敵対的買収とは?成功事例15選!M&Aの防衛策もわかりやすく解説

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

成功率が高くないとされる敵対的買収とはどのような手法なのか、その特徴やメリットなどについて国内15の成功事例とともに解説します。そのほかにも、敵対的買収のM&A防衛策や買収を仕掛けられやすい企業などについてもわかりやすく解説しています。

目次

  1. 敵対的買収とは
  2. 敵対的買収の成功確率が低い理由
  3. 敵対的買収の成功事例15選
  4. 注目の敵対的買収事例
  5. 敵対的買収のメリット
  6. 敵対的買収の標的となる企業の特徴
  7. 敵対的買収M&Aの主な防衛策
  8. 敵対的買収の防衛成功例
  9. まとめ
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1. 敵対的買収とは

敵対的買収とは、対象会社の同意(取締役会など)を得ずに、市場外で株式の取得を始めることです。発行済みの株式を集めて特別決議の拒否権を得たり対象会社への発言力を高めたりします。

金商品取引法では1/3以上の株式を取得する場合、買い付けの意思を公表すると定められているため、TOB(株式公開買い付け)によって、広く世間に知らせなければいけません。

敵対的買収では事前の通知をしないことが多く、TOBの公表により買収の事実を知られるため、買収側に不信感を抱きやすいことからほとんどの企業では買収に拒否の姿勢を示しています。

ホスタイルテークオーバーとは

ホスタイルテークオーバーも、敵対的買収と同じ意味の用語です。ホスタイルは「敵対的」を意味し、テークオーバーは「TOB(株式公開買い付け)」をさします。

ホスタイルテークオーバーの目的には、上記で取り上げた理由のほか買収によるコストの削減も挙げられます。

目的の理由をわかりやすく解説すると、事業を立ち上げるよりも買収によって会社を獲得する方が、コストを抑えられるためにこのような買収方法を選択しているといえます。

【関連】TOB(株式公開買付)とは?メリットや株価影響を解説!わかりやすい事例20選!

2. 敵対的買収の成功確率が低い理由

敵対的買収は、成功率の低い買収方法です。その理由は、株主や労働組合の賛成を得にくいためです。理由を理解しやすいように、わかりやすく解説していきましょう。

事前の通知がなくTOBに踏み切った敵対的買収では、買収の目的に疑問を抱きます。そのため、株価より高い買い付け価格を提示されても株式の売却に応じなかったり買収について賛同しなかったりすることが大半です。

そのため敵対的買収の成功例は少なく、買収を進めても失敗に終わることがほとんどといえます。

敵対的買収の利用は極わずか

企業を買収する場合には、友好的なM&AやTOBを選ぶのが一般的です。買収によって、対象会社を傘下に収める・経営権を握るわけですから、相手との意思疎通を図っておかなければ買収後の経営に影響を及ぼします。

経営陣を刷新しても、下で働く従業員の理解を得られないと指示に従わない・十分に力を発揮してくれないなどの問題が生じるでしょう。このような理由により、敵対的買収は好んで利用されない買収法なのです。

特に中小企業では株式に譲渡制限を設けていることが多く、敵対的買収には向きません。譲渡制限株式を譲り渡すには、対象企業の承認を必要とします。

経営陣が買収に反対すれば必要な株式を集めにくくなるため、ターゲットが中小企業の場合には敵対的買収の利用を躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。

3. 敵対的買収の成功事例15選

利用されにくい敵対的買収でも、いくつかの成功事例があります。では、敵対的買収がどのような経緯で利用されて成功を勝ち取れたのでしょうか。

成功例を知りたい人のために、国内外の企業を対象にした15の事例を紹介します。

日本企業の敵対的買収

日本企業による敵対的買収には、次のような成功事例が挙げられます。
 

  1. サンヨーホームズへのTOB
  2. ソレキアへのTOB
  3. ソフトブレーンへのTOB
  4. セゾン情報システムズへのTOB
  5. 新華ホールディングス・リミテッドへのTOB
  6. コージツへのTOB
  7. ソリッドグループホールディングスへのTOB
  8. エスエス製薬へのTOB
  9. 国際デジタル通信へのTOB
  10. 日本精密へのTOB
  11. 日本ギア工業へのTOB

