2022年10月03日更新
経営者保証ガイドラインとは?活用するための条件、事業承継での特則の活用も解説
経営者保証ガイドラインとは、融資の際における経営者保証の解除や見直しをするために定められたルールで、中小企業経営者にとって非常に利用価値が高いものです。本記事では、経営者保証ガイドラインについて、事業承継のための特則も含めて解説します。
目次
1. 経営者保証ガイドライン(特則)とは
近年、国は中小企業の存続のために事業承継を推進しています。しかし、経営者保証がネックとなり事業承継が進まないケースが多く存在します。
なぜ、経営者保証は事業承継の推進を阻害するのでしょうか。この章では、経営者保証の基本的な内容を解説します。併せて、経営者保証に関するガイドラインとその特則に関する概要も見ましょう。
経営者保証とは
経営者保証(または個人保証)とは、会社が金融機関から融資を受ける際、経営者やその親族などが保証人となる制度です。経営不振などで返済できなくなった場合は、代わりに経営者が返済しなければなりません。
経営者保証は経営者にとって大きな負担ですが、この制度のおかげで、金融機関は信用力のない中小企業でも融資しやすくなります。実際、中小企業庁の調査によると、融資を受けている中小企業のうち、8割以上が経営者保証をつけているデータを得ています。
高額の保証が生じるケースもある
会社や事業の規模によっては、経営者保証の額が非常に高額になることもあるでしょう。例えば、中堅規模の企業が数千万円の融資を受けていた場合、返済が滞ったときに、経営者は多額の借金を背負ってしまいます。
個人が数千万円の借金をスムーズに返済するのは困難で、ほとんどの場合、家や車などを売却して返済に充てるため、経営者の生活が破綻します。
経営者保証は融資を受けやすくなる半面、会社の破綻が経営者個人の破綻にもつながるリスクがあるでしょう。
経営者保証に関するガイドライン
経営者保証に関するガイドラインとは、経営者保証がネックとなり中小企業の健全な経営が阻害されるのを防ぐために、日本商工会議所と全国銀行協会が中心となって2014年に運用開始されたガイドラインです。
経営者保証に関するガイドラインでは、一定の条件を満たす場合に、金融機関は融資先に対して経営者保証を求めないことや、経営者保証によって経営者の生活が破綻しないように、生活費などの財産を残すことなどが定められています。
これにより、経営者が経営者保証をしなくて済む、または保証債務を返済しても経営者の生活が破綻しないようにすることで、中小企業の健全な経営を促すことが期待されています。
経営者保証に関するガイドライン特則
経営者保証に関するガイドラインが策定された5年後の2019年に、経営者保証に関するガイドラインの特則が策定されました。
特則とは、経営者保証が事業承継を阻害しないようにするルールです。前経営者と後継者の両方に経営者保証を課す、いわゆる「二重徴求」を行わないことなどをメインに、事業承継の際における経営者保証の取り扱いを定めています。
経営者保証ガイドラインが策定された背景
経営者保証ガイドラインが策定された背景には、積極的な経営や事業承継を推進し、事業再生を行いやすくする意図があります。経営者保証は信用力の低い中小企業でも融資が受けやすいメリットがありますが、返済できなくなると経営者自身が借金を背負い、これを恐れて積極的な経営ができなくなるケースもあるでしょう。
事業承継で後継者となる者が経営者保証を背負いたくない理由から、事業承継をあきらめるケースも見られます。中小企業の事業承継は近年における日本の重要な課題なので、経営者保証がネックになって事業承継が進まないのは大きな問題です。
経営不振の企業が事業再生を行おうとしても、経営者保証のために経営者が生活で精一杯になり、事業再生どころではなくなるのも経営者保証の問題点です。
【経営者保証ガイドラインが策定された背景】
- 経営者保証が積極的な経営を阻害するケースがある
- 経営者保証のせいで後継者が事業承継を拒否するケースがある
- 経営者保証があると事業再生を行いにくい
経営者保証ガイドラインの目的
2013年に経営者保証に関するガイドライン研究会が公表した資料によると、経営者保証ガイドラインが策定された目的は以下になります。
【経営者保証ガイドラインの目的】
- 合理性のある経営者保証のあり方を提示する
- 債務整理で経営者保証を公正・迅速に整理するルールを示す
- 金融機関などと保証人の信頼関係を構築・強化する
- 中小企業の成長、および事業承継を促進する
