2022年06月06日更新
事業買収の成功事例30選!成功する戦略も解説【永久保存版】
事業買収は企業を成長させるうえで重要な経営戦略ですが、M&Aによる事業買収を成功させるには、成功事例から学びつつ戦略を練ることが大切です。そこで本記事では、事業買収の成功事例30選を紹介しながら、成功戦略について解説します。
1. 事業買収とは
そもそも、事業買収とはどのようなものをさすのでしょうか。
ひとことでいうと、事業買収とは、企業の抱える事業の一部または全部を買い取る行為のことです。場合によっては、企業を丸ごと買い取る行為をさして事業買収と呼ぶケースもあります。
事業買収を行うと、製品・サービスに関わる権利・技術や特許・従業員など、対象事業の継続に必要なリソースすべての所有権が売り手から買い手に移行します。
最近では、多くの企業が経営戦略を描くうえで事業買収を活用しており、事業買収の重要性が高まっている状況です。
2. 事業買収M&Aが選ばれる理由
事業買収M&Aを選ぶ理由には、大きく分けて以下4つがあります。
- 補強したい事業を得られるため
- 低コストで新事業・事業拡大が可能なため
- 新規の顧客や取引先を獲得できるため
- 従業員や商品・技術などを取得できるため
それぞれの理由を順番に見ていきましょう。
①補強したい事業を得られるため
事業買収と聞いて多くの経営者の方が真っ先に思い浮かぶのは、「補強したい事業を得られる」という点だといえます。
例えば、すでに商品・サービスを展開していて、ラインナップを拡大するために戦略的に事業買収を行うというケースです。
また、製品バリューチェーンの一部を事業買収により獲得して、既存事業を強化するといったケースも存在します。
②低コストで新事業・事業拡大が可能なため
次に、低コストで新事業・事業拡大が可能になるという理由が挙げられます。企業が新たな事業を始める場合、ゼロから事業を立ち上げると大量の時間と資金が必要です。
そこで自ら事業を立ち上げるのではなく、戦略的に事業買収を活用して他社から事業を買い取れば、低コストかつスムーズに新事業・事業拡大などに着手できます。
こうしたメリットを踏まえて、新事業の成功に必要な技術を有していないケース、新事業の初期投資が大きいケース、すでに強いプレイヤーがいて新規参入ではシェア獲得が難しいケースなどで、事業買収が活用されている状況です。
③新規の顧客や取引先を獲得できるため
最近では、新規顧客や取引先の獲得を目的とした事業買収も広く行われています。
新事業の場合と同様にゼロから新規顧客を開拓するには多大な時間と資金が必要であるため、戦略的に事業買収を活用して時間短縮を図るというケースが増加中です。こうしたケースは、特に企業向け(BtoB)市場にて多く見られます。
事業買収後は、事業買収によって新規に獲得した取引先に対して自社商品・サービスのクロスセルを狙うなどしてシナジーを生み出しながら、買収成功を目指すというケースが多いです。
④従業員や商品・技術などを取得できるため
最後に、従業員や商品・技術の取得を目的とした事業買収について紹介します。
特に最新テクノロジーは自社開発を行って先行者に追いつくことは非常に困難であるため、こうしたテクノロジーを抱える事業をM&Aにて取得してトップを目指すといったケースが増加中です。
また、人手不足の業界などでは、従業員の獲得を目的に買収を行う事例も存在します。
3. 事業買収の成功戦略
事業買収を成功させるには、買収する事業について簿外債務などのリスクがないか、想定している戦略や事業計画に無理はないかなどを十分に精査したうえで、買収オプションを事前に用意しておくことが必要です。
特にM&Aは準備が肝心であるため、疑問点がある場合には、多くの成功事例や失敗事例に触れてきた事業買収M&Aの専門家に相談しましょう。
ここでは、事業買収を成功させるための7つのポイントについて見ていきます。
- デューデリジェンスを徹底する
- 自社分析による強み・弱みを明確にする
- 市場を調査して需要などを知る
- 企業のトップと面談を行う
- 事業買収の際に提案する戦略オプションをまとめる
- 表明保証保険(レプワラ保険・R&W保険)を活用する
- 事業買収M&Aの専門家にアドバイスを受ける
それぞれのポイントを順番に把握しておきましょう。
①デューデリジェンスを徹底する
事業買収を成功させるうえで最も重要なプロセスは、デューデリジェンス(買収監査)です。デューデリジェンスでは、主にビジネス・財務税務・法務・人事・環境などの観点から対象事業を精査します。
ビジネス分野においては、戦略や事業計画が正しいのか、買収する事業の競争力・市場環境などを踏まえながら評価する段取りです。(詳細は②③にて説明します)
財務・税務の分野では、会計ポリシーや監査済報告書などの確認とともに、簿外債務や納税漏れといったキャッシュアウトにおけるリスクが存在しないか精査します。
法務の分野では、主に法務ポリシーやコンプライアンスの順守状況などを調査する仕組みです。これにより、コンプライアンス違反や訴訟によって買収額を超えるマイナスが発生するといったトラブルを回避します。
上記の他にも、給与水準や労働環境について確認する人事デューデリジェンスや、環境汚染などのリスクについて確認する環境デューデリジェンスなど、対象となる企業によってデューデリジェンスの実施内容は変動する仕組みです。
②自社分析による強み・弱みを明確にする
①で紹介したビジネスデューデリジェンスでは「想定されるマーケットシェアは競争力を踏まえたうえで妥当であるかどうか」という項目がポイントの1つとして挙げられますが、ここではこの観点から買収する事業の強み・弱みを分析します。
具体的には、製品面・技術面・営業面(人数・スキル・販路)などについて、定量分析や定性分析などを行いながら把握しておく必要があります。
③市場を調査して需要などを知る
事業計画の妥当性を評価するもう1つのポイントは市場トレンドです。ここでは、事業計画において見立てられている市場規模や成長性が妥当であるかどうかを精査します。
買収する事業にとっての「市場」を正しく定義しながら、市場の将来像について、市販されているレポートの確認や専門家・顧客へのインタビューなどを通じて把握しておきましょう。
④企業のトップと面談を行う
事業買収では、企業のトップとなる人物と面談を行うことも重要なプロセスです。企業トップのパーソナリティや事業の語り口などを見れば、買収対象企業の特徴を別の角度から確認できます。
また、M&A後に経営者を送り込む想定をしている場合を除き、買収後の事業は現在のトップに引き続き任せるケースが多いため、力量の把握・必要な処遇の検討などを実施するうえでもトップ面談は必要不可欠です。
⑤事業買収の際に提案する戦略オプションをまとめる
これまでの結果をもとに、事業買収の際に提案する戦略オプションをまとめましょう。
ここで検討すべき代表的な項目は、以下のとおりです。
- 事業のみではなく、企業を丸ごと買収するのか
