2024年07月02日更新
保育園・保育所のM&A動向!会社売却のメリットや注意点・事例15選を徹底解説【2023年最新】
現在、M&Aは最盛期を迎えており、それは保育園・保育所の売買でも同様です。幼稚園との違いも踏まえつつ、保育園・保育所について、業界動向や市場規模、買収・売却・事業譲渡のメリット、買収・売却・事業譲渡の相場、M&A事例などを解説します。
目次
1. 保育園・保育所の概要と現状
保育園・保育所とは、どのような施設のことを指すのでしょうか。まずは、施設の定義や幼稚園との違い、業界の現状などを解説します。
①保育園・保育所の定義
保育園・保育所とは、家庭の事情に応じて、小さな子どもを預かる施設のことです。児童福祉法によって定義されており、厚生労働省が設備などの基準が設けられています。
小学校入学前の児童が対象であり、預かる時間は1日8時間程度です。認可保育園(保育所)と、認可外保育園(保育所)があり、認可保育園(保育所)は都道府県知事などから申請の認可を受けた施設、認可外保育園(保育所)は、都道府県知事などから認可を得ていない施設を指します。
認可保育園
認可保育園は、保育所や小規模保育事業の施設、家庭的保育事業施設のうち、児童福祉法で定められた認可基準を満たしている施設です。保育園される人数に対し、保育士の人数や、施設の面積、設備が定められています。
認可保育園の運営費は、国・自治体から支給される公費と利用者が負担する保育料でまかなわれます。そのため、認可保育園は、園児数や施設数を安定的に増やし、業務を効率化するのが、本的な事業成長戦略です。
認可外保育園
認可外保育園は、認可保育園以外の保育園をいいます。国からの認可は不要です。しかし、施設・サービス・保育料などに関する各都道府県の基準を満たしている必要があり、知事に届けを出さなければなりません。
各自治体は、厚生労働省が策定した指導監督指針・基準を基に実施要綱を定めており、認可外保育施設への指導監督や立入調査を実施が必要です。
無認可保育園に対する国の補助金は基本的にはありませんが、事業所内保育所および院内保育所については設備費や運営費に対する補助金が受けられます。
自治体によっては一定基準を満たす認可外保育園に対して助成を行っているケースもありますが、交付要件や補助対象となる設備が自治体ごとに違うため、事前に確認が必要です。
認可外保育園は、認可保育園に比べて保育料が割高になることが多いです。自治体からの補助が手薄となってしまうため経営難に陥りやすく、経営に関する安定性や保育の質、信頼を得るのが難しい面もあります。
その一方で、独自の取り組みや保育園独自の事業を展開できるメリットもあるので、経営成長には付加価値を追求がカギといえるでしょう。
企業主導型保育園
企業主導型保育事業は、企業が従業員向けに設置した施設です。子ども・子育て支援新制度の一つとして設けられたもので、働き方改革の実現と待機児童問題解消を目的としています。
企業主導型保育園では、従業員に対して柔軟な保育サービスを提供しつつ、定員の半数までであれば地域の一般児童の受け入れ枠として設定も可能です。一定の基準を満たすと、保育所と同程度の公費助成を受けられます。
幼稚園・認定こども園
幼稚園では、小学校入学前までの子どもの基礎をつくるために幼稚園教育要領に基づく教育が行われ、保育園とは趣旨が異なります。
子ども・子育て支援新制度では、保育園と幼稚園の機能の良さを併せ持ち、教育・保育を一体的に行う「認定こども園」の制度が2006年に創設されました。
認定こども園は、0歳から就学前の子どもまで、保護者が就労している・いないにかかわらず利用が可能です。既存施設の有効活用と効率的な運営が行え、待機児童の問題の解消を目指せるとしています。
認可外保育園(保育所)の安全性は?
認可を受けていない認可外保育園(保育所)であっても、子どもを預かるための管理体制は整えられています。施設の大きさや保育士の人数、給食の有無などが定められた基準に達していないというだけです。
認可外保育園(保育所)であっても立ち入り検査も実施されるので、ほとんどの施設は安全性が保たれているといえるでしょう。
たとえば、東京都では認証保育所として認可外保育園(保育所)の基準を定めており、名古屋市などでは認可外保育園(保育所)の開設に関して、市長への届け出は義務づけられています。
保育園・保育所・幼稚園の違いは?
保育園と保育所は同じ施設です。呼び名が違うだけで、保育士の人数・管理体制・施設の規模などに変わりはありません。しかし、管轄省庁や法律、保育時間などに違いがあります。
幼稚園は満3歳から小学校入学までの子どもを預かる施設です。保育園・保育所とは異なり、0歳児などの乳幼児を預けることはできません。また、幼稚園の保育時間は4時間程度で、午前9時ごろから午後1時あたりまでとされています。
幼稚園は学校教育法によって定義されており、幼稚園を管轄するのは文部科学省です。定義には、保育のほかに発育を促すことが明記され、運動や教育・集団生活など小学校から始まる義務教育の基礎が盛り込まれています。
下の表は、保育園・保育所と幼稚園との違いをまとめたものです。
保育園・保育所 | 幼稚園 | |
---|---|---|
法律 | 児童福祉法 | 学校教育法 |
管轄 | 厚生労働省 | 文部科学省 |
定義 | 保護者の事情に応じて 子どもを保育する施設 |
子どもを保育し、成長を 促す環境を提供する施設 |
保育時間 | 10時間(原則) | 4時間(原則) |
食事の提供 | 義務 | 規程なし |
②保育園の運営者
保育園の運営者は、自治体か社会福祉法人により設置・運営されているのが一般的です。関東では、会社により運営されている保育所も多く存在します。
小規模保育事業は、株式会社による運営が多いです。ほかにも社会福祉法人や個人事業主・学校法人・医療法人など、さまざまな運営者によって行われています。
家庭的保育事業は、個人事業主の運営がほとんどです。認可外保育施設は、株式会社や個人事業主が運営しているケースが多く、社会福祉法人による運営はあまりありません。
2. 保育園・保育所業界の現状
現在の保育園・保育所業界では、どのような動きがあるのでしょうか。保育園・保育所の売却や、M&Aによる買収・事業譲渡など、事業所の売買を検討する場合は、業界の現状を知っておくことも大切です。この項では、保育園・保育所業界の動向を紹介します。
保育園・保育所の市場規模
矢野経済研究所が行った保育・幼児教育市場に関する調査(2023年2月発表)によれば、2021年度(令和3年度平成30)の保育園・保育所の市場規模は約4兆6,833億円で、前年度から1.7%の増加となりました。
コロナ禍の影響は限定的と考えられ、市場全体としては堅調な推移に支えられ拡大を維持しているといえるでしょう。
また、こども家庭庁「保育所等関連状況取りまとめ(令和5年4月1日)」では、2023年の保育所等の数は39,589カ所であり、平成31年から年々増加傾向にあります。
