2023年12月13日更新
会社売却の手続きってどうするの?M&Aの流れを解説!
中小企業における経営課題解決法の1つに会社売却があります。M&A手法である会社売却は手続き上、さまざまな流れがあるためM&A未経験の中小企業は不安なものです。この記事では、会社売却における契約の内容や方法など、手続きの流れを解説します。
目次
1. M&Aによる会社売却とは
M&Aによる会社売却とは、会社を売ることです。より具体的には、一般の非上場の中小企業であれば、オーナー経営者が自己の所有する自社株式を、第三者である個人または法人に売却し、会社の経営権を譲渡(=株式譲渡)することになります。
この章では、会社売却(買収)と合併との違い、会社売却を実行した場合のメリットやデメリットについて考えてみましょう。
会社売却(買収)と合併との違い
会社売却は株式譲渡によって、買収側に会社の経営権を譲渡するものです。外部から見れば会社の経営者(株主)が代わるだけで、会社組織や運営事業、資産、従業員、権利義務などは、何の変化もありません。
一方、複数の企業間で行われる合併は、存続会社にその他の企業が統合されるものです。つまり、存続会社以外の企業は消滅会社となって会社組織はなくなり、消滅会社の事業や資産、従業員、権利義務などは全て存続会社が継承します。
このように、会社売却であればM&A後も会社は存続しますが、合併の消滅会社となった場合には会社は統合されてなくなってしまうことが大きな違いです。
M&Aによる会社売却のメリット
会社売却で考えられる主なメリットは、以下の5点です。
- 売却益の取得
- 債務、個人保証の解消
- 後継者問題の解決
- 従業員の雇用確保
- 会社発展の可能性
売却益の取得
会社の経営成績が一定の状況であるなら、それ相応の金額で会社売却は成立するはずです。したがって、会社売却した経営者は、多額の売却益を取得できます。新たな事業資金にもなるでしょうし、老後の豊富な生活資金としても有効です。
債務、個人保証の解消
会社売却(株式譲渡)では、会社の持つ全てのものについて包括的に買い手に承継されます。したがって、原則として会社の債務は買い手(新たな経営者)に引継がれるので、売り手側は、その義務を負いません。
また、非上場の中小企業の場合、金融機関などから融資を受けるにあたっては、経営者が個人保証をしたり担保を差し入れたりすることが多くあります。しかし、債務そのものが買い手に引継がれるので、原則として個人保証や差し入れ担保も解消されることが見込まれるのです。
後継者問題の解決
引退間近の経営者に後継者がいないことが、全国の中小企業で経営課題となっています。会社売却によって、会社は新たな経営者に引き継がれるわけであり、後継者問題は解決します。
従業員の雇用確保
仮に後継者が見い出せず、経営者の引退とともに会社が廃業となってしまったら、働いていた従業員は職を失い路頭に迷うことになります。しかし、会社売却が成立すれば会社は存続していくわけですから、従業員の雇用は守られて安泰です。
会社発展の可能性
会社売却において、買い手は経営上の思惑があってM&Aを実施しています。その経営戦略のもと、新たな経営体制と資本力によって、会社が大きく発展する可能性に期待が持てるでしょう。
M&Aによる会社売却のデメリット
会社売却を実施する場合、主なデメリットとして考えられるのが以下の3点です。
- 運営方針・経営方針の変化
- 従業員の雇用条件の変化
- 取引先や顧客との関係性の変化
運営方針・経営方針の変化
親族内事業承継や社内事業承継によって経営者が代替わりしたのであれば、会社の運営方針・経営方針に大きな変化が出ることは、あまりないでしょう。
しかし、会社売却により第三者に経営者が代わる以上、新たな経営者のもと、会社の運営・経営方針に変化が生じるのはやむを得ない事態です。会社売却後では、経営に対して元の株主(経営者)には何の権限も残っていませんから、口出しもできません。
その対策
会社売却の売り手側が、今までの会社の運営方針や経営方針をできるだけ維持してほしいと考えるならば、これは会社売却の交渉中に手を打っておくしかありません。つまり、会社売却の交渉条件のなかに運営・経営方針の維持・堅持を盛り込むのです。
ただし、必要な交渉条件はほかにもあるはずであり、破談とならないよう、条件には優先順位をつけて臨むことは忘れないでください。