①サンヨーホームズへのTOB

1つ目に紹介する敵対的買収の成功事例は、日本アジアグループによるサンヨーホームズへのTOBです。資本関係の強化によって利益を拡大させることを目的に、TOBを選択しています。

日本アジアグループは、敵対的買収による取締役の派遣や経営の支配は行わず、現状を維持するとのことです。

②ソレキアへのTOB

2つ目に紹介する敵対的買収の成功事例は、佐々木ベジ氏によるソレキアへのTOBです。フリージア・マクロスの会長を務める佐々木ベジ氏によって、敵対的買収が行われています。

佐々木ベジ氏は、買い付け価格の引き上げと買い付け期間の延長により、ホワイトナイトである富士通との株式取得争いに勝ち、ソレキアのTOBを成功させたと見られます。

③ソフトブレーンへのTOB

3つ目に紹介する敵対的買収の成功事例は、スカラによるソフトブレーンへのTOBです。スカラは、ノウハウ・顧客基盤・サービスの共有を目的に平成28~29年にかけて段階的に株式を取得しています。

TOBの5%ルールに抵触する手前まで株式の保有率を高め、その後一挙に株式の大量買い付けを図り、ルールを逸脱することなく敵対的買収を成功させています。

④セゾン情報システムズへのTOB

4つ目に紹介する敵対的買収の成功事例は、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントによるセゾン情報システムズへのTOBです。

セゾン情報システムズは、特別委員会を開いて買い付けに反対する意思を表したものの防衛策にはならず、エフィッシモ・キャピタル・マネージメントによって株式の追加取得を許しました。

エフィッシモ・キャピタル・マネージメントは敵対的買収の目的に、純投資を挙げています。そのため株式の保有率を33%に留め、経営への関与を行わないとのことです。

⑤新華ホールディングス・リミテッドへのTOB

5つ目に紹介する敵対的買収の成功事例は、テクノグローバルによる新華ホールディングス・リミテッドへのTOBです。テクノグローバルは敵対的買収の目的に、株式の所有比率を高めることとしています。

この度の敵対的買収により、株式の保有比率を16.38%(議決権ベース)にまで高め、新華ホールディングス・リミテッドの筆頭株主に躍り出ています。

⑥コージツへのTOB

6つ目に紹介する敵対的買収の成功事例は、DRCキャピタルによるコージツへのTOBです。DRCキャピタルは、コージツに敵対的買収への同意を得ずに株式の買取を始めて、株式の保有率を77.12%(議決権ベース)としています。

第三者委員会により株価の安さが指摘されたものの、コージツ側が株価の算出に用いた事業計画では市場の高まりに合わせた出店数の増加を反映させています。

そのため、DRCキャピタルが提示した株価についての妥当性が認められ、株主の賛同を得られています。

⑦ソリッドグループホールディングスへのTOB

7つ目に紹介する敵対的買収の成功事例は、ケン・エンタープライズによるソリッドグループホールディングスへのTOBです。ソリッドグループホールディングスは、TOBについて反対の意思を示していました。

しかし、リーマン・ブラザーズ証券がTOBに応募したことで、敵対的買収が成立しています。リーマン・ブラザーズ証券は、ソリッドグループホールディングスの株式を48%以上を保有していた企業です。

大株主が株式の譲渡に応じたため1株26円の株価で買い付けが行え、敵対的買収が成功したとみられています。

⑧エスエス製薬へのTOB

8つ目に紹介する敵対的買収の成功事例は、ドイツの製薬会社・ベーリンガーインゲルハイムによるエスエス製薬へのTOBです。

ベーリンガーインゲルハイムは、2000年に関係強化と他社による買収防止を目的に、エスエス製薬にTOBを行いました。エスエス製薬は同意・反対の意思を示さずにいましたが、個人株主たちが売却に応じたため敵対的買収が成功したとみられています。

⑨国際デジタル通信へのTOB

9つ目に紹介する敵対的買収の成功事例は、イギリスのケーブル・アンド・ワイヤレスによる、国際デジタル通信へのTOBです。国際デジタル通信は、ケーブル・アンド・ワイヤレスのTOBに対して防衛策を講じました。

資本提携をしていたNTTに、ホワイトナイトの役を求めています。しかし、度重なる買い付け価格の引き上げには応じられず、ケーブル・アンド・ワイヤレスが敵対的買収に勝利して97%超える発行済み株式を取得しています。

