2024年07月13日公開
会社分割時の従業員の処遇を徹底解説!労働条件の承継や退職金は?
目次
1. 会社分割とは
会社分割とは、会社の一部または全部の事業を切り離して、他の会社に移転するM&A手法の1つです。
よく事業譲渡と混同されますが、会社分割と事業譲渡では契約者と承継対象、従業員への対応、債権者の事前承諾などの違いがあります。
会社分割の種類
会社分割の種類は以下のとおりです。
- 吸収分割
- 新設分割
さらに、分割の対価を受け取る対象に応じて「分社型分割」と「分割型分割」に分かれます。
吸収分割
吸収分割とは、会社の一部または全部を切り離して、既存企業に引き渡す手法です。また、吸収分割には「分社型吸収分割」と「分割型吸収分割」の2種類あります。
分社型吸収分割では、分割した会社に承継会社が対価として株式を発行し、この株式の割合で、分割会社が承継会社を子会社にするケースもあります。
他にも、承継する対価を金銭といった株式以外の財産にする方法では、事業の権利義務のみが対象です。
一方、分割型吸収分割では、対価を分割会社の株主が受け取ります。この方法だと、事業を承継した対価として、受け継いだ会社が株式を発行し、分割会社の株主が対価を受け取る流れになります。
つまり、分割会社の株主は、分割会社と承継会社のどちらの株式も保有します。また、承継の対価が金銭といったケースでも、分割会社の株主は承継会社から金銭を受け取れます。
新設分割
新設分割とは、既存企業の一部または全部の事業を切り離し、新しく会社を設立する手法です。新設分割には自社が単独で行なうケースと他社と共同で行なうケースの2種類です。
また、吸収分割と同様に、分社型と分割型により流れが異なります。
分社型新設分割は、分割会社が対価を受け取り、分割の対価が株式の場合は、新設会社の立ち位置は分割会社の子会社です。
一方、分割型新設分割は、分割会社の株主が対価を受け取れます。つまり、分割会社の株主が新設会社の株主にもなります。
会社分割の目的
会社分割の目的は、企業の経営を効率化するためです。具体的には、事業の一部を再編したり、グループ外に切り離す形で承継を容易にしたりします。
単に事業の一部を切り離すのであれば、会社分割以外にも事業譲渡という方法もあります。しかし、事業譲渡では、債務を移転するために個別に債権者の同意を得ることが必要です。
2001年以前は事業の譲渡や切り離しに、裁判所が選任する検査役の検査や債権者の個別の同意が必要で、時間がかかるものでした。
そのため、日本政府は、2001年に会社分割制度を導入し、検査役の検査や債権者の同意を不要にして、事業の切り離しを容易にしました。
会社分割について詳しく知りたい方は、下記の記事で紹介してるのでご参照ください。
2. 会社分割時の従業員との労働契約の扱い
ここからは、会社分割時の従業員との労働契約の扱いを以下の2つに分けて解説します。
- 従業員は労働契約承継法により保護される
- 労働契約承継法の概要
会社分割において重要な従業員の扱いですが、労働承継法で保護されています。詳しい内容は以下をご覧ください。
従業員は労働契約承継法により保護される
結論、従業員は労働契約承継法により保護されます。労働契約承継法とは、事業を行なう会社が変わる会社分割において、従業員を保護する制度です。
労働契約承継法の対象は、労働契約を締結している従業員であるため、パートや嘱託職員も含みます。
また、2001年の会社分割制度の導入により、特例として分割会社と承継会社が分割契約にしたがって、事業を承継すると同時に労働契約も承継する決まりができました。
なお、労働契約承継法が適用となるのは、株式会社や合同会社が会社法に従い、会社分割するケースに限ります。
労働契約承継法の概要
労働契約承継法の対象は、会社分割のみで、特定の労働者における労働契約の包括的承継の効果があるものです。
労働契約の承継に関しては、事業が包括的に引き継がれることが条件となります。その結果、承継される事業組織の内容や、労働契約の権利・義務がそのまま維持されなければなりません。労働契約の承継においては、引き継がれる事業とともに、労働契約に含まれる権利や義務も同じ条件で保持されることが重要です。
事業規模が小さくなる場合や、労働条件が変わる場合の会社分割は労働契約承継法の対象外です。
労働契約法では、会社分割で承継される事業に主として従事する労働者は、労働契約も承継されるのが基本と定められています。
また、主従事労働者でない方の労働契約は、承継するといった記載があっても、異議を申し出ると承継されないものとされます。