- 事業を丸ごと買収するのか、一部事業だけを買収するのか
- 最初から100%事業買収するのか、最初は60%買収してその後に買い増すのか
- 経営陣に残ってもらうのか残ってもらわないのか
上記の内容について、事前に選択肢を用意しておく必要があります。
M&Aはあくまでも交渉であるため、臨機応変に選択肢を提示しながら、自社にとって最も望ましい戦略オプションに落ち着くよう議論していきましょう。
⑥表明保証保険(レプワラ保険・R&W保険)を活用する
事業買収する場合には、表明保証保険を活用できます。とはいえ、事業計画の下振れなどを補う性質の保険ではなく、M&A取引において相手側が話した内容・提示してきた情報などに嘘や隠し事があった場合に補償が受けられる保険です。
特に大型のM&A案件では、表明保証保険を利用する事例が多く目立っています。
⑦事業買収M&Aの専門家にアドバイスを受ける
ここまで説明したように、事業買収では検討すべきポイントが非常に多く存在します。ポイントを十分にカバーできず買収後にリスクが顕在化してしまえば、古河電工によるルーセント・テクノロジーの買収事例や日本郵政によるトール社の買収事例のように、数千億円単位で減損が発生して経営を圧迫させかねません。
とはいえ、何から手を付けて良いのかわからないという経営者の方も多いはずです。こうした状況では、事業買収M&Aの専門家を活用すると良いでしょう。
M&A総合研究所では、M&Aによる事業買収に関する経験・知識が豊富なアドバイザーが手続きをフルサポートいたします。
完全成功報酬制(※譲渡企業様のみ)を採用しており、着手金は完全無料です。相談料は無料となっておりますので、事業買収に不安がある場合にはお気軽にご相談ください。
4. 事業買収後の成長戦略
前章では7つのポイントについて説明しましたが、事業買収は「買収して終了」となる行為ではありません。買収した企業を適切に経営して初めて、事業買収の成否を判断できるのです。
ここからは、事業買収後の成長戦略における3つのポイントを紹介します。
- 事業買収後のPMI(統合プロセス)を計画的に行う
- 財務を健全化して危機意識を植え付ける
- 買収先の従業員の士気を落とさず人材の流出を防ぐ
それぞれのポイントを順番に見ていきましょう。
①事業買収後のPMI(統合プロセス)を計画的に行う
はじめに、PMI(統合プロセス)を計画的に行うことが大切です。事業買収が決まったら、次は統合計画の策定を開始します。
具体的には、会計・法務・ITなどのポリシーを統合したうえで、企業グループとして活動できる状態にするプロセスです。これと同時に、買収によって期待されるシナジーを実現するためにプランの詳細化も行います。
②財務を健全化して危機意識を植え付ける
企業の運営ではときとして、従業員に対して適切な危機意識を植え付けることが必要な場面も存在します。事業買収シーンではマネジメントが危機感を持っているケースは多いですが、従業員にも同様の危機感を共有できているケースは少ないです。
上記のケースでは、財務の健全化(リストラクチュアリングなど)の施策を明示して、従業員に適度な危機感を持ってもらうことも重要だといえます。
③買収先の従業員の士気を落とさず人材の流出を防ぐ
最後に重要となるポイントは、企業活動を支える従業員についてです。事業買収では、M&Aをきっかけに優秀な人材が別の企業に転職してしまうといった事例も多く報告されています。
成長戦略につなげるには、従業員とコミュニケーションを取りつつ、M&Aの意義やともに目指すビジョンなどの共有により、従業員の離脱を防ぐことが必要不可欠です。
特にクロスボーダーの事例では言葉の壁が立ちふさがるケースも多いことから、コミュニケーション面に最大限の注意を払わなければなりません。
5. 事業買収の成功事例30選
ここまで、事業買収M&Aを成功に導くためのポイントについてご説明しましたが、この章では具体的な成功事例を見ていきましょう。
- JT(日本たばこ産業)による海外たばこ事業の事業買収
- ミツカングループによる海外ソース事業の事業買収
- サントリーホールディングスによる北米ウィスキー事業の事業買収
- サントリー食品によるJT(日本たばこ産業)自販機事業の事業買収
- 武田薬品による米国製薬企業の事業買収
- 東レによる炭素繊維事業の事業買収
- 旭化成による医療機器事業の事業買収
- 日本電産による産業用モーター・ドライブ・発電機事業の事業買収
- 帝人による自動車向け複合材料成形メーカーの事業買収
- ダイキン工業による空調メーカーの事業買収
- キヤノンによる監視カメラトップ企業の事業買収
- ブリヂストンによるタイヤ再生事業の事業買収
- コマツによる鉱山機械メーカーの事業買収
- 豊田自動織機による物流ソリューションプロバイダーの事業買収
- Amazon.comによる自動倉庫ロボット事業の事業買収
- 電通による広告会社の事業買収
- 東京海上日動による保険会社の事業買収
- 第一生命による生命保険会社の事業買収
- 三菱東京UFJ銀行によるタイ大手銀行の事業買収
- ソフトバンクグループによる半導体設計会社の事業買収
- オリックスによる会計ソフト会社の事業買収
- DeNAによるプロ野球チームの事業買収
- GMOインターネットによるインターネット決済事業の事業買収
- ビックカメラによるソフマップの事業買収
- ローソンによる成城石井の事業買収
- オイシックスドット大地によるらでぃっしゅぼーやの事業買収
- 楽天によるネット銀行の事業買収
- ソフトバンクによるイー・アクセスの事業買収
- 鴻海精密工業グループによるシャープの事業買収
- ハイアールによる三洋電機の事業買収
それぞれの成功事例を順番に見ていきましょう。
①JT(日本たばこ産業)による海外たばこ事業の事業買収
日本企業によるクロスボーダーM&Aの中でも特に成功と捉えられている大型事例の1つに、1999年のJTによる米国「RJRナビスコ社」の米国外たばこ事業の買収があります。
約9,400億円もの大型買収となりましたが、本件事業買収は、JTの国際展開を急加速させた事例です。
買収した企業
買収した企業は、日本最大のたばこメーカーであるJT(日本たばこ産業)です。現在ではグローバル企業として知られるJTですが、買収当時は売上高の大半を国内で占めており、全体規模を見てもグローバルトップ企業とはほど遠い状態でした。
買収された企業
買収されたのは、R.J.レイノルズ・タバコ・カンパニーの子会社にあたる「RJRインターナショナル」のたばこ部門です。当時の売上はJTの10倍近くを誇っており、世界シェア3位の企業でした。
買収までの流れ
買収当時における世界のたばこ市場は拡大を続けており、JTでは市場の成長を自社の成長に取り込みたいと考えていました。
そこでJTは、すでに世界シェア3位を誇っていたRJRインターナショナルのたばこ部門を買収して、ブランドだけでなく事業に必要なリソース(人や工場など)をまとめて獲得する戦略により、すでに強力な地位を確立している競合他社に対抗する方針を取ったのです。
