食品卸売業界のM&Aの現状は?動向や事例から売却の流れや注意点も解説!

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、食品卸売業界のM&Aの現状や動向から、売却のメリットや注意点、価格の相場を詳しく解説しています。食品卸売業とは、製造業者と小売業者の間に入り、仕入れた食品を納品する事業者です。食品卸売業界のM&Aを検討している方は必見の内容です。

目次

  1. 食品卸売業界のM&A・売却・買収・事業承継の現状
  2. 食品卸売業界のM&A・売却・買収の動向
  3. 食品卸売業界のM&A・売却・買収事例10選
  4. 食品卸売業界のM&A・売却・買収を行うメリット
  5. 食品卸売業界のM&A・売却・買収価格の相場
  6. 食品卸売業界のM&A・売却・買収する際の注意点6選
  7. 食品卸売業界のM&A・売却・買収時におすすめの相談先
  8. 食品卸売業界のM&A・売却・買収についてまとめ
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1. 食品卸売業界のM&A・売却・買収・事業承継の現状

食品卸売業界では、収益性の悪化や卸売を経由しないビジネスモデルの台頭により、経営が非常に苦しくなっていると考えられています。

各企業は、少しでも収益性を上げるために、さまざまな努力をしています。この状況を打開する方法の1つとして、最近ではM&Aによる売却・買収事業承継を選択するケースが増えてきている状況です。

食品卸売業界とは

食品卸売業界とは、国内外のメーカーから各種の飲食料品を仕入れて卸売をしている業界です。飲食料品の中間流通を担っています。業界構造としては、メーカーと直接取引をする元卸業者、小売業者と取引する最終卸業者、両者の間に入る中間卸業者の三者に分かれます。

日本標準産業分類によると、飲食料品卸売業は、大きく「農畜産物・水産物卸売業」と「食料・飲料卸売業」に中分類され、それぞれに属する小分類は以下のとおりです。

  • 農畜産物・水産物卸売業:米麦卸売業、雑穀・豆類卸売業、野菜卸売業、果実卸売業、食肉卸売業、生鮮魚介卸売業、その他の農畜産物・水産物卸売業
  • 食料・飲料卸売業:砂糖・みそ・しょう油卸売業、酒類卸売業、乾物卸売業、菓子・パン類卸売業、飲料卸売業(例外あり)、茶類卸売業、牛乳・乳製品卸売業、その他の食料・飲料卸売業

食品卸売業界の特色

食品卸売業界は、一部の取扱品を除けば特別な許認可がいらず、特殊な専門知識なども必要ないことから、参入障壁は高くありません。大手メーカー、あるいは大手小売業者のグループ会社が卸売業を行っているケースも多くみられます。

取引上の慣習として、大手メーカーあるいは大手小売業者(スーパーマーケット、コンビニエンスストアなど)、大手外食チェーンなどと取引するのは、規模の大きい卸売業者です。中小規模の卸売業者が取引するのは、中堅・中小規模の小売業者・飲食店です。

食品卸売業界の市場規模

経済産業省の「2020年商業動態統計年報」によると、農畜産物・水産物卸売業と食料・飲料卸売業の過去3年間の販売額は下表のように推移しています。
 

2018(平成30) 2019(令和元) 2020(令和2)
農畜産物・水産物卸売業 23兆6,540億円 23兆6,630億円 33兆3,860億円
食料・飲料卸売業 50兆5,610億円 49兆2,750億円 52兆8,950億円
(出典:経済産業省「業種別商業販売額及び前年(度、同期、同月)比増減率 」 https://www.meti.go.jp/statistics/tyo/syoudou/result/excel/h2s2020101.xls

農畜産物・水産物卸売業の販売額は、1990(昭和)年には60兆円を超えていましたが、そこから徐々に落ち込み現在の水準まで下がっています。食料・飲料卸売業は1990年頃も約50兆円でしたが、2008(平成20)年に40兆円を割り込み、そこから現在の水準に回復しました。

食品卸売業界の課題と展望

商品の小売価格には、流通マージンが加算されます。そのマージン分が食品卸売業者の利益です。消費者の手元に届くまでの間に多くの流通業者が入るほど、最終価格は高まります。

昨今、小売業者は、流通マージンによって小売価格が高騰するのを嫌い、中間流通を介さない仕入れで販売価格を抑える「中抜き」を行うケースが増えてきました。元卸業者から仕入れるだけでなく、メーカーや生産者から直接仕入れる小売業者もみられます。