3. 会社分割時の従業員保護手続きの流れ
会社分割時の従業員保護手続きの流れは以下のとおりです。
- 会社分割の通知
- 通知の内容
- 通知する期限
- 従業員からの異議申し出
- 従業員の転籍・出向
- 労働契約の承継
会社分割のときは、従業員に対して通知や異議申し出に対応します。
会社分割の通知
会社分割により、従業員の在籍が承継会社に変わる場合、企業は対象従業員や労働組合に対して事前に通知する義務があります。
以下で通知の対象となる労働者をご紹介します。
通知の対象
通知の対象者は以下のとおりです。
- 分割会社が雇用する労働者で、承継会社に移行される事業に主として従事するものとして厚生労働省で定められたもの(以下、承継事業主要従事労働者)
- 分割会社が雇用する労働者(承継事業を従たる職務とする労働者)で、分割契約にそのものが分割会社との間で締結している労働契約を会社が承継する旨の記載があるもの(以下、指定承継労働者という)
承継事業主要労働者とは、分割契約が締結したとき、承継事業に従事している従業員です。また、複数の事業に従事している場合は、承継事業にどれくらいの割合で従事しているかを判断します。
指定承継労働者とは、承継事業主要労働者と違い、個別の同意がなければ、分割会社への残留効果を認められる点です。
通知の内容
通知の内容は相手により通知事項が異なります。
- 従業員への通知事項
- 労働組合への通知事項
分割会社は、通知期限日までに対象労働者に以下の事項を書面にして通知する義務があります。
従業員への通知事項
従業員への通知事項は以下のとおりです。
- 対象労働者と締結している労働契約を承継会社が承継する旨の分割契約における定め
- 異議申立期限日
- 通知対象者が労働契約承継法2条1項のいずれかに該当するか
- 承継事業の概要
- 書面の効力が発生した日以降における分割会社及び承継会社の住所、事業内容、称号、予定労働者数
- 書面の効力発生日
- 書面の効力が発生した日以降における労働者の業務内容、就業場所、就業形態
- 書面の効力が発生した日以降の債務履行の見込み
- 労働契約に異議があるときの、申出を受理する場所、部門、住所、担当者氏名、勤務地
労働組合への通知事項
労働組合への通知事項は以下のとおりです。
- 労働契約を承継会社が承継する旨の分割契約における定め
- 承継される事業の概要
- 書面の効力が発生した日以降における分割会社及び承継会社の住所、事業内容、称号、予定労働者数
- 書面の効力発生日
- 書面の効力が発生した日以降の債務履行の見込み
- 分割会社との間で締結している労働契約が承継会社に承継される労働者の範囲か当該範囲の明示により当該労働者の氏名が明らかでない場合は労働者の氏名
- 労働協約の内容(労働契約承継法2条2項の規定に基づく)
通知する期限
通知する期限は労働承継法2条3項で定められています。株主総会の有無や意思決定の手順次第で、期日が異なります。
株主総会が必要な場合は、分割契約を承認する株主総会から2週間前の前日となります。一方、株主総会が不要な場合または合同会社の場合は、分割契約を締結か作成した日から2週間です。
従業員からの異議申し出
承継される従業員は、契約書にある業務や条件、場所など労働条件に異議があれば申し出を行なえます。
異議申し出が可能な条件は、承継事業主要従事労働者で、当人が分割会社と締結している労働契約を承継会社が承継する旨の定めが分割契約内にないことです。
異議申し立ての期限
異議申し立ての期限は、通知期限の翌日から承継に関する承認株主総会の日の前日までの中から分割会社が示した日です。
なお、異議申し出期限日を定めた場合、通知された日と異議申し出期限日の間に13日以上あける必要があります。
従業員の転籍・出向
会社分割を原因に従業員の解雇はできませんが、転籍や出向するのは可能です。
一般的には、承継事業主要従事労働者は、個別の同意が必要なく労働契約が承継されます。しかし、労働契約を会社分割の対象とせずに労働者から個別の同意を得る「転籍合意」という方法で承継会社への転籍ができます。
また、分割会社は法に基づいて通知や商法等改正法附則第5条の労働者と協議を省略するのはできません。
労働契約の承継
会社分割は、労働契約の全部を承継するので、退職金や年次有給休暇、勤続年数を承継します。
しかし、既存企業に事業を承継する吸収分割では、分割会社と承継会社の労働条件が2つになるため、統一するのがおすすめです。
労働条件の変更は、両者の合意があればできます。一方的には変更できないので、従業員が不利となる契約は避けましょう。
