2024年06月14日更新
家具業界のM&A・事業譲渡・買収の動向は?成功事例や相場から手法まで解説!
本記事では、家具業界のM&A・事業譲渡・買収について動向から成功事例まで解説します。近年はニトリや良品計画などの台頭などにより、再拡大の局面に入っています。また、M&Aによる他業界からの新規参入も増えています。家具業界のM&Aを検討している方は必見です。
目次
1. 家具・オフィス業界とは
家具・オフィス業界には、家庭用・事務用家具の製造・販売を行う事業者が分類されます。1990年代をピークに高級家具の売上は大きく下がっていますが、近年はニトリを筆頭に低価格帯の家具・オフィスが需要を増している状況です。
小売店も変化を見せ、従来は百貨店が中心でしたがホームセンターや家具店などが充実し、EC市場も大きく発展しています。家具・オフィス業界は、製品以外にも販路開拓やオンライン戦略を活用することが求められる業界です。
家具・オフィス業界の定義
家具は、日常的に室内で使う道具のことをいいます。例えば、椅子・机・ベッド・ソファー・棚などです。家庭用家具以外に、仕事に使うオフィス用家具やオフィス用家具などの専門の通販サイトなどもあります。
古代エジプト時代に発明されたのこぎりにおける加工技術の発達により、高度な家具が作られるようになりました。ロココ様式やインド=ヨーロッパ様式など、世界各地でいろいろなデザインの家具が作られています。
家具・オフィス業界に見られる特徴
家具・オフィス業界は、高級家具・低価格家具の二極化が進んでいます。ニトリは、独自のSPAモデル「製造物流IT小売業」を確立し、商品企画から発送までを一貫して自社で行い、低価格の家具を提供して30年以上増収増益を達成している状況です。
家具・オフィス業界は、「ホームファッション」「ホームファニシング」が主体の販売戦略も特徴的です。ニトリやイケアなどは、実店舗でリビングや寝室などさまざまなコンセプトに沿ってトータルコーディネートを行って商品を提案し売り上げを伸ばしています。
新型コロナウイルスの影響により自宅でリモートワークを行う人が増え、家庭でオフィス家具を使う人が増加しました。それにより、個人のオフィス家具消費が大幅に増えています。
家具・オフィス業界の市場規模
一般社団法人日本家具産業振興会の家具小売業時系列データを見ると、家具・オフィス業界は、1980年代から1990年代に市場規模が2兆円を超えていました。しかし、2000年代には1兆円台となり、現在は1兆円を切る年もあります。
高級家具を取り扱う大塚家具の業績を見ると、2007年の売上高727億6,900万円をピークに売上減少が目立ち、2018年には373億8,800万円となりました。一方、低価格家具を扱うニトリやイケア・ジャパンなどは、家具・オフィス業界内で好調な業績を維持しています。
参考:一般社団法人日本家具産業振興会「家具小売業 時系列データ(商業統計表)」
家具・オフィス業界の課題と展望
家具・オフィス業界は、少子化や新設住宅着工戸数の減少による市場の縮小に対応しなければなりません。家具・オフィス業界は、住宅業界の動向に影響を受けやすい業界です。引っ越し・住宅のリフォームによる家具のまとめ買いが、需要を生じています。
野村総合研究所による日本における「2020~2040年度の新設住宅着工戸数」と「2019~2040年度リフォーム市場規模」の予測では、2020年から2040年の新設住宅着工戸数は、2019年度が88万戸・2030年度が63万戸・2040年度が41万戸と減少する見込みです。
今後は上記の予測に対して、どのように経営判断を行っていくのかが注目されます。
参考:野村総合研究所「野村総合研究所、2040年度の住宅市場を予測」
2. 家具・オフィス業界のM&A・買収・売却の動向
近年の家具・オフィス業界はM&A市場に激しい動きが見られます。この章では、家具・オフィス業界のM&A動向を見ていきましょう。
- 異業種からの参入が目立つ
- 後継者・引き継ぎ問題に悩む経営者の増加
- 家具・オフィス業界から異業種への参入も進む
①異業種からの参入が目立つ
異業種からの家具・オフィス業界への参入で特に目立つのは、家電量販トップのヤマダ電機です。ヤマダ電機は、2017年に家具・オフィス業界への参入意向を示し、2019年に大塚家具を子会社化して大きな話題を呼びました。
