病院・医療法人業界のM&A動向!売却のメリットや成功のポイント・事例11選を徹底解説【2024年最新】

取締役 営業本部長
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

医療法人(病院)業界のM&Aは株式会社などのM&Aとは異なる部分が多いため、売買を検討している場合は違いを把握しておく必要があります。本記事では、医療法人(病院)業界のM&A動向や売買に活用される手法、メリットなどを解説します。

目次

  1. 病院・医療法人の市場と課題
  2. 病院・医療法人業界の医療承継・M&Aの動向
  3. 病院・医療法人のM&Aの手法(スキーム)
  4. 病院・医療法人のM&Aメリット
  5. 病院・医療法人のM&A流れ
  6. 病院・医療法人の同業とのM&A事例5選
  7. 病院・医療法人と異業種のM&A事例6選
  8. 病院・医療法人のM&A案件一覧
  9. 病院・医療法人の相場価格決定方法
  10. 病院・医療法人のM&A成功のためのポイント
  11. 営利法人による病院・医療法人のM&Aの注意点とメリット
  12. 病院・医療法人のM&Aアドバイザーコメント
  13. 病院・医療法人のM&A(売買)動向まとめ
  14. 病院・医療法人業界の成約事例一覧
  15. 病院・医療法人業界のM&A案件一覧
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1. 病院・医療法人の市場と課題

高齢化が進む日本では医療費の総額が増える一方、医療法人(病院)の市場は悪化してきています。ここでは、医療法人(病院)の市場と課題をみていきましょう。

医療業界の市場規模

厚生労働省の調査によれば、2023年度の医療費は概算で47.3兆円、前年度から約1.3兆円の増加(2.9%増)となりました。これは、高齢化による医療費の増加が主な要因です。

2022年には団塊世代が後期高齢者(75歳以上)となり始め、2025年には後期高齢者の人数は2180万人になると試算されており、医療費の増加スピードはさらに増すと予想されています。

病院にかかる患者数も増加すると考えられますが、医療費の抑制策や診療報酬のマイナス改定、薬価基準の引き下げなどの政策が打ち出されていることにより、病院経営は厳しい局面を迎えているのが現状です。

参考:厚生労働省「令和5年度 医療費の動向」

厚生労働省「医療提供体制の現状 ~病院数の推移~」

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001152036.pdf

厚生労働省「医療提供体制の現状 ~病院数の推移~」によると病院数は平成2年をピークに減少を続けており、令和3年では8,205院となっています。

病院減少は医療従事者不足に伴い統合や再編が行われたことや経営破綻、後継者難などが要因です。今後は、質の高い医療を効率的に提供できる体制を構築していくことが求められています。

参考:厚生労働省「令和4年度 医療費の動向~概算医療費の集計結果~」
参考:財務省「これからの日本のために財政を考える」
参考:厚生労働省「医療提供体制の現状 ~病院数の推移~」

病院・医療法人の課題

病院・医療法人の市場状況は、少しずつ悪化している状況です。都市部の病院・医療法人ではそれほど目立っていませんが、地方の病院・医療法人では以下4つの要因により状況の悪化もみられます。

赤字経営

独立行政法人福祉医療機構「2022 年度 医療法⼈の経営状況について」

独立行政法人福祉医療機構「2022 年度 医療法⼈の経営状況について」

出典:https://www.wam.go.jp/hp/wp-content/uploads/240124_No.009.pdf

独立行政法人福祉医療機構の公表データによれば、2022年度における医療法人(病院)の経営状況は、経費率が2021年度から0.9%上昇したことにより、事業利益率および経常利益率が低下しました。⾚字法⼈割合も拡⼤し、経営悪化が明確になっています。

⾚字法⼈は従事者1⼈当たり事業収益が⿊字法⼈と⽐べ低く、収益⾯が課題です。

参考:独立行政法人福祉医療機構「2022年度 医療法⼈の経営状況について」

人手不足

医療法人(病院)では人手不足も深刻な状態となっています。厚生労働省が公表している「一般職業紹介状況(職業安定業務統計)」によれば、2024年6月時点での有効求人倍率は全体で1.23倍でした。

そのうち医療法人(病院)が関係する医師・歯科医師・獣医師・薬剤師の有効求人倍率は2.01倍、保健師・助産師・看護師が1.84倍、医療技術者は2.83倍、その他の保健医療職業が1.80倍となっており、いずれも全体平均より高いことがわかります。

少子高齢化により今後は医療・介護に携わる人数がさらに減少するため、いかに人材を確保するかが医療法人(病院)の大きな課題です。

参考:厚生労働省「一般職業紹介状況(令和6年6月分)について」

設備や施設の老朽化

1985年に施行された医療法改正で病床数を規制されましたが、現在国内にある医療法人(病院)の多くは改正以前に建設されたものが多く、築40年以上が経過しています。

施設や設備の老朽化が進み、建て替えが必要な時期を迎えていますが、経営状態の苦しい医療法人(病院)では修繕・建て替えに対応できていないのが現状です。

独立行政法人福祉医療機構が行った医療法人(病院)の施設整備動向に関するアンケートでは、今後の施設整備計画について「整備が必要だができない」と回答した医療法人(病院)は8.6%で、その理由については「資金的な余裕がない」が最も多い結果となりました。

このような状況により、近年では資金繰りが苦しい医療法人(病院)をファンドが買い取るM&A事例も増えてきています。

参考:独立行政法人福祉医療機構「平成26年度 病院の施設整備動向アンケート調査結果について 」

2. 病院・医療法人業界の医療承継・M&Aの動向

病院・医療法人業界の医療承継・M&Aの動向を3つのトピックに分けて解説します。

後継者不足

超高齢社会の到来により、病院や診療所の患者数は緩やかに増加し、法人としての売上も増加傾向にあります。その一方で、規模の小さい医療法人(病院)では医師の高齢化が顕著になり、今後も同じ患者数の診察を続けていくことは難しいのが現状です。

事業承継が必要なタイミングを迎えているものの、後継者不在に悩む医療法人(病院)も増えています。帝国データバンクが2023年に全国企業26万社を対象に行った「後継者不在率動向調査」によれば、後継者不在率の全国平均は53.9%でした。