⑩日本精密へのTOB

10番目に紹介する敵対的買収の成功事例は、韓国のM&FCによる日本精密へのTOBです。敵対的買収により、49.81%の株式を取得しています。

M&FCは筆頭株主になったことに留まらず、株主総会で旧経営陣の再選に異議を唱え、息のかかった人物を経営陣に加えました。これで、経営権を掌握することに成功しています。

⑪日本ギア工業へのTOB

11番目に紹介する敵対的買収の成功事例は、成和による日本ギア工業へのTOBです。成和をはじめとする大株主は震災以後の低迷した業績に対して不満を抱いていたため、経営陣の一掃を図ろうと敵対的買収を仕掛けました。

株式の買い付けはスムーズに進み、成和による株式の保有比率が33.3%に達して経営陣の刷新を図ったとのことです。

海外企業の敵対的買収

海外では、どのような企業が敵対的買収を成功させているのでしょうか。海外企業の実例を知りたい人に向けて、敵対的買収の成功事例を紹介します。
 

  1. AventisへのTOB
  2. MandalayへのTOB
  3. PeopleSoftへのTOB
  4. MannesmannへのTOB

①AventisへのTOB

1つ目に取り上げる海外企業の敵対的買収は、Sanofi-SynthelaboによるAventisへのTOBです。Sanofi-Synthelaboの敵対的買収に対し、Aventisは反対する意思を表明しました。低い買収額が理由といわれています。

その後、Aventisはポイズンピルによる防衛策を講じ、スイス資本のNovartisとの経営統合を進めたものの、労働組合の反発やフランス政府の要請(自国企業との合併を希望)、買収価格の引き上げによりSanofi-Synthelaboの敵対的買収に応じています。

②MandalayへのTOB

2つ目に取り上げる海外企業の敵対的買収は、MGM MirageによるMandalayへのTOBです。一度は独占禁止法に抵触するとして、買収に反対の意思を示しました。

ところが、買取価格が1株71ドルに引き上げられたことで敵対的買収を受け入れています。

③PeopleSoftへのTOB

3つ目に取り上げる海外企業の敵対的買収は、OracleによるPeopleSoftへのTOBです。PeopleSoftは、低い買い付け価格(1株19.5ドル)を理由に買収を拒否します。さらに、アメリカの司法省を通じて買収に関して反トラスト法に抵触するとして、Oracle側に訴訟を起こします。

ところがOracle側の主張が認められ、訴訟は取り下げられます。Oracleが買い付け価格を1株26.5ドルに引き上げたところで、PeopleSoftは買収に応じたとのことです。

④MannesmannへのTOB

4つ目に取り上げる海外企業の敵対的買収は、VodafoneによるMannesmannへのTOBです。当初は友好的買収を持ち掛けていましたがMannesmannが拒否の態度を取ったため、敵対的買収に切り替えています。

敵対的買収が成功した背景には、Vodafoneが示したワイヤレス市場に特化した事業戦略、従業員の雇用継続、ビベンディとの提携(Mannesmannが協力を仰ごうとした)などが挙げられています。

4. 注目の敵対的買収事例

日本では2018年から2019年にかけて、伊藤忠によるデサントへの敵対的買収が世間を賑わせています。

世間が注目する敵対的買収は、どのような背景・要因からTOBの実施・成立に至ったのでしょうか。大手企業が絡んだTOBをわかりやすく解説します。

伊藤忠が仕掛けるデサントへの敵対的TOB

伊藤忠は2019年の1月から3月にかけて、TOBを実施しています。これは、デサントの業績が低迷していることを受けて、経営陣の刷新を図ろうとしたためです。

伊藤忠は1株あたりの買い付け価格を2,800円とし、必要な株式を集めます。その結果、伊藤忠が持つデサントの株式が40%に達し、拒否権の発動が可能となりました。

これによってデサントの取締役を10人から6人体制に変更し、デサントから2人、伊藤忠から2人、社外から2人の構成を押し進めるとのことです。

敵対的買収に移行した理由は?

