2022年09月16日更新
業務移管と事業譲渡の違いを解説!目的やメリット・デメリット
業務移管と事業譲渡は、業務の管轄をほかの部署や事業体へ移す点は同じですが、両者の目的やメリット・デメリットは大きく異なります。この記事では、業務移管と事業譲渡の違い、それぞれの目的やメリット・デメリットなどについて解説します。
目次
1. 業務移管と事業譲渡とは
業務移管と事業譲渡は、どちらも業務の管轄を他部署やほかの事業体へ移転する観点では同じです。
業務移管は業務の管轄を移すことをいい、業務に着眼点を置いています。事業譲渡は事業に着眼点を置き、対象事業を譲渡することをいいます。
まずは、業務移管と事業譲渡の定義や内容について見ていきましょう。
業務移管とは
業務移管とは、企業の業務管轄をほかの部署やほかの企業に移すことです。業務の管轄を移すというのは、業務における権限や責任、財源など業務に関するすべてを移転先の部署や企業に承継させることをさします。
業務移管先は、国内だけでなく海外のケースもあり、海外に業務移管する場合を「オフショアリング」といいます。
業務移管と似た言葉に事業移管がありますが、事業移管は事業譲渡とセットで使われることが多いです。例えば「事業譲渡により会社Aから会社Bに事業Cが事業移管されました」と用います。
事業譲渡により結果として業務移管されることもありますが、その場合はあくまで言葉の概念の問題です。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、企業における事業の全部または一部を他の企業に譲渡(売却)することです。事業の売買であるため対価が伴い、事業譲渡の買主(譲受側)は売主(譲渡側)に対して譲渡代金(対価)を支払います。
事業譲渡契約により、両当事者で決められた事業に関するすべて(一部譲渡の場合は契約で決められた一部)の権限や、責任などが売主から買主に承継されます。
事業に関して承継する資産や負債は、事業譲渡契約により当事者間で自由に決められ、譲渡対象の事業に関する資産や負債であっても当事者間の合意により承継しないことも可能です。
2. 業務移管と事業譲渡の目的
業務移管と事業譲渡には取引の対象だけでなく、活用される主な目的にも違いがあります。この章では、業務移管と事業譲渡が行われる主な目的をそれぞれ見ていきましょう。
業務移管の目的
業務移管の目的はさまざまであり、業務の一元化や効率化を図るための業務移管、コスト削減目的での業務移管、人員確保目的での業務移管などです。
不採算事業を立て直すために国内外の関連会社に業務移管するケースや、働き方改革の一環として従業員の業務負担軽減を図り、業務をコア業務とノンコア業務に分類してノンコア業務の業務移管をするケースもあります。
最近の事例としては、厚生労働省が検討している「タスク・シフティング」があり、これは医師でなくても可能な業務をほかの医療職に業務移管し、医師の負担軽減を図ることを目的としています。
事業譲渡の目的
事業譲渡の目的は売主(譲渡側)と買主(譲受側)で異なります。それぞれの主な目的を見ていきましょう。
売主(譲渡側)の目的
売主(譲渡側)の目的は、主に以下の4点が挙げられます。
【売主(譲渡側)の目的】
- 後継者不足
- 事業の選択と集中
- 法人格継続の必要性
- 再生型M&A
事業譲渡は後継者不足を解決する手段として利用でき、経営負担の少ない事業だけを残して他事業は譲渡することも可能です。事業の選択と集中を図り、採算事業と不採算事業を分類して不採算事業のみを売却し、事業譲渡代金を採算事業に集中することもできます。
事業譲渡では法人格を残せるため、会計上の問題や許認可などの関係で法人格を手放せない場合は、事業を全部譲渡して新規事業を始めるといった活用方法もあるでしょう。
「第2会社方式」再生スキームを利用して、収益性のある事業を別会社(新会社または既存会社)に譲渡し、不採算事業や債務が残った移転元法人を清算させる場合にも事業譲渡が用いられます。
買主(譲受側)の目的
買主(譲受側)の目的は、主に以下の3点です。
【買主(譲受側)の目的】
- 時間を買う
- リスク回避
- 節税メリットを生かす
買主は完成した他企業の事業を譲り受けるため、自社で事業を1から作り上げる場合に必要となる事業を育成する時間を省けます。事業譲渡では承継する対象を選別できるため、簿外債務や偶発債務などのリスクを回避でき、必要なものだけを獲得可能です。
