2025年03月22日更新
動物病院のM&A・事業承継の動向!事例・案件も紹介【2025年最新】
動物病院の現状やM&A・事業承継の動向、売却・買収を成功させるポイントを解説します。併せて、動物病院におけるM&A・売却・買収、事業承継の事例などもまとめました。動物病院を対象とするM&Aや事業承継を検討している方は必見の内容です。
目次
- 動物病院業界の動向
- 動物病院業界のM&A・売却・買収・事業承継のポイント
- 動物病院業界のM&A・売却・買収、事業承継の相場
- 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継の案件一覧
- 動物病院業界のM&A・売却・買収・事業承継の事例
- 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継案件の探し方
- 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継のメリット
- 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継のデメリット
- 動物病院のM&A以外での引退手段
- 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継を成功させるコツ
- 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継でおすすめの相談先
- 動物病院のM&A・積極買収企業
- 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継まとめ
- 動物病院業界のM&A案件一覧
1. 動物病院業界の動向
動物病院業界とは、動物病院だけでなく、動物病院を運営する企業や、動物病院向けの設備・薬を開発・販売している企業などです。ペットサロンやペットホテルを併設している動物病院も増えています。
近年、動物病院業界の市場動向には、以下のような特徴がみられます。
- 犬の飼育頭数の減少・外来数の減少
- ペットの高齢化問題が表面化
- ペットの多種化問題
- ペットにお金をかける人が増加
- ペット医療の技術進化
- 高齢獣医師の廃業と若手獣医師の開業困難
- 後継者不足による企業病院・大型病院の増加
①犬の飼育頭数の減少・外来数の減少
一般社団法人 ペットフード協会の調査によると、犬の飼育頭数が減少傾向にあります。2016年には8,008千頭だったのが、2024年には6,796千頭にまで減少している状況です。併せて、外来数の減少傾向も見られます。
犬の飼育頭数減少の影響が病院経営に影響を及ぼしている状況です。大規模な病院ほど頭数減少の影響を大きく受けており、新患数においても前年を割り込む形となった動物病院も出てきました。
参考:一般社団法人 ペットフード協会 「令和5年 全国犬猫飼育実態調査」主要指標 サマリー 2024年2月1日
②ペットの高齢化問題が表面化
近年、動物医療技術の進歩や飼い主の意識の高まりなどから、ペットの高齢化が進んでいます。特に2000年代前半のペットブームの頃に飼われ始めたペットたちが高齢となり、さまざまな病気を抱えている状態です。動物病院には、高度な医療技術や設備が求められるようになっています。獣医師の世代間で、高齢ペットに対する治療方針の考え方の差異という問題も表面化してきました。
③ペットの多種化問題
ペットブームの影響やペットの家族化などから、さまざまな種類のペットが飼われるようになりました。動物病院にはペットの種類ごとに適した医療知識や技術が求められます。ペットの種類によっては臨床例の少ないケースもあり、獣医師はより豊富な医療知識や治療経験が必要です。
④ペットにお金をかける人が増加
ペットの家族化により、以前よりもペットにお金をかける飼い主が増加しました。動物病院に通う回数や金額も増加していることから、動物病院側もさまざまなサービスを用意しています。今後の動向としては、いかに充実したサービスを用意できるかが、動物病院の経営状態を左右することになるでしょう。
⑤ペット医療の技術進化