中抜きされてしまった卸売業者にとっては、死活問題であり大きな課題です。日本がこのまま人口減少に歯止めがかからない限り、最終的には食品の需要が下がっていくのは間違いありません。食品卸売業界は、そのなかでパイの奪い合いをしていくことになります。

卸売業者の宿命として、商品の保管と配達、つまり倉庫業と配送業も行う必要があります。倉庫・車両の確保・維持や車両の燃料費が利益率に与える影響など、サプライチェーンとしての課題にも取り組まねばなりません。

M&A・売却・買収とは

M&Aとは、Mergers and Acquisitionsの頭文字をとったもので、企業の合併(Mergers)や買収(Acquisitions)のことです。一般的に、企業がM&Aを行う目的には、事業基盤の強化や新規事業への進出などが挙げられます。

食品卸売業界の場合、収益悪化の現状を打破する方法としてもM&Aが選ばれています。ただし、M&Aを行うためには買収側は多額の資金が必要です。成功率は50%程度ともいわれているため、大きなリスクが伴います。

コスト削減などの改善策を行っても効果がない場合の最終手段として考えておくべき方法ともいえます。

事業承継とは

事業承継とは、後継者に事業を引き継ぐことをさします。事業承継は、引き継ぐ相手により3種類に分類され、それは親族内事業承継・社内事業承継・M&Aによる事業承継の3種です。

親族内事業承継では、経営者の子どもや配偶者、親戚などの親族を後継者にします。個人事業や小規模事業者では、親族内事業承継の割合が多いです。近年では、子に事業を継ぐ意思がないなどの理由により、親族内事業承継の比率は低下している状況です。

社内事業承継では、自社の役員や従業員を後継者にします。小規模事業者や中小企業で用いられることが多いです。後継者側が自社株式を取得するための資金を用意しなければならないため、承継できないケースも少なくありません。

上述した2つの事業承継が難しい場合の後継者問題解決策として、M&Aによる事業承継を選択可能です。既存の企業または個人に事業を売却して引き継ぎます。買収側が自動的に後継者=新たな経営者となり、後継者問題が解決できます。

食品メーカー・食品会社のM&A・買収・売却の業界動向については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】食品メーカー・食品会社のM&A・買収・売却の業界動向!相場、手法、成功事例も解説【2022年最新版】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

2. 食品卸売業界のM&A・売却・買収の動向

次は、食品卸売業界のM&A・売却・買収動向をつかむために、以下の5つを取り上げて解説します。

  1. 2011年頃から業界内再編が起こっている
  2. 関連業種同士がM&Aを行い事業基盤の強化が行われている
  3. 中小規模の会社は競争の激化により倒産・廃業するケースもある
  4. 主にアジア企業を買収する件数も目立っている
  5. M&Aにより食に関わる多くの事業を行う企業も増加している

①2011年頃から業界内再編が起こっている

食品卸売業界では、2011年頃から業界内再編が起こっています。きっかけとなったのは2011年に行われた2つのM&Aです。

1つ目は、2011年7月、当時業界2位で三菱商事傘下の菱食・明治屋商事・フードサービスネットワーク・サンエス4社による経営統合です。この経営統合により三菱食品が設立されました。2つ目のM&Aは、伊藤忠商事が子会社の日本アクセスを軸にした傘下の食品事業会社の統合です。

これら2つのM&Aにより、2013年には三菱食品が業界1位、日本アクセスが業界2位となりました。これを皮切りに、資本や市場シェアを統合させるための事業再編が盛んに行われています。

②関連業種同士がM&Aを行い事業基盤の強化が行われている

近年の食品卸売業界では、関連業種同士がM&Aを行い、事業基盤の強化が図られています。その代表例として挙げられるのが、神明グループのM&Aです。神明グループは兵庫県に本社を置く国内最大のコメ卸売です。積極的なM&Aを行い、販路拡大・事業基盤強化を行っています。

2015年から2017年にかけて、神明グループは、炊飯加工調理を行うコメックス・居酒屋チェーン店ワタミ・「どさん子ラーメン」などを展開するアスラポートダイニングなどに資本参加し、コメの販売先を拡大させ、事業基盤の強化を図りました。