②ミツカングループによる海外ソース事業の事業買収
たばこと類似する消費財ですが、着実に北米事業を強化すべく大型買収に踏み切った事例として、2014年のミツカングループによる海外ソース事業の買収が挙げられます。
本件事業買収を経て、ミツカングループの海外売上高比率は50%を超えました。買収額は2,150億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、お酢や納豆などで有名な「ミツカングループ」です。1990年代からお酢の領域で北米企業に対するM&Aを進めており、2000年以降はお酢以外の食料品も拡大すべく戦略を進めていました。
買収された企業
買収されたのは、英蘭系企業「ユニリーバ」の子会社が保有する北米のパスタソース事業です。具体的には、全米パスタソース市場で25%のシェアを持っていた「Ragu」および、プレミアムパスタソース市場で8%のシェアを持っていた「Bertolli」が買収対象となりました。
買収までの流れ
ミツカンは北米を重点領域とする海外戦略を取っており、古くからお酢関連の企業を買収していました。また、お酢以外の事業を拡大すべく、料理用ワインやマリネードソースなどを手掛ける会社の買収も行っていたのです。
こうした状況の中で、ユニリーバのパスタソース事業売却の話を受けて、すでに存在する北米事業とのシナジー効果が大きいと判断したために事業買収M&Aを実行しました。
③サントリーホールディングスによる北米ウィスキー事業の事業買収
食品ブランドの大型事例としては、サントリーホールディングスによる北米ウィスキー事業の買収も挙げられます。
本件はJTのケースと同様に海外展開の加速化を狙った事例であり、サントリーは海外に向けた商品開発を進めています。2014年に事業買収が実施されて、買収額は約1兆6,500億円です。
買収した企業
買収した企業は、ウィスキー・スピリッツ部門で国内トップシェアを誇る「サントリーホールディングス」です。ウィスキー・スピリッツだけでなく、ビール・ソフトドリンク・食品なども幅広く取り扱っています。
買収された企業
買収された企業は、北米のウィスキー市場でトップシェアの一角に位置している「ビーム社」です。ジムビーム・メーカーズマークといった世界トップクラスのブランドを保有しています。
買収までの流れ
買収当時のウィスキー・スピリッツ業界ではグローバル規模でのM&Aによる企業合併が広く行われており、企業数が徐々に減少していました。
こうした状況の中で、最後の大型案件として発表された事例がビーム社の買収です。サントリーホールディングスは、国産ウィスキーの海外展開と海外ウィスキーの国内展開の双方で十分なシナジー効果が狙えると判断したために、事業買収に踏み切りました。
④サントリー食品によるJT(日本たばこ産業)自販機事業の事業買収
国内におけるユニークな事例として知られているのが、サントリー食品によるJT自販機事業の事業買収です。サントリー食品からすると、最終顧客との接点が重要になる中で販売チャネルを押さえるべく動いた事例だといえます。
M&Aが実行されたのは2015年で、買収額は約1,500億円です。
買収した企業
買収した企業は、サントリー食品インターナショナルです。サントリーホールディングスにおいて、清涼飲料水と食品を取り扱う子会社という位置付けにあります。
買収された企業
買収された企業は、JTの子会社「ジャパンビバレッジホールディングス」です。JTの自販機オペレーションおよび、「桃の天然水」「Roots」などのブランドを保有していました。
買収までの流れ
サントリー食品は、国内市場が成熟する中で、販売チャネルの強化を考えていました。特に消費者の情報を捉えたマーケティングが重要視される中で、顧客の生の情報を取れるチャネル強化が課題となっていたのです。
こうした状況の中でJTの自販機部門売却の話が到来しました。顧客接点・チャネルの獲得のほかにロジスティクスの効率化によって、数十億円のコストシナジーが見込めると判断したために、買収に踏み切りました。
⑤武田薬品による米国製薬企業の事業買収
M&Aによる合従連衡が盛んな製薬業界における成功事例として知られるのが、武田薬品による米国製薬企業の事業買収です。本件事業買収によって獲得したパイプラインは上市に成功しており、ブロックバスター(1,000億円以上の売上を持つ薬)として武田薬品の収益を支えています。
M&Aが実行されたのは2008年で、買収額は約8,900億円です。製薬企業のM&Aでは失敗事例も多い中で、成功を収めた珍しい事例ともいえます。
買収した企業
買収した企業は武田薬品です。日本ではトップシェアを誇っていましたが、世界市場ではトップ集団と規模の観点で大きく差を開けられていました。
買収された企業
買収された企業は、米大手のバイオ企業「ミレニアム・ファーマシューティカル社」です。当時のミレニアム社は、がん領域においてブロックバスターのパイプラインを複数保有していました。
買収までの流れ
買収当時の武田薬品は、市場成長が見込まれるがん領域のパイプライン不足および、稼ぎ頭であるブロックバスターの特許切れという複数の課題を背負っていました。そのため、ブロックバスターの特許が切れるまでの比較的キャッシュがあるうちに、将来を担うがん領域のパイプラインを持つ事業を買収したいと考えていたのです。
こうした状況の中で、がん領域で強いパイプラインを持つミレニアム社の事業売却の話を受け、戦略に合致すると判断したために、事業買収に踏み切りました。
⑥東レによる炭素繊維事業の事業買収
次にメーカーの事例を紹介します。ここで紹介するのは、炭素繊維でトップを走っていた東レが製品ラインナップを拡大するために、競合他社の炭素繊維事業を買収した事例です。
本件事業買収により幅広い顧客ニーズに対応できるようになったため、炭素繊維の用途開発が加速しました。M&Aが実行されたのは2013年で、買収額は約575億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、世界で初めて炭素繊維の実用化に成功した企業「東レ」です。とはいえ、当時はまだ用途も限定的であったために、用途開発に注力していました。
買収された企業
買収された企業は、アメリカの炭素繊維メーカー「ゾルテック社」です。東レとは異なり、安価な汎用品の炭素繊維を取り扱っていました。
買収までの流れ
東レは世界で初めて炭素繊維を実用化して用途開発を進めていましたが、東レの製品は高価格高機能品に強く、安価な製品を求める顧客のニーズに必ずしも応えきれていませんでした。
そのため、汎用品も取り扱って顧客ニーズに合わせて商品を提供できるような体制を目指していたのです。こうした状況の中で、廉価な汎用品を扱うゾルテック社の売却の話を受けて、戦略に合致すると判断したために事業買収を進めました。
⑦旭化成による医療機器事業の事業買収
化学業界における成功事例としては、旭化成による医療機器事業の事業買収も挙げられます。
