会社分割のメリット・デメリットは?分類、手続き、事業譲渡との相違点も徹底解説

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

分社化の手段としても用いられる、会社分割のメリット・デメリットを中心に記事をまとめました。メリット・デメリット以外にも、会社分割の概要と類型、類似するM&A手法である事業譲渡との違い、手続きの流れ、税務、採用すべきケースなどを解説します。

目次

  1. 会社分割とは?
  2. 会社分割と事業譲渡の相違点
  3. 会社分割のメリット
  4. 会社分割のデメリット
  5. 会社分割を採用すべきケース
  6. 中小零細企業が会社分割をする理由
  7. 会社分割のプロセス・手順
  8. 会社分割の必要書類
  9. 会社分割の費用と期間
  10. 会社分割の税務処理
  11. 会社分割のメリット・デメリットまとめ
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1. 会社分割とは?

会社分割とは?

M&Aにおける会社分割とは、譲渡側企業の事業部門を丸ごと譲受側企業に移転する組織再編行為のことです。譲渡側企業を分割会社、譲受側企業を承継会社ともいいます。事業部門丸ごとの移転とは、事業に関する資産、権利義務、許認可、人材など全てを包括承継することです。

会社分割の特徴として、対価に分割会社の株式を用いること、新設分割と吸収分割の2種類の手法があることなどが挙げられます。承継会社が支払う対価の支払い先の違いによる分類などもあるので、それらの概要・違いを以下の説明で確認しましょう。

新設分割について

新設分割とは、新設された企業が承継会社となる会社分割です。上図の左側が新設分割のイメージ図になります。資本関係のない新設企業が承継会社となるケースもありますが、分社化の際によく用いられるのが新設分割です。

上図(左側)で説明すると、A社が新たに子会社A’社を設立し、A’社に対してB事業を会社分割(新設分割)することで分社化、つまりはB事業部門を独立化させています。

吸収分割について

吸収分割とは、既存企業が承継会社となる会社分割です。上図では右側が該当します。吸収分割の場合は、承継会社が支払う対価に現金を用いることが可能です(新設分割では、承継会社が新設企業で現金がないため対価は株式しか用いられません)。

吸収分割における分割会社の実施目的は、経営のスリム化、不採算事業あるいは撤退する事業の売却などが挙げられます。一方、承継会社の目的は、事業規模の拡大や新規事業の獲得(進出)などです。

会社分割の類型

会社分割には、手法の種類とは別に、対価の支払い先が承継会社か承継会社の株主かという分類もあります。その名称は、対価を承継会社の株主に支払う場合が人的分割、承継会社に支払う場合が物的分割です。特殊な分割として共同分割もあります。

手法の種類と組み合わせると会社分割の類型は、以下の5つです。

  • 人的新設分割
  • 人的吸収分割
  • 物的新設分割
  • 物的吸収分割
  • 共同分割

人的新設分割

人的新設分割は、新設分割において対価を分割会社の株主に支払う会社分割です。別称で、分割型新設分割ともいいます。用いられるケースは、事業承継において2つの事業を別々の後継者に承継する場合や、グループ内で該当事業を兄弟会社として独立させる場合などです。

人的吸収分割

人的吸収分割は、吸収分割において対価を分割会社の株主に支払う会社分割です。別称で、分割型吸収分割ともいいます。分割会社の株主は、承継会社の株主にもなるということです。

物的新設分割

物的新設分割とは、新設分割において対価を分割会社に支払う会社分割です。別称で、分社型新設分割ともいいます。分割会社の該当事業部門を、子会社として独立させる際に用いる会社分割です。

物的吸収分割

物的吸収分割とは、吸収分割において対価を分割会社に支払う会社分割です。別称で、分社型吸収分割ともいいます。承継会社が、事業の買収手段として用いる場合の対価は現金です。株式を対価に用いた場合は、分割会社が承継会社の株主として資本参加することになります。

共同分割

共同分割は、人的分割・物的分割とは別の概念の会社分割です。共同分割では、複数の企業が分割会社となります。つまり、承継会社は、別々の企業から同時に会社分割を受けるということです。新設分割でも吸収分割でも、共同分割はあり得ます。

