運送(物流)業界の問題解決に事業売却(事業譲渡)が人気!メリットや事例まで

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

運送・物流会社のM&Aが盛況です。そのM&A手法のうちの事業売却(事業譲渡)に焦点を当て、運送・物流業界の現状分析とともに、運送・物流会社が事業売却(事業譲渡)する際のメリットや注意点などについて事例も交えて説明します。

目次

  1. 運送(物流)業界の市場は拡大!
  2. 運送(物流)業界の抱える4つの課題
  3. 運送(物流)業界の課題を解決するための4つの方法
  4. 事業売却(事業譲渡)による運送(物流)会社の負担軽減の可能性
  5. そもそも事業売却(事業譲渡)とは?メリットを解説
  6. 運送(物流)業界の事業売却(事業譲渡)の事例
  7. 運送(物流)会社が事業売却(事業譲渡)するまでの9つのステップ
  8. 運送(物流)会社が事業売却(事業譲渡)するときの3つの注意点
  9. まとめ
  10. 運送・物流業界の成約事例一覧
  11. 運送・物流業界のM&A案件一覧
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1. 運送(物流)業界の市場は拡大!

運送(物流)業界の事業売却(事業譲渡)事情を見ていく前に、市場動向を確認しておきましょう。

運送業界の市場は拡大傾向にあります。その理由は2つです。

  • EC業界の拡大
  • 東京オリンピック開催による交通インフラの再整備

現在、EC業界の拡大に伴ってネット通販利用者が増え、運送する荷物も増えています。

また、首都圏においてはオリンピックに向けて交通インフラの再整備が進められたため、より運送業界の効率化が図られているといえるでしょう。

このように、運送業界の市場はまだまだ拡大していくと予測されています。

しかし、急加速している業界であるため、事業継続において深刻な課題も見受けられるのです。次の項で運送業界の抱える課題について詳しく確認しましょう。

2. 運送(物流)業界の抱える4つの課題

運送(物流)業界には、大きく4つの課題があります。課題は以下のとおりです。

  1. 小口配送の増加
  2. ドライバーの高齢化・人材不足
  3. 競争過多
  4. 排気ガスによる環境問題

どの課題も事業継続していくにあたって深刻な課題ばかりです。詳しく確認していきましょう。

①小口配送の増加

現在、EC業界の拡大に伴って小口配送が増加しています。

今まで以上に個人向けの配送業務が増加しており、企業向けの大口配送業務を圧迫してしまっているのです。

企業向けの大口配送であれば、一定の数を1度に届けられます。そのため、コストパフォーマンスが高いのです。また、企業であれば「不在・受け取れない」ということもありません。

しかし、個人向けの配送は1配送先あたりの単価が低く、さらに不在というリスクがあります。

不在であれば再配達しなければなりません。再配達サービスは無料で行っているため、1つの配送にかかるコストがとても高いのです。

このように、小口配送の増加によって仕事量は増えたものの、必要な業務量も増えてしまいました。

②ドライバーの高齢化・人材不足

ドライバーの高齢化や人材不足は深刻な問題となっています。

国土交通省の資料「トラック運送業の現状等について」によると、2015(平成27)年においてトラック業界で働く人のうち、約45.2%が40歳〜54歳でした。そして、29歳以下の若年層は10%以下で、他産業と比較するとかなり少ない割合です。

全事業の平均と比べると、下表のように高齢化が進んでいることがよくわかります。

◆就労者年齢構成

  全産業の平均  道路貨物輸送業
40歳〜54歳の割合 34.7% 45.2%
29歳以下の割合 16.3%  9.1%

また、国土交通省の別の資料「物流を取り巻く現状について」によると、2017(平成29)年の統計で運送業界の企業の63%が、ドライバー不足と回答しています。

加えて鉄道貨物協会の2018(平成30)年度本部委員会報告書によると、2028年にはトラックドライバーの数が27.8万人不足するとの予測も示されています。

つまり、EC業界の拡大に伴って運送業界の仕事は増えているものの、仕事を安心して請け負えるだけの人材が足りていません。

現在の高齢ドライバーが引退するまでに手を打たなければ、さらに運送(物流)業界は圧迫されてしまうでしょう。

③競争過多

運送業界内では競争が激しく、過剰サービスや労働に見合わない単価で配送を受けているケースが増えています。

EC業界の拡大によって運送業界の仕事が増えたことをきっかけに、運送業界へ参入する会社が増えました。しかし、結果的に競争の激化へ繋がったのです。

結局のところ、運送(物流)業界内で他社との差別化を図るには料金の安さが物をいいます。そのため、安全に早く配達することは当たり前になってしまい、運送(物流)業界では「どれだけ安く配達しているか」が大切になってしまいました。