ペット医療は急速に進化しています。ペットにもMRIやCT検査が行われるようになりました。再生医療や予防医療も広まり始めています。高度医療の普及に対応するため、動物病院では先端設備の導入が必要です。設備を購入できる動物病院と購入が困難な動物病院では、明らかな差異が生じています。
⑥高齢獣医師の廃業と若手獣医師の開業困難
現状では、高齢獣医師の約8割が廃業を選択しています。しかし、定年がないのでぎりぎりまで働く開業獣医師も少なくありません。その結果、院長の突然の病気や急死などで、残された勤務医などのスタッフが苦労するケースも多いです。
一方で、若手獣医師の多くは新規開業を目指しています。業界の特性として、生涯勤務医として働くのは難しいことから、30代前半での開業が慣例です。今後の動向として、動物病院にかかるペットの数は減少していくと予想されます。若手獣医師の新規開業も難しくなるでしょう。
⑦後継者不足による企業病院・大型病院の増加
最近、後継者不足に悩む動物病院が増えています。この問題に対応する形で、2020年から企業による動物病院の買収や合併(M&A)が増え始めました。2024年現在、この傾向はさらに強まり、多くの動物病院が大手グループに統合される動きが加速していると言えます。
全国の動物病院件数の推移
農林水産省の「飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)」によると、全国の動物病院施設数は近年、増加傾向です。2015(平成27)年から2024(令和6)年までは以下のように推移しています。
年 | 施設数 |
2015(平成27) | 15,463 |
2016(平成28) | 15,631 |
2017(平成29) | 15,797 |
2018(平成30) | 15,950 |
2019(平成31・令和元) | 16,096 |
2020(令和2) | 16,234 |
2021(令和3) | 16,478 |
2022(令和4) | 16,701 |
2023(令和5) | 16,825 |
2024(令和6) | 16,993 |
参考:農林水産省「飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)」
2. 動物病院業界のM&A・売却・買収・事業承継のポイント
動物病院業界でM&Aによる売却・買収、事業承継を行う際には、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 地域性が強い動物病院は競争が激しい
- 優秀な獣医師確保や事業エリア拡大のM&A・事業承継などが目立つ
- 高度医療を請け負う動物病院もでき始めており資本力が求められる
- 設備や施設を求めるM&Aも活発になっている
- サービスの充実を目指すM&A・事業承継も今後増えると予測される
- 異業種からのM&Aも拡大していくことが予測される
①地域性が強い動物病院は競争が激しい
居住地から近い動物病院に通う飼い主がほとんどです。特に、ペット需要の高い地域では、どうしても顧客の奪い合いが生じてしまいます。よほどのことがない限り、通い慣れた動物病院を他の動物病院には変えません。
新規で開業する動物病院は、他院と差別化を図るような強みがなければ、新規顧客の獲得が難しい状況です。経営を軌道に乗せるためには、初めからM&Aによって事業を引き継ぎ、地域の顧客をつかむ選択肢もあります。M&Aの専門家に相談して検討するとよいでしょう。
②優秀な獣医師確保や事業エリア拡大のM&A・事業承継などが目立つ
ペット医療の技術が高度化していることや、飼い主が動物病院に求めるサービスの質が高くなっていることから、M&Aの買い手は優秀な獣医師の確保を目的としてM&Aを行う傾向があります。
例えば、2025年2月、WOLVES HANDが、「守山しっぽ動物病院」運営のバハティーを買収しています。今回のM&Aにより、成長が期待される守山市に新たな拠点を設置し、関西エリアでの事業基盤を強化します。さらに、WOLVES HANDのグループ病院との連携を深めることで、グループ全体のさらなる成長を目指します。
獣医師は技術だけでなく、人間性が問われる職業です。M&Aの買い手が事業エリアを拡大する際は、地域の口コミによる評判の高い動物病院が、好条件で売却・譲渡を成立させています。
③高度医療を請け負う動物病院もでき始めており資本力が求められる
