2024年07月23日更新
動物病院のM&A・売却・買収・事業承継の事例!ポイント・案件の探し方も解説【2024年最新】
本記事では、動物病院の市場動向やM&A動向、動物病院のM&Aによる売却・買収を成功させるポイントを解説します。動物病院におけるM&A・売却・買収、事業承継の事例なども併せて紹介しているので、参考にしてください。
目次
1. 動物病院業界の動向
動物病院業界とは、動物病院だけでなく、動物病院を運営する企業や、動物病院向けの設備・薬を開発・販売している企業などです。ペットサロンやペットホテルを併設している動物病院も増えています。
近年、動物病院業界の市場動向には、以下のような特徴がみられます。
- 犬の飼育頭数の減少・外来数の減少
- ペットの高齢化問題が表面化
- ペットの多種化問題
- ペットにお金をかける人が増加
- ペット医療の技術進化
- 高齢獣医師の廃業と若手獣医師の開業困難
- 後継者不足による企業病院・大型病院の増加
①犬の飼育頭数の減少・外来数の減少
一般社団法人 ペットフード協会の調査によると、犬の飼育頭数が減少傾向にあります。2016年には8,008千頭だったのが、2023年には6,844千頭にまで減少している状況です。併せて、外来数の減少傾向も見られます。
犬の飼育頭数減少の影響が病院経営に影響を及ぼしている状況です。大規模な病院ほど頭数減少の影響を大きく受けており、新患数においても前年を割り込む形となった動物病院も出てきました。
参考:一般社団法人 ペットフード協会 「令和5年 全国犬猫飼育実態調査」主要指標 サマリー 2024年2月1日
②ペットの高齢化問題が表面化
近年、動物医療技術の進歩や飼い主の意識の高まりなどから、ペットの高齢化が進んでいます。特に2000年代前半のペットブームの頃に飼われ始めたペットたちが高齢となり、さまざまな病気を抱えている状態です。動物病院には、高度な医療技術や設備が求められるようになっています。獣医師の世代間で、高齢ペットに対する治療方針の考え方の差異という問題も表面化してきました。
③ペットの多種化問題
ペットブームの影響やペットの家族化などから、さまざまな種類のペットが飼われるようになりました。動物病院にはペットの種類ごとに適した医療知識や技術が求められます。ペットの種類によっては臨床例の少ないケースもあり、獣医師はより豊富な医療知識や治療経験が必要です。
④ペットにお金をかける人が増加
ペットの家族化により、以前よりもペットにお金をかける飼い主が増加しました。動物病院に通う回数や金額も増加していることから、動物病院側もさまざまなサービスを用意しています。今後の動向としては、いかに充実したサービスを用意できるかが、動物病院の経営状態を左右することになるでしょう。
⑤ペット医療の技術進化
ペット医療は急速に進化しています。ペットにもMRIやCT検査が行われるようになりました。再生医療や予防医療も広まり始めています。高度医療の普及に対応するため、動物病院では先端設備の導入が必要です。設備を購入できる動物病院と購入が困難な動物病院では、明らかな差異が生じています。
⑥高齢獣医師の廃業と若手獣医師の開業困難
現状では、高齢獣医師の約8割が廃業を選択しています。しかし、定年がないのでぎりぎりまで働く開業獣医師も少なくありません。その結果、院長の突然の病気や急死などで、残された勤務医などのスタッフが苦労するケースも多いです。
一方で、若手獣医師の多くは新規開業を目指しています。業界の特性として、生涯勤務医として働くのは難しいことから、30代前半での開業が慣例です。今後の動向として、動物病院にかかるペットの数は減少していくと予想されます。若手獣医師の新規開業も難しくなるでしょう。
⑦後継者不足による企業病院・大型病院の増加
最近、後継者不足に悩む動物病院が増えています。この問題に対応する形で、2020年から企業による動物病院の買収や合併(M&A)が増え始めました。2024年現在、この傾向はさらに強まり、多くの動物病院が大手グループに統合される動きが加速していると言えます。
全国の動物病院件数の推移
農林水産省の「飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)」によると、全国の動物病院施設数は近年、増加傾向です。2015(平成27)年から2023(令和5)年までは以下のように推移しています。
年 | 施設数 |
