2024年06月18日更新
デューデリジェンス(Due Diligence)とは?種類・M&Aにおける役割・注意点・期間をわかりやすく解説
本記事では、デューデリジェンス(Due Diligence)の意味・種類・進め方・注意点をまとめました。デューデリジェンスとは買収監査を意味し、M&Aで欠かせない手続きです。十分な態勢で実施することで、買い手企業では適正な買収価額やリスクの把握につながります。M&Aを検討している方は必見です。
目次
1. デューデリジェンスとは
M&Aを行う場合、買い手企業は対象企業に買収する価値はあるか、買収するとしたらどのくらいの買収価額が適正かなどを把握する必要があります。
それらを判断するために行われるのが、デューデリジェンス(買収監査)です。デューデリジェンスの範囲は幅広いですが、事業(ビジネス)デューデリジェンス、財務・税務デューデリジェンス、法務デューデリジェンスなどが中心となります。
デューデリジェンスの流れは、まず調査を実施する範囲を決め、次にデューデリジェンスの担当者を決めます。一般的に、デューデリジェンスを行う分野ごとに、士業などの専門家を起用します。
買い手側から対象企業へ必要な資料のリストや質問などを提示し、資料の精査や担当者へのインタビューなどを行った後、各担当者は報告書を作成していきます。
デューデリジェンスを行う理由
仮にM&Aの際、デューデリジェンスを行わなかったらどうなるでしょうか。その場合、買い手企業は売り手企業が申告する情報だけを信じてM&Aを進めることになります。
売り手企業が間違った情報や虚偽の情報を提示していたり、不都合な情報を隠していたりしたら、買い手企業は買収後にさまざまな問題を抱えることにもなりかねません。このようなリスクを避けるためにデューデリジェンスは実施されます。
売り手企業が自社に対して行うデューデリジェンスが「セルサイドデューデリジェンス」です。売り手企業にとって自社を売却する経験は初めてですが、買い手企業は買収を何度も経験している場合があります。
経験のない売り手側は、買い手企業の都合のよいようにM&A価額などの条件を決められてしまい、不利な条件で決定したとしても気付かないケースがあるかもしれません。
そのような事態を避けるため、セルサイドデューデリジェンスによって自社の状態を客観的に把握し、改善できるところは事前に対応しておけば、万全の状態でM&Aに臨めます。
M&Aにおけるデューデリジェンスの役割
買い手がデューデリジェンスを行う目的は、買収を実施するかどうかの判断や買収額決定の判断、対象会社のリスク分析・問題点の洗い出し、M&A後の統合戦略策定などがあります。デューデリジェンスの役割は、種類によって変わるものです。
財務・会計デューデリジェンスは、過去の収益力の把握や将来の収益力の分析、時価純資産の把握、キャッシュフローの分析、簿外債務の確認などの役割を果たします。法務デューデリジェンスは、契約関係やコンプライアンスなどの各種リスクを洗い出すことを目的に実施されます。
そして、事業(ビジネス)デューデリジェンスでは、社内環境の評価や、市場・競合他社といった外部環境の分析、KPI(Key Performance Indicator=重要業績評価指標)の分析などを行います。
このようなさまざまな調査を通して、買収価値を適正に評価していくのがデューデリジェンスの役割です。
2. デューデリジェンスの主な種類の一覧
- 事業デューデリジェンス
- 財務デューデリジェンス
- 税務デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- 人事デューデリジェンス
- ITデューデリジェンス
- その他のデューデリジェンス
事業デューデリジェンス
事業(ビジネス)デューデリジェンスは、社内環境の評価、市場・競合他社といった外部環境の分析、KPI(業績評価)の分析などを行います。さまざまなデューデリジェンスがあるなか、中小企業にとって重要なデューデリジェンスが事業(ビジネス)デューデリジェンスです。
事業(ビジネス)デューデリジェンスは、事業計画や企業価値評価に大きな影響を与えます。企業価値評価の基礎にもなるため、本格的なデューデリジェンスを行う前に実施する事業(ビジネス)デューデリジェンスが、プレデューデリジェンスです。
その後、本格的なデューデリジェンスに入ったら、プレデューデリジェンスによって得た事業(ビジネス)デューデリジェンスの結果を踏まえて、財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンス・法務デューデリジェンスを行うことがあります。