- 中小企業の活力を引き出し日本経済を活性化する
経営者保証ガイドラインの位置づけ
経営者保証ガイドラインは、中小企業と金融機関が経営者保証に関して自主的に守るべきルールという位置づけです。
経営者保証ガイドラインは法律ではないので、守らなくても罰則はありません。しかし、中小企業と金融機関が信頼関係を持って取引を続けていくためには、経営者保証ガイドラインを順守することが大切です。
2. 経営者保証ガイドラインの効果・ポイント
経営者保証ガイドラインは、経営者保証をつけない融資を推進するだけでなく、すでに契約済みである経営者保証の解除や見直し、債務を返済するときの経営者における生計費用の保護、保証債務履行時の残額免除も重要なポイントです。
【経営者保証ガイドラインのポイント】
- 経営者保証契約の解除・見直し
- 債務を返済するときの生計費用の保護
- 保証債務履行時の残額免除
経営者保証契約の解除・見直し
経営者保証ガイドラインでは、すでに経営者保証をつけて契約した融資に対し、保証を解除したり見直したりするための条件が定められています。
これによると、解除・見直しの条件は新規融資を行うための条件と同じで、会社と経営者の資産などがきちんと分離されている、財務基盤がしっかりしている、経営の透明性があることが条件です。
これらの条件を満たし、将来も条件を満たせると見込めるときに、すでに契約している経営者保証の解除・見直しを検討できます。
中小企業から経営者保証の解除・見直しの申し入れを受けた場合は、金融機関は真摯に対応するとともに、検討結果などを丁寧に説明することが求められます。
債務を返済するときの生計費用の保護
経営者保証によって経営者が会社の債務を返済する際、家や家財道具などの財産を没収されると、経営者個人の生活が成り立ちません。
こういった事態を避けるために、経営者保証ガイドラインでは、経営者が債務を返済する際、生活費などを残すためのルールを定めています。
具体的には、月33万円の生活費を90日から330日分残します。33万円は、総務省が試算した4人家族の平均的な生活費で、90日から330日は、雇用保険の給付期間を参考にした期間です。
自宅を売却できない場合は、自宅を残すことを金融機関が検討します。この際、自宅が不必要に華美でないことが条件です。
保証債務履行時の残額免除
経営者保証ガイドラインでは、経営者保証そのものを解除・見直しするだけでなく、保証債務を履行する際、返せない分は原則として免除すべきと規定しています。
金融機関は、経営者側における残額免除の申し出に対して誠実に対応しなければなりません。
3. 経営者保証ガイドラインの適用対象・条件
経営者保証ガイドラインでは、経営者保証をつけない融資や、経営者保証がある融資の見直し・解除などを定めていますが、全ての中小企業にこのガイドラインを適用するわけではありません。
経営者保証ガイドラインの適用対象となるのは、一定の条件を満たした中小企業のみです。経営者保証ガイドラインに従って経営者保証の見直しや解除を求める際は、これらの条件を把握しましょう。
条件の中には、条件を満たすために短期的な改善が可能なものと、長期的な経営改善をしなければ条件を満たすことが難しいものがあります。
短期的に改善できるものは申し入れの前にあらかじめ改善するとともに、長期的に条件を満たせる健全な経営を普段から行っておくことが重要です。
経営者保証なしでの融資新規契約・既存の経営者保証の契約解除
ここでは、経営者保証なしでの融資新規契約と、既存の経営者保証における契約解除の対象や条件を見ましょう。
適用対象
経営者保証なしでの融資新規契約に経営者保証ガイドラインを適用できる対象は、以下のとおり中小企業である、保証人は個人であるなどです。
中小企業は、一般的に中小企業基本法で定義される中小企業や小規模事業者をさしますが、経営者保証ガイドラインでは、必ずしも法律上の中小企業に限定せず、個人事業主や社会福祉法人なども含めます。
【新規契約・既存の契約解除における適用対象】
- 債務者は中小企業などである
- 保証人は個人である
- 保証人は債務者である会社の経営者などである
- 保証人は誠実に返済する意思がある
- 財務に関する情報などを適切に開示している
- 反社会勢力ではない
適用条件
経営者保証なしでの融資新規契約において、経営者保証ガイドラインを適用するための条件には、会社と経営者がきちんと区別されている、財務基盤の強化などがあります。