ペットの高齢化などから、近年は都市部を中心に、先端技術を駆使した高度医療を行う動物病院の開業が増えつつあります。高度医療を行うために、獣医師は技術の習得が必要です。先端設備が不可欠となるため、豊富な資金力も求められます。
差別化を図るためには、そういった高度医療を導入することも検討対象になりますが、容易ではありません。資本力のある動物病院グループの傘下に入り、病院の設備を充実させるM&Aの事例もあります。
④設備や施設を求めるM&Aも活発になっている
新規で施設を建て設備をそろえるには、多くの資金が必要です。開業までの時間もかかります。特に、個人の獣医師が開業する場合、資金と時間がかかるほど、家族や勤務先との兼ね合いで開業のタイミングが難しくなることもあるでしょう。
M&Aによって設備や施設がすでにある状態で開業できれば、負担が少なくなります。このような目的のM&Aによる開業が増加中です。
⑤サービスの充実を目指すM&A・事業承継も今後増えると予測される
飼い主が動物病院に求めるサービスは、多様化・高度化しています。一方、ペット数の減少傾向とともに動物病院のサービス競争も激しくなっていきました。動物病院側も他病院との差別化のため、サービスの充実を図る病院が増えつつある状況です。
2015年頃から、動物病院業界でもM&Aによる事業承継が認知され始めています。これらの要因から、今後の動向として、サービスの充実を目的としたM&Aも増加するでしょう。
例えば、 2022年6月、イオンペットが、ニチイ学館よりグルーミング事業を譲受しています。本件により、イオンペットは、高いグルーミング技術と知識を有する人財および地域に密着した顧客サービスのノウハウを継承し、質の高いグルーミングサービスの提供を図っています。
⑥異業種からのM&Aも拡大していくことが予測される
これまでの動物病院業界では、M&Aによる事業承継の事案はほとんどみられませんでした。異業種から参入しようとしても、参考にできる案件がなかなか見つからない状況でした。
しかし、最近では、経営者や医院長の高齢化、ペットの高齢化、ペット数減少、動物病院の増加などから、M&Aの需要は高まっています。今後の動向としては、業界内に限らず異業種からのM&Aもさらに拡大していくしょう。
3. 動物病院業界のM&A・売却・買収、事業承継の相場
一般企業の場合、売却価格の相場は「純資産+営業利益×3~5年分」であるとされています。
動物病院業界のM&Aの場合、売却側は動物病院を守ることを最優先に考え、売却相手を探す傾向があり、M&A相場は割安となるケースが多いでしょう。医院長が高齢なケースも多く、できるだけ短期間で交渉を終えたいことから、売却価額を実際の価値よりも安く設定するケースがあります。
動物病院業界の案件に掲載されている希望譲渡価額も参考にすると、譲渡価額の相場は「純資産+営業利益1~3年分」と考えられます。
動物病院業界の特徴として、売却側の動物病院は、買い手の人間性や相性を非常に大事にします。価値観が合うと感じればスムーズにM&A交渉は進むでしょう。しかし、合わないと感じれば、いくら買収価額を上げても同意しなかった事例もあります。交渉の際は注意が必要です。
4. 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継の案件一覧
弊社M&A総合研究所が取り扱っている動物病院のM&A・売却・買収・事業承継の案件をご紹介します。
創業20年以上の動物病院であり、犬、猫、その他飼育動物(カメ、鳥、魚、爬虫類、ウサギ等)を含む幅広い獣医サービスを提供するシンガポールでは数少ない総合動物病院の1つです。
シンガポール政府が現地生産を積極的に推進する養魚場向けのサービスも行っています。病院は民間・公営の住宅団地からほど近いアクセス好立地です。
エリア | 海外 |
売上高 | 2.5億円〜5億円 |
譲渡希望額 | 5億円〜7.5億円 |
譲渡理由 | 後継者不在(事業承継) |
【西日本エリア】業歴50年以上の動物用医薬品卸業
長年の業歴の実績・信頼より、県内で圧倒的な知名度を誇ります。許認可を取ることが難しい「動物用ケタミン」を取り扱っています。人員や商材を増強させることにより、既存取引先との売上増加の余地が十分にあります。
