組織再編税制とは?適格要件から税制改正のメリットや問題点も解説!

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、平成30年の組織再編税制改正をベースとし、組織再編税制とその適格要件を解説します。組織再編税制を知り税務上で有効活用することで企業の事業展開は大きく変わります。優遇措置が得られる適格要件も、改正により緩和されています。税制を知りたい方は必見です。

目次

  1. 組織再編税制とは
  2. 組織再編税制の適格要件とは
  3. 税制改正とは
  4. 平成30年の組織再編税制の税制改正をわかりやすく解説
  5. 平成30年の組織再編税制の税制改正のメリット
  6. 平成30年の組織再編税制の税制改正の問題点
  7. 平成31年の組織再編税制の税制改正の中身
  8. 税制改正により組織再編税制の適格要件は緩和されているか
  9. 組織再編税制における繰越欠損金の取扱い
  10. 組織再編税制のまとめ
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1. 組織再編税制とは

組織再編の実施にあたり、組織再編税制を理解しておくことはとても重要です。本記事では税務にかかわる組織再編税制についてわかりやすく解説します。まずは、組織再編税制の範囲と分類について確認しましょう。

組織再編税制について

組織再編税制とは、会社組織の再編に関係する税務体系を表します。この場合の組織再編とは、1つの会社内における組織替えではなく、M&Aとして複数の会社間で実施される事業や経営の統合・承継、それに伴う組織形態の変更です。

事業が他社に承継されたり、株式の取得により親子会社化が起こったりするなど、それぞれのケースにおいて税務上で取り扱われる税金は変わります。

組織再編税制を知るべき要因

端的にいえば、組織再編税制で定められている適格要件を満たすと、税制上の優遇措置を受けられます。したがって、組織再編税制の仕組みや規定などの内容を把握しておくことは税務上で有益です。

組織再編税制について無頓着にM&Aを実施した場合、本来なら課税されずに済んだ税金を納付することになるかもしれません。

組織再編税制の範囲

組織再編税制が適用されるM&Aのスキーム(手法)は、以下のとおりです。
 

  • 合併
  • 分割型分割(会社分割の1種)
  • 分社型分割(会社分割の1種)
  • 株式交換
  • 株式移転
  • 現物分配
  • 現物出資

事業譲渡は組織再編には分類されませんが、一部の類する部分については組織再編税制の規定が適用される場合があります。

合併

被合併法人と合併法人の間で実施する組織再編が、合併(吸収合併あるいは新設合併)です。

会社分割

分割法人と分割承継法人の間で実施する組織再編を会社分割(吸収分割あるいは新設分割)といいます。分割承継法人から分割法人に支払う分割の対価が株式のケースでは、株式の交付先が分割法人の分割を分社型分割といい、交付先がその株主である分割が分割型分割です。

株式交換

全株式を得た対価として自社株式を交付する方法が株式交換です。

株式移転

すでにある会社の株式を新設立する会社に取得させ、すでにある会社を完全子会社にする組織再編が株式移転になります。持株会社を作るときに使う手法です。

現物出資

現物出資法人から被現物出資法人へ金銭ではない出資を実施し、対価に株式を得ることを現物出資といいます。会社法において、組織再編の方法として定められていませんが、現物出資で会社分割のように事業の切り出し効果が獲得できるので、税法においては組織再編税制の対象です。

現物分配

株主への配当などで、株主へ金銭ではない資産を交付することを現物分配といいます。

株式分配

現物分配法人における100%子会社の全株式を現物分配法人の株主へ配当することが株式分配です。子会社のスピンオフに活用されます。

組織再編を行う理由

組織再編を実施するそれぞれの会社によって、細かな事情はさまざまあるでしょう。組織再編の基本的な経営上の目的は、既存事業をより発展させたり新規事業に参入したりすることなどで、会社の業績を拡大させることです。

組織再編については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】組織再編とは?種類や各々のメリット・目的を解説【事例あり】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

組織再編の分類

組織再編税制においては、実施された組織再編について適格組織再編と非適格組織再編に分類します。これは、各会社間の状況と関係性によって異なる適格要件を満たしているか否かによる結果です。

