2022年12月27日更新
病院・医療法人のM&A(売買)動向!特徴や手法、価格相場、成功させるポイントを解説【最新事例あり】
本記事では、病院・医療法人のM&A(売買)について解説します。病院・医療法人業界の特徴を分析し、M&Aによる買収や売却、譲渡の事例を確認しつつ、メリットやポイント、相場などを説明するので、病院・医療法人の関係者は参考にしてください。
目次
1. 病院・医療法人のM&A(売買)
病院・医療法人は非営利法人です。患者のために、病院・医療法人は経営されています。近年、病院・医療法人の業界では、経営者が高齢化したことで経営困難な状況も生じていますが、こうした性質があるために病院・医療法人を簡単に廃業できません。
病院・医療法人の廃業を回避する方法の1つとして、M&Aがあります。事業承継を目的とする病院・医療法人のM&A成約件数は、近年増加傾向です。ただし、公益性の高い病院・医療法人のM&Aは、一般企業のM&Aとは異なる点が多くあり、注意が必要になります。
2. 病院・医療法人のM&A(売買)の特徴
この章では、病院・医療法人におけるM&A(売買)の特徴について見ていきましょう。
M&Aのスキームについて
合併のポイント
2つ以上の法人を1つの法人に統合するスキームが、合併(新設合併と吸収合併)です。原則、吸収合併になります。合併のポイントを見ていきましょう。
- 間接コストの合理化が見込める
- 人材配置が流動的
- 同一医療圏のケースでは病床の移動ができる
- 組織文化の統合が難しい
- リスクの集中化
合併前後における法人類型
合併前後における法人類型について見ていきましょう。3パターンのケースがあります。
- 持分なしの医療法人と持分なしの医療法人→合併後は持分なしの医療法人
- 持分ありの医療法人と持分ありの医療法人→合併後は持分なしの医療法人か持分ありの医療法人(選択可能)
- 持分ありの医療法人と持ち分なしの医療法人→合併後は持分なしの医療法人
税務問題なども関係するので、前もって税理士に相談することが欠かせません。
合併のスケジュール
合併のスケジュールは、約1年かかると見ておきましょう。合併は、行政への事前相談から始まり、法人格の問題や税金の問題における事前調査を実施します。
合併のスケジュールにおいて、主な特徴が2つあります。まずは、医療審議会を得なければならない点です。医療審議会がいつ行われ、書類をいつまでに提出しなければならないのか、行政に前もって確認しましょう。
2つ目は、債権者保護手続きです。この手続きは債権者の利益を守るためにあり、債権者へ意義申し立てができる旨を公告し意義を申し立てた債権者に、弁済や担保提供などを行います。2ヶ月ほどの期間が通常はありますが、合併では金融機関や取引先で問題がないか官報に公告しなければなりません。
事業譲渡のポイント
医療法人や会社がその事業を譲渡するのが、事業譲渡です。事業譲渡では経営主体が変わるので、医療機関の閉鎖と開設の届出が必要なため、前もって行政へ事業譲渡を進める承認を得てください。
病院・医療法人を事業譲渡する際は、地域医療構想との関係もあるので地域医療構想調整会議にかけなければならないため、各都道府県に相談することも欠かせません。
譲渡側の医療機関で働く従業員は、一旦退職をして再雇用となるため、従業員の同意書が必要です。その際に、離職となる可能性もあります。個別の資産や取引ごとに必要な譲渡の手続き、契約の見直しなどに多くの手間もかかります。
しかし、薄外債務を引き受けるリスクを断てるメリットもあるのです。
事業譲渡のスケジュール
事業譲渡のスケジュールは、少なくとも半年以上かかると見ておきましょう。事業譲渡は、基本合意契約を結んだら、行政で事前相談を行います。
それから、デューデリジェンスを行い、病床がある場合は地域医療構想会議にかけなければなりません。このときに、地域へ情報が開示されることもあるので、職員説明会を行う時期を検討します。職員の個別契約や取引先との契約を再度行わなければならないので、少なくとも2、3カ月の期間が必要です。
出資持分譲渡のポイント
出資持分譲渡では、譲渡側における医療法人の出資金や社員権を譲渡します。従業員の雇用契約や取引先との契約も継続可能です。公的な手続きは、役員の交代があるときの届出のみなので、当事者のみで進められます。
出資持分譲渡は、進め方によっては1、2カ月くらいでの完結も可能です。ただし、医療法人ごと引き継ぐため、医療提訴、労働提訴、診療報酬不正請求などのリスクも引き継ぐので、しっかりとデューデリジェンスを行いましょう。
M&Aにおける契約金について
M&Aは売買契約であるため、売却される法人につけられる金額が、M&A契約時に支払われる金額です。しかし、特に持分ありの病院・医療法人のM&Aでは、契約金以外に資金を用意しなければならない場合があります。それが、社員に対する出資金の払い戻し分です。
