事業譲渡における消費税の取り扱いは?課税・非課税資産の分類から納税方法も解説!

会計提携第二部 部長
向井 崇

銀行系M&A仲介・アドバイザリー会社にて、上場企業から中小企業まで業種問わず20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、不動産業、建設・設備工事業、運送業を始め、幅広い業種のM&A・事業承継に対応。

本記事では、事業譲渡の消費税について、計算方法や注意点等を紹介します。併せて、事業譲渡における売り手・買い手の仕訳例や、消費税の課税資産と非課税資産の分類なども解説します。事業譲渡の際に発生する主な税金は法人税と消費税です。事業譲渡を検討している方は必見です。

目次

  1. 事業譲渡における消費税とは
  2. 事業譲渡の課税資産と非課税資産の分類
  3. 事業譲渡における消費税の計算方法
  4. 事業譲渡の仕訳
  5. 事業譲渡における消費税の納税義務がないケース
  6. 事業譲渡における消費税の4つの注意点
  7. 事業譲渡における消費税の取り扱いのまとめ
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1. 事業譲渡における消費税とは

当記事では、M&Aスキームの一つである「事業譲渡」を実施した際に発生する「消費税」について解説します。現在、事業譲渡を検討されている方は、事業譲渡における消費税の計算方法や仕訳例、注意点などをチェックしてください。

事業譲渡で支払う税金

売り手側企業が持つ「事業」を買い手側企業に売却するのが「事業譲渡」です。この事業譲渡が実施された際に発生する税金は2種類あります。それは、「消費税」と「法人税」です。

消費税

M&Aスキームとして事業譲渡が実施され、売り手側が保有する事業を買い手側に譲渡した場合、「消費税」が発生します。M&Aスキームの一つである「株式譲渡」では、消費税が発生しません。

事業譲渡は、「事業」という会社の資産・負債・人材・ブランドといった財産を、M&Aによって売買する行為と認識されます。事業(資産)の中に「課税資産」が含まれていると考えられる場合、消費税が発生する仕組みです。

事業譲渡における消費税は、2022年現在の消費税率を適用させると「課税資産額×10%」で計算できます。

例えば、事業譲渡における「全資産額」が10億円で、事業の「非課税資産」が2億円だった場合、「(10億円-2億円)×10%=8,000万円」が消費税額です。

消費税の納付を正確には、事業譲渡側が「移転する課税資産に消費税率を掛け合わせた額」を「事業譲受側」から徴収して、消費税申告時に納付します。

事業譲受側は事業譲渡時に支払った消費税のうち、「仕入控除税額」として認識されるものには、消費税申告時に還付を受けられる可能性があるでしょう。「簡易課税」を採用している場合は還付を受けられません。

M&Aによる事業譲渡を実施する際、消費税が発生することを失念していると資金計画がうまくいかなくなるケースがあります。「事業譲渡には消費税が発生する」ことをしっかり理解しておきましょう。

法人税

事業譲渡の際には、消費税の他に「法人税」が発生します。事業譲渡は、売り手側企業が持つ事業を買い手側に売却し、売却金額は「売り手企業」が受け取ります。このとき、売り手側に事業譲渡での売却利益が出ていれば、それは「法人税」の課税対象です。

事業譲渡では、譲渡する事業の「資産と負債の差額」を超過する売却金額が「事業譲渡における売却益」とみなされます。

企業・法人の利益に課される税金は、法人税だけではありません。その他に、地方法人税、法人住民税、事業税、特別法人事業税があります。これらの税金に関する全ての税率を合わせたものを「実効税率」と呼び、実効税率はおよそ30%です。

事業譲渡とは異なるM&A手法である「株式譲渡」では、売り手側が法人か個人かで発生する税金が変わります。株式譲渡のM&Aスキームでは、譲渡企業の「株主」が、買い手側に株式を売却し、その売却代金を受け取るのが常です。

株式を売却した株主が法人であれば事業譲渡と同様に法人税が課されます。株主が個人である場合、株式売却によって獲得した利益は譲渡所得であり、課税される税金は所得税です。

事業譲渡・事業売却でかかる税金の種類や相場については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業譲渡・事業売却でかかる税金の種類や相場!節税方法も解説!
【関連】事業譲渡とは?メリットや手続きの流れと注意点を徹底解説!その他スキームとの違いは?