これに対して、病院・医療の後継者不在率は65.3%と非常に高い結果となっており、地域医療の存続という観点からみても後継者不足問題の解決は喫緊の課題といえるでしょう。

参考:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」

医療承継の難しさ

一般的な株式会社などの事業承継と違い、医療承継を行う場合は後継者が医師に限定されます。経営者の子や親族に事業を引き継ぎたいと考えていても、医師免許を持っていなければ後継者に据えることはできません。

また、子や親族に医師免許所有者(医師)がいても、医療に対する考え・取り組みや経営方針が違う場合は、承継が難しくなるケースもあります。

M&Aの増加

前述したように医療承継は難しい点もあるため、後継者問題を抱えている病院や診療所も多く、事業承継目的でM&Aを活用するケースが増えています。

また、経営の安定化や建物・設備の老朽化対応の資金調達を目的としてM&Aを活用するケースも増えており、資金調達を目的とするM&Aではファンドが買い手となるケースも多いです。

そのほか、医療提供体制の再構築や地域医療の維持を目的とするM&Aも活発に行われています。その背景にあるのは、厚生労働省の「地域医療構想」です。

「地域医療構想」は、病床を高度急性期・急性期・回復期・慢性期の機能ごとに分化し、各連携を進めることで患者が孤立することなく良質な医療サービスを安心して受けられる体制を再構築することを目的としています。

特に地方の病院や診療所は人材不足に加えて財政が厳しいところも多く、生き残りのためにM&Aを行うケースも多いです。

3. 病院・医療法人のM&Aの手法(スキーム)

医療法人(病院)のM&Aは株式でなく「持分」があるため、通常のM&Aとは異なる部分も多いです。ここでは、医療法人(病院)のM&Aスキームについて解説します。

病院・医療法人のM&Aの手法(スキーム)
買い手側 売り手側 対象 M&Aスキーム
個人 持分あり医療法人 事業 事業譲渡
個人 持分なし医療法人 法人格 出資持分譲渡
医療法人 持分あり医療法人 事業 事業譲渡、分割
医療法人 持分なし医療法人 法人格 社員入替、合併
医療法人 個人 事業 事業譲渡

持分譲渡

医療法人(病院)における出資持分とは、いわば株式会社の株式にあたるもので、出資持分を所有している者は第三者へそれを譲渡することが可能です。

持分譲渡(出資持分譲渡)では、買い手が売り手医療法人(病院)が所有するすべての出資持分を取得することで、医療法人(病院)の経営権と法人格を承継できます。

持分譲渡(出資持分譲渡)を行った後は、旧役員の辞任と新役員の就任など役員変更をし、今までの社員については退社手続き、新規社員については入社手続きが必要です。これらの手続きをもって、地位承継が完了します。

社員・評議員の入れ換え

医療法人(病院)のうち、持分なし社団医療法人と財団医療法人は持分がないため、持分譲渡(出資持分譲渡)によるM&Aは行うことができません。

持分なし社団医療法人と財団医療法人の場合は、売り手医療法人(病院)法人の社員と評議員に退職してもらい、新たに買い手側の社員・評議員が地位に就くという方法を用います。この場合、買い手が経営権を得るためには過半数の議決権を取得することが必要です。

社員または評議員の退社にあたっては退職金という形で対価を支払い、持分譲渡と同様、認可や変更登記手続きを併せて行います。

合併

合併とは、2つ以上の法人格を1つの法人格に統合するスキームをいい、吸収合併と新設合併の2種類があります。吸収合併は、存続会社となる企業が消滅会社の保有する権利・義務のすべてを引き継ぐスキームです。また、吸収合併後、消滅会社は解散します。

一方の新設合併は、新たに設立された会社が残りの会社が保有する権利・義務を引き継ぐスキームです。たとえば、合併を行うA社とB社がC社を新たに設立し場合は、C社が権利・義務を引き継いでA社とB社は消滅します。

合併のスケジュール

合併のスケジュールは、約1年かかると見ておきましょう。合併は、行政への事前相談、法人格の問題や税金の問題における事前調査を実施します。

合併のスケジュールにおいて、主な特徴が2つあります。まずは、医療審議会を得なければならない点です。医療審議会がいつ行われ、書類をいつまでに提出しなければならないのか、行政に前もって確認しましょう。

2つ目は、債権者保護手続きです。この手続きは債権者の利益を守るためにあり、債権者へ異議申し立てができる旨を公告し異議を申し立てた債権者に、弁済や担保提供などを行います。2ヶ月ほどの期間が通常はありますが、合併では金融機関や取引先で問題がないかを官報に公告しなければなりません。

合併前後における法人類型

厚生労働省「 医療法人の基礎知識」

出典:https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000084153_3.pdf

合併前後における法人類型には、以下3つのパターンがあります。

  1. 持分なしの医療法人と持分なしの医療法人→合併後は持分なしの医療法人
  2. 持分ありの医療法人と持分ありの医療法人→合併後は持分なしの医療法人か持分ありの医療法人(選択可能)
  3. 持分ありの医療法人と持分なしの医療法人→合併後は持分なしの医療法人

税務問題なども関係するので、合併を行う前に税理士などの専門家に相談しておく必要があるでしょう。

新設分割・吸収分割

会社分割とは、会社が手掛ける事業の一部あるいは全部を他社へ引き継ぐスキームをいい、新設分割と吸収分割の大きく2種類があります。新設分割は、分割対象となる事業の権利義務の一部あるいは全部を新たに設立する会社(法人)へ引き継ぐスキームです。

一方の吸収分割では、分割対象となる事業の権利義務の一部あるいは全部を、既存の会社(法人)へ引き継ぎます。分割は組織再編の手法として用いられるケースが多く、売りたい事業のみを分割したり、買いたい事業だけを分割できたりする点がメリットです。

なお、医療法人(病院)の場合、医療法施行規則第35条の定めにより、持分あり医療法人・社会医療法人・特定医療法人は分割を実施することはできません。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社が手掛ける事業の一部あるいは全部を他社へ引き継ぐスキームです。譲渡対象となる事業は、売り手・買い手で協議して細かく決められます。

売り手は不採算事業のみを切り出したり、買い手は必要な事業のみを取得できたりする点がメリットですが、雇用関係や許認可などの権利・義務は引き継がれないため、買い手はM&A後に許認可の取得や契約の巻き直しが必要です。