参照:矢野総合研究所「保育・幼児教育市場に関する調査(2022年)」
参照:こども家庭庁 「保育所等関連状況取りまとめ」
保育園・保育所業界の主要企業
保育園・保育所業界では、売上高上位企業は下表のようになっています。
順位 | 企業名 | 売上高(円) | 決算期 | 保育施設数 |
---|---|---|---|---|
1 | JPホールディングス | 317億1,944万 | 2020年3月 | 297 |
2 | ライクキッズ | 263億 | 2021年5月 | 372 |
3 | ポピンズホールディングス | 248億 | 2021年12月 | 320 |
4 | グローバルキッズCOMPANY | 221億6,000万 | 2020年9月 | 176 |
5 | こどもの森 | 220億 | 2020年9月 | 220 |
6 | アイグラン | 181億 | 2021年12月 | 426 |
7 | テノ.ホールディングス | 114億5,400万 | 2021年12月 | 287 |
8 | アートチャイルドケア | 84億 | 2021年9月 | 63 |
9 | タスク・フォース | 59億1,500万 | 2020年3月 | 69 |
10 | ピジョンハーツ | 35億 | 2021年12月 | 54 |
※売上高は端数切捨て
※施設数は認証保育園、院内・企業内・事業所内保育所、学童クラブ、児童館、幼稚園などを含む
子育て安心プランによる待機児童の解消
市場規模の拡大が予想される1つ目の理由には、政府による子育て安心プランの実施が挙げられます。
子育て安心プランとは、待機児童を解消するために、国が打ち出した政策です。確保された予算により、保育園・保育所の賃貸料が補助されたり、保育士の働く環境が整えられたりなど、保育園・保育所の増加が促されます。
2013(平成25)~2017(平成29)年度までは、待機児童解消加速化プランとして、待機児童の解消に取り組んでおり、約53.5万人分の保育環境を整えることが実現しました。
子育て安心プランは、待機児童解消加速化プランに続き待機児童を解消するため、2018~2019年度では約22万人の保育園・保育所などの確保を計画したものです。
令和3年度からスタートした「新子育て安心プラン」では、各自治体に向けて4年間で約14万人分の保育の場を整備するとしていることから、保育園・保育所の市場規模はさらに大きくなることが予想されます。
高まる女性の就業率
市場規模が拡大する理由の2つ目は、女性の就業率が高まっていることです。政府は、2018~2022(令和4)年末までに女性の就業率を80%に引き上げることを計画しており、計画実現のために、保育できる児童の数をおよそ32万人にまで増やし、子どものいる女性が働きやすい環境作りを進めています。
この計画も子育て安心プランの一環です。2018~2019年の短期間で約22万人を達成し、2022年までの5年間で約32万人に増やすことが目標です。
自宅の傍や最寄りの駅、会社の近くに保育園・保育所が増えることが予想されるため、待機児童が解消されるまでは市場規模の拡大が見込めます。
参照:厚生労働省「新子育て安心プラン」(令和2年12月)
保育園・保育所の必要性
「男女共同参画白書」の令和3年版によれば、2020年度の女性就業率(25~44歳)は77.4%となっており、子育て世代の女性は出産後も働く割合が多く、認可保育園(保育所)は不可欠なものとなっています。
しかし、幼児の年齢や地域によっては、認可保育園(保育所)を利用できない場合もあり、待機児童の約7割が1・2歳児のグループという結果になりました。
特に東京23区内は、地方に比べて大型マンションの多さや土地代の高さが原因で、待機児童の割合が高くなっています。
定員に空きがなく認可保育園(保育所)が利用できなければ、認可外保育園(保育所)に子どもを預けるしかありません。しかし、認可外保育園(保育所)は月々の保育料が高く、低所得者やシングルマザーなどの世帯には大きな負担です。
このような状態では、生活のために働いても、保育料の支払いで生活費が圧迫されてしまいかねません。そこで、非課税世帯の保険料を補助し、予算を確保して保育数を増やしています。
市場規模の拡大が見込めるとなれば、企業は施設の運営に乗り出し保育園・保育所が増加するので、結果として低額の保育料で子どもを預けられる環境が整えられることになるでしょう。
参照:内閣府「男女共同参画白書 令和3年版」
子どもの人口減少と保育ニーズの低下
保育園市場の昨今は、待機児童解消に向けた保育士など人材の獲得、処遇改善など国の公的資金投資が投入されていますが、国の施策は成功しているとは言い難いのが現状です。
待機児童問題の解消はなかなか進んでおらず、保育士の有効求人倍率は増加傾向となっています。労働力不足が懸念されるなか、待機児童問題はなかなか解決されていないことは大きな保育ニーズがあることを示しています。
一方、将来的にみると子どもの人口減少によって保育ニーズは低下していくと予想されているため、保育園の開設は慎重にならざるを得ないというのも事実です。
3. 保育園・保育所のM&A動向
保育園・保育所のM&A(買収)と売買では、どのような動向がみられるのでしょうか。保育園・保育所のM&Aを検討している場合は、動向を把握しておくことで適切な実施タイミングをはかることができます。
保育園・保育所の買収動向
保育園・保育所のM&A(買収)は増えていくと想定されます。都市部では保育園・保育所の数は十分とはいえず、なかでも待機児童の多い中心部はM&Aによる買収の需要が高まっている状態です。
同業者間のM&Aでは、都市部にある保育園・保育所の買収が目立ち、店舗拡大の拠点確保や新設コストの削減、人材の確保などが主な目的となっています。
また、異業種によるM&Aでは、複数の店舗を一度に譲り受けるケースもみられました。自社のノウハウと組み合わせることで事業強化を図るなど、市場規模の拡大に合わせた動きが目立っています。
保育園・保育所の売却動向
保育園・保育所の売却では、大きく分けて以下4つの目的がみられます。また、保育園・保育所ではM&A(買収)の増加に伴い、売却を考える事業者も増えてきました。ここでは、さらに詳しく売却動向を解説します。
社会福祉法人による売却
1つ目の売却動向は、社会福祉法人による売却です。社会福祉法人は、社会福祉法に従って事業を行う組織ですから、国から補助金を得て事業を行っています。
公益性が高く小規模の事業体が多いことから、株式会社のようにたくさんの利益を得られません。
職員の労働環境や処遇にまで資金を回せず、保育士が離職してしまいがちです。その結果、経営を続けられずに、保育園・保育所の売却に踏み切るケースもみられます。
保育園・保育所の運営は、ほぼ市区町村と社会福祉法人で占められており、厚生労働省の「令和元年社会福祉施設等調査」では、保育園・保育所の53.4%が社会福祉法人、2番目は市区町村で32.1%の結果でした。