ここではあえて分類として分けてはいませんが、共同分割の場合も共同新設分割と共同吸収分割があり、いずれの場合も主な目的は複数の事業を1社に統合することです。

以上の説明のように、ひと言で会社分割と言っても、目的により分類が分かれます。これはM&Aスキーム(手法)全体にも言えることです。したがって、会社分割などのM&Aを検討する際は、専門家からアドバイスを受けてスキームの選択など戦略を練る必要があります。

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2. 会社分割と事業譲渡の相違点

事業譲渡とは、譲渡側企業の事業とそれに関連する資産や権利義務などを選別して売買取引するM&Aスキームです。事業が移転することで、会社分割と事業譲渡は一見、類似して見えます。しかし、そこには違いがあり、会社分割と事業譲渡の主な相違点は以下のとおりです。

  1. 税金
  2. プロセス
  3. 偶発債務などの簿外債務の承継

①税金

事業譲渡では、譲渡側企業に法人税が課されます(他の損益と通算して赤字の場合は非課税)。譲渡対象に消費税課税資産が含まれている場合、譲受側企業は消費税を負担しなければなりません。

会社分割は、会社法上の組織再編行為です。会社法で示されている要件を満たせば、適格会社分割と見なされ譲渡側企業は法人税の優遇措置を受けられます。包括承継となる会社分割は、消費税法上の課税取引に該当しないため、消費税は発生しません

②プロセス

事業譲渡は個別承継であるため、取引先との契約や従業員との労働契約など、全て個別に相手方の同意を取り、契約を締結し直す必要があります。事業の許認可も引き継げず、担当官庁に申請し新たに取得しなければなりません。このように、事業譲渡は手続きプロセスが煩雑です。

会社分割は包括承継であるため、事業譲渡のような個別手続きは必要ありません許認可も引き継げます(業種によっては新たに許認可を得なければならない場合もあります)。

③偶発債務などの簿外債務の承継

M&Aスキームによっては問題視されるのが、偶発債務などの簿外債務の承継です。簿外債務は、譲渡側企業も認識できていないことがあるため、発覚するまでわかりません。株式譲渡合併、会社分割などは包括承継であるため、簿外債務の承継を防げません

成約前のデューデリジェンス(買収監査)を徹底して行って簿外債務の発見に努め、どの程度のリスクか判断する必要があります。一方、事業譲渡は個別承継です。譲渡対象を選別できるため、簿外債務や不要資産などを対象から外すことで承継をせずにすみます。

3. 会社分割のメリット

ここでは、会社分割のメリット15点を挙げます。

  1. イメージダウンを防げる
  2. 契約のまき直しが不要である
  3. 債権者の同意不要である
  4. 不採算事業をカットできる
  5. 分割中も営業を継続できる
  6. 株式を対価にできる
  7. 後継者を育成できる
  8. 社内や株主関係の整理が可能である
  9. 責任や業績管理を明確化できる
  10. 新規事業に挑戦できる
  11. 従業員の承継が簡単である
  12. 短期間で手続きが完了する
  13. 買収資金が不要である
  14. 一部の事業を移転できる
  15. 資産や契約の引き継ぎができる

①イメージダウンを防げる

会社分割により不採算事業の切り離しなどを行った場合、会社売却などのM&Aよりもイメージダウンが少ないメリットがあります。これは、売却してリタイアした、他企業に負けて取り込まれたなどのイメージになりにくく、心機一転して新しく始めるイメージが強くなるからです。

事業を行ううえで取引先や顧客へのイメージダウンはかなり痛手となるので、そのようなことが起こらないのは大きなメリットだといえるでしょう。

②契約のまき直しが不要である

会社分割は包括承継であるため、承継会社は事業譲渡のように各種契約の締結し直しを行う必要がありません。個別に契約を締結し直すのは、かなり煩雑な手続きです。それを行わなくてすむのは大きなメリットといえるでしょう。

③債権者の同意不要である

会社分割では、実施にあたって債権者から同意を得る必要がありません。債権者への説明と同意を得る手続きを行わずにすむのは、手間が省けてメリットです。

④不採算事業をカットできる

会社分割では、分割会社側で不振の事業を承継会社に移転させることで、会社がスリム化され経営状態の改善が見込めます。

⑤分割中も営業を継続できる

会社分割は、事業譲渡のように譲渡対象を選別しない包括承継となるため、当該事業を停止することなく承継会社に移転できます。

⑥株式を対価にできる

会社分割は、対価を株式の交付で行えます。M&Aのために現金を調達しなくてすむのはメリットです。

⑦後継者を育成できる

後継者候補がいる場合、会社分割の新設分割を実施し、新会社(子会社)の経営と移転した事業の運営を後継者候補に一任する体制にすることで、経営経験を積ませられます。後継者の育成に役立つでしょう。