エリア | 非公開 |
売上高 | 10億円〜25億円 |
譲渡希望額 | 1000万円〜5000万円 |
譲渡理由 | 後継者不在(事業承継) |
5. 動物病院業界のM&A・売却・買収・事業承継の事例
この章では、動物病院業界関連のM&Aによる売却・買収、事業承継の事例を紹介します。
WOLVES HANDによるバハティーのM&A・事業承継
WOLVES HANDは、2025年2月5日、バハティー(滋賀県守山市)を子会社化することを決定しました。
WOLVES HANDは関西・関東・九州・沖縄エリアで動物病院を運営しており、バハティーは滋賀県守山市で「守山しっぽ動物病院」を展開しています。
今回のM&Aにより、成長が期待される守山市に新たな拠点を設け、関西エリアの基盤を強化します。また、WOLVES HANDのグループ病院との連携を深め、さらなる事業拡大を図ります。
WOLVES HANDによる安田動物病院のM&A・事業承継
株式会社WOLVES HAND(194A)は、2025年1月6日、安田動物病院(兵庫県西宮市)の動物病院事業を譲受する契約を締結しました。
WOLVES HANDは関西・関東・九州・沖縄エリアで動物病院を運営し、安田動物病院は西宮市で地域密着型の動物医療を提供しています。
今回の事業譲受により、未出店の西宮エリアに病院を増やし、関西エリア内の連携を強化するとともに、収益の向上を目指します。
A’aldaJapanによる松原動物病院のM&A・事業承継
A’aldaJapan株は、子会社のA’alda Animal Hospital SPC2号を通じて、松原動物病院を子会社化することを決定しました。松原動物病院は関西エリアで高度医療サービスを提供する動物病院です。
今後、松原動物病院の高度医療技術とA’aldaの経営力やバックオフィス機能、マーケティング・企画力を組み合わせることで、より良い医療サービスを提供することを目指します。
WithmalによるLキャタルトンとの資本提携
Withmalは、プライベートエクイティ投資会社Lキャタルトン・アジア(L Catterton Asia)と資本提携を実施しました。
Withmalは、動物病院経営、動物病院向けのホームページ制作、Web/SNSマーケティング、獣医業界メディア、ペットメディアなどを手掛ける企業です。Lキャタルトンは、コンシューマ業界特化のグローバルな投資会社です。
今回の資本提携により、Withmalは業務負担の軽減や獣医師と顧客の満足度向上を目指し、LキャタルトンはWithmalのサービス品質向上や顧客接点増加を支援します。
イオンペットによる東京イースト獣医協会動物医療センターのM&A・事業承継
イオンペット(千葉県市川市)は、2022年6月20日、東京イースト獣医協会動物医療センター(東京都江東区)の全株式を取得し、子会社化しました。
イオンペットは、全国で動物病院やグルーミングサロン、ペット用品販売を展開しており、東京イースト獣医協会動物医療センターは「ひがし東京夜間救急動物医療センター」を運営しています。
今回のM&Aを通じて、地域の動物病院との連携を強化し、エリア全体の動物医療水準の向上を目指します。
6. 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継案件の探し方
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継を検討する際に、自院と似た事例を徹底的に分析することが成功へのカギといえます。では、どのように案件を探せばよいのでしょうか。いくつかの方法を紹介しましょう。
- M&Aマッチングサイトから探す
- M&A仲介会社などに依頼する
- 取引先や知人からの紹介
- 金融機関や投資ファンドからの紹介
個人経営や小規模な動物病院などのスモールM&A案件の場合、マッチングサイトやM&A仲介会社を活用するのが最も一般的な方法になります。マッチングサイトは、インターネット上で自院と似た情報を入力し、自ら手軽に案件を見られるのがメリットです。
取引先や知人からの紹介は、親和性が高く、シナジー効果が期待できます。しかし、内容を精査しないままM&Aを進めるかたちになるので注意が必要です。金融機関や投資ファンドの場合、自社の利益を優先して案件を持ってくるケースもあるため慎重に検討しましょう。