事業譲渡のポイント

事業譲渡では経営主体が変わるので、医療機関の閉鎖と開設の届出が必要になります。事業譲渡を行う場合は、前もって行政へ事業譲渡を進める旨の承認を得ておくようにしましょう。

また、医療法人(病院)が事業譲渡を行う際は、地域医療構想との関係上、地域医療構想調整会議にかけなければならないため、各都道府県への相談も必要です。

売り手の医療法人(病院)が保有する従業員は一旦退職するかたちとなるため、買い手側が雇用を引き継ぐ場合は個々の従業員から同意を得たうえで雇用を結びなおさなければなりません。

事業譲渡では、引継ぎ対象となる資産や取引ごとに各々手続きや契約のまき直しが必要となるため、手間と時間を要します。しかし、買い手にとっては、薄外債務を引き継ぐリスクを回避できるメリットもあります。

事業譲渡のスケジュール

事業譲渡は少なくとも半年以上かかるケースが多いため、スケジュールには余裕をみておくとよいでしょう。事業譲渡は、基本合意契約の締結後に行政への事前相談という流れになります。

その後、買い手によるデューデリジェンスが行われ、病床がある場合は地域医療構想会議にかけなければなりません。このとき地域へ情報が開示されることもあるので、職員説明会を行う時期を検討しておく必要があります。

事業譲渡後は、職員との雇用契約や取引先との契約を個別に巻きなおすかたちとなるため、この手続きに2~3カ月程度かかることも多いです。

出資持分譲渡のポイント

出資持分譲渡では、譲渡側における医療法人の出資金や社員権を譲渡します。従業員の雇用契約や取引先との契約も継続可能です。公的な手続きは、役員の交代があるときの届出のみなので、当事者のみで進められます。

出資持分譲渡は、進め方によっては1、2カ月くらいでの完結も可能です。ただし、医療法人ごと引き継ぐため、医療提訴、労働提訴、診療報酬不正請求などのリスクも引き継ぐので、しっかりとデューデリジェンスを行いましょう

M&Aにおける契約金について

M&Aは売買契約であるため、売却される法人につけられる金額が、M&A契約時に支払われる金額です。しかし、特に持分ありの病院・医療法人のM&Aでは、契約金以外に資金を用意しなければならない場合があります。それが社員に対する出資金の払い戻しです。

社団法人の病院・医療法人では、社員(医師など)が出資者となっています。社員が金銭的な出資を行っている場合、その社員に出資分を返還しなければなりません。返還する金額は出資金の返還を求める人数により変化するため、M&Aの案件により異なります。

なお、持分なしの病院・医療法人では、出資持分払い戻し請求権がないので出資金や残余財産分配を考慮する必要がありません。持分なしの病院・医療法人が解散した場合、残余財産は国などに帰属するので注意が必要です。

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4. 病院・医療法人のM&Aメリット

この章では、医療法人(病院)のM&A(売買)を行うメリットを、買収側と売却側に分けて解説します。
 

買い手側のメリット 売り手側のメリット
  • 事業規模を拡大させられる
  • 地方での存在感を強化できる
  • 人材を確保できる
  • 新規開業に比べ時間や開業資金を抑えられる
  • 事業承継により病院を経営させ続けられる
  • 医療業務に集中できる
  • 売却利益を獲得できる
  • スタッフの雇用を継続できる
  • 債権者の同意で連帯保証解消

買い手側のメリット

買収側のメリットには、以下2つが挙げられます。

事業規模を拡大させられる

買収側のメリット1つ目は、買収により事業規模を拡大できる点です。事業拡大が実現すれば、無駄のない設備の配置やコスト・人件費の削減などが可能となり、さまざまなシナジー効果によって事業収益の向上にも期待できます。

実際に事業規模拡大戦略を成功させた事例としては、医療法人徳洲会が有名です。医療法人徳洲会は、医療業界のM&Aを先駆けて行っており、その結果、日本最大の医療法人に成長しています。

事業規模拡大の効果によって、2019(平成31)年3月期における医療法人徳洲会の事業収益は約1,400億円となり、2位である医療法人の事業収益と2倍程度の差をつけました。

地方での存在感を強化できる

地方における存在感の強化も、買収側のメリットとして挙げられます。売却される医療法人(病院)の大半は、地方で存在感のある組織であるケースが多いです。

そのため、このような医療法人(病院)を買収すれば、その地域における買収側の存在感強化でき、医療法人(病院)の名前をさらに広めるられます。

人材を確保できる

買い手側は、売り手の医療法人(病院)に在籍している医師・看護師などを引き継ぐことが可能です。使用スキームによっては雇用契約を結びなおさなければなりませんが、その手間を考えても採用が難しい医師や看護師を一度に確保できることは非常に大きなメリットといえるでしょう。

新規開業に比べ時間や開業資金を抑えられる

医療法人(病院)の設立には、地域による規制があります。新規開業を考えている場合は、資金だけでなく土地の確保や石・看護師などの人材も確保しなければなりません。

M&Aで売り手の医療法人(病院)そのまま引き継げば、法人設立に必要な煩雑な手続きや医療施設開設の許認可申請などの手間と時間を省けて、開業資金も大幅に削減できます。

売り手側のメリット

次は売り手側の主なメリットを説明します。医療法人(病院)のM&Aでは、特に地方で経営している医療法人(病院)の場合、売却により多くのメリットを受けられることが多いです。

事業承継により病院を経営させ続けられる

売却側のメリット1つ目は、病院の事業承継を行うと病院を経営させ続けられる点です。経営者の高齢化によって、事業承継のタイミングを迎えている病院は多いですが、後継者が周りにいないというケースもすくなくありません。

そうなれば、選択肢は後継者を探す・廃業する・M&Aによる事業承継(売却)の3つとなります。後継者がみつかり事業承継できればそれに越したことはありませんが、後継者は医師でなければならないため探すことが難しいケースも多いです。

特に地方の医療法人(病院)は医師不足を抱えるケースも少なくないため、後継者問題の解決がさらに困難な状況となっています。

また、地方は医療法人(病院)数が少ないため、後継者問題を抱えている医療法人(病院)が地域で強い存在感を持っていることも多いです。このような場合は簡単に廃業できないため、売却が唯一の手段である医療法人(病院)も多くみられます。

