2023年12月25日更新
段ボール業界のM&A動向!売却・買収の事例、ポイントも解説【2022年最新】
近年の段ボール業界では、大手による業界再編・海外企業の買収をはじめ、M&Aによる買収・売却事例が多く目立ちます。本記事では、段ボール業界の動向からM&A・売却・買収の事例までを、2022年最新の情報をもとにまとめました。
目次
1. 段ボール業界とは
段ボール業界とは、段ボールの製造・販売を事業とする業界のことです。段ボールだけでなく、ふすま紙・紙製容器など加工紙一般を手掛けている企業も多くあります。
段ボール業界の特徴
この章では、段ボール業界の現状を解説します。段ボール業界の概要を知りたい方向けに、段ボール業界の特徴などをまとめました。
- 段ボール業界は一貫製造業者と個別製造業者に分かれる
- 大手と中小企業により業務が分かれる
- 商流は3段階に分かれる
- 梱包用としての需要がメイン
- 国内需要が堅調な業界
それぞれの項目を順番に見ていきましょう。
段ボール業界は一貫製造業者と個別製造業者に分かれる
段ボール業界は、紙を作る工程から加工・販売までを一貫して行う「一貫製造業者」と、特定の工程だけを担う「個別製造業者」に分かれます。個別製造業者の代表例は、段ボール紙を製造する「シートメーカー」や、段ボール紙を加工して段ボール箱にする「ケースメーカー」などです。
大手と中小企業により業務が分かれる
一貫製造業では設備投資が高くなる傾向にあります。一般的には、大企業が一貫製造業者を、中小企業が個別製造業者を担うケースが多いです。
上記のように、大手企業と中小企業で業務が明確に分かれやすい点が、段ボール業界の特徴といえます。
商流は3段階に分かれる
段ボール業界は、商流により3段階に分かれるのが特徴です。このうち最も川上に位置するのは、ロール紙製造の原紙メーカーです。代表的な企業としては、王子製紙・日本製紙などの大企業があります。
続いて位置するのは、これらの原紙メーカーから仕入れたロール紙でダンボールのシートを製造するシートメーカーです。この段階には、準大手級の企業が全国に数百社ほど存在します。
最後に位置するのは、上記のシートメーカーから仕入れたシートに社名・商品名を印刷するほか、切込みを入れて組み立てやすくするボックスメーカーです。この段階には、全国に多数の企業が存在します。
上記で説明した構造は、川上に位置するほど高い優位性を持つ点が特徴的です。これに対して、ボックスメーカーではシートの仕入れ価格が会社の収益に直結するため、たとえ単価が1円上下するだけでも業績に大きな影響が及んでしまいます。
とはいえ、上記のような企業では専門分野に特化した事業展開を得意としており、独自の強みを持っていることも多いです。
梱包用としての需要がメイン
段ボール製品には段ボールを使用した本棚・小物などもあるものの、ほとんどの需要は梱包用です。梱包用の段ボール製品は、飲料および食品用・家電用・医療品用など、入れる物により製造方法が変動します。
国内需要が堅調な業界
近年の段ボール業界は、ネットショップの増加・オリンピック需要などの影響により、国内需要が堅調です。しかし、コスト増加により大手も値上げに踏み切っており、業界自体は苦しい状況が続いています。品質で差をつけることが難しい製品であるため、価格競争に陥りやすい点はネックです。
段ボール業界の市場環境
日本の段ボールの生産量は2020年では約150億平方メートルで、2009年以降、年平均1%程度の成長率を保って推移しています。業界シェア上位4社による売上高の合計は、2018年では9,000億円以上で、正規従業員数は2万2,000人以上です。
矢野経済研究所の「段ボール市場に関する調査を実施(2023年)」によると、段ボール市場は2023年に入っても需要は低迷が続いています。さらに、回復が期待されたンバウンド需要は回復しているものの、モノ消費からコト消費に以降している影響もあり、段ボール需要にはまだまだ繋がっていないのが現状です。
2022年秋以降、原料である段ボール古紙の市況が下落しています。このように今後段ボール原紙市況が弱腰になってしまうと、それに伴い段ボール製品市況にも波及することが懸念されます。
段ボール業界の課題・展望
段ボールの原価には原材料費、燃料費、運送費が含まれています。近年、すべての費用が増加し、原価率が高まっていることが段ボール業界の課題です。
米中貿易摩擦の影響で、段ボールの原材料となる古紙への需要が増し、原材料費が上昇しています。ほかにも、原油高により燃料費がかさんでいることも課題に挙げられます。