7. 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継のメリット
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継のメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。この章では、動物病院がM&Aによる売却・買収、事業承継を行うメリットを、売却側・買収側それぞれの立場から解説します。
売却側
動物病院の売却側は、M&Aによって以下5つのメリットが得られます。
- 獣医師の雇用確保
- 後継者問題の解決
- 売却・譲渡益の獲得
- 大きな資本力による安定経営
- 個人保証・債務・担保などの解消
獣医師の雇用確保
開業獣医師は定年がないことから、高齢になっても働き続けるケースが多くみられます。しかし、突然の病気や急逝などの事態では、経営の継続が困難になるでしょう。M&Aによる売却・譲渡であれば、病院経営の継続が可能です。それにより、獣医師の雇用を確保できます。
後継者問題の解決
獣医師業界は、子どもに病院を継がせることが難しい業界でもあります。開業獣医師には技術だけでなく人間性や経営センスが問われるため、「獣医師の子どもは継ぎたがらない」「継いでもなかなかうまくいかない」というケースが少なくないからです。
M&Aによる売却・譲渡であれば、信頼できる後継者を探して引き継げます。
売却・譲渡益の獲得
病院を廃業する場合、手元にお金が残らなかったり、あるいはマイナスになったりします。一方、M&Aによって病院を売却すれば、売却・譲渡益が得られるでしょう。M&Aによる売却・譲渡によって売却・譲渡益を得れば、リタイア資金としても活用できます。
大きな資本力による安定経営
動物病院は、今後、競争の激化と医療技術の高度化により、充実したサービスを提供するための資金が必要になります。M&Aによって、資本力のある動物病院グループなどの傘下に入れれば、安定した経営が可能です。
個人保証・債務・担保などの解消
M&Aの株式譲渡で動物病院を売却した場合、会社の負債は買い手に引き継がれます。それによって、医院長の個人保証や担保差し入れも解消手続きが可能です。事業譲渡では負債が引き継がれないことが多いので、注意しましょう。
買収側
動物病院の買収側は、M&Aによって以下5つのメリットが得られます。
- 獣医師の確保
- 設備や施設の獲得
- 事業エリアの拡大・グループの発展
- 顧客・取引先・ノウハウなどの獲得
- 専門分野・新サービスの獲得
獣医師の確保
動物病院を安定して経営していくには、獣医師の確保が重要です。特に動物病院業界では、獣医師に人間性の高さも求められます。M&Aによって優秀な獣医師を確保できれば、安定した病院経営が可能でしょう。
設備や施設の獲得
近年、先端設備を導入したり、ペットサロン、ペットホテルを併設したりする動物病院が増えています。これらを全てそろえるには、多くの資金と時間が必要です。M&Aであれば、これらを低コストかつ短期間で取得できます。
事業エリアの拡大・グループの発展
動物病院業界の特性として、新しい地域に参入する場合、その地域に定着するまでには時間がかかります。M&Aによって既存の動物病院をグループ化できれば、始めから固定顧客を得られます。スムーズなグループの発展が可能となるでしょう。
顧客・取引先・ノウハウなどの獲得
動物病院業界は地域性の高い業界です。地域の固定顧客や信頼できる取引先、地域性に合わせたノウハウなどをスムーズに獲得できるかが肝要となります。M&Aによって、すでにこれらを持っている動物病院を取得できれば、円滑な経営が可能です。
専門分野・新サービスの獲得
動物病院業界はペットの多種化やペットの高齢化による病気の多様化で、専門性が細分化されてきました。求められるサービスも多様化してきています。買収側は、M&Aによって専門分野や新サービスを獲得することにより、他の動物病院との差別化が図れるでしょう。
8. 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継のデメリット
