2022年07月26日更新
社員や従業員に株式譲渡する場合の流れやリスクを解説!その後の対応も
本記事では、会社の社員や従業員に対して株式譲渡する場合の流れを解説します。社員・従業員への株式譲渡はどのような流れで進められるのか知りたい方はご参考ください。あわせて、社員・従業員への株式譲渡に関するリスクも解説します。
目次
1. 株式譲渡とは
今回は、会社の社員や従業員に対して株式譲渡する場合の流れや、社員・従業員に株式譲渡する際に発生し得るリスクを解説します。これから自社の社員や従業員に株式譲渡を実施しようと考えている方は、ぜひご参考ください。
まずは、株式譲渡の概要を解説します。株式譲渡とは、M&Aスキームの1つです。M&Aの売り手側企業の株主が保有する株式を、買い手側に譲渡することによって会社の保有権・経営権を譲り渡すM&A手法を、株式譲渡と呼んでいます。
「株式譲渡」の方法
この株式譲渡は、手続きが簡単であるために、広く活用されているM&A手法の1つです。株式譲渡を実施する際は、主に以下の3つの手法が活用されます。
- 公開買い付け(TOB)
- 市場買い付け
- 相対取引
公開買い付け(TOB)
株式譲渡の譲渡側が株式を取得する方法の1つに、公開買い付け(TOB)があります。公開買い付け(TOB)とは、譲渡側が公開取引市場を利用せずに株式を収集する方法です。
公開買い付け(TOB)を実施する譲渡側は、集める株式の数や買い付け価格、買い付け期間などを、公告や個別的な通知を利用して株主に知らせます。条件に賛同した株主が株式を売却することで、買い手側は株式を取得できる仕組みです。
なお、公開買い付け(TOB)は、敵対的買収の手法の1つとして利用されることも多いでしょう。
市場買い付け
株式譲渡の譲渡側が上場企業である場合、公開取引市場から株式を買い集めることで、株式譲渡によるM&Aを実行できます。
市場買い付けによる株式譲渡は、公開取引市場における流通量が多いため、短期間で株式を集めることが容易です。その一方で、株式を短期間で大量に買い取るために、株価が上昇するデメリットがあります。
譲渡側企業の株式の過半数を取得する場合、この手法は適しません。
相対取引
相対取引とは、株式を保有する株主と直接交渉することで、株式譲渡を実現する手法です。非上場企業の場合、株式が公開市場に流通していないため、この「相対取引を利用して株式を買い取る必要があります。
非上場の中小企業であれば、社長・経営者が過半数の株式を保有しているケースが多いでしょう。その場合、社長・経営者との交渉だけで株式譲渡を成立させられます。しかし、株主が分散している状態では、株式譲渡の手続きが長引いてしまうおそれもあります。
「株式譲渡」のメリット
M&A手法には、株式譲渡のほかにも事業譲渡や会社分割など、さまざまなスキームがあります。この中で株式譲渡を選択するメリットには、主に以下の内容が挙げられます。
- 手続きが簡単
- 株式譲渡後も会社は存続する
- 創業者利益を多く獲得できる
- 後継者問題を解決できる
手続きが簡単
株式譲渡は、その他のM&A手法と比べて、手続きを簡単に済ませられるメリットがあります。
株式譲渡を実施する際は、取締役会や臨時株主総会で承認を獲得し、株主名簿を書き換えるだけで手続きが完了します。株式譲渡側が従業員や債権者、取引相手から個別に承認を得る必要がありません。M&A手続きにかかる費用や時間も削減できます。
株式譲渡後も会社は存続する
株式譲渡のメリットの1つに、株式譲渡を実施した後も会社が存続する点が挙げられます。株式譲渡では、会社の経営権が移転するのみであるため、会社自体は残り続けます。
会社の契約関係もほとんど変わることがありません。その会社に勤める従業員・社員の雇用を維持できるため、安心して仕事を続けてもらえます。
創業者利益を多く獲得できる
株式譲渡のメリットの1つに、創業者利益を多く獲得できる点も挙げられます。株式譲渡のスキームを利用し、その会社の創業者が会社を売却する際、売却代金にのれん代が上乗せされます。
のれん代とは、営業権と表現されることもあり、会社独自のノウハウ・技術などの目に見えない資産価値のことです。
株式譲渡の手続き過程で、株式譲受側・買い取り側がのれん代を評価した場合、のれん代が売却価格に反映されます。その分、売却側が受け取る金額を増やすことが可能です。
後継者問題を解決できる
株式譲渡のメリットとして、後継者問題を解決できる点も挙げられます。