2. 事業譲渡の課税資産と非課税資産の分類

事業譲渡における消費税の計算では、譲渡される事業資産を「課税資産」と「非課税資産」に分類する必要があります。

事業譲渡において売却される「資産」のうち「課税資産」と「非課税資産」には、どのようなものが当てはまるのか見ましょう。

課税資産の分類

事業譲渡で売却される資産のうち、以下のものは「課税資産」として分類されます。「課税資産」として分類されるものは、文字どおり事業譲渡における消費税の課税対象です。

  • 有形固定資産(土地を除く)
  • 無形固定資産
  • 棚卸資産
  • のれん代

有形固定資産(土地を除く)

事業譲渡における課税資産の一つが「有形固定資産」です。有形固定資産とは、譲渡される事業に付随する「建物」「器具備品」「車両運搬具」「機械装置」「船舶」などをさします。

ただし、通常の「有形固定資産」のうち、「土地」は「課税資産に含まれない」ので、注意が必要です。譲渡される資産のうち「土地」は、消費税の計算時に除外されます。

無形固定資産

「無形固定資産」も、事業譲渡の消費税課税対象となる「課税資産」の一つです。無形固定資産とは、文字どおり「形のない資産」で、「長い期間にわたって利用できる資産」が該当します。

具体的には、「特許権」「商標権」「漁業権」「意匠権」「ソフトウェア」などです。

棚卸資産

事業譲渡における「課税資産」の一つとなるのが「棚卸資産」です。「棚卸資産」とは、企業が販売や加工することを目的に保有している資産をさします。

企業がこれから販売しようとしている「商品」や、加工して商品を作るための「原材料」が、「棚卸資産」です。一般的には、「在庫」と表現されることもあります。

のれん代

「のれん代」も「課税資産」の一つです。「のれん代」は「営業権」と表現されることもあります。

「のれん代」は、譲渡される事業が持つ「利益を生み出す力」のことです。例えば、「その企業・事業が持つ独自のノウハウ」や「顧客」「取引相手」などをさします。

「のれん代」自体を具体的に計算するのは難しく、「営業キャッシュフローの3~5年分」として算出されるのが一般的です。「営業キャッシュフロー」とは、事業活動から企業が得た利益を「現金収支」として計算したもので、「営業利益+減価償却費」で計算されます。

非課税資産の分類

続いて、事業譲渡における「非課税資産」の分類に関する説明です。「非課税資産」に該当する資産は、事業譲渡の消費税を計算する際に「売却金額から差し引かれるもの」になります。「非課税資産」とされるのは、以下の資産です。

  • 土地
  • 有価証券
  • 債権

土地

「課税資産」の部分でも触れましたが、「土地」は「非課税資産」の一つです。通常の仕訳・会計処理では、「土地」は「有形固定資産」として処理されます。

「有形固定資産」として仕訳が行われるため、土地は「課税資産」と思われがちですが、事業譲渡の消費税計算に関しては、例外的に「非課税資産」です。

有価証券

事業譲渡では、消費税の「非課税資産」と分類されるものの一つに「有価証券」があります。有価証券とは、企業が保有する「株式」や「商品券」「小切手」「手形」などのことです。「有価証券」は消費税を計算する際に、売却金額から控除されます。

債権

事業譲渡における資産のうち、「非課税資産」として分類されるものに「債権」があります。「債権」とは、自社が他社に対して、「ある行為を請求する権利」のことです。仕訳・会計処理における「売掛金」などがこれに当たります。

M&Aスキームの事業譲渡と株式譲渡の違いについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】M&Aスキームの事業譲渡と株式譲渡の違い|メリット・デメリット、選択ポイント、税務面も解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

3. 事業譲渡における消費税の計算方法

ここまで、事業譲渡における消費税を計算する際に必要となる要素「課税資産」と「非課税資産」を説明しました。この項では、具体的な「事業譲渡における消費税の計算方法」を解説します。

計算に用いる消費税率は、2022年現在の消費税率である「10%」とします。事業譲渡では以下の場合、消費税がどのようにして求められるのか確認してください。

  • 建物:6,000万円
  • 土地:1億円
  • のれん代:2,000万円
  • 棚卸資産:2,000万円
  • 特許権:1,000万円
  • 債権:3,000万円