2017年からは青果卸大手の東果大阪・水産物輸入卸売のコダックなどを相次いで買収し、多角化経営を行っています。

③中小規模の会社は競争の激化により倒産・廃業するケースもある

食品卸売業界ではM&Aや業界再編の動きが目立っています。しかし、競争激化により倒産・廃業するケースも増えています。デフレの影響や流通の中抜き化などで食品卸売業の収益は圧迫されており、中小企業は厳しい状況下に置かれているのが現実です。

大手企業であれば、積極的なM&Aにより事業規模を拡大させ、パフォーマンス向上やコスト削減で業績を改善できます。一方で、中小規模の食品卸売会社は資金力に乏しいため、積極的にM&Aを行うことは難しい状態であるといわざるを得ません。

食品卸売業界で生き残るためには、他企業との差別化を図り、市場シェアを維持していかなければなりません。戦略がうまくいかないと赤字が続き、結果として倒産・廃業に至っていると考えられます。

④主にアジア企業を買収する件数も目立っている

食品卸売業界では、アジア企業を買収する件数が増加中です。日本国内はすでに人口減少が始まっており、将来にわたって安定的に成長するためには、海外進出を見据えた戦略を取る必要があります。

昨今は、主にアジア企業を買収する事例が目立っています。たとえば、トーホーは積極的に買収を行っている企業の1つです。

トーホーは、2015年にシンガポールに本社を置く食品卸のマルカワトレーディング、2017年にシンガポールの業務用食品卸トモヤ・ジャパニーズ・フード・トレーディングを買収しています。

2018年には、業務用青果卸売のFresh Direct Pte LtdおよびKitchenomics Pte Ltdを買収し、事業基盤の強化と海外進出に躍進中です。

⑤M&Aにより食に関わる多くの事業を行う企業も増加している

近年、食品卸売業界では、M&Aにより新規参入する企業が増加しています。食品卸売事業は、一部を除いて許認可を得る必要がありません。専門的な知識も必要ないため、他業種に比べると参入障壁は低いからです。

食品卸売業界の競争は激化しているものの、既存事業のノウハウを生かした差別化を図れる可能性や、事業に成功する確率が高いと考えられるため、食品卸売事業に関わる企業が増加しています。

飲食・外食業界のM&A動向と最新事例については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】【2021】飲食・外食業界のM&A動向と最新事例を紹介!現状の課題は?| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

3. 食品卸売業界のM&A・売却・買収事例10選

ここでは、食品卸売業界で行われたM&A・売却・買収事例を10件、掲示します。

  1. 和心とNATTY SWANKYとの資本業務提携
  2. 三井物産による五洋食品産業へのTOB
  3. 栗林商船による北千生氣の子会社化
  4. 新日本製薬によるフラット・クラフトの子会社化
  5. 日本みらいキャピタルによる老舗ベーカリーの買収
  6. トーホーによる業務用水産品卸売会社の子会社化
  7. 伊藤忠食品のエブリーとの資本業務提携
  8. トーホーによる業務用青果卸売会社および青果加工会社の子会社化
  9. ヤマエ久野による建設工事会社の子会社化
  10. アスモフードサービスによるぱすとの子会社化

①和心とNATTY SWANKYとの資本業務提携

2021年12月、和心はNATTY SWANKYと資本業務提携を締結しました。和心の新事業である食肉事業での業務提携に伴い、約2,000万円の資本提携も実施する予定です。

和心は、これまで商品企画・デザイン・製造事業、店舗設計・運営事業、Webデザイン・ECサイト運営・着物レンタル事業などを行ってきました。新たに食肉卸売事業に参入することになります。NATTY SWANKYは、飲食店経営事業を行っている企業です。

和心としては、NATTY SWANKYが経営する「ダンダダン酒場」の仕入れ先として業務提携することで、和心が掲げる食肉卸売のプラットフォーマーとして、食品卸売業界の新たなエコシステム構築を目指しています

②三井物産による五洋食品産業へのTOB

2021年10~12月、三井物産が五洋食品産業へTOB(株式公開買付け)を実施し、83.37%分の株式を取得しました。取得に要した額は13億2,384万6,957円です。総合商社である三井物産は、食品卸売事業も行っています。

五洋食品産業は、冷凍洋菓子の製造事業を行っている企業です。三井物産としては、食品事業における高付加価値製品事業の拡大とモノづくり機能強化が可能になると判断し、五洋食品産業を子会社化しました。

