2025年07月07日更新
印刷会社のM&A動向と成功のポイント|相場や手続き、事例を解説
印刷業界は市場縮小や後継者不足などの課題に直面し、M&Aが重要な経営戦略となっています。本記事では印刷会社のM&Aの動向や手法、企業価値を高めるポイント、成功のための注意点を専門家の視点で解説します。
目次
1. 印刷会社の事業内容と特徴
印刷会社は、書籍や雑誌、ポスター、チラシ、パンフレットといった印刷物を製造する会社です。市場シェアの動向を見ると、ポスターやチラシなどの「商業印刷」が最も大きく、次に伝票や名刺などの「事務印刷」、そして新聞や書籍などの「出版印刷」と続きます。業界の多くは中小企業によって占められているのが実情です。
印刷会社の主な業務工程は以下の3つに大別されます。
- プリプレス:原稿の企画やデザイン、文字入力、刷版の元となるフィルム出力などを行う工程です。
- プレス:プリプレスで作成された版を使い、実際に印刷を行う工程です。
- ポストプレス:印刷されたものを折り込んだり、断裁したりして製品として仕上げる工程です。
現在の印刷業界では、商業印刷のプレスを主軸とする会社が多数を占めています。また、包装資材やビジネスフォーム印刷など、特定の分野に特化した企業も存在します。
2. 印刷会社のM&Aで用いられる代表的な手法
近年は大手企業や中小企業で積極的なM&Aが行われていますが、実際にどのような手順で行われているのでしょうか。
では印刷会社の数点の事業手続き方法を紹介します。
株式譲渡
印刷会社のM&Aで最も多く用いられているM&Aの手法が株式譲渡です。
株式譲渡では買い手企業は、売り手企業側の半分以上の株式を買収して子会社化を進めます。
株式譲渡が完了すれば売り手企業側内で取締役会や株主総会を開催し、その後に買い手企業が代表取締役や新役員の選任を行います。
その際に売り手側と買い手側の双方で効果的な経営統合を図るのが一般的です。
株式譲渡の手続きは、単純な株式譲渡と株式名簿名義書換の記載で比較的簡単に手続きが完了します。
事業譲渡
特定事業や資産のみを売買対象とするM&A手法です。売手は不採算事業を切り離して中核事業に集中でき、買手は必要な事業だけを選んで買収できるため、簿外債務などを引き継ぐリスクを低減できます。ただし、事業譲渡では資産や契約、従業員の移籍などを個別に手続きする必要があるため、株式譲渡に比べて手続きが煩雑になりやすい点がデメリットです。
会社分割
会社の全ての事業を分断し、それぞれの事業を別会社に移転するM&A手法を会社分割といいます。
一般的な会社分割では企業再編を図るため、第三者に事業を引き継いでもらうのがポイントです。
会社分割が行われる企業の事業や権利は移転先の会社にそのまま引き継がれ、新設会社に移転するケースを「新設分割」、既存会社に移転するケースを「吸収分割」といいます。
3. M&Aで印刷会社の企業価値を高める3つのポイント
M&Aで自社をより良い条件で売却するためには、企業価値(バリュエーション)を高めることが不可欠です。ここでは、印刷会社の企業価値評価で特に重要視されるポイントを解説します。
運営するにあたり従業員が確保できているか
現在はさまざまな業界で人口減少に伴う労働力不足が問題視されており、印刷業界においても多くの企業が人材不足に頭を抱えています。
したがって事業運営のための従業員を確保できている企業を買収すればその後のシナジー効果などを見込めるので、売り手企業は高い評価を得ることが可能です。
設備が整っているか
十分な設備が整っている点も印刷会社の評価を高めるポイントの1つです。
事業に必要な設備が備わっていない事業を買収しても、買い手側は十分なシナジー効果を得ることはできません。
また設備が整っていない事業を買収すれば、その後に莫大な設備投資費用がかかってしまうかもしれません。
一方で売り手企業の設備が事業に必要な設備が整っていれば買収後すぐに事業展開できるうえに、シナジー効果も期待されて高評価で買収されます。
デザインや企画もできるか
印刷業務だけでなく、デザインや企画もできる印刷会社は高評価される可能性が高くなるのも重要なポイントです。