ここまで動物病院のM&A・売却・買収、事業承継などのメリットについてお伝えしました。しかし、一方で少なからずデメリットがあるのも事実です。以下では注意すべきいくつかのデメリットを売却側・買収側に分けてそれぞれお伝えします。
売却側
動物病院の売却側は、M&Aによって以下2つのデメリットが生じる恐れがあります。
- 長い引き継ぎ期間を要する
- 顧客・取引先・従業員の反対
長い引き継ぎ期間を要することも
一つ目のデメリットは、事業承継に長い引き継ぎ期間を要することもあるということです。M&Aの場合は半年以上かかるケースが多く、難航した場合には数年かかることもあります。なるべく長期化させないためには、時間をかけるべき手続きとなるべく時間をかけずに行う手続きを明確にし、効率的に進めていくことが重要です。
顧客・取引先・従業員の反対
売却側の二つ目のデメリットは、既存の顧客・取引先・従業員から反対の声が出やすいということです。M&Aによって商品・サービスに変化が生じるケースも多く、今までの取引が終了することもあります。さらには従業員のリストラや転勤、社内環境の大幅変化などのリスクもあるため、不満を抱える従業員も少なくありません。
買収側
動物病院の買収側は、M&Aによって以下3つのデメリットが生じる恐れがあります。
開業場所の変更ができない
動物病院は各地域に根付いていることがほとんどのため、すぐに開業場所を変更することができないというデメリットがあります。
移転することが全く不可能というわけではないものの、その地域で利用してくれていた顧客を手放すことになります。新たな顧客を開拓するために移転先のエリア調査やマーケティングなどに時間やコストがかかるため、あまり推奨できる選択ではありません。
開業場所は基本的に変更しづらく、通いづらい場所での買収はとくにリスクが伴うでしょう。
コストがかかる
シンプルにコストがかかってしまうというのもデメリットの一つです。M&Aはコストを抑えながら事業拡大を図る良い手段ですが、それでもある程度大きなコストがかかるケースが多いでしょう。
例えば、M&Aをきっかけとして従業員が離れてしまった場合などには、従業員を募集するための費用なども発生します。思いがけずコストが嵩んでしまうことも多いため、資金は余分に用意しておくことが望ましいでしょう。
従業員離れのリスク
先述した通り、M&Aには従業員離れのリスクも伴います。経営方針が変わることで従業員がモチベーションを保てなかったり、労働条件・労働環境が変化したりすることで退職するケースも多いでしょう。
とくに地域密着の動物病院は従業員同士の信頼関係が厚いことも多いため、一人退職者で出ると複数人が続いて退職してしまうこともあります。新たなオーナーとして受け入れられるようコミュニケーションを密にとったり、従業員の不満をなるべくケアするように努めたりすることが大切です。
9. 動物病院のM&A以外での引退手段
動物病院のM&A・売却、買収、事業承継のメリットは、前章でお伝えしました。ここでは、M&A以外で引退する手段を簡単に紹介します。それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで、M&Aを検討するとよいでしょう。
廃業
動物病院を存続させず、廃業を選択する場合もあるでしょう。経営者自身の意思でいつでも廃業できる点はメリットといえます。しかし、次のようなデメリットがあることも十分に理解が必要です。
- 廃業する際のコストがかかる(建物解体費用・設備や医療機器などの処分費用・賃貸物件であれば内装など原状回復費用・従業員退職金・数百万~1千万円以上の法的手続き費用など)
- 医療提供を続けられない
- 従業員の雇用を守れない
- M&Aの際に得られる売却代金を獲得できない
知人や自院で勤務していた先生への譲渡
M&Aを活用せずに、知人の獣医師などに譲渡する方法もあります。メリットとしては、医療提供の継続・従業員の雇用確保・売却代金獲得(ただし、高額売却は難しい)・経営責任からの解放などです。
しかし、簡単には譲渡先がみつからないことや、後継者の信用問題次第では借入金の個人保証から解放されないことなどのデメリットがあります。M&Aの場合には、そのようなデメリットは考えられません。M&Aの専門家やアドバイザーに相談して、検討することをおすすめします。
