2022年12月08日更新
M&Aで買収金額が上がり下がりする理由!金額の算出方法、業界ごとの価格目安も解説
M&Aの買収金額は、さまざまな理由で上下します。本記事では、M&Aで買収金額が上がり下がりする理由や業界ごとの買収金額の目安、M&A仲介会社を選ぶポイントなどを分析しました。M&Aの際に買収金額を決める方法も紹介します。
目次
1. M&Aとは
M&Aとは、「Mergers & Acquisitions=合併と買収」を意味します。ひとことにM&Aといっても、その内容は多岐にわたり、それらをまとめたものが上図です。
図を見るとわかるとおり、狭義のM&A以外に、広義のM&Aとされるものがあります。いわゆる「資本提携」がそれに該当し、具体的には、当事会社間でお互いに株式を持ち合うこと、合弁会社を共同で設立することなどが代表例です。
共同開発や技術提携などに代表される企業間の「業務提携」は、資本の移動を伴わないことから、M&Aとは区別されることもあります。
買収とは
M&Aでの買収は、大きく2つの分類があります。1つは、相手企業の株式を取得し、その経営権を得る手法「株式取得・資本参加」であり、もう一方は、買い手側が売り手企業の事業や資産を買収する「事業譲渡・資産買収」です。
株式取得・資本参加の具体的なスキームとしては、株式譲渡・第三者割当増資・株式交換・株式移転などがあります。事業譲渡・資産買収の場合は、事業や資産の一部のみか全部かの違いによって、一部譲渡・全部譲渡の区分けがありますが、仮に全部譲渡であったとしても株式の取得は伴いません。
会社合併と会社分割
M&Aの中で企業組織再編のカテゴリーに該当するのが、会社合併と会社分割です。
会社合併とは、複数の企業が1つの企業に合わさり、組織や経営が統合されることをさします。会社合併は大きく2種に分類され、それは既存の企業同士が合併を行う「吸収合併」と、新設会社に既存企業が吸収される「新設合併」です。
会社分割とは、当事企業から切り出した事業やそれに伴う資産・従業員などが、別の企業に移転されることを意味します。会社分割も大きく2種に分類され、1つは切り出された事業の移転先が既存の企業である「吸収分割」です。もう一方は、切り出された事業を譲受するのが新設会社である場合の「新設分割」と呼ばれています。
企業組織再編では、税制上の適格要件を満たすと、課税措置が優遇される制度があることも特徴です。
M&Aの実施背景
M&Aが実施される背景には、主に以下のような内容が挙げられます。
- 経営の多角化・事業規模拡大を狙える
- 自社の成長を維持できる
- 節税対策につなげられる
M&Aによる買収ではシナジー効果による売上増加も期待できることから、実施件数が増加傾向にある状況です。
2. M&Aで買収金額が上がり下がりする理由
M&Aでの買収金額は一定の金額になるわけではなく、さまざまな要因に左右されます。ここでは、買収金額が変動する主な理由を解説します。
買収金額が上がる理由
買収金額が上がる理由には、主に以下の3つが挙げられます。
- のれん代の価値を見誤る影響
- 日本人の性質による影響
- 買い手・売り手双方の思惑
のれん代の価値を見誤る影響
M&Aで買収金額を決める際、売却企業の現在の価値に加えて、将来得られる収益や売却企業の成長性を買収金額に上乗せすることがほとんどです。これをのれん代と呼びます。
のれん代はさまざまな要因を精緻に分析して算出しますが、あくまでも未来のことなので完全に正確な数字を出せません。売り手側、買い手側の期待や思惑も入るので、将来価値を見誤ることもあり、その結果としてのれん代が上がることもあります。
日本人の性質による影響
日本の場合、多くが友好的な買収なので、相手に譲歩した買収金額を提示することがあります。特に中小企業の場合、買い手側は人間関係を重視したり、相手に一種の同情のような気持ちから買収金額を上げたりするケースもあります。
買い手・売り手双方の思惑
買収候補者が複数いる場合、買い手側は何とか競争に勝とうと提示する買収金額を上げていきます。
そのケースでは売り手側も強気に出られるので、より高い買収金額が提示されるまで交渉するのが一般的です。このように、買収金額は買い手・売り手双方の思惑によっても変動します。
買収金額が下がる理由
買収金額が下がる理由には、主に以下の3つが挙げられます。