2015(平成27) | 15,463 |
2016(平成28) | 15,631 |
2017(平成29) | 15,797 |
2018(平成30) | 15,950 |
2019(平成31・令和元) | 16,096 |
2020(令和2) | 16,234 |
2021(令和3) | 16,478 |
2022(令和4) | 16,701 |
2023(令和5) | 16,825 |
2. 動物病院業界のM&A・売却・買収、事業承継のポイント
動物病院業界でM&Aによる売却・買収、事業承継を行う際には、以下のポイントを押さえることが重要です。
- 地域性が強い動物病院は競争が激しい
- 優秀な獣医師確保や事業エリア拡大のM&Aなどが目立つ
- 高度医療を請け負う動物病院もでき始めており資本力が求められる
- 設備や施設を求めるM&Aも活発になっている
- サービスの充実を目指すM&Aも今後増えると予測される
- 異業種からのM&Aも拡大していくことが予測される
①地域性が強い動物病院は競争が激しい
居住地から近い動物病院に通う飼い主がほとんどです。特に、ペット需要の高い地域では、どうしても顧客の奪い合いが生じてしまいます。よほどのことがない限り、通い慣れた動物病院を他の動物病院には変えません。
新規で開業する動物病院は、他院と差別化を図るような強みがなければ、新規顧客の獲得が難しい状況です。経営を軌道に乗せるためには、初めからM&Aによって事業を引き継ぎ、地域の顧客をつかむ選択肢もあります。M&Aの専門家に相談して検討するとよいでしょう。
②優秀な獣医師確保や事業エリア拡大のM&Aなどが目立つ
ペット医療の技術が高度化していることや、飼い主が動物病院に求めるサービスの質が高くなっていることから、M&Aの買い手は優秀な獣医師の確保を目的としてM&Aを行う傾向があります。獣医師は技術だけでなく、人間性が問われる職業です。
M&Aの買い手が事業エリアを拡大する際は、地域の口コミによる評判の高い動物病院が、好条件で売却・譲渡を成立させています。
③高度医療を請け負う動物病院もでき始めており資本力が求められる
ペットの高齢化などから、近年は都市部を中心に、先端技術を駆使した高度医療を行う動物病院の開業が増えつつあります。高度医療を行うために、獣医師は技術の習得が必要です。先端設備が不可欠となるため、豊富な資金力も求められます。
差別化を図るためには、そういった高度医療を導入することも検討対象になりますが、容易ではありません。資本力のある動物病院グループの傘下に入り、病院の設備を充実させるM&Aの事例もあります。
④設備や施設を求めるM&Aも活発になっている
新規で施設を建て設備をそろえるには、多くの資金が必要です。開業までの時間もかかります。特に、個人の獣医師が開業する場合、資金と時間がかかるほど、家族や勤務先との兼ね合いで開業のタイミングが難しくなることもあるでしょう。
M&Aによって設備や施設がすでにある状態で開業できれば、負担が少なくなります。このような目的のM&Aによる開業が増加中です。
⑤サービスの充実を目指すM&Aも今後増えると予測される
飼い主が動物病院に求めるサービスは、多様化・高度化しています。一方、ペット数の減少傾向とともに動物病院のサービス競争も激しくなっていきました。動物病院側も他病院との差別化のため、サービスの充実を図る病院が増えつつある状況です。
2015年頃から、動物病院業界でもM&Aによる事業承継が認知され始めています。これらの要因から、今後の動向として、サービスの充実を目的としたM&Aも増加するでしょう。
⑥異業種からのM&Aも拡大していくことが予測される
これまでの動物病院業界では、M&Aによる事業承継の事案はほとんどみられませんでした。異業種から参入しようとしても、参考にできる案件がなかなか見つからない状況でした。
しかし、最近では、経営者や医院長の高齢化、ペットの高齢化、ペット数減少、動物病院の増加などから、M&Aの需要は高まっています。今後の動向としては、業界内に限らず異業種からのM&Aもさらに拡大していくしょう。
3. 動物病院業界のM&A・売却・買収、事業承継の相場
一般企業の場合、売却価格の相場は「純資産+営業利益×3~5年分」であるとされています。
動物病院業界のM&Aの場合、売却側は動物病院を守ることを最優先に考え、売却相手を探す傾向があり、M&A相場は割安となるケースが多いでしょう。医院長が高齢なケースも多く、できるだけ短期間で交渉を終えたいことから、売却価額を実際の価値よりも安く設定するケースがあります。