デザインや企画もできれば受注できる案件の幅も広いので、買い手側から考えれば高いシナジー効果を得られると判断されて高評価に繋がる可能性が高くなります。
そしてデザインや企画から印刷まで、ユーザーに一貫したサービスを提供できる印刷会社は希少価値が高くなり、買収金額も高くなります。
4. 印刷会社のM&Aにおけるメリット【売手・買手別】
印刷会社で事業承継を行えば労働力確保や効率的な事業展開などのメリットを得ることができますが、具体的にどのようなメリットを得ることができるのでしょうか。
では印刷会社の事業承継を実施するメリットを買い手側・売り手側の双方の立場から紹介します。
【売手側】事業承継・会社売却のメリット
印刷会社で事業承継を行えば、売り手企業はさまざまなメリットを得ることができます。
ここからは印刷会社で事業承継を行った際の売り手側のメリットを解説します。
従業員の雇用を確保できる
従業員の雇用を確保できるのも、印刷会社でM&Aを行った際に売り手側が取得できるメリットの1つです。
現在は印刷業界においても業績不振により倒産・廃業する事業者も多く見受けられます。
そして倒産・廃業すれば従業員も職を失ってしまいます。
そこで業績不振になる前に事業承継を行って他社に事業を引き継げば、従業員もそのまま他社に雇用されて労働者保護に繋がるのも重要なポイントです。
経営者利益を確保できる
印刷会社でM&Aを行えば、経営者は経営者利益を確保できるのも売り手側のメリットの1つです。
業績不振や人手不足で倒産・廃業すれば、経営者は事業を失うと同時に莫大な負債を抱えてしまいます。
そこで事前に事業承継を行えば廃業を免れて事業を他社に引き継げるうえに、事業売却による売却益を得ることも重要なポイントの1つです。
後継者問題を解消できる
後継者問題を根本的に解決できる点は、売手にとって最大のメリットの一つです。親族や社内に適任な後継者がいなくても、M&Aによって第三者に事業を託すことで、長年培ってきた技術や従業員の雇用、取引先との関係性を守り、会社の存続を図ることができます。
【買手側】会社買収のメリット
印刷会社で事業承継を行えば、売り手側同様に買い手側も複数のメリットを得ることができます。
では買い手側のメリットを解説します。
優秀な人材を確保できる
優秀な人材を確保できるのも、印刷会社で事業承継を行った際の買い手側のメリットの1つです。
新規事業を立ち上げれば人材を確保し、1から教育・指導を行わなければいけません。
しかし事業承継を行って他社を買収すれば、売り手企業の人材も引き継がれるので業務になれた優秀な人材を確保できるのもポイントの1つです。
新規事業を簡単に開始できる
ゼロから新規事業を立ち上げる場合に比べ、時間とコストを大幅に削減できるのがM&Aの大きな利点です。すでに事業基盤が整っている会社を買収することで、許認可の取得や設備投資、人材採用といったプロセスを省略し、迅速に事業を開始・拡大することが可能になります。
5. 印刷会社のM&Aにおける売却価格の相場
現在は多くの印刷会社が事業拡大や収益性向上のために積極的な事業承継を展開している事例も多いですが、実際の取引相場はどのように算出するのでしょうか。
では印刷会社の事業承継における取引相場や算出方法を解説します。
価格相場
印刷会社の事業承継における価格相場は事業規模や企業価値によって異なるので、価格相場を断言するのは困難です。
しかし一般的な相場事例を参考にすると億単位を超える相場事例も多数見受けられ、中小企業であれば数千万円から数億円程度の相場で取引されています。
価格相場の算出方法
印刷会社のM&Aにおける売却価格は、企業価値評価(バリュエーション)によって算出されます。主に、企業の純資産を基準とする「時価純資産法」や、将来の収益性を基に評価する「DCF法」、類似企業の取引事例と比較する「類似会社比較法」などが用いられます。どの手法が最適かは企業の状況により異なるため、正確な企業価値を把握するにはM&A専門家への相談が不可欠です。
6. 印刷会社のM&A・事業承継の事例