買収されたゾールメディカル社は確立された事業基盤に加えて、当時は現在ほど普及が進んでいなかったAED機器も保有していた企業であり、旭化成の先見の明によって成功につながった事例と話題になりました。
M&Aが実行されたのは2012年で、買収額は約1,800億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、日本最大手の化学系メーカーとして有名な「旭化成」です。買収当時は、医療ビジネスの強化に力を入れていました。
買収された企業
買収された事業は、救急医療機器を取り扱うアメリカの「ゾールメディカル社」です。着用式除細動器や体温マネージメント機器といった救急医療機器を保有していました。
買収までの流れ
買収当時の旭化成は市場成長が著しいヘルスケア事業を伸ばす戦略を取っており、医薬品事業や透析機器などの医療機器事業を持つヘルスケア事業に次ぐ第3の柱として、救命救急医療領域に対する買収を検討していました。
こうした状況の中で、ナスダックに上場していたゾールメディカル社を、戦略に合致するうえに将来伸びる市場に強い製品を持っていると判断したためにTOBを仕掛けています。買収時のプレミアムは30%弱でした。
⑧日本電産による産業用モーター・ドライブ・発電機事業の事業買収
産業材領域での成功事例といえば、日本電産による産業用モーター・ドライブ・発電機事業の事業買収が有名です。日本電産は国内外とおして地道に買収を繰り返しており、着実に経験を積みながら成功を重ねていますが、エマソンの産業用モーター・ドライブ・発電機買収については1,000億円を超える大型案件です。
M&Aが実行されたのは2016年で、買収額は約1,200億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、当時すでに50件近い事業買収を成功させていた「日本電産」です。さらなる事業強化のために、産業用モーター事業などの買収に乗り出しました。
買収された企業
買収された事業は、エマソンエレクトリック社のモーター・ドライブ・発電機事業です。エマソンエレクトリック社は米国のエンジニアリング企業であり、すべての事業を合わせると2兆円を超える売上を誇っています。
買収までの流れ
当時の日本電産は電気モーターを軸とした事業で世界トップを目指しており、これに必要な事業についてはM&Aによる買収も用いていました。
2010年時点でエマソンエレクトリック社からモーター&コントロール事業を買収していますが、その後も交渉を続けてモーターや発電機事業などの買収に至っています。
日本電産は狙った獲物は逃がさない一方で適正価格でなければ絶対に買収しないというスタンスを貫いており、本件も待ち続けた末に実現したと捉えられています。
⑨帝人による自動車向け複合材料成形メーカーの事業買収
新規顧客の獲得を目指した事業買収の成功事例としては、帝人による自動車向け複合材料成型メーカーの事業買収が挙げられます。
本件事業買収により、帝人は、戦略上の重点領域であった自動車メーカーやTier1部品メーカーへのアクセスを獲得しました。
M&Aが実行されたのは2016年で、買収額は約825億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、繊維メーカーとしてスタートした「帝人」です。現在ではさまざまな素材を提供するメーカーとなっており、1つの強力なアプリケーションとして自動車業界に展開する戦略を描いていました。
買収された企業
買収された企業は、北米で自動車向けに複合材料を成型するCSP社(コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス)です。自動車の車体軽量化に向けて最先端素材が用いられるようになる中で、成型分野でトップシェアを担っていました。
買収までの流れ
買収当時の帝人は自社の複合繊維(ガラスや炭素繊維を複合して強力にした繊維)を自動車向けに展開したいと考えており、自動車メーカーやTier1との関係構築の戦略を描いていました。
こうした状況の中で、自動車メーカーやTier1と直接取引をするCSP社が売却に出されたために、顧客アクセスを獲得する目的のもと買収に乗り出しています。
⑩ダイキン工業による空調メーカーの事業買収
電機メーカーの成功事例といえば、ダイキン工業による北米の空調メーカーの事業買収が有名です。
ダイキン工業の持つ高い技術力と北米の空調メーカーの持つ低コスト生産能力および北米全土における販売網のシナジー効果により、ダイキン工業の北米事業は急速に成長しました。
本件事業買収は、既存事業の強化と顧客の獲得を同時に達成した好例です。M&Aが実行されたのは2012年で、買収額は2,960億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、日本における空調市場でトップシェアの一角を占める「ダイキン工業」です。以前から北米企業を買収しており順調に成長していましたが、急速に規模拡大を進めたいという思いを抱いていました。
買収された企業
買収された企業は、北米で空調事業を営む「グッドマングローバルHELLFG.UL社」です。北米でNo1のシェアを誇っており、規模の経済を活かした低コスト生産および全米をカバーする販売網に強みを持っていました。
買収までの流れ
ダイキン工業は予てより北米市場の攻略を検討していましたが、北米の顧客は既存先からスイッチするハードルが高かったために、早期から買収による拡大戦略を進めていました。
2006年頃にも買収を行っており順調に事業拡大をしていましたが、シェアトップのグッドマングローバルHELLFG.UL社が売却に出る話を受けて、急速に事業基盤を拡大するチャンスと判断したために買収に踏み切りました。
⑪キヤノンによる監視カメラトップ企業の事業買収
需要拡大を先読みしてM&Aによる新規事業確立に成功した事例としては、キヤノンによる監視カメラトップ企業の事業買収が有名です。
本件事業買収により、キヤノンは、成長市場である監視カメラ市場のトップシェアに躍り出ました。
M&Aが行われたのは2015年で、買収価格は約3,300億円と発表されています。当時は完全子会社化せず、2018年に残りの株式を約400億円にて買収し完全子会社化しました。
一度に100%出資するのではなく、事業の見極めや売り手へのプレッシャーをかけながら事業運営を成功させた事例ともいえます。
買収した企業
買収した企業は、デジタルカメラで世界トップシェアを誇る「キヤノン」です。スマホの発展によりデジカメ市場が縮小する中で、BtoBにおける監視カメラ領域の拡大を狙っていました。
買収された企業
買収された企業は、スウェーデンの監視カメラ企業「アクシスコミュニケーションズ社」です。当時は監視カメラにて世界トップシェア(15%)を誇っていました。
買収までの流れ