医療業務に集中できる

医療法人(病院)の理事たちは、病院・医療法人として経営にかかわる業務のほか、医師として医療業務にもあたっています。医療法人(病院)の経営が厳しい状態であればすべき業務がさらに増すため、医療業務を万全の状態で行えない可能性が高いです。

しかし、医療法人(病院)の売却を行えば運営業務を買収先に任せられるため、医療業務に集中できるメリットがあります。

売却利益を獲得できる

持分ありの医療法人(病院)がM&Aによって持分を売却すると売却利益を獲得できます。売却利益は、病院などが継続されることでの将来的な価値も加味して算定された額です。病院の資産(不動産など)や病院自体の価値(診療報酬など)を合わせて算出するため、高額となる可能性があります。

一方で、持分なしの医療法人(病院)は持分の売却はできないため、退職金のかたちで支払います。この場合、退職金の上限額が「院長医師の最終報酬月額×勤続年数×3倍」と税務上決められているので注意が必要です。

スタッフの雇用を継続できる

廃業という選択をすれば、医療法人(病院)で働いている医師・看護師などのスタッフは職を失うことになります。M&Aによって医療法人(病院)を売却すれば、スタッフの雇用を維持することが可能です。

持分譲渡などの包括承継スキームであれば雇用契約はそのまま買い手へと引き継がれ、個別承継スキームの場合でも人材不足は業界の課題でもあるため雇用が継続される可能性が高いといえるでしょう。

債権者の同意で連帯保証を解消できる

売り手の経営者は、株式譲渡をすることで今まで連帯保証として抱えていた借入金等も売却と同時に譲渡可能です。ただし自動的に引き継がれるようなものではなく、借り入れしている金融機関など債権者の同意が必要となります。

また、事業譲渡の場合には連帯保証は引き継ぎできません。法人格を譲渡するわけではなく、あくまで事業の一部を譲渡するだけだからです。そのため譲渡する事業に関しての借入金等については、譲渡した代金を返済に充てることが多いです。

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5. 病院・医療法人のM&A流れ

M&A仲介会社などの専門家へ相談

M&Aは通常の病院事業と行いながら進めていかなければなりません。業務に支障をきたすようなことがあれば、その影響は患者へ及ぶ可能性もあるため、M&A実施を検討し始めたら早期段階で専門家へ相談すると効率よく進めることができます。

また、病院・医療法人M&Aの場合は一般的な株式会社が行うM&Aとは異なる制約が多く、許認可対応など行政との調整も必要となるため、専門家のサポート下で進めたほうが安心です。

M&A候補先の選定

サポート業務を依頼する専門家が決まったら、アドバイザリー契約を締結し、M&A候補先の選定を進めていきます。

M&A仲介会社の場合は担当アドバイザーが希望条件に合う候補先をリストアップしてくれるので、そこからM&Aの目的・条件・エリア・経営方針などの要素で絞り込みを行う流れが一般的です。

そして、候補先が決まったらM&A仲介会社を介してM&A交渉を打診し、相手側が交渉に前向きな意向を示したら、秘密保持契約書を締結し、譲渡側の医療施設概要書など詳細情報を開示します。

秘密保持契約書とは

秘密保持契約とは、本来の目的以外で知り得た情報を利用しないこと、第三者へ情報を漏えいしないことを取り決めた契約です。

M&Aでは候補先に対して財務・人事・取引先など詳細情報を開示しますが、万一情報漏えいがおこれば病院・医療法人としての価値や信用を大きく損なうおそれがあります。

そのようなことが起こらないよう秘密保持契約を締結し、万一情報漏えいなどがあった場合の処遇を明確にしておきます。

トップ面談・条件交渉

譲渡側と譲受側のトップ同士で面談を行い、経営方針・M&A後の方向性・人柄などを確認し、相互理解を深めることを目的とする機会です。また、譲渡対象の病院を見学する場合もあります。

通常はトップ面談で譲渡価額や細かな条件についての交渉は行わず、面談後に譲渡側と譲受側の双方がM&A成立を目指す意向であれば、具体的なM&A内容についての交渉を進めていきます。

基本合意の締結

交渉を進め、M&A内容(譲渡価額・条件・完了予定日・M&A手法など)に譲渡側と譲受側の双方が大筋合意した時点で、基本合意書を作成して締結します。

基本合意書はM&A成立に向けた交渉を続けるという意思確認の意味が大きく、記載事項は一部事項(独占交渉権・デューデリジェンスへの協力義務・秘密保持に関する内容など)を除き法的な拘束力はありません。

譲受側によるデューデリジェンス実施

デューデリジェンスは基本合意締結後に行われる「買収監査」のことであり、譲受側が譲渡側の実態を調査し、事前開示された情報の正確性や買収リスクの有無・程度を把握します。

譲受側にとってデューデリジェンスは、M&Aを実行すべきか、買収価額は妥当な額であるかを判断する非常に重要なプロセスです。調査は財務・人事・法務などの分野で各専門家が行います。

デューデリジェンスは譲受側が主体となるため譲渡側に費用負担は生じませんが、調査の協力を求められたときは誠実に対応しなければなりません。

最終交渉・最終契約の締結

譲受側がM&A(買収)実行を決断したら、M&A成立に向けて最終交渉を行います。最終交渉はデューデリジェンスの内容を加味して行うため、調査でリスクや問題点が発覚した場合は譲渡価額や条件が変更される可能性もあることを理解しておきましょう。

そして、最終交渉で決定した事項すべてに譲渡側と譲受側が合意した時点で最終契約書を締結し、M&Aは成立となります。なお、最終契約書は記載事項のすべてが法的な拘束力をもつため、原則として締結後の一方的な破棄や変更は認められません。

もし違反をした場合は相手方から損害賠償請求をされるおそれがあるため、内容をしっかり確認したうえで締結することが重要です。

クロージングの実行

クロージングはM&Aの最終工程にあたり、譲渡対象の経営権を譲受側へ移転させ、M&A対価の決済手続きを行います。病院・医療法人の場合は行政での許認可手続きなどもあるため、担当アドバイザーに確認して準備を進めるようにしましょう。