社団法人の病院・医療法人では、社員(医師など)が出資者となっています。社員が金銭的な出資を行っている場合、その社員に出資分を返還しなければなりません。返還する金額は出資金の返還を求める人数により変化するため、M&Aの案件により異なります。
なお、持分なしの病院・医療法人では、出資持分払戻請求権がないので出資金や残余財産分配を考慮する必要がありません。持分なしの病院・医療法人が解散した場合、残余財産は国等に帰属するので注意が必要です。
クロージングを行うまでの期間について
通常、一般企業がM&Aを行う場合、事前準備からクロージングまでに約10ヶ月以上かかります。しかし、病院・医療法人のM&Aを行う場合は、事前準備からクロージングまでに1年以上かかるケースがほとんどです。
3. 病院・医療法人のM&A(売買)と非営利性
病院・医療法人には、非営利性が要求されています。病院・医療現場において患者が願うのは、いかなる病状においても治療が受けられることです。
しかし、病院・医療法人が営利を追求してしまうと、高額報酬の治療しか行わなかったり、お金持ちの患者のみに治療を行ったり、利益を上げるために不公平な病院経営を行ったりする可能性があります。
そのため、病院・医療法人は非営利性を厳しく要求されているのです。病院・医療法人のM&A(売買)を行うときにも非営利性が厳しく求められており、M&Aにおける非営利性が問題となる代表的なケースは以下になります。それぞれの事例を詳しく紹介します。
営利法人が社員(オーナー)となれるのか
結論からいうと、営利法人は社員(オーナー)になれません。病院・医療法人の社員にはなれませんが、病院・医療法人への出資自体は認められています。
ただし、「営利法人が病院・医療法人を手放すときはM&A時に出資した資金などを返す必要はない」とする厚生労働省の見解があり、この点には十分な注意が必要です。
営利法人の役員・職員が理事になれるのか
理事は、株式会社では取締役に相当します。当該医療機関の開設・経営上利害関係がある営利法人の役員・職員(自然人)が、当該病院・医療法人の理事となることは、非営利性の観点から原則認められていません。
利害関係のある営利法人がM&Aで病院・医療法人を買収しても、営利法人によって直接的に経営を行うことは困難です。
利害関係のある営利法人の役員・職員が出資者(社員)となれるのか
これに関する制限は設けられていません。営利法人自体は社員にはなれませんが、営利法人の役員・職員(自然人)は病院・医療法人の社員になれます。ただし、「医療の非営利性の観点からはあまり好まれない形態である」というのが専門家の見解です。
ここまで病院・医療法人の非営利性が問題となるケースを紹介しましたが、まとめると、一般企業が病院・医療法人をM&Aにより買収して直接的に経営権を掌握することは難しいといえます。
営利法人が病院・医療法人を買収する際の手法と流れ
営利企業が病院・医療法人を買収する場合、前述でも紹介したとおり自社に一体化することはできないため、持分譲渡か社員入れ替えにより経営権を取得する手法が実施されます。
営利企業は病院・医療法人の経営権を直接的に取得できない理由により、自社の意思を代弁する者を選任し、社員・役員として送り込むといった間接的な方法で、経営をコントロールする流れです。なお、営利企業と病院・医療法人の間で業務提携(資本業務提携)が締結される手法もあります。
4. 病院・医療法人の種別と現状
病院・医療法人の種別や市場状況など、基本情報について確認しましょう。
病院・医療法人の定義
病院・医療法人は、医療法のもと設立された法人のことをいいます。医療法三十九条一項によると、「病院、医師もしくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団または財団 」と定義されている法人です。
ここでは、病院・医療業界における社団法人と財団法人について紹介します。
社団法人の病院・医療法人
社団法人の病院・医療法人は、医師免許など特殊な技能を持った人を出資の対象としており、出資者全員による社員総会(設立総会)の承認を得て設立できる法人の形態をさします。医療法人の場合、出資者は医師などです。
病院・医療業界における社団法人は、出資持分ありの社団法人と出資持分なしの社団法人に分類され、出資持分ありの社団法人では、社員(出資者)が退社するときに拠出金が返還されます。
社団法人の出資は医師などで、病院・医療業界における社団法人のほとんどは出資持分なし法人が占めています。
持分ありの医療法人では、出資持分の譲渡により、病院・クリニックなどの経営を承継することが可能です。カルテや従業員との雇用契約なども、原則として承継されます。