また、そもそもの会社売却の相手選びの段階で、買い手の観点や考え方が、売り手側のそれと近しい感覚の相手を選ぶようにするとよいでしょう。
従業員の雇用条件の変化
運営方針・経営方針の変化と同様に、経営者が代われば従業員の雇用条件にも変化が生じる可能性が高いです。ほとんどの場合で買い手側も企業であり、雇用条件が定まっています。買い手の傘下企業となったからには、雇用条件の統合はやむを得ません。
ただし、買い手側が大手企業であれば、その雇用条件は売り手側企業よりも良い可能性があります。この場合は雇用条件が改善され、従業員にはありがたいでしょう。
その対策
万が一、会社売却後に従業員の労働条件が低下してしまう懸念があるなら、会社売却の交渉中に条件を明示することが肝要です。
買い手側も、M&Aのメリットとして従業員の獲得を望んでおり、労働条件の低下によって従業員が退職・流出するような事態は避けたいと考えています。したがって、この条件交渉は比較的合意しやすいはずです。
取引先や顧客との関係性の変化
会社売却後、経営の統合プロセス(PMI=Post Merger Integration)が実施されていくなかで、人事の配置換えなどで担当者が代わったり、退職してしまったりすることも大いにあります。
その場合に懸念されるのが、担当者の人間関係も含めて成立していた取引先や顧客との関係性に変化が生じてしまうことです。PMIには時間がかかるため、これがスムーズに進まないと、取引先や顧客などとの対外関係もこじれてしまうかもしれません。
その対策
会社売却後の取引先や顧客との関係性の変化については、会社売却の売り手ではなく買い手が対策すべきです。
具体的には、有効でスピーディーなPMIを実施しましょう。万が一担当者を代える場合には十分な引継ぎを行い、取引先や顧客に不満が生じないよう十分な配慮を施さなければなりません。
2. M&Aによる会社売却の手続きと流れ(概要)
会社売却にはさまざまな手続きが必要です。手続きの流れは、主に以下の6つのステップに分けられます。
- M&A準備段階
- トップ面談
- 意向表明書の提示
- 基本合意の締結
- デューデリジェンス
- 最終譲渡契約の締結とクロージング
会社売却手続きの流れ各6ステップに関しては、次章で細かく解説します。
3. M&Aによる会社売却の手続きと流れ
それでは、会社売却手続きの主要な6段階のプロセスについて、順を追って説明します。
- M&A準備段階
- トップ面談
- 意向表明書の提示
- 基本合意の締結
- デューデリジェンス
- 最終譲渡契約の締結とクロージング
①M&A準備段階
会社売却を実施するにあたっては、まず前段階でいくつかの重要な準備が必要です。ここでは、特に重要と思われる以下の3項目について解説します。
- M&A仲介会社との契約
- 自社の企業価値評価
- 買い手候補のリストアップ
M&A仲介会社との契約
複雑な手順の会社売却を自社だけで行うことはほとんど不可能でしょう。まずは、M&Aを円滑に行うため、M&A仲介会社などと契約することが肝心です。
例えば、M&A仲介会社を通すと、譲渡する会社や事業に興味を持つ買い手企業を、多くの選択肢のなかから探せます。そのため、会社売却に関する一連の流れが有利かつスムーズに進められるでしょう。
自社の企業価値評価
契約をしたM&A仲介会社に依頼し、売却する自社の価値判断をします。そうすることで売却価額の想定が可能となり、さらには適切なM&AスキームM&Aスキームの選択や今後の流れなどが決められるのです。
企業価値評価では、自社の改善すべき点なども洗い出せるので、買い手候補が決まるまでの間、少しでも企業価値を向上させるよう努めましょう。
買い手候補のリストアップ
自社診断を終えて公開用の資料を作成したら、買い手候補のリストアップをします。M&A仲介会社と契約した場合、豊富なネットワークとデータのなかから、条件に合う買い手候補をピックアップしてくれます。
この段階では売り手企業の社名などは開示せず、大まかな条件だけを提示して交渉の余地があるかを判断します。交渉の余地があるか判断するうえで、M&Aの専門家である仲介会社の手腕が発揮されるところともいえるでしょう。
そして、手ごたえのあった企業のなかから数社~10社程度に絞り込み、「守秘義務契約」を結んだうえで、あらためて売り手企業の具体的な情報を開示します。
これらはすべてM&A仲介会社を通して行われ、この段階での法的拘束力は発生しません。
②トップ面談