その結果により、資産や負債を簿価で引き継ぐのか、それとも時価で引き継ぐのかが定まり、どちらになるかで大きく税務が代わります。

適格組織再編

組織再編税制で規定されている適格要件を満たせば適格組織再編(税制適格ともいう)となります。適格要件の内容は組織再編を実施する会社間の関係性によって異なる点に注意が必要です。

具体的には、組織再編を実施する会社間の関係を以下の3タイプで区別しています。

  • 完全支配関係(100%親子会社関係)
  • 支配関係(50%超の親子会社関係)
  • 支配関係(資本関係)はなく共同事業のために組織再編をする関係

適格組織再編の場合、移転させた資産や負債を帳簿上の簿記会計の価額(簿価)で引継げ、結果的に課税を免れます。また、含み損益に対する課税は翌期以降に繰り延べ可能です。

非適格組織再編

組織再編税制の適格要件を満たしていない組織再編は、非適格組織再編(税制非適格ともいう)になってしまいます。この場合、組織再編税制の優遇措置は受けられず、移転された資産や負債は時価で計上します。

その結果、時価と簿価の差額に対して税が課せられ、譲渡損益に対する課税・みなし配当課税・株式譲渡益課税などが発生するのです。

会社法における組織再編行為については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】会社法における組織再編行為を図解で解説!手法、メリット・デメリットも| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

2. 組織再編税制の適格要件とは

ここでは、組織再編税制の適格要件の具体的な内容と、その関連事項について解説します。まずは、適格要件の内容です。組織再編税制の適格要件は、組織再編を実施する会社間の関係を以下の3タイプに分け、それぞれ異なる適格要件となります。
 

  1. 完全支配関係内(100%グループ内)の組織再編
  2. 支配関係内(50%超グループ内)の組織再編
  3. 共同事業を形成するための組織再編

①完全支配関係内(100%グループ内)の組織再編

完全支配関係内(100%グループ内)、つまり100%親子会社関係である場合の組織再編税制における適格要件は以下のとおりです。
 

  • 金銭および同等の支払いがない
  • 支配率100%の継続

②支配関係内(50%超グループ内)の組織再編

支配関係内(50%超グループ内)、つまり資本関係が50%超100%未満である親子会社間の組織再編税制における適格要件は以下のとおりです。
 

  • 金銭および同等の支払いがない
  • 支配率50%超の継続
  • 主立った資産や負債の引継ぎ
  • 従業員のうち、およそ8割程度の引継ぎ
  • 移転した事業の継続

③共同事業を形成するための組織再編

資本関係がない会社間で共同事業をする場合の組織再編税制における適格要件は以下のとおりです。
 

  • 金銭および同等の支払いがない
  • 主立った資産や負債の引継ぎ
  • 従業員の内およそ8割程度の引継ぎ
  • 移転した事業の継続
  • 移転した事業の関連度合い
  • 発行済の株式を8割以上継続して保有
  • 事業規模がおよそ5倍以上、または特定役員が継続して就任されている

迷ったら専門家に相談

組織再編の税務で迷うことなどがあれば、専門家に相談しましょう。税務における失敗は、大きなリスクを背負います。トラブルを発生させないためには、組織再編税制に詳しいM&Aの専門家に相談してください。

全国の中小企業におけるM&Aを数多く手掛けるM&A総合研究所では、組織再編税制の豊富な知識と経験を持つM&Aアドバイザーが、ご相談からクロージングまで案件をフルサポートいたします。

料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を行っておりますので、適格要件を満たした組織再編・M&Aをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。

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組織再編に関わる法人税法とは

日本では、所得に関する税金の取り決めについて、国民個人に関しては所得税法にて定められ、法人に対しては法人税法で課税要件が規定されています。法人税法の中で、組織再編にかかわる主な原則は以下の3点です。

  • 合併や会社分割の場合も含め、移転された資産の含み益、または含み損は譲渡損益として計上する(=資産は時価で承継する)
  • 株式交換や株式移転で対象会社を完全子会社化した場合、その子会社の保有資産は時価評価する
  • 合併などの組織再編の場合、消滅会社の持っていた繰越欠損金は承継できない

