部分を確認することが主な目的です。

将来のビジョンや相性などを確認し、自社を任せられる相手先なのかを判断することがトップ面談の目的なので、面談の場では金額や条件などの具体的な交渉をすることはほとんどありません。

そして、互いがM&Aに前向きであれば細かな条件交渉を進め、次の基本合意締結へ移ります。

基本合意書の締結

M&Aの条件・価格・使用スキームなど、売却・買収の内容に互いが大筋で合意したら、基本合意書を締結します。

基本合意書にはこれまでの交渉で取り決めた内容が盛り込まれますが、それ自体に法的拘束力はありません。

そのため、デューデリジェンスの結果によっては条件が加えられたり、価格が変更されたりする可能性もあります。

ただし、独占交渉権を付与する場合などは、その内容に限り法的拘束力を持たせるケースが多いです。

デューデリジェンスの実施

基本合意書の締結後は、買収側によって売却企業に対するデューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスとは買収監査のことで、財務・人事・法務・ITなどさまざまな面から買収リスクを洗い出す調査です。

各調査は会計士・弁護士などの専門家によって行われます。買収側が主体となるため売却側がすべきことは特にありませんが、資料の提出など協力を求められた場合は真摯に対応することが大切です。

また、デューデリジェンスの結果によっては条件や価格が変更される可能性があり、重大なリスクがあった場合はM&Aそのものが白紙になることもあります。

最終交渉・最終契約の締結

デューデリジェンスの結果、買収しても問題ないと判断されたら最終交渉へ進みます。もし調査で洗い出されたリスクや問題点があれば、価格が引き下げられたり新たに条件が加えられたりするケースもあるでしょう。

M&A内容について売却側・買収側が互いに合意したら最終契約を締結し、これでM&Aが成立となります。最終契約の内容はすべてにおいて法的拘束力があるため、しっかり確認にておくことが大切です。

クロージング

クロージングとは、株式(経営権)の引き渡しと対価の受け取りを行うことです。クロージングするためには、クロージング前提条件を満たしていなければならないため、通常は最終契約締結から一定期間空けて行います。

クロージングに必要な準備は使用スキームによって異なるため、スケジュールや手続きを事前に確認しておくとよいでしょう。このクロージングをもってM&Aは完了となります。

経営統合作業(PMI)

経営統合作業(PMI)とは、売却側・買収側の経営理念や戦略、人材・組織・業務、企業風土や文化などを統合する一連のプロセスをいいます。

M&Aの効果を最大限にするためには、経営統合作業(PMI)が重要です。一般的に、経営統合作業(PMI)がうまくいかなければ、M&Aが成功したとはいえないといわれています。

経営統合作業(PMI)は売却側・買収側が協力して進めなければ、成功させるのは難しいものです。しっかりと話し合い計画的に進めていくことがポイントです。

【関連】M&Aのフロー・流れを徹底解説!検討〜クロージングまで【図解あり】

8. デイサービス・通所介護の運営が社会福祉法人の場合のM&A手法

デイサービス・通所介護事業の場合、社会福祉法人が運営元であるケースも多いです。社会福祉法人の場合、株式を発行していないため通常のM&Aとは異なります。

経営権の獲得

一般的な株式会社が経営権を第三者へ移転させる場合、通常は株式譲渡によって行います。しかし、社会福祉法人は株式を発行していない(持たない)法人であるため、株式譲渡を用いることはできません。

社会福祉法人が経営権を移転させる場合は、理事長(経営者)の交代と2/3以上の理事会メンバーの入れ替えによって行います。また、この場合は経営権移転に伴う対価は発生しません。

事業譲渡

社会福祉法人がデイサービス・通所介護事業の運営元である場合、事業譲渡の手法を活用して第三者へ事業を引き継ぐことも可能です。

事業譲渡の方法は株式会社の場合と同様であり、事業を譲渡対象(売却対象)とし対価は現金となります。など、事業譲渡では権利・義務は個々に引き継がなければなりません。

雇用契約やサービス利用者との契約は、M&A後に買い手側が個別同意を得たうえで改めて結ぶかたちとなります。

合併

合併とは2つ以上の法人を統合する手法であり、新設合併と吸収合併の2種類があります。社会福祉法人が合併を行う場合、社会福祉法人同士でのみ行うことができ、新設合併と吸収合併どちらにおいても所轄庁から事前に許可を得なければなりません。

合併に必要な手続きには事前開示や債権者保護手続きなどがありますが、所轄庁によって必要書類などが違う場合もあるので、事前に相談して確認する必要があります。

9. デイサービス・通所介護のM&A売却相場

M&Aは売り手・買い手の交渉で価額が決定されるため、業種や地域などによる明確な相場はありませんが、大まかな目安を把握しておくことは非常に重要です。自社の売却相場を把握しておけば、いわゆる「買いたたき」を防ぐことができます。

大まかな計算方法

中小規模のデイサービス・通所介護のM&Aでは、時価総額に営業利益の数年分を加算した額「時価純資産+営業利益×2〜5年」を大まかな相場と考えることができます。

実際の価額は売り手・買い手の交渉で決まるため、相場より高い価額でM&Aが成立するケースやその逆もありますが、目安を知っておくことで適正価額でのM&Aを目指すことが可能です。

なお、社会福祉法人の場合は株式を持たないため、経営権を移転する際は理事長(経営者)の交代と理事会メンバーの入れ替えによって行います。この場合は取得対価の発生しませんが、代わりに買い手側は理事長や理事会メンバーに支払う退職金の用意が必要です。