中小企業では、経営者の資産と会社の資産がはっきり区別されていないことが多く、財務状況の把握なども正確に行われていないことが多いです。
経営者保証ガイドラインを適用したい場合は、会社の財務などについてあらためて点検し直すことが重要です。会社と経営者の財産分離のために資産の移動などを行うと、その際に税金が発生することもあるので注意しましょう。
【新規契約・既存の契約解除における適用条件】
- 財務などにおいて会社と経営者がきちんと区別されている
- 財務基盤の強化
- 財務状況を正確に把握している
- 適切な情報開示により経営の透明性を確保している
経営者保証ガイドラインに準ずる債務整理
経営者保証ガイドラインは、新規の融資や既存の融資における保証解除だけでなく、債務整理を円滑に行う際にも活用できます。ここでは、経営者保証ガイドラインに従って債務整理を行う際の適用対象や条件を見ましょう。
適用対象
経営者保証ガイドラインによる債務整理の適用対象となる企業は、新規契約・既存の契約解除における適用対象と同じです。債務者は中小企業などである、保証人は個人であるなど、前節で解説した条件を満たす企業が対象となります。
適用条件
経営者保証ガイドラインに準ずる債務整理を行うためには、以下の条件を満たす必要があります。
【経営者保証ガイドラインに準ずる債務整理の適用条件】
- 法的整理などを行っている
- 債権者にとって適用するメリットがある
- 免責不許可事由が生じていない
- 債務整理は準則型私的整理手続を利用する
- 弁済計画について債権者全員の合意がある
法的整理とは、破産手続きなどの法的債務整理手続と、事業再生ADRなどの準則型私的整理手続のことです。法的整理は経営者保証ガイドラインの適用と同時進行で行っても、先に完了してもかまいません。
免責不許可事由とは、破産法に規定されている、免責が許可されなくなる事由のことです。例えば、債権者に対して財産を不当に隠匿・処分したり、浪費や賭博、ハイリスクな投資などで債務が膨らんだりする場合などが該当します。
4. 経営者保証ガイドラインの利用手続き
この章では、経営者保証ガイドラインの利用手続きを見ましょう。
最初に、主な債務者である法人・会社に関して、法的債務整理手続(破産手続・民事再生手続・会社更生手続・特別清算手続)、あるいは準則型私的整理手続(中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム・事業再生ADR・私的整理ガイドライン・特定調停など)を取る必要があります。
主な債務者による手続開始の申立てなどと同時(あるいはその後)に、経営者保証ガイドラインを用いた私的整理を実施します。私的整理は、裁判外における交渉・協議での利用も理屈上可能です。しかし、対象となる債権者は了承しないため、交渉のみで経営者保証ガイドラインを利用した私的整理を行うのは困難といえるでしょう。
準則型私的整理手続で経営者保証ガイドラインを用います。中小企業は規模にもよりますが、一般的に中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム、あるいは裁判所の特定調停を用います。
5. 経営者保証ガイドラインの特則と事業承継
2019年に策定され2020年から適用されている「経営者保証ガイドラインの特則」は、事業承継の際に後継者が不要な経営者保証を負わず、後継者として事業を継ぐ決断を促すために作られました。
事業承継を行う際は、経営者保証ガイドラインの特則を理解しましょう。
特則において金融機関に求められているポイント
特則では、事業承継で経営者保証を課すか判断する際に、金融機関に求められるポイントが規定されています。
最も重要なのは二重徴求の原則禁止ですが、それ以外にも以下のポイントがあります。ここでは、金融機関に求められるこれらのポイントを見ましょう。
【特則において金融機関に求められているポイント】
- 前経営者と事業後継者への個人保証の二重徴求は原則禁止
- 事業後継者への経営者保証は柔軟に対応する
- 前経営者との保証契約に対する適切な見直しを行う
- 経営者保証を求める際は具体的に説明する
- 内部規約の見直しなどを行い、特則に対応できるよう手続きを整備する
前経営者と事業後継者への個人保証の二重徴求は原則禁止
事業承継では、前経営者が経営者保証をしているのに、さらに後継者へ二重に経営者保証を課されることがあります。経営者保証ガイドラインの特則では、こうしたいわゆる二重徴求は原則として禁止されていますが、どうしても二重徴求が必要な場合は、例外として行ってもよいとされています。
