介護のM&A|買収を成功させるポイントとメリット・デメリットを専門家が解説

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

高齢化を背景に介護業界のM&Aは活発化しています。しかし、成功には専門知識が不可欠です。本記事では、介護M&Aのメリット・デメリット、価格相場、成功のポイントまでをわかりやすく解説します。

目次

  1. 介護事業の現状とM&A動向
  2. 介護事業をM&Aで買うメリット・デメリット
  3. 介護事業をM&Aで売るメリット・デメリット
  4. 介護M&Aにおける譲渡価格の相場と算定方法
  5. 介護M&Aの一般的な手続きと流れ
  6. 介護事業のM&A事例 
  7. 介護M&Aを成功に導くポイント
  8. まとめ 
  9. 介護事業業界の成約事例一覧
  10. 介護事業業界のM&A案件一覧
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1. 介護事業の現状とM&A動向

日本では年々高齢化が進んでいることもあり、介護事業の需要も高くなっています。介護事業とは、加齢に起因する疾病や認知症のある高齢者向けに生活をサポートする事業を指します。

需要拡大が続いているため、介護事業を買いたいという企業も増えていますが、買収を検討する際はメリット・デメリット、介護事業の現状と課題を把握しておくことが大切です。

介護事業の現状

高齢化が進むにつれて、介護事業に進出したい、介護事業を買いたいと考える企業が増えています。

しかし、介護事業所によって経営に格差が生じているの現状であり、順番待ちが生じている介護事業所もあれば、入居率が低く廃業してしまう介護事業所もあります。

また、介護事業の需要は高まり続けていますが、競争も激化し続けているという現実があります。さらには材不足も深刻であり、介護職員は増え続けているものの需要の増加に追いついていない状況です。

離職率の高さも問題となっており、職場の人間関係や介護事業所の経営方針への不満、給料の安さなど、人材不足を解消するために解決すべき問題は多数あります。

介護事業の課題

介護事業が今後迎える大きな課題は、2025年問題です。2025年には団塊の世代が75歳を迎えるため、高齢化率が急激に高まることになります。

また、2025年には要介護者の増加、介護職員の人材不足、社会保障費の増加などが急速に進むこととなります。

それによって、人材不足による労働環境の悪化がさらに人材不足を呼ぶなど、介護業界の抱えている問題が一気に深刻化するとされています。

国では2025年問題に対応するためのさまざまな施策を打ってはいますが、まだまだ対応しきれていないのが現状です。

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2. 介護事業をM&Aで買うメリット・デメリット

介護事業を買いたいと考えた際は、まずどのようなメリット・デメリットがあるのかを理解したうえで検討する必要があります。この章では、介護事業を買うメリット・デメリットを解説します。

メリット:事業基盤を短期間で獲得できる

介護M&Aにおける最大のメリットは、事業立ち上げにかかる時間を大幅に短縮できることです。ゼロから事業を始める場合、行政への申請、許認可の取得、人材採用、利用者募集など、多くの時間と労力を要します。

M&Aで既存事業を買収すれば、これらの経営資源を一度に獲得でき、速やかに事業を開始・拡大することが可能です。

特に、変化と競争の激しい介護業界において、スピーディーな事業展開は大きなアドバンテージとなります。

また、M&Aによってさまざまなシナジー効果も期待できます。例えば、既存事業との連携によるサービス拡充(売上シナジー)、仕入れや管理部門の一本化による経費削減(コストシナジー)、優秀な人材や優れたノウハウの獲得などが挙げられます。
 

