2023年12月13日更新
事業承継を行うタイミングとは?時期を検討する際のポイントも解説
事業承継を行うタイミングは全体的に遅すぎる傾向があり、そのために事業承継に失敗してしまうケースも見受けられます。本記事では、事業承継を行うタイミングはいつが適しているのか、時期を検討するポイントや事業承継計画書の作成について解説します。
1. 事業承継を行うタイミングとは?
事業承継は、経営者ならいつかは直面する問題ですが、手続きが面倒でよく分からない、適切な後継者がみつからない、日々の業務が忙しく事業承継を考える暇がないといった理由で、どうしても後回しになってしまうのが実情です。
しかし、事業承継に失敗すれば会社を廃業することにもなりかねず、そうなれば今まで築いた会社がなくなるとともに従業員は雇用を失うことになります。
経営者としては、事業承継の最適なタイミングがいつかを意識しておくことが重要です。この章では、事業承継が行われる理由やタイミングについて解説します。
事業承継とは
事業承継とは、会社や個人事業の現経営者が引退するとともに、後継者が会社・経営を引き継ぐことです。近年は、高齢化により事業承継のタイミングが訪れている企業が増えているものの、対策ができていないケースも多いことが問題となっています。
会社を継ぐというと一番に思い浮かぶのは、現経営者の親族が後を継ぐケースです。親族への事業承継は現在もよく行われていますが、昔に比べるとその割合は減少しており、親族以外の人物に継がせる選択肢を選ぶケースが増えています。
親族以外の選択肢として一般的なのは、社員などを後継者にするケースです。社員なら会社のことをよく分かっているため、現経営者も後継者の適正を見極めやすいメリットがあります。
さらに近年は、M&Aで会社を売却することによって事業承継を行うケースも増えています。親族・社員・M&Aといった多様な選択肢から、適切な事業承継手段を選ぶことが大切です。
事業承継が行われる理由
事業承継が行われる理由として一般的なのは、現経営者が高齢や病気になって仕事を続けるのが難しくなった、気力がなくなり引退したいといったものです。
現経営者が若いうちに、アーリーリタイア目的でM&Aによる事業承継を行うケースもありますが、やはり事業承継は現経営者の高齢が理由となることが多いです。
高齢による引退は経営者目線の理由ですが、従業員の雇用を守るためというのも重要な理由になります。
事業承継を行わず廃業すると、そこで働いている従業員は職を失います。会社に雇用されて給与で生計を立てている会社員からすれば、会社がなくなるというのは人生に大きな影響を及ぼす出来事です。
事業承継を行う理由は、経営者と従業員、そして顧客や取引先など、会社に関わるさまざまな人の視点から考える必要があります。
事業承継を行うベストタイミング
事業承継をどのタイミングで行うべきかは、個々の会社の事情によって正解が変わってきます。早めに行うことで事業拡大できる場合もあれば、じっくりと後継者教育を行い満を持して事業承継するほうがよい場合もあります。
事業承継の最適なタイミングを一般論として考えるのは難しい部分がありますが、中小企業庁は事業承継を行った会社にアンケートをとり、自身の事業承継のタイミングは適切だったと思うかという主観的な感想のデータをとっています。
このアンケートによると、「ちょうどよい時期だった」と回答した会社は、後継者の年齢が平均43.7歳の時に事業承継しているという結果がでています。
そして、「もっと遅い時期のほうがよかった」が平均38.5歳、「もっと早い時期のほうがよかった」が平均50.4歳となっています。
これをみると、40代の後継者に事業承継すると満足度が高くなる傾向があることが分かります。これに対して、実際の事業承継での後継者平均年齢は約50歳となっており、全体的に遅すぎる傾向がみられます。
少し早めに意識して事業承継を計画するのが、よいタイミングであることが多いといえるでしょう。
2. タイミングを踏まえて、事業承継の時期を検討するポイント
中小企業のアンケートデータをみる限り、後継者が40代の時に事業承継するとよいと考えられますが、これはあくまで平均値であって、実際に自社を事業承継するタイミングは個々の実情に合わせる必要があります。
しかし、事業承継のタイミングを探るといっても、具体的なポイントが分からないことがあるかもしれません。