キヤノンはデジタルカメラ市場が急速に縮小する中で、レンズ技術を活かして新たな柱を立てるべく2013年に監視カメラ事業に参入し、オランダのマイルストーン社を買収していました。
こうした状況の中でさらなるシェア拡大を求めて、上場会社のアクシスコミュニケーションズ社にTOBを行ったのです。ただし一度に100%買収するわけではなく、85%を買収したうえで事業が成功すれば残りの15%も買収するという段階的な買収プロセスを取りました。
当時のプレミアムは50%弱とされており、2018年にキヤノンは残りの株式の買収を決めて完全子会社化に至っています。
⑫ブリヂストンによるタイヤ再生事業の事業買収
事業拡大の成功事例としては、ブリヂストンによる北米タイヤ再生事業の事業買収が有名です。
ブリヂストンといえばファイアストン社の買収も有名ですが、その後も継続的な事業価値の向上に向けてM&Aを行っており、世の中の変化に対応して再生タイヤ事業に乗り込むべく北米バンダグ・インコーポレーテッド社を買収しました。
M&Aが実行されたのは2007年で、買収額は約1,200億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、タイヤメーカー大手の「ブリヂストン」です。中古タイヤ市場が立ち上がり新品タイヤの成長が鈍化する中で、再生ビジネスに目を付けていました。
買収された企業
買収された企業は、タイヤ再生事業を行っていた米国タイヤリトレッド事業大手の「バンダグ・インコーポレーテッド社」です。北米において中古タイヤ市場が成長を見せる中で、トレンドに乗って成長していました。
買収までの流れ
買収当時のブリヂストンは中古タイヤ流通による新品タイヤの値崩れに頭を悩ませており、ブランド価値を維持しながら中古流通のトレンドに対応するための戦略を策定していました。
こうした状況の中で、中古タイヤを単純に流通させるのではなく再生して流通させたバンダグ・インコーポレーテッド社は、タイヤ価格の維持に貢献できる点で自社の戦略とも合致していたため、買収に乗り出しています。
⑬コマツによる鉱山機械メーカーの事業買収
コマツによる鉱山機械メーカーの事業買収も、有名な成功事例です。本件事業買収により、コマツは鉱山機械のラインナップを拡張すると同時に、北米での販売・サービス体制を強化できました。
M&Aが実行されたのは2017年で、買収額は3,000億円程度です。
買収した企業
買収した企業は、建設機器メーカー最大手の「コマツ」です。当時は、将来的に需要が伸びる坑内掘り機械や大型積込機のラインナップを拡大したいと考えていました。
買収された企業
買収された企業は、北米鉱山機器メーカーの「ジョイ・グローバル社」です。直近の鉱山機器需要の減少を受けて業績が悪化しており、株価もS&P500に大きく劣後していました。
買収までの流れ
コマツは予てから自社の鉱山機器ラインナップを拡張したいと考えており、M&A候補としてジョイ・グローバル社を狙っていました。
こうした状況の中で、ジョイ・グローバル社の株価低迷を受けて、戦略面での適合性だけでなく文化面でも適合するかどうか確かめられたためにTOBを仕掛けました。
TOBのプレミアムは20.5%と比較的低い水準に収まり、事業買収に成功しています。
⑭豊田自動織機による物流ソリューションプロバイダーの事業買収
将来の需要増を睨んで買収を成功させた事例としては、豊田自動織機による物流ソリューションプロバイダーの事業買収も挙げられます。
豊田自動織機は、世界中で1,300億円のビジネスを持つファンダランデ社の買収により、ECによる物流需要増を取り込んで成長することに成功しました。
M&Aが実行されたのは2017年で、買収額は約1,400億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、機械部品やフォークリフトなどで有名な「豊田自動織機」です。
拡大する物流需要を取り込むべく、物流ソリューション事業を次なる柱として成長させたいと考えていました。
買収された企業
買収された企業は、オランダの物流ソリューションプロバイダー「ファンダランデ社」です。世界50か国で物流ソリューションを提供する、グローバルプレイヤーとして知られていました。
買収までの流れ
豊田自動織機は、今後需要が拡大する物流ソリューション事業を次世代の柱として強化していました。日本では順調に成長を遂げていましたが、海外での規模拡大は難しく、海外を拡大する戦略を練っていたのです。
こうした状況の中で、ファンダランデ社売却の話を受けて、物流ソリューション事業の世界展開に向けてM&Aを実行しました。なお、豊田自動織機は本件の直前にも、同領域の米バスティアン社を買収しています。
⑮Amazon.comによる自動倉庫ロボット事業の事業買収
海外企業と海外企業の買収ですが、少し変わった成功事例として、Amazon.comによる自動倉庫ロボット事業の事業買収を紹介します。
これは、自社のバリューチェーンを強化しながら、既存ビジネスの価値向上を狙った事例です。本件事業買収により、Amazon.comは自社のロジスティクスの効率を向上させることに成功しました。
M&Aが実行されたのは2012年で、買収額は約7億7,500万ドルと発表されています。
買収した企業
買収した企業は、ECサイトで世界最大手の「Amazon.com」です。低収益なEC事業の収益改善には、倉庫業務のスマート化が効果的だと考えていました。
買収された企業
買収された企業は、倉庫自動化ロボットや自動マテリアルハンドリング受注処理システムで知られる「Kiva Systems社」です。買収当時から、Walgreenなどの米国の大手チェーンとの契約を抱えていました。
買収までの流れ
買収当時におけるAmazonのEC事業は長年低収益が続いており、値上げをせずに収益改善を図るにはロジスティクス側の効率化が不可欠だと考えていました。
そのため、ロジスティクスの効率化の方法として自動倉庫ロボットの活用も検討していた中で、Kiva Systems社の技術を評価したために買収に至っています。
⑯電通による広告会社の事業買収
サービス業界における有名な成功事例として、電通による広告会社の事業買収が有名です。
本件事業買収により、電通はグローバル企業へのアクセスを獲得しただけでなく、その後の海外における事業展開の中核となり得る企業をM&Aによって獲得できたという好例です。
M&Aが実行されたのは2013年で、買収額は4,090億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、日本の広告業界トップの「電通」です。国内ではトップでしたが、グローバルの需要成長を取り込むためにM&Aを検討していました。
買収された企業
買収された企業は。イギリスの広告会社「イージス社」です。買収当時からデジタル領域に強く、欧州にも強い事業基盤を持っていました。
買収までの流れ
買収当時の電通は日本では盤石な地位を築いていましたが、売上の大部分は国内であったために、事業買収による海外展開を目論んでいました。