事業譲渡では、取得した償却資産やのれんなどの償却により資金流出のない損失を計上できるため、節税メリットを活用することもできます。
3. 業務移管される業務と事業譲渡の対象
業務移管される業務と事業譲渡の対象には、どのような違いがあるのでしょうか。ここでは、業務移管される業務と事業譲渡の対象について解説します。
業務移管される業務とは
業務移管に向いているものは、定型業務や軽微な単純作業のデスクワーク業務などがあります。工場で行う生産性のある業務は、生産ラインの確立や製造マニュアルの整備により移管することが可能です。
伝票整理や会計データの入力など総務・経理の管理部門や、コールセンターなどバックオフィス的な業務も移管に向いています。
最近では、専門性の高い業務でも外部の専門性のある企業に業務委託をしたり、元の部門で勤務していた従業員を出向させたりして、業務の移管を行うケースもみられます。
事業譲渡の対象
事業譲渡の対象となる事業には、一定の目的のために体系化された有形および無形財産だけでなく、債務・人材・組織・ブランド・ノウハウ・取引先との関係などを含むあらゆる財産が該当します。
事業は全部または一部が譲渡の対象となり、事業譲渡契約によって個別の財産・負債・権利関係などを売主から買主に移転できます。
4. 業務移管と事業譲渡のメリット・デメリット
業務移管と事業譲渡の各メリット・デメリットについて見ていきましょう。
業務移管のメリット・デメリット
まずは、業務移管のメリットとデメリットです。業務移管には、社内のみで行う場合と関連企業など社外へ行う場合とがあります。
業務移管のメリット
業務移管のメリットは、主に以下の3点が挙げられます。
- 社内での業務移管では、財産や負債・契約・従業員に関する個別引継ぎが発生しない
- 業務の一元化や効率化・コスト削減・人員確保・従業員の負担軽減が可能になる
- 不採算事業の立て直しを図れる
同じ会社内で業務移管する場合、事業に関する個別契約や財産、負債の承継や事業にかかわっている従業員の転籍問題などが発生しないため、スムーズに行えるメリットがあるでしょう。
会社内での業務リストラクチャリングを図り、会計上や労務上の問題点を解決することも可能です。従業員の負担が軽減されれば、モチベーションのアップにもつながります。
不採算事業を関連会社に移行して組織再編を図り、不採算事業を立て直すことも可能です。
業務移管のデメリット
業務移管のデメリットは、主に以下の2点です。
- 他企業に業務移管する場合、事業に関する個別契約・財産・負債の承継や事業にかかわっている従業員の転籍の手間などがかかる
- 業務移管をきっかけに人材流出のリスクが生じてしまう
関連会社など他企業に業務移管する場合は個別契約や労働契約の引き継ぎが伴うため、手続きが煩雑になり手間とコストもかかります。
また、転籍や部署異動をきっかけとして従業員が離職するリスクがあるため、場合によってはあらかじめ対策を講じておく必要もあるでしょう。
事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡のメリットとデメリットは売主企業と買主企業で異なります。ここでは、それぞれのメリット・デメリットを見ていきましょう。
売主企業のメリット
事業譲渡における売主企業のメリットは、主に以下の3点が挙げられます。
- 譲渡の対価を得られる
- 後継者がいなくとも事業を継続できる
- 事業の選択と集中により組織再編ができる
事業譲渡では、買主企業から売主企業に対して譲渡代金が支払われるため、得た資金を自社の他事業へ投入することも可能です。
売主企業に後継者がいない場合、本来事業の継続は見込めませんが、事業譲渡を行えば事業の継続が可能となり、従業員の雇用などを守れます。
また、事業譲渡では採算事業を残して、不採算事業を売却するなどの組織再編を行い、いわゆる事業リストラができます。
買主企業のメリット
事業譲渡における買主企業のメリットは、主に以下の4点です。
- 他社が作り上げた事業を獲得することで、事業を育成する時間を節約できる
- 事業譲渡により承継する事業・資産・負債などを自由に選択できる
- 簿外債務や偶発債務などの予期せぬリスクを回避できる
- 税金面では、事業譲渡により取得した償却資産や営業権が償却できるので、節税効果が見込める
事業譲渡では、既存事業の獲得により育成時間を省略でき、迅速に事業展開を進められます。
また、事業譲渡は合併や会社分割などの包括承継とは異なり、承継する事業・資産・負債を売り手と協議のうえ決められ、予期せぬリスクを回避することが可能です。