動物病院業界の案件に掲載されている希望譲渡価額も参考にすると、譲渡価額の相場は「純資産+営業利益1~3年分」と考えられます。
動物病院業界の特徴として、売却側の動物病院は、買い手の人間性や相性を非常に大事にします。価値観が合うと感じればスムーズにM&A交渉は進むでしょう。しかし、合わないと感じれば、いくら買収価額を上げても同意しなかった事例もあります。交渉の際は注意が必要です。
4. 動物病院業界のM&A・売却・買収、事業承継の事例
この章では、動物病院業界関連のM&Aによる売却・買収、事業承継の事例を紹介します。
- A’aldaJapanによる松原動物病院のM&A
- WithmalによるLキャタルトンとの資本提携
- 楽天によるもっとぎゅっと少額短期保険のM&A
- JVCCによるFORPETSのM&A
- エルムスユナイテッド動物病院によるタイグリスのM&A
- JVCCによるブイアイエスのM&A
- JVCCによるフジフィールドのM&A
- マースによるVCAのM&A
- 富士フイルムによるモノリスのM&A
- YCP Lifemateによる川村動物病院のM&A
- ソフィアホールディングスによるオルタエンターテイメントのM&A
①A’aldaJapanによる松原動物病院のM&A
A’aldaJapan株は、子会社のA’alda Animal Hospital SPC2号を通じて、松原動物病院を子会社化することを決定しました。松原動物病院は関西エリアで高度医療サービスを提供する動物病院です。
今後、松原動物病院の高度医療技術とA’aldaの経営力やバックオフィス機能、マーケティング・企画力を組み合わせることで、より良い医療サービスを提供することを目指します。
②WithmalによるLキャタルトンとの資本提携
Withmalは、プライベートエクイティ投資会社Lキャタルトン・アジア(L Catterton Asia)と資本提携を実施しました。
Withmalは、動物病院経営、動物病院向けのホームページ制作、Web/SNSマーケティング、獣医業界メディア、ペットメディアなどを手掛ける企業です。Lキャタルトンは、コンシューマ業界特化のグローバルな投資会社です。
今回の資本提携により、Withmalは業務負担の軽減や獣医師と顧客の満足度向上を目指し、LキャタルトンはWithmalのサービス品質向上や顧客接点増加を支援します。
③楽天によるもっとぎゅっと少額短期保険のM&A
2018年3月、楽天(現楽天グループ)がもっとぎゅっと少額短期保険の全株式を取得し、子会社化することを決定しました。もっとぎゅっと少額短期保険は、ペットが動物病院で治療や手術を受けるときの費用補償を提供する会社です。
このM&Aにより、楽天は9,500万人超の楽天会員を基盤にアプローチできるため、楽天が持つペットの医療・通院データとEコマースの知見を生かし、楽天会員の要望に合う商品やサービスを開発していくと発表しています。なお、もっとぎゅっと少額短期保険は、楽天少額短期保険に商号変更しました。
④JVCCによるFORPETSのM&A
2017年10月にJVCCは、動物病院やペットサロンを運営するFORPETSを、株式譲渡により買収しました。これにより、JVCCとFORPETSは高度医療サービスの提供を充実させ、獣医師が働きやすく飼い主に信頼される事業運営ができると期待しています。
⑤エルムスユナイテッド動物病院によるタイグリスのM&A
2017年9月、最先端の動物医療に取り組んでいるエルムスユナイテッド動物病院グループは、動物病院向けのIoT、AI機器開発・販売を行っているタイグリスを株式交換により完全子会社化しました。
エルムスユナイテッドは、タイグリスの株式を約22%保有していましたが、完全子会社化することで動物医療技術の開発を加速させる計画です。
⑥JVCCによるブイアイエスのM&A
動物病院やペットサロンを運営するJVCCは、2017年7月、動物病院を運営するブイアイエスを株式譲渡により買収しました。JVCCは、企業による動物病院運営のビジネスモデル構築を進めています。ブイアイエスは、JVCCグループ入りすることで経営面をJVCCに任せ、自身は診療に集中できる体制を整えました。
⑦JVCCによるフジフィールドのM&A