上記の資産を「課税資産」と「非課税資産」に分類しましょう。「課税資産」は建物・のれん代・棚卸資産・特許権になります。「非課税資産」は土地・債権です。

課税資産の合計額は、建物『6,000万円』+のれん代『2,000万円』+棚卸資産『2,000万円』+特許権『1,000万円』=1億1,000万円となります。非課税資産の合計額は土地『1億円』+債権『3,000万円』=1億3,000万円です。

事業譲渡における消費税は、「課税資産」に「消費税率」を掛け合わせることで算出できます。1億1,000万円×10%=1,100万円がこの事業譲渡における消費税です。

この例の場合、非課税資産として計算される1億3,000万円は、消費税の計算にはかかわりのない数字となります。

事業譲渡の際に承継される契約関係については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業譲渡の際に承継される契約関係まとめ!債務・売掛金・買掛金・雇用関係・不動産など

4. 事業譲渡の仕訳

この章では、事業譲渡の仕訳について、売り手と買い手に分けて見ましょう。

売り手の仕訳例

まずは、売り手(譲渡側)の仕訳例を紹介します。

事業移転直前の帳簿価格に基づいて算出される「株主資本相当額」と「譲渡価格」との差額は、基本的に「移転損益」です。事業譲渡にかかった支出額は、その支出が発生した事業年度の費用(負債)として仕訳処理されます。

【譲渡側の仕訳例】

  • 譲渡資産の帳簿価格:400
  • 譲渡負債の帳簿価格:200
  • 付随費用:50
  • 譲渡価格:350

借方 貸方
譲渡負債 200 譲渡資産 400
現預金 350 移転損益 150
付随費用 50 現預金 50

買い手の仕訳例

続いて、買い手(譲受側)の仕訳例を説明します。事業の譲受価格(取得原価)は、譲受した資産と負債が、譲り受けた時点での時価を基礎として配分される点に注意してください。

譲受価格(取得原価)と取得原価配分額の差額は「のれん代」として計上され、定額法などの合理的な方法によって、20年で規則的に償却します。

【譲受側の仕訳例】

  • 譲受資産の帳簿価格:400
  • 譲受負債の帳簿価格:200
  • 付随費用:50
  • 譲受価格:350

借方 貸方
譲受資産 400 譲受負債 200
のれん 150 譲受価格 350

事業譲渡で発生する営業権(のれん)の評価方法や税務面については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業譲渡で発生する営業権(のれん)の評価方法や税務面を解説!| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

5. 事業譲渡における消費税の納税義務がないケース

この章では、事業譲渡における消費税の納税義務がないケースを見ましょう。

一般的に、事業を譲渡する側は、売却側から買収側へ移した課税資産に消費税率を掛け合わせた額を、事業を譲受する側から徴収し、消費税の申告時に納付しなければなりません。通常、利益を得た事業の譲渡側ではなく、事業を譲り受けた側が負担します。

ただし、会社分割によって事業を譲渡したケースでは、消費税の納付義務がありません。事業譲渡は資産の売買なので、消費税の課税対象ですが、会社分割は資産の譲渡に当たらず組織再編行為とされるからです。

6. 事業譲渡における消費税の4つの注意点

この項では、事業譲渡における消費税の注意点を掲示します。事業譲渡を検討されている方は、「事業譲渡を実施すると消費税が発生する」ことを理解するとともに、以下の注意点があることを認識しましょう。

  1. のれん代による上乗せ
  2. 棚卸資産の変動
  3. 消費税の変動
  4. 不動産譲受時の消費税の還付(簡易課税採用の場合)

①のれん代による上乗せ

事業譲渡における消費税の注意点は、「のれん代による消費税の上乗せ」があります。非上場の中小企業が事業譲渡を実施する際は、事業譲渡の売却価格は「純資産額+のれん代」で算出されることが少なくありません。

のれん代は「課税資産」であるため、営業キャッシュフローが大きい場合や、のれん代として評価されるノウハウ・ブランドなどが大きい場合、消費税がより多額になってしまう可能性があります。

会社分割なら消費税は課税されない

のれん代が大きくなりそうで、その分の消費税が上乗せされる可能性がある場合には、事業譲渡以外のM&Aスキームを検討するのも一つの手段です。「会社分割」を実施すれば、消費税は発生しません。