現在は多くの印刷会社が積極的な事業承継を展開し、自社の収益性向上を図っています。
では実際に今までに行われた印刷会社の事業承継事例を紹介します。
凸版印刷によるMajend Makcs社のM&A
2020年5月には大手印刷会社である凸版印刷が、タイで軟包装の製造・販売を手掛けるMajend Makcs社と株式譲渡契約を交わして子会社化しました。
このM&Aは凸版印刷が、事業規模とサービスの拡大化を計るために行った事例です。
日本創発グループによる小西印刷所のM&A
2020年10月には印刷事業を中心にセールスプロモーションやデジタルコンテンツ事業を展開している日本創発グループが、主に印刷業を手掛ける小西印刷の株式を追加取得して子会社しました。
このM&Aは日本創発グループが事業の拡大化を図るために行った事例です。
共同印刷による共同日本写真印刷のM&A
2021年1月には出版印刷・商業印刷をメインに紙器やチューブなどのパッケージ品やICカードの製造・販売を手掛けている共同印刷が、主に写真印刷事業を手掛ける共同日本写真印刷の全株式を取得して子会社化しました。
このM&Aは、共同印刷がより高いサービスを提供するための体制を整えるために行った事例です。
スキットによるアヤトのM&A
2020年8月にはオリジナル印刷商品の製造・販売や商業印刷事業を手掛けるスキットが、公的機関向けの各種印刷物の製造・販売を手掛けるアヤトの全株式を取得して子会社化しました。
このM&Aはスキットが事業規模・シェア拡大のために行った事例です。
キャノングループによるイーデールのM&A
2020年4月には印刷会社大手であるキャノングループが、主にラベルやパッケージ印刷を手掛けるイーデールの株式を取得して完全子会社化しました。
このM&Aはキャノングループがラベル・パッケージ分野への進出を図ると同時に、生産性向上を高めるために行った事例です。
7. 印刷会社のM&Aを成功させるための注意点
印刷会社で事業承継を成功させればさまざまな効果を得ることができますが、成功させるためにはいくつかの注意点があります。
では印刷会社の事業承継の注意点を紹介します。
土壌調査・消防法・建築基準法の確認を行う
印刷工場では、過去に使用したインクや化学薬品による土壌汚染のリスクが潜んでいる場合があります。M&A後に汚染が発覚すると、買手側が浄化費用などの大きな負担を強いられる可能性があります。そのため、デューデリジェンス(買収監査)の際には、専門家による土壌調査の実施を検討することが重要です。また、工場の建物が消防法や建築基準法を遵守しているかも合わせて確認が必要です。
独自印刷技術等の情報漏洩リスク
印刷会社で事業承継を行う際には、独自印刷技術などの情報漏洩リスクも懸念しなければいけません。
独自の技術を持った事業を買収して市場における自社の専有性を高めようと思っても、承継後に他社にその技術が漏洩すれば意味が無くなってしまいます。
このような事態を防いで適正なシナジー効果を得るためにも、取引開始前に秘密保持契約を結んで事業承継後の情報漏洩を防止するのも重要なポイントです。
8. 印刷会社のM&Aは専門家への相談が成功のカギ
印刷会社で事業承継に成功すれば、後継者問題に関係なく事業の引継ぎができるうえに自社事業の活性化にも繋がります。
しかし取引には税務や財務、法務に関する専門的な知識が必要なので、自社のみで対応するのは大変です。
そこで事業承継の専門家に相談すれば豊富な実績を活かして適切に取引を進めてくれるので、一度相談を検討してみてはいかがでしょうか。
印刷会社の事業承継を進めるのであれば事業承継の専門家も良いですが、効率的な取引を望むならM&Aの仲介会社がおすすめです。
仲介会社に依頼すれば専門的な知識を活用し、承継完了までスムーズに取引を進めてくれます。
特に近年は事業承継に特化している仲介会社も多いので、一度利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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