M&A仲介会社によるマッチングを行い、買い手候補を絞り込めたら、売り手企業と買い手候補とのトップ面談をします。このトップ面談で複数の事項を確認しますが、この段階でも法的拘束力は発生しません。
M&Aを結婚にたとえると、トップ面談はまさに「お見合い」のようなもので、双方のフィーリングや経営に対する理念や考え方を確認し合い、価値観を共有できるか確かめ合う段階です。
主な確認事項は、会社のどこに興味を持ったのか、買収後どのように運営していくのか、経営方針はどのようなものか、買収資金はどのくらいかなどがあります。お互いに会社の印象を確認するほか、プレゼンテーションのような感覚での質疑応答もあるでしょう。
店舗や工場などがあれば、見学や商品のデモンストレーションなども必要になります。これは、売り手企業の商品や技術などをアピールするための場です。
トップ面談は希望があれば複数回行うもので、契約書のように1度交わせば終わりというわけではありません。また、複数の買い手企業とトップ面談を行うこともあります。
③意向表明書の提示
トップ面談後、双方が納得したら、M&A仲介会社が間に立って、買い手側から「意向表明書」の提示を受けます。意向表明書とは別名LOI(Letter of intent)とも呼ばれるもので、買収を具体的に検討する意思を伝える提案書です。
意向表明書は、その時点においてのM&Aスケジュールや流れ、M&Aによって想定されるシナジー効果、企業を譲り受けたい理由、経営の展望などを、買い手が売り手に伝える書類になります。
この段階では、M&Aがどの方法で行われるのか、どの企業と契約すればいいのか、複数の買い手企業と交渉している場合もあり、売り手側としては、どの企業とM&Aを進めていくのかを判断する材料です。
意向表明書は、今後M&Aを実施する流れで交渉材料になることもあるので非常に大切です。基本合意書の合意事項も、この書面を参考に作られます。
ただし、意向表明書はM&A手続きの流れにおいて必須プロセスではありません。意向表明書が提出されないケースもあるのです。したがって、意向表明書に記載されている事項に法的拘束力はありません。
④基本合意の締結
意向表明書を確認して双方にM&Aの意思があれば、基本合意に向けた合意条件の確認に移ります。主な合意条件は、業種やM&Aを実施する方法により違いもありますが、一般的には以下の点が確認事項です。
- 譲渡価額
- 今後のスケジュール
- 取引形態(株式譲渡・事業譲渡など)
- デューデリジェンスへの協力
- 独占交渉権の付与
- その他の合意事項
これらを双方で確認したら「基本合意契約書」を交わします。これは、最終的な契約に向けた直前段階の契約書です。
「基本合意契約書」には、M&A契約予定日や大まかな条件、法的拘束の範囲などが記載されます。双方でこの合意がなされると、会社売買の成立を目指す本格的流れに向けて一直線です。
⑤デューデリジェンス
デューデリジェンス(Due Diligence)とは、法務や財務、会計、労務など各部門の専門家がさまざまな角度から売却企業を調査し、M&Aの内容を検討する作業です。買い手が売り手の経営実態や問題点、リスクなどを把握するために行います。
デューデリジェンスでは、権利や許認可、M&Aスキーム、売買価額などの観点だけではなく、過去の税務申告書や財務諸表などから企業の財政状態チェックなども必須です。
また、契約書などの重要書類から、資産の所有権やさまざまな契約の妥当性、労働関連法令の順守状況、許認可関連、訴訟の有無など細かく確認されます。
売り手側はデューデリジェンスを受ける立場になりますので、速やかで誠意ある対応をし、提出を求められた資料を不足なく迅速に提出しなければなりません。
デューデリジェンスには、求められる書類を速やかにそろえられる各部門の専門知識が必要なので、専門家のサポートを受けられるM&A仲介会社などの存在が望ましいといえます。
⑥最終譲渡契約の締結とクロージング
デューデリジェンスが終了し、双方ともにM&Aの意思が固まったら「譲渡契約書」を作成します。この契約書は、弁護士による内容チェックを受けたうえで、売り手、買い手双方の最終的な責任者が締結するものです。
譲渡契約書とは、この場での便宜上の呼称であり、M&Aスキームが株式譲渡であれば株式譲渡契約書、事業譲渡であれば事業譲渡契約書という名称になります。