通常、最終契約から一定期間空けてクロージング日を決めますが、これはクロージングを行うためには最終契約で定めた「クロージング条件」を充足していることが前提となるためです。そして、クロージング完了によってM&Aが法的に有効となりM&A手続きは終了となります。

6. 病院・医療法人の同業とのM&A事例5選

この章では、医療法人(病院)が同業種と行ったM&A事例を紹介します。

①博洋会による竜山会への事業譲渡

2021年6月、博洋会と竜山会は事業譲渡契約を締結しました(譲渡実行日は2021年8月1日)。買い手の竜山会は石川県で病院を運営する医療法人病院を運営する医療法人です。売り手の博洋会は同じく石川県の医療法人で藤井病院を運営しています。

博洋会は、藤井病院で夜勤看護要員の配置要件を満たしているように偽って勤務実態とは異なる届出をしていました。その後、診療報酬の不正請求が発覚し、保健医療機関指定取り消し処分を受けています。

本M&Aは博洋会が行っていた医療サービスの継続および雇用継続が目的をして行われました。

②沖縄徳洲会による木下会の吸収合併

2019年12月、沖縄徳洲会は木下会を吸収合併しました。木下会は、総合病院や介護老人保健施設を運営していた千葉県の社会医療法人です。

沖縄徳洲会は多数の病院クリニックを沖縄・鹿児島を中心に運営する医療法人で、病院を全国展開している徳洲会グループに属しています。

今回のM&Aにより、経営の合理化、コンプライアンスやガバナンスの強化を目指すとしています。

社会医療法人木下会 沖徳に吸収合併

③翔洋会によるときわ会への事業譲渡

2019年8月、民事再生中である翔洋会が、ときわ会へ医療・介護事業を譲渡しました。譲渡対価は、およそ12億4,300万円です。

翔洋会は病院やクリニックを運営する医療法人で、一方で公益財団法人ときわ会・医療法人ときわ会は病院、クリニック、介護老人保健施設等を担当しています。

2018年11月に、翔洋会は261億6,400万円の負債を抱えて事実上倒産となり民事再生法の手続きに入りましたが、大きな社会的影響があるため、当局の保全命令・監督命令のもと病院の運営を続けていました。

ときわ会は、本M&Aによりグループ内における既存病院との連携による医療提供体制や健診機能の向上を図るとしています。

翔洋会に関するお知らせ(8月2日現在)

④日本赤十字社による兵庫県立柏原病院および柏原赤十字病院の統合再編

2019年7月、日本赤十字社グループは県立柏原病院と柏原赤十字病院の統合再編を実施しました。兵庫県にある県立柏原病院は、がん支援センターや脳外科神経外科などの専門医療を行う病院です。医療行為だけでなく、地域医療教育センターなどを展開し医療人材の育成にも力をいれています。

柏原赤十字病院は、県立柏原病院同じく兵庫県に位置し、眼科や婦人科・内視鏡センターを有する病院です。地域住民との交流会を開くなど、地域に根差した医療提供を行っています。

本統合についての計画は2015年に策定されたもので、柏原病院および柏原赤十字病の老朽化や狭あい化への対応、地域の将来的な医療を検討し医療設備の充実などを図ることが目的です。統合後は、新病院として兵庫県立丹波医療センターが設立されました。

⑤みらかホールディングスによる杏和総合医学研究所の譲受

2018年1月、血液検査や遺伝子検査などの臨床検査を受託するみらかホールディングスは、子会社のエスアールエルを通じ、大阪府の社会医療法人愛仁会が杏和総合医学研究所で行っている臨床検査事業を譲受すると発表しました。

愛仁会は、病院経営を阪神エリアで幅広く展開してきた医療法人です。エスアールエルは、受託臨床検査事業の主要戦略に「地域医療の柱となる病院・医療機関との連携強化」を挙げており、今回の事業譲受を通じて同エリアでの事業拡大を図り、一般開業医向けに新しく検査サービスを開始する予定としています。 

参考:エスアールエルによる事業譲渡契約締結のお知らせ

7. 病院・医療法人と異業種のM&A事例6選

この章では、医療法人(病院)が異業種と行ったM&A事例を紹介します。

①メモリードによるエクスロイヤルと健若会の株式取得

2023年6月、メモリードはエクスロイヤルと健若会の株式関連資産をすべて取得し、完全子会社としました。

メモリードは、冠婚葬祭施設の運営やホテル・レストラン事業、貸衣装、保険事業など幅広い展開をしています。エクスロイヤルは、エステティック事業、クリニック経営・予防医療のコンサルティングを行う企業です。健若会は予防医療を行っています。

メモリードは日常に関わる事業展開を検討しており今回のM&Aを行いました。今後、メモリードの従業員およびメモリード会員のメモリーよる健康増進とメリットの拡大、グループの売上・利益の拡大を目指します。

②東海大学が徳洲会へ医学部付属病院を譲渡

2023年3月、学校法人東海大学は医療法人徳洲会へ同大学付属大磯病院を譲渡しました。大磯病院は東海大学医学部が保有する附属病院のひとつで、23診療科があり病床数が312床の地域の中核病院です。

徳洲会はグループ全体で約400施設を展開する一大医療グループで、M&Aを積極的に活用して事業拡大に成功しています。大磯病院は、救急や夜間・休日診療にも対応する地域に根差した病院でしたが、近年の少子高齢化および人口減少で経営状況の改善は見込めない状況となっていました。

本M&Aは地域医療の継続を目的として行われたもので、東海大学は現行の診療体制を維持する計画であり、当面は常勤医師を派遣する予定としています。

③日本郵政が生和会へ広島逓信病院を譲渡

2022年10月、日本郵政は広島逓信病院を生和会へ譲渡しました。日本郵政は、日本郵便・ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険などの事業を行う日本郵政グループの持株会社です。買い手となった医療法人の生和会は、山口県・広島県に5つの病院・10の介護施設を運営しています。

日本郵政は、地域医療の発展に資すると判断して本譲渡を決断しており、現在の診療体制などは新病院に引き継がれる予定です。なお、譲渡によって広島逓信病院は、広島はくしま病院として名称が変更となりました。