⑧社内や株主関係の整理が可能である

社内や株主関係の整理も分割により可能となります。たとえば、A事業に力を入れたい株主とB事業に力を入れたい株主がいた場合、主張がこじれてしまうことがあるかもしれません。

そこで、会社分割にて分社化することで株式を割り当てれば両者が互いに力を入れたい事業に打ち込めるので、株主関係の整理ができるメリットがあります。

⑨責任や業績管理を明確化できる

社内に複数の事業がある場合、新設分割で該当事業部門を独立させれば、事業ごとの業績管理がより明確化できます。

⑩新規事業に挑戦できる

吸収分割で他社が行ってきた事業を承継すれば、低リスクかつ瞬時に新規事業への進出が実現できます。

⑪従業員の承継が簡単である

類似するM&Aスキームである事業譲渡の場合、個別承継であるため、移籍する従業員全てと個別に交渉し労働契約を締結し直さなくてはなりません。会社分割は包括承継であるため、個別交渉なしで従業員を引き継げます

⑫短期間で手続きが完了する

会社分割では、事業譲渡のような個別承継ではないため、契約承継のための個々の手続きが発生しません。その分、期間が短く手続きを終えられます。

手続きに要する期間

会社分割の手続きにかかる期間は、目安として2カ月くらいになります。最短では1カ月半ほどで手続き可能です。新設分割は、会社を設立する手続きが加わる分だけ、吸収分割よりも手間と時間がかかります。

⑬買収資金が不要である

事業譲渡や他のM&Aの手法とは異なり、会社分割では対価を株式という形で渡せるので、M&Aを実行する十分な資金がなくても、M&Aが行える大きなメリットがあります。手持ちの資金に不安があり、M&Aに乗り出せないと悩んでいるときには会社分割なら可能です。

⑭一部の事業を移転できる

分割会社としては、会社分割によって不要な事業を移転させ経営のスリム化、主力事業への経営資源の集中が実現します。一方、承継会社としては、必要な事業のみを承継できるので、無駄なコストが発生しません。

⑮資産や契約の引き継ぎができる

会社分割は包括承継なので、事業に関連する資産や取引先との契約、担当従業員との雇用契約など、個別交渉の手間なく円満に引き継げます

4. 会社分割のデメリット

会社分割にもデメリットがあります。発生し得る会社分割のデメリットは以下の13点です。

  1. 財務手続きが複雑である
  2. 全ての資産を引き継ぐ
  3. 株主の3分の2以上の同意が必要である
  4. 業種により許認可の引き継ぎができない
  5. 株式の現金化が難しい
  6. 取締役の兼務が難しい
  7. 相手の営業力や技術力が劣る
  8. 社内意識の低下や意思疎通が不足する
  9. 企業の活力低下が起こる
  10. 人材や技術が流出する
  11. 会社の肥大化が起こる
  12. 固定費負担が増える
  13. イメージ低下の可能性がある

①財務手続きが複雑である

複数の事業を行っている会社である場合、その一部を切り離すことになるので、税務や財務手続きが複雑になる点がデメリットといえます。

それぞれに対応した財務手続きを丁寧にできるよう体制を整えれば大きな問題にはなりませんが、それだけの人材や時間を確保できないと厳しいので、まずは確認してみてください。

②全ての資産を引き継ぐ

会社分割は包括承継であるため、承継会社は事業に関連する負債も一緒に引き継がざるを得ません

③株主の3分の2以上の同意が必要である

会社分割を実施するには、株主総会での特別決議が必要です。株主総会開催の手間がかかることと、特別決議は議決権の半数以上の株主が出席し、そのうちの3分の2以上の株主の賛成を要します。

④業種により許認可の引き継ぎができない

会社分割は包括承継ですから、基本的に許認可も引き継げます。ただし、業種によっては、新たな事業主が許認可を申請・取得しなければならないケースもあるため、事前確認が必要です。