結果的に利益率が低くなり、人手不足で過酷な労働時間を強要するにもかかわらず、給料が安いので、人が定着しません。

このように、運送(物流)業界の課題は、複雑に絡み合って悪循環を生み出しています。

④排気ガス(CO2)による環境問題

運送業界は、環境問題に密接に関係しています。国土交通省がホームページ上で公開している資料「運輸部門における二酸化炭素排出量」によると、2018(平成30)年度に運輸業界が排出したCO2は、日本国内の18.5%(2億1,000万トン)と発表されています。

このうち、トラック運送業界は3分の1を占めており、国のCO2削減のために注視されているのです。それのため、国土交通省によって物流分野におけるCO2削減対策促進事業が動き出しました。今のところ、まだ法規制などはされていません。

しかし、今後は船や鉄道などの低炭素型の輸送方法へシフトさせる方向も考えられます。環境問題の改善に対応しない運送会社は、事業継続が難しくなるかもしれません。

以上が、運送業界における4つの課題でした。逆にいえば、これらを解決することで、運送会社の未来は明るくなるともいえます。

3. 運送(物流)業界の課題を解決するための4つの方法

運送(物流)業界の抱える課題を解決するために、以下の4つの方法が注目されています。

  1. 共同配送・輸送網の集約
  2. 再配達リスクの軽減
  3. IT化による効率化
  4. モーダルシフト

4つの解決方法について、具体的に確認していきましょう。

①共同配送・輸送網の集約

改正物流総合効率化法でも示されているとおり、共同配送や輸送網の集約をすることで、業務の効率化が図れます。

まず、共同配送とは、同じ地域で事業活動を行う2社以上が連携して輸送・保管などの配送・物流業務を行うことです。これまでは、同じ家に届ける荷物であっても、依頼された運送会社がそれぞれ荷物を運んでいました。

しかし、共同配送を行うことで、まとめて配送ができます。具体的には、同じ倉庫に1度納品し、まとめて1つのトラックで配送しようという試みです。

また、輸送網の集約とは、地域で事業活動を行う運送会社の輸送網を集約化することをさします。今までは、運ぶ荷物ごとに配送するルートが異なりました。

たとえば、食品だと一時的に加工工場、文房具は物流倉庫、1度にたくさん納品するものは梱包するための荷撒き用上屋へと運びます。それを、どの荷物にも対応できる輸送用連携倉庫(特定流通業務施設)を設置することで輸送網の集約を図るのです。

共同配送・輸送網の集約が実現できれば、トラックの積載率を高めたり、人員削減をしたりとともに、CO2排出の削減もできます。

②再配達リスクの軽減

運送業界の課題解決には、再配達リスクの軽減は欠かせません。

国土交通省がホームページ上で公開している「宅配便の再配達削減に向けて」によると、再配達となる荷物は全体の約2割にあたります。なんと、この数字は、年間にして約9万人のドライバーの労働力に相当するのです。

また、再配達するトラックから排出されるCO2の量は年間で42万トンと計測されています。このように、再配達を減らすことで、人材不足・労働環境・環境問題の改善へと繋がるのです。

最近では、置き配達や配達ボックスの設置、コンビニなどの自宅以外での受け取りなどの工夫が各社でなされています。再配達のリスクを減らすことで、運送業界の未来は明るくなるでしょう。

③IT化による効率化

運送業界もIT導入によって、業務を効率化していく必要があります。人手不足が常態化しているため、ITを使いこなして、人の手を少なくしていかなければなりません

具体的には、以下のようなことをIT化していく必要があるでしょう。

  • 荷物の住所振り分け
  • 荷物の管理
  • 自動運転
  • ドローン配送

これらのことを実現させるためには時間がかかるかもしれません。しかし、業務を効率化できるIT技術を獲得しなければ、今の人手不足を解消できないでしょう。

④モーダルシフト

モーダルシフトをしていくことで、人材不足解消や環境問題の改善ができると予想されています。モーダルシフトとは、トラックの輸送を、鉄道や船に変えることです。

今の運送業界の主な輸送手段はトラックですから、トラックの運転手がいなければ運送業界は成り立ちません。

しかし、トラックには積荷量に限界があります。一度に多くの荷物を運べません。また、トラックは多くのCO2を排出するため、環境負荷がかかりますが、これらの問題を一度に解決するのが、モーダルシフトです。