このような状況から、社会福祉法人による売却や事業譲渡が今後も増えていくと予想されます。
参照:厚生労働省「平成29年社会福祉施設等調査」
高齢化・後継者不足による売却
2つ目の売却動向は、経営者の高齢化と後継者不足による売却の動きです。保育園・保育所の約半分は、社会福祉法人が占めており、社会福祉法人は地域のニーズに応えるため、長い間経営を続けているケースも少なくありません。
しかしながら、経営者の高齢も進んでおり、後継者候補がいないところも増えているのが現状です。そのため、事業承継目的でのM&Aを行い、保育園・保育所を売却して経営を引き継ぐケースも多くなっています。
シナジー効果を狙った売却
3つ目の売却動向は、シナジー効果を狙った売却の動きです。小規模の保育園・保育所は業界での生き残りを目的に買収先の傘下に入っています。
保育園・保育所の市場では、国が打ち出した政策や、異業種・近隣業種の参入により、競争の激化は必至です。そこで、買収先とのシナジー効果を得る目的で、M&Aによる売却を行う動きもみられます。
M&A後、売却側は不動産業の利点を活かした新規の出店や、学習塾を組み合わせた卒園後のサポート体制など、業界における地位の確立や事業領域の拡大を狙うのが目的です。
戦略の見直しによる売却
戦略を見直すために売却を行うケースも増えてきています。出店を計画した場合、事業が軌道に乗るまで既存施設から従業員を派遣することが多いです。
しかし、抱えている保育士の数には限りがあるため、出店を実行に移すと残された保育士たちの負担が高まることが問題となります。
M&Aを活用して施設の売却を実行すれば、買収先に雇用を引き継いでもらえるため、既存施設で働く保育士に負担をかけずに新しい保育園・保育所が立ち上げられます。
4. 社会福祉法人による保育園・保育所のM&Aに関する注意点
M&Aは、保育所を運営する株式会社、あるいは大半を占める社会福祉法人によっても実施されています。社会福祉法人は一般の営利企業とは異なるため、M&Aを行う際は注意が必要です。ここでは、社会福祉法人による保育園・保育所のM&Aに関する注意点を解説します。
社会福祉法人とは
社会福祉法人とは、社会福祉事業を行う目的として設立された法人を指します。社会福祉法人は社会福祉を目的とする事業や公益事業、収益事業の運営が可能です。
主なものは、高齢者福祉事業や保育園のような介護・保育に関する事業、更生施設やデイサービスなどの支援施設などがあり、公共性を重視した非営利団体であるため、無料あるいは低額でサービスを積極的に提供します。所轄は原則として法人の事務所がある都道府県です。
特徴(公益性・非営利性)
社会福祉法人には、公益性・非営利性が求められます。支援を必要とする人に対して無料または低額な料金でサービスを提供するように努めなければなりません。
また、解散する際に残った財産は、社会福祉事業運営者や国庫にしか帰属できないといった非営利性も求められます。
設置される機関
社会福祉法人の経営は、評議員会や理事会、理事・理事長、監事、会計監査人といった機関・役職により行われます。それぞれの権限や役割は下表のとおりです。
機関・役職 | 役割 |
評議員会 | 定款変更、理事・監事・会計監査人の選任・解任、理事・監事の報酬の決定などを決議 |
理事会 | 業務執行の意思決定、理事の職務執行の監督、理事長の選定・解職 |
理事長 | 業務を執行しつつ法人を代表する |
理事 | 理事会を構成 |
監事 | 理事の職務執行の監査、監査報告の作成、監査などを行う |
会計監査人 | 公認会計士あるいは監査法人が選任され監査などを行う |
社会福祉法人のM&A手法に関する注意点
社会福祉法人のM&Aでは利益供与の問題が生じやすいため、活用されるスキームは限られています。ここでは、社会福祉法人のM&A手法と注意点を解説します。
M&A時に採用される手法の種類
M&Aの際に採用される手法の種類は以下です。
手法 | 概要 |
経営権取得 | 評議員・理事・理事長の交代によって法人の経営権を取得する |
合併 | 社会福祉法で規定された手続きに従って、社会福祉法人同士が合併する |
事業譲渡 | 社会福祉事業の実施できる法人事業の一部を譲渡する |
社会福祉法人M&Aに関する注意点
社会福祉法人の場合、経営権取得時の理事長などに対する利益供与は公益性・非営利性の点から問題視されており、指導監督の対象となります。
つまり、社会福祉法人の関係者に対して特別な利益を与えるのは法律で禁止されているということですので、M&A実施時は注意が必要です。
また、事業から得られた剰余金は運営経費や社会福祉事業以外の公益事業などにあてられますが、法人外へ利益を流出させる行為は禁止されています。
社会福祉法人が事業を譲渡する場合は、法人の事業価値を正しく見積もり、価値以上の対価で譲渡するのが求められます。もし算定された価値よりも低価格で譲渡した場合は、法人外への資金流出とみなさるおそれがあります。
なお、社会福祉法人が国庫補助金を受けて財産を処分する際は、厚生労働大臣の承認が必要です。一定のケースを除き、補助金に相当する額の返還も求められます。
5. 保育園・保育所をM&Aにより事業譲渡する際の問題
保育園・保育所のM&Aで事業譲渡を選ぶと、いくつかの問題に直面します。事業譲渡では、会社を丸ごと引き渡す株式譲渡とは違って、気をつけなければいけないポイントが存在するからです。
保育園・保育所の売買で事業譲渡を選択する場合は、譲り受けるときに発生する以下の4つの問題を、あらかじめ把握しましょう。
①契約・取引の結び直し
事業譲渡で直面する問題の1つ目は、契約・取引の結び直しです。保育士の雇用契約や、建物の賃貸契約、備品・食材の卸会社などとの取引契約は、買収に合わせて結び直さなくてはいけません。
事業譲渡は、売り手の事業・資産を個別に買い手に移転させる手法です。株式譲渡のように、売り手の会社を丸ごと買い取るわけではありません。
引き継ぐ資産を選んで移転が行われるため、事業譲渡に合わせて対外的な契約・取引は結び直すことが求められます。事業譲渡に合わせて「保育士が辞めた」「賃貸契約を結べない」「仕入れ先が取引を中止した」などの問題に直面する場合があります。
②許認可の申請
事業譲渡で見られる問題の2つ目は、許認可の申請です。認可保育園(保育所)などは、都道府県知事の認可を受けて保育事業を行っています。
M&Aの手法に事業譲渡を選んだ場合、契約・取引と同じように再び許認可の申請をして許可を得なければなりません。
事業譲渡を行って保育事業を譲り受けたものの許認可が下りず、保育園・保育所を始められないこともあるため注意しましょう。
③創業者利益を得られない
事業譲渡で起こりうる問題の3つ目は、創業者利益を得られないことです。
M&Aによる事業譲渡では対価の受取者は法人になります。創業者個人は何も譲渡益を得られません。
④債権者・従業員の同意が得られない
事業譲渡で起こりうる問題の4つ目は、債権者と従業員の同意を得られないケースです。M&Aによる事業譲渡は選ばれた資産を譲り渡します。