例えば、前経営者の死亡により相続で事業承継を行う際、手続き上、一時的に二重徴求になってしまう場合があるでしょう。前経営者が多額の債務を抱え、経営者保証の解除が適当でないと判断される場合も、例外的に二重徴求を行ってもよいとされています。
事業後継者への経営者保証は柔軟に対応する
事業承継で後継者に経営者保証を求める際は、金融機関は後継者に対し経営者保証についてしっかりした説明と情報開示を行わなければなりません。
本当に経営者保証が必要なのか、経営者保証が事業承継にどのような影響を与えるかなどをきちんと議論し、柔軟に対応する必要があります。後継者に経営者保証をつけるべきと判断した場合でも、解除条件付保証契約などの代替的な方法を検討するべきです。
前経営者との保証契約に対する適切な見直しを行う
前経営者が引退後も経営者保証を負うことは、第三者保証に該当する可能性があります。現在は原則として第三者保証は行わないので、事業承継の際は保証の見直しを検討しましょう。
前経営者に経営者保証をつける場合は、前経営者が会社に対してどれくらいの支配権を持っているかなどを考慮し、本当に保証をつけるべきかを慎重に判断しなければなりません。
特に前経営者がすでに役員を退任して議決権も少ない場合は、より慎重な判断が必要です。慎重な判断の結果として前経営者に経営者保証をつけた場合でも、定期的に契約の見直しを行うべきとされています。
経営者保証を求める際は具体的に説明する
経営者保証を求める際は、相手に対してその内容を具体的に説明しなければなりません。
例えば、会社と経営者の分離や財務基盤の強化といった、経営者保証ガイドラインで定められている保証解除の条件のうち、どの条件を満たしていないために保証をつけることにしたのか、きちんと説明する必要があります。
どのような改善をすれば経営者保証を外せる可能性があるかについても、具体的に説明しなければなりません。
経営者保証の債務を整理する際は、生活費や自宅などの財産を残せることがガイドラインに書いてあることを、金融機関から経営者に説明します。
内部規約の見直しなどを行い、特則に対応できるよう手続きを整備する
経営者保証ガイドラインの特則を順守するためには、金融機関の内部規約を適宜見直して、特則に対応できるよう整備することが求められます。
その内部規約や社内マニュアルを、金融機関の職員にしっかり周知させることも大切です。内部規約やマニュアルの作成は、どのような場合に経営者保証の付与が認められるかについて、具体的な基準を設けましょう。
特則を活用する際の相談窓口
経営者保証ガイドラインの特則を活用したい場合の相談窓口は、商工会・商工会議所・中小企業基盤整備機構・金融機関があります。中小企業基盤整備機構(中小機構)とは、中小企業やベンチャー企業向けの研修や融資、経営を学ぶ学校の運営などにおける活動を行っている機関です。
【特則を活用する際の相談窓口】
- 商工会
- 商工会議所
- 中小企業基盤整備機構
- 金融機関
事前準備などのサポートを依頼できる専門家派遣制度
特則を利用する際は、「専門家派遣制度」の制度を活用するとよいでしょう。
専門家派遣制度とは、弁護士や税理士などの専門家を派遣してもらい、自社が経営者保証ガイドラインの適用条件を満たすかどうか、満たすためにはどのような改善を行えばいいかのアドバイスを受けられる制度です。
専門家派遣制度は、債務整理の際も利用できます。債務整理におけるサービスでは、保証人がどれくらいの資産を持っているのか調べたり弁済計画策定のサポートをしたりします。
専門家派遣制度は、年3回まで無料で利用できるので、利用したい場合は、商工会や商工会議所、中小企業基盤整備機構に問い合わせてください。
6. 経営者保証ガイドラインとM&Aに関する相談先
事業承継やM&Aは、経営者保証ガイドラインを始めとするさまざまな専門的知識を必要とします。円滑に事業承継やM&Aを行うには、仲介会社など専門家のサポートを得ることが不可欠です。
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7. 経営者保証ガイドラインのまとめ
経営者保証ガイドラインは、非常に利用価値の高い制度ですが、その存在を知らない経営者が多い現状があります。経営者保証ガイドラインをよく理解し、不要な保証を負って経営に負担が出ないようにしましょう。
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