また、ここで挙げている方法の他に日本ロジファクトリー様が取り上げられている改善事例が参考になります。合わせてご覧ください。

第114回 事例で学ぶ現場改善:『超高収益運送会社のさらなる挑戦』 | 物流コンサルタント|株式会社日本ロジファクトリー|NLF|

以上が、運送業界の抱える課題に対する解決方法でした。しかし、これらを実現させるためには、1社だけで取り組めることは少ないでしょう。

そこで、事業売却(事業譲渡)を検討することもおすすめします。次項で運送業界会社の事業売却について、詳しく確認していきましょう。

  • 運送・物流会社のM&A・事業承継

4. 事業売却(事業譲渡)による運送(物流)会社の負担軽減の可能性

運送(物流)事業を事業売却(事業譲渡)することで、業界全体の負担軽減に繋がる可能性が高いといえます。先述した解決方法は、どれも運送会社1社だけで解決することは難しいでしょう。

1社だけで解決するのであれば、「若い人材をたくさん雇う」必要があります。しかし、これが簡単にはできないために、業界全体で問題となっているのです。

本記事で掲示した解決方法は、国土交通省でも提言されています。つまり、業界全体で協力していかなければ、なかなか問題解決には至らないのです。

もちろん、他の会社と協業したり、自社が別の運送事業を買収したりするのもよいでしょう。しかし、これらはハードルが高いです。もし、次項で紹介する事業売却のメリットに魅力を感じるのであれば、事業売却することをおすすめします。

5. そもそも事業売却(事業譲渡)とは?メリットを解説

そもそも、事業売却(事業譲渡)とは、事業の全部または一部を第三者に売却することです。株式譲渡などの会社売却と違って、必要なものを会社に残せます。

事業売却をするメリットは以下の3つです。

  1. 売りたい事業・資産だけ売却できる
  2. ドライバーの負担軽減・労働環境改善に繋がる
  3. 他の事業に経営資源を投資できる

①売りたい事業・資産だけ売却できる

事業売却の最大のメリットは、売りたい事業・資産だけを売却できることです。

たとえば、運送(物流)会社の中に、運送事業と倉庫事業があるとしましょう。このとき、運送事業だけを売却することが可能です。もし、残したい人材や不動産があった場合は、全てを売却する必要はありません。

このように、事業売却だと売りたい事業・資産だけを売却できます。ただし、全て思いどおりにいくとは限りません。なぜなら、買い手企業との協議によって譲渡する事業・資産を決めるからです。当然、魅力的な資産は欲しいといわれるでしょうし、あっても使わない不動産や負債(借入金)などは受け入れたくないでしょう。

したがって、しっかりと買い手と協議して、譲渡する事業・資産を決めることが肝要です。なお、会社の経営権を買い手企業へ移す株式譲渡では、売却するものの選別はできません。事業売却ならではのメリットといえます。

②ドライバーの負担軽減・労働環境改善に繋がる

同業者に売却することで、自社のドライバーの負担軽減・労働環境改善に繋がります。なぜなら、同じエリアの同業者に売却することで、共同配送・輸送網の集約に繋がるからです。

今まで別々に運んでいた荷物を一緒に配達できるようになったり、担当エリアが小さくなったりして負担軽減になります。同じドライバーの仕事でも、負担が軽減されることで、労働環境改善になる可能性が高いでしょう。

また、買い手企業が大手企業であれば待遇の改善も見込めます。今まで過酷な労働を余儀なくしていた場合も、事業売却を機に労働環境や待遇が改善される可能性が高まるのです。

今、自社のドライバーたちの負担が大きいのであれば、事業売却をすることで和らげてあげられるかもしれません。

③他の事業に経営資源を投資できる

事業売却をすることで、他の事業に経営資源を投資できます。経営資源とは以下のようなもののことです。

  • 時間
  • 人材
  • 資金

もし、運送事業を売却すれば対価としてまとまった現金を受け取れます。そのお金を使って、他の事業に注力できるのです。

もちろん、経営者の時間や優秀な人材も他の事業に使えます。結果として会社が成長するかもしれません。事業売却をすることで、経営の選択と集中ができるのです。

これらのメリットを魅力に感じるのであれば、事業売却を検討していきましょう。

しかし、事業売却をしたことがなければ、事業売却をイメージしにくいと思います。次項では、運送(物流)業界の事業売却事例について確認しましょう。

6. 運送(物流)業界の事業売却(事業譲渡)の事例

運送(物流)業界の事業売却(事業譲渡)について、4件の事例を確認していきましょう。

  • トランコムによる子会社3社への事業売却
  • 国際トランスサービスと関東運送による丸和運輸機関への事業売却
  • フライング・フィッシュ・サービスによる内外トランスラインへの事業売却
  • コニカミノルタによるDHLサプライチェーンへの事業売却