10. 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継を成功させるコツ
動物病院の経営者の高齢化や後継者問題などから、M&Aを検討する動物病院が増えています。ここでは、M&A・売却・買収、事業承継を成功させるためのポイントをお伝えします。成功へと導くための参考としてください。
- 情報漏えいの防止
- 都合の悪い事実を隠蔽しない
- 早い段階で準備を始める
- M&Aの最後まで慎重にプロセスを進める
- M&A仲介会社に相談・依頼する
①情報漏えいの防止
M&Aを検討する場合、情報管理に十分な注意が必要です。準備段階で情報が漏えいしてしまうと、思わぬトラブルに見舞われたり、案件自体がうまくいかなくなったりします。準備の際には、周囲に情報が漏れないように、情報共有は一部の人に限定することが重要です。
②都合の悪い事実を隠蔽しない
譲渡側は、デューデリジェンスの際に譲受側に対して、都合の悪い事実を隠してはいけません。のちに発覚した場合、進んでいた交渉が頓挫することもあります。M&A実施後に発覚すれば、損害賠償請求の対象となることもあるため注意が必要です。
③早い段階で準備を始める
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継を進めるにあたり、売却先・売却の対象・売却額などの希望条件を早い段階で検討し、M&A仲介会社に相談することをおすすめします。できるだけ早い段階で準備を始めれば、譲受側も検討しやすくなるでしょう。
④M&Aの最後まで慎重にプロセスを進める
動物病院のM&Aでは、1つひとつの交渉を慎重に進めることが重要です。交渉中は、想定しないことが起こり得ます。交渉終了後も、環境整備などさまざまなことへの気配りも必要です。M&Aの専門家に相談しながら、最後まで慎重にプロセスを進めるようにしましょう。
⑤M&A仲介会社に相談・依頼する
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継を行う際には、専門的な知識が必要です。経営者だけで交渉を進めるのは、かなり難しいでしょう。M&Aの交渉をスムーズに進め、成功に導くためには、経験豊富なM&Aの専門家やアドバイザーの存在が欠かせません。
M&Aを検討している方は、事前準備を早く始めるだけでなく、M&A専門の仲介会社に相談・依頼することをおすすめします。
11. 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継でおすすめの相談先
動物病院のM&A・売却・買収・事業承継でおすすめの相談先をご紹介します。
金融機関
M&Aを検討する際、取引のある銀行や証券会社などの金融機関に相談するのは有効な選択肢です。資金調達や資金繰りなど、M&Aには財務面の課題が多いため、金融機関の専門知識を活用するとスムーズに進められます。
金融機関は広範なネットワークを持ち、税理士や会計士と連携しながらサポートしてくれるため、信頼関係を築きやすいです。大規模な金融機関では、M&Aを専門に扱う部署があり、知識豊富なスタッフに相談できるため、適切なアドバイスが期待できます。
一方で、中小企業向けのM&A支援には対応していないケースが多く、手数料が高額になることがあります。また、大規模な金融機関は意思決定に時間がかかるため、迅速な対応を求める場合には不向きなこともあります。
公的機関
M&Aを検討する際、商工会議所や自治体などの公的機関も相談先として活用できます。特に、地元企業とのネットワークを活かしたマッチングが可能なため、地方企業のM&Aに適しています。
公的機関では、中小企業向けの助成金や補助金制度を提供しており、資金面での支援を受けられます。融資と異なり返済の必要がないため、財務負担を抑えながらM&Aを進められる点が魅力です。
一方で、M&Aの専門機関ではないため、相手探しや資金面のサポートは受けられても、手続きに関する支援は限定的です。また、会員登録が必要で費用がかかる場合があり、助成金や補助金の申請には長期間を要することもあるため、事前に制度の詳細を確認することが重要です。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、M&Aを専門に扱う企業で、幅広い知識と実績を活かしてスムーズな取引を支援します。初期相談からアフターフォローまで対応可能で、M&Aのプロセス全体をサポートします。