- 交渉の際に簿外債務などのリスクが発覚する
- 交渉期間中に問題が起こる
- 買い手・売り手双方の思惑
交渉の際に簿外債務などのリスクが発覚する
M&Aでは、基本合意を締結した後に買い手企業がデューデリジェンス(企業の監査)を行い、デューデリジェンスの結果をもとに最終合意を形成します。
しかし、デューデリジェンスの結果、簿外債務などのリスクが発覚する場合もあります。簿外債務とは、帳簿上にはない隠れた債務のことです。
簿外債務のようなリスクが発覚することで、買収金額は下がります。場合によっては、交渉自体が頓挫することもあり得ます。
交渉期間中に問題が起こる
M&Aの期間は短くても3カ月程度、長ければ1年以上かかります。交渉期間中に売却企業の価値が下がるような問題が起きた場合、当然ながら、それは買収金額にも影響が及びます。
買い手・売り手双方の思惑
売り手側は、なかなか買い手が付かない場合や早く売却益を得る必要がある場合、売却希望金額を下げてでも売ろうとすることがあります。そうなると買い手は少しでも安い買収金額に抑えようと、強気で価格交渉を仕掛けることが想定されます。この場合、買収金額は下がることが多いでしょう。
3. M&Aの買収金額とのれん代の内訳
のれんとは、端的にいえば企業が持っている付加価値を意味します。買収する際は、売却企業の現在の価値に加えて、買収後に利益を生み出す付加価値分の金額も上乗せすることが一般的です。
この付加価値分の金額がのれん代ですが、買収金額の内訳は以下のとおりです。
- 買収先企業が持つ純資産
- 無形固定資産(特許・商標・顧客リストなど)
買収先企業が持つ純資産
買収の際にベースとなるのが、売却企業の純資産です。純資産は買収時点での有形資産に分類されるので、算定者によって買収金額が大きく変動することはありません。この純資産に上乗せされるのが、後述するのれんです。
無形固定資産(特許・商標・顧客リストなど)
のれんは、特許や商標権、顧客リストなどの無形資産に分類されます。ブランド力や成長性といった数字化が難しい資産を含むので、買収金額の算定者や売り手・買い手の思惑により金額が大きく左右されます。
4. M&Aの買収金額を決める方法
M&Aの際に買収金額を決める方法には、主に以下の算定方法があります。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
これらの算定方法は、それぞれ特徴やメリット・デメリットが異なり、戦略に応じて使い分けたり組み合わせたりします。
コストアプローチ
コストアプローチとは、売却企業の企業価値算定時点での資産に注目して、買収金額を算出する方法です。簡単にいうと、今すぐ会社の資産を全て売却したら金額がいくらになるかを算定します。
コストアプローチには複数の算定手法があり、主なものは以下の2種です。
- 時価純資産法
- 簿価純資産法
時価純資産法
時価純資産法とは、企業の時価を基に現在の価値を算定する方法です。具体的には、時価資産から買掛金などの将来出ていくお金(営業債務)を引いて、企業価値を算出します。
その企業価値から金融機関からの借り入れなど(有利子負債)を引いて株式価値を算出するのが時価純資産法です。
- 株式価値 = 時価資産 − 営業債務 − 有利子負債
コストアプローチを用いる場合は、主に時価純資産法が採用されます。
簿価純資産法
簿価純資産法とは、企業の簿価を基に現在の価値を算定する方法です。株主からの出資と企業の内部留保を合わせた自己資本を株式数で割ることで1株の価額を算出します。
簿価純資産法は、時価純資産法に比べて現実的ではないため、M&Aの現場ではあまり採用されません。
インカムアプローチ
インカムアプローチとは、将来得られると予想される収益を基に買収金額を算出する方法です。インカムアプローチには以下の方法があります。
- DCF法
- 配当還元法
DCF法
DCF(Discounted Cash Flow)法とは、将来生み出すと想定される収益から買収金額を算出する方法です。DCF法では、企業の事業計画書などから今後の収益力や成長性を分析して買収金額を算定するので、将来性を期待して買収を行う企業にとって最も実態に合った方法といえます。