詳細を確認し、事業売却のイメージを具体化させましょう。

①トランコムによる子会社3社への事業売却

①トランコムによる子会社3社への事業売却

トランコム

出典:https://www.trancom.co.jp/

2019(令和元)年6月、トランコムは、子会社である「トランコムEX東日本」、「トランコムEX中日本」、「トランコムEX西日本」へ3PL事業の一部を吸収分割の方法で承継させました。

3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)とは、保管・配送・搬入出だけでなく物流全体を一括して請け負うことです。調達から生産・販売までを一括して行います。

トランコムは3PLに注力をしていましたが、それぞれの子会社に事業を分割して承継させました。それぞれの会社に物流パートナーがおり、エリアごとに最適な判断を迅速に行うために権限を移転させたのです。

このように、あえて事業を分割させることで、グループ全体としての効率化を図りました。

②国際トランスサービスと関東運送による丸和運輸機関への事業売却

②国際トランスサービスと関東運送による丸和運輸機関への事業売却

丸和運輸機関

出典:https://www.momotaro.co.jp/index.html

2018年3月、国際トランスサービスと関東運送が受託していた、コープデリ生活協同組合連合会(生活協同組合コープみらい)の商品配達事業が、丸和運輸機関へ売却されました。なお、譲渡価額については公表されていません。

従来より、丸和運輸機関は関西圏において、生活協同組合の商品個配事業を行っていましたが、この事業譲受により、首都圏エリアにおいても同事業を展開できるようになりました。

そして、同事業について、内容明確化、意思決定迅速化、効率化を図りながら、人材育成と事業拡大を実現するために、2019年4月に新たな100%子会社としてNS丸和ロジスティクスが創業しています。

③フライング・フィッシュ・サービスによる内外トランスラインへの事業売却

③フライング・フィッシュ・サービスによる内外トランスラインへの事業売却

内外トランスライン

出典:https://www.ntl-naigai.co.jp/index.html

2013(平成25)年4月、フライング・フィッシュ・サービスは、内外トランスラインへ国内事業を売却しました。内外トランスラインは事業を譲り受けるために新しい子会社を新設しています。なお、譲渡価額は公表されていません。

フライング・フィッシュ・サービスは、国際複合一貫輸送を得意としている会社です。大手企業を顧客に持ち、安定した営業基盤を持っています。

一方、内外トランスラインも国際貨物輸送を得意とする輸送会社です。内外トランスラインは、輸入貨物輸送の営業力を拡大するために、事業を譲り受けました。

フライング・フィッシュ・サービスは国際物流事業に注力をすることで、より会社を成長させる経営判断をしたのです。

④コニカミノルタによるDHLサプライチェーンへの事業売却

④コニカミノルタによるDHLサプライチェーンへの事業売却

DHLサプライチェーン

出典:https://www.dhl.com/jp-ja/home/our-divisions/supply-chain/about-dhl-supply-chain.html

2013年3月、コニカミノルタは、DHLサプライチェーンへ物流事業を売却しました。この事業売却では、日本国内の物流拠点を全て譲渡しています。なお、譲渡価格は公表されていません。

両社はリードロジスティクスプロバイダー(LCC)契約を結び、DHLサプライチェーンによってコニカミノルタの物流設計・管理・オペレーションなどが担われることになりました。

LCCによって、業務の効率化やコスト削減を実現しようとしたのです。これに伴い、日本国内の拠点などを譲渡する流れとなりました。

その後、LLPの契約は、2015年12月に中国国内のサプライチェーンにも拡大されています。このことから、コスト削減および業務の効率化の効果が出ていたと推測されます。

7. 運送(物流)会社が事業売却(事業譲渡)するまでの9つのステップ

運送(物流)会社が事業売却(事業譲渡)をしようと思っても、初めてであればどのような流れになるのか不安もあるでしょう。

スムーズに事業売却を実現させるためにも、事前に手順を確認しておくべきです。運送会社が事業売却するときには、以下の9つのステップがあります。

  1. 売却準備
  2. M&A仲介会社などへサポート依頼
  3. 買い手企業探し
  4. トップ面談
  5. 基本合意契約締結
  6. デューデリジェンス
  7. 事業譲渡契約締結
  8. 株主への公告・通知および株主総会
  9. クロージング・統合作業