この章では、タイミングを踏まえて事業承継の時期を検討するポイントとして、以下の3点を解説します。
【タイミングを踏まえて事業承継の時期を検討するポイント】
- 後継者の年齢がまだ若い
- 後継者が順調に育っている
- 後継者に経営者の自覚ができてきた
1.後継者の年齢がまだ若い
事業承継の適切なタイミングを図るのは、後継者の年齢がまだ若いうちのほうがよいと考えられます。
前章で紹介したデータによると後継者は40代がよいとのことでしたが、そうなれば事業承継の時期を検討するタイミングはそれより数年早いほうがよいということになります。
会社の経営というのは何の経験や知識もなく始めてもうまくいかないので、事業承継を円滑に行うためにはその数年前から後継者教育を行う必要があります。
その期間も考慮すると、事業承継を考えるタイミングは、後継者が30代後半くらいでも決して早すぎることはないと考えることができます。
後継者が若いうちに事業承継のタイミングを見計らうのは、もし後継者候補が経営者に向いていないことが分かった時にも役立ちます。まだ若いうちなら、早めに経営者を引退して別な職業に就くなど、人生をやり直すチャンスがあります。
2.後継者が順調に育っている
親族を後継者候補にする場合、事業承継の何年も前から後継者教育を行うことになり、その成長具合から後継者としての適性や、事業承継を実行するタイミングを探っていくことになります。
後継者が順調に育ち経営を任せられると感じた時は、事業承継のよいタイミングに入っているといえるでしょう。
ただし、この時点でまだ現経営者に気力や体力が十分あり、まだ経営者としてやっていける場合は判断が難しいところでもあります。
現経営者が経営を続けて後継者には事業承継を待ってもらう場合と、早めに現経営者が引退する場合とで、どちらのタイミングがよいかを考えることになります。
どちらがよいかは個々の会社の事情によって違ってくるので、現経営者と後継者がよく話し合ったうえで、最適なタイミングを決めていくことが大切です。
3.後継者に経営者の自覚ができてきた
会社の経営者となるには、仕事や経営の能力だけでなく、従業員の生活を守るとともに事業によって社会に貢献するといった、経営者としての自覚を持つことも重要になります。
いくら経営の能力が高くても、経営者としての自覚がない後継者が会社を発展させていくのは難しいでしょう。
しかし、経営者の自覚というのは、人に始めから備わっているものではありません。現在は自覚を持っている経営者も、多くの場合は経営の経験を通して自覚を養っていったはずです。
後継者には後継者教育のなかで、経営者としての自覚を持ってもらうことが重要になり、後継者に自覚がでてきたら事業承継のよいタイミングであるといえます。
3. 事業承継を検討する際に忘れてはいけないこと
事業承継はどれだけ慎重に行っても成功するとは限らず、失敗して廃業してしまったり、業績が悪化してしまったりすることもあります。
事業承継が失敗する原因はさまざまですが、事業承継についてあまり勉強せず何となく始めてしまったり、どのような失敗が起こり得るのか理解していないせいで、典型的な失敗例に陥ってしまうのはよくあるケースです。
事業承継を行う際は、成功するための心構えをあらかじめ頭に入れておくことが大切です。この章では、事業承継を検討する際の6つのポイントについて解説します。
【事業承継を検討する際に忘れてはいけないこと】
- 事業承継は時間がかかることを覚えておく
- 後継者の意思を確認し尊重する
- 自社の業種や業態が置かれている状況を確認する
- 現経営者は引き継ぎ後、速やかに引退する
- 国の支援も活用する
- 専門家に相談する
1.事業承継は時間がかかることを覚えておく
事業承継における株式譲渡や相続・贈与の手続き自体は、そこまで長い時間がかかるものではありません。長くても数か月程度あれば、全ての手続きを完了することができます。
事業承継で最も時間がかかるのは、後継者教育の期間と事業承継後の統合プロセスです。これらの期間はそれぞれ数年程度かかるのが一般的であるため、事業承継には長い時間がかかることを自覚しておく必要があります。
具体的に何年かかるかは、個々の事例によりかなり幅がでるので一概には言えませんが、中小企業庁が刊行している「事業承継ガイドライン」によると、事業承継には5年から10年の期間がかかるとされています。