なお、就業規則による労働条件の変更は、「内容の合理性」「労働者周知」といった必要がありますので、注意してください。
4. 会社分割時の従業員の退職金精算の扱い
会社分割時の従業員の退職金精算の扱いは以下のとおりです。
- 退職金制度や勤続年数の承継
- 退職金制度が併存する場合の労務処理
退職金制度や勤続年数の承継
会社法の規定に基づき承継された労働契約は、承継会社に包括的に移行されるので、そのまま維持されます。
労働条件の変更は、労使間の合意が必要であるため、会社側の一方的な労働条件の変更は不可となります。
退職金制度や勤続年数は、労使間で権利義務関係があるので、「労働者の労働契約が承継会社に承継される」と、分割契約に記載されることにより、通算が可能です。
また、年次有給休暇や退職金額も同様の扱いになります。
退職金制度が併存する場合の労務処理
会社分割で既存企業が分割対象事業を承継する吸収分割の場合、分割対象事業に関わる労働者は、分割会社と労働契約を承継し、承継会社にいる労働者は、承継会社との労働契約となります。
つまり、1つの会社で2つの制度が存在することになります。
このケースでは労務処理の負担が大きくなるので統一するのがおすすめです。しかし、従業員の労働条件を不利益となるような変更の場合は、労使間の合意が必要となります。
ただし、労働契約法第10条の要件を満たす就業規則の合理性があるケースは除きます。
そのため、労働条件の変更は、専門家のアドバイスを受けるのがいいでしょう。
5. 会社分割時の従業員の処遇・労働条件についての留意点
会社分割時の従業員の処遇や労働条件についての留意点は以下のとおりです。
- パートや嘱託職員も対象となる
- 福利厚生の取り扱い
- 従業員の承継が認められないケース
会社分割時に見落としがちのケースですので注意しましょう。
パートや嘱託職員も対象になる
パートや嘱託職員も会社分割において対象となります。なぜなら、会社分割の手続きは、分割会社で雇用する全ての労働者が対象となるからです。
他にも、労働契約の承継における協議や通知、異議申し出は労働者の保護制度であるという理由もあります。
そのため、雇用形態によって差を設けることはありません。
福利厚生の取り扱い
基本的に福利厚生も、そのまま承継会社に引き継がれます。
ただし、福利厚生の取り扱いには以下の注意点があります。
- あくまでも会社が恩恵的に提供しているもの
- 同一の制度を運用するのが困難なもの
- 分割会社以外のものが実施していたもの
以上の福利厚生は、承継会社に引き継ぐのは難しい場合があり、変更される可能性もあります。
この場合、労働者と協議し、十分な説明を行い、他の措置について協議する必要があるでしょう。
従業員の承継が認められないケース
会社分割を行なうとき、企業は従業員に通知する義務があります。従業員や労働組合に対して通知事項や期限を遵守し、異議申し出に対応しなければなりません。
そのため、手続きに不備があったり、通知していない場合、従業員の承継が認められない可能性があります。
会社分割時は、専門家にサポートしてもらいながら進めるのがいいでしょう。
6. 会社分割の従業員の処遇についての相談先
会社分割の従業員の処遇についての相談先は以下のとおりです。
- 金融機関
- 事業承継・引継ぎ支援センター
- 公認会計士・税理士
- 弁護士
- M&A仲介会社
相談先は複数あり、それぞれにメリット・デメリットがあるので、状況や目的に応じて相談先を選びサポートを受けられると、会社分割をスムーズに進められるでしょう。
金融機関
金融機関は、お金に関するスペシャリストであり、M&Aの相談に積極的に取り組む部署を設けている銀行もあります。そのため、取引のある信頼できる相手に相談できたり、大型の案件を扱っている場合が多かったりするのが特徴です。
また、自社の財務状況を理解している点で、安心して相談でき、マッチング能力が高いというメリットがあります。
一方、金融機関が扱う案件は大型のものが多く、中小企業の相談に向いていない、FAの報酬が高いというのがデメリットです。
他にも、M&Aの実行を一貫して任せることができないことが挙げられます。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎセンターは、独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営する事業承継の相談窓口です。中小企業をメインに事業承継のサポートがあり、47都道府県に設置されています。
