2024年01月19日公開
動物病院の事業承継とは?手続き方法からメリット・費用まで徹底解説!
動物病院で事業承継を踏み切ることを迫られている状況が見られています。しかし、動物病院の事業承継の事情を知っておく必要があります。今回は動物病院の事業承継を検討している方に向けて、手続きの方法やメリットなどについて解説します。
目次
1. 動物病院業界の最新事情
動物病院業界でも事業承継を進める動向が見られています。
しかし、動物病院業界の動向などを知らないまま事業承継に踏み切ってしまうケースも見られています。
まずは動物病院業界の動向を把握しましょう。
動物病院業界の動向
動物病院業界の動向として、犬や猫の飼育数減少の動向が見られています。
動物を飼う人が減っていくと供給過多となってしまうため、動物病院同士の競争が激化してしまいます。
実際、東京などの主要都市では動物病院の集中が懸念されているのが現状です。
一方で、高齢化と核家族化の問題が加速している現状から、さまざまなペットの価値が高まっています。
各地域での動物病院のニーズが少しずつ高まっており、社会のニーズに応えるために事業承継を行って事業を継続させることが大事です。
動物病院業界の事業承継状況
動物病院業界の事業承継において、経営者の高齢化が問題となっています。
後継者となる親族がおらず、動物病院でM&Aを選択する事例が他の業界ほどまだ多くないため、廃業を選択するケースが多いです。
廃業を選択すると、患者側にとってはそれまで頼りにしていたかかりつけの病院を失うことになります。
そういった患者に配慮するためにも、廃業ではなく事業承継を選択できるような対策が進められています。
全国に1万院以上の動物病院がありますが、そのうちの半数以上は事業規模が小さく、院長1人のみで医療行為を行っているのが現状です。
上記のような事業規模の小さい動物病院が集約されれば、無理な状況で経営を持続する必要はなくなります。
2. 動物病院の事業承継を行うメリット&デメリット
動物病院の事業承継を行うメリット・デメリットを把握しておきましょう。
事業承継のメリット・デメリットを知っていると、安心して事業承継を実施するか判断しやすいです。
売却側と買収側に分けて、動物病院の事業承継のメリット・デメリットを解説します。
メリット
事業承継のメリットを売却側と買収側に分けて解説します。
売り手側
事業承継の売り手側のメリットとして、事業が継続できる点があげられます。
廃業を選択せずに買収側企業に引き継いでもらうことで事業が継続できます。
事業が継続できればそれまで積み重ねてきたものをなくさずに済むため、経営体制は変わっても事業を継続させたい場合は事業承継を実施しましょう。
また、売却益が獲得できる点も事業承継の売り手側のメリットとしてあげられます。
老後資金に悩む中小企業の経営者が多い傾向にありますが、第三者に対して事業承継すれば会社・事業の対価がもらえます。
受け取った対価を老後資金に補填することが可能です。
買い手側
事業承継の買い手側のメリットとして、シナジー効果が発揮できる点があげられます。
動物病院同士で事業承継を行い、事業拡大を狙う方法もあります。
しかし、動物病院とペットショップやカフェなどの業種がやや異なる事業と事業承継を行い、事業展開を狙う方法も有効です。
双方の持つ強みを生かすことができれば、新しい商品・サービスが話題を呼んで新規顧客獲得に繋がる可能性が出てきます。
また、優れた人材が獲得できる点も事業承継の買い手側のメリットとしてあげられます。
経営基盤が悪い動物病院でも優れた技術・ノウハウを持っている人材が在籍しているケースも少なくありません。
事業承継を通じて優れた人材を新しい働き手として迎え入れられます。
そういった人材が労働者として加わると、事業承継で得られる効果も大きくなります。
デメリット
事業承継のデメリットを売却側と買収側に分けて解説します。
売り手側
事業承継の売り手側のデメリットとして、かえって事業の衰退が加速する可能性がある点があげられます。
買収側に経営権が渡るため、相手の裁量次第で事業はよい方向にも悪い方向にも傾きます。
少しでも悪い方向に傾かないように、相手の経営者の経営方針やビジョンを確認し、取引相手として相応しいか判断することが重要です。