しかし、あくまでも将来性を想定して算定するので、算定者(事業計画書の作成者など)の恣意的判断が入り込みやすいのが欠点です。
配当還元法
配当還元法とは、非上場企業の場合に特定の条件下で用いられる方法です。具体的には、少数株主が保有株式の相続や贈与をしなければならない場合などに用いられることがあります。
配当還元法を用いるべきかどうかの判断は難しいため、専門家によるサポートが必要です。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチとは、業種や規模が似たような企業と比較することによって買収金額を算出する方法です。マーケットアプローチには、主に以下の方法があります。
- 市場株価法
- 類似会社比準法
市場株価法
市場株価法とは、比較対象となる企業を選択し、その企業の一定期間の株価を基に買収金額を算出する方法です。
市場株価法は平均株価と実際の企業価値に乖離が生じるため、市場株価法単独で用いることは現実的ではなく他の方法と組み合わせることで効果を発揮します。
類似会社比較法
類似会社比較法とは、買収金額を算定したい企業が非上場企業の場合、類似する上場企業を見つけ、その株価や各種指標などを基に比較して買収金額を算出する方法です。
類似企業の選択には多くの条件が必要なため、専門家による分析・判断が欠かせません。
M&Aで買収金額を決める際は、適切な企業価値算出方法を選ぶことが重要です。企業価値の算出方法は複雑であり、専門家のサポートが必須といえます。中小企業のM&Aに携わっているM&A総合研究所では、豊富な知識と実績を持つM&Aアドバイザーが、M&Aの一切の手続きを徹底サポートします。
料金体系は、完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)で、着手金は完全無料です。随時、無料相談を受け付けていますので、ご不明な点など、お気軽にお問い合わせください。
5. M&Aの買収金額を決める手順
一般的に、M&Aの買収金額は、本性で取り上げる2つのステップに沿って決められます。
企業価値評価の算定
売却側の財務情報などを専門家に提供し、客観的な企業価値評価の結果を算出してもらうと、買収金額を交渉するための材料として大いに活用できます。企業価値評価を算定する専門家には、主に会計士・税理士など企業財務のプロフェッショナルが該当します。
専門家は、客観的な結果を算定するために、シナジー効果を考慮しない算定結果を導き出すのが一般的です。そこで、客観的な算定結果に、買収側が自社で計算したシナジー効果を加味して、買収金額を決定するケースが多いです。
デューデリジェンス・交渉による決定
デューデリジェンスによって発覚した事実を織り込んで、最終的な買収金額が決められるのが一般的です。デューデリジェンスの際は、どの項目が買収金額に影響するかを意識しながら実施することが大切です。
6. M&Aの買収金額の目安・相場【業界別】
買収金額の目安は業界によって違います。本性では、以下の業界ごとの買収金額目安を掲示します。
- 病院医療・介護業界
- IT・ソフトウェア業界
- 住宅・不動産・設備工事業界
- 運送・物流業界
- 小売り・食品業界
- 製造業界
- 教育・学習支援業界
病院医療・介護業界
医療・介護業界の場合、売上高の約半年分から1年分が買収金額の目安となります。医療・介護業界は一般的に売却側の希望売却金額が高くなりがちです。
一方、買収側としては、買収後にさまざまな面のテコ入れが必要になることが多いため、極力安い買収金額で取得したいと考えます。この売り手・買い手の考え方の違いにより、交渉が難航しがちな業界の1つです。
IT・ソフトウェア業界
IT・ソフトウェア業界の買収金額は、安定して利益が出ている企業であれば売上高の2倍から3倍、場合によっては4倍から5倍になることもあります。
IT・ソフトウェア業界は、一般的に買収金額が高い業界です。事業が軌道に乗ってからの成長率が高い点や、技術・人材の価値が他業界よりも高い点などが、買収金額が高い理由として挙げられます。
住宅・不動産・設備工事業界
住宅・不動産・設備工事業界の買収金額は、売上高の半年分から1年分が目安です。不動産会社は需要難から買収金額が安い傾向にあります。一方、住宅や設備工事では慢性的な人材難から、優秀な人材の譲渡も伴う場合は買収金額が高くなる傾向にあります。