事業譲渡による節税効果など会計面でのメリットも生かせます。
売主企業のデメリット
事業譲渡における売主企業のデメリットは、主に以下の2点が挙げられます。
- 譲渡事業に関して、これまでと同じ地域で同じ事業を一定期間行えない競業避止義務が課される
- 売主の企業は、譲渡益に対して法人税が課税される
事業譲渡では、売主企業に対して競業避止義務が課されるので、再度同じ事業を行いたくても一定期間は同じ地域で同じ事業を行えません。
事業譲渡で利益が発生した場合は、売主企業に対して法人税が課されます。繰越欠損金や役員退職金などにより、所得を圧縮して節税できる場合もあります。
買主企業のデメリット
事業譲渡における買主企業のデメリットは、主に以下の3点です。
- 譲渡事業に関する個別契約の移転手続きが煩雑で手間がかかる
- 譲渡される事業に従事している従業員の労働契約の引き継ぎがある場合は、一度雇用契約をリセットして再契約する必要がある
- 取得コストがかかる
個別契約の移転には、債権者の同意や債務者の承認などが必要な場合や、事業によっては管轄官庁からの許認可の再取得が必要な場合もあります。
それ以外に取引先との再契約や不動産登記手続きが必要となるケースもあるため、手間と時間を要するでしょう。
労働契約を個別に引き継がなければならないため、従業員の同意が得られなければ人材流出につながるリスクも持ち合わせています。
譲渡資産に不動産が含まれている場合は登録免許税や不動産取得税、その他課税資産が含まれている場合は消費税などの取得コストがかかることもあるのです。
5. 業務移管の必要書類
業務移管の必要書類は、秘密保持契約書(NDA)です。事業譲渡の実行による事業移管では、事業譲渡契約書も必要になります。
自社で契約書を作ることも可能です。しかし、移管後や譲渡後に問題が生じることもあるでしょう。その場合にきちんと対処できる内容かどうかを確認するため、書類作成の際はリーガルチェックを行うことをおすすめします。
6. 業務移管を行う際の注意点
業務移管を行う際、移管後に行う経営統合が重要になります。
例を挙げると、既存の従業員と新たに入った従業員が一緒になるため、業務のやり方などで摩擦が生じることもあるでしょう。人、業務、企業文化、システム、インフラなども統合する内容に挙げられます。
目的はいろいろですが、どの目的でも移管後の経営統合は重要な注意点です。
7. 業務移管と事業譲渡の違い一覧
業務移管と事業譲渡はさまざまな違いがあります。下表は両者の特徴や違いをまとめたものです。どちらにもメリット・デメリットが存在するため、選ぶ際は自社の目的に合っているかよく確認しましょう。
業務移管と事業譲渡の違い早見表
業務移管と事業譲渡の違いを下記にまとめました。
【業務移管と事業譲渡の違いのまとめ】
業務移管 | 事業譲渡 | |
内容 | ・事業の管轄を他の部署や事業体へ移すこと ・対価が発生しない |
・事業の全部や一部を他社に譲渡すること ・売買なので対価が発生する |
主な目的 | ・業務の一元化や効率化 ・コスト削減 ・人員確保 ・不採算事業の立て直し ・働き方改革の一環 など |
・事業の選択と集中のため(不採算事業を売却)など |
対象 | ・定型業務 ・デスクワーク業務 など |
・当事者間の契約で決められる事業 ・不要な資産や負債は引き継がないことも可能 |
メリット | ・社内業務移管の場合、個別契約の承継や労働者の引き継ぎがない ・業務の一元化や効率化・コスト削減・人員確保・従業員の負担軽減が可能 ・不採算事業を立て直しできる |
・譲渡側は、対価獲得、事業継続、組織再編ができる ・譲受側は、事業育成の時間短縮、承継事業・資産・負債の選択、リスク回避、節税効果が期待できる |
デメリット | ・他社業務移管の場合、個別契約の承継や労働者の転籍手続きが煩雑 ・人材流出リスクがある |
・譲渡側は、競業避止義務を負い、法人税が課税される ・譲受側は、取得コストの負担、個別契約の移転・労働契約の引き継ぎの手続きの煩雑さがある |
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8. 業務移管と事業譲渡の違いまとめ
業務移管と事業譲渡は、他の部署や会社へ業務の管轄を移転する点は同じでも目的が異なり、それぞれにメリット・デメリットがあります。
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