これに対して、持分なしの医療法人は持分がないため、医療法人をつうじた間接的な譲渡の形式が採用されるケースがほとんどです。持分がない場合は、従業員との雇用契約は原則として承継されず、退職金の支払いを想定しなければなりません。
財団法人の病院・医療法人
財団法人は、提供された財産をもとに経営する法人の形態です。つまり、財団法人では出資の対象は財産です。そのため、財団法人における最高決定機関は、一般社団法人の社員総会と同様に評議員による評議員会で決定されます。
病院・医療法人の種別
社団医療法人と財団医療法人といった設立形態の種別とは別の観点で、医療法や租税特別措置法などを論拠とした4種別に分類されています。ただし、社団医療法人の場合は、持分なしの社団医療法人が対象です。
- 社会医療法人
- 特定医療法人
- 基金拠出型医療法人(社団医療法人のみ)
- その他の医療法人(社団医療法人のみ)
社会医療法人
医療法第四十二条の二にて規定されているさまざまな厳格要件に合致し、公益性の保持を満たしている医療法人の場合、都道府県知事の認定を受けることによって、社会医療法人の地位が得られます。
社会医療法人として認められると、納税上の優遇的措置が受けられ、同法で定められている収益業務や社会医療法人債発行の実施も可能です。
特定医療法人
社会医療法人以外の病院・医療法人が、租税特別措置法第六十七条の二で定められた要件を満たし、国税庁長官の承認を得られると、特定医療法人として認められます。
特定医療法人となれば、法人税の軽減税率適用など、税制上の優遇措置を受けられるのです。
基金拠出型医療法人
持分の定めがない社団医療法人が、活動資金について調達先・手段を基金に求めた場合、その医療法人は基金拠出型医療法人として類型されます。
なお、基金拠出型医療法人は社会医療法人や特定医療法人の承認を受けられないので、基金拠出型医療法人が社会医療法人か特定医療法人どちらかの承認を得たい場合、基金を返還するとともにそれを定めた定款変更が必要です。
その他の医療法人
持分の規定および持分そのものがない社団医療法人については、その他の医療法人(一般の持分なし医療法人)という類型になります。
商流・事業の特性
法人の観点において病院・医療法人は、一般企業とは異なっている点が多いです。ここでは、以下2点の特性について解説します。
- 病院・医療法人の定義の多さについて
- 病院・医療法人の方針を決める機関の違いについて
それぞれの項目を順番に見ていきましょう。
病院・医療法人の定義の多さについて
一般企業は、株式会社・合名会社・合資会社・合同会社の4種類に大きく分けられます。これに対して、病院・医療法人にはいろいろな形態が存在しており、先ほど紹介した社団法人や財団法人のほか、個人経営の病院や診療所も存在します。
また、国や自治体が経営している病院や日赤など、さまざまな形態の病院が存在している状況です。病院・医療法人のM&Aでは、医療法人における定義の多さがデメリットとなっています。なぜなら、M&Aの手続きが複雑化するからです。
一般企業は大きく分けて4種類のみであり、手続きはそれほど複雑ではありません。しかし、病院・医療法人には多くの形態があるため、それぞれの形態に合わせたM&A手続きを進める必要があります。
病院・医療法人のM&Aを考えている方は、買収先の病院がどのような法人形態であり、どのような手続きが必要であるかを確認しなければなりません。
病院・医療法人の方針を決める機関の違いについて
一般企業でも特に株式会社では、会社の経営方針決定や業務を執行している機関として、株主総会や取締役会が存在します。株主総会は、実質的経営権を有する株主が集まる機関であり、株式会社の最高の意思決定機関です。M&Aの最終決定は、原則的に株主総会決議が必要になります。
取締役会とは、株式会社における業務執行の意思決定機関になります。以上の2つが、株式会社における経営方針を決める機関です。
これに対して、社団法人の病院・医療法人でM&Aの最終決定をする機関は、社員によって構成される社員総会となります。社団法人の出資者(医師など)が通常は社員となり、社員が最終的な経営方針を決定するのです。
つまり、社団法人における社員総会は、株式会社の株主総会に当たります。なお、社団法人において業務を執行するのは理事であり、株式会社でいう取締役です。
株式会社では取締役は従業員である社員よりも立場が上ですが、社団法人の病院・医療法人では社員が株式会社における株主に近い立場となり、理事は社員総会によって選任されます。
病院・医療法人の市場状況