他にも、想定よりも高い金額で売買できない場合がある点も事業承継の売り手側のデメリットとしてあげられます。
売り手側は提供する動物病院の魅力が伝えられないと、高い売却価格を付けてもらえません。
ただ、後継者不在問題に悩む事業規模の小さい動物病院だと、まずは価格以上に買収相手を見つけることが大事です。
その意識を忘れないでください。
買い手側
事業承継の買い手側のデメリットとして、貴重な従業員が辞めてしまう場合がある点があげられます。
事業承継の内容に納得してもらえない場合、売却側と買収側の双方の従業員が離れてしまうリスクがあります。
場合によっては事業承継で得られる効果が薄れてしまうほど優れた人材が辞めてしまうこともある点に注意してください。
事前にしっかりと話し合っておくと従業員の退職リスクが減らせます。
他にも、想定していたシナジー効果が形にならないことがある点も事業承継の買い手側のデメリットとしてあげられます。
さほど時間をかけずに相手を探してしまうと、シナジー効果に至らないことも多いです。
ある程度時間をかけて慎重に相手を選ぶことが大切です。
3. 動物病院の事業承継の方法
動物病院の事業承継の方法を大きく分けると以下のものがあります。
- 親族間で事業承継
- 従業員に事業承継
- M&Aを利用して事業承継
以下で詳細を解説します。
①親族間で事業承継
動物病院の事業承継の方法として、親族間で事業承継する方法があげられます。
かつては信頼できる家族に事業を引き続いてもらうことが多かったです。
しかし、働き方の多様化により親の仕事を引き継がない動向も見られています。
事業を引き継ぎたいと申し出る親族がいる場合は、親族間での事業承継を検討してみてください。
ただ、親族間だと相続などの手続きが必要となるため、相続手続きなどができる専門家に相談すべきです。
②従業員に事業承継
動物病院の事業承継の方法として、従業員に事業承継する方法があげられます。
親族の中で動物病院の経営の良し悪しができる人材がいない場合、現場のことをわかっている従業員に事業を引き継いでもらうことがあります。
自社の従業員であればある程度信頼して事業を任せやすいです。
ただ、事業成長のための事業承継を行うのであれば、親族や従業員への事業承継だと状況は好転しづらいと考えておいてください。
③M&Aを利用して事業承継
動物病院の事業承継の方法として、M&Aを利用して事業承継する方法があげられます。
M&Aは合併・買収のことで、別の動物病院に会社・事業を譲渡する方法です。
先ほど触れたように、M&Aにはさまざまなメリットがあり、シナジー効果が見込めたり、売却益が獲得できたりします。
事業成長も加味して事業承継を行うなら、M&Aを選択すべきです。
4. 動物病院の事業承継の事例
動物病院の事業承継の事例を知っておきましょう。
事業承継の事例を基に、自社の事業承継で参考にできる部分を取り入れてみてください。
動物病院の事業承継の事例として以下のものがあげられます。
- イオンペットによる東京イースト獣医協会動物医療センターのM&A
- ライフメイト動物救急センターによるアニマルメディカの動物病院事業のM&A
- ANCHORSによる高度医療 CTセンター林宝どうぶつ病院のM&A
- JVCCによるFORPETSのM&A
- キャス・キャピタルによるベトリードのM&A
以下で詳細を解説します。
イオンペットによる東京イースト獣医協会動物医療センターのM&A
動物病院の事業承継の事例として、イオンペットと東京イースト獣医協会動物医療センターの事例があげられます。
イオンペットはひがし東京地区で動物病院を展開している企業です。
イオンペットは地域での動物病院間の連携を深めてエリア全体の動物医療を強化していく目的を掲げています。
その目的に近づくために、同地域で動物病院を展開していた東京イースト獣医協会動物医療センターとの経営統合が適切と判断されました。
そこで、イオンペットは東京イースト獣医協会動物医療センターの全株式を取得しました。
M&Aのスキーム | 株式取得(完全子会社化) |
実施日 | 2022年6月 |
取引価額 | 非公開 |
M&Aの目的 | ひがし東京地区の動物医療の強化 |
ライフメイト動物救急センターによるアニマルメディカの動物病院事業のM&A
動物病院の事業承継の事例として、ライフメイト動物救急センターとアニマルメディカの事例があげられます。