売買によっては企業の価値が下がってしまうかもしれません。債権者に事業譲渡が了承されない可能性もゼロではありません。
事業譲渡は、従業員へも同意を得ることが求められます。労働環境・待遇が変わってしまうため、保育士・管理栄養士などが事業譲渡に反発して同意を得られなければ、事業譲渡を進められない事態も考えられるでしょう。
6. 保育園・保育所のM&A相場
保育園・保育所の売買では、価格の相場をいくらに設定しているのでしょうか。M&Aによる買収相場では、数億~数十億円の価格帯がよくみられました。
売却相場の平均は2,500万円前後です。低い価格帯では500万程度が相場、規模の大きな取引では6,000万円前後が相場といえるでしょう。
相場よりも低かったり高かったりする場合は、下記のポイントを照らし合わせてみましょう。売買価格か妥当であるかを測れます。
①保育園・保育所の規模
保育園・保育所には、事業所の種類によって子どもの定員数に違いがみられます。認可保育園(保育所)では20人以上、小規模保育(A・B・C型)では6人以上~19人以下が基準です。
保育園・保育所のM&A(買収)・売却価格には、施設の規模が影響します。保育する人数が多ければ、たくさんの保育料を得られることから、小規模保育と比べた場合、認定保育園(保育所)の方に高い売買価格がつけられる理由です。
②保育園・保育所の立地
保育園・保育所の売買では立地も重要なポイントになります。なかでも、住宅・マンションが密集する都市部や送り迎えに便利な駅の周辺、待機児童の多い地域は、買い手がつきやすい立地です。
立地がよければ相場よりも高い価格で売却できる可能性は高まるので、交渉時は立地の強みを活かすのもよい方法でしょう。
買い手側は、好立地から得られる収益を見込むことも重要であり、相場より高い価格であったとしても妥当な値段かどうかを判断できます。
③保育園・保育所の敷地面積
保育園・保育所の敷地面識も売買には欠かせないポイントです。認定保育園(保育所)では敷地面積の定めがありません。ただし、子どもの年齢に応じた1人当たりの面積には基準が定められています。
認可保育園(保育所)は0歳・1歳に対して、乳児室の面積が1人当たり1.65平方メートル、保育室が1人当たり3.3平方メートルです。2歳以上の子どもは、保育室などの面積が1人当たり1.98平方メートルとされています。
また、小規模保育ではA型・B型・C型で面積の基準に違いがあり、A型・B型は、0歳・1歳で1人当たり3.3平方メートル、2歳の子どもに対して1.98平方メートルです。その一方で、C型では、0~2歳の子どもに対して、1人当たり3.3平方メートルといった基準があります。
M&A(買収)を行う場合は子ども1人当たりの面積を確認し、受け入れる子どもを増やす場合は必要な面積が足りているかどうかも確かめておきましょう
④保育園・保育所の運営主体
保育園・保育所の運営主体によっても相場が変わります。2000年に保育所設置に関する主体制限がなくなり、現在の運営組織は、自治体の市町村、社会福祉法人、株式会社、学校法人、NPOなどさまざまです。ここでは運営主体によって相場はどのようなっているかを解説します。
簡易的な計算方法
保育園・保育所の簡易的な計算方法は以下の通りです。
- 保育園・保育所の相場=時価純資産+営業利益×2〜5年
会社を売却する際に大まかに売却相場を知っておくことで、相場より大幅に買い叩かれずに済んだり、高値の打診をしてしまいM&Aが成立しないリスクを避けることができます。
社会福祉法人が運営する保育園・保育所の相場
株式会社や持分のある法人のケースでは、合併の手法を使う際は株主や持分所有者に対価が支払われます。しかし、社会福祉法人には株式や持分はありません。合併の場合は無対価で行われます。
その一方で事業譲渡の場合、事業の価値に相当する金額で譲渡や譲受が行われます。事業価値の評価では将来の収益性を加味しなければなりません。収益性にもとづく事業価値評価方法として、一般的にDCF法が使用されています。
DCF法は、詳細な事業計画をもとに事業価値を算定します。DCF法は複雑で手間がかかるります。そのため小規模法人の譲渡の際は直近の利益をもとに将来の収益性を見積もる簡易的な方法が採用されるケースも珍しくありません。
株式会社が運営する保育園・保育所の相場
株式会社が運営する場合、DCF法などによって算出された企業や事業の価値を基準にしながら交渉が行われ対価が決定されます。対価は、一般企業のように企業・事業の規模、経営状態やリスクの有無、M&A後に期待シナジー効果などによって算定されます。
M&Aを検討する際は、相手企業からの価格提示に対して、M&A仲介会社など専門家からのアドバイスを求めることが重要です。また相場情報だけでなく仲介会社や相手企業などから提示された価格に対して常に具体的な根拠を求めることも必要でしょう。
保育園・保育所のM&AはM&A総合研究所へ
保育園・保育所のM&A・売買を効率よく進めて成功されるためには、専門家のサポートがおすすめです。M&A総合研究所は、中小・中堅規模のM&A仲介業務を主に取り扱う会社です。M&Aに精通したM&Aアドバイザーが保育園・保育所のM&Aクロージングまでフルサポートいたします。
M&A成約までは一般的に10カ月~1年以上かかるといわれていますが、当社はM&A成約まで最短3カ月の実績もあり、スピード感のあるサポート体制が強みです。
料金体系は成約するまで完全無料の完全成功報酬制となっております(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談はお電話・Webより随時お受けしていますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。
7. 保育園・保育所をM&Aで売却する流れ
ここでは保育園・保育所M&Aの基本的なフローを紹介します。一般的なM&Aは、以下の順番で手続きが行われます。
M&Aの目的・方向性を明確化
M&Aを実施する際に目的や方向性が定まっていないと重要な判断ができず、条件の譲歩をすることが難しくなるでしょう。それによりM&Aがスムーズに行えなくなったり、M&A先が有利となるように実施されたりする場合もあります。
M&Aの目的や方向性など戦略を決めるには専門的な知識が必要になるので、M&A専門家と相談しながら現実的なM&A戦略を定めましょう。
M&A仲介会社などの専門家に相談・契約
M&Aの目的が決まったらM&Aの仲介会社など専門家に相談します。専門家に相談し、業務委託に関して納得したのち専門家と契約を行います。この段階で秘密保持契約、アドバイザリー契約そして自社情報・資料の提出を行います。
秘密保持契約
秘密保持契約とは、自社がM&Aの検討・交渉を行っている情報を漏洩させない契約です。M&Aの情報はメリットをもたらす場合もありますが、情報漏洩は売り手側にはデメリットが大きくなります。