③栗林商船による北千生氣の子会社化

2021年7月、栗林商船は北千生氣の全株式を取得し、完全子会社化しました。取得価額は7億5,000万円です。栗林商船は、国内航定期船事業、国内航不定期船事業のほか、海陸一貫輸送サービス事業を行っています。

北千生氣は、北海道で青果物の仕入・加工・保管・販売(=青果物卸売業)を行っている企業です。栗林商船としては、自社の顧客基盤、物流網が北千生氣との間でシナジー効果が見込めると判断しました。

④新日本製薬によるフラット・クラフトの子会社化

2021年6月、新日本製薬は特別目的会社(SPC)を通じて、フラット・クラフトの全株式を取得し、完全子会社化しました。取得価額は公表されていません。新日本製薬は、化粧品・医薬品・健康食品の製造・販売を行っています。

フラット・クラフトは、食品の輸入・卸売・販売を行っている企業です。新日本製薬としては、フラット・クラフトの商品力・収益力が高いシナジー効果を生むと判断しました。

⑤日本みらいキャピタルによる老舗ベーカリーの買収

2020年6月、日本みらいキャピタルは全額を出資している特別目的会社(SPC)が、老舗ベーカリーである浅野屋の株式80%を取得したことを発表しました。

浅野屋は、「ブランジェ浅野屋」を1933年に創業しました。老舗ベーカリーとして、東京都や長野県軽井沢などでベーカリーの小売店舗12軒の運営と、業務用卸売の製造販売事業を行っています。

日本みらいキャピタルとしては、資金、人材、経営戦略策定において全面的に支援し、浅野屋の業績向上をバックアップしていく方針です。

⑥トーホーによる業務用水産品卸売会社の子会社化

2019年8月、トーホーはシンガポールでホテル・レストラン向けなど業務用水産品卸売業を行っているGolden Ocean Seafood(S)Pte Ltdの全株式を取得し、完全子会社化しました。

トーホーグループは、中期経営計画で「コア事業のシェア拡大」「商品力・トータルサポート力の強化」「M&A戦略のさらなる加速」を重点施策として、国内外の業務用食品卸売事業のシェア拡大を行っています。

このM&Aは、その経営計画の一環として実施されました。トーホーグループとして、現在5社体制で行っているシンガポールでの業務用食品卸売事業に、新たな取扱品目を増やしたものです。

⑦伊藤忠食品のエブリーとの資本業務提携

2019年7月、酒類・食品卸売業を行う伊藤忠食品は、レシピ動画メディア「DELISH KITCHEN」運営などを行うエブリーの第三者割当増資を引き受ける資本業務提携契約を締結しました。第三者割当増資として出資する価額は25億円です。

伊藤忠食品としては、この資本業務提携により、デジタルサイネージ事業を推進し、小売業およびメーカーへの販促支援サービス分野などでエブリーと協業を図ることを目的としています。

⑧トーホーによる業務用青果卸売会社および青果加工会社の子会社化

2018年10月、トーホーはシンガポールで業務用青果卸売事業および青果加工事業を行っているFresh Direct Pte LtdとKitchenomics Pte Ltdの2社の全株式を取得し、完全子会社化しました。

Fresh Direct Pte Ltdには、Onla Pte LtdとBread N Better Pte Ltdという子会社2社がありました。その2社も今回のM&Aにより、トーホーの孫会社となったことになります。

トーホーは、先述したように、重点施策として「M&A戦略のさらなる加速」を掲げており、上の事例に先んじて行われたのが、この青果卸売会社へのM&Aです。

⑨ヤマエ久野による建設工事会社の子会社化

この事例は、食品卸売事業者が他分野での事業強化を図るために行われたM&Aです。2018年2月、ヤマエ久野は、熊本市に本社を置く建設工事会社・日装建の株式を51.0%取得し、子会社化することを発表しました。

ヤマエ久野グループは、食品卸売事業だけでなく、九州エリアを中心とした住宅・不動産関連事業など多角経営を行っています。一方の日装建は、熊本県や福岡県南部を中心にアパート・マンション・戸建住宅建設などの建設事業を行う会社です。

今回のM&Aで、ヤマエ久野グループは、既存の住宅・不動産関連事業のネットワークを通じて販売エリアを拡大し、事業の成長を目指す方針です。

⑩アスモフードサービスによるぱすとの子会社化

最後に紹介する事例は、2015年12月に発表された、アスモフードサービスによるぱすとの子会社化です。売り手側であるぱすとは、イタリアンレストランのチェーン展開を行っています。