④NTT西日本が真泉会へ松山病院を譲渡

2020年12月にNTT西日本は松山病院を真泉会へ譲渡しました。NTT西日本は、西日本で電気通信業務などを手掛けています。NTT西日本松山病院は医療法施行の前に逓信省(総務省、日本郵政、NTTなどの前進)が運営していた病院で、民営化後は企業立病院でした。

真泉会は、病院を運営している社会医療法人です。企業立病院は、いろいろな規制の対象であるため一般の病院より経営環境が厳しく、最先端の医療機器や医師の確保が困難であることから、NTT西日本は医療サービスと雇用の継続を目的に譲渡を決断しています。

NTT 西日本松山病院の事業譲渡について

⑤メディカルネットによるタイの歯科医院取得

2020(令和2)年10月、インターネットを活用した医療・生活関連情報サービス業を行っているメディカルネットが、タイの子会社Medical Net Thailandつう通じて、Pacific Dental Care Co., Ltd.の全株式を取得し、完全子会社化しました。

取得価額は、1,600万バーツ(その時点における為替レートで約5,371万3,000円)です。メディカルネットは、歯科医療情報ポータルサイト運営、歯科クリニック経営支援、歯科関連企業マーケティング支援など歯科医療関連ビジネスに注力しています。

2017(平成29)年にタイに設立したMedical Net Thailandは、タイで歯科医院を運営しており、子会社化したPacific Dental Care Co., Ltd.も同様です。本M&Aは、タイでの歯科医院運営事業拡大を目的として行われました。

連結子会社の異動を伴う子会社による株式取得(孫会社化)に関するお知らせ

⑥エヌアイデイ・天太会・アルムの3社が業務資本提携

2019年5月、エヌアイデイ・天太会・アルムの3社は業務・資本提携を結びました。システム開発会社のエヌアイデイはAIやIoT・クラウド・金融などのソリューションサービスを中心に事業展開しています。

天太会は診療所や健診センターを運営している医療法人、アルムは医療・介護向けクラウドサービスを提供している会社です。

以前から天太会とアルムは業務資本提携を結んでおり、協力体制のもとクリニックとして最先端医療ITサービスを活用した運営を行なっていました。

今回新たにエヌアイデイとも業務資本提携を結ぶことで、これまでに天太会とアルムが培ってきたノウハウとエヌアイデイの技術を掛けあわせ、保健指導のオンラインサービス提供や医療データを活用したAIソリューションの開発などを進めていくとしています。

株式会社エヌアイデイとの業務・資本提携に関するお知らせ
株式会社アルム及び医療法⼈社団天太会との 医療・ヘルスケア AI ソリューション開発に向けた業務・資本提携に関するお知らせ
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8. 病院・医療法人のM&A案件一覧

本章では、弊社M&A総合研究所が取り扱っている病院・医療法人のM&A案件をご紹介します。

【純資産額以下譲渡・無借金経営】創業100年超の地場老舗の医療法人(介護施設運営あり)

クリニックやグループホームなどを運営している創業100年超の医療法人です。病床稼働率は常時9割超、簿価自己資本比率80割超を維持しております。後継者不在により譲渡を希望しています。
 

エリア 中国・四国
売上高 2.5億円〜5億円
譲渡希望額 5億円
譲渡理由 後継者不在

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【EBITDA2億円/医療法人】都内の整形外科・内科クリニック

都内の整形外科・内科クリニックとして、地域で一定の知名度を保持しています。売上は安定しており、EBITDAは1.5億円~2億円を推移しているのが特徴です。
 

エリア 関東・甲信越
売上高 5億円〜10億円
譲渡希望額 10億円
譲渡理由 後継者不在

【関連】【EBITDA2億円/医療法人】都内の整形外科・内科クリニック(医療・介護) | M&A総合研究所

【医療法人・NetCash5000万円】北海道の総合クリニック

近隣には競合がほぼおらず、小規模ながら幅広い診療科を備える北海道の総合クリニックです。無借金で財務良好、行政からの手厚い支援により高収益モデルを実現しています。
 

エリア 北海道
売上高 1億円〜2.5億円
譲渡希望額 2.5億円〜5億円
譲渡理由 他事業への集中

【関連】【医療法人・NetCash5000万円】北海道の総合クリニック(医療・介護) | M&A総合研究所

【駅前好立地・総合クリニック】関東地方の医療法人

内科・外科・小児科・眼科を備えた地域密着型総合クリニックを手掛ける医療法人です。駅前好立地と、十分な診療スペースを確保しています。
 

エリア 関東・甲信越
売上高 1億円〜2.5億円
譲渡希望額 1,000万円〜5,000万円
譲渡理由 財務的理由

【関連】【駅前好立地・総合クリニック】関東地方の医療法人(医療・介護) | M&A総合研究所

【九州地方】精神科病院の法人譲渡

創業から一定年数が経過しており、地域や行政からのネームバリューや厚い信頼があります。病床数は50床以上です。
 

エリア 九州・沖縄
売上高 2.5億円〜5億円
譲渡希望額 1億円〜2.5億円
譲渡理由 後継者不在(事業承継)、事業存続に対する不安

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9. 病院・医療法人の相場価格決定方法

M&Aの取引価格を交渉する際は、企業価値と呼ばれる評価額を基準にします。株式会社などの営利法人ではDCF法によって企業価値を算出するケースが多いですが、医療法人(病院)の場合は規模や収益性には大きな幅があるため、直近の経営状況をもとに評価を行うのが一般的です。

その場合「時価純資産額+営業利益×1~5年分」で算出した額に、直近の業績やM&Aにとってのマイナス要素を考慮した額を加えたものを医療法人(病院)の価値とします。

そのほかにキャッシュフローの数年分という計算もあり、ある程度規模の大きな医療法人(病院)では、M&Aの取引価額が10億円を超えるケースも珍しくありません。

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10. 病院・医療法人のM&A成功のためのポイント

医療法人(病院)のM&Aは、一般企業のM&Aに比べて成功する確率が高く、比較的容易に行えるという意見もありますが、それはM&A成功のためにポイントを押さえて進めることが前提です。医療法人(病院)のM&Aを成功させるために意識すべきポイントは以下の4つが挙げられます。

ガバナンスコントロール

ガバナンスコントロールとは社外の利害関係者による統治・制御のことをいいます。株式会社の場合、買い手側が売り手法人の経営権をコントロールするためには発行済み株式(議決権)の過半数以上をM&Aによって取得することが必要です。