YCPホールディングスはペットケア事業のサービスを提供しており、診療病院事業の展開を視野に入れていました。
アニマルメディカは診察病院として顧客から信頼関係を構築しています。
そこで、YCPホールディングスはライフメイト動物救急センターの会社を新設し、吸収分割の形でアニマルメディカの診療病院事業を引き継ぎました。
M&Aのスキーム | 吸収分割 |
実施日 | 2022年5月 |
取引価額 | 非公開 |
M&Aの目的 | ペットケア事業に関連した診療病院事業の展開 |
ANCHORSによる高度医療 CTセンター林宝どうぶつ病院のM&A
動物病院の事業承継の事例として、ANCHORSと高度医療CTセンター林宝どうぶつ病院の事例があげられます。
キャス・キャピタル株式会社は、アジアを代表するほどの総合動物医療グループの展開を目的としています。
高度医療CTセンター林宝どうぶつ病院は「埼玉動物医療センター」を運営しており、幅広い動物医療の専門診療に対応している病院です。
キャス・キャピタル株式会社にとって埼玉動物医療センターの存在は欠かせないと考え、M&Aに踏み切りました。
キャス・キャピタル株式会社の持ち株会社のANCHORSが高度医療CTセンター林宝どうぶつ病院の株式を取得する形でM&Aが実施されました。
M&Aのスキーム | 株式取得 |
実施日 | 2022年6月 |
取引価額 | 非公開 |
M&Aの目的 | 埼玉動物医療センターの持つ幅広い動物医療の専門診療を活かした事業展開 |
JVCCによるFORPETSのM&A
動物病院の事業承継の事例として、JVCCとFORPETSの事例があげられます。
JVCCはJ-STAR No.3 SS, LPが出資して建てられた企業です。
JVCCは獣医師にとって働きやすく、飼い主にとって信頼できる動物病院グループを展開することを目標に掲げていました。
一方で、FORPETSは獣医師が経営者を務める企業で、東京で動物病院2箇所、ペットサロン1箇所を展開しています。
現場のことも理解している経営者が担う企業がグループに参画することで、事業成長が目指せると判断し、全株式の取得を実行しました。
M&Aのスキーム | 株式取得(完全子会社化) |
実施日 | 2017年10月 |
取引価額 | 非公開 |
M&Aの目的 | 動物病院グループの展開 |
キャス・キャピタルによるベトリードのM&A
動物病院の事業承継の事例として、キャス・キャピタルとベトリードの事例があげられます。
ベトリードは奈良県と京都府南部で質の高い動物病院を展開している企業です。
ベトリードは奈良動物医療センター、吉田動物病院、けいはんな動物病院において、24時間の入院管理体制や集中治療を強みとしています。
キャス・キャピタルは目的達成のために、ANCHORSと高度医療CTセンター林宝どうぶつ病院以外にもM&A展開を積極的に実施しています。
今回の場合だと、持ち株会社のCCH7b株式会社にベトリードの株式を譲渡させる形でM&Aを実施しました。
M&Aのスキーム | 株式取得 |
実施日 | 2022年1月 |
取引価額 | 非公開 |
M&Aの目的 | 奈良動物医療センター、吉田動物病院、けいはんな動物病院などの強みを活かした事業展開 |
5. 動物病院の事業承継の費用相場
動物病院の事業承継を実施する際に、一定以上の費用がかかることを押さえておく必要があります。
また、どの程度の費用だと適切か判断するために、費用相場を知っておくことが大事です。
ここでは動物病院の事業承継の費用相場について解説します。
M&A相場算出方法
M&Aの相場についてですが、正確には相場はありません。
同じ条件下で取引されている事例が少ないため、比較対象にしづらいです。
M&Aにおいて価格を決める際には、決められたスキームで企業価値を計算し、その価格を基に相手企業と交渉して最終的な取引価格が決まります。
ちなみに、M&A企業価値評価のスキームとして以下のものがあげられます。
- コストアプローチ
- マーケットアプローチ
- インカムアプローチ
コストアプローチはバランスシートなどに重きを置いた企業価値評価のスキームです。
資産から負債を差し引いて算出した純資産などを基に評価する方法となっています。
コストアプローチは専門的な知識なく計算しやすく、多くの方が目にするバランスシートなどを用いる点が特徴的です。