伊藤忠はデサントの大株主です。共同で会社を立ち上げたりデサントが経営危機に陥るたびに支援をしたりと、よい関係を築けています。

ところが、下記のような問題が起こったことで敵対的買収による力技に打って出たとされています。
 

  1. デサントの社長交代(伊藤忠出身)を事前に伝えていなかった
  2. 推し進める海外展開に相違が見られた(伊藤忠は中国・デサントは韓国)
  3. ワコールホールディングスとの業務提携(伊藤忠出身の取締役への事前通知なし)

伊藤忠は、経営体制を見直してほしいと伝えたり株式の買い増しを試みたりするも、デサントには通じずにいました。

そこでTOBを公表し、敵対的買収に打って出ます。デサントは経営の独立を維持しようとファンドを利用したMBOを提案するも、伊藤忠側に却下されています。

その後は両社で協議を重ねたものの意見が合うことはなく、伊藤忠側は2019年の3月15日にTOBの成立を発表しています。

5. 敵対的買収のメリット

敵対的買収を選んだ場合、関係者はどのようなメリットを得られているのでしょうか。買収側と一般株主に分けて、得られるメリットをわかりやすく解説します。
 

  • 買収側のメリット
  • 一般株主のメリット

買収側

敵対的買収を検討する・利用による利点を知りたい人に向けて、敵対的買収に見られるメリットを紹介します。主なメリットには、次の5つが挙げられています。

【買収側のメリット】

  1. 買収先企業の経営権を取得できる
  2. 会社のあり方を株主に問う
  3. 株式を高値で買収することもできる
  4. 買収計画が立てやすい
  5. 余分なコストが掛からない

メリット① 買収先企業の経営権を取得できる

1つ目に挙げる買収側のメリットは、買収先の経営権を取得できる点です。敵対的買収を行う理由には、対象企業の経営不振や事業開始のコストを減らすことなどが挙げられます。

敵対的買収で経営権を握ると、経営体制の変更・既存事業の獲得などが望めます。これで、自社の経営方針を反映させられたりコストを抑えながら対象会社を傘下に収められたりするので、敵対的買収を選択しているのです。

メリット② 会社のあり方を株主に問う

2つ目に挙げる買収側のメリットは、会社のあり方を株主に問える点です。株主によっては、経営方針や配当金、株価などに不満を持っている人もいます。TOBを公表すれば、対象会社に不満を抱いている株主へ向けて買収側との比較を促せます。

提示する条件次第では株式の売却に応じる株主も現れるため、敵対的買収は株主に対象企業のあり方を問えるのです。

メリット③ 株式を高値で買収することもできる

3つ目に挙げる買収側のメリットは、高い買い付け価格での買収です。買収側が株価よりも高い買い付け価格を提示すると、株主は短期的な利益を得ようと株式を手放すことも少なくありません。

つまり、買収資金に余裕があれば高値をつけることで株式の買収もしやすくなるのです。

メリット④ 買収計画が立てやすい

4つ目に挙げる買収側のメリットは、買収計画の立てやすさです。敵対的買収では、あらかじめ買収する株式の数、買い付け価格、買い付けの時期を決められます。これなら、想定した買収額と期間で対象会社の株式を取得できます。

メリット⑤ 余分なコストが掛からない

5つ目に挙げる買収側のメリットは、余分なコストの発生を抑えられる点です。市場で対象会社の株を購入してしまうと、自社の購入により株価の上昇を招きます。追加の購入では株式に高い値がついてしまい、買収にかかるコストを増やしかねません。

その点、敵対的買収を選択すれば指定した価格で株価を買い取れます。さらに、買収する株式の数に制限を設けられるため、余分な株式を買い取る事態も避けられるでしょう。

一般株主

敵対的買収によるメリットは、買収側だけの専売特許でありません。一般の株主にも、敵対的買収によってメリットを享受できます。一般株主へのメリットは、次の2点です。

【一般株主へのメリット】

  1. 株価が跳ね上がり短期での利益が見込める
  2. 企業を直接応援できる

メリット① 株価が跳ね上がり短期での利益が見込める

1つ目に挙げる一般株主のメリットは、株価の上昇による短期での利益獲得です。対象企業に敵対的買収が仕掛けられると、買い手は株式を獲得するために高い買い付け価格を提示します。

すると、市場では短期の利益獲得を目的に株式を求める人が増えて、株価の上昇が予想されます。これで、既存の株主や敵対的買収の発表後に株式を買い求めた人は、株価が跳ね上がったことで配当の増加や株式の売却益が得られるというわけです。