クロージングとは、譲渡契約書に定められたM&A代金の支払いも含め、株式譲渡や事業譲渡などの引き渡し手続きを行い経営権の移転を完結させる意味の言葉です。
それら各種の最終手続きには一定の時間を要する場合もあるため、最終譲渡契約書締結後、一定期間後にクロージングを実施することが一般的になっています。
4. M&Aによる会社売却の手法
M&Aのスキームは、これまでに説明した株式譲渡や合併以外に、事業譲渡、株式交換、株式移転、会社分割などがあります。
一般に、中小企業が行う会社売却で用いられるM&Aスキームは株式譲渡ですが、状況によっては事業譲渡が用いられることも少なくありません。この章では、株式譲渡と事業譲渡の違いがわかるように会社売却の手法を説明します。
株式譲渡
株式譲渡とは、株式の売却によって会社の経営権を移転させる方法です。買い手は、その会社の経営権を引継ぐことになります。このように、株式の売買のみで取引が成立するため、ほかのM&Aスキームと比べて、手続きが簡便であることがメリットです。
また、株主が代わった以外には会社そのものに何の変化もないため、M&Aの実施に左右されることなく会社は事業を継続できます。しかしながら、買い手には株式譲渡ゆえのリスクに注意が必要です。
それは、会社の経営権を引き継ぐことにより、隠れていた簿外債務が後で発覚し、経営に悪影響をおよぼす可能性があります。したがって、買い手としては十分なデューデリジェンスを実施し、簿外債務や偶発債務などを事前に明らかにしておくことが重要です。
株式譲渡の流れ
会社売却の主な手続きの流れはすでに説明しましたが、株式譲渡を実施する際のより詳細な手続きの流れについて、デューデリジェンス以後の「最終譲渡契約の締結とクロージング」の段階で行われる内容を掲示します。
【株式譲渡実施時におけるデューデリジェンス以降の売り手側手続きの流れ】
- 株主(経営者)は会社に対して譲渡制限株式の譲渡の承認を請求する
- 取締役会設置会社では取締役会で承認の決議を行い、それ以外では株主総会を開催し承認の決議(普通決議)を行う
- 譲渡承認決定の通知を行う(承認請求があった日から2週間以内に通知をしなかった場合、承認をしたとみなされるので注意が必要)
- 株主(経営者)は株式譲渡契約を締結し対価の支払いを受ける
- 会社は株主名義を書換える
事業譲渡
事業譲渡とは、会社が行っている事業や資産を個別に譲渡(売買)するM&Aです。売り手側の株式はそのままですから、会社自体は経営者も変わらず、そのまま存続します。また、株主(経営者)は当事者ではなく、売却の当事者はあくまで会社です。
売り手と買い手、双方の事業譲渡メリットとしては、譲渡・譲受する事業や資産を選別できることです。売り手としては不要となった事業や資産の換金化となり、買い手としては新規事業の獲得や既存事業の拡大が望めるとともに、不要な負債などの譲渡を拒めます。
しかし、事業・資産を譲渡・譲受する場合、それに伴って従業員、取引先、債務なども移転することになります。その同意を取りつけたり、個別に再契約したりなど、手続きが煩雑となる点がデメリットです。
また、事業に必要な許認可などは会社が個別に取得しているため、事業譲渡では移転できません。したがって、買い手は、必要な許認可があれば、新たに取得手続きを行うことが必要です。
そして、売り手の場合には会社法にて競業避止義務が規定されています。競業避止義務とは、同一区市町村および隣接する区市町村において、譲渡した事業と同一の事業を20年間、行ってはならないという規定です。
事業譲渡の流れ
事業譲渡についても、デューデリジェンス以後の「最終譲渡契約の締結とクロージング」の段階で行われる簡単な手続きの流れについて、その内容を掲示します。なお、譲渡対象が事業の全部または重要な一部であるとの前提で説明します。
【事業譲渡実施時におけるデューデリジェンス以降の売り手側手続きの流れ】
- 会社は取締役会にて事業譲渡の承認決議を行う(取締役会設置会社の場合)
- 事業譲渡契約の締結
- 会社は株主総会を開催し特別決議を得る(一定の場合には、決議不要となる例外もあります)
- 資産などの名義変更、転籍従業員の手続き、取引先との契約変更処理、顧客への通知などを行う
譲渡する内容によっては、上記以外にも手続きが発生する場合があります。
5. M&Aによる会社売却価額の決め方(企業価値評価方法)