例えば、自社の経営状態が悪いと考える従業員に退職されたり、想定より売却益が少なくなる可能性があります。情報漏洩を防ぐために、M&A専門家や相談先と秘密保持契約を締結します。
アドバイザリー契約
アドバイザリーとは、M&Aに関して相談・アドバイスを行う業務のことを指します。アドバイザリー契約締結以降は、仲介会社であればクロージングを行うまでサポートが受けられることが一般的です。料金体系によってはこれ以降、着手金や月額報酬などが発生します。料金体系は各社で異なるため、事前にチェックしましょう。
自社情報・資料の提出
相談の段階で自社情報・資料をアドバイザリーに提出します。その情報や経営者との相談をもとにM&A先を選定します。M&A仲介会社の場合は、示されたテンプレートに自社情報を記入するケースが多いです。
自社にとって不利な情報を提出しなければならない場合もありますが、M&Aにおけるトラブルを回避するために虚偽の申告はしないようにしましょう。
M&A戦略の決定・売却先選定
アドバイザーが決まった後は、M&A戦略を決定したうえで売却先候補の選定を行います。売却先候補の選定は、ノンネームシートに書かれた売却先企業の情報を基に行うのが一般的です。
ノンネームシートとはM&A仲介会社から提供される資料であり、具体的な企業名は特定できないものの、業種や規模、エリア、収益、買収を希望する理由などが記載されています。この情報を基に売却先候補との条件を照らし合わせ、自社のメリットについて検討します。
トップ面談
買い手の意思が固まり具体的に買収を検討する段階になると、次はトップ面談の場が設けられます。
この会談は、売り手企業・買い手企業双方のトップ同士が顔を合わせて話をする貴重な場です。ここではM&Aを決意した経緯や経営ビジョン、今後の経営方針などが話し合われます。
意向表明書の提示
意向表明書とは、株式譲渡・事業譲渡などといった買収方法や買収価格などの諸条件が記載されている書面です。M&Aのプロセスとして必須ではなく、省略されることもありますが買い手側のM&Aの意向を売り手側に明示するものとなります。
基本合意書の締結
基本合意書では、買収の条件・独占交渉権・守秘義務・誠実交渉義務などが記されています。基本合意書は、法的拘束力はなく合意内容確認書という位置付けのものです。ただし、独占交渉権やデューデリジェンスへの協力義務の条項には例外的に法的拘束力を持たせます。
デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、買い手が売り手企業の実態を把握するために行われる調査です。具体的には、M&Aの専門家や士業が売り手企業を訪問し、帳簿を閲覧したり、書面では把握できない会社状況をチェックする手続きです。
デューデリジェンスで発生する専門家への手数料は、一般的に買い手が負担します。
条件交渉
デューデリジェンスを行い問題がなかった場合、最終合意に向けて交渉を行います。交渉の多くは、売買条件の他、経営者・役員・従業員の処遇や最終契約までのスケジュールなど詳細な内容です。
最終契約の締結
最終的な売却価格が決定し、その他の条件にも問題がなければ、最終契約の締結へと進みます。最終契約書の内容には、売買価格や譲渡の内容などが記されます。最終契約の締結に、取締役会や株主総会の開催が必要な場合もあるため注意が必要となります。
クロージング
クロージングでは最終契約書の内容をもとにヒトやモノ、カネを移動させます。クロージングが実行されると、手続き上のM&Aフローは完了となります。
クロージングではさまざまな混乱が生じることが予想されるため、計画書などを事前に作成しておくことが重要です。
8. 保育園・保育所のM&Aにおけるメリット
保育園・保育所のM&Aを行う場合、売り手と買い手にはどのようなメリットがあるでしょうか。ここでは、保育園・保育所のM&Aを行う場合のメリットを売却側・買収側それぞれの立場から解説します。
売却側のメリット
保育園・保育所を売却するメリットには主に以下の5つが挙げられます。売却側の5つのメリットには、それぞれ以下のような特徴があります。
売却側のメリット | メリットの詳細 |
---|---|
従業員の雇用・施設運営の継続 | 買い手が会社・事業を引き継ぐため、保育士を解雇したり子どもたちを転園させたりせずに済みます。 |
売却益の獲得 | まとまった資金が手に入れば、新しい形態の保育園・保育所を始められたり、別の業種へ事業を変えたりと、これまでとは違った経営に挑めるのです。 |
個人保証・担保を外せる | M&Aの売買契約に個人保証・担保を外すことを盛り込めば、個人の負担を減らせるでしょう。 |
大手の傘下に入ることで事業を強化できる | 買収先の資本により経営の改善と安定化が見込めます。 |
後継者を見つけられる | M&Aの利用で社外の第三者に後継者を託せます。 |
買収側のメリット
M&A(買収)を行う側には主に以下4つのメリットがあります。買収側の4つのメリットにはそれぞれ以下のような特徴があります。
買収側のメリット | メリットの詳細 |
---|---|
許認可の引き継ぎ | M&A(買収)を株式譲渡で行えば許認可を引き継げるため、効率よく事業を始められるでしょう。 |
人材・建物・土地の確保 | 保育士・施設・土地がまとめて手に入るため、店舗の拡大・新規参入が楽に行えます。 |
新規開業リスクの回避 | 子どもたちの保育を引き継ぐため、一定の保育料が確保できます。 |
スケールメリット | 店舗を増やすことで状況に応じた人材配置とコストの削減が可能です。 |
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9. 保育園・保育所のM&A成功事例
保育園・保育所のM&Aは、どのようなスキームと取引価格で、売買が成立しているのでしょうか。ここでは成功した保育園・保育所のM&A事例を紹介します。
①ミダックホールディングスとLOVE THY NEIGHBORのM&A
2022年5月、ミダックホールディングスがLOVE THY NEIGHBORの全株式を取得して完全子会社化した事例です。ミダックホールディングスのサステナビリティ視点から社会課題の解決を目指すことを目的としています。
譲受企業の概要
ミダックホールディングスグループは、産業廃棄物処理業や一般廃棄物の収集運搬業などを手掛ける企業グループです。廃棄物の適正処理によって循環型社会の確立を目指しており、 SDGs達成に向けた社会貢献活動をこれまで積極的に行っています。
譲渡企業の概要
LOVE THY NEIGHBORは企業主導型保育事業を手掛けており、就学前の子どもが対象の「用賀インターナショナルスクール」を運営しています。
M&Aの背景
ミダックホールディングスグループは、LOVE THY NEIGHBORはSDGsの目標でもあり「質の高い教育をみんなに」に貢献しているとし、サステナビリティの視点から社会課題解決を目的として本M&Aに至りました。今後は、英語教育だけでなく、環境教育も視野に入れ事業運営していくとしています。