大手寡占化が進む家電業界から、最大手のニトリが30期連続で一人勝ちを続ける家具・オフィス業界に参入し、新たな市場を開拓する狙いです。
他業種の大手企業の参入は、事業規模を効率的に拡大するために業界内の企業を複数買収することが想定されるため、今後も中小企業のM&A・買収が続くと見られます。
②後継者・引き継ぎ問題に悩む経営者の増加
日本全国で後継者問題が深刻化していますが、この傾向は家具・オフィス業界も同様です。後継者問題とは、経営を引き継いでくれる後継者が不在なために現経営者が引退できない問題をさします。
従来は親族に引き継ぎする親族内承継が採用されていましたが、昨今は少子高齢化による影響で親族内に後継者がいないケースが多いです。業種の多様化で選択肢が増えたことで、家業を継ぎたくないケースも多いでしょう。
少子高齢化は国全体の問題でもあり、自然に解消される可能性は高くありません。経営者の努力で改善するのも極めて難しいため、M&Aを活用した経営戦略に活路を見いだそうとする動きが強まっています。
後継者・跡継ぎがいない会社の選択肢については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
③家具・オフィス業界から異業種への参入も進む
昨今、家具・オフィス業界における異業種への参入も増えています。2017年に、家具・オフィス業界最大手企業のニトリがアパレル事業に参入することを発表しました。
アパレル市場は緩やかな縮小傾向にあり、当時は大きな波紋を呼びました。ニトリはアパレル事業に関するノウハウを持ち合わせていないため、今後は複数の衣料品チェーンを買収して店舗とノウハウの取得を目指すことを明かしています。
ニトリの戦略が成功して、ライフスタイルの「衣・住」を確立できれば、ニトリの立ち位置はますます強固となるでしょう。
3. 家具・オフィス業界のM&A・買収・売却の成功事例
家具・オフィス業界全体でM&Aが活性化しています。この章では、数あるM&A・買収・売却事例のなかからピックアップして見ていきましょう。
①サンゲツによるD’Perception Pte.Ltd.のM&A買収
サンゲツは、2024年5月10日に開催された取締役会において、シンガポールのD’Perception Pte.Ltd.(以下「D’Perception社」)およびそのグループ会社(以下「D’Perception社グループ」)の過半数の株式を取得する契約を締結することを決議しました。
サンゲツは、インテリア商品の企画・開発・製造・販売・施工、エクステリアの販売・施工、そして各種施設やオフィス空間の企画・設計・工事監理・施工を手掛けています。
一方、D’Perception社グループは、シンガポールを拠点に東南アジアで空間デザインと総合施工の事業を展開しています。
サンゲツは、海外事業の強化と拡大を目指す具体的な施策の一環として、「商品・空間デザイン力の強化」や「スペースクリエーション企業への転換」を進めています。
D’Perception社グループの空間デザインと総合施工の強みと、サンゲツグループのインテリア商品の開発・取り扱い・施工の強みを融合させることで、東南アジア市場や顧客のニーズに応じた多様で総合的なサービスの提供が可能となります。また、中国やインドなど、アジア全域にわたる事業拡大も視野に入れています。
このように地域特性に対応した総合的なサービス向上を通じて、顧客満足度を高め、各国市場での競争力と収益力を強化することは、サンゲツグループの企業価値向上に大きく寄与すると考えられます。
②コクヨによるオリジンとエステイツクのM&A買収
2023年1月26日、コクヨ株式会社はオリジン株式会社および株式会社エステイツクの全株式を取得し、両社を子会社化しました。
コクヨは、オフィス家具や文房具の製造・仕入れ・販売を手掛けています。一方、オリジンはソファやダイニング家具を中心に製造から販売までを行う家具メーカーです。エステイツクは、多様な流通経路を通じてカバーリングソファなどの製品を製造・販売する家具販売業者です。
このM&Aにより、コクヨは働き方改革および働く場所の多様化に伴うオフィスリニューアル需要の取り込みを目指しています。
③ウェブシャークによるYogiboのM&A買収
2022年1月、ウェブシャークはYogibo LLC.を買収すると発表しました。本件M&Aの取得価額は、非公開です。