運送費が上昇しているのは、個人向けインターネット通販の荷物の需要に、運送会社の供給が追いついていないためです。現在は段ボール価格の値上げなどで対処しているこれらの課題をどう克服するかによって、段ボール業界の将来は変わっていくでしょう。
2. 段ボール業界のM&A・売却・買収の動向
現時点で段ボール業界のM&A・売却・買収はそれほど活発ではありません。しかし、大手による海外企業のM&Aなど、段ボール業界に特徴的な動向も見られます。この章では、段ボール業界のM&A動向をまとめました。
- 大手による再編も落ち着いている
- 海外M&Aが増加中
それぞれの項目を順番に見ていきましょう。
①大手による再編も落ち着いている
近年の段ボール業界では、大王製紙・日本製紙・レンゴーなどによる大規模な再編が行われていました。しかし、2020年に入り、再編の動きが落ち着いてきています。
②海外M&Aが増加中
近年の段ボール業界では、海外企業のM&Aが活発に行われています。段ボールの国内需要は今後も急激に伸びることはないと考えられるため、海外需要を見込んだ事業展開を行う企業が増加中です。
3. 段ボール業界のM&A・売却・買収の事例
この章では、段ボール業界におけるM&A・売却・買収の実際の事例を取り上げて解説します。段ボール業界におけるM&A・売却・買収では、大手企業による買収・海外企業の買収事例が多い点が特徴的です。
①レンゴーによるヴェルヴィン・コンテナーズの買収
2023年11月、レンゴーはヴェルヴィン・コンテナーズの株式の3割を取得しました。
レンゴーは、あらゆる産業の全ての包装ニーズに積極的に働きかける段ボール・板紙・包装の最大手の企業です。ヴェルヴィン・コンテナーズ社は、インドに拠点を置く段ボールメーカーです。インドはまだまだ段ボール市場の伸長が期待できる市場と判断し、M&Aを実施しました。
今回のM&Aにより、インド市場に参入しグローバル展開を図ります。
②大王製紙による吉沢工業の買収
2022年4月、大王製紙は、子会社である大王パッケージが、新潟県に拠点を置く吉沢工業の全株式を取得し、子会社化することを発表しました。吉沢工業は、段ボールシートや段ボールケースの製造販売を行う会社です。
国内14番目のダンボールシート生産拠点として、大王パッケージの営業力や生産ノウハウを活用することによる競業や収益力の強化などが期待されます。
吉沢工業がグループ化されることで、段ボール原紙の販路拡大や生産性を向上させるだけでなく、取引先の業態や品ぞろえなどの拡大により、段ボール事業の成長を加速させ、企業価値向上を実現し、さらなる事業拡大に取り組んでいくとしています。
③レンゴーによるヒロパックスの買収
2022年2月、レンゴーは群馬県高崎市を中心に4カ所の拠点をもつヒロパックスの発行済株式をすべて取得し、子会社化しました。ヒロバックスは、段ボールケース・プラスチック真空成形品・シール印刷物の製造販売を行っています。電子部品や食品などの業界に確固たる顧客基盤を築いている会社です。
レンゴーは、ヒロパックスと近隣の直営工場・グループ会社との営業面・開発面での連携を強化し、化成品、ラベル・シール事業を活用した幅広い包装ニーズに応えるとともに、関東地域におけるダンボール事業のさらなる拡充を図っていくものとしています。
④ラクスルによるダンボールワンの完全子会社化
2022年2月、ラクスルはダンボール・梱包材専門通販ECサイトとして4年連続の国内売上シェア第1位を獲得したダンボールワンの株式を追加取得し、完全子会社化しました。
ラクスルはセグメントの成長戦略として、オフィス・産業資材への印刷領域の拡張を推進しています。当該領域におけるサービスとの相乗効果を目的に、2020年12月、ダンボールワンを関連会社化していました。
ダンボールワンのより一層の事業拡大への期待と、ラクスルセグメントの今後の成長から、企業価値最大化に資すると判断しました。
⑤ダイナパックによる小倉紙器の買収
2019年12月、段ボールなどの包装資材の製造、販売を手掛けるダイナパックは、特徴のある段ボール、紙製品の製造販売を行う小倉紙器の株式をすべて取得し、完全子会社化しました。取引価格は未公表です。
本件M&Aにより、ダイナパックの企業価値の向上が可能とされています。
⑥レンゴーによる武田紙器の買収
2019年8月、板紙・段ボールを中心に紙製の包装資材を製造・販売するレンゴーは、武田紙器の発行済株式をすべて取得し、子会社化しました。武田紙器は、千葉県柏市を拠点に持つケースメーカーです。
本買収は、グループ内の連携強化と、関東地区における段ボール事業のさらなる拡充、SP事業の拡大を目的に行われ、買収額は非公開とされています。
⑦トーモクによるタイヨーの買収