⑤株式の現金化が難しい

会社分割するときに対価として株式を受け取っても、分割会社が上場企業でない場合には株式の現金化が難しいデメリットがあります。

⑥取締役の兼務が難しい

会社分割では、取締役の兼務が難しいことがあります。なぜなら、他の役員を兼務することにより独占禁止法上の問題に触れる可能性があるからです。競業関係に立つ会社の取締役を兼務することで、競業避止義務に違反する可能性も捨てきれません。

これらは、会社法上で定められているため、問題がないかは専門家に聞いておくべきでしょう。

⑦相手の営業力や技術力が劣る

会社分割後に、代表取締役が変わることなどが原因で企業の活力が急速に低下するリスクがあるので、このようなデメリットにも注意しなければいけません。

分割後の動きは、しっかりとした経営基盤があるのか、今後の目的や達成すべき課題はどのようなものがあるのかなど明確化しておきましょう。そうすることでリスクを最小限に抑えられます。

⑧社内意識の低下や意思疎通が不足する

会社分割で分割された事業部門に属する従業員は、承継会社に移籍することになります。新たな経営者や取締役の下で働くことになるため、就業意識の低下や上層部と意思疎通ができない事態に陥るかもしれません。

そのような事態になってしまっては、会社分割そのものがデメリットになってしまうので、注意して行わなければいけません。承継会社側としては、社内意識をどうするべきか、意思疎通はどのように取るべきかなどの経営方針はしっかりと固めておく必要があるでしょう。

⑨企業の活力低下が起こる

会社分割をしたことで、企業が2つに分かれてしまうので活力の低下につながるリスクがあり、企業の活力が低下するとサービスや開発力が欠けてしまうため、デメリットにつながることがあります。

こうした活力の低下によるサービス内容の変化や開発力の低下は、技術者の確保なども視野に入れて会社分割前から地盤を固めておくことが重要です。

⑩人材や技術が流出する

会社分割では人材の流出などは少ないと思われがちですが、経営陣が変わることで優秀な人材の流出も起こりかねません。優秀な人材の流出が原因で企業の活力が低下するデメリットがあるため、M&Aのリスクとしてしっかり理解しておくべきポイントです。

⑪会社の肥大化が起こる

会社分割により、複数の事業を抱えることになる承継会社は、体制が肥大化していくことになります。会社の規模が大きくなるのは悪いことではありませんが、適宜、組織編制を見直していかないと、無駄なコストが発生していたり、意思の疎通が行き届かなかったりすることが懸念点です。

⑫固定費負担が増える

会社分割により事業部門を承継した会社は、その分だけ組織・人員が増えます。必然的に固定費も増えますから、その分の資金繰りの手当てが必要です。

⑬イメージ低下の可能性がある

株式譲渡や事業譲渡などのM&Aと比べるとイメージ低下の可能性は低いですが、分社化した会社のイメージが悪くなってしまうと、分割会社もグループ企業としてみられる可能性もあり、デメリットにつながりかねません。

このような部分はしっかりとケアして行うことが、会社分割やM&Aでは大切です。

会社分割などのM&Aのデメリットは、専門家に業務を依頼することで避けられるものです。専門家選びでお困りでしたら、M&A総合研究所にご連絡ください。

M&A総合研究所には、M&Aに精通したM&Aアドバイザーが在籍しており、会社分割などのM&Aに関する手続きをフルサポートします。随時、無料相談を行っていますので、会社分割などのM&Aをご検討の際は、お気軽にお問い合わせください。

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5. 会社分割を採用すべきケース

ここでは、会社の経営戦略として、会社分割を採用すべき3つのケースを掲示します。

  1. 事業形態を抜本的に改革したい
  2. 事業分野の強み・弱みが明確になった
  3. 事業拡大と経営理念が乖離してきた

①事業形態を抜本的に改革したい

経営状況を好転させるために事業形態を抜本的に変えたいと考えているのなら、承継会社として会社分割を行うことは有効な経営戦略になります。現在、行っている事業と同一事業を承継すれば規模の拡大となり、別事業を承継すれば新規事業への進出がかなうからです。

②事業分野の強み・弱みが明確になった

多くの企業で事業の多角化は、経営戦略として採用されています。全ての事業が順風満帆ならいうことはありませんが、どうしても好調な事業とそではない事業が出てきてしまうものです。

そのようなケースでは、不調な事業にテコ入れするよりも、事業の選択と集中を検討しましょう。不調の事業を会社分割で他社に移転させることで、好調な事業に会社の経営リソースを集中させられます。