買収側は、大阪市に本社を置く企業で、エッグウィッチ専門店 Don’t Worry Egg’Wich(ドン・ウォーリー・エッグウィッチ)の運営などを手掛けています。対する売却側は、アメリカのビーズソファブランド「Yogibo」を世界に展開する企業です。
2014年11月にウェブシャークが日本総代理店契約を締結したことで、日本国内におけるYogiboの販売が開始されました。
従来、Yogiboは各国のブランドデザインが均一化されておらず、海外渡航したユーザーのブランドイメージに悪影響を及ぼすおそれがあることから、今後は世界的なデザインの統一を推進すると発表しています。
海外ブランドを取り扱う他の日本代理店が契約を解除され業績が悪化する事例もあり、防衛策としての必要性があったために本件M&Aに至りました。
④アント・キャピタル・パートナーズによるイーナのM&A買収
2021年11月、アント・キャピタル・パートナーズは自身の運営するアント・ブリッジ5号A投資事業有限責任組合、およびイーナの創業社長と共同で設立した買収目的会社をつうじて、イーナの株式を取得しました。
買収側は、東京都千代田区を拠点に、未上場株式などへの投資業務および投資事業組合の運営管理業務などを手掛けている企業です。売却側は、Webサイト制作・Webマーケティングサービス・Eコマース事業などを展開しています。
本件M&Aでは、今後も拡大が見込まれるEC市場におけるイーナの事業の成長性に魅力を感じ、買収側は投資を決定しました。今後は、経営陣から協力を受けつつ、事業の成長と発展のサポートを積極的に行うと発表しています。
⑤オカムラによるTelexistenceとの資本業務提携
2021年6月、オカムラとTelexistenceは資本業務提携契約を締結しています。半自律型遠隔操作ロボットによる量販店の陳列関連業務に最適化した什器・備品の共同研究と開発が目的です。
オカムラは、店舗の設計、陳列什器の製造など店づくりをトータルでサポートしています。幅広い製品を開発・製造し、店舗設計のノウハウと組み合わせて小売業の効率的・魅力的な店づくりを進めている会社です。
Telexistenceは、小売店に欠かせない店舗スタッフが、店舗に常駐せず労働に参加できるプラットフォームの「Augmented Workforce Platform」における開発・実装を進めています。
店舗運営における問題の解決に取り組む両社は、異なる知見・技術を合わせて連携することにより、包括的でスピーディーなイノベーションを創出できると考え資本業務提携を行いました。
⑥ニトリHDによる島忠へのTOB
2020年12月、ニトリホールディングスはホールセンター中堅の島忠に対するTOBを成立させました。島忠株式の77.04%を買い付け、2021年1月に子会社化とする予定で、買収トータルは約2,142億円です。
実は、DCMホールディングスが島忠に対して10月初めにTOBを開始しました。しかし、ニトリが割って入ったのです。ニトリはDCMを1,300円上回る5,500円の買付価格を提示し、島忠はニトリのTOBを支持しました。
TOBを先に行ったDCMは買付価格の引き上げをせず、TOBは不成立となっています。
⑦BAKERUによるヒトバデザインとの資本提携
2020年11月、BAKERUはヒトバデザインと資本提携契約を締結しています。ヒトバデザインは、オフィスや店舗など内装デザインや施工の実績を豊富に持つ会社です。
新型コロナウイルス感染症の影響により、企業のリモートワークが推奨され、空間の持つ特性を生かす企画立案から施工・運営までを一元管理し、クリエイティブを提供するBAKERUへの相談が増加しました。BAKERUはより事業を広げて体制を強めるために、ヒトバデザインとの資本提携に至っています。
⑧フォーバルによるえすみのM&A買収
2020年4月、フォーバルはえすみの発行済全株式を取得することを公表しました。手法は公表されていませんが、これによりフォーバルはえすみを完全子会社化します。
えすみはオフィス家具の販売、オフィス設計・施工、オフィス機器の販売・保守などの幅広い業務を手掛ける会社です。子会社に物流機器、サプライ品の販売・保守を手掛けるテック販売山陰も抱えています。
フォーバルのM&Aにおける目的は、山陰地域の顧客基盤獲得と中核事業におけるアイコンサービスの事業拡大です。
