会社分割における債権者保護手続きとは?特徴・必要性・流れ・省略方法・注意点も解説

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

会社分割などの組織再編を行う際は、債権者保護の手続きが必要です。本記事では、会社分割における債権者保護手続きについて、手続きの流れや注意点などを解説します。会社分割の債権者保護手続きが不要になり省略できるケースなどもまとめました。

目次

  1. 会社分割における債権者保護手続きとは
  2. 会社分割における債権者保護手続きは省略できるか?
  3. 会社分割における債権者保護手続きの流れ
  4. 会社分割における債権者保護手続きの注意点
  5. 会社分割における債権者保護手続きまとめ
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1. 会社分割における債権者保護手続きとは

会社分割を行うことで債権者に不利益が生じる可能性がある場合、当事会社は債権者保護を行わなければなりません。これを債権者保護手続き、または債権者異議手続きと呼びます。

ここでいう債権者とは、例えば融資してもらっている銀行や、まだ支払いが済んでいない取引先などが該当します。

債権者保護手続きが持つ意味・必要性

会社分割では事業を包括的に承継するため、債権者から個別に同意を得る必要はありません。しかし、会社分割によって会社の資産や負債が変動した場合、債権者に返済できなくなる恐れがあるでしょう。

そうした事態を防ぐため、会社分割を行う会社は自社の債権者に対して、債権者保護手続き・債権者異議手続きを行うことが法令で定められています。

債権者保護手続きの期間・タイミング

会社分割の当事会社は、債権者に1カ月以上の異議申立期間を作らなければなりません。債権者への公告・通知は1カ月以上前に行う必要があります。1カ月に該当するのは、公告掲載日の翌日から会社分割の効力発生日前日までなので、注意が必要です。

官報公告と個別通知の準備は時間がかかります。特に官報公告は、申し込みから実際に掲載されるまで時間がかかるので、余裕を持って手続きを行わなければなりません。

債権者保護手続きの対象

基本的に、会社分割の際に債権者保護手続きの対象となるのは、会社分割によって分割前の債務履行請求ができなくなる債権者です。例えば、分社型分割で承継会社に移転する債権の債権者がこれに該当します。さらに、分割型分割の場合は、分割会社の資産が大幅に変動する可能性があるため、すべての債権者が保護手続きの対象となります。

一方、会社分割による影響がなく、債務履行を引き続き請求できる債権者については、債権者保護手続きを通じた保護は不要とされています。例えば、分社型分割によっても分割会社に残る債権の債権者がこれに該当します。

会社分割以外に債権者保護手続きを行う場面

ここでは、会社分割以外に債権者保護手続きを行う場面を解説します。

合併

合併は、2つ以上の法人を1つの法人に統合する手法です。合併を行う相手企業に負債がある場合、合併によって統合された会社にも負債が生じます。合併によって負債が増えることになる企業は、債権者保護手続きが必要です。

株式交換・移転

株式交換とは、相手企業の全株式と自社の株式などを交換することで、相手企業を完全子会社化する手法です。株式移転とは、2つ以上の企業が新設会社にすべての株式を移転することにより、完全親会社・完全子会社の関係を作る手法になります。

株式交換の場合は、親会社となる企業が子会社となる企業に対して、株式以外の資産を対価とする場合には債権者保護手続きが必要です。子会社となる企業から親会社となる企業に新株予約権付社債が引き継がれる場合も、債権者保護手続きが必要になります。

株式移転の場合は、子会社となる企業から親会社となる新設会社へ新株予約権付社債が引き継がれる場合に、債権者保護手続きが必要です。

2. 会社分割における債権者保護手続きは省略できるか?

会社分割の際、債権者保護手続きが必要なわけではなく、債権者保護手続きを省略できる場合と省略できない場合があります。

債権者保護手続きが省略できる場合

債権者保護手続きが省略できるのは、分割する事業に負債が含まれていない場合です。分割事業に負債が含まれている場合でも、会社分割後も債権者が分割会社に支払いを請求できる場合は、債権者保護手続きを省略できます。

例えば、承継した債務に対して分割会社が連帯保証している場合、債権者は分割後も分割会社に請求できるので債権者保護手続きを省略できます。具体的には、引受人と債務者が連帯債務を負う形式の「重畳的債務引受」を会社分割の契約で設定している場合においても、債権者保護手続きを省略可能ということです。