③事業拡大と経営理念が乖離してきた

事業規模の拡大もよく行われる経営戦略です。しかし、規模を拡大し過ぎると、無駄なコストの発生に気づけなかったり、従業員の意思統一が不十分になったりなど弊害も生まれます。そのまま放置すると経営の悪化につながってしまうかもしれません。

事業拡大と経営理念が乖離してきたと感じた場合には、会社分割により事業の一部を他社に移転させ、事業規模を再設計するとよいでしょう。

6. 中小零細企業が会社分割をする理由

最近では、中小零細企業の会社分割が頻繁に行われています。この背景には、税務や手続きを簡易化する目的で会社分割が選ばれるでしょう。新設分割により100%子会社として分社化し新設会社を立ち上げることで、消費税は発生せずに諸手続きが簡易となります。

こうしたメリットにより、中小企業では事業譲渡よりも会社分割がM&Aの手法で選ばれやすいでしょう。中小企業では、株式移転をしても現金化できないことや、事業譲渡をしても安い代金で売買することになりメリットが多くありません。

そこで、会社分割によって利益の効率化を図ることが多いでしょう。以上のことから中小零細企業の会社分割が増加傾向にあるといえます。

7. 会社分割のプロセス・手順

会社分割の主なプロセス・手順は以下のとおりです。

  1. 取締役会の承認
  2. 吸収分割契約の締結または新設分割の計画書作成
  3. 事前開示書類を備え置く
  4. 社員に対する事前通知
  5. 債権者保護手続き
  6. 株主総会の特別決議
  7. 登記申請
  8. 事後開示書類を備え置く

以上のプロセスの中から、特に重要な以下のものについて解説します。
  • 取締役会の承認
  • 吸収分割契約の締結または新設分割の計画書作成
  • 社員に対する事前通知
  • 債権者保護手続き
  • 株主総会の特別決議
  • 登記申請

取締役会の承認

取締役会を設置している会社の場合、会社分割(吸収分割)契約を締結する前に、取締役会の承認が必要です。新設分割の場合は、新設分割計画書をを作成後、その計画書に対して取締役会の承認を得なければなりません。どちらの場合も、合わせて株主総会招集も決議します。

取締役会の議事録には、必ず以下の記録が必要です。

  • 開催日時
  • 開催場所
  • 出席取締役名
  • 会社分割契約締結の承認または新設分割計画書の内容承認

吸収分割契約の締結または新設分割の計画書作成

吸収分割契約書には、以下の項目の記載が必須です。

  • 分割会社・承継会社それぞれの商号と所在地 
  • 会社分割の対象資産
  • 会社分割の対価・支払い方法 
  • 会社分割の効力発生日
  • 分割型分割の場合はその関連事項

新設分割の場合、承継会社は新設会社であるため、現時点ではまだ設立されていません。契約締結できる状態ではないため、それに代わって新設分割計画書を作成し、会社分割の概要を示します。

社員に対する事前通知

会社分割は包括承継ですから、事業譲渡のように社員それぞれとの労働契約の締結し直しは必要ありません。ただし、「会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(通称、労働契約承継法)」が定められており、その規定に沿って以下の内容を事前通知する必要があります。

  • 分割会社・承継会社の商号
  • 会社分割の実施時期
  • 会社分割される事業
  • 会社分割後の就業場所
  • 会社分割後の業務内容
  • 異議を申し出る場合の手続き方法

債権者保護手続き

会社分割では、債権者の同意は不要ですが、以下のような債権者保護手続きはしなければなりません。

  • 官報公告に会社分割実施の旨を掲載する
  • 公告の際に分割会社・承継会社それぞれの商号、所在地を明示する
  • 分割会社・承継会社それぞれの貸借対照表も掲載する

債権者保護手続きが完了していない場合、会社分割は効力を得ません。必ず手配しましょう。

株主総会の特別決議

会社分割を行うには、株主総会の特別決議が必要です。特別決議は、議決権を持つ過半数の株主が出席し、そのうちの3分の2以上の賛成を得なければなりません。

登記申請

会社分割の効力発生日は、吸収分割では会社分割契約書に定めます。効力発生日から2週間以内に登記申請を行わなければなりません。分割会社・承継会社の共同作成書類もあるので相互協力が必要です。新設分割の場合は、新設会社が登記申請した日から効力が発生します。