少しずつ世界でM&Aを進めていた状況の中で、すでに欧州に強力な顧客基盤を持っているうえに、今後成長するデジタル領域にも強みを持っているイージス社が買収候補として浮上したためにM&Aに踏み切っています。
その後のイージス社は電通の海外事業の母体となり、さらなる海外M&Aの推進に貢献しました。
⑰東京海上日動による保険会社の事業買収
金融系ではクロスボーダーM&A事例が多々見られますが、その中でも成功事例として有名なのが、東京海上日動による米保険会社の事業買収です。
本件事業買収により、東京海上日動は、保険のリスク分散に成功したほか、特定領域に強みを持つHCCインシュアランス・ホールディングスとの共同開発による新商品の組成などを進めています。
M&Aが実行されたのは2015年で、買収額は約9,400億円です。
買収した企業
買収した企業は、日本有数の保険会社である「東京海上日動」です。当時はリスク分散や資本効率の向上に向けて、海外企業の買収を狙っていました。
買収された企業
買収された企業は、米保険会社の「HCCインシュアランス・ホールディングス」です。アンダーライティング能力が高いうえに特定領域に特化しており、競合に比べて高い収益性を実現していました。
買収までの流れ
東京海上日動は海外のポートフォリオ拡大に向けて複数の企業を買収しており、優れた事業ポートフォリオや収益性を持つHCCインシュアランス・ホールディングスに対してもアプローチをかけていました。
こうした状況の中で、HCCインシュアランス・ホールディングスとも合意が取れたためにTOBを仕掛けました。TOBでのプレミアムは、直近株価に対して37.6%と発表されています。
⑱第一生命による生命保険会社の事業買収
生命保険業界での成功事例としては、第一生命による米生命保険会社の事業買収が挙げられます。東京海上同様に、地理的なポートフォリオの拡大や国外での事業拡大などに成功した事例です。
本件事業買収により、第一生命は成長市場である北米市場における事業拡大に成功しています。M&Aが実行されたのは2015年で、買収額は約5,800億円です。
買収した企業
買収した企業は、日本の大手生保会社である「第一生命」です。当時は日本の強い事業基盤に加えて成長市場の北米にも参入しており、事業ポートフォリオを拡大したいと考えていました。
買収された企業
買収された企業は、中堅生保会社の「プロテクティブ社」です。全米50州で生命保険を展開しており、600万人近い顧客基盤を持っていました。
買収までの流れ
買収当時の第一生命は世界最大の市場かつ成長性も高い北米市場への参入を考えており、M&Aによる拡大戦略を考えていました。そこでM&A候補として、上場企業であったプロテクティブ社に目をつけていたのです。
戦略的なフィットの確認後、マネジメント層のケイパビリティを確認したうえで十分なシナジーが見込めると判断したために、プロテクティブ社のTOBに踏み切りました。TOB時のプレミアムは、35%程度と発表されています。
⑲三菱東京UFJ銀行によるタイ大手銀行の事業買収
金融業界の成功事例としては、三菱東京UFJ銀行によるタイ大手銀行の事業買収が挙げられます。電通同様に、海外のローカル企業・グローバル企業を獲得しにくい業界において、M&Aにより海外の顧客を拡大した好例です。
本件事業買収により、三菱東京UFJ銀行は、東南アジアにおける事業母体を獲得しました。M&Aが実行されたのは2013年、買収額は約5,600億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、三菱東京UFJ銀行です。東南アジアにて企業向けのバンキングを行っていましたが、リテールの拡大がうまくいかずに買収によるリテール事業の拡大を狙っていました。
買収された企業
買収された企業は、タイの「アユタヤ銀行」です。タイで5位の商業銀行であり、個人と中小企業に強みを持っていました。
買収までの流れ
当時の三菱東京UFJ銀行は東南アジアでリテール事業を拡大したいと考えており、個人や中小企業に強いアユタヤ銀行の買収に興味を持っていました。
アユタヤ銀行とのシナジーを検討した結果、アユタヤ銀行の既存の事業基盤を活かしてリテール事業を拡大できるうえに、三菱東京UFJ銀行のノウハウによってアユタヤ銀行の法人向け事業を拡大できると判断したために買収に踏み切りました。
⑳ソフトバンクグループによる半導体設計会社の事業買収
国内企業による大型買収の成功事例として外せないのが、ソフトバンクグループによる半導体設計会社の事業買収です。将来の市場トレンドを読みながら、他社に先んじてリスクを取って成功を掴んだ好例だといえます。
本件事業買収により、ソフトバンクグループは、IoT化によって急増する半導体需要の取り込みに成功しました。M&Aが実行されたのは2016年で、買収額は約3兆3,000億円です。
買収した企業
買収した企業は、ソフトバンクグループです。買収以前から将来の市場トレンドを読んだ投資の実行に定評があり、中国のアリババへの出資ではソフトバンクに莫大な富をもたらしました。
買収された企業
買収されたのは、英半導体設計大手の「ARM Holdings plc社」です。半導体の設計を行ってライセンスにより収益を獲得している企業であり、世界中で1,000億個のチップが当社設計のもとで出荷されています。
買収までの流れ
以前よりソフトバンクグループは将来のテクノロジー動向を踏まえて、核となる技術の取り込みに注力しています。このテクノロジーの中心の1つがAIであり、核となる技術を押さえるうえでの主要パーツとして「ARM Holdings plc社」を位置付けたのです。
こうした状況の中で、ソフトバンクグループは、「ARM Holdings plc社」を中心としたエコシステム確立が可能であると確信したために投資を実行しました。本件事業買収はTOBで行われており、プレミアムは43%と発表されています。
㉑オリックスによる会計ソフト会社の事業買収
ここからは国内の成功事例を紹介します。1つ目は、オリックスによる会計ソフト会社の事業買収です。
本件事業買収により、オリックスは、中小企業に強い弥生の会計ソフトを自社の顧客基盤に展開しながら、弥生を大きく成長させました。M&Aが実行されたのは2014年で、買収額は約800億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、金融を中心とするコングロマリットの「オリックス」です。金融を核に幅広い事業ポートフォリオを持っており、常にシナジーを期待できる事業の買収を狙っていました。
買収された企業
買収された企業は、中小向け会計ソフトを手掛ける「弥生」です。PEファンドのもとで、すでに125万の顧客を持っており、安定的な収益を稼いでいました。
買収までの流れ
当時のオリックスは自社の顧客基盤を活かせる事業の買収を模索しており、弥生が買収に出されるという話を受けて買収を検討しました。