デメリット:想定したシナジーが得られないリスク

M&Aのデメリットは、期待したシナジー効果が得られない、あるいはマイナスのシナジーが発生するリスクがあることです。

買収後の統合プロセス(PMI)が円滑に進まないと、経営方針の違いから主要な職員が離職したり、利用者の満足度が低下して顧客離れが起きたりする可能性があります。

また、買収前のデューデリジェンス(買収監査)で把握できなかった未払賃金や訴訟リスクといった偶発債務(簿外債務)が、買収後に発覚するケースも少なくありません。

さらに、大企業グループ傘下の事業を買収する際は「スタンドアローン問題」にも注意が必要です。親会社の信用力やブランド、管理システムなどに依存していた場合、独立することで事業価値が大きく損なわれる可能性があります。
 

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3. 介護事業をM&Aで売るメリット・デメリット

前章では、介護事業を買いたいと考えた場合のメリット・デメリットを解説しましたが、売り手側にはどのような目的で売却を行うのしょうか。ここでは、介護事業を売るメリット・デメリットをみていきます。

介護事業を売るメリット

介護事業を買いたいと考える企業へ売却するメリットとしては、以下のようにさまざまなものがあります。

【介護事業を売るメリット】

  1. 経営状態を改善できる
  2. 顧客や取引先を継続できる
  3. 後継者問題を解決できる
  4. 創業者利潤を得られる
  5. 先行き不安を解消できる

介護事業を買いたいと真剣に考えている相手へ介護事業を任せることで、経営状態の改善やさらなる発展に期待できます。

廃業を選択すると、利用者やその家族、また取引先に多大な迷惑をかけてしまいますが、M&Aであれば事業を継続できるため、ステークホルダーとの関係を維持できます。

また、介護事業を買いたい相手へ売却することで、後継者問題が解決できるだけでなく、オーナー経営者は創業者利潤を得ることも可能です。

さらに、介護事業を営んでいるとさまざまな先行き不安を感じることはありますが、介護事業を買いたい相手に売却することで、不安を解消することもできます。

介護事業を売るデメリット

介護事業を買いたいと考える企業へ売却するデメリットも、当然考えられます。介護事業を売却する場合は、生じ得るデメリットを把握しておくことが大切です。

【介護事業を売るデメリット】

  • 予定よりも統合にかかるコストが増大する可能性がある
  • 従業員の待遇が悪くなる可能性がある
  • 顧客や取引先の流出が起きる可能性がある

M&A後の統合プロセスがうまくいかない場合、売り手企業にとってもデメリットが生じます。

例えば、買い手企業の経営方針転換により、長年勤めてくれた従業員の雇用条件が悪化したり、リストラの対象になったりする可能性があります。また、サービス内容の変更が原因で、長年の顧客や取引先が離れてしまうケースも考えられます。

こうした事態を避けるためにも、売却先を選定する際には、譲渡価格だけでなく、従業員の雇用や事業の将来性といった定性的な側面も重視し、慎重に相手を見極める必要があります。
 

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4. 介護M&Aにおける譲渡価格の相場と算定方法

介護事業のM&Aにおける譲渡価格に、決まった相場はありません。企業の価値は個別の状況によって大きく異なるためです。

一般的に、企業価値評価(バリュエーション)では、時価純資産に「のれん代(営業権)」を加算して算出します。のれん代は、事業の収益力を示すEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)の3〜5年分を一つの目安とすることが多いです。

介護事業の評価においては、特に以下の点が重視されます。

  • 施設の稼働率・入居率:安定した収益基盤の指標となります。過去の推移や今後の見通しも重要です。
  • 人材の定着率:有資格者や経験豊富なスタッフが多数在籍している点は高く評価されます。
  • 施設の立地や状態:建物の築年数や修繕履歴も価格に影響します。大規模な修繕が必要な場合は、その費用が譲渡価格から差し引かれることもあります。

最終的な譲渡価格は、これらの要素を総合的に評価し、買い手と売り手の交渉によって決定されます。

5. 介護M&Aの一般的な手続きと流れ

介護M&Aを成功させるためには、適切な手続きを正しい順序で進めることが重要です。ここでは、一般的なM&Aのプロセスを解説します。

① M&Aの準備と専門家への相談

まず、M&Aの目的(事業承継、事業拡大など)を明確にし、自社の強みや課題を整理します。その上で、M&A仲介会社やFA(フィナンシャル・アドバイザー)などの専門家に相談し、具体的な戦略を策定します。専門家は、企業価値評価や売却先の選定など、M&A全般にわたるサポートを提供してくれます。