会社売却手続きの流れで最初のプロセスである「準備段階」において、自社の企業価値評価(バリュエーション=valuation)を行うことを説明しました。この企業価値評価方法には、M&Aの現場において確立された専門的な算出方法が複数あります。
さまざまな企業価値評価方法を大別すると、それは以下の3種類です。それぞれの概要を説明します。
- コストアプローチ
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
①コストアプローチ
売却企業の純資産に着目し、それをベースに企業価値評価を行うのがコストアプローチの手法です。端的には、主として貸借対照表の各数値から計算を行います。客観的かつ比較的簡易に算定できるのが特徴です。
具体的なコストアプローチの代表例としては、「時価純資産法」や「簿価純資産法」などがあります。
②マーケットアプローチ
マーケットとは市場のことです。つまり、マーケットアプローチとは、株式市場やM&A市場での他社の取引価額をベースとして企業価値評価を行います。
具体的には、上場企業や公表されているM&A実施企業のなかから、売却企業と同業種・同規模の会社を探し、その会社の株価やM&A実施時の売却価額を参照するものです。客観性に優れる方法ですが、同業種・同規模の会社が見つからないと実施できません。
具体的なマーケットアプローチの代表例としては、「類似企業比較法」や「類似取引比準法」などがあります。
③インカムアプローチ
売却企業が、今後に生み出すであろうキャッシュフローや利益を算出し、そこにリスクも勘案して企業価値評価を行うのがインカムアプローチです。具体的には、売却企業の中期計画をベースとして企業価値を導き出します。
売却企業の現在の価値だけではなく、将来の収益力も勘案している点で優れた企業価値評価方法です。しかし、そのベースとなる中期計画において、計画作成者の恣意性が加わる可能性は否定できず、その点で信頼性が揺らぎます。
具体的なインカムアプローチの代表例としては、「DCF(Discounted Cash Flow=割引キャッシュフロー)法」や「配当還元法」などがあります。
6. M&Aによる会社売却の税金
会社売却を実施すれば、その対価支払いを受けて利益を得ます。そこに必ず課されるのが税金です。会社売却のために株式譲渡をするケースでは、譲渡する当事者(株主)は個人の経営者の場合と法人(会社)の場合があります。
個人と法人では課せられる税金が異なります。税率などの内容も違うので、それぞれ分けて見てみましょう。
株主が個人の場合の税金
会社売却の株主が個人の場合、課せられる税金は譲渡所得への所得税です。ただし、株式の譲渡所得の場合、総合課税ではなく申告分離課税の扱いとなっています。したがって、累進課税ではなく税率も固定です。
譲渡所得額は、以下の計算式で求めます。譲渡所得額=譲渡価額-株式取得費-手数料
- 譲渡所得額=譲渡価額-株式取得費-手数料
- 株式取得費:所有していた株式を取得する際に要した費用なので基本的には会社の資本金額
- 手数料:M&A仲介会社など株式譲渡実施にあたって業務依頼した相手への手数料
また、2021(令和3)年9月現在の株式譲渡所得への税率は20.315%で、その内容は以下のとおりです。
- 所得税:15%
- 住民税:5%
- 復興特別所得税:0.315%(2037(令和19)年までの時限措置)
株主が法人の場合の税金
株式譲渡では、親会社が子会社の株式を譲渡して会社売却することもあります。この場合、課税を受けるのは株主=親会社ですから、法人です。法人の譲渡益に対して課せられる税金は法人税ですが、ひと言で法人税といっても実際には、以下の4種があります。
- 法人税
- 地方法人税
- 法人住民税
- 法人事業税
これら4種の法人税は個々に税率の条件が異なり、その法人の所在場所や会社の規模、利益額の違いによって細かく税率が違います。そのため、個人の税率のように固定数値が掲示できません。したがって、4種の法人税全てを合わせた実効税率は約30~33%です。
譲渡益(法人の場合、譲渡所得とはいわず譲渡益といいます)の計算方法は、個人の場合と変わりません。ただし法人税は、その会社全体の利益に対して課せられるので、株式譲渡の譲渡益も会社の他の損益と通算されたうえで課税されます。
つまり、仮に株式譲渡を行った年度に事業損益が赤字だった場合、譲渡益はその分減額され、課税額も低くなるのです。また、譲渡益額を上回る赤字がある場合、譲渡益は全て相殺されて課税を受けません。