特に近年の中堅・中小企業の多くは、後継者問題に直面しています。経営者の高齢化と人材不足が相まって、会社・事業を後継者に引き継ぎたいものの、後継者がいないためにやむを得ず廃業してしまうケースが多く見られるでしょう。
株式譲渡を実施し、会社の経営権を他者に譲ることで、後継者問題を解消し、自社の従業員・社員の雇用の確保が可能です。
2. 社員・従業員への株式譲渡の目的
株式譲渡のM&A手法は、自社の社員・従業員に対しても行えます。会社の社員・従業員に株式譲渡を実施する目的には、主に以下の内容が挙げられます。
- 事業承継
- 意識の向上
- 福利厚生の一部
①事業承継
会社の社員・従業員に株式譲渡する目的の1つに、事業承継が挙げられます。先述したとおり、近年では多くの中堅・中小企業で経営者の高齢化が進みました。
高齢になった経営者は、これまで自分が育ててきた会社を存続させるために、信頼できる後継者に自社の事業を承継しようと考えます。これが事業承継です。
事業承継を成功させることで、経営者自身が引退しても会社を存続できます。
事業承継の後継者として選出される人材は、経営者が会社を任せられる・信頼できる人材であり、これまで一緒に働いてきた社員・従業員であるケースも多いです。そこで、社員・従業員に事業承継する際に、株式譲渡を実施することがあります。
②意識の向上
会社の社員に対して株式譲渡を行う目的の1つに、意識の向上があります。近年、特に中小企業では、自社の株式の一部を社員・従業員に保有させ、社員に対して会社経営への参画、会社を成長させる意識の向上などを図る会社があります。
株式を渡された社員にとっては、自身がさらに会社の成長につながる働きをすることで、自分が保有する株式の価値も高まることから、仕事に対するモチベーションが上がるでしょう。
経営者にとっても、社員の経営に対する意識が向上することで、よりスムーズな会社の成長を期待できます。
③福利厚生の一部
会社によっては、福利厚生の一部として、社員・従業員に株式を譲渡するケースもあります。この場合も、社員の仕事に対するモチベーションを高める効果が期待できます。
3. 社員・従業員への自社株譲渡方法
社員・従業員に対して自社株を譲渡する方法としては、主に以下の2種類が用いられます。それぞれ解説します。
- 報酬として自社株を渡す
- 従業員持株会社として譲渡する
①報酬として自社株を渡す
社員・従業員に自社株を譲渡する方法の1つが、報酬として自社株を渡すことです。近年では株式報酬制度を採用し、自社株を社員や役員に直接譲渡するケースも増えています。
事前に決めておいた価格で自社株を購入できる権利(ストックオプション)を社員に支給するケースもあります。
②従業員持株会社として譲渡する
会社が自社の社員・従業員に対して自社株を保有させる制度である従業員持株会を設置することで、社員に対して自社株を譲渡するケースもあります。上場企業では、社員・従業員に対する福利厚生として従業員持株会を設置することが多いでしょう。
4. 社員・従業員への株式譲渡における問題点
たとえ将来的に社員に株式譲渡を行うつもりでも、スムーズに手続きを済ませられるとは限りません。例えば、経営者にふさわしい人材がいない、借金や担保承継できない、株式買取のため資金力不足といった課題をクリアする必要があります。本章では、これらの問題点を詳しく解説します。
後継者にふさわしい人材がいない
株式譲渡は、相手側に会社の経営を任せることを意味する行為です。もともと社員としては優秀な人材であっても、経営者としての適性があるとは限りません。経営者になる場合、対人関係スキルや経営センスなど広範囲のスキルが求められます。経営者としてふさわしい人材を見つけるのは非常に困難です。
負債・担保を承継できない
多くの中小企業では、会社の借入金を経営者個人が連帯保証していますが、事業承継にあたって、この連帯保証も引き継ぎます。連帯保証を引き継ぐことは、仮に会社の経営に失敗した場合に個人で返済しなければならないことを意味します。
とりわけ家族を抱えている社員からすると、好んでリスクを取る人は少ないでしょう。跡を継いでくれる社員がいるにもかかわらず、連帯保証の引き継ぎができない場合、前の経営者が引退後も引き続き個人保証を抱える形を取るのが一般的です。
株式買取の資金力不足
株式譲渡にあたって会社の経営権を引き継ぐ場合、自社株式を前の経営者(オーナー)から買い取る必要があります。しかし、株式を買い取るほどの資金力を持つ社員は少ないのが実情です。平均的な収入の社員では、株式を買い取ることが非常に困難といえます。