8. 会社分割の必要書類

ここでは、会社分割で必要となる書類一覧を紹介します。登記申請では以下の書類を法務局に提出しなければなりません。

  • 会社分割契約書
  • 分割契約を承認した株主総会議事録
  • 債権者保護手続きを証明する書類
  • 分割会社の登記事項証明書
  • 資本金の計上証明書
  • 株主名簿
  • 新株予約権提出などの公告を実施したことを証明する書類
  • 株券発行を実施していないことを証明する書類
  • 代表取締役の印鑑証明書
  • 委任状(司法書士に委任する場合)

会社分割のプロセスの中で作成が必要となる書類は以下のとおりです。
  • 取締役会議事録
  • 会社分割契約書
  • 事前開示書類
  • 事後開示書類

9. 会社分割の費用と期間

ここでは、会社分割で発生する費用と効力発生までの期間を掲示します。費用はM&A仲介会社への手数料などは省き、手続き上、発生する費用を紹介します。

  • 分割会社の登録免許税(登記申請時に発生):3万円
  • 承継会社の登録免許税(合名会社・合資会社の場合):3万円
  • 承継会社の登録免許税(合名会社・合資会社で社員の加入がある場合):4万円
  • 承継会社の登録免許税(株式会社・合同会社の場合):増加した資本金額×0.7%(最低3万円)

分割会社から承継会社に移転する資産の中に不動産が含まれている場合、名義変更が必要です。名義変更では上記と同様に登録免許税が発生します。

会社分割に要する期間は、各プロセスを勘案すると最低でも2カ月はかかります。計画検討段階から交渉期間を含めれば、数カ月以上となるでしょう。

10. 会社分割の税務処理

会社分割の税務では、以下の3点がポイントです。

  1. 繰越欠損金の取り扱い
  2. 法人住民税・法人事業税
  3. 不動産取得税

①繰越欠損金の取り扱い

会社分割と合併は、どちらも会社法で組織再編行為とされています。しかし、繰越欠損金の取り扱いは、それぞれで異なり、合併では要件を満たせば繰越欠損金を引き継げますが、会社分割では繰越欠損金を引き継げません

②法人住民税・法人事業税

法人住民税・法人事業税は、「資本金の額など」によって税率が変動する仕組みです。「資本金の額など」の意味合いは、資本金に資本準備金を加算し、さらに会社分割の場合、承継した純資産額も影響します。

これにより承継会社は、「資本金の額など」が上がることで、法人住民税・法人事業税の税率が高くなってしまう可能性があります。M&Aアドバイザーや税理士などに事前に確認しておきましょう。

③不動産取得税

会社分割において不動産を承継した場合、不動産取得税が発生します。しかし、不動産取得税には例外事項が設けられており、以下の要件全てを満たす場合は、不動産取得税は課されません。

  • 会社分割の対価が株式
  • 承継会社での分割事業引き継ぎが明確
  • 主要な資産・負債が承継会社に移転
  • 分割会社の社員の8割以上が承継会社に移籍

11. 会社分割のメリット・デメリットまとめ

会社分割には以下のメリット・デメリットがあります。しっかりとメリット・デメリットを理解したうえで、会社分割をすべきか判断しましょう。

・会社分割のメリット
→イメージダウンを防げる
→契約のまき直しが不要である
→債権者の同意不要である
→不採算事業をカットできる
→分割中も営業を継続できる
→株式を対価にできる
→後継者を育成できる
→社内や株主関係の整理が可能である
→責任や業績管理を明確化できる
→新規事業に挑戦できる
→従業員の承継が簡単である
→短期間で手続きが完了する
→買収資金が不要である
→一部の事業を移転できる
→資産や契約の引き継ぎができる

・会社分割のデメリット
→財務手続きが複雑である
→全ての資産を引き継ぐ
→株主の3分の2以上の同意が必要である
→業種により許認可の引き継ぎができない
​​​​​​​→株式の現金化が難しい
​​​​​​​→取締役の兼務が難しい
​​​​​​​→相手の営業力や技術力が劣る
​​​​​​​→社内意識の低下や意思疎通が不足する
​​​​​​​→企業の活力低下が起こる
​​​​​​​→人材や技術が流出する
​​​​​​​→会社の肥大化が起こる
​​​​​​​→固定費負担が増える
​​​​​​​→イメージ低下の可能性がある

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