⑨オカムラによる連結子会社2社の吸収合併
2020年2月、オカムラは100%出資の連結子会社オカムラ物流とシーダーを吸収合併することを公表しました。実施予定日の7月1日に向けて準備を開始しています。
オカムラ物流は、グループ製品の輸送・保管・荷役・流通など物流全般を担う会社です。オカムラ物流を取り込み、SCM全体の最適化と物流サービスの質向上を加速させることが狙いです。
シーダーは搬送装置の専業メーカーで、物流の人材不足が深刻化するなか倉庫管理業務の一部を自動化させるため、シーダーの高い技術力を活用して総合力の強化を図ります。
⑩ヤマダ電機による大塚家具のM&A買収
2019年12月、ヤマダ電機は大塚家具の株式51.74%を第三者割当増資により取得することを公表しました。実施後におけるヤマダ電機の議決権比率は57.81%となり、大塚家具を子会社化します。
大塚家具は家具・オフィス業界を代表する大企業ですが、近年は業績低迷が目立つ状況です。要因の一つとして考えられるのは、経営方針の違いから勃発した社長交代劇で、当時は経営者が何度も入れ替わるなどの混乱が続きました。
ヤマダ電機が赤字の大塚家具を子会社化した理由は多角化戦略です。ヤマダ電機の分野である家電とは全く異なる業界への進出ですが、既存事業の衰退とシナジー効果を重視したM&Aと見られます。
⑪ニトリHDによるタイネゴロのM&A買収
2019年1月、ニトリホールディングスはタイネゴロの発行済全株式を取得することを公表しました。グループのニトリとホーム・デコの3社共同で行われ、タイネゴロの全株式172万4千株を取得しています。
タイネゴロは、タイに本拠地を構えるカーペットメーカーです。ペットボトルから製造するリサイクル繊維を活用したカーペットが特徴で、国内の簡易敷物においてトップシェアを有します。
ニトリは、リサイクル繊維の利用率を拡大させ、環境に優しいエコを重視した商品開発にも着手する見込みです。2020年8月にはベトナムに織布工場などを開設し、カーテンや寝装品の製造・開発に乗り出すことも狙っています。
⑫イトーキによるダルトンのM&A買収
2016年8月、イトーキは連結子会社ダルトンの完全子会社化を目的とするTOBの実施を公表しました。TOBは2016年8月4日から同年10月5日まで42営業日をかけて行われ、イトーキはダルトンを完全子会社化しています。
ダルトンは研究施設事業を主な事業とする会社です。研究所計画からメンテナンスまでのトータルサポートを手掛け、これまで数多くのプロジェクトに携わっています。
イトーキは、木製家具の内製化によるグループの収益拡大と、インフラや人材などの経営資源をダルトンに投下して研究施設事業の基盤を強化する見込みです。
4. 家具・オフィス業界のM&A・買収・売却の相場
家具・オフィス業界のM&A・買収・売却の相場は、企業価値評価によって算出します。交渉の土台となる価値を算出したうえで、売り手と買い手の交渉により最終的な価格を決定するのが一般的な流れです。
中小規模の企業価値評価では、主に「時価純資産法」が用いられます。時価評価した資産から負債を差し引いた値を企業価値とする方法で、会社を清算したらどれくらいの価値が残るかという考え方です。
家具・オフィス業界はブランドも大きく影響しますが、ブランドは帳簿上で評価できないため、時価純資産法で算出される価値には含まれません。
こうしたケースでは、超過収益還元法や年倍法(年買法)と呼ばれる方法を併用し、より適正な価値を算出します。年買法は、以下の動画でM&Aアドバイザーが計算例を用いてわかりやすく解説しておりますので、ぜひご覧ください。
5. 家具・オフィス業界のM&A・買収・売却手法
M&Aは多くの手法が存在し、目的に合わせた最適な手法を選択することが重要です。この章では、家具・オフィス業界のM&Aで主に用いられている手法を解説します。
株式譲渡
株式譲渡とは、売り手が保有する株式を譲渡して経営権を移転するM&A手法です。譲渡先の株式保有率が1/2を超えると経営権を移行できます。
社内手続きが株主名簿の書き換えだけで済むため、M&Aをスピーディーに進められる特徴がありますが、売り手側が譲渡制限株式の場合は、事前に株主総会で承認を得なければなりません。