買い手は売り手法人の発行済み株式(議決権)を過半数以上取得することで、株主総会で決議される多くの事項を自らの意向でコントロールすることが可能となります。

医療法人(病院)の場合、株主総会にあたる最高意思決定機関は社員総会です。社員総会の議決権は、株主総会で採用される出資比例方式ではなく、社員1人につき議決権1票と平等に分配されています。つまり、株式会社と同じようには経営権をコントロールできない点に注意が必要です。

M&A後の病院・医療法人の経営方法

医療法人(病院)が経営権をコントロールする方法には、直接経営と間接経営の2種類があります。

直接経営

株式会社であれば株式比率に基づいた議決権があるので、出資を増やせば直接経営することは容易です。このような方法をエクイティアプローチといいます。

しかし、医療法人(病院)の場合、最高意思決定機関である社員総会における議決権は、社員1人につき1議決権です(社員は出資者である必要はありません)。

そのため、出資持分を保有していても社員総会の議決権をもつ社員らの支持を得なければ、経営権を確立できないため敵対的買収は困難でしょう。

間接経営

間接経営とは、売り手医療法人(病院)の債権者となることで経営をコントロールする方法です。医療報酬債権関連の債権を取得した場合は、買い手は売り手医療法人(病院)の大口債権者となります。

医療法人(病院)のM&Aでは、売り手医療法人(病院)の土地や建物そのものを買収することで、間接的に経営をコントロールする方法が代表的です。

このような方法をデットアプローチといい、上記のケースでは引き渡された不動産の所有者になることで経営の間接的なコントロールが可能となります。

そのほかの方法として、MS法人(メディカル・サービス法人)を利用して譲渡される病院・医療法人を間接的にコントロールすることも可能です。

MS法人とは、医療法人(病院)に対する医療に関連したサービスの提供を目的とした法人をいい、営利目的で事業を行うことができます。

この方法では、売り手医療法人(病院)の経営の一部がMS法人に委託され、買い手がMS法人の経営権を取得することによって間接的に経営権のコントロールが可能です。

M&A仲介会社

病院・医療法人のM&Aを行う際は、専門家の選定に気をつける必要があります。特に病院・医療法人のM&Aは一般企業のM&Aに比べると特殊であるため、信頼できる専門家に依頼しなければなりません。信頼できるM&A仲介会社を見極めるためには、以下のポイントを確認するとよいでしょう。
 

  • 秘密保持契約など契約をきちんと行っているか
  • 自身の紹介をするときに自慢話が多かったり、矛盾する話があったりしないか
  • ネットで検索して見つかるM&A仲介会社であるかどうか
  • 口コミでそのM&A仲介会社における評判はよいか、実績があるかどうか
  • 病院・医療法人とのネットワークが広いかどうか
  • 相談に対してすぐに対応できるM&A仲介会社であるかどうか

M&A仲介会社をお探しの場合は、ぜひM&A総合研究所へお任せください。M&A総合研究所では、経験・知識の豊富なM&Aアドバイザーが案件をフルサポートいたします。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)無料相談を行っていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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行政手続き

医療法人(病院)のM&Aは一般企業とは異なり、行政機関との関係も重視しなければなりません。各種手続き申請など行政機関が関係するため、あらかじめM&Aの実施に関する連絡が必要です。

例えば、医療法人(病院)の吸収合併には、都道府県知事の認可が必要(医療法58条の2)となるため、都道府県・厚生労働省・保健所などに対する申請や届出も同時に準備する必要があります。

医療法人(病院)のM&Aでは多くの作業を並行して進めなければならず、ケースによってはM&A手法の検討やデューデリジェンスの実施、定款変更の手続きにも行政機関との連絡が必要です。

個人の承継に関する手続き

個人経営の病院や診療所の場合、承継先が親族・第三者のいずれであっても行政への届け出が必要です。届け出先は管轄の保健所であり、売り手側は「廃止届」買い手側は「開設届」を提出します。

なお、その際は医師免許証・経歴書・譲渡契約書・建物周辺見取り図・建物平面図などの資料を添付する必要があるので、所轄市町村の公式HPで確認して揃えておきましょう。
 

申請先 必要な届け出 主な添付書類
保健所
  • 売り手側:廃止届
  • 買い手側:開設届
  • 医師免許証
  • 経歴書
  • 譲渡契約書
  • 建物周辺見取り図
  • 建物平面図  など
  • 売り手側:レントゲン廃止届※
  • 買い手側:レントゲン設置届※
  • レントゲン漏洩検査報告書※
厚生局
  • 保険医療機関廃止届
  • 保険医療機関指定申請書
  • 保険医療登録料(写)
  • 引継書→訴求請求時に必要なケースあり

上記の※印がある届け出は、レントゲン設備のある病院・診療所のみ必要です。また、開設届はクリニック・医院の承継開設後10日以内にの提出しなければなりません。

医療法人の継承に関する手続き

医療法人の承継時は「登記事項変更完了届」「役員変更届」を所轄の都道府県に提出したあと、理事長の交代手続きなどを行い資産や許認可を承継先へ移転させます。なお、医療スタッフの雇用は医療法人と雇用契約を結んでいるので、特別な手続きは不要です。
 

申請先 必要な届け出 主な添付書類
保健所 診療所開設許可(届出)事項一部変更届
  • 臨床研修等終了登録証(免許取得日が2004.4以降の時)
  • 医師免許証
  • 経歴書
都道府県
  • 登記事項変更完了届
  • 履歴事項全部証明書
  • 役員変更届
  • 社員総会議事録
  • 理事会議事録
  • 旧理事:辞任届
  • 新理事:役員就任承諾書
  • 新理事:経歴書
  • 新理事:印鑑証明書
  • 新理事:医師免許証
厚生局
  • 保険医療機関届出事項変更届
  • 保険医療登録料(写)
  • 役員変更届(写)
  • 保険医療機関指定通知書(原本)
法務局
  • 医療法人変更登記申請書
  • 社員総会議事録
  • 理事会議事録
  • 旧理事:辞任届
  • 新理事:役員就任承諾書
  • 新理事:印鑑証明書
  • 新理事:医師免許証