② マッチングとトップ面談

専門家を通じて、自社の希望条件に合う相手候補を探します。候補が見つかったら、秘密保持契約(NDA)を締結した上で、より詳細な企業情報を開示します。その後、経営者同士が直接会って経営方針やビジョンについて話し合う「トップ面談」を実施し、お互いの相性を確認します。

③ デューデリジェンスと最終契約

基本合意契約(LOI)を締結した後、買い手側によるデューデリジェンス(買収監査)が行われます。これは、売り手企業の財務、法務、事業内容などを詳細に調査し、リスクの有無を確認する重要なプロセスです。デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な譲渡条件を交渉し、双方が合意すれば、最終契約(株式譲渡契約や事業譲渡契約)を締結してM&Aが完了します。

6. 介護事業のM&A事例 

本章では、実際に行われた介護事業のM&A事例を5つ紹介します。

【介護事業のM&A事例】

  1. ソラストによるJAWAの買収
  2. ソラストによるなごやかケアリンクの買収
  3. 工藤建設によるロケアホームの買収
  4. global bridge HOLDINGSによるYUANの買収
  5. 大東建託によるさくらケアとうめケアの買収

1.ソラストによるJAWAの買収

ソラストによるJAWAの買収

ソラスト

出典:https://www.solasto.co.jp/

介護事業のM&A事例1件目は、ソラストによるJAWAの買収です。ソラストは2018年、介護事業を展開しているJAWAを、株式譲渡契約により子会社化したことを発表しました。

JAWAは大阪や愛知などで14か所のグループホームや介護付き有料老人ホームなどを運営しています。

ソラストは、JAWAの買収によって更なる事業拡大を図り、さらには地域トータルケアの拡充を進めています。

2.ソラストによるなごやかケアリンクの買収

ソラストによるなごやかケアリンクの買収

ソラスト

出典:https://www.solasto.co.jp/

介護事業のM&A事例2件目は、ソラストによるなごやかケアリンクの買収です。ソラストは2019年、介護サービス事業を展開しているなごやかケアリンクを、株式譲渡契約により子会社化することを発表しました。

なごやかケアリンクは、東京都を中心に「デイサービスセンターなごやか」という通所型の介護事業所を展開しています。

ソラストは、なごやかケアリンクを子会社化によって、事業エリアの拡大と強化を図っています。

3.工藤建設によるロケアホームの買収

工藤建設によるロケアホームの買収

工藤建設

出典:https://www.kudo.co.jp/

介護事業のM&A事例3件目は、工藤建設によるロケアホームの買収です。工藤建設は2019年、ロケアホームの介護施設運営事業を、事業譲渡契約により取得したことを発表しました。

工藤建設は「フローレンスケア」という有料老人ホームを運営しており、ロケアホームの買収によって介護事業のさらなる強化を進めています。

4.global bridge HOLDINGSによるYUANの買収

介護事業のM&A事例4

global bridge HOLDINGSによるYUANの買収

出典:https://globalbridge-hd.com/

介護事業のM&A事例4件目は、global bridge HOLDINGSによるYUANの買収です。global bridge HOLDINGSは2018年、大阪府大阪市で住宅型有料老人ホームの運営をしているYUANを、株式譲渡契約により子会社化することを発表しました。

global bridge HOLDINGSは保育や介護を主軸としており、YUANを買収することによって、介護事業展開の充実を図っています。

5.大東建託によるさくらケアとうめケアの買収

大東建託によるさくらケアとうめケアの買収

大東建託

出典:https://www.kentaku.co.jp/

介護事業のM&A事例5件目は、大東建託によるさくらケアとうめケアの買収です。大東建託は2018年、訪問介護事業や居宅介護支援事業などを展開しているさくらケアとうめケアを、株式譲渡契約により子会社化することを発表しました。