株式の売却益は株主に支払われます。中小企業の場合は経営者が100%の株式を保有することが多いので、高額な売却益を獲得することも珍しくありません。
事業譲渡
事業譲渡とは、事業の全部あるいは一部を譲渡するM&A手法です。会社そのものではなく、譲渡する事業を個別に選択できる特徴があります。事業譲渡が活用される目的は、売り手側は事業の選択と集中、買い手側は人材獲得や事業エリア拡大をつうじた事業規模の拡大などです。
売却益は会社に支払われます。事業資金として運用できるので新規事業の立ち上げや残存事業に回すなど、さまざまな活用法が期待できるでしょう。
吸収・合併
吸収・合併とは、一方の会社が他の会社を取り込むことです。吸収される側の会社は、全ての資産を引き継いだ後に消滅します。
支配関係のない会社同士が吸収・合併することや、親会社が子会社を吸収・合併して経営資源の統合や事業シナジーの最大化を図ることもあります。
取得対価を株式とすることも可能です。買い手側が買収費用を用意しなくてよいため、資金調達が原因となってM&Aの進行が滞ることはありません。
吸収合併については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
6. 家具・オフィス業界のM&A・買収・売却のメリット
家具・オフィス業界のM&Aが活性化する背景には、M&Aで得られるさまざまなメリットがあります。ここでは、売却側と買収側に分けてメリットを見ていきましょう。
売却側のメリット
まずは、売却側のメリットです。
- 後継者問題の解決ができる
- 従業員の雇用先を確保できる
- 個人保証・担保などを解消できる
- 倒産・廃業を回避できる
- 譲渡・売却益を獲得できる
後継者問題の解決ができる
日本国内の少子高齢化によって、経営を引き継げる世代が圧倒的に不足しています。中小企業の廃業理由で最も多いのが後継者不足で、家具・オフィス業界も後継者問題が深刻化している状態です。
後継者不在のまま進めば、いずれは廃業せざるを得なくなりますが、M&Aで買い手に会社を託すと後継者問題を解決できます。
従業員の雇用先を確保できる
後継者問題や経営状態の悪化で廃業を視野に入れることも多いですが、会社の廃業は従業員が失業することを意味します。再就職先のあっせんなどで対応することも可能ですが、雇用条件が維持される保証はなく勤続年数も途切れるため、従業員へつらい現実を押し付けてしまうでしょう。
M&Aであれば、従業員の雇用先確保と同時に雇用条件と勤続年数の引き継ぎが可能です。職場環境は変わることもありますが、廃業よりもはるかによい条件となるでしょう。
個人保証・担保などを解消できる
中小企業が銀行から借入を受ける際、経営者の個人保証・担保を提供するのが一般的です。事業に失敗した場合は経営者の個人資産で弁済することを誓約するため、経営者のストレスの要因となります。
M&Aで権利義務の引き継ぎを行えば、個人保証・担保から解放されます。株式譲渡や吸収・合併は権利義務に関して包括的な承継が行われるため、特別な交渉を進める必要もありません。
倒産・廃業を回避できる
M&Aで倒産・廃業を回避するメリットの1つに、節税効果が挙げられます。
M&Aを行わずに倒産・廃業すると、会社の資産を清算する際、利益に対して30~40%前後の法人税が課せられますが、M&Aによる株式の譲渡所得は、課せられる税金が20.315%(所得税・住民税・復興特別所得税)のみです。
倒産・廃業と比べると大幅な節税効果が期待できます。会社のノウハウが存続できる点も大きなメリットです。積み重ねてきた技術・ノウハウを有効活用できる第三者に引き継げば、社会的な損失を生むこともありません。
譲渡・売却益を獲得できる
多くの場合、M&Aによる売却では、譲渡・売却益を獲得することが可能です。買い手による高評価や交渉を効果的に進めれば増額も見込めるので、大きなメリットの1つといえます。
譲渡・売却益の獲得者は、用いる手法によって異なります。株式譲渡は株式売買のために株主が、事業譲渡は会社の資産を売買するために会社が獲得するのです。
個人的な資金が欲しい場合は株式譲渡、獲得した譲渡・売却益を有効活用して会社を大きくしたいなら事業譲渡の使い分けが一般的です。
買収側のメリット
次に、買収側のメリットを解説します。
- 事業規模・販路を拡大できる
- 新規事業に参入できる
- 経営資源を獲得できる