順番に確認していきましょう。

①売却準備

まずは売却の準備から始めていきましょう。

事業売却を行うときには、以下のような準備を社内で進めていくべきです。

  • 事業売却をする範囲(譲渡する事業・資産)の決定
  • 事業売却をする目的
  • 事業売却を完了させる日程・スケジュール
  • 自社の特徴やアピールポイントの認識
  • 買い手企業の洗い出し

特に、得意としているエリアや運送サービスで大事にしていることは、あらためて書き出しておきましょう。

これらを行うことで、スムーズに買い手探しや交渉を進められます。また、役員や幹部社員などには事業売却することの認識を統一させておきましょう。

②M&A仲介会社などへサポート依頼

社内での準備ができたら、M&A仲介会社などへサポートを依頼しましょう。M&A仲介会社とは事業売却の専門家です。買い手企業の選定から契約書作成や交渉のサポートなどを委託できます。

もし、M&A仲介会社などに依頼しなければ、全てを自社内で行わなければなりません。M&Aでは各場面で専門知識や経験も必要ですから、事実上、自社のみでの対応は難しいでしょう。

③買い手企業探し

続いて、買い手企業探しです。社内でイメージした買い手企業をM&A仲介会社など伝え、候補をいくつか選んでもらいましょう。

運送会社におすすめの買い手企業は、同業・同エリアで事業活動をする会社です。なぜなら、協業できることが多く、互いにメリットを得られる可能性が高いからです。

3〜5社ほどピックアップしてもらい、気になる企業へアプローチしましょう。

④トップ面談

相手企業も買収に意欲を持ったら、トップ面談を行います。トップ面談とは、買い手・売り手の両企業の経営者による話し合いのことです。

トップ面談で、事業売却に至った経緯や目的、経営理念を話しアピールしましょう。また、買い手の経営者に自社の事業を任せられるかの判断も行います。

相手企業が前向きになった場合、買収条件の書かれた意向表明書が提示されるはずです。意向表明書を基に条件交渉を行い、互いが納得する条件を決めていきましょう。

⑤基本合意契約締結

お互い納得できる条件となれば、基本合意契約を締結しましょう。基本合意契約とは、今後、問題なければ記載されている条件で事業売却を成立させるといった約束です。

このあと行われるデューデリジェンス(企業の監査)では、売り手企業の情報を全て公開することになり、買い手企業はそれを見て、買収の最終判断をします。

しかし、買収の約束がなければ、売り手企業の内部情報を見せることはリスクでしかありません。そこで、一度、基本合意契約を交わしておき、デューデリジェンスを行うのです。

⑥デューデリジェンス

買い手によるデューデリジェンスが行われます。デューデリジェンスとは、売り手企業の収益性やリスクなどを総合的に調査することです。かなり詳しく調査され、これによって企業の価値も判断されます。

売り手企業は、デューデリジェンスで資料提出やさまざまな質問に対する回答は必須です。ときには、トラックドライバーの残業代の未払いなど、あまり聞いて欲しくないことを聞かれることもあるかもしれません。

しかし、誠実に対応し、どのように解決しようとしているのかを正直に述べましょう。会社の評価は多少下がるかもしれませんが、買い手企業も一緒になって解決策を考えてくれるはずです。

もし、会社をよいように見せようと嘘をついてしまった場合、トラブルに発展する可能性もあります。真摯な対応を心がけましょう。

⑦事業譲渡契約締結

デューデリジェンスで問題がなければ、事業譲渡契約の締結となります。デューデリジェンスの結果を踏まえて、最終的な譲渡価額やその他の条件が提示されるのです。

したがって、基本合意契約の内容とは条件が変わる恐れもあります。条件をしっかり理解し、納得したうえで締結しましょう。

事業譲渡契約を締結すると撤回はできません。事前に弁護士などに相談し、リーガルチェックをしてもらうと安心です。

⑧株主への公告・通知および株主総会

事業譲渡契約の締結後、株主へ公告・通知を行ったうえで株主総会を開きます。

事業売却が行われる20日前には公告・通知を行い、事業売却実施日の前日までに株主総会を開かなければなりません。株主総会では以下の条件を満たし、承認を得る必要があります。