事業承継・引継ぎセンターの特徴は、無料で相談やマッチング支援を利用でき、公的機関なので安心感があります。ただし、会社分割の全てを依頼できるわけではないというデメリットがあるので、事前に把握しておきましょう。
公認会計士・税理士
財務や税務といったアドバイスが必要な場合は、公認会計士や税理士に相談するのがおすすめです。公認会計士や税理士に依頼すると、それぞれの専門分野を活かしたサポートを受けられるメリットがあります。
しかし、会社分割の全てをサポートしてくれるわけではありません。そのため、会社分割やM&Aの支援実績が豊富な公認会計士や税理士に依頼するのがいいでしょう。
弁護士
弁護士に相談すると、法務についてアドバイスしてもらえます。また、会社分割における交渉の代理や登記手続きを依頼できるメリットがあります。他にも、法律関係でのトラブルを未然に防げることが可能です。
たとえば、専門家に相談をせず、自社でM&Aの最終締結まで進めると、法律の知識が不足していることが起因し、相手とトラブルなることがあります。その点、弁護士に相談すれば、効率のいい形で最終締結まで進められます。
しかし、弁護士もすべての方が会社分割の専門家ではない点に注意してください。そのため、会社分割の実績が豊富な士業に依頼しましょう。
M&A仲介会社
M&A仲介会社は、会社分割をはじめとするM&A全般の知識がある専門家です。会社分割に関してのサポートを全て行なってくれるので、スムーズに進められるメリットがあります。
また、公認会計士や税理士と連携している仲介会社が多いので、安心して会社分割を行なえます。
しかし、M&A仲介会社は、企業により高額な費用がかかる場合もあるので、事前に調べておく必要があります。
7. 会社分割の相談先を選ぶポイント
会社分割の相談先を選ぶポイントは以下のとおりです。
- M&Aの実績が豊富
- 料金体系がわかりやすい
- 親身になって対応してくれる
- 担当者との相性
- 必要な情報を提供してくれる
会社分割の相談先を選ぶ際、以上のポイントを参考にしましょう。
M&Aの実績が豊富
M&Aには、専門的知識が求められますが、知識だけでなく実務に活かせる必要があります。この実務に活かせるかどうかは、実績により明確にあらわれます。そのため、M&Aの実績が豊富な相談先を選ぶのがベストでしょう。
料金体系がわかりやすい
料金体系がわかりやすいかどうかもポイントの一つとして挙げられます。M&Aの相談先によっては、相談料や着手金、成功報酬などもかかりますが、これらの費用が明確でない場合、当初提示された金額よりも高額となることがあります。
このような状況を防ぐためにも、料金体系が明確な相談先を選ぶとよいでしょう。
親身になって対応してくれる
親身になって対応してくれる相手か確認しておくことも重要です。初めての会社分割で不安でも、相談先が丁寧な対応をしてくれれば、不信感や疑念を残さず、無事に会社分割を完了することができます。
親身かどうか判断するためにも複数の機関に相談してみてもよいでしょう。そうすれば、自社の考えに合った相談先が見つかるはずです。
担当者との相性
会社分割の相談先を選ぶポイントの1つが担当者との相性です。会社分割の相談で、信頼できる担当者かどうかも確認しておく必要があります。なぜなら、担当者の中には成功後の報酬目的で契約を急かしてくるケースもあるからです。
会社分割を成功させるためにも、事前に担当者を見極めてから今後も相談するか決めるとよいでしょう。
必要な情報を提供してくれる
ファイナンシャルアドバイザーは、M&Aの全てをサポートして、円滑に進められるよう調整してくれます。そのため、必要な情報を的確に提供してくれるので、適切な判断ができるようになります。
ファイナンシャルアドバイザーを依頼する前の相談から、十分な情報を提供してくれる相談相手を見つけましょう。
8. 会社分割の従業員の処遇は専門家に相談しよう
会社分割は、「会社の中で業績の良い事業を伸ばしたい」「事業を切り離し経営の効率化をしたい」といった、会社をより良く再編するための選択肢の1つです。
会社分割で重要な従業員保護手続きの流れを再び紹介します。
- 会社分割の通知
- 通知の内容
- 通知する期限
- 従業員からの異議申し出
- 従業員の転籍・出向
- 労働契約の承継
他にも、会社分割においては、通知事項や通知期限などの制約もあり、専門的な知識が求められるため、会社分割時の従業員の処遇は専門家に相談しましょう。
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