11. 営利法人による病院・医療法人のM&Aの注意点とメリット

医療法人(病院)には非営利性が求められます。患者が願うのはいかなる病状においても治療が受けられることですが、もし医療法人(病院)が営利を追求すれば高額報酬の治療しか行わなかったり裕福層患者のみに治療を行ったりなど、不公平な病院経営を行う可能性もあるでしょう。

そのような理由により、医療法人(病院)には非営利性を厳しく求められており、それはM&A(売買)を行う場合においても同様です。M&Aの際に非営利性が問題となるケースとしては以下が挙げられます。

営利法人が社員(オーナー)となれるのか

結論からいえば、営利法人は医療法人(病院)の社員にはなれません。しかし、医療法人(病院)への出資自体は認められています

ただし「営利法人が病院・医療法人を手放すときはM&A時に出資した資金などを返す必要はない」とする厚生労働省の見解があり、この点には十分な注意が必要です。

営利法人の役員・職員が理事になれるのか

理事は、株式会社では取締役に相当します。当該医療機関の開設・経営上利害関係がある営利法人の役員・職員(自然人)が、当該病院・医療法人の理事となることは、非営利性の観点から原則認められていません。

そのような理由から、利害関係のある営利法人がM&Aで医療法人(病院)を買収しても、営利法人によって直接的に経営を行うことはできないと考えるのが無難です。

利害関係のある営利法人の役員・職員が出資者(社員)となれるのか

これに関する制限は設けられていません。営利法人自体は社員にはなれませんが、営利法人の役員・職員(自然人)は病院・医療法人の社員になれます。

ただし「医療の非営利性の観点からはあまり好まれない形態である」というのが専門家の見解です。

営利法人が医療法人(病院)を買収する際の手法と流れ

一般企業がM&Aによって医療法人(病院)を買収し、直接的に経営権を掌握することは現在の法制度では難しいのが現実です。そのため、営利法人が医療法人(病院)を買収する場合は、持分譲渡か社員入れ替えによって経営権を取得する手法が用いられています。

具体的には、営利法人が医療法人(病院)の経営権を直接取得することが難しいため、自社の意思を代弁する者を選任して社員あるいは役員として送り込むといった間接的な方法で経営をコントロールするかたちです。そのほか、営利法人と医療法人(病院)とで業務提携あるいは資本業務提携が締結する手法もあります。

一般企業・株式会社が医療法人(病院)を買収するメリット

医療法人(病院)には非営利性が求められますが、地域に医療を提供ながら事業規模拡大などによって利益を向上させ、法人財産の価値や役員報酬のレベルを上げることは可能です。

現行の法制度上では、一般企業・株式会社が営利目的で医療法人(病院)を買収するメリットはあまり大きいとはいえないでしょう。

営利法人による医療法人(病院)医療法人の経営権取得は、間接的な手法によるものです。しかし、資本業務提携であれば経営の独立性を維持したまま協働できるので、近年では医療法人(病院)とIT企業の間で資本業務提携のM&Aが実施されるケースなどもみられます。

12. 病院・医療法人のM&Aアドバイザーコメント

病院・医療法人の業界動向

医療法において、医療施設は病院と診療所とに区分されています。病院と診療所との区分について、病院は20床以上の病床を有するものとし、診療所は病床を有しないもの又は19床以下の病床を有するものとしています。
 
全国の施設数を開設者別に見ると、病院、一般診療所ともに「医療法人」が最も多くなっています。医療法人は持分ありと持分なしに分かれます。平成19年4月の第5次改正医療法施行前に、医療法人の大半を占めていたのは、出資持分の定めのある医療法人(持分あり医療法人)でした。出資持分は、経済的価値を有する財産権です。また、定款に違反しない限り譲渡性が認められており、贈与税や相続税の課税対象となります。平成19年4月の改正医療法施行以後は、持分あり医療法人は新規設立ができなくなりました。

病院・医療法人のM&A動向

医業承継の方法としてM&Aが選ばれることが増えており、今後も盛んになっていくと考えられます。その理由として、次の2点が挙げられます。

医療施設における医師の高齢化

2020年現在の診療科目全体でみると、国内の医師の平均年齢は60.2歳となっています。この数値は、医療施設に従事する医師の平均年齢であり、一般企業で言う社長の平均年齢ではありません。一般に、60歳が定年と定められる企業が多い日本において、勤務医を含めた平均年齢が60.2歳となっていることからも、医療施設における高齢化が進んでいると言えます。

医師が高齢化することでその医療施設の存続が困難になる場合も多いですが、一方で医療施設はその地域に無くてはならない存在であることも多く、M&Aにより存続させる動きが加速しています。

後継者の確保が困難

現在業種に関わらず、後継者不在の企業が増えておりますが、中でも医業を承継するには、後継者が医師でなくてはいけません。そもそも医師になることのハードルが高いため、他の業種と比較すると後継者の確保が困難であると言えます。

たとえ後継者が医師になったとしても、診療科目が異なる場合、承継のハードルが高くなります。また、医療施設の経営状況や必要資金への不安から、後継者が勤務医を希望することも珍しくありません。

病院・医療法人のM&Aにおける今後の展望

高齢化の状況に加え、医師の資格がなければ事業を承継できないという高いハードルにより、後継者不在の悩みを抱える医療施設は数多く存在します。地域医療を維持するという観点から簡単に廃業を選ぶことはできない状況です。事業の存続・従業員の雇用継続のために外部に承継先を求めることも増えてくるでしょう。

譲受企業も病院、医療・介護関連企業、その他事業会社などと多様化しております。
将来的にM&Aを検討されている経営者様は、事業の継続・従業員の継続雇用のためにもタイミングを的確に見極め、市場のニーズが高い時期を逃さず決断することで、良いM&Aの実現ができるものと考えられます。

13. 病院・医療法人のM&A(売買)動向まとめ

病院・医療法人のM&Aは、一般企業のM&Aと異なっている点が多くあります。そのため、病院・医療法人のM&Aを行う際には、専門知識を持つM&Aアドバイザーなどに相談するほか、余裕を持ったスケジュール調整をするなどの対策も必要です。

14. 病院・医療法人業界の成約事例一覧

15. 病院・医療法人業界のM&A案件一覧

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