組織再編税制の決まり

組織再編税制の適格要件を満たした組織再編を実施した場合は、上述した法人税法上の原則についても、税務の例外措置が取られます。3つの原則に関し、それぞれ個別に内容を見ていきましょう。

支配継続承認時の譲渡損益の扱い

合併や会社分割などの組織再編について適格要件を満たして実施した場合は、移転された資産の支配が継続していると承認されます。したがって、その資産の帳簿への計上は、時価ではなく簿価で引継げるのです。

その結果、移転資産の譲渡損益とされるはずの含み損益(時価と簿価の差額)の計上が繰り延べられて課税措置を免れられます。

適格組織再編成による完全子会社の時価評価

法人税法における通常の扱いでは、株式移転やスクイーズ・アウトも含めた株式交換は、完全親会社側が株式を得て100%子会社を取得しており、実態として他の組織再編と同等であることから、資産は時価で計上しなければなりません。

ただし、これについても適格要件を満たした株式移転や株式交換であれば、特例として資産の時価評価による損益計上を行わずにすみます。

適格組織再編成による繰越欠損金の承継

適格要件を満たした合併の場合、無制限ではありませんが、通常は認められていない消滅会社の繰越欠損金の承継が適格組織再編であることによって認められ、税務上でとても優位になるでしょう。

3. 税制改正とは

組織再編税制なども含まれる税制改正は、毎年度行われています。年度ごとに税制が改正されると、煩雑で税制の中身がわかりにくくなるのが難点です。税制が改正される流れとしては、夏頃に各省庁から改正に対する要望が提出されます。

改正要望の中には、組織再編税制の改正要望も含まれるのが常です。夏頃に改正案が提出された後、秋から冬に検討されて発表されます。その後、閣議決定から国会審議を経て、場合によっては修正が施され、可決されれば改正された税制が施行されます。

株式交換の税務・税金については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】株式交換の税務・税金まとめ!税務の実務に関しても解説!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

4. 平成30年の組織再編税制の税制改正をわかりやすく解説

組織再編税制は、例年改正が行われています。税務にかかわることなので、改正されたポイントを理解しておくことが大切です。ここでは、2018(平成30)年に施行された組織再編税制の改正の中から、以下の2点を解説します。
 

  1. スピンオフ手法を用いた組織再編に関する適格
  2. スクイーズ・アウト手法の組織再編税制への導入

①スピンオフ手法を用いた組織再編に関する適格

スピンオフ手法とは事業の切り出しのことです。会社が既存子会社や事業を切り出して独立させ、その株式を持分割合に対応した数で自社の株主に配分します。

このスピンオフについて、組織再編としての適格要件が明確に決定されました。スピンオフの場合も、適格要件を満たせば適格組織再編と認められ、譲渡損益や配当について課税が繰り延べ措置となります。

②スクイーズ・アウト手法の組織再編税制への導入

少数株主に金銭などを交付して強制的に排除し、大株主だけを株主とする方法がスクイーズ・アウトです。スクイーズ・アウトにより、100%株式保有が可能となり、完全子会社化が実現できます。

具体的には、合併・株式交換・全部取得条項付種類株式・株式併合・株式譲渡請求などの方法を取るのがスクイーズ・アウトです。スクイーズ・アウトの場合も、組織再編の適格要件を満たせば、課税が繰り延べとなる税制が適用されることになりました。

スクイーズアウトにおける税制改正や課税関係については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】スクイーズアウトにおける税制改正や課税関係を徹底解説!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

5. 平成30年の組織再編税制の税制改正のメリット

平成30年の組織再編税制改正の一番大きなメリットは、改正によってスピンオフの税務が行いやすくなったことです。スピンオフが組織再編税制の改正点となったことで、より活発な事業の切り出しが行えるようになりました。

これにより、企業は事業再編を軸とした攻めの経営や投資が行いやすくなっています。実は、前年の2017(平成29)年度の税制改正で、スピンオフは適格組織再編化が可能でした。