アスモフードサービスは、給食事業や海外飲食事業を展開しています。アスモフードサービスのグループ会社アスモトレーディングは、食肉の卸売事業を行っている企業です。

アスモフードサービスは、今回のM&Aで、初めて国内のレストラン事業を展開することになります。ぱすとのノウハウを生かして新メニューの開発や人材の定着を図り、さらにはイタリアンレストランの海外進出を見据えて国内で事業を展開すると発表しました。

食品卸売業界のM&A事例から浮き彫りになる課題点

食品卸売業界の会社は、食品の主要仕入れ先付近に拠点を構えることが多いため、一般企業に比べ地方を拠点とすることが多くなっています。都市部の企業よりも情報不足である点が否めません。情報不足はM&Aも同様です。

都市部では、M&Aは事業承継の手段であったり、経営戦略の一環であったりという意義が広く浸透してきています。しかし、残念ながら食品卸売業界では、上述した事情によりM&Aの情報が不足しているため、M&Aに消極的です。

今後は、食品卸売の業界団体によるM&Aの有効性の啓蒙活動が望まれます。

4. 食品卸売業界のM&A・売却・買収を行うメリット

ここでは、食品卸売業界のM&A・売却・買収を行うメリットを、売却側・買収側、それぞれの視点から解説します。

売却側のメリット5選

売却側のメリットは、以下の5つを取り上げました。

  • 後継者問題の解決ができる
  • 従業員の雇用が継続される
  • 事業基盤を安定させられる
  • 倒産・廃業を回避できる
  • 売却益を獲得できる

後継者問題の解決ができる

1つ目のメリットは、後継者問題が解決できることです。この数年来、中小企業を中心に経営者の高齢化が進んでいます。平均年齢は60歳を超えているといわれています。

経営者の平均引退年齢は約70歳なので、多くの企業で事業承継を考える必要があるでしょう。しかし、現代では事業を継ぎたくない子どもも多いため、後継者を見つけることも容易ではありません。

M&Aで事業・会社の売却を行えば、後継者を探さなくても事業承継を行えます

従業員の雇用が継続される

2つ目のメリットは、従業員の雇用が継続される点です。後継者がみつからず事業承継できない場合は、自社を廃業せざるを得なくなります。廃業となれば、現在働いている従業員を解雇しなければなりません。

ところが、M&Aによる会社売却を行うことで、従業員の雇用は継続されるでしょう。売却先の事業規模は自社よりも大きいことがほとんどです。従業員の待遇がよくなる可能性が高く、安心して事業承継を行えます

事業基盤を安定させられる

3つ目のメリットは、事業基盤を安定化できる点です。これは、複数の事業を行っている企業が食品卸売事業を売却するときに得られるメリットです。

食品卸売業は業界全体として利益率が悪くなっています。企業によっては、食品卸売事業の収益性の悪化が、ほかの事業に悪影響をおよぼしている場合があります。

このような場合は、食品卸売事業を売却する方法が有効です。事業基盤を安定化させ、アナジー効果(負の相乗効果)がなくなることで、自社の利益が増大する可能性につながるでしょう。

倒産・廃業を回避できる

4つ目のメリットは、倒産・廃業を回避できる点です。食品卸売業は、業界全体で年々、利益性が悪化しています。改善のための事業戦略を立てなければなりません。

しかし、戦略が見つからない場合は、倒産の可能性が高まってしまいます。そのリスクを回避させるために、売却という考え方もあるでしょう。

経営者の引退で事業承継がうまくいかずに廃業せざるを得なくなった場合、従業員や取引先への影響は大きく、廃業コストと手間も要します。事業を売却することで、これらの手間を省き、ステークホルダーへの影響を最小限にできるでしょう。

仕入コストを削減できる

M&Aを通じて買収側の傘下に入ることで、これまで自社で仕入れていた商品を親会社にまとめて仕入れてもらえるようになる可能性があります。大量仕入の実現によって、1商品当たりの仕入費用の削減が見込まれます。

売却益を獲得できる

最後のメリットは、売却益を獲得できる点です。年々収益が悪化している食品卸売業ですが、差別化を図り成功している企業や、新規参入したいと考えている買い手企業に売却すれば、譲渡・売却益を得られます