2017年4月、JVCCは動物病院とペットサロンを運営するフジフィールドを、株式譲渡により買収しました。動物病院をはじめとしたペット業界の改革が必要と考えたフジフィールドの代表取締役は、退任し、JVCCの代表取締役に就任しています。
⑧マースによるVCAのM&A
2017年1月、お菓子製造会社のアメリカ企業マースは、アメリカの動物病院運営大手企業であるVCAを、当時の為替レートで約1兆600億円の株式譲渡により買収しました。ペットフード事業に力を入れるマースは、800施設以上の動物病院を持つVCAを傘下に収めることで、ペットフードの販売網を確保しています。
⑨富士フイルムによるモノリスのM&A
富士フイルムは、2016年8月に動物の検体検査受託サービスで国内トップシェアを持つモノリスを、株式譲渡により買収し完全子会社化しました。富士フイルムは、この買収により、近年、需要が高まっているペットの健康診断サービスなどに参入しています。
富士フイルムのIT技術を活用し、検査結果を動物病院などにフィードバックするサービスの強化にも取り組んでいる模様です。
⑩YCP Lifemateによる川村動物病院のM&A
YCPグループ傘下でライフメイト動物病院グループの運営などを行うYCP Lifemateは、2014(平成26)年に、東京で40年以上の経営実績のある川村動物病院を事業譲渡により承継しました。川村動物病院は、最新の医療機器をそろえた高度医療を行っている動物病院です。
このM&Aにより、YCP Lifemateはライフメイト動物病院グループの運営を強化しています。
⑪ソフィアホールディングスによるオルタエンターテイメントのM&A
IT企業のソフィアホールディングスは、2012(平成24)年11月にペット情報サイトの運営やペット保険の販売などを行うオルタエンターテイメントを、株式譲渡により買収しました。ソフィアホールディングスは、買収によりペット分野へ事業領域を拡大しています。
5. 動物病院のM&A・売却・買収、事業承継案件一覧
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継案件の例をご紹介します。
【安定集客/都市圏・好立地】動物病院・ペットホテル運営
対象企業は、東海地方で動物病院・ペットホテルを営む企業です。複数の獣医師を抱え、代表不在でも自走可能な体制を構築しています。視鏡検査・超音波検査・デジタルレントゲン等最新機器を導入しているため高度医療に対応可能です。
さらにがん治療も対応可能で高度治療領域に力を入れています。高品質の診療から、評価も高く、多数の好意的な口コミが寄せられている動物病院です。
エリア | 中部・北陸 |
売上高 | 1億円〜2.5億円 |
譲渡希望額 | 1億円〜2.5億円 |
譲渡理由 | さらなる事業拡大、創業者利潤獲得のため |
【無借金経営/関西地方】動物病院
関西地方にて動物病院を運営する譲渡案件です。無借金経営を継続、設立以降毎期安定した利益を計上、純資産積上げも着実です。有資格者は獣医師4名、動物愛玩看護師5名在籍しています。
エリア | 近畿 |
売上高 | 1億円〜2.5億円 |
譲渡希望額 | 1億円〜2.5億円 |
譲渡理由 | 事業の安定・獣医師業務に専念するため |
【首都圏・好立地】往診対応可能の動物病院
債務超過になるも過去一過性の赤字が原因となっており、現在は収支構造は改善・業歴20年超の実績があって安定した顧客基盤があります。高度医療設備も保有しています。
エリア | 東京都 |
売上高 | 5000万円〜1億円 |
譲渡希望額 | 希望なし |
譲渡理由 | 後継者不在(事業承継) |
6. 動物病院のM&A・売却・買収、事業承継案件の探し方
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継を検討する際に、自院と似た事例を徹底的に分析することが成功へのカギといえます。では、どのように案件を探せばよいのでしょうか。いくつかの方法を紹介しましょう。
- M&Aマッチングサイトから探す
- M&A仲介会社などに依頼する
- 取引先や知人からの紹介
- 金融機関や投資ファンドからの紹介
個人経営や小規模な動物病院などのスモールM&A案件の場合、マッチングサイトやM&A仲介会社を活用するのが最も一般的な方法になります。マッチングサイトは、インターネット上で自院と似た情報を入力し、自ら手軽に案件を見られるのがメリットです。