10年というのはかなり長い期間で、例えば70歳で引退すると仮定すると、まだまだ体力・気力のある50代後半のうちから、事業承継のタイミングを模索し始めなければならないことになります。
ただし、これだけの期間がかかるのは、親族や社員を後継者にする場合です。M&Aによる事業承継の場合は後継者教育の期間がないので、事業承継にかかるトータルの期間は短くなります。
2.後継者の意思を確認し、尊重する
事業承継は、後継者が経営の意欲をしっかり持っていることが前提です。よって、後継者の意思を確認して、その意思を尊重することが大切です。
現経営者はずっと息子が後を継いでくれると思い込んでいたのに息子にはその意思がなく、事業承継を巡ってトラブルになるといった事例は多くみられます。
意思がないにもかかわらず無理矢理後継者にしても、本人と会社どちらにもよい結果とはならず、トラブルが長引けば事業承継のタイミングも逃してしまうことにもなります。
後継者候補に対しては経営者になる意思を確認するとともに、後継者教育を通して経営のやりがいや面白さを伝え、後継者となる意思を育てることも重要です。
3.自社の業種や業態が置かれている状況を確認する
自社の経営状況や業界動向は常に変化するので、適切なタイミングで事業承継を行うためには、自社の業種や業態が置かれている状況を確認することが大切です。
自社が営んでいる事業が今後どれくらい伸びそうなのか、業種は成長産業・成熟産業・衰退産業のうちどれにあたるのかをあらためて分析して、どのタイミングで事業承継を行うのが最適か、そもそも事業承継を行うべきなのかを検討します。
自社の状況に関しては、今現在販売している製品・サービスはどれくらい伸びそうか、新しい製品やサービスを開発する能力が自社にどれくらいあるかなどを分析して、現在の経営状況と今後の経営課題を洗い出していきます。
状況の把握は経営者だけで行うよりも、専門家や金融機関のサポートを得るほうが効率よく進めることができます。また、中小企業庁の「事業承継診断」を受けるのもおすすめです。
事業承継診断は、商工会議所などに設置されている「事業承継ネットワーク事務局」で受けることができます。
4.現経営者は引き継ぎ後、速やかに引退する
事業承継は後継者へ会社を引き継ぐことなので、前経営者は後継者が新社長となったら速やかに引退すべきといえるでしょう。
中小企業の事業承継では、後継者が社長に就任した後も、前経営者が後継者にあれこれ口出ししてトラブルになるケースも多いですが、後継者が後を継いだら前経営者は後継者を信頼して会社を任せなければなりません。
ただし、後継者が社長としての仕事に慣れるまでの間、しばらくの間は前経営者が新社長のサポートをすることで、事業承継をスムーズに進められる場合があります。
サポートをする場合、経営のかじ取りはあくまで新社長が行うもので、前経営者はそれを助けるための手伝いに徹することが大切です。
前経営者が会社を自分の思い通りにしようとすると、後継者の経営の邪魔をしてしまうことにもなります。
5.国の支援も活用する
中小企業の事業承継による廃業の回避は、高齢化が進む日本において重要な課題となっており、国も支援機関の設置や税制優遇などでサポートしています。
例えば、親族や社員への事業承継に関しては、相続税や贈与税を猶予・免除する「事業承継税制」を制定しています。
この税制により、現金化できない株式を贈与・相続した時に、贈与税・相続税の資金を別に用意する必要がなくなります。
税金を用意できないために事業承継が実行できないケースは非常に多いため、この税制は事業承継の大きな後押しになると考えられます。
M&Aによる事業承継に対しては「事業引継ぎ支援センター」などの支援機関を設置して、M&A先の選定や相談を受け付けています。
事業引継ぎ支援センターは中小企業のM&Aを対象としており、手数料負担が重くM&A仲介会社を利用できない場合も手軽に相談できるようになっています。
6.専門家に相談する
事業承継はタイミングが大事だといっても、事業承継の経験がない経営者にとっては、いつが最適なタイミングなのかよく分からないことが多いでしょう。
事業承継を行う時は、事業承継の経験が豊富でタイミングに熟知している専門家のサポートを得るのがおすすめです。