病院・医療法人の市場状況は、少しずつ悪化している状況です。都市部の病院・医療法人ではそれほど目立っていませんが、地方の病院・医療法人では以下2つの悪化要因によって市場状況が悪化しています。
- 地方病院における医師の高齢化や病院施設の老朽化
- 医師を目指す若者の減少
これら2つの悪化要因について見ていきましょう。
地方病院における医師の高齢化や病院施設の老朽化
超高齢社会の到来により、病院や診療所の患者数は緩やかに増加し、法人としての売上も増加傾向にあります。しかし、規模の小さい地方病院を中心に、医師の高齢化が顕著になり、今後も同じ患者数の診察を続けていくことは難しい現状です。
また、資金力の乏しい病院では、施設の老朽化が進んでいるにもかかわらず、修繕できていない状況も見られます。こういったことから、病院・医療法人の市場環境は悪化しているといえるでしょう。
医師を目指す若者の減少
近年、特に地方の病院で働こうと考えている若い医者が減少している状況です。この問題を改善するために、地方大学の医学部では地域枠を設けています。地域枠とは、その地域出身者でかつ医者を目指している人を対象に設けている枠です。
地方における医師の数を確保して、地方の医師不足を解決しようとしています。こうした観点からも、病院・医療法人の市場状況は将来的に見て苦しい状況といえるでしょう。
5. 病院・医療法人でM&A(売買)件数が増加している理由
近年の医療業界において、M&A(売買)の成約件数は増加しています。これは、さまざまな理由により売却される病院数が増加しているためです。ここでは、M&Aにより病院を売却する理由および、病院を買収する側のメリットを見ていきましょう。
売却される病院の増加要因
地方病院では過疎化が進行し、地域の人口減少により患者が減っています。そのため、病院の売上が減退して、経営難に陥っている病院が増加している状況です。
また、医者を目指す人の退潮や若者における都市部への流出によって、後継者問題を抱えている病院も増加しています。これらの問題を解決するため、病院・医療法人の経営者が売却といった選択を行うケースが増加中です。こうした背景により、売却される病院の数は増加しています。
病院を買収するメリット
さまざまな問題を抱えた病院を買収するメリットは数多くあります。事業規模を拡大できたり、地方での存在感を強化させたり、施設間での連携が取れたりするなどのメリットが代表的です。
一般企業・株式会社が病院・医療法人を買収するメリット
病院・医療法人は非営利性が求められる組織です。一般的に地域に医療を提供しつつ、事業規模を拡大するなどして利益を向上させ、法人財産の価値や役員報酬のレベルを上げる方法は可能です。したがって、現行の法制度上では一般企業・株式会社がが営利目的で病院・医療法人を買収するメリットはあまり大きいとはいえないでしょう。
営利企業による医療法人の経営権取得は、間接的な手法によるものです。ただし、昨今は資本業務提携の手法であれば経営の独立性を維持したまま協働が行えるため、有益な展開が望めるでしょう。例えば、医療法人とIT企業の間で資本業務提携のM&Aが実施されるケースも見られます。
6. 病院・医療法人のM&A(売買)のメリット
この章では、病院・医療法人におけるM&A(売買)のメリットについて、買収側と売却側に分けて見ていきましょう。
買収側のメリット
まずは、買収側のメリットです。以下2つのメリットを紹介します。
- 事業規模を拡大させるため
- 地方での存在感の強化のため
事業規模を拡大させるため
買収側のメリット1つ目は、買収により事業規模を拡大できる点です。事業拡大により、無駄のない設備を配置できたり、コストや人件費の削減などシナジー効果を得られたりします。これにより、事業収益を上げることも可能です。
事業規模拡大の戦略を行った法人の例としては、医療法人徳洲会が挙げられます。医療法人徳洲会は、医療業界におけるM&Aを先駆けて行っていました。結果として、日本最大の医療法人となるまで事業規模の拡大に成功しています。
事業規模拡大の効果によって、2019(平成31)年3月期における医療法人徳洲会の事業収益は約1,400億円となり、2位である医療法人の事業収益と2倍程度の差をつけました。
地方での存在感の強化のため
買収側のメリット2つ目は、地方における存在感の強化です。売却される病院の大半は、地方で存在感のある病院が多いので、こうした病院を買収できれば、買収側の存在感をその地域で強められるうえ、医療法人の名前を広められます。
売却のメリット
病院・医療法人を売却するメリットもいくつかあり、特に地方で経営している病院・医療法人は、売却により多くのメリットを受けられます。ここでは、以下の3つをピックアップしました。
- 事業承継により病院を経営させ続けられる
- 医療業務に集中できる
- 売却利益を獲得できる