しかし、事業を会社分割でスピンオフした場合は、新設分割だけが利用可能という制限つきだったのです。新設分割では、新たに事業の許認可を取得しなければなりません。それでは手続きに労力を要するだけでなく、時間の浪費も考えられます。

そこで、この状況を改善するため平成30年度の税制改正で、100%となる完全支配関係である企業は、組織再編成の適格要件のうち、完全支配関係の継続が適格株式の分配直前までとする改正がなされたのです。

6. 平成30年の組織再編税制の税制改正の問題点

組織再編税制の改正は毎年度行われています。組織再編税制には、問題や課題点が多く残されているからです。特に、課税が繰り延べできる適格要件については、適用範囲のさらなる位置づけが必要でしょう。

しかし、従来の税制改正に比べて近年の組織再編税制の改正は、税務の改善性が図られた改正が積極的に行われており、評価すべき改正ともいえます。

7. 平成31年の組織再編税制の税制改正の中身

2019(平成31-令和元)年度の組織再編税制の改正は、どのような内容が見られるでしょうか。実は、そこまで大きな改正になっていないのが現状です。その中から特に以下の2点に着目し、わかりやすく概要のみ掲示します。
 

  1. 株式交換などの逆さ合併に関する適格要件の見直し
  2. 株式を対価とした組織再編時の適格要件の見直し

①株式交換などの逆さ合併に関する適格要件の見直し

事業規模が小さな会社の方を存続させる「逆さ合併」が、株式交換などが実施された後に見込まれる場合、従来であれば非適格組織再編でした。しかし、今回の改正で適格要件を満たせば適格組織再編に組み込まれることになりました。

②株式を対価とした組織再編時の適格要件の見直し

株式を対価とした組織再編における適格要件が拡充されました。

これまでは合併や会社分割などを行う場合、適格要件「金銭不交付(=対価は株式)」の対象株式は直接の親会社における株式のみでした。しかし、その対象に間接的な親会社(親会社の親会社など)の株式も加えられたのです。

8. 税制改正により組織再編税制の適格要件は緩和されているか

ここまで、税制改正について解説してきました。組織再編税制は改正により緩和されたようにみえます。しかし、実際のところはどうなのか見ていきましょう。

適格要件は緩和されている

適格要件は緩和されている傾向があります。税務的にメリットの高い制度なので、要件の緩和は喜ばしいといえるでしょう。

適格要件を緩和する目的

適格要件を緩和する目的は、事業再編の円滑化です。税制改正によって緩和された適格要件により、事業再編を機動的かつ柔軟に行え、経営者が業績拡大を目指せる選択肢が増えました。

また、社会情勢や経済のグローバル化などの観点から、産業の国際競争力の強化も期待できます。

9. 組織再編税制における繰越欠損金の取扱い

繰越欠損金は、青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金を、翌年度以降における法人所得の計算で損金に算入できる制度です。適格合併による組織再編成では、被合併法人の繰越欠損金を合併法人が承継できます。適格合併は、一定の節税効果が見込めるのです。

繰越欠損金を承継する際は、要件を満たす必要があり、共同事業を行うための適格合併の場合は、繰越欠損金を承継できます。企業グループ内の場合は、支配関係が適格合併日の属する事業年度開始日の5年前の日から続いていれば、繰越欠損金を承継することが可能です。

支配関係を続ける期間が足りない場合は、みなし共同事業要件を満たせば繰越欠損金を承継できるでしょう。

みなし共同事業の要件

みなし共同事業の要件は、①~④あるいは①および⑤に当てはまるケースをいいます。

  1. 事業関連性
  2. 事業規模(5倍を超えない)
  3. 被合併法人の事業規模継続(2倍を超えない)
  4. 合併法人の事業規模継続(2倍を超えない)
  5. 特定役員引継

要件を満たさなければ、繰越欠損金の承継に制限をきたすこともあるでしょう。

10. 組織再編税制のまとめ

組織再編税制は、適格要件を満たした企業に対し、税制上の優遇措置を規定したものです。また、組織再編税制は毎年にわたって改正が行われ、適格要件の緩和により制度の拡充も図られています。

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