M&Aによる事業承継の場合は、M&A仲介会社などを利用するのもおすすめです。M&A仲介会社はM&A経験が豊富なので、業界動向なども踏まえた事業承継のタイミングについてアドバイスを受けることができます。
4. 事業承継計画書とは
事業承継計画書の書式に特に決まりはありませんが、中小企業庁が一例としてひな形を公開しているので、それを参考にするとよいでしょう。中小企業庁によるひな形では、以下のような項目を記入するとよいとされています。
【事業承継計画書に記入する項目】
- 経営理念(企業ビジョン)
- 企業概要、沿革、受賞歴
- 現状の棚卸(現経営者、後継者が共有しておくべきこと)
- 事業承継における課題の整理
- 円滑な事業承継への骨子
- 承継カレンダー
【事業承継計画表に記入する事項】
- 事業計画(売上高・経常利益)
- 会社(定款・株式・その他)
- 現経営者(年齢・役職・関係者の理解・株式と財産の分配・持株比率・その他)
- 後継者(年齢・役職・後継者教育・持株比率)
- 補足
事業承継計画書を作成する理由
事業承継計画書を作成する理由としては、主に以下の3点が挙げられます。
【事業承継計画書を作成する理由】
- 知的資産を見える化し事業承継の流れを客観的に理解できる
- 事業承継税制の特例措置の適用の際に必要となる特例承継計画策定のため
- 周りの信頼を得るため
1.知的資産を見える化し事業承継の流れを客観的に理解できる
事業承継計画を作成することで、見えにくい経営資源(人材、技術、技能、顧客とのネットワーク等の知的資産)を見える化でき、現経営者と後継者で、自社の現状や将来の見通しについての認識を共有することなどができます。
また、事業承継は5年から10年かけて行うものなので、頭でスケジュールを思い描くだけでは、実行に移す時に思い通りにならないこともありますが、スケジュールを事業承継計画表として書面にしておけば、流れを客観的に理解できるとともに、現経営者と後継者の認識のすり合わせも行いやすくなります。
2.事業承継税制の特例措置の適用の際に必要となる特例承継計画策定のため
平成30年に行われた事業承継税制の改正で、平成30年4月から令和5年3月の間に特例承継計画を都道府県知事に提出し、確認を受けた場合、現行の事業承継税制よりさらに優遇される特例措置の適用を受けられるようになりました。
その特例承継計画を策定する際に、事業承継計画が参考になります。
特例措置では相続税が100%猶予されるため、相続税を全く支払わずに事業承継を行うことができます。この5年間に事業承継のタイミングを迎える会社であれば、ぜひ活用しておきたい制度です。
3.周りの信頼を得るため
事業承継計画をきちんと書面で記しておくと、取引先や融資を受けている金融機関から信頼を得やすくなります。
経営者が交代する事業承継は、取引先や金融機関にとって不安があるものなので、安心感を与えることは大切です。
事業承継計画書を作成するのにベストなタイミング
事業承継計画書は、事業承継前の後継者育成からスケジュールを記入していきます。よって、作成するベストなタイミングとしては、本格的な後継者教育を始める少し前がよいと考えられます。
5. まとめ
事業承継のタイミングは、後継者が40代に行うと満足度が高い傾向があります。その一方で、実際の事業承継における後継者の平均年齢は約50歳です。
事業承継は早めに行うよう意識することが、最適なタイミングを逃さないポイントだといえるでしょう。
【タイミングを踏まえて事業承継の時期を検討するポイント】
- 後継者の年齢がまだ若い
- 後継者が順調に育っている
- 後継者に経営者の自覚ができてきた
- 事業承継は時間がかかることを覚えておく
- 後継者の意思を確認し尊重する
- 自社の業種や業態が置かれている状況を確認する
- 現経営者は引き継ぎ後、速やかに引退する
- 国の支援も活用する
- 専門家に相談する
- 経営理念(企業ビジョン)
- 企業概要、沿革、受賞歴
- 現状の棚卸(現経営者、後継者が共有しておくべきこと)
- 事業承継における課題の整理
- 円滑な事業承継への骨子
- 承継カレンダー
- 知的資産を見える化し事業承継の流れを客観的に理解できる
- 事業承継税制の特例措置の適用の際に必要となる特例承継計画策定のため
- 周りの信頼を得るため