運送・物流業界
運送・物流業界の買収金額は、売上高の2〜3カ月分から1年分が目安です。運送・物流業界は現在、経営者の高齢化により、売却需要が高まっています。
それに対して、厳しい経営状態の中小企業が多いことから、買収金額はあまり高くありません。しかし、中・長期的には成長余地のある業界のため、他業界からの参入や大企業によるM&A増加によって、買収金額が増加する可能性があります。
小売り・食品業界
小売り・食品業界の買収金額は、売上高の半年分から1年分が目安です。小売り・食品業界の買収金額は、ブランド力によって大きく変わります。
営業利益が高くてもブランド力がなければ買収金額は低く、逆に、営業利益が赤字でもブランド力があれば買収金額が高くなることもあり得るでしょう。
製造業界
製造業界の買収金額は、売上高の1年分から2年分が目安です。製造業界の買収は機械設備の譲渡が伴うため、大規模な機械設備が必要な企業ほど買収金額は高くなる傾向があります。
ニッチな製品の場合は買収金額の参考対象が少ないため、交渉次第で金額が大きく変動します。
教育・学習支援業界
教育・学習支援業界の買収金額は、売上高の半年分から1年分が目安です。教育・学習支援業界の買収は、特別な設備などがないので、小規模なスクールほど買収金額が安い傾向にあります。複数店舗展開している場合は、土地・建物の金額分高くなります。
7. M&Aの買収金額を適正に算出する仲介会社の選び方
現在、M&A需要が急増していることから、M&A仲介会社も増加中です。ここでは、多数ある中から自社に最適なM&A仲介会社を選ぶ際のポイントを5つ紹介します。
- その分野の専門的知識・M&A実績を持っている
- 自社と同規模の案件実績がある
- M&Aに関する幅広い知識・経験を持っている
- 手数料・相談料・報酬体系がわかりやすい
- 担当スタッフの対応・相性
その分野の専門的知識・M&A実績を持っている
M&A仲介は、深い専門知識と高度な交渉力が必要です。これらを身に付けるには、豊富な実務経験が求められます。担当する企業の業界に精通するには、前職で類似業界にいたか、その業界の仲介業務を多くこなしていることが必須です。
M&A仲介会社を選ぶ際は、自社と同じ業界の仲介をどれだけ経験しているか、前職で類似業界を経験しているアドバイザーがいるかなどの確認が求められます。
自社と同規模の案件実績がある
M&A仲介業務は、案件の規模によって必要とされるスキルが変わります。仲介会社によっては、得意とする規模の案件に合わせた手数料体系に設定されていることもあります。
M&A仲介会社を選ぶ際は、それまで担当してきた案件の規模も確認することが重要です。
M&Aに関する幅広い知識・経験を持っている
M&A仲介業務で求められる知識は、法務・会計・財務・税務・労務など、会社経営に関するあらゆる範囲にわたります。経験豊富な経営者と交渉できるだけの実務経験や、コミュニケーション能力も必要です。これらの能力はすぐに身に付くものではありません。
M&A仲介会社に依頼する際は、実務経験豊富なアドバイザーに依頼することをおすすめします。
手数料・相談料・報酬体系がわかりやすい
M&A仲介業の手数料は以前に比べて非常に安くなっているとはいえ、依然として仕組みがわかりにくく、場合によっては予想外に高い手数料を支払うことになる可能性もあります。
そうならないためにも、M&A仲介会社を選ぶ際は、報酬体系がシンプルで安い機関を選んだ方が安心です。
担当スタッフの対応・相性
M&Aの成否や経営者の満足度を大きく左右するのが、担当者との信頼関係です。M&A仲介は業務の性質上、完全にマニュアル化することが難しく、担当者の能力に依存する部分が少なくありません。
担当者と経営者の相性や、信頼関係構築が非常に重要です。
8. M&Aで買収金額が上がり下がりする理由まとめ
M&Aによる買収金額は、さまざまな理由によって上下します。企業買収を検討する際は、その理由や業界ごとの買収金額目安を把握しておきましょう。
買収を行う際は、M&A仲介会社など専門家のサポートが欠かせません。M&A仲介会社を選ぶときは、本記事で取り上げたポイントを実践して決めると良いでしょう。
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