2019年1月、段ボール・紙器製造のトーモクは、タイヨーの株式をすべて取得し、完全子会社化しました。タイヨーは、神奈川県厚木市で段ボール事業を中心に行っています。化粧品・製菓・事務機器などの優良メーカーが得意先です。
本買収は、グループ内の連携を一層強化し、南関東エリアにおける事業拡大を目的に行われました。買収額は非公開とされています。
⑧日之出紙器工業によるM&A
2018年11月、日之出紙器工業は、博多段ボールの株式70%を取得し、子会社化しました。博多段ボールは、段ボールケースの製造・販売会社です。本買収は、九州地区の販売力強化を目的に行われ、取得価額は非公表とされています。
⑨トーモクによる遠州紙工業の買収
2018年11月、段ボール・紙器製造業者のトーモクは、同じく段ボール・紙器製造業者である遠州紙工業の全株式を取得し、完全子会社化しました。買収額は非公表です。本買収は、静岡西部地区の販売強化を目的として行われました。
⑩ダイナパックによるマレーシアの段ボールメーカーのM&A
2018年10月、段ボールメーカーのダイナパックは、マレーシアの段ボールメーカーGRAND FORTUNE CORPORATIONの全株式を取得し、完全子会社化しました。買収額は非公表です。本買収は、段ボール製造機能の獲得による事業拡大を目的に行われました。
⑪トライウォール社によるローズウッドの買収
2018年10月、レンゴーの連結子会社である香港のトライウォール社は、イギリスの重量物包装資材メーカー「ローズウッド・マニュファクチャリング・ホールディングス」の株式51%を取得し、子会社化しました。本買収は、イギリスでの事業拡大を目的に行われ、取得価額は非公表です。
⑫レンゴーによるトッパンコンテナーの買収
2018年3月、レンゴーはトッパンコンテナーを株式取得により子会社化すると発表しました。本買収は、トッパンコンテナーが所有する段ボール工場の獲得を目的に行われ、株式の取得価額は約50億円です。
⑬王子HDと三菱製紙の資本提携
2018年2月、王子HDは、三菱製紙の総議決権数の33%にあたる株式を取得し、資本提携契約を結びました。海外における販売拠点の獲得などを目的とする提携であり、取得価額は約76億円です。
⑭レンゴーによる杉井工業所の買収
2017年9月、レンゴーは、千葉県を拠点とする杉井工業所の株式をすべて取得し、完全子会社化しました。杉井工業所は、段ボールケースメーカーです。本買収は、同地域における販売強化を目的としており、買収額は非公表です。
⑮トライウォール社によるTPMSポーランド社の買収
2017年7月、レンゴーの連結子会社である香港のトライウォール社は、TPMSポーランド社の株式58%を取得し、子会社化すると発表しました。これはヨーロッパでの事業拡大を目的に行われたM&Aであり、取得価額は非公表です。
⑯タイ・コンテナーズ・グループ社によるインドコル・パッケージング・チカラン社の買収
2017年4月、レンゴーの合弁会社タイ・コンテナーズ・グループは、インドネシアのインドコル・パッケージング・チカラン社の株式を80%を取得し、子会社化しました。このM&Aは、インドネシアでの販売強化を目的に行われました。取得価額は非公表です。
⑰日本製紙USAによるMcKinley Paper Companyへの事業譲渡
2017年3月、日本製紙は、連結子会社の日本製紙USAの事業を「McKinley Paper Company」へ譲渡すると発表しました。北米市場から撤退し事業を選択・集中させることが目的であり、売却額は1ドルです。
4. 段ボール業界のM&A・売却・買収の相場
段ボール業界は堅調な業界であるため、M&A・売却・買収の相場は、他業種とそれほど変わりません。シナジー効果が比較的わかりやすく、リスク要因が少ないため、企業価値評価を行いやすい業界でもあります。
5. 段ボール業界のM&A・売却・買収のメリット
この章では、段ボール業界のM&A・売却・買収のメリットを、売却側・買収側に分けて詳しく見ていきます。
売却側
段ボール業界のM&A・売却・買収で、売却側が得られるメリットは以下の5つです。
- 従業員の雇用確保
- 後継者問題の解決
- 売却・譲渡益の獲得
- 大手企業の中で経営安定
- 個人保証・債務・担保などの解消
それぞれのメリットを順番に見ていきましょう。
従業員の雇用確保
会社を廃業すると、従業員は職を失いますが、M&Aで売却すれば従業員の雇用を確保できます。
後継者問題の解決
後継者が不在であるがために、業績が好調にもかかわらず、会社を廃業してしまうケースは非常に多く見られます。子供など親族に後継者がいない場合でも、M&Aであれば親族以外からも後継者を見つけられるでしょう。
売却・譲渡益の獲得