7. M&Aによる会社売却の手続きに必要な書類
ここで、会社売却の手続きに必要な書類を確認しましょう。会社売却の際には、方法によって必要な書類が異なりますが、主なものを挙げると以下のようになります。
- 自社のPR資料
- 基本的資料
- 財務資料
- 人事資料
- 契約関連の書類
以上の会社売却時の必要書類について、代表的な具体例を下表にまとめました。
自社PR資料 | 自社をアピールできる資料 | 話題になった商品や雑誌の掲載、新聞記事など |
事業計画書 | 今後3ヶ年分の見通し(中期計画書) | |
基本的資料 | 商業登記簿謄本 | 履歴事項全部証明書 |
定款 | - | |
株主名簿 | - | |
会社案内 | ||
印鑑証明書 | 法人・代表者各1通 | |
財務資料 | 決算書など財務資料一式 | 税務申告書、決算書、勘定科目内訳書(直近3期分)、納税証明書や借入金の詳細状況など |
月次試算表 | 月単位の収支予測を事業ごとに用意 | |
土地・借地権台帳 | 不動産登記簿謄本、最新の借地権の路線価図 | |
人事資料 | 組織図 | 本社・支店・子会社・関連会社 |
役員の経歴書 | 部門長含む | |
従業員名簿 | 氏名・年齢・勤続年数・役職・給与 | |
就業規則などの規則や退職金などの規定 | - | |
契約関連書類 | 取引先との契約書 | - |
賃貸借契約書 | ||
リース等の契約書 | ||
保険契約書 | ||
許認可等の写し | ||
その他の契約書 |
会社売却の契約書
上述した契約書類は相手方に提示する資料ですが、会社売却ではその実施のために新たに締結する契約書が複数あります。まずはじめに締結する必要があるのは、M&A仲介会社などとの業務委託契約です。
そして、トップ面談までに複数の買い手候補企業と秘密保持契約書を結び、M&Aについての基本的な合意がなされれば基本合意契約書を交わします。
基本合意後、デューデリジェンスを経て最終譲渡契約書締結の運びとなりますが、M&Aのケースにより内容・項目はさまざまです。会社法上の取り決めも特にありません。
この秘密保持契約書、基本合意契約書、最終譲渡契約書の契約書は、各種の法規制を押さえて交わす必要があるため、不備がないよう弁護士などの専門家のチェックが必要です。
会社売却を円滑に進めるためには、この3つの契約書を正確に作成しなければなりません。信頼できるM&A仲介会社などを探すことが会社売却成功の第一歩といえるでしょう。
M&A仲介会社の選び方のコツは、その実績に着目することです。実績のあるM&A仲介会社ほど、その情報網も充実している可能性が高いです。
8. M&Aによる会社売却をするための準備期間
ここまで、会社売却における手続きと流れを紹介してきましたが、具体的に会社売却にはどれくらいの期間を要するのでしょうか。もし、できるだけ良い金額や条件で会社を売却しようと考えている場合、一般的に2年は必要であるといわれています。
十分な準備期間を設けず会社を売り急いでしまった場合、買い手が見つからず倒産してしまったり、買い手が見つかっても不利な条件を提示されてしまったりするかもしれません。
買い手が欲しがるような魅力を増すためにも準備期間を十分確保し、M&A仲介会社などとともに会社の内容を整理し、希望する条件や金額で会社売却を目指しましょう。
9. M&Aによる会社売却先を探すには
会社売却実施時の最大のポイントは、買い手探しといっても過言ではありません。通常、自力で探すのは難しい会社売却の相手探しについて、その有効な探し方、および依頼相手について、あらためて検証してみましょう。
会社売却の依頼先は主に下記の通りです。
- M&A仲介会社
- 各都道府県の公的機関
- 金融機関や相談できる士業
- マッチングサイト
①M&A仲介会社
M&A仲介会社はM&Aの専門家です。各社は、それぞれ独自のネットワークを構築し、多数の会社売却および買収希望企業の情報を持っています。
成約までに相応の手数料は発生しますが、専門的な各プロセスの手続きも安心して委託できることも含め、依頼先の第1候補です。
②各都道府県の公的機関
中小企業の後継者不足による事業承継問題は全国的な課題ですが、近年、その解決方法としてM&Aによる事業承継が注目を集めています。国や自治体も後継者難の中小企業の事業承継を推進すべく、相談先として公的機関を設立しました。