それぞれのメリットを順番に見ていきます。
事業承継により病院を経営させ続けられる
売却側のメリット1つ目は、病院の事業承継を行うと病院を経営させ続けられる点です。経営者の高齢化によって、将来の病院運営をどうすべきか考える必要のある病院は数多く存在します。
解決方法は、「後継者を探す・廃業する・M&Aによる事業承継として法人を売却する」の3つです。病院・医療法人の後継者を探すことは困難であり、特に地方の病院・医療法人では医師不足が問題となっています。
勤務している医師の高齢化や医者を目指す若者の減少によって、後継者問題の解決がさらに困難な状況です。
病院の廃業について考えると、地方では病院の数が少ないため、問題を抱えている病院が地域で強い存在感を持つ病院であるケースがあります。こういった病院・医療法人は、簡単に廃業できません。
以上の背景があるため、売却が唯一の手段である病院は非常に多いのです。
医療業務に集中できる
病院・医療法人の理事たちはもともと医者であるため、医療業務を行っており、病院・医療法人として経営にかかわる部分の業務も執行しています。しかし、病院・医療法人が経営難である場合、法人の運営はかなり困難だといえるでしょう。
こうした場合、病院・医療法人における運営業務の負担が大きくなり、医療業務を万全の状態で行えない可能性が高いです。そこで、病院・医療法人の売却を行えば、運営業務を買収先に任せられるため、医療業務に集中できるメリットがあります。
売却利益を獲得できる
M&Aにより持分ありの病院・医療法人の持分を売却すると、売却利益を獲得できます。このときに獲得する売却利益は、病院などの継続による将来的な価値も加味したうえで算定されるのです。
つまり、病院の資産(不動産など)や病院自体の価値(診療報酬など)を合わせて算出するため、相応の高額となる可能性があります。
一方で、持分なしの病院・医療法人は持分を売却できないため、退職金の形で支払います。この場合、退職金の上限額は、【院長先生の最終報酬月額×勤続年数×3倍】と税務上決められているので、注意が必要です。
7. 病院・医療法人のM&A(売買)成功のためのポイント
病院・医療法人のM&Aは、一般企業のM&Aに比べて成功する確率が高く、簡単にM&Aができるという意見もあります。しかし、それは病院・医療法人におけるM&A成功のポイントを押さえておくことが前提です。
ここからは、病院・医療法人のM&Aで成功するためのポイントを4つ紹介します。以下に紹介する4つのポイントに注意しながら、病院・医療法人のM&Aを進めましょう。
- ガバナンスコントロール
- M&A後の病院・医療法人の経営方法
- M&A仲介会社
- 行政機関への連絡
それぞれのポイントを詳しく解説します。
ガバナンスコントロール
ガバナンスコントロールとは、社外の利害関係者による統治・制御のことです。M&Aを成功させるには、譲受する側が譲渡する法人の経営権をコントロールする必要があります。
株式会社がM&Aをする場合、経営権を取得するには会社における発行済み株式のうち半分以上の株式を取得しなければなりません。半分以上における株式などの取得により、会社の最高意思決定機関である株主総会における議決権を半分以上取得でき、会社をコントロールできます。
しかし、病院・医療法人では、経営権をコントロールするための方法が株式会社と異なっています。病院・医療法人の最高意思決定機関は社員総会です。
社員総会の議決権は、株主総会で採用される出資比例方式ではなく、社員1人につき議決権1票と平等に分配されています。つまり、株式会社と同じようには経営権をコントロールできない点に注意が必要です。
M&A後の病院・医療法人の経営方法
それでは、どのようにして病院・医療法人の経営権をコントロールするのでしょうか。経営権をコントロールする方法には、直接経営と間接経営の2種類があります。
直接経営
株式会社であれば株式比率に基づいた議決権があるので、出資を増やせば直接経営は容易です。これをエクイティアプローチといいます。しかし、病院・医療法人の場合、最高意思決定機関である社員総会の議決権は社員1人につき1議決権を与えられます(社員は出資者である必要はありません)。
そのため、出資持分を保有していても、社員総会の議決権をもつ社員らの支持を得なければ経営権を確立できないため、敵対的買収は困難でしょう。
間接経営
間接経営とは、譲渡される病院・医療法人の債権者となることで経営をコントロールすることを意味します。特に医療報酬債権関連の債権を取得すれば、譲渡される病院・医療法人の大口債権者となるのです。
譲渡される病院・医療法人を譲受する側が、病院が建っている土地や建物そのものを買収し、間接的に経営をコントロールする方法が代表的です。ここで引き渡される不動産の所有者になることで、経営の間接的なコントロールができます。以上が、デットアプローチです。