- 経営基盤を強化できる
- 内製化によりコストを削減できる
- 相手先企業のブランドを利用できる
事業規模・販路を拡大できる
家具業界のM&A・事業譲渡・買収を行うと、買収側は事業規模・販路を拡大することが可能です。買収側は、売却側が築き上げてきた主要な取引ルートや販売網をまとめて取り込めます。
家具・オフィス業界は市場規模の縮小が予想されるため、早期に市場シェアを維持して広げる動きが有効です。規模を広げれば、生産の効率化・製造コストの低減を促進できます。
新規事業に参入できる
ヤマダ電機による大塚家具のM&Aや、ニトリによる島忠のM&Aなど、他業界から家具業界への参入や家具業界から他業界への参入のようなM&Aを行うと、新規事業に参入できます。
新型コロナウイルスの影響による家具買い替えの需要拡大を魅力とする他業界は、M&Aにより容易に家具・オフィス業界へ進出できるでしょう。業績の低迷に苦しむ家具・オフィス業界の会社も、新しい収益源確保のために他業界とM&Aを行うメリットがあります。
経営資源を獲得できる
M&Aを行うと、製造拠点・優秀な人材・各種資産など経営資源が獲得できる点もメリットです。買収側と売却側双方のノウハウを合わせると、今までよりも効率的な業務運営が実現します。
未進出地域の企業とM&Aを行えば、今までリーチできなかった顧客層にアプローチすることも可能です。
経営基盤を強化できる
M&Aを行うことで、新しいネットワークや顧客を得られるので、経営基盤を強めることが可能です。さまざまな地域や商品バラエティなどの展開を進められます。その結果、事業環境の変化にも十分に耐えられる企業体質を築けるでしょう。
内製化によりコストを削減できる
家具・オフィス業界では、製造は外注し小売のみを行う会社もあり、仕入れに取引コストが発生します。こうした企業では、最終的にそれが最終販売価格に反映される仕組みです。
上流工程のM&Aを実施すると、製造の内製化によってコスト体質を改善し強化できます。他業界による新規参入が増加している家具・オフィス業界は、価格競争力を強めることがこれからの事業継続に欠かせないため、非常に大きなメリットです。
相手先企業のブランドを利用できる
相手先企業のブランドを利用できることも、買収側のメリットです。ブランド力は即座に構築できず、長年の製品販売によるリピーターの育成や口コミ効果などにより、付加価値が生じます。
高いブランド力のある事業・企業をM&Aによって得ると、それらをまとめて内製化し、短時間でそのブランド力を生かせます。
7. 家具・オフィス業界のM&A・買収・売却フロー
この章では、家具・オフィス業界のM&A・買収・売却フローを見ていきましょう。
M&A仲介会社への相談・依頼
買収意思がある会社と売却意志がある会社は、M&A仲介会社への相談から始めるのが一般的です。専門家による仲介は、法的に欠かせないわけではありません。しかし、M&Aを進める際は、さまざまな専門知識が必要です。
M&A仲介会社やコンサルティング会社などは、蓄積したノウハウ・ネットワークがあるので、前もって相談すれば円滑なM&Aが行えるでしょう。ただし、専門家によって報酬体系が違うため、自社に合う相談先を選ぶことが大切です。
M&A相手先とのマッチング・交渉
M&A仲介会社への相談・依頼の次は、M&A相手先とのマッチング・交渉です。M&A仲介会社は、企業名を開示しない情報により数社に絞り、交渉できると判断した段階で秘密保持契約を締結します。そして、企業名が公開されるのです。
M&A相手先の選定基準を絞りすぎず、幅広い選定先から選ぶほうが、自社のあらゆる可能性を考えられます。
トップ面談の実施
M&A相手先とのマッチング・交渉が終わると、双方のM&Aニーズやスケジューリングなどの交渉です。このステップでは、トップ面談を実施し、お互いの人となりや経営理念などをチェックします。
基本的な企業情報の開示から、M&Aを行う理由やこれからのビジョンなどをすり合わせ、M&Aが実施できるかどうか見極めます。
基本合意契約書の締結
交渉した条件などに売却側と買収側が大筋で合意すると、基本合意契約書の締結です。M&A成立に向けて、現時点における基本条件の合意を確認するプロセスです。取引価額やデューデリジェンスの取り組み、スケジュールなどを確認します。