代表的なのは、各都道府県で組成された事業承継ネットワークと、その中核的存在である事業引継ぎ支援センターです。事業引継ぎ支援センターは、中小企業庁からの委託事業として各都道府県で設置されました。
そして、事業引継ぎ支援センターを中心として各都道府県で構成されたのが事業承継ネットワークです。その構成メンバーは、自治体、商工会・商工会議所、金融機関、士業団体、その他の公的機関などで、どの機関に行っても無料で相談できるメリットがあります。
ただし、具体的に会社売却が進んでいく場合、そのサポートには民間のM&A仲介会社が紹介・斡旋されることになるので、その意味では最初からM&A仲介会社に相談した方が話が早いかもしれません。特に現在、ほとんどのM&A仲介会社は無料相談を受け付けています。
③金融機関や相談できる士業
ほとんどの金融機関や士業事務所は、各都道府県において事業承継ネットワークの構成メンバーになっています。したがって、無料で会社売却の相談に応じてくれるでしょう。ただし、金融機関や士業事務所も、無料なのは相談段階までです。
具体的な会社売却先が定まり、その仲介を金融機関や士業事務所が行うのであれば、M&A仲介会社同様に手数料は発生します。
④マッチングサイト
ここ数年でM&A仲介会社の数も急増し、それと同等に増えたのがM&Aのマッチングサイトです。マッチングサイトでは、文字どおり会社売却を希望する側と買収を希望する側が、それぞれサイトに情報を登録し、相手を探して交渉します。
特に会社売却をする側は手数料が無料というマッチングサイトも多く、手数料を節約して会社売却を行いたい場合には有効な方法かもしれません。ただし、相手との交渉や契約書の作成・チェックなどの手続きを自分たちだけで行う点はリスクがあります。
10. M&Aによる会社売却を成功させるには
最後に、M&Aによる会社売却を希望どおりに成立させるためのポイントを考えてみましょう。会社売却に不可欠な存在が買い手です。買い手とうまく交渉することは確かに重要ですが、それ以前にポイントとなる2点を掲示します。
①買収側にとって魅力のある会社作りをする
仮に類似する条件の売却希望会社が複数あった場合、買い手はどうやって相手を決めるでしょうか。その検討材料となるのは魅力の差です。魅力のある会社とは、どのような会社なのでしょうか。一般的に考えられるM&Aでの売却会社の魅力とは以下のようなものです。
- 収益性がより高い
- 有力な取引先がいる
- 会社や事業の特徴が明確化されている
- 負債がない、または少ない
- 資産管理が行き届いている
- 株主が経営者のみ
「株主が経営者のみ」という点がなぜ魅力かというと、中小企業でありがちなのが、経営者の親類や取引先、会社の役員など少数株主が多数いることです。
買い手としては、できれば会社の経営権を100%取得したいところですが、このように少数株主がいると、それぞれと交渉する必要が生じてしまいます。したがって、少数株主がいない会社の方に魅力が増すわけです。
スクイーズアウトなどの手法を用いれば強制的に少数株主を排除できるので、そのような中小企業の場合は、早めに専門家である弁護士やM&A仲介会社などに相談して対策を講じておいた方がいいでしょう。
②買収側のM&A手法に合わせた売却戦略を立てる
M&Aによる会社売却の場合、直接的な条件交渉の内容は株式譲渡の対価となります。しかし、実際には、それに付随して売り手、買い手とも詳細な条件が伴うものです。
前項の魅力の話にも通じますが、買い手が実施したいM&Aの内容や条件がわかると、それに見合ったプレゼンテーションや交渉ができます。したがって、買い手の真意を見抜く眼力が必要です。
そうなると、専門家であるM&A仲介会社などのサポートやアドバイスを受けながら、買い手のM&Aの主眼に合わせた売却戦略が必須になります。
11. まとめ
会社売却手続きの流れは、以下の6つのステップに分けられます。
- M&A準備段階
- トップ面談
- 意向表明書の提示
- 基本合意の締結
- デューデリジェンス
- 最終譲渡契約の締結とクロージング
それぞれのステップごとに注意点がありますので、気をつけながら手続きを進めることが肝要です。初めての会社売却であれば、会社売却の専門家であるM&A仲介会社などに相談すると一貫したサポートを受けられます。うまく専門家を頼り、会社売却を成功させましょう。
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