債権者保護手続きが省略できない場合

負債の移動がない場合でも、承継会社は債権者保護手続きが必要です。

承継会社は会社分割の対価を分割会社に渡すことにより、債権者への支払い能力が落ちる可能性があります。承継会社は債権者保護手続きを行います。

3. 会社分割における債権者保護手続きの流れ

会社分割における債権者保護手続きは、以下の流れで行いましょう。

  1. 官報公告の掲載手続きをする
  2. 知れたる債権者へ個別催告をする
  3. 異議の申立を受け付ける

①官報公告の掲載手続きをする

会社分割の当事会社は、官報公告と個別通知によって、会社分割を行う旨と異議申立を受け付ける旨を知らせます。

官報に公告する内容

官報公告には、以下の事項を記載してください。

  • 会社分割を行う旨
  • 債権者から異議申立を受け付ける旨
  • 資本金と負債の変動額
  • 計算書類
  • 当事会社の社名と所在地

②知れたる債権者へ個別催告をする

知れたる債権者とは、会社分割によって不利益を被る可能性のある債権者をさします。
例えば、分割会社が分割する事業にかかわる債権を保有していて、会社分割によって債務者が分割会社から承継会社に変わる場合は、知れたる債権者に該当します。

この知れたる債権者に対して、個別に通知する手続き(個別催告)を行います。この催告の方法には特別な規定がないため、自由に決められます。また、催告の内容についても、官報公告と同様のもので問題ありません。

個別通知は省略できる?

会社分割の当事会社は官報公告と個別通知によって、該当する債権者に知らせることが原則定められています。定款で日刊の新聞上や電子公告によって公告を行うと定めている場合は、個別通知を省略できます。

公告方法を官報公告と定めている場合は、個別通知の省略はできません。つまり、個別通知は省略できますが、官報公告だけの省略はできません。

③異議の申立を受け付ける

会社分割の当事会社は、異議申立期間内に債権者からの異議申立を受け付けます。

債権者から異議申立がなかった場合、当事会社は債権者の賛同を得られたものとして会社分割を進め、債権者から異議申立があった場合は、債権者に対して支払いを行います。

【関連】会社分割における純資産や資本金の引継ぎ方法を解説!

4. 会社分割における債権者保護手続きの注意点

会社分割の際は、以下の点に注意しなければ、債権者保護手続きの効果が得られません。

  1. 債権者保護手続きの不備
  2. 個別催告の失念
  3. 異議を申述していない債権者
  4. 登記する際の注意
  5. 官報公告掲載までの日数に注意

①債権者保護手続きの不備

債権者保護手続きに不備があるまま期限を迎えると、会社分割の手続き自体が認められなくなってしまいます。会社分割手続きのやり直しは大きな負担となるので、よく確認しながら行いましょう。

②個別催告の失念

債権者保護に該当する債権者に個別催告をしていなかった場合、債権者は当事会社に対して裁判を起こし、債務の支払いを請求できます。故意に債権者保護手続きを行わなかったなど、悪質とみなされた場合には会社分割自体の効力が失われるので注意が必要です。

③異議を申述していない債権者

期限内に異議申立を行わなかった場合、その債権者は会社分割を承認したものとみなされます。

当事会社側に何かしらの瑕疵があった場合でなければ、期限が過ぎた後に異議を申し立てても効力はないので、期限内に異議申立を行わなければなりません。

④登記する際の注意

債権者保護手続きは、会社分割の効力発生日前日までに済ます必要があります。登記の際は債権者保護手続きを行った証明となる書類の提出が必要です。

これらを済ませなければ会社分割は無効となるので、登記の際も注意しましょう。

⑤官報公告掲載までの日数に注意

官報に掲載の依頼を行って掲載されるまでに、約1、2週間かかります。官報公告は少なくとも1カ月は掲載しなければならないため、予定の登記申請日から日数を逆算してスケジュールを組む必要があります。

個別催告は分割会社が定款で定めれば、日刊新聞紙での公告あるいは電子公告に変更可能です。個別催告の手間を省ければ、官報公告を準備する負担が少なくなります。

【関連】会社分割の登記!手続き方法や必要書類、費用を解説!

5. 会社分割における債権者保護手続きまとめ

本記事では、会社分割の債権者保護手続きについて解説しました。会社分割の手続きや債権者保護手続きの流れを把握し、注意点にも気を付けましょう。

会社分割の手続きをスムーズに行うためには、M&A仲介会社など専門家のサポートを受けながら進めることをおすすめします。

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