取引先や知人からの紹介は、親和性が高く、シナジー効果が期待できます。しかし、内容を精査しないままM&Aを進めるかたちになるので注意が必要です。金融機関や投資ファンドの場合、自社の利益を優先して案件を持ってくるケースもあるため慎重に検討しましょう。
7. 動物病院のM&A・売却・買収、事業承継のメリット
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継のメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。この章では、動物病院がM&Aによる売却・買収、事業承継を行うメリットを、売却側・買収側それぞれの立場から解説します。
売却側
動物病院の売却側は、M&Aによって以下5つのメリットが得られます。
- 獣医師の雇用確保
- 後継者問題の解決
- 売却・譲渡益の獲得
- 大きな資本力による安定経営
- 個人保証・債務・担保などの解消
獣医師の雇用確保
開業獣医師は定年がないことから、高齢になっても働き続けるケースが多くみられます。しかし、突然の病気や急逝などの事態では、経営の継続が困難になるでしょう。M&Aによる売却・譲渡であれば、病院経営の継続が可能です。それにより、獣医師の雇用を確保できます。
後継者問題の解決
獣医師業界は、子どもに病院を継がせることが難しい業界でもあります。開業獣医師には技術だけでなく人間性や経営センスが問われるため、「獣医師の子どもは継ぎたがらない」「継いでもなかなかうまくいかない」というケースが少なくないからです。
M&Aによる売却・譲渡であれば、信頼できる後継者を探して引き継げます。
売却・譲渡益の獲得
病院を廃業する場合、手元にお金が残らなかったり、あるいはマイナスになったりします。一方、M&Aによって病院を売却すれば、売却・譲渡益が得られるでしょう。M&Aによる売却・譲渡によって売却・譲渡益を得れば、リタイア資金としても活用できます。
大きな資本力による安定経営
動物病院は、今後、競争の激化と医療技術の高度化により、充実したサービスを提供するための資金が必要になります。M&Aによって、資本力のある動物病院グループなどの傘下に入れれば、安定した経営が可能です。
個人保証・債務・担保などの解消
M&Aの株式譲渡で動物病院を売却した場合、会社の負債は買い手に引き継がれます。それによって、医院長の個人保証や担保差し入れも解消手続きが可能です。事業譲渡では負債が引き継がれないことが多いので、注意しましょう。
買収側
動物病院の買収側は、M&Aによって以下5つのメリットが得られます。
- 獣医師の確保
- 設備や施設の獲得
- 事業エリアの拡大・グループの発展
- 顧客・取引先・ノウハウなどの獲得
- 専門分野・新サービスの獲得
獣医師の確保
動物病院を安定して経営していくには、獣医師の確保が重要です。特に動物病院業界では、獣医師に人間性の高さも求められます。M&Aによって優秀な獣医師を確保できれば、安定した病院経営が可能でしょう。
設備や施設の獲得
近年、先端設備を導入したり、ペットサロン、ペットホテルを併設したりする動物病院が増えています。これらをす全てそろえるには、多くの資金と時間が必要です。M&Aであれば、これらを低コストかつ短期間で取得できます。
事業エリアの拡大・グループの発展
動物病院業界の特性として、新しい地域に参入する場合、その地域に定着するまでには時間がかかります。M&Aによって既存の動物病院をグループ化できれば、始めから固定顧客を得られます。スムーズなグループの発展が可能となるでしょう。
顧客・取引先・ノウハウなどの獲得
動物病院業界は地域性の高い業界です。地域の固定顧客や信頼できる取引先、地域性に合わせたノウハウなどをスムーズに獲得できるかが肝要となります。M&Aによって、すでにこれらを持っている動物病院を取得できれば、円滑な経営が可能です。
専門分野・新サービスの獲得
動物病院業界はペットの多種化やペットの高齢化による病気の多様化で、専門性が細分化されてきました。求められるサービスも多様化してきています。買収側は、M&Aによって専門分野や新サービスを獲得することにより、他の動物病院との差別化が図れるでしょう。
8. 動物病院のM&A・売却・買収、事業承継のデメリット
ここまで動物病院のM&A・売却・買収、事業承継などのメリットについてお伝えしました。しかし、一方で少なからずデメリットがあるのも事実です。以下では注意すべきいくつかのデメリットを売却側・買収側に分けてそれぞれお伝えします。