参考:株式会社ミダックホールディングス「株式取得による子会社化に関するお知らせ」
M&A手法
株式譲渡(株式譲渡実行日:2022年5月26日)
②ソラストとなないろのM&A
2022年3月、ソラストがなないろの全株式を取得して子会社化した事例です。ソラストは自社が長年培ってきた保育所運営力に、なないろが保有する保育に関する知見を融合し、シナジー効果や保育所運営にとどまらない事業領域の拡大を目指すとしています。
譲受企業の概要
ソラストは医療事務・介護・保育事業を展開する企業です。「すべてはそこに暮らす子どもたちのために」を保育事業の理念には掲げ、都内を中心に47か所の認可保育所などを運営しています。
譲渡企業の概要
なないろは2014年に設立した認可保育所等を運営する企業です。保育理念に「いまと未来の“笑顔”を創造する」を掲げ、東京都を中心に19か所の施設を運営しています。
M&Aの背景
現在、ソラストグループは都内を中心に認可保育所等を運営していますが、なないろを傘下に加えることで同エリアのシェア拡大が実現し、保育事業の成長につながるとして子会社化することを決定しました。
今後はソラストが培ってきた保育所運営力と、なないろの保育に関するノウハウを融合して「選ばれる園」を目指すとし、中期的には院内保育などのグループ内シナジー発揮や保育所運営以外の事業領域拡大などにも取り組むとしています。
参考:株式会社ソラスト「株式会社なないろの株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
M&Aの手法
株式譲渡(株式譲渡実行日:2022年3月31日)
③ソラストとはぐはぐキッズのM&A
2022年2月、ソラストがはぐはぐキッズの全株式を取得して子会社化した事例です。ソラストは認可保育所などシェア拡大およびグループの保育事業成長を目指すとしています。
譲受企業の概要
ソラストは医療事務・介護・保育事業を展開する企業です。認可保育所などを47カ所運営しており、一人ひとりが深い愛情に包まれて過ごす「もう一つの我が家」を目指し、子育て全般をサポートし、保育の質向上および充実など、選ばれる園づくりに努めています。
譲渡企業の概要
はぐはぐキッズは保育園事業や教育事業のほか、コミュニティー活動HUGメイト事業を展開する企業です。「子育て家庭を笑顔にする」という企業ビジョンのもと、東京都内で認可保育園や認定こども園などを10カ所運営しています。
M&Aの背景
現在、ソラストグループは都内を中心に認可保育所等を運営しています。はぐはぐキッズが参加に加わることにより認可保育所等のシェア拡大が実現し、さらに保育事業の成長に資すると判断し子会社化を決定いたしました。
参考:株式会社ソラスト「はぐはぐキッズ株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ」
M&A手法
株式譲渡(株式譲渡実行日:2022年2月17日)
④JPホールディングスによる日本保育サービスとアメニティライフのM&A
2021年11月、JPホールディングスが連結子会社2社を合併した事例です。合併した日本保育サービスとアメニティライフは、ともにJPホールディングスの連結子会社であり、経営効率と子育て支援サービスの向上、子育て支援プログラムなどの強化・拡充を目的としています。
存続側企業の概要
本M&Aは、日本保育サービスを存続会社、アメニティライフが消滅会社となる吸収合併で、両社はともにJPホールディングスの完全子会社です。
存続側の日本保育サービスは子育て支援事業を主軸とする企業で、保育所や学童クラブなど全国297の子育て支援施設を運営しています。
消滅側企業の概要
消滅側のアメニティライフは、日本保育サービスと同様に子育て支援事業を主軸としており、横浜市で5か所の保育所を運営しています。
M&Aの背景
経営資源の経営効率化、保護者から選ばれる園・施設としてサービスの質的向上が本合併の目的です。また、JPホールディングスは、子育て支援プログラムを強化・拡充することで、競争優位性と事業規模拡大を目指すともしています。
参考:株式会社JPホールディングス「連結子会社間の合併に関するお知らせ」
M&A手法
吸収合併(実行日:2022年4月1日)
⑤MIJとFunkitのM&A
2021年4月、MIJが企業主導型保育園「ダンデライオン保育園」における事業をFunkitへ譲渡した事例です。保育園の統合によるFunkitの保育サービスの質向上実現を見込んでいます。
譲受企業の概要
Funkitは、ITソリューション・クリエイティブ・エデュケーション・エデュテイメントの4事業を展開する企業です。エデュケーション事業では企業主導型保育園「フェニックスキッズ」を運営しており、東京都内に8施設、宮崎県に5施設があります。
また、保育園運営のほかに、知育支援向けのソフトウェア開発や保育支援システムの開発提供なども手掛ける企業です。
譲渡企業の概要
MIJはマンションの売買・賃貸管理・内装工事・建物管理を行う不動産会社です。2019年からは生後半年~3歳未満までの子どもを預かる少人数制の保育園「ダンデライオン保育園」を運営していました。
M&Aの背景
企業主導型保育園だけでなく、園児の知育支援に向けたソフトウェア開発も手掛けているFunkitグループは、IT事業拡大のためにも自社で運営する保育園の規模拡大を目指しています。
そのようななか、フェニックスキッズで取り組みたいと考えていた、着替えや寝具の洗濯サービスなどをすでに実施しているダンデライオン保育園の事業譲受を検討しました。
ダンデライオン保育園をグループに加えることで人員体制の効率化を図り、さらに新たなノウハウの蓄積によって保育サービスの質向上を見込めるとしています。
参考:PR TIMES「株式会社Funkit 株式会社MIJよりダンデライオン保育園の保育園運営事業を譲受」
M&A手法
ダンデライオン保育園における事業の譲受(使用スキームの公表なし、2021年1月より運営開始)
⑥JPホールディングスと学研ホールディングスの業務提携
2021年1月、学研ホールディングスはJPホールディングスの株式を取得し、幼児教育および子育て事業に関し業務提携契約を結びました。
本提携は、両社の教育コンテンツの活用、保育・幼児教育事業における質的向上、量的成長を両立する枠組みの構築が主な目的となっています。
企業の概要(株式取得側)
学研ホールディングスは、学習塾運営、児童・生徒向け出版、学校向け書籍などの制作販売などの事業を展開している企業グループです。
企業の概要
JPホールディングスは保育園・学童クラブ・児童館などの運営とコンサルティング、給食請負、保育に関する研修・研究、保育関連用品物販の事業を幅広く行っている企業です。
M&Aの背景
JPホールディングスは「子育て支援の更なる質的向上を目指す」を経営ビジョンに掲げ、子育て支援事業の経営基盤を確立し、新たな事業の創出や事業改革を推進していました。