業界動向やM&Aの費用相場に精通しており、専門的なアドバイスを受けられます。また、豊富なネットワークを活用して、希望条件に合う相手企業を見つけやすい点も強みです。金融機関と比較すると成功報酬が低めのケースが多いのも利点です。
一方で、相談料や着手金が発生する場合があり、成功報酬は売却金額の5〜10%、最低でも約300万円かかることが一般的です。さらに、一部の仲介会社では手数料収益を優先し、十分なサポートを提供しないケースもあるため、慎重に選ぶ必要があります。
12. 動物病院のM&A・積極買収企業
ここでは、動物病院のM&A・買収について積極的な企業を2社、紹介します。
- ライフメイト動物病院グループ
- WOLVES Hand
①ライフメイト動物病院グループ
ライフメイト動物病院グループは、シンガポールに拠点を置くYCP Holdings(Global)Limitedの子会社です。YCP Holdings(Global)Limitedグループにおけるペットケア事業の中核を担っています。当初、YCP Holdings(Global)Limitedは、ペットケア事業の中間持株会社として2014年にYCP Lifemateを設立しました。
本記事でも掲載している事例にもあるように、YCP Lifemateは積極的に動物病院をM&Aで買収しています。その後、買収した動物病院の1つである山口獣医科病院が、ライフメイト動物病院グループに商号変更しました。そして、2020年以降はライフメイト動物病院グループがペットケア事業を担っています。
ライフメイト動物病院グループに所属する動物病院は、東京に3院、神奈川・北海道に各1院、それ以外に、子犬のしつけに関する獣医師監修のオリジナルテキストやペットケア関連グッズを定期宅配するサービスを行う会社が1社あります。
②WOLVES Hand
2019年4月に設立されたWOLVES Handは、これまでに動物病院およびペット関連事業を行う7社を吸収合併してきました。本記事の事例で取り上げているJVCCも、そのうちの1社です(吸収合併は法人格が残る存続会社以外は消滅します)。このM&Aの結果、WOLVES Hand傘下の動物病院は以下のようになっています。
- 大阪:9院
- 東京:7院
- 沖縄・神奈川:各4院
- 埼玉・三重・滋賀・兵庫:各1院
多くのトリミングサロンも運営中です(動物病院併営を含む)。獣医師を目指す獣医学部学生向けにインターネットを介して獣医療情報提供サービスやセミナーなどを開催する事業を行う子会社や、動物病院専用にシステム開発を行う子会社もあります。
13. 動物病院のM&A・売却・買収・事業承継まとめ
動物病院業界のM&Aをスムーズに進め成功させるためには、事前の調査や準備だけでなく、M&Aの知識や交渉力も必要となります。M&A仲介会社など専門家のサポートのもとで行うことが有効です。本記事の概要は以下のようになります。
・動物病院業界の市場動向
→ペットの高齢化問題が表面化、ペットの多種化問題が表面化、ペットにお金をかける人が増加、ペット医療の技術進化、高齢獣医師の廃業と若手獣医師の開業困難
・動物病院業界のM&A動向やM&Aを成功させるポイント
→地域性が強い動物病院は競争が激しい
→優秀な獣医師確保や事業エリア拡大のM&Aなどが目立つ
→高度医療を請け負う動物病院もでき始めており資本力が求められる
→設備や施設を求めるM&Aも活発になっている
→サービスの充実を目指すM&Aも今後増えると予測される
→異業種からのM&Aも拡大していくことが予測される
・売却側のメリット
→獣医師の雇用確保、後継者問題の解決、売却・譲渡益の獲得、大きな資本力による安定経営、個人保証・債務・担保などの解消
・買収側のメリット
→獣医師の確保、設備や施設の獲得、事業エリアの拡大・グループの発展、顧客・取引先・ノウハウなどの獲得、専門分野・新サービスの獲得
14. 動物病院業界のM&A案件一覧
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