売却側
動物病院の売却側は、M&Aによって以下2つのデメリットが生じる恐れがあります。
- 長い引き継ぎ期間を要する
- 顧客・取引先・従業員の反対
長い引き継ぎ期間を要することも
一つ目のデメリットは、事業承継に長い引き継ぎ期間を要することもあるということです。M&Aの場合は半年以上かかるケースが多く、難航した場合には数年かかることもあります。なるべく長期化させないためには、時間をかけるべき手続きとなるべく時間をかけずに行う手続きを明確にし、効率的に進めていくことが重要です。
顧客・取引先・従業員の反対
売却側の二つ目のデメリットは、既存の顧客・取引先・従業員から反対の声が出やすいということです。M&Aによって商品・サービスに変化が生じるケースも多く、今までの取引が終了することもあります。さらには従業員のリストラや転勤、社内環境の大幅変化などのリスクもあるため、不満を抱える従業員も少なくありません。
買収側
動物病院の買収側は、M&Aによって以下3つのデメリットが生じる恐れがあります。
開業場所の変更ができない
動物病院は各地域に根付いていることがほとんどのため、すぐに開業場所を変更することができないというデメリットがあります。
移転することが全く不可能というわけではないものの、その地域で利用してくれていた顧客を手放すことになります。新たな顧客を開拓するために移転先のエリア調査やマーケティングなどに時間やコストがかかるため、あまり推奨できる選択ではありません。
開業場所は基本的に変更しづらく、通いづらい場所での買収はとくにリスクが伴うでしょう。
コストがかかる
シンプルにコストがかかってしまうというのもデメリットの一つです。M&Aはコストを抑えながら事業拡大を図る良い手段ですが、それでもある程度大きなコストがかかるケースが多いでしょう。
例えば、M&Aをきっかけとして従業員が離れてしまった場合などには、従業員を募集するための費用なども発生します。思いがけずコストが嵩んでしまうことも多いため、資金は余分に用意しておくことが望ましいでしょう。
従業員離れのリスク
先述した通り、M&Aには従業員離れのリスクも伴います。経営方針が変わることで従業員がモチベーションを保てなかったり、労働条件・労働環境が変化することで退職するケースも多いでしょう。
とくに地域密着の動物病院は従業員同士の信頼関係が厚いことも多いため、一人退職者で出ると複数人が続いて退職してしまうこともあります。新たなオーナーとして受け入れられるようコミュニケーションを密にとったり、従業員の不満をなるべくケアするように努めることが大切です。
9. 動物病院のM&A以外での引退手段
動物病院のM&A・売却、買収、事業承継のメリットは、前章でお伝えしました。ここでは、M&A以外で引退する手段を簡単に紹介します。それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで、M&Aを検討するとよいでしょう。
廃業
動物病院を存続させず、廃業を選択する場合もあるでしょう。経営者自身の意思でいつでも廃業できる点はメリットといえます。しかし、次のようなデメリットがあることも十分に理解が必要です。
- 廃業する際のコストがかかる(建物解体費用・設備や医療機器などの処分費用・賃貸物件であれば内装など原状回復費用・従業員退職金・数百万~1千万円以上の法的手続き費用など)
- 医療提供を続けられない
- 従業員の雇用を守れない
- M&Aの際に得られる売却代金を獲得できない
知人や自院で勤務していた先生への譲渡
M&Aを活用せずに、知人の獣医師などに譲渡する方法もあります。メリットとしては、医療提供の継続・従業員の雇用確保・売却代金獲得(ただし、高額売却は難しい)・経営責任からの解放などです。
しかし、簡単には譲渡先がみつからないことや、後継者の信用問題次第では借入金の個人保証から解放されないことなどのデメリットがあります。M&Aの場合には、そのようなデメリットは考えられません。M&Aの専門家やアドバイザーに相談して、検討することをおすすめします。
10. 動物病院のM&A・売却・買収、事業承継のフロー
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継をする際のフローをそれぞれ簡単に説明します。