ただし、会社分割はさらに「新設分割」と「吸収分割」の手法に分かれます。どのM&Aスキームを用いるか決めるには、さまざまな検討が必要です。

上述したとおり、事業を売却・譲渡したいケースにおいて、「事業譲渡」以外のM&A手法を活用できます。ただし、M&A手法は内容が複雑です。自社内だけの判断では、どのM&A手法を用いればよいかわからない場合も多いでしょう。

そうした場合は、M&A専門家のサポートが有効です。M&A総合研究所では、豊富な経験と知識を持つM&AアドバイザーがM&A案件をフルサポートします。

料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を受け付けていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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②棚卸資産の変動

事業譲渡における消費税の計算には「棚卸資産」も含まれます。この「棚卸資産」は、いわゆる「在庫」ですから、毎日その帳簿価格が変動するものです。

あらかじめ事業譲渡の際における棚卸資産価格を予測していても、最終的な事業譲渡日の棚卸資産価格は予測から大きくかけ離れている可能性も考えられます。棚卸資産が予測以上に大きくなっている場合、消費税も想定以上の額になってしまうでしょう。

棚卸資産を多く抱えている事業の譲渡を受ける際は、「棚卸資産の不確実性」に注意する必要があります。

③消費税の変動

日本では1989(平成元)年に消費税が導入されて以来、税率は3%→5%→8%→10%と引き上げられてきました。社会情勢や経済情勢によっては、今後も消費税率が引き上げられる可能性は十分にあるでしょう。

今後さらに消費税が引き上げられていった場合、多額の事業譲渡金額を支払い、そこに消費税の課税を受ければ、その税額もまた多額化します。事業譲渡では、消費税率の変動から受ける影響に留意が必要です。

④不動産譲受時の消費税の還付(簡易課税採用の場合)

事業を譲受する側は、「簡易課税では消費税の還付を受けられない」点に注意しましょう。事業譲渡において消費税を税務署に納付する義務があるのは、「事業譲渡側」です。事業譲渡側は、「消費税額」を「事業譲受側」から徴収して納付をします。

このとき、納付すべき消費税を支払う「事業譲受側」は、特定の条件を満たすことで「消費税の還付」を受けることが可能です。

消費税の還付とは

年間をとおして消費税納付義務がある法人として預かった消費税よりも、事業譲渡などで支払った消費税の方が多くなった場合、消費税支払いの超過分を還付してもらえます。

特に事業譲渡によって不動産を譲受した場合、「預かった消費税」よりも「支払った消費税」の方が多くなり、還付の対象となる可能性が高いでしょう。

簡易課税とは?

小規模な会社や個人事業主などは、「簡易課税」を採用すると簡易的な方法で消費税の納税額を計算できて便利です。具体的には「簡易課税」で消費税納税額を計算する場合、「預かった消費税」に「みなし仕入れ率」を乗じて支払う消費税を計算します。

「簡易課税」を採用すれば、年間の「預かり消費税」を集計するだけで消費税額を計算できるので楽です。「簡易課税」を採用していると消費税還付は受けられません。

簡易課税では消費税還付を受けられない

「簡易課税」は、簡単に消費税額を算出できる方法ゆえに、預かり消費税額と支払い消費税額の通算ができません。その結果、消費税の還付を受けられなくなります。

事業譲渡の譲受企業で、簡易課税を採用している場合は、不動産の譲受などで「支払った消費税」が大きくなっても、還付を受け取れないので注意が必要です。

事業譲渡ののれんについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】事業譲渡ののれんとは?税務仕訳(会計処理)、償却期間を解説| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

7. 事業譲渡における消費税の取り扱いのまとめ

今回は「事業譲渡における消費税」を解説しました。「事業譲渡」のM&A手法を活用した場合は、「消費税が発生する」「簡易課税を採用していると消費税の還付が受けられない」ことなどをしっかり理解しておきましょう。

事業譲渡の場合、譲渡対象の資産・負債は契約の中で個別に指定できます。余計な負債・簿外債務を引き継ぐリスクを抑えることが可能です。

事業譲渡以外のM&Aを実施する際は、簿外債務の発生によって余計な負債を抱えてしまうなどのリスクも伴います。M&Aをする場合は、売却側が保有する負債も引き継がなければいけません。

余計な負債を引き継ぎたくない・知らぬ間に負債を引き継がされていた、というトラブルを未然に防ぐためにも、M&A仲介会社を利用し、「デューデリジェンス(DD)」を徹底するなどの対策を講じましょう。

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