5. 社員・従業員への株式譲渡の流れ
ここからは、上記で紹介した2種類の方法で、社員・従業員に自社株を株式譲渡する際の流れを解説します。
報酬として自社株譲渡を行う場合
まずは報酬として自社株譲渡を行う場合の流れを説明します。この流れ自体は比較的シンプルで、以下のとおり進みます。
- 株価算定を行う
- 株式譲渡を実行
株価算定を行う
報酬として自社株を社員に譲渡する場合、まず株価算定を行います。非上場株式を社員に譲渡する場合は、原則的評価法もしくは配当還元法と呼ばれる株価算定方法を用います。
もしも社員・従業員に譲渡する自社株の割合が3%程度と低めであれば、配当還元法で株価算定を行いましょう。なぜなら、配当還元法の方が安い株価算定が可能であるためです。
株式譲渡を実行
譲渡する自社株の株価算定が完了したら、株式譲渡を実行しましょう。報酬の形で自社株を社員・従業員に譲渡することで、社員の意識向上や経営への参画などが期待できます。
従業員持株会を設置して譲渡する場合
続いて、従業員持株会を設置して、自社株を譲渡する場合の流れを解説します。この場合、以下の流れで譲渡が進みます。
- 株式譲渡を行う社員・従業員の範囲を決定
- 規約などを作成する
- 社員・従業員への説明会を開く
- 株式譲渡の実行
株式譲渡を行う社員・従業員の範囲を決定
まずは、従業員持株会の制度により、株式譲渡を行う社員・従業員の範囲を決定します。
通常、会社には、正社員、パート・アルバイト、役員など、さまざまな形態の従業員が在籍しています。しかし、従業員持株会の制度への参加資格を有するのは、正社員と子会社の社員のみです。その他の会社関係者には、参加資格がありません。
規約などを作成する
続いて、自社株を譲渡するにあたり、規約を作成して従業員持株会の体制を整えます。具体的には、入会・退会、拠出金、奨励金、株式の購入、株式の引出・名義書換、退会時の持分生産などの項目を明記します。
社員・従業員への説明会を開く
規約を作成したら、社員・従業員への説明会を開いて、従業員持株会に関する規約・内容の説明を行います。この段階で、従業員持株会に参加を希望する従業員・社員を募ります。
株式譲渡の実行
ここまでの準備が整ったら、従業員持株会による自社株譲渡の実行です。従業員持株会に参加している社員・従業員は、毎月一定額が給与から天引きされ、その天引きされた会員全員の金額を用いて、株式を共同購入します。
その後、買い付けた株式は拠出金額に応じて分配します。従業員持株会の会員であれば、奨励金や配当金の獲得が可能です。
上記のように、社員・従業員に株式譲渡を行う流れは複雑です。安全に株式譲渡を進めたい場合は、M&AのプロであるM&A仲介会社を利用しましょう。
M&A総合研究所では、M&A実績が豊富なアドバイザーがM&Aの手続き・流れのフルサポートを行います。M&A総合研究所の料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を受け付けていますので、お気軽にお問い合わせください。
6. 社員・従業員への株式譲渡のリスク
ここからは、会社の社員・従業員に対して株式を譲渡する際に起こり得るリスクを解説します。自社の社員に株式を譲渡することを検討されている方や、自社の株式を取得しようと考えている方は、以下のリスクをチェックしましょう。
会社が発展しにくい
社員・従業員に対して株式譲渡する際、会社が発展しにくくなるリスクが考えられます。通常、株式譲渡や事業譲渡などのM&Aスキームを実施して、他社の事業や会社を引き継ぐことで、シナジー効果が期待できます。
しかし、自社の社員・従業員に株式譲渡をする場合、シナジー効果は期待できません。通常の株式譲渡で期待できる会社の発展が進まなくなる可能性があります。
譲渡する株数に注意が必要
社員・従業員に株式譲渡する際は、譲渡する株数に注意する必要があります。もともと株主総会で重要事項を決定するためには、3分の2以上の議決権が必要です。
もしも株式譲渡時に3分の2以上の株式を譲渡してしまうと、重要な決定の際に経営者の決定権が弱くなります。株式譲渡を実施する際、経営者側は必ず3分の2以上の株式を保有しておくことが重要です。
会社の社員や従業員が株主総会に出席する必要性
会社の社員・従業員に株式譲渡する場合、社員・従業員が株主総会に出席すべきかどうかを考慮する必要があります。もしも社員・従業員が株主総会に出席すべきでない・参加するのは望ましくないと考える場合は、種類株式を活用しましょう。