間接経営では、MS法人(メディカル・サービス法人)を利用して、譲渡される病院・医療法人を間接的にコントロールする方法もあります。MS法人とは、病院・医療法人に対して、医療に関連するサービスの提供を行うことを目的とした法人のことです。医療法人とは異なり、営利目的で事業を行えます。
譲渡される病院・医療法人の経営の一部がMS法人に委託され、譲受する会社がMS法人の経営権を取得することで、間接的に経営権をコントロールできるのです。
M&A仲介会社
病院・医療法人のM&Aを行う際は、専門家の選定に気をつける必要があります。特に病院・医療法人のM&Aは一般企業のM&Aに比べると特殊であるため、信頼できる専門家に依頼しなければなりません。
信頼できるM&A仲介会社を見わけるための主なポイントを、以下に箇条書きで紹介します。
- 秘密保持契約など契約をきちんと行っているか
- 自身の紹介をするときに自慢話が多かったり、矛盾する話があったりしないか
- ネットで検索して見つかるM&A仲介会社であるかどうか
- 口コミでそのM&A仲介会社における評判はよいか、実績があるかどうか
- 病院・医療法人とのネットワークが広いかどうか
- 相談に対してすぐに対応できるM&A仲介会社であるかどうか
M&A仲介会社をお探しの場合は、ぜひM&A総合研究所へお任せください。M&A総合研究所では、経験・知識の豊富なM&Aアドバイザーが案件をフルサポートいたします。
料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です。(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります。)無料相談を行っていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
行政機関への連絡
病院や医療法人のM&Aは一般企業とは異なり、行政機関の存在を無視できません。各種手続き申請など行政機関が関係するため、あらかじめM&Aの実施に関して連絡しておく必要があります。
例えば、病院・医療法人の吸収合併には、都道府県知事の認可が必要です(医療法58条の2)。したがって、都道府県、厚生労働省、保健所などに対する各種申請・届出も同時に準備が必要になります。
以上のことから、病院や医療法人のM&Aでは、一般企業のM&A以上に多くの作業を並行して進めなければなりません。ケースによっては行政機関と連絡をとりながら、M&A手法を検討したり、デューデリジェンスを実施したり、定款変更の手続きを行ったりします。
この点も視野に入れ、信頼できるM&A仲介会社などを起用し準備しましょう。
8. 病院・医療法人のM&A(売買)にかかる期間
一般企業のM&Aは、通常、クロージングまで10ヶ月以上かかります。これに対して、病院・医療法人のM&Aは、それよりもさらに数ヶ月を要することがほとんどです。時間がかかる理由は、目的に合った病院・医療法人の探索に時間がかかる点にあります。
目的に合った病院・医療法人の探索に時間がかかる
目的に合った病院・医療法人の探索には、時間がかかります。その理由は、売却される病院・医療法人の数が少ないためです。病院・医療法人の数は一般企業の数に比べて非常に少ないため、売却される病院・医療法人の数も一般企業に比べて非常に少なくなります。
こうした状況において、目的に合った病院・医療法人を探索していくため、すぐにマッチングできないケースも珍しくありません。
9. 病院・医療法人のM&A・価額相場
病院・医療法人の売買価額は、以下3つの方法で計算されます。
- 資産基準+営業権方式
- 買収事例比較方式
- DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)方式
「資産基準+営業権方式」は、純資産の価値に営業権の価値を加算して求めます。中小病院の価額を算定するときに用いられる算定方法です。「買収事例比較方式」は、これまでに行われてきたM&Aの事例を参考にして価額を算出します。
「DCF方式」は、これから獲得が見込まれる利益を現在価値に直したうえで、その利益額をもとに価額を算出する方法です。いずれの算定方法でも、病院・医療法人の規模や状態によって価額の相場は変動します。
個人経営の病院における売却の場合は、契約金が1,000万円以内で収まる場合が多いです。一方で、ある程度規模の大きな医療法人のM&Aでは、価額が10億円を超えるケースも少なくありません。
10. 病院・医療法人のM&A(売買)事例11選
この章では、病院・医療法人のM&A(売買)事例を見ていきましょう。