一方の学研ホールディングスは、中期経営計画において幼児教育を教育・ 医療福祉に次ぐ収益候補として挙げており、グループ各社のリソースを統合して保育と教育の一貫体制構築を目指しています。
両社は、幼児教育の充実は今後の保育業界で有効な成長戦略であり、互いが培ってきたノウハウを共有することで、子育て支援の質的向上と量的な成長に期待でき新しいビジネス価値の創造につながると判断し、本業務提携にいたりました。
なお、本業務提携にあたり学研ホールディングスはJPホールディングスの株式30.72%を取得しています。
参考:株式会社学研ホールディングス「株式会社 JP ホールディングスの株式取得および業務提携契約の締結」
参考:株式会社JPホールディングス「株式会社学研ホールディングスとの業務提携契約の締結」
M&A手法
株式取得および業務提携
⑦プロケアとセンコーグループホールディングスのM&A
2020年9月、センコーグループホールディングスがプロケアの全株式を取得して子会社化した事例です。本M&Aは業界への新規参入を目的として行われました。
譲受企業の概要
センコーグループは、物流・商事・ビジネスサポート・ライフサポートの事業を国内外で展開する企業グループです。ライフサポート事業では、介護や家事代行などの生活者支援サービスも行っています。
譲渡企業の概要
プロケアは、保育所の運営や放課後児童クラブの運営受託、放課後子供教室など、東京都を中心に全国で運営している企業です。
M&Aの背景
センコーグループは「人々の生活を支援する」を企業理念としており、ライフサポート事業部門では介護サービス事業を行っています。
子育て事業へ参入することによって、子供から高齢者までの生活支援が実現できるとし、今回のM&Aにいたりました。
参考:センコーグループホールディングス株式会社「(株)プロケアをグループに迎え、子育て事業へ参入」
M&A手法
株式譲渡
⑧東昇商事とミアヘルサのM&A
2020年7月、ミアヘルサが東昇商事の全株式を取得し、完全子会社化した事例です。ミアヘルサは、保育事業の規模拡大とシナジー効果発揮を目的としています。
譲受企業の概要
ミアヘルサは、保険調剤薬局「日生薬局」運営、 介護事業・ 保育事業・食品事業を手掛ける企業です。東京・神奈川・千葉・埼玉で保育園(26園)を運営するほか、給食・介護食用の食材提供事業も行っています。
譲渡企業の概要
東昇商事は、東京都と神奈川県(川崎・横浜)で認可保育園6園を運営しています。
M&Aの背景
ミアヘルサは「地域包括ケアシステム」の実現を目指しており、保育事業においては「ミアヘルサ保育園ひびき」を待機児童が多い首都圏エリアを中心に展開しています。
東昇商事の保育園がミアヘルサの事業エリア内にあるため運営効率向上が見込め、また両社の保育園は地理的重複が少なく事業エリア拡大に大きくつながるとの考えから本M&Aが行われました。
参考:ミアヘルサ株式会社「株式会社東昇商事の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
M&A手法
株式譲渡(株式譲渡実行日:2020年7月1日)
なお、 本M&A後の2022年には、管理機能強化と経営効率化を目的として、ミアヘルサを存続会社、東昇商事を消滅会社とする吸収合併が行われました。
⑨ブリタニカ・ジャパンとパソナフォスターのM&A
2020年3月、ブリタニカ・ジャパンがパソナフォスターへ英語教育コンテンツ事業を譲渡した事例です。パソナフォスターは、保育園・幼稚園・認定こども園の教育事業を展開していくことを目的としています。
譲受企業の概要
パソナフォスターは、認可・認証保育園や臨時託児施設の運営、企業内保育や学童保育の運営受託事業を手掛ける企業です。国内で初めて「企業内保育」を提唱した企業でもあり、子育て支援30年という実績をもっています。
譲渡企業の概要
ブリタニカ・ジャパンは、百科事典データベース(日本語・外国語)の制作販売、オンライン教材の制作販売などを手掛ける企業です。
M&Aの背景
パソナフォスターは、ブリタニカ・ジャパンの幼児英語教育メソッド「Angie&Tony」事業を譲受することで、自社運営の認可認証保育園や企業内保育所での幼児英語教育事業の強化を目的として本M&Aを行いました。
今後は、「Angie&Tony」を自社運営の認可認証保育園や企業内保育所に順次導入していき、専門の教育研修プログラム認定講師によるレッスンを取り入れていくとしています。
参考:PR TIMES「 『Angie&Tony』を譲受 パソナフォスター 幼児英語教育事業を強化」
M&A手法
事業譲渡(事業譲渡実行日:2020年6月1日)
⑩global bridge HOLDINGSとウェルクスのM&A
2020年2月、global bridge HOLDINGS(現:AIAIグループ)とウェルクスが資本提携した事例です。人材採用ネットワークおよび保育支援システムの販売ネットワークの強化を主な目的としています。
企業の概要
global bridge HOLDINGS(現:AIAIグループ)は、認可保育園や介護施設の運営、保育運営に関するICT事業などを手掛ける企業です。認可保育園の「AIAI NURSERY」は、東京・神奈川・千葉のほか、大阪市内で運営しています。
企業の概要
ウェルクスは、保育士・栄養士・介護職を対象とした人材紹介サービスや業界に特化した求人広告サービスを手掛ける企業です。そのほか、キャリアアップを目指す女性向け情報サイト「WOMORE」を運営しています。
M&Aの背景
現在、global bridge HOLDINGS(現:AIAIグループ)は認可保育園の新規開設計画を進めており、優秀な保育士の採用・育成を重要課題に挙げ、人材採用ネットワークやICT事業の販売ネットワークの強化が必要だと考えていました。
ウェルクス社は、保育分野の人材紹介・情報サービスが主軸であり、人材獲得ノウハウを持っています。 両社は本資本提携により交流を深め、global bridge HOLDINGS(現:AIAIグループ)は人材採用ネットワークとICT事業の販売ネットワークの強化と図るとし、契約締結に至りました。
参考:株式会社globalbridgeHOLDINGS「株式会社ウェルクスとの資本提携に関するお知らせ」
M&A手法
資本提携
⑪グローバルキッズとライフケアパートナーズのM&A
2020年1月、日本生命保険傘下のライフケアパートナーズがグローバルキッズの「えんマッチ」の事業を会社分割によって事業承継した事例です。
譲受企業の概要
ライフケアパートナーズは、健康・介護分野に関する情報サービス事業を行う日本生命相互会社の子会社です。
譲渡企業の概要
グローバルキッズは、保育施設の運営や公共施設・イベント等での託児サービス、経営支援やコンサルティングなどを手掛ける企業です。全国に保育園・児童館を166か所のほか、企業主導型保育所と企業担当者(ユーザー)を結ぶマッチングサービス「えんマッチ」も運営しています。
M&Aの背景