結果として、弥生の強固な顧客基盤から生み出されるキャッシュフローの安定性および、自社顧客基盤を活かした弥生の事業拡大を踏まえて十分なリターンが見込めると判断したために事業買収が実施されました。
㉒DeNAによるプロ野球チームの事業買収
大きな話題となったキャッチーな成功事例としては、DeNAによるプロ野球チームの事業買収が挙げられます。DeNAはインターネット事業で得たマーケティングノウハウを活用して、横浜ベイスターズの事業再生を成し遂げました。
まさしく、異業種のノウハウを持ち込んでシナジーを実現した好例です。M&Aが実行されたのは2011年で、買収額は約95億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、ITメガベンチャーの「DeNA」です。ITに限らず、さまざまなチャレンジをしています。
買収された企業
買収された企業は、横浜ベイスターズです。当時の横浜ベイスターズは、TBSの傘下にて業績不振に苦しんでいました。
買収までの流れ
本件事業買収事例は、DeNAに明確な戦略があったというよりも、横浜ベイスターズの売却の話を受けて迅速に事業評価とバリューアップの可能性を検討したために買収の判断を下した点がポイントです。
DeNAは、横浜ベイスターズの事業を見たうえで、自社のブランド価値向上につながる点、培ってきたマーケティングノウハウが活用できる点などを確信したためにM&Aに至りました。
㉓GMOインターネットによるインターネット決済事業の事業買収
IT業界でトレンドを先読みして成功した事例として、GMOインターネットによるインターネット決済事業(現GMOペイメントゲートウェイ)の事業買収が挙げられます。
GMOインターネットはM&Aを立て続けに行い小規模事業者を集めて規模を拡大した結果、インターネット決済で大手の地位に付きました。ロールアップを活用しながら他社より先に事業基盤を築いたという好例です。
最初のM&Aが実行されたのは2004年で、買収額は非公表とされています。
買収した企業
買収した企業は、IT大手の「GMOインターネット」です。古くからM&Aを活用して、インターネット分野における事業参入を進めてきた企業です。
買収された企業
買収された企業は、インターネット決済の「カードコマースサービス」です。その後は、同業のペイメントワンも買収されています。
買収までの流れ
GMOインターネットはEC黎明期からインターネット決済の需要が伸びることを予測しており、インターネット決済事業者のM&Aを考えていました。
当時のインターネット決済市場はフラグメントであり、買収と合併による規模の獲得が優位性につながると判断したために、ロールアップ戦略を取っていたのです。
こうした状況の中でカードコマースサービスやペイメントワンなどを買収して、規模を拡大していきました。
㉔ビックカメラによるソフマップの事業買収
小売業界における成功事例としては、ビックカメラによる中古流通事業者ソフマップの事業買収が有名です。本件事業買収により、ビックカメラでは新品と中古両方の販売が可能となり、幅広い顧客ニーズに対応できるようになりました。
また、ビックカメラは提携を入り口として徐々に出資比率を上げたため、提携を活用したM&A成功事例ともいえます。過半数を取得したのは2006年で、当時の出資額は約20億円です。
買収した企業
買収した企業は、家電量販店大手の「ビックカメラ」です。近年のビックロの事例からもわかるように、古くから小売業態の多様化に力を入れていました。
買収された企業
買収された企業は、中古家電流通の「ソフマップ」です。当時は業績が振るわずに丸紅の出資を受けて再建に取り組んでいましたが、業績が改善していませんでした。
買収までの流れ
当時のビックカメラは、顧客の嗜好の多様化を受けてさまざまな取り組みにチャレンジしていました。丸紅からソフマップとの資本提携を持ち掛けられた際にも、チャレンジの一環として資本提携を開始しています。
こうした状況の中で、提携では取り組みに限界があるうえに、提携を踏まえてバリューアップの戦略が描けたために、過半数の取得に踏み切りました。
その後は買収の効果が出始めたため、2010年に株式交換で完全子会社化しています。
㉕ローソンによる成城石井の事業買収
小売事業者が価格帯別のビークルをうまく拡張した事例が、ローソンによる成城石井の事業買収です。
当時のローソンはナチュラルローソンにより上位の価格帯への進出に成功していましたが、さらに食料品に強く特定の顧客層から支持を得ている成城石井を獲得したことで、幅広い顧客層のニーズを満たせるようになりました。
M&Aが実行されたのは2014年で、買収額は約360億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、ローソンです。コンビニエンスストアとして一定の地位を獲得していましたが、市場成長が見込まれる高級スーパー市場へのプレゼンスが弱く打ち手を検討していました。
買収された企業
買収された企業は、成城石井です。高品質な食品に特化しており、プレミアム化のトレンドを捉えて成長していました。
買収までの流れ
当時のローソンは高成長が見込まれる食品スーパー市場に参入したいと考えていましたが、既存のローソンおよびナチュラルローソンでは参入が難しいと考えていました。
こうした状況の中で、成城石井の売却の話を受けて、市場の成長性およびPB製品の開発によるシナジーなどを踏まえて十分な買収効果が実現できると判断したために買収に至っています。
㉖オイシックスドット大地によるらでぃっしゅぼーやの事業買収
比較的新しい事例ですが、オイシックスドット大地によるらでぃっしゅぼーやの事業買収は、買収額を抑えることでリスクも抑えた成功事例だといえます。
本件事業買収により、オイシックスドット大地は、規模の拡大に成功しました。M&Aが実行されたのは2018年で、買収額は約10億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、高級宅配サービスの「オイシックスドット大地」です。宅配事業であり、規模拡大による効率性の向上を目指して、現在も会員拡大の戦略を取っています。
買収された企業
買収された企業は、同じく高級宅配サービスの「らでぃっしゅぼーや」です。NTTドコモの傘下で事業を展開していましたが、業績が振るわずに苦戦していました。
買収までの流れ
当時のオイシックスドット大地は、積極的な顧客獲得戦略を取っていました。既存の定期購買客の獲得に加えて物流の効率化などにもつながる「らでぃっしゅぼーや」の買収は、オイシックスの戦略と合致していたのです。
そこでオイシックスドット大地は、らでぃっしゅぼーやの事業を入念に評価してシナジーなどを検討したうえで約10億円にてM&Aを行いました。
もともとNTTドコモがらでぃっしゅぼーやを買収した際の価格は69億円と報告されていることから、10億円は割安な買収といえます。
㉗楽天によるネット銀行の事業買収