企業価値の評価方法

M&Aの最終価額は売り手側の企業価値をベースとする交渉によって決まります。企業価値は、対象企業の有形資産や負債、人材やノウハウなどの無形資産、事業の成長性などを考慮して算出するものです。企業価値の算出方法は大きく以下の3種類に分けられ、算出時のベースとなるものが違います。

  • コストアプローチ:貸借対照表の純資産額をベースに算出する
  • マーケットアプローチ:類似する上場企業を選定し、時価総額や過去のM&A事例と比較して相対評価する
  • インカムアプローチ:対象企業(事業)の将来の収益予測をベースに算出する

企業価値の算出は複雑な計算が必要な方法も多く、どの算出方法が適しているかは企業によって違うため、算定は専門家に依頼することをおすすめします。

10. デイサービス・通所介護業界のM&Aの注意点

デイサービス・通所介護業界のM&Aを行う際、売却側は以下の点に注意して進めることが大切です。意識してM&Aに臨むことが、より満足度の高いM&A成立につながります。

M&Aを行う目的を明確にする

まず、なぜM&Aを行うのかを明確にしておくことです。後継者問題の解決、事業拡大、従業員の雇用維持、経営基盤の安定など、何を重視するかは企業によって違うでしょう。

目的が明確にしておくことで戦略がたてやすくなり、相手先探しや交渉時においても正しい判断ができるようになります。

従業員の流出を防ぐ

デイサービス・通所介護施設にとって、従業員・有資格者などの人的資源は非常に重要です。

買収側は人材確保を目的としていることも多いため、売却側はM&Aの実行前に人材が流出しないよう注意しておく必要があります。

従業員・有資格者の混乱を招かないよう、適切なタイミングで丁寧に説明することがポイントです。

建物の所有・メンテナンスを確認する

M&Aを行う前は、デイサービス・通所介護施設の状態を確認しておくことが大切です。買収側は、メンテナンスの必要はあるか、費用がそのくらいかかるのかなどによって、成長度合いや投資を判断するひとつの材料とします。

売却予定施設の状態を改めて確認しておくとともに、事前に対応できる箇所は済ませておくとよりよいでしょう。

専門家に相談する

M&Aは成立するまでに多くの行程があり、専門的な知識が必要となる場面もでてきます。自社の通常業務への支障を最小限に抑えつつ、M&Aを進めていくためには専門家のサポートが有用です。

デイサービス・通所介護業界のM&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。当社は、中小・中堅規模のM&A案件を主に取り扱っており、全国に案件に対応しています。

 知識・支援実績豊富なアドバイザーが多数在籍しており、ご相談からクロージングまで丁寧にサポートさせていただきます。

M&A総合研究所の料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)

無料相談を随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお電話・Webよりどうぞお気軽にお問い合わせください。

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11. デイサービス・通所介護のM&Aにおける成功ポイント

事業状況の把握

デイサービス・通所介護のM&Aを行う際は、事業状況を可能な限り正確に把握しておくことが重要です。デイサービス・通所介護の利用者属性とその割合、具体的なサービス内容などはもちろんのこと、補完すべき点はどこかなども確認しておくとよいでしょう。

事前に事業状況をしっかり確認しておくことで相手先の絞り込みがしやすくなり、M&A後のシナジーなども検討しやすくなります。

早めのタイミング

M&Aを成功させるためには、実施タイミングをはかることも必要です。M&Aが活発に行われている時期であれば相手先もみつかりやすく、好条件でのM&A成立にも期待できます。

また、事業承継を目的としている場合は、経営者が引退間近になってからM&Aに取り掛かっても予定していた時期に間に合わない可能性も考えられるので、M&Aを検討し始めたらできるだけ早期から準備に取り掛かっておくこともポイントです。

経営資産の保有

デイサービス・通所介護のM&Aでは、売り手側の保有する経営資産の内容や状態も重要なポイントとなります。デイサービス・通所介護事業は装置産業としての一面もあるため、人的リソースだけでなく所有している建物や設備の状況も把握しておかなければなりません。

メンテナンスが不十分だったり多額の修繕費用が予想されたりする場合、買い手側からの評価が下がる可能性もあるため、売却側はM&A実施前に建物や設備の状況を再確認し、自社で対応できる箇所は済ませておくことが大切です。

12. デイサービス・通所介護業界のM&Aした経営者のその後

デイサービス・通所介護業界の売却後、現経営者にはさまざまな選択肢があります。M&A後に引退し、ハッピーリタイアメントを実現した経営者も多いです。

そのほか、役員として継続勤務するケースもあります。特にPMIや事業の引き継ぎが長期にわたる場合などは、スムーズに進めていくために一定期間役員として残るケースも多いです。

また、デイサービス・通所介護施設を売却後、現場に残ってヘルパー業務にあたる経営者もいます。この場合は買収側との交渉が必要ですが、介護業界ならでは選択といえるでしょう。

13. デイサービス・通所介護業界のM&A・事業譲渡まとめ

高齢化の進む日本では、介護業界のサービスはなくてはならない存在です。デイサービス・通所介護施設を含め今後もニーズは高くなることが見込まれ、それに伴いM&Aが活用されるケースも増えてくると考えられます。

デイサービス・通所介護業界のM&A・事業譲渡を成功させるためには、タイミングを逃さないことも大切です。

M&Aを検討し始めたらできるだけ早い段階で専門家に相談し、計画的に進めていくこととよいでしょう。

14. 訪問介護・デイサービス業界の成約事例一覧

15. 訪問介護・デイサービス業界のM&A案件一覧

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