日本生命とグローバルキッズは、企業主導型保育所の空き状況等がわかるサイトを企業の福利厚生サービス向けに案内する取組を検討してきました。
そのようななか、取組のさらなる普及と発展させるため、日本生命の子会社ライフケアパートナーズがグローバルキッズが先行実施している「えんマッチ」事業を会社分割にて事業承継することを決定しました。
今後は、ライフケアパートナーズ・グローバルキッズ・日本生命が3社共同事業として展開していくとしています。
参考:日本生命保険相互会社「当社子会社(株式会社ライフケアパートナーズ)による企業主導型保育所と企業・従業員を繋ぐサービスの展開」
M&A手法
会社分割(吸収分割)
⑫パートナーエージェントとグローバルキッズのM&A
2018年6月、グローバルキッズがパートナーエージェント企業主導型の保育事業を譲受した事例です。また、なお、この事業譲渡と合わせて資本業務提携でも合意しています。
譲受企業の概要
グローバルキッズは、グローバルグループ(現:グローバルキッズCOMPANY)の子会社で、保育施設の運営や公共施設・イベントなどでの託児サービスを手掛けています。
譲渡企業の概要
パートナーエージェント(現:タメニー)は、主に婚活支援事業を手掛ける企業で、企業主導型保育園「めばえ保育ルーム」の運営も行っています。
M&Aの背景
グローバルグループ(現:グローバルキッズCOMPANY)は多くの保育士を抱えており、自社保育士が出産後に職場復帰しやすいよう、職員が利用できる保育施設の拡充を進めています。
今回の事業譲受はこの施策の一環であり、子会社グローバルキッズがパートナーエージェント(現:タメニー)が運営する「めばえ保育ルーム」の譲受を決定しました。 同時に、両社は1,000万円を目安に資本業務提携でも合意しています。
参考:株式会社グローバルグループ「資本業務提携及び連結子会社による事業譲受に関するお知らせ」
M&A手法
事業譲渡、資本業務提携
⑬JBSナーサリーと城南進学研究社のM&A
2017年5月、城南進学研究社が保育事業を手掛けるJBSナーサリーの全株式を取得して子会社化した事例です。このM&Aは事業規模の拡大を目的として行われました。
譲受企業の概要
城南進学研究社は、教場事業・児童教育事業・ソリューション事業を主軸とする企業です。「城南予備校」や乳幼児教育「くぼたのうけん教室」のほか、認証保育園「城南ルミナ保育園」を運営しています。
譲渡企業の概要
JBSナーサリーは保育事業を主軸としており、乳幼児を対象とする小規模保育施設を東京・千葉・福岡で合計7施設を運営しています。 親会社のJBSホ ールディングスは空港地上サービス業を中核としており、JBSナーサリーは同社の完全子会社です。
M&Aの背景
城南進学研究社は、保育事業を将来性のある社会貢献事業と位置づけ、事業拡大を計画していました。子会社となったJBSナーサリーは、開業以来、施設数・売上高ともに増加傾向にありましたが、JBSホ ールディングスは経営資源の集中と顧客ニーズへの対応強化のため、事業パートナーを探している状態でした。
そのようななか、城南進学研究社によるJBSナーサリーの子会社化は、総合教育機関としての事業発展や、顧客ニーズ合った新サービス展開に期待できるとし、本M&Aにいたりました。
参考:株式会社城南進学研究社「JBS ナーサリー株式会社 JBS ナーサリー株式会社 ナーサリー株式会社の株式取得(子会社化)に関するお知らせ」
M&A手法
株式譲渡(株式譲渡実行日:2017年5月1日)
⑭PURE SOLUTIONSとライフサポートのM&A
2017年4月、桧屋ホールディングス子会社のライフサポートがPURE SOLUTIONSの全株式を取得し、完全子会社化した事例です。本M&Aは、両社の経営ノウハウを融合することによるシナジー発揮、企業価値向上を目的としています。
譲渡企業の概要
ライフサポートは、認可・認証保育所やの学童クラブなどの保育事業所、有料老人ホームを含む介護事業所の運営を手掛ける、桧家ホールディングスの連結子会社です。
譲渡企業の概要
PURE SOLUTIONSは認可外保育園(保育所)を運営する企業で、外国人講師による英語教育を行うなど特徴のある保育サービスを行っています。
M&Aの背景
ライフサポートの既存保育施設は、行政機関の補助金収入に収益を依存していたため、国の政策等による影響を受けるのがネックとなっており、補助金収入に依存しない事業モデル確立を考えていました。
PURE SOLUTIONSの英語教育に関するノウハウを活かすことで、認可外の英語保育施設を展開するなど高いシナジー効果が見込めるとしています。さらに桧屋グループの持続的成長や企業価値向上を助長するものと判断し、本M&Aに至りました。
参考:株式会社桧家ホールディングス「当社子会社による株式の取得(孫会社化)に関するお知らせ」
M&A手法
株式譲渡(株式譲渡実行日:2017年4月3日)
⑮小田急電鉄と木下ホールディングスのM&A
2015年7月、木下ホールディングスが小田急電鉄と株式譲渡契約ならびに業務提携契約を締結した事例です。小田急沿線の保育所など子育て支援施設の拡充が主な目的となっています。
譲受企業の概要
木下グループは住宅関連事業を中核とし、そのほかには介護事業や保育事業などを展開しています。保育事業では東京・神奈川に認可保育所と認証保育所が合計7か所あり、子会社であるファン・ファクトリーが事業運営企業です。
譲渡企業の概要
小田急グループは運輸・流通・不動産など生活に密着した事業を展開しており、小田急沿線の暮らしやすさ向上を目指しています。保育事業では「駅型保育園」 中心に10施設を展開しており、運営しているのは子会社の小田急ライフアソシエです。
M&Aの背景
木下グループは重要な事業と位置づけている保育事業において今後も運営施設を拡充していく方針であり、小田急沿線の子育て支援施設の拡充を目的とする取り組みに合意しました。
木下ホールディングスは施設の運営に力を注ぎ、小田急電鉄は店舗の拡大を担っていくとし、リソースを相互活用することで小田急沿線の子育て支援施設拡充を目指すとしています。
参考:株式会社木下ホールディングス「子育て支援施設の拡充に向けて「業務提携基本契約」等を締結」
M&A手法
業務 提携基本契約および株式譲渡契約
10. 保育園・保育所のM&A動向まとめ
保育園・保育所は市場拡大傾向にあるためM&Aも頻繁に行われています。保育園・保育所の買収が増えているため、保育園・保育所を売りたいと考えているのであれば、売り時といえるでしょう。
保育園・保育所のM&Aは通常の企業のM&Aと違って、許認可の引き継ぎや保育士などの雇用契約などでトラブルに発展するケースが多いので、M&A仲介会社など専門家のサポート下で進めることをおすすめします。
11. 保育園・保育所業界の成約事例一覧
12. 保育園・保育所業界のM&A案件一覧
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