廃業や倒産にはコストがかかるため、業績改善の見込みが立たない場合、ここに挙げたメリットを得ることを目的とし、事業を売却する方法も考えておく必要があるでしょう。

買収側のメリット3選

次に、買収側のメリットとして、次の3つに注目しました。

  • 隣接業種・新規エリアに進出できる
  • 優良な取引先や人材が得られる
  • 業界内での優位性を強固にできる

隣接業種・新規エリアに進出できる

食品卸売会社が、M&Aによって買収をする際には、自社と類似した業種を探すことが望ましいです。買収がうまくいけば、隣接業種エリアに進出できます。自社とのシナジー効果が創出されることで、さらなる業績向上やコスト削減による効果が期待できます。

食品卸売会社同士のM&Aが実現すれば、新規エリアに進出ができます。離れた地域の企業を買収すれば、商業エリアを拡大できるでしょう。それ以外にも、自社にはない商品を取り扱っている企業を買収できれば、さらなる売上拡大や、新たな顧客層拡大も見込めます。

優良な取引先や人材が得られる

食品卸売会社がM&Aによって買収に成功すると、優良な取引先や人材が得られる点もメリットです。大手企業などを取引先に持つ相手を買収できれば、収益増加や業績の安定化が期待できるでしょう。

優秀な人材が獲得できれば、さらなる収益拡大が見込めます。それだけでなく、新規採用や人材育成にかかるコストも削減できます。

業界内での優位性を強固にできる

食品卸売会社が、同業種の企業を買収できれば、市場シェアを伸ばせる点がメリットです。結果的に、業界内での地位が向上し、優位性を強固なものにできます

5. 食品卸売業界のM&A・売却・買収価格の相場

食品卸売業界のM&A・売却・買収の価格相場を知りたいと思う経営者の方は多いです。他業界と同様、中小規模の食品卸売会社であれば「時価純資産+営業利益の2〜5年分」が売却金額の目安です。

例えば、時価純資産が1億円、3年分の平均営業利益が6,000万円の場合、売却金額の目安は以下のとおり計算できます。

  • 売却金額 = 1億円+6,000万円×3年 = 2億8,000万円

とはいえ、食品卸売業界に限らず、M&A・売却・買収の価格相場は、一概にこの程度であると断言することは非常に困難といわざるを得ません。その理由は、M&A・売却・買収の価格相場は、事業規模や市場動向などさまざまな要素により大きく変動するためです。自社の企業評価価値を算出すれば、ある程度の相場は把握できます。

企業評価価値の算定方法

一般的に、M&A・売却・買収価格相場は、企業価値をもとに算出します。算出方法には、インカムアプローチ・コストアプローチ・マーケットアプローチの3種類があります。それぞれのメリットやデメリットを考慮したうえで、適切な計算方法を用いることが必要です。

  • インカムアプローチ:将来、対象企業が得られる収益力を考慮して算定する方法。DCF法や収益還元法など。
  • コストアプローチ:貸借対照表の純資産額をもとに算定する方法で。簿価基準法や時価基準法など。
  • マーケットアプローチ:同業種で同規模の上場企業の取引をもとに算定する方法。市場株価平均法や類似取引比較法など。

企業価値の算出はプロにお願いするべきか?

結論からいえば、企業価値の算出はプロに依頼したほうがよいでしょう。その理由は、適切な企業価値の算定方法の選択や、実際の計算には専門的な知識や見解が必要になるからです。

食品卸売業界には、売上債権回収などの信用リスク、固定費が大きいことによる事業リスク、取扱商品数が多いことによる効率性低下のリスクなど、多くのリスクがあるとされています。

正確に企業価値を算出するためには、これらのリスクを考慮しなければなりません。M&A仲介会社や会計士などのプロに算出を依頼したほうがよいでしょう。

6. 食品卸売業界のM&A・売却・買収する際の注意点6選

この項では、食品卸売業界のM&A・売却・買収する際の注意点として、以下の6つを取り上げます。

  1. M&Aの目的を明確にしておく
  2. M&Aは時間がかかることをあらかじめ認識しておく
  3. 自社の強みやアピールポイントをまとめておく
  4. M&Aの取引先選びは慎重に行う
  5. 業界特有の暗黙のルール・慣習を把握しておく
  6. M&Aの専門家に相談する

①M&Aの目的を明確にしておく

1つ目の注意点は、M&Aの目的を明確にしておくことです。M&Aを行うためには多額の資金が必要です。したがって、明確な目的なくM&Aを行うと、アナジー効果が出るなど、M&Aに失敗する確率が高くなるでしょう。