そのため、客観的な企業価値評価ができます。
マーケットアプローチは株式価格を基に企業価値評価を行うスキームです。
主に類似企業を比較して良し悪しを判断する方法で、こちらも客観的な企業価値評価ができます。
ただ、類似企業自体を探すことが難しい点に注意が必要です。
インカムアプローチは将来のキャッシュフローなどを用いた企業価値評価のスキームです。
キャッシュフローを一定のリスクで割り引いて企業価値を算定します。
割り引くリスクを決める際に専門的な知識が求められるため、インカムアプローチは専門家なしで採用することはおすすめできません。
ちなみに、リスク算定が個別に行われる点から主観的なスキームとなり、客観性に欠ける点も押さえておきましょう。
M&A相場は割安となるケースが多い
M&A相場は割安となるケースが多いです。
動物病院は利益以上に事業の継続を優先する動向が見られています。
そのため、多少買収側に有利な条件となっても取引を進めることが多いです。
ただ、自社の動物病院の事業の魅力・強みをしっかり伝えれば価格を高く見積もってもらいやすい点を押さえておきましょう。
6. 動物病院の事業承継での注意点
動物病院の事業承継を実施する際にいくつか注意することがあります。
動物病院の事業承継を実施する際の注意点として以下のものがあげられます。
- 取引を行う目的を明確にする
- 相手先の企業を慎重に選ぶ
- 専門家に相談する
以下で詳細を解説します。
取引を行う目的を明確にする
動物病院の事業承継を実施する際の注意点として、取引を行う目的を明確にする点があげられます。
目的が曖昧だとスムーズに事業承継の手続きを進めることが難しいです。
目的をはっきり定めておけば、専門家の相談先が選びやすくなり、事業承継のスキームも絞り込みやすくなります。
何を目的として事業承継を行うかはっきりさせておくと、経営資源を有効活用したり、リスクを分散させたりできます。
方向性がはっきりしていないまま事業承継を進めないために、よく考えて目的を設定してください。
相手先の企業を慎重に選ぶ
動物病院の事業承継を実施する際の注意点として、相手先の企業を慎重に選ぶ点があげられます。
取引相手を決めるのに時間がかかってしまうと、ミスマッチのある取引になる可能性があります。
少なくともお互いの経営ビジョンをすり合わせ、意見が合致する相手かどうかは判断すべきです。
少しでもミスマッチを減らすのであれば、デューデリジェンスまで丁寧に実施しましょう。
デューデリジェンスは相手企業の内部情報を確認することです。
内部情報を調べると、財務的なリスクを抱えている企業も少なくありません。
内部情報を調べてリスクの有無を把握した上で、本当に取引相手として適切か判断してください。
専門家に相談する
動物病院の事業承継を実施する際の注意点として、専門家に相談する点があげられます。
専門家に相談すれば適切な事業承継の流れに沿った手続きが進められます。
また、業界の動向や過去の事例を踏まえたサポートも受けられ、それぞれの状況に合った最適なアドバイスが受けやすいです。
専門家にはいくつか種類があり、それぞれ得意分野が異なります。
そのため、事業承継の目的などと専門家の得意分野が合致するところに相談してみてください。
希望する条件をしっかり伝えることで理想的なM&Aになります。
希望する条件が伝えるためにも、コミュニケーションが取りづらい方が担当者になった場合は他の担当者に替えてもらえないかかけあってみましょう。
7. 動物病院の事業承継を成功させるには準備をしっかりしよう
動物病院では事業承継を行う動向が見られています。
事業承継は無計画に実施して企業で抱える問題が解消するものではありません。
目的を明確にし、専門性に長けている専門家に相談しながら手続きを進める必要があります。
専門家であれば、業界の動向や過去の事例などを踏まえたアドバイスももらいやすく、相手の動物病院との交渉も有利に進めやすくなります。
動物病院の関連企業のM&A支援の実績を持つ専門家はそう多くありません。
そのため、早いうちから利用する専門家を決めたり、目的をはっきりさせたりして準備をしっかり進めておきましょう。
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