事業(ビジネス)デューデリジェンスは、財務デューデリジェンスや税務デューデリジェンス、法務デューデリジェンスと密接に関係しており、それぞれで得た情報を活用して分析を行うのが一般的です。
財務デューデリジェンス
- 不動産
- 動産
- 債権(売掛金・貸付金など)
- 有価証券
- 金銭の借入・預かり金
- 社債
- 保証・担保
- ファイナンス取引
財務・
税務デューデリジェンス
税務デューデリジェンスでは、対象企業の税務に問題がないかどうかを調査します。税務デューデリジェンスは、財務デューデリジェンスと一緒に行われることがほとんどです。
税務デューデリジェンスでは、繰越欠損金や含み損の有無も確認します。対象企業に繰越欠損金や含み損があり損金参入が可能であれば、買い手企業はM&A後に節税を図ることが可能です。
法務デューデリジェンス
法務デューデリジェンスは、買い手企業が売り手企業の法的問題点を発見するためのものです。買い手企業は法務デューデリジェンスを行うことで、売り手企業が持つ強みが法的にどの程度守られているかを把握できます。
紛争トラブルや偶発債務といった、企業価値を損なうような要素が隠れていないかを調査することも目的です。
重大な法的問題点が見当たらない場合でも、契約条件やスケジュールに影響するような問題点が隠れているケースもあるため、法務デューデリジェンスの実施は不可欠といえます。法務デューデリジェンスで特に重要となるものは、以下を対象とする調査です。
- 権利関係
- 包括的承継
- 偶発債務
- 競業避止義務
- 許認可
また、法務デューデリジェンスを行うために、デューデリジェンスチームは売り手企業に以下の資料を請求します。
- 会社に関する基本的事項
- 設立手続き
- 定款などの社内規定
- 会議の議事録
- 関係会社
- 過去のM&A・組織再編
人事デューデリジェンス
人事・労務デューデリジェンスでは、対象企業の従業員構成や配置、労働条件、労務管理などを精査し、問題点を洗い出します。近年は、働きがいのある会社かどうかを確認するケースも見られるようになりました。
人事・労務デューデリジェンスでは、売り手企業から以下の資料を提示してもらい精査します。
- 従業員などの構成
- 労働条件
- 労働時間の管理
- 労働組合
- 人員整理
- 労働基準監督署などからの指摘
- 労働安全衛生・労働災害
- 役員について
- 懲戒処分・不祥事
人事・労務デューデリジェンスでは、従業員や契約社員、派遣社員、嘱託社員、パートタイムなどの構成や、人数は足りているか、配置は適切か、離職率はどのくらいかなどを調査します。
未成年・外国人・障害者雇用も調査を行い、労働条件については勤務時間や賃金構成・休暇・就業規則などが調査対象です。そのほかに、安全や健康管理が適切に行われている点も、重要チェックポイントになります。
ITデューデリジェンス
ITデューデリジェンスでは、対象企業の情報システムについて調査を行います。買い手企業は、M&A後に売り手企業の情報システムと買い手企業の情報システムを統合しなければなりません。売り手企業でIT化が進んでいない部分があれば、IT化を進めるための投資も必要になります。
その際には統合コスト・整理コスト・導入コストがかかり、場合によっては多くの資金と時間が必要です。ITデューデリジェンスの実施によって、的確にIT分野のコストやリスクを把握する必要があります。
しかし、IT化が進む現在において、ITデューデリジェンスの重要性は増してきているものの、まだその活用は十分とはいえない状況であり、特に中小企業の場合は、本格的なITデューデリジェンスは行わないケースがほとんどです。
不動産デューデリジェンス
売り手企業が複数の不動産を所有している場合、不動産鑑定士を起用し不動産デューデリジェンスが行われます。不動産デューデリジェンスの主な調査内容は以下のとおりです。
- 不動産の価値(市場価格)
- 不動産投資した場合の利益
- 不動産の立地、境界
- 耐震性
- 劣化状況
- 建築基準法との適法性
- 登記内容
環境デューデリジェンス
環境デューデリジェンスでは、売り手企業の社屋や工場などが環境問題を抱えていないかの調査をします。売り手企業の業績がよくても、事業が環境に悪影響を与えている場合は、企業価値は下げられるため注意が必要です。調査項目例としては以下のようなものがあります。
- 土壌汚染
- 大気汚染
- 水質汚染
- 使用が禁止・制限されている資材の使用