①日本郵政のM&A
2022年10月に、日本郵政は広島逓信病院を生和会へ譲渡しました。
日本郵政は、日本郵便・ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険などの事業を行う日本郵政グループの持株会社です。譲受先である生和会は、山口県・広島県に5つの病院・10の介護施設を運営する医療法人です。
日本郵政は、地域医療の発展に資するためM&Aを行いました。現状の診療体制などは、譲渡後の新病院に引き継がれます。譲渡によって広島逓信病院は、広島はくしま病院として名称が変更となりました。
②博洋会のM&A
2021年6月に、博洋会と竜山会は事業譲渡契約を結びました。8月1日に譲渡が行われます。譲受側の竜山会は病院を運営する医療法人で、博洋会も藤井病院を運営していた医療法人です。
博洋会は、藤井病院で夜勤看護要員の配置要件を満たしているように見せかけて、勤務実態とは違う届出を行っていました。診療報酬の不正請求がわかり、保健医療機関指定取り消し処分を受けています。
博洋会は医療サービスと雇用を続けるために、このM&Aを行いました。
③NTT西日本のM&A
2020年12月、NTT西日本は松山病院の事業を真泉会へ譲渡しています。譲渡価格は公表されていません。
NTT西日本は、西日本で電気通信業務などを手掛け、NTT西日本松山病院は医療法施行の前に逓信省(総務省、日本郵政、NTTなどの前進)が運営していた病院で、民営化後は企業立病院でした。真泉会は、病院を運営している社会医療法人です。
企業立病院はいろいろな規制の対象で、一般の病院より経営環境が厳しく、最先端の医療機器や医師の確保が困難なので、NTT西日本は医療サービスと雇用を続けるために、このM&Aを実行しました。
④メディカルネットのM&A
2020(令和2)年10月、インターネットを活用した医療・生活関連情報サービス業を行っているメディカルネットが、タイの子会社Medical Net Thailandつう通じて、Pacific Dental Care Co., Ltd.の全株式を取得し、完全子会社化しました。
取得価額は、1,600万バーツ(その時点における為替レートで約5,371万3,000円)です。メディカルネットは、歯科医療情報ポータルサイト運営、歯科クリニック経営支援、歯科関連企業マーケティング支援など歯科医療関連ビジネスに注力しています。
2017(平成29)年にタイに設立したMedical Net Thailandは、タイで歯科医院を運営しており、子会社化したPacific Dental Care Co., Ltd.も同様です。これは、タイでの歯科医院運営事業拡大を企図して行われたM&Aでした。
なお、この事例のように、国内企業が海外企業との間で実施するM&Aを、特にクロスボーダーM&Aと呼びます。
⑤木下会のM&A
2019年12月、木下会が沖縄徳洲会に吸収合併されました。合併対価は公開されていません。
木下会は、総合病院や介護老人保健施設を運営していた社会医療法人で、沖縄徳洲会は多数の病院クリニックを運営する医療法人で、病院を全国展開している徳洲会グループに属しています。
これにより、沖縄徳洲会は経営を合理化し、コンプライアンスやガバナンスを強化する見込みです。
⑥翔洋会のM&A
2019年8月、民事再生中である翔洋会が、ときわ会へ医療・介護事業を譲渡しました。譲渡対価は、およそ12億4,300万円です。
翔洋会は病院やクリニックを運営していた医療法人で、公益財団法人ときわ会・医療法人ときわ会は病院、クリニック、介護老人保健施設などを手掛けています。
2018年11月に、翔洋会は261億6,400万円の負債を抱えて事実上倒産し民事再生法の手続きに入りました。しかし、大きな社会的影響があるため、当局の保全命令・監督命令のもとで病院を運営していたのです。
これにより、ときわ会は、グループ内における既存病院との連携による医療提供体制・健診機能の向上を見込みます。
⑦埼玉県の精神病院
譲渡法人である医療法人Aは、埼玉県で30年間にわたって精神病院を経営しています。理事長の個人的な人脈や好立地条件などによって、売上高は約5億円でした。理事長は65歳となったことを契機に医療法人Aの引継ぎを考えます。
まずは、親族内承継を検討します。理事長には娘が1人いて、医師として働いていました。医療法人Aで勤務した経験もありますが、方針の違いで現在は別の病院で勤務しており、医療法人Aを引き継ぐつもりはありません。
次に親族外承継を検討します。2年前から医療法人Aの後継者として、外部から招いて勤務してもらっていました。しかし、後継者とも方針が合わず、承継を断られる結果となっています。