これにより大東建託は介護事業をさらに強化し、グループの成長につなげていくとしています。

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7. 介護M&Aを成功に導くポイント

介護事業をM&Aで買ったとしても、その後失敗に終わるケースは少なくありません。本章では、介護事業を買った後の失敗を防ぐポイントについて解説します。

M&Aを成功させる3つのポイント

介護事業のM&Aを成功させるためには、以下のようなポイントを押さえて実施する必要があります。

介護事業M&Aを成功させるポイント
  • M&A戦略を明確にする
  • 幅広い案件情報を取得する
  • 売り手の感情を理解する
 
M&Aを実行する前に、介護事業を買いたい目的を明確にして戦略を立てることが大切です。まずは、自社の現状と課題を洗い出し、どのような手段でどの経営資源を買いたいのかなども明確にしておく必要があります。

また、幅広い案件情報の取得も成功のポイントです。買いたい目的がはっきりしていても、その目的に合致した介護事業がみつからなければ失敗の確率が上がってしまいます。

そのほか、売り手の感情をよく理解したうえでM&Aを進めていくことも大切です。オーナー社長は会社や従業員に強い思い入れがあり売却後どうなってしまうのかと不安を感じることも多いです。条件面だけでなく、気持ちに配慮した交渉が行えるかが重要です。

M&Aが失敗する主な要因

行き当たりばったりの検討してしまうことは、介護事業のM&Aが失敗する要因のひとつです。明確な戦略を立てることなく、ただ目の前の案件を条件だけで判断していると、失敗する確率は高くなります。

まずは、目的を明確にし戦略を練ったうえで、戦略の方向性に合った介護事業を選ぶ必要があります。

また、売り手の感情に配慮しないM&Aも失敗しやすいため、交渉やM&A後の統合作業の際は、着実に信頼関係を築いておくことが大切です。

そのほか、シナジーを正しく評価したうえで適正な買収価格を決めることもポイントです。買収時点でシナジーがありそうだと判断しても、買収後結局シナジーが得られなかったというケースも少なくありません。

シナジー効果を過大評価し、高値で買収してしまう「高値掴み」も失敗の典型例です。期待したシナジーが得られなければ、投資回収が困難になります。M&A仲介会社など専門家の客観的な分析を参考に、シナジーを冷静に見極め、適正な価格で交渉することが重要です。

介護事業のM&Aは、業界特有の専門知識や法規制への理解が不可欠です。成功確率を高めるためには、介護業界に精通したM&Aの専門家に相談することをおすすめします。

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8. まとめ 

高齢化が進むにつれて、介護事業に進出したい、介護事業を買いたいという企業は増えています。しかし実際には、介護事業所によって経営に格差が生じているのが現状です。

介護事業を売りたいあるいは買いたいと考える場合は、どのようなメリット・デメリットがあるのかを把握したうえで、戦略的に進めていくことが大切です。
 
【介護事業を買うメリット】
  1. 時間を買うことができる
  2. さまざまなシナジーが得られる
【介護事業を買うデメリット】
  1. マイナスのシナジーが発生する可能性がある
  2. スタンドアローン問題が発生する可能性がある
 
【介護事業を売るメリット】
  1. 経営状態を改善できる
  2. 顧客や取引先を継続できる
  3. 後継者問題を解決できる
  4. 創業者利潤を得られる
  5. 先行き不安を解消できる
【介護事業を売るデメリット】
  1. 予定よりも統合にかかるコストが増大する可能性がある
  2. 従業員の待遇が悪くなる可能性があ
  3. 顧客や取引先の流出が起きる可能性がある

9. 介護事業業界の成約事例一覧

10. 介護事業業界のM&A案件一覧

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