- 準備段階
- マッチング段階
- マッチング後からクロージングまで
①準備段階
動物病院のM&Aで売却する際、準備段階として以下のような流れで進めます。
- 依頼するM&A仲介会社を決定し相談する
- 打ち合わせ(決算書・秘密保持誓約書などの提出、仲介契約書の説明)
- 仲介契約書の締結
- ノンネームシート・情報公開シート作成
- プレゼンテーション資料作成
②マッチング段階
動物病院のM&Aで行われるマッチングは、以下の3つに大別されます。
- 仲介会社によるマッチング
- オークションによるマッチング
- マッチングサイト
仲介会社によるマッチング
仲介会社によるマッチングは以下のような流れで進みます。
- 売却側・買収側、それぞれが希望する条件をM&A仲介会社に提示
- 仲介会社は希望に見合った候補先を探し両者に伝える
当初は匿名での情報公開で、本格的な調査や交渉を開始する段階で開示です。M&A仲介会社は、売却側が準備する資料作成のフォローや、買収側が実施するデューデリジェンスなどのサポートなどを行います。専門的な手続きが多いため、M&A仲介会社によるマッチングは安心できる方式といえるでしょう。
オークションによるマッチング
買収を希望する企業が入札するマッチング方式です。買い手候補が多数いると想定される場合に採用されます。売却側は、入札金額や条件を比較・検討し、自社にとって望ましいと思われる相手と交渉が可能でしょう。
企業価値が高く買い手候補が多く見込めると判断した場合には、試す価値があるといえます。しかし、入札する候補があるかどうかはわかりません。その点のリスクがありますので、慎重にマッチング方式を選択するとよいでしょう。
マッチングサイト
マッチングサイトを利用する場合の流れは以下のようになります。
- 売却側・買収側がそれぞれサイトに登録
- 両者が匿名で企業情報を登録
- 気になった相手に交渉をリクエスト
- 相手側がオファーに応じればマッチング成立(交渉成立ではありません)
マッチングサイトによるM&Aは、インターネット上で相手企業を探せるため、手軽にできる点がメリットです。低コストで抑えたい場合にもおすすめします。しかし、マッチングの場を提供するだけで、M&Aの交渉や手続きなどには関わらないので注意が必要です。
サイトによっては、M&A仲介会社を紹介しているところもあります。自社の目的とニーズに合ったマッチング方法を選ぶことが重要です。
③マッチング後からクロージングまで
ここでは、一般的なマッチング後からクロージングまでについて簡単に紹介します。
- 秘密保持契約書の締結
- 買取側への情報開示とヒアリング
- 買取側の仲介契約書の締結
- 買取側の意向表明書取得
- 売却側・買取側双方のトップ面談
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンス(買収監査)の実施
- 譲渡契約書の締結
- 引き渡し(契約内容の履行=クロージング)
- 引き渡し後の引き継ぎ(免許・従業員・顧客など)
11. 動物病院のM&A・売却・買収、事業承継を成功させるコツ
動物病院の経営者の高齢化や後継者問題などから、M&Aを検討する動物病院が増えています。ここでは、M&A・売却・買収、事業承継を成功させるためのポイントをお伝えします。成功へと導くための参考としてください。
- 情報漏えいの防止
- 都合の悪い事実を隠蔽しない
- 早い段階で準備を始める
- M&Aの最後まで慎重にプロセスを進める
- M&A仲介会社に相談・依頼する
①情報漏えいの防止
M&Aを検討する場合、情報管理に十分な注意が必要です。準備段階で情報が漏えいしてしまうと、思わぬトラブルに見舞われたり、案件自体がうまくいかなくなったりします。準備の際には、周囲に情報が漏れないように、情報共有は一部の人に限定することが重要です。
②都合の悪い事実を隠蔽しない
譲渡側は、デューデリジェンスの際に譲受側に対して、都合の悪い事実を隠してはいけません。のちに発覚した場合、進んでいた交渉が頓挫することもあります。M&A実施後に発覚すれば、損害賠償請求の対象となることもあるため注意が必要です。
③早い段階で準備を始める
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継を進めるにあたり、売却先・売却の対象・売却額などの希望条件を早い段階で検討し、M&A仲介会社に相談することをおすすめします。できるだけ早い段階で準備を始めれば、譲受側も検討しやすくなるでしょう。