知的財産デューデリジェンス
知的財産デューデリジェンスでは、保有している知的財産には何があるか、権利関係に問題はないか、知的財産がきちんと管理されているかなどを調査します。知的財産デューデリジェンスでは、以下の資料などが精査対象です。
- 知的財産の一覧表
- 知的財産の管理体制
- 知的財産の契約関係
- コンピュータ・システム
- 職務発明
- 知的財産に関する紛争
M&Aの法務DD(デューデリジェンス)については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
3. デューデリジェンスの方法
- 資料開示請求および各種分析
- 開示された資料分析
- ③現地での確認作業
- マネジメント層に対するヒアリング
- 報告書の作成
①資料開示請求および各種分析
デューデリジェンスを行う際は、まず調査する範囲を決め、デューデリジェンスのチームを作ります。専門的な知識が不可欠ですから、外部の士業などの専門家を起用するのが通常です。その後、対象企業に対して必要資料のリストや質問集を提示します。
売り手企業はさまざまな資料要求や質問に応じなければならず、その負担は決して軽くないことがほとんどです。オーナー経営者だけでは対応しきれないケースも少なくないので、会計士・税理士や弁護士によるサポートが必要となることもあります。
売り手企業が注意したい点は、要求された資料に重大な不備があったり、質問への回答に虚偽があったりしないようにすることです。そのようなことがあると、デューデリジェンスの手間が増えて期間が延びてしまったり、買い手企業からの信用を下げてしまったりします。
②開示された資料分析
続いて、デューデリジェンスチームは売り手企業から開示された資料を、数日間から数週間かけて精査していきます。財務デューデリジェンスで行うのは総勘定元帳などの細かなチェック、法務デューデリジェンスでは各種契約書などの精査です。
買い手企業は本格的なデューデリジェンスを行う前に、プレデューデリジェンスとも呼ばれる予備調査を行うことがあります。
その理由は、プレデューデリジェンスによっておおよその買収価額を決定し、売り手企業に対してLOI(意向表明書)などを通して、買収価額をはじめとした条件を提示するためです。
プレデューデリジェンスによる調査結果を基に提示された条件は、あくまでも仮の条件であるため、デューデリジェンスや売り手企業との交渉の結果により、最終的に条件が変わることもあります。
③現地での確認作業
特にホテル・旅館・ゴルフ場などの不動産を取引する際には、直接その場所を見に行くことが大切です。建物の外見や経年での劣化、土地の境界や建物の構造、近隣の様子などを、専門家と一緒にしっかりと確認することが必要です。他の物件でも、自分の目で確かめることは欠かせません。
④マネジメント層に対するヒアリング
売り手企業から提示された資料だけで売り手企業の全てを把握することは難しいので、デューデリジェンスの際は資料の分析だけでなく、マネジメント層などに対してヒアリングも行います。
M&Aアドバイザーにサポートを依頼している場合は、ヒアリングの日程などはM&Aアドバイザーが調整してくれることがほとんどです。デューデリジェンスチームによる質問を想定して、M&Aアドバイザーの助言を受けながら回答内容を作成することもあります。
売り手企業が、デューデリジェンスチームからの質問に明確に答えられなかったり、正確性に欠ける回答をしてしまったりすると、買い手企業から不安要素として受け取られるかもしれません。
売り手企業はあらかじめM&Aアドバイザーの助言をもらいながら、しっかりと回答を準備しておきましょう。
⑤報告書の作成
デューデリジェンスチームは、調査を終えたら調査内容をもとに調査報告書を作成します。デューデリジェンスの調査報告書が完成するのは、中小企業の場合、数日から2週間程度が目安です。買い手企業は、調査報告書を参考に買収金額などの条件をあらためて検討します。
検討し直した内容を基に売り手企業と交渉を重ね、合意すれば最終契約書の締結です。デューデリジェンスの結果、企業価値を損なうような問題点が見つかった場合は、買収価額を引き下げたり、M&Aが成立するまでに問題点を解消してもらったりするなどの対処を行います。
M&Aにおける人事DD(デューデリジェンス)からPMIについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
4. デューデリジェンスを実施する期間