事業承継について事前にさまざまな対策を行いましたが、うまくいかずM&A仲介会社に相談しました。M&Aにより医療法人Aを引き継いだ医療法人Bは、愛知県で売上15億円の精神病院を経営しています。
理事長の年齢は47歳と若手であり、関東に進出したい思いや事業規模を拡大したい思いがありました。そのため、本件M&A事例は非常に早く話が進み、事業承継に成功しています。
⑧埼玉県の慢性期病院
譲渡法人である医療法人Cは、埼玉県で30年間にわたって慢性期病院を経営しています。理事長自身のネットワークの広さやカリスマ的なコミュニケーション能力によって、売上高は約15億円でした。
理事長は75歳と高齢であったため、医療法人Cの引継ぎをずっと考えており、まずは親族内承継を検討します。理事長の長男は医師ですが、精神的な病気を患っており満足に働ける状態ではありませんでした。
次に、親族外承継を検討します。医療法人Cで勤務している常勤の医師たちに話を持ちかけましたが、大きな責務を引き継いでまで承継するつもりはないと断られてしまいました。
事業承継について別の対策が必要であると感じていたときに、M&A仲介会社主催のセミナーに参加したことがきっかけとなり、そのM&A仲介会社に相談をしたのです。
一方、譲受法人となる医療法人Dは、売上約150億円と比較的規模が大きく、北海道で病院・介護施設を経営していました。医療法人Dはグループ会社に属しており、グループ会社内にある別の医療法人は東京で訪問医療を行うクリニックを複数経営していました。
医療法人間でのシナジー効果獲得を期待して医療法人Dは医療法人Cを買収し、結果としてM&Aに成功しています。
⑨東京都の訪問医療を行うクリニック
譲渡法人である医療法人Eは、東京都内2か所でクリニックを経営しています。入院施設はないものの、訪問医療を特徴としており、売上は4億円程度あげていました。
現在における理事長の弟が初代理事長でしたが、初代理事長は2年前に急逝してしまい、医師ではない兄が理事長を務めることになったのです。理事長は医師でないことや72歳と高齢であることなどから、できるだけ早い引継ぎを考えていました。
しかし、理事長の一族には医師が1人もいないため、親族内承継を行えません。次に、親族外承継を検討します。医療法人Eで勤務している常勤の医師たちに話を持ちかけたり、外部から後継の意思がある医者を招いたりしましたが、うまくいきませんでした。
こうした背景があり、結果的にM&A仲介会社に相談しています。譲受法人となる医療法人Fは、全国で訪問歯科医療を行っている広域医療法人です。
医療法人Fが属しているグループ会社は、事業規模を拡大するためにM&Aを積極的に行っていました。医療法人Fは、訪問歯科医療と訪問医療とのシナジー効果を期待して、医療法人Eを買収しています。
⑩東海地方の地域密着型病院
譲渡法人である医療法人Gは、東海地方で地域密着型の病院を経営しています。手厚いサービスが受けられると地元で評判であったため、売上を15億円程度あげていました。しかし、医療法人Gは後継者不在であるために中継ぎとして某ファンドが経営を行っていたのです。
某ファンドからの投資が開始されてから4年が経過して契約が切れる時期に差しかかっていましたが、依然として医療法人Gの後継者が見つからず、M&A仲介会社に相談しました。
譲受法人となる医療法人Hは、売上100億円以上をあげる規模の大きな総合医療グループです。医療法人Hは、事業規模を拡大するために積極的なM&Aを行うことを検討していました。本件M&A事例は2回目の検討であり、タイミングよく買収相手が見つかった経緯があります。
これにより、医療法人Hは、医療法人Gの買収を決めてM&Aを行いました。
⑪個人規模での病院M&A
売り手である病院Iは事業規模が小さいながらも地元の人に愛されており、経営は安定していました。しかし、医院長は早期リタイアを検討しており、事業承継を行える相手を探していたのです。
買い手となる大学病院勤務のJさんは、独立を考えていました。しかし、手続きが面倒なことや医療器具などを全て揃えるために多額の資金が必要なことなどから、なかなか独立できなかったところ、Jさんに病院Iにおける事業承継の話がきたのです。
年間利益を約700万円あげていることや、医療設備などがそのまま使えることなどから、約1,500万円の契約金でM&Aに成功しています。
11. 病院・医療法人のM&A(売買)動向まとめ
病院・医療法人のM&Aは、一般企業のM&Aと異なっている点が多くあります。そのため、病院・医療法人のM&Aを行う際には、専門知識を持つM&Aアドバイザーなどに相談するほか、余裕を持ったスケジュール調整をするなどの対策を行わなければなりません。
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