社員・従業員に譲渡する株式を種類株式の1つである議決権制限株式にすることで、社員・従業員の株主総会における議決権をなくせます。
勝手に譲渡される危険性
社員・従業員に株式譲渡した際、その株式を勝手に譲渡される危険性があります。この場合は、種類株式の1つである譲渡制限株式を活用しましょう。譲渡制限株式は、株式を第三者に譲渡する際に、会社の承認が必要となる株式です。
譲渡制限株式を活用することで、社員・従業員に株式譲渡する際のリスクを抑制できます。
退職時の問題
株式譲渡によって株式を取得した社員・従業員が退職した場合、社外に株式が流出したり、相続時に問題が発生したりするケースが考えられます。
この場合にも、種類株式を活用しましょう。取得条項付株式を活用することで、株式譲渡で株式を獲得した社員・従業員が退職した際に、退職者が保有する株式を会社が強制的に買い取ることが可能です。
勤務先の業績
株式譲渡を受ける社員・従業員側のリスクとして、勤務先の業績からより大きな影響を受ける点が挙げられます。株式譲渡で自社株を保有した場合、勤務先の業績が上がれば、自分が保有する株式の価値も上がるでしょう。
一方、勤務先の業績が下がってしまうと、自分の保有株の価値も下がります。勤務先の業績がこれまで以上に自分に影響するでしょう。
運用しにくい
株式譲渡によって自社株を買い取った場合、運用しにくいリスクが考えられます。上記でも説明しましたが、社員・従業員に対する株式譲渡の際には、種類株式が活用されるケースも多いです。
株式譲渡によって自社株を引き継いだとしても、保有するしか方法がなく、運用しにくい点にデメリットを感じることがあります。
会社の役員への影響
中小企業の経営では、人材への依存が大きいです。役員にも一定期間の雇用継続条件が付され、社名や勤務地も一定期間は同じであることが少なくありません。ただし、中小企業の経営者の後継者がいないために譲渡する際に、役員も引退の年齢に近づいている場合は、役員の退職慰労金が問題となりやすいでしょう。
役員以上の退職慰労金は株主総会での決議事項である点で、普通の従業員の退職金とは大きく異なるため、長期間一緒に歩んだ役員との問題発生を防ぐためにも、事前にしっかりと合意しておく必要があります。
7. 他社への株式譲渡後の社員・従業員対応
ここまで紹介したように、社員への事業承継は時として現実的でなく、一般的にはそれほど実施されていません。親族に後継者がおらず、社員への引き継ぎも難しい中で、最近ではM&Aによる第三者への事業承継が増加傾向にあります。本章では、第三者に事業承継する場合の、自社の社員・従業員への対応を解説します。
処遇と雇用の影響への配慮
M&Aを通じて第三者に株式譲渡を行う場合、経営者としては譲渡後の社員の雇用や処遇に留意するのは自然なことです。
もしも株式譲渡後に買収側企業でリストラや不用意な解雇などが行われると、労働法上のトラブルに発展するおそれがあります。つまり、買収側からすると、解雇を前提に株式取得を行うことは、非常にリスクが高いです。雇用の保証は、譲渡の最終決断を下す譲渡企業のオーナーの希望であることが一般的であり、譲渡後に従来の社員が不当に扱われるケースは非常に少ないです。
モチベーション維持の対策
社員・従業員からすると、株式譲渡にあたって自身の雇用や待遇の保証が不透明であれば、内心穏やかではありません。
M&Aによる株式譲渡の発表後は、雇用面のみならず、大きな環境の変化が起こるため、社員・従業員は心理的負荷を抱えます。こうした状況の中で業務を遂行することは社員・従業員のモチベーション低下につながるため、株式譲渡後のケアは買収側企業からすると最も懸念すべき課題です。
もしも社員・従業員の離職を招いてしまえば、シナジー効果が最大限に発揮されなくなります。社員・従業員本人からの退職希望がある場合を除いて、雇用の維持を前提として株式譲渡の手続きを進めることが望ましいです。
8. 社員・従業員への株式譲渡まとめ
本記事では、会社の社員・従業員に対する株式譲渡を中心に解説しました。「社員の意識向上のために、社員に株式譲渡を行おうと考えていた」「従業員持株会の会員となって、自社株を取得しようと思っていた」という経営者の方は、ぜひご参考ください。
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