  • 議決権の過半数を持つ株主の出席
  • 特別決議として出席した株主の3分の2以上の賛成

期日が決まっているため、早めに準備を始めましょう。

⑨クロージング・統合作業

最後にクロージングと統合作業を行いましょう。

クロージングでは、事業売却に対する対価の支払い・受け取りや、財産や債務、契約などの名義変更手続きを行います。事業譲渡契約を結んだだけでは、これらの名義が自動的に変更されません。

従業員や取引先との再契約、土地・不動産などの名義変更などを行いましょう。

また、PMI(Post Merger Integration)とも呼ばれるM&A後の経営統合プロセスとは、社内システムの統合や人事配置などのことで、買い手側にとってM&Aの成否はこのPMIで決するともいわれています。

社風や労働環境の変化によって従業員のモチベーションが下がらないよう、売り手企業の経営者も統合作業に協力しましょう

以上が、運送会社に事業売却をする9つのステップでした。事業売却をするためには、M&A仲介会社や専門家の力が不可欠です。早めに相談し、サポートしてもらいましょう。

8. 運送(物流)会社が事業売却(事業譲渡)するときの3つの注意点

運送(物流)会社が事業売却(事業譲渡)するときには、以下の3つの注意点に気をつけなければなりません。

  1. 運送価格の再設定によって顧客を失う恐れがある
  2. 運送業許可は譲渡できない
  3. 従業員から未払い賃金を請求されるかもしれない

事業売却をする前に知っておかないと、思わぬトラブルを引き寄せてしまう恐れがあります。しっかりと確認しておきましょう。

①運送価格の再設定によって顧客を失う恐れがある

事業売却の影響で運送価格を再設定することで、顧客を失う恐れがあります。

今までは自社の設定した運送価格で事業を成り立たせていたかもしれませんが、今後は買い手企業に合わせた運送価格になるでしょう。そのとき、値上げすることになれば今までの顧客から取引を止められるかもしれないのです。

今までの顧客が離れてしまったとしても、売り手企業に直接的なダメージがあるわけではありません。しかし、関連事業を自社で継続して行っていくときに顧客離れのきっかけになる恐れがあります。

たとえば、運送事業を売却し運送価格が値上がりしたとしましょう。しかし、倉庫事業は自社に残っていたとします。このときA社と運送事業・倉庫事業でも取引があったとき、運送事業で値上げがあったことに反発して倉庫事業の取引きも終了するリスクがあるのです。

このように、事業売却をすることで値上げとなり、顧客を失う恐れがあります。値上げの根拠やサービスがどのように変わるのかを事前に説明しておき信頼を失わないよう気をつけましょう。

②運送業許可は譲渡できない

運送業許可(一般貨物自動車運送事業経営許可)は、事業売却によって買い手企業に譲渡はできません。

運送許可とは、トラックやトレーラーなどで運送の依頼を受け、荷物を運送し、その対価をもらう事業を行うために必要な許可です。国土交通大臣または事業所を管轄する地方運輸局長の許可を取る必要があります。

買い手企業が運送許可を持っていない場合、新たに取得しなければ事業を継続できません。運送業許可を取るには、資金の要件や人員の要件などさまざまな要件を満たす必要があります。

また、申請をしてから審査をするのに3〜5ヶ月ほどかかりますから、事業売却をする前から両社で準備を始めておかなければなりません。

もちろん、すでに運送業許可を取っている会社への事業売却であれば、問題なく事業ができます。別事業を行っている企業へ事業売却をする場合は注意しましょう。

③従業員から未払い賃金を請求されるかもしれない

もし、未払い賃金があるのであれば、事業売却のタイミングで従業者から請求されるかもしれません。

残念ながら運送会社は、他の業界と比べても拘束時間が長時間化しやすく、サービス残業が常態化していることも多いとされます。実際、ドライバーに対する給料を抑え、利益を獲得しようと考える経営者もいるかもしれません。

しかし、これは不適切な労務管理にあたります。実際には支払わなければならない残業代などが積み重なり、未払い賃金が残っている可能性があるのです。

従業員からの請求がなくても、事業売却後に買い手企業に知られると損害賠償を求められることも考えられます。したがって、未払い賃金があるのであれば事前に解決しておきましょう。

9. まとめ

事業売却(事業譲渡)を活用すれば、運送(物流)業界に蔓延する課題を解決できます。さらに、売り手企業は多額の資金が手に入り、他の事業に投入することも可能です。

ただし、運送会社の事業売却には注意点も多くあります。M&Aの専門家に相談し、事業売却を成功させましょう。

10. 運送・物流業界の成約事例一覧

11. 運送・物流業界のM&A案件一覧

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