なお、基本合意契約書はLOI(Letter of Intent)やMOU(Memorandum of Understanding)とも呼ばれ、基本的に同じ意味です。
デューデリジェンス(買収監査)の実施
家具・オフィス業界のM&A・買収・売却フローで、最も重要で時間がかかるのがデューデリジェンスです。デューデリジェンスとは、M&Aのリスクや責任所在の確認などにおける内容を細かく調査することをいいます。
デューデリジェンスを怠ると、M&Aの実施後に予期しなかった事態が起こったり想定を大幅に超えるコストの発生を招いたりするため、M&Aを成功させるにはデューデリジェンスの入念な取り組みが重要です。
最終契約書の締結
デューデリジェンスが無事に終わると、次は最終契約書の締結です。基本合意契約書で定めた内容とデューデリジェンスの結果をもとに、M&A取引の最終条件を決めます。株式譲渡契約書や事業譲渡契約書などが一例で、それらを総称したのが最終契約書(Definitive Agreement=DA)です。
クロージング・経営統合
最後の家具・オフィス業界のM&A・買収・売却フローは、クロージング・経営統合です。クロージング・経営統合では、実務ベースによるクロージング作業を進めます。
家具・オフィス業界では、店舗の統廃合、再ブランディング、人員の再配置などです。ここには、人事や総務など本社システムの統合なども含みます。
8. 家具・オフィス業界のM&Aにおける積極買収企業
この章では、家具・オフィス業界のM&Aにおける積極買収企業を解説します。
日創プロニティ
まずは、幅広い業界へ各種金属製品を提供する東証二部上場の金属加工メーカーである日創プロニティです。日創プロニティはM&Aの推進を行っており、M&Aにより事業領域を広げて競争力・収益力を強めることを狙っています。
具体的には、加工をポイントにして事業領域を拡大したり、加工ノウハウを集約して設計・開発・デザインをプラスして差別化した商品を造ることを目指したりしている、家具・オフィス業界のM&Aにおける積極買収企業です。
トランザクション
次は、雑貨の「モノづくり」に特化した事業を手掛けるトランザクションです。トランザクションは、純粋持株会社の当社と子会社7社でトランザクショングループを構成し、2015年に東証一部へ上場しています。
トランザクションは、スモール市場で一定のシェアを持つ会社など、シナジーが見込める事業者を求める家具・オフィス業界のM&Aにおける積極買収企業です。
今までのM&A実績として、トラベル雑貨事業を手掛ける会社を買収し、製造費・営業費のコスト削減を果たしました。
キングジム
次は、文具事務用品メーカーのキングジムです。キングジムは、2000年から、文具以外における領域の開拓に積極的で、インテリアや家具関連へM&Aにより進出を継続しています。
この領域では、キッチン家電などインテリアグッズを企画・販売するラドンナ、品質の高いアーティフィシャルフラワーの企画・販売を行うアスカ商会、家具のインターネット通販サイトを運営するぼん家具を合わせて、グループ全体における売上の約2割を占めています。
ベガコーポレーション
次は、主力のインテリアEC事業「LOWYA」や、越境ECプラットフォーム事業「DOKODEMO」のサービスなどを手掛けるベガコーポレーションです。
ベガコーポレーションは、売上拡大を円滑に進めて既存領域を強めるために、「家具・インテリア」と「メタバース(AR/VR)、EC、DX」の領域でパートナーを積極的に探している、家具・オフィス業界のM&Aにおける積極買収企業になります。
9. 家具・オフィス業界のM&A・買収・売却におすすめの相談先
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10. 家具・オフィス業界のM&A・買収・売却についてまとめ
家具・オフィス業界は異業種からの参入も激しく、特にヤマダ電機による大塚家具の子会社化は大きな反響を呼びました。ヤマダ電機が大塚家具を取り込んでも業界トップシェアには届かなったため、今後も家具・オフィス業界の再編は継続すると想定できます。
買い手の積極的なM&A姿勢は売り手市場であることを意味しているため、タイミングを見計らって譲渡・売却益を最大化させることも可能です。
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