④M&Aの最後まで慎重にプロセスを進める
動物病院のM&Aでは、1つひとつの交渉を慎重に進めることが重要です。交渉中は、想定しないことが起こり得ます。交渉終了後も、環境整備などさまざまなことへの気配りも必要です。M&Aの専門家に相談しながら、最後まで慎重にプロセスを進めるようにしましょう。
⑤M&A仲介会社に相談・依頼する
動物病院のM&A・売却・買収、事業承継を行う際には、専門的な知識が必要です。経営者だけで交渉を進めるのは、かなり難しいでしょう。M&Aの交渉をスムーズに進め、成功に導くためには、経験豊富なM&Aの専門家やアドバイザーの存在が欠かせません。
M&Aを検討している方は、事前準備を早く始めるだけでなく、M&A専門の仲介会社に相談・依頼することをおすすめします。
12. 動物病院のM&A・積極買収企業
ここでは、動物病院のM&A・買収について積極的な企業を2社、紹介します。
- ライフメイト動物病院グループ
- WOLVES Hand
①ライフメイト動物病院グループ
ライフメイト動物病院グループは、シンガポールに拠点を置くYCP Holdings(Global)Limitedの子会社です。YCP Holdings(Global)Limitedグループにおけるペットケア事業の中核を担っています。当初、YCP Holdings(Global)Limitedは、ペットケア事業の中間持株会社として2014年にYCP Lifemateを設立しました。
本記事でも掲載している事例にもあるように、YCP Lifemateは積極的に動物病院をM&Aで買収しています。その後、買収した動物病院の1つである山口獣医科病院が、ライフメイト動物病院グループに商号変更しました。そして、2020年以降はライフメイト動物病院グループがペットケア事業を担っています。
ライフメイト動物病院グループに所属する動物病院は、東京に3院、神奈川・北海道に各1院、それ以外に、子犬のしつけに関する獣医師監修のオリジナルテキストやペットケア関連グッズを定期宅配するサービスを行う会社が1社あります。
②WOLVES Hand
2019年4月に設立されたWOLVES Handは、これまでに動物病院およびペット関連事業を行う7社を吸収合併してきました。本記事の事例で取り上げているJVCCも、そのうちの1社です(吸収合併は法人格が残る存続会社以外は消滅します)。このM&Aの結果、WOLVES Hand傘下の動物病院は以下のようになっています。
- 大阪:9院
- 東京:7院
- 沖縄・神奈川:各4院
- 埼玉・三重・滋賀・兵庫:各1院
多くのトリミングサロンも運営中です(動物病院併営を含む)。獣医師を目指す獣医学部学生向けにインターネットを介して獣医療情報提供サービスやセミナーなどを開催する事業を行う子会社や、動物病院専用にシステム開発を行う子会社もあります。
13. 動物病院のM&A・売却・買収、事業承継まとめ
動物病院業界のM&Aをスムーズに進め成功させるためには、事前の調査や準備だけでなく、M&Aの知識や交渉力も必要となります。M&A仲介会社など専門家のサポートのもとで行うことが有効です。本記事の概要は以下のようになります。
・動物病院業界の市場動向
→ペットの高齢化問題が表面化、ペットの多種化問題が表面化、ペットにお金をかける人が増加、ペット医療の技術進化、高齢獣医師の廃業と若手獣医師の開業困難
・動物病院業界のM&A動向やM&Aを成功させるポイント
→地域性が強い動物病院は競争が激しい
→優秀な獣医師確保や事業エリア拡大のM&Aなどが目立つ
→高度医療を請け負う動物病院もでき始めており資本力が求められる
→設備や施設を求めるM&Aも活発になっている
→サービスの充実を目指すM&Aも今後増えると予測される
→異業種からのM&Aも拡大していくことが予測される
・売却側のメリット
→獣医師の雇用確保、後継者問題の解決、売却・譲渡益の獲得、大きな資本力による安定経営、個人保証・債務・担保などの解消
・買収側のメリット
→獣医師の確保、設備や施設の獲得、事業エリアの拡大・グループの発展、顧客・取引先・ノウハウなどの獲得、専門分野・新サービスの獲得
14. 動物病院業界のM&A案件一覧
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