新しい事業のための資金調達や、リタイヤ後の生活資金に向けて会社を売却するのも有効な方法です。M&Aで会社を売却すれば、譲渡益を獲得できるだけでなく、廃業費用の節約にもなります。
大手企業の中で経営安定
中小規模の段ボール会社は、苦しい経営を強いられているケースもあります。こうしたケースでは大手企業に売却して経営基盤を安定させるのも有効な解決策の一つです。ただし、子会社になると独立性が失われるため、メリット・デメリットは慎重に見極める必要があります。
個人保証・債務・担保などの解消
個人保証や債務・担保を解消できるのも、M&Aによる売却のメリットの一つです。個人保証や債務・担保は経営面だけの課題ではなく、経営者からすると心理的な負担も少なくありません。ストレスや負担から解放されたい理由で会社を売却するのも、決して悪くない選択肢です。
買収側
段ボール業界のM&A・売却・買収で、買収側が得られるメリットは以下の5つです。
- 従業員の確保
- 必要な事業を獲得して効率アップを図る
- 新規事業へ低コストで参入
- 顧客・取引先・ノウハウなどの獲得
- 地域性の強い業界で事業エリアの拡大
それぞれのメリットを順番に見ていきましょう。
従業員の確保
自社でゼロから従業員を教育し優秀な人材に育てられることが最善ですが、現実的には難しい側面もあります。M&Aで優秀な人材を持つ企業を買収すれば、買収先の企業で働いている従業員を獲得可能です。
必要な事業を獲得して効率アップを図る
段ボール事業は、製造・加工・販売など多くのプロセスで成り立っています。M&Aで会社を買収すれば、必要な事業を獲得して効率アップを図れるでしょう。
新規事業へ低コストで参入
新規事業に低コストで参入できる点も、M&Aで会社を買収するメリットの一つです。たとえゼロから事業を立ち上げるのは難しい場合でも、M&Aなら積極的に事業を拡大できます。
顧客・取引先・ノウハウなどの獲得
買収する企業が築き上げた顧客・取引先・ノウハウなどを獲得できる点も、M&Aによる買収の大きなメリットです。
地域性の強い業界で事業エリアの拡大
段ボール会社の中には、特定の地域を強みにしている企業も多く存在します。こうした企業を買収すれば、短期間での事業エリア拡大も可能です。
6. 段ボール業界のM&A・売却・買収の成功ポイント
段ボール業界でM&A・売却・買収を成功させるには、以下のポイントを押さえて行うことが重要です。
- 需要拡大を図る意味で海外M&Aに視野を向ける
- 必要な事業・分野などを獲得すること
- 事業計画やM&A戦略を立てる
- 簿外債務などを事前に把握すること
- 会社売却の専門家に相談すること
それぞれのポイントを順番に見ていきましょう。
①需要拡大を図る意味で海外M&Aに視野を向ける
段ボール業界では、国内需要は落ち着いていますが、海外ではまだまだ大きな需要を持つ地域も存在します。こうした需要が見込める地域・国へいち早く事業展開できれば、収益拡大の足がかりとなるでしょう。
②必要な事業・分野などを獲得すること
段ボール業界では中小規模の個別製造業者が多いです。個別製造業者にはそれぞれ必要な事業・分野があります。必要な事業・分野をM&Aで獲得すれば、短期間で安定した経営基盤を得られます。
③事業計画やM&A戦略を立てる
M&Aにはさまざまな手法があるため、ふさわしい手法を吟味しながら最適なM&A戦略を立てることが重要です。明確な事業計画があれば、売買相手も見つかりやすくなり、後の事業展開をスムーズに進められます。
④簿外債務などを事前に把握すること
M&Aで会社を買収する際は、デューデリジェンスを念入りに行い、簿外債務などのリスクがないか事前に把握しておくことが重要です。
⑤会社売却の専門家に相談すること
M&Aによる売却・買収は自力ですべて行うことも不可能ではありません。しかし、M&A仲介会社などの専門家に相談した方が安心・スムーズな取引を目指せます。サポートを受けながら進めていくと良いでしょう。M&A仲介会社などの専門家に任せることで、本業への支障も最小限に抑えられます。
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7. 段ボール業界のM&A動向まとめ
近年における段ボール業界のM&Aは大手の再編や海外進出を目的とした事例が多いです。中小企業にとってもM&Aは有効な手段だといえます。
特定地域への販路拡大や施設・人材の獲得など、多くのメリットがあるM&Aを活用すれば、会社のさらなる成長が可能です。
8. 段ボール業界の成約事例一覧
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