中小企業の場合、案件規模にもよりますが、スムーズにデューデリジェンスが進めば数日から2週間で完了するでしょう。大企業や中堅企業の場合は、1カ月から2カ月以上かかることもあります。デューデリジェンスをスムーズに終えるためには、準備段階が重要です。
買い手は、デューデリジェンスの専門家チームに早めに依頼して、調査準備を進めておきましょう。同時に、売り手企業に要求する資料に抜けがないようにしたり、M&Aアドバイザーにデューデリジェンスの日程調整を適切に行ってもらったりする必要があります。
売り手企業は提示書類を遅滞なく準備し、想定される買い手企業からの質問に対して回答を用意しておくことが大切です。
5. デューデリジェンスにかかる費用相場
専門的な調査を行うデューデリジェンスでは、それに対応できる士業などの専門家を起用するのが一般的です。つまり、デューデリジェンスの費用=各士業に支払う手数料ということになります。士業事務所により手数料は異なりますから、一律の相場のようなものはありません。
M&Aごとに実施するデューデリジェンスの種類・内容・範囲などは異なります。それぞれのケースでデューデリジェンスの作業量やレベルは違うため、費用も一定ではありません。以下に、あくまで参考値として、デューデリジェンスの費用例を掲示します。
- 法務デューデリジェンス:弁護士:50万~100万円
- 財務デューデリジェンス:公認会計士:50万~100万円
- 税務デューデリジェンス:税理士:50万~100万円
上記の例で考えると、法務デューデリジェンス・財務デューデリジェンス・税務デューデリジェンスの3種のデューデリジェンスを行うにあたり、それぞれ専門の士業を起用したとすると、150万~300万円程度の総額になります。
6. デューデリジェンスを実施する際の4つの注意点
デューデリジェンスを実施する際は、いくつか注意すべきポイントがあります。ここでは、特に注意すべき以下の4点を確認しましょう。
- チェックリストによる確認
- デューデリジェンスのタイミング
- 情報開示の計画立案
- 専門家への相談
チェックリストによる確認
デューデリジェンスの際、買い手企業は売り手企業に対し、要求資料や質問のチェックリストを渡します。チェックリストに抜けや漏れがあると、売り手側はチェックリストに記載されている資料だけを準備することになるので、スムーズなデューデリジェンスができません。
売り手側も想定問答のチェックリスト作成が中途半端であれば、買い手企業からの質問に明確に答えられず、信頼を落とす可能性もあります。デューデリジェンスの準備は、売り手・買い手とも入念に行うことが必要です。
デューデリジェンスのタイミング
デューデリジェンスの実施は、タイミングも重要です。デューデリジェンスの際、買い手企業は売り手企業に出向いてデューデリジェンス(オンサイトデューデリジェンス)を行います。
その際に、M&Aを進めていることをまだ知られたくない売り手企業の従業員に、事実が伝わってしまう可能性は否定できません。売り手企業は買い手企業からの要求資料を準備したり、想定問答集を作成したりします。
そのとき、従業員に資料の準備などを依頼すると、M&Aの実施をまだ知らない従業員に情報が漏れることもあり得るでしょう。デューデリジェンスを行う際は、売り手・買い手とも情報漏えい対策が必要です。
情報開示の計画立案
売り手企業は、買い手企業に対してどこまで情報開示するのかを決めなければなりません。開示情報が少ないと買い手企業の判断材料も少なくなり、不安要素となる可能性があります。
逆に開示情報が多いと、事業の根幹に関わる重要な情報まで開示してしまうことになり、情報漏えいなどにより事業に支障が出る可能性がないともいえません。どこまで情報開示すべきかについては、専門家のアドバイスを受けながら適切に設定する必要があります。
専門家への相談
デューデリジェンスは専門性が高く、その分野の専門家でなければ適切に実施することは簡単ではありません。デューデリジェンスは準備やタイミングなど、注意しなければならないポイントがいくつもあるため、M&Aの専門家からサポートを受けるのがおすすめです。
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7. デューデリジェンスのまとめ
デューデリジェンスの実施には、専門的な知識が必要になるため、M&A仲介会社などの専門家に依頼して実施するのがよいでしょう。本記事の概要は以下のとおりです。
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