事業買収を活用して自社を中心とするエコシステムの構築に成功した事例として、楽天によるネット銀行の事業買収が挙げられます。
楽天は予てより買収していたクレジットカード事業に加えてネット銀行事業も獲得して、ECと金融を軸に顧客を囲い込む「楽天経済圏」を確立しました。早期から青写真を描いて、戦略的にM&Aを進めた好例です。
過半数を取得したのは2009年で、出資額は約199億円と発表されています。2010年には99億円を追加で投入して、完全子会社化しました。
買収した企業
買収した企業は、国内EC大手の「楽天」です。顧客の生活に関するサービスをすべて揃えることで、顧客を囲い込む戦略を取っていました。
買収された企業
買収された企業は、ネット銀行大手の「イーバンク銀行」です。ネット専業銀行ではトップの300万口座を持っていましたが、収益は赤字でした。
買収までの流れ
楽天は予てからECを軸にして顧客の必要な商品・サービスを提供しつつ、消費の大元である金融も抑えることで顧客を囲い込む戦略を描いており、一環としてネット銀行の買収を狙っていました。
当時のイーバンク銀行は赤字でしたが、楽天の既存顧客とイーバンク銀行の既存顧客を相互に送客して得られる効果で十分なリターンが見込めると判断したために買収に至りました。
㉘ソフトバンクによるイー・アクセスの事業買収
既存のビジネスを守るために事業買収を活用した事例として、ソフトバンクによるイー・アクセス(現ワイモバイル)の事業買収が挙げられます。
本件事業買収により、ソフトバンクは、低価格帯のサービスを入手して、ソフトバンクモバイルにおける値下げを回避しながら既存事業の収益毀損を抑えました。
M&Aが実行されたのは2013年で、買収額は約1,800億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、国内通信サービス大手の「ソフトバンク」です。当時は格安SIMの登場や値下げ圧力のトレンドに対して、既存の携帯電話サービスを守る必要がありました。
買収された企業
買収された企業は、同じく通信事業者の「イー・アクセス」です。420万回線の顧客を持つと同時に、LTE通信網で使用される1.7ギガヘルツの周波数帯の利用権を持っていました。
買収までの流れ
当時のソフトバンクは低価格帯サービスの獲得や4Gによる通信料の増加への対応などの観点から、イー・アクセス買収に向けてアプローチをかけていました。
最終的に、直近株価の3倍以上の価格で株式交換を行いますが、サービス網の拡張や通信網の相互利用によるシナジーで十分にリターンが見込めると判断したために決断しています。
㉙鴻海精密工業グループによるシャープの事業買収
次は、外国企業が日本企業を買収した事例を見ていきましょう。台湾の鴻海精密工業グループによるシャープの事業買収は国内でも相当な議論がありましたが、シャープは無事にV字回復をしたため成功事例といえます。
M&Aが実行されたのは2016年で、出資額は約3,888億円です。
買収した企業
買収した企業は、電子機器などの受託製造で世界トップを走っている台湾の「鴻海精密工業グループ」です。当時は、受託製造だけでなく自社で企画製造を行う消費者向けブランドを獲得したいと考えていました。
買収された企業
買収された企業は、国内電機メーカー大手の「シャープ」です。長年赤字に苦しんでおり、経営再建がなされなければ倒産するという状況に追い込まれていました。
買収までの流れ
消費者向けの強いブランドを獲得したいと考えていた鴻海精密工業グループは以前からシャープに注目しており、2012年に一度出資をしようとしましたが契約には至りませんでした。
そのため、2016年のシャープの経営危機は、鴻海精密工業グループからすると、再度アプローチをかけるチャンスとなったのです。鴻海精密工業グループは、デューデリジェンスを行いながら、財務健全化・ブランドの強化・コスト削減などによって十分な再建が見込めることを確信したために出資を決断しました。
なお、本件事業買収事例では、デューデリジェンスの過程で偶発債務の存在が明らかになっており、買収額を調整するといった手続きも見られています。
㉚ハイアールによる三洋電機の事業買収
最後に紹介する成功事例は、ハイアールによる三洋電機の事業買収です。本件事業買収により、ハイアール三洋電機の白物家電にアクアのブランドを投入して、日本市場での巻き返し・アジアでのシェア拡大などに成功しています。
三洋電機からすると、十分な投資が得られなかったパナソニック傘下からハイアール傘下に変わったことで、活気を取り戻して積極的な製品開発ができるようになりました。
M&Aが実行されたのは2011年で、買収額は約100億円と発表されています。
買収した企業
買収した企業は、中国の家電大手である「ハイアール」です。当時から日本市場に製品を投入していましたが、国産の壁が高くシェアを伸ばしきれずにいました。
買収された企業
買収された企業は、パナソニック傘下にあった「三洋電機」の白物家電事業です。当時はパナソニックと完全統合しないままであり、パナソニックと重複する事業では十分に投資がされないなど中途半端な状態に陥っていました。
買収までの流れ
ハイアールは、予てから三洋電機と家電の開発や製造で協業関係にありました。その一方で、2009年のパナソニックの三洋電機買収後は、三洋の家電事業がパナソニック本体の家電事業と重複するために、売却が模索されていたのです。
ハイアールは、日本ブランドの取得が全社のポートフォリオ強化につながると判断したために、三洋電機の家電事業の買収を決めました。
6. 事業買収の成功・失敗を左右する要因
最後に、事業買収の成功・失敗を左右する要因について解説します。
もともと事業買収M&Aは失敗する可能性も高いですが、主な失敗要因は以下のとおりです。
- 相手側の信用力が低かったため
- 事業買収後にリスク・トラブルが発生したため
- 無計画のもとで事業買収を実施したため
- 事業買収のタイミングが悪かったため
- 相手企業の文化などを尊重しなかったため
以上のように、事業買収では、押さえておくべきポイントが非常に多いです。ポイントの把握・実施を怠って上記の中で1つでも該当する事項を生み出してしまえば、即座にM&Aの失敗につながるおそれが大いにあります。
事業買収における成功要因を満たして失敗要因を回避するためにも、専門家からアドバイス・サポートを受けながら手続きを進めるようにしましょう。
7. まとめ
本記事では、事業買収の成功事例30選を中心に紹介しました。
さまざまな事例を紹介しましたが、概して共通する点は、以下の3つです。
- 買収の目的(既存事業の強化、新事業・顧客・技術の獲得など)が明確である
- デューデリジェンスや経営者との対話を経て目的の達成を確信している
- 戦略の実現のために買収後の統合やコミュニケーションに成功している
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