M&Aを行う際は、どのようなシナジー効果が得られて、どの程度、利益が得られるのかなど、明確な目標を設定しておくべきです。

②M&Aは時間がかかることをあらかじめ認識しておく

2つ目の注意点は、M&Aには時間がかかることをあらかじめ認識しておくことです。M&Aの戦略を練りだしてからクロージングまでに、平均して6カ月〜1年以上かかるといわれています。

しかし、M&Aの取引先の選定に時間がかかったり、条件交渉に時間がかかったりして、平均以上に時間がかかるかもしれません。クロージング後にM&Aの効果が現れ始めるのも経営者の手腕次第ですが、非常に多くの時間を要します。

これらのことを考慮したうえで、売上予測などを作成しましょう。

③自社の強みやアピールポイントをまとめておく

3つ目の注意点は、自社の強みやアピールポイントをまとめておくことです。売り手側企業の場合、自社の強みやアピールポイントをうまく説明できないと、期待するような売却益が得られない可能性があります。

買い手側企業の場合、自社の強みなどが伝わらないと、希望する買収先を簡単にみつけられず、M&Aが長期化してしまうかもしれません。M&Aの買い手企業であれ、売り手企業であれ、自社の強みやアピールポイントをまとめておくことは非常に重要です。

④M&Aの取引先選びは慎重に行う

4つ目の注意点は、M&Aの取引先選びを慎重に行うことです。買い手企業は、シナジー効果や売上増大を目的に買収を行うため、慎重に買収先を選ぶ必要があります。一方、売り手企業も、自社の事業を高く評価してくれる売却先を選ぶことが重要です。

自社の目的と合わない売却先とM&A交渉を行っても、高く評価されずに売却益が低くなる可能性があります。売り手・買い手のいずれの立場であっても、M&Aの取引先選びは慎重に行うことが成功の第一歩ともいえます。

⑤業界特有の暗黙のルール・慣習を把握しておく

5つ目の注意点は、異業種からの参入目的のM&Aの場合、食品卸売業界特有の慣習や文化を把握してからM&Aに臨むことです。食品卸売業界には歴史が古い企業が多く、地方を拠点としていることもあり、業界特有の暗黙のルールのようなものが存在します。

経営者よりも組合長の方が発言力を持っていたり、社長ではない重鎮の現場責任者が経営を左右していたりなど、一般の企業の感覚で対応すると交渉が成立しないケースがあり得ます。

仮にM&Aが成立しても、その後の取引停止・中止などになってしまわないためにも、十分に周辺調査まで行ったうえで、食品卸売業界とのM&Aに臨みましょう。

⑥M&Aの専門家に相談する

最後の注意点は、M&Aの専門家に相談することです。M&Aには専門的な知識や豊富な経験が必要であるため、経営者だけでM&Aを成功させるのは非常に難しいといわざるを得ません。

M&Aの知識に加えて、業界特有の条件なども考慮しながら進めなければならないため、M&Aの専門家に相談することは不可欠といえるでしょう。

食品卸売業界のM&A・売却・買収をする際は、M&Aに関する知識や経験があり、かつ業界に精通しているM&A仲介会社などの専門家に、できるだけ早い段階で依頼することをおすすめします。

7. 食品卸売業界のM&A・売却・買収時におすすめの相談先

食品卸売業界でのM&A・売却・買収を成功させるためには、M&Aに関する知識や見解に加え、その業界に精通していることも必要です。M&A仲介会社など専門家のサポートを受けるとよいでしょう。

中小企業のM&Aに数多く携わっているM&A総合研究所では、食品卸売業界のM&Aに精通したM&Aアドバイザーが専任でフルサポートします。通常は半年~1年以上かかるとされるM&Aを、最短3カ月で成約した実績を持つ機動力もM&A総合研究所の大きな特徴です。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。随時、無料相談を受け付けていますので、食品卸売業界でのM&Aをご検討の際は、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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8. 食品卸売業界のM&A・売却・買収についてまとめ

食品卸売業界は収益が圧迫されやすい事業ですが、差別化を図れるような強みがあれば、成功しやすい事業でもあると考えられます。

食品卸売業界のM&A・売却・買収を行う際は、M&Aに関する知識や経験だけでなく、食品卸売業界に精通している必要があるため、M&Aの専門家に相談しながら進めていくのがよいでしょう。

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