メリット② 企業を直接応援できる

2つ目に挙げる一般株主のメリットは、企業を直接支援できる点です。敵対的買収が発表されると、買収側の募集に応じるかを迫られます。

そこで株主は、対象企業と買収側とを比べてどちらの企業が株主に利益を還元してくれるかを考え、応援したい企業のためになるよう株式の保有・売却のどちらかを選べます

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敵対的買収のデメリット

マイナスイメージの強い敵対的買収には、先に紹介しましたように意外と多くのメリットが存在します。しかし、デメリットの存在を忘れてはなりません。

敵対的買収には、主に以下のようなデメリットが存在します。

 

  1. 成功率が低い
  2. 買収後の従業員の流出
  3. 世間に対するイメージの低下

デメリット① 成功率が低い

敵対的買収は、そもそも買収対象となる企業の経営陣から同意を得ないために、当然のことながら反発・拒否されやすいです。また、名の知れた企業ほど防衛策を講じているので簡単には買収できません。そのため、敵対的買収の成功率は高くないのです。

デメリット② 買収後の従業員の流出

買収を行った企業の従業員はまだしも、買収された企業の従業員は敵対的買収が行われたことで自身の待遇が気になってしまいます。こうしたマイナスイメージは、従業員が退職してしまう大きな要因です。

特に専門的な知識を有する人材が流出したとなるとその後の経営に大きな打撃となりますので、敵対的買収を行う企業は従業員とのコミュニケーションは重要になってきます。

デメリット③ 世間に対するイメージの低下

「敵対」と呼ばれていることからも、敵対的買収に対するイメージはよくありません。それを実行したとなると、どうしても強引に買収したと世間が認識して企業に対するイメージが低下する可能性があります。

これは、敵対的買収の成否にかかわらず被るデメリットですので、これも加味したうえで実行に移すようにしなくてはなりません。

6. 敵対的買収の標的となる企業の特徴

敵対的買収を仕掛ける側は、どのような企業を標的とするのでしょうか。ここでは、敵対的買収を仕掛けられやすい企業について、その特徴をわかりやすく紹介します。
 

  1. 企業価値が低いのにキャッシュ・フローがリッチ
  2. 負債比率が低く経営が健全
  3. 株式の持合比率が低く株価が割安
  4. 独自コンテンツや特許を持っている
  5. 買収防衛策が備わっていない

①企業価値が低いのにキャッシュ・フローがリッチ

1つ目に取り上げる敵対的買収の標的になりやすい企業の特徴は、企業価値の低さに反した豊かなキャッシュ・フローです。株主からの圧力が低い場合、経営陣は現状を維持して企業価値の向上を遅らせます。

このような企業が高いキャッシュ・フローを得ていれば、株主への還元を抑えて高収益を実現できない規模の拡大・設備投資・経営の多角化などにフリー・キャッシュを使っていると想像できます。

つまり、自由になるお金を有益に使わずに株主をないがしろにしているため、敵対的買収を仕掛けても株主の理解を得られやすく、敵対的買収の標的にされてしまうといえるでしょう。

②負債比率が低く経営が健全

2つ目に取り上げる敵対的買収の標的になりやすい企業の特徴は、負債比率が低く健全な経営を行っていることです。負債比率が高いと、買収後に得られるキャッシュ・フローは負債の利子・債務の返済に使われてしまいます。

これでは、財務の維持や株主への配当がままなりません。そのため、敵対的買収のターゲットには負債比率が低く、健全な経営を行う企業が選ばれています。

③株式の持合比率が低く株価が割安

3つ目に取り上げる敵対的買収の標的になりやすい企業の特徴は、株式の持ち合い比率の低さと割安の株価です。取引先や金融機関などと株式の持ち合いを行って高い比率を維持していると、買収による経営権・拒否権の取得が難しくなります。

また、対象企業の株価が高いと買収費用がかさみ、多額の資金を必要とします。そのため、敵対的買収の標的になりやすい企業には、株式の持ち合い比率が低く株価が割安であることを特徴に挙げられるのです。

④独自コンテンツや特許を持っている

4つ目に取り上げる敵対的買収の標的になりやすい企業の特徴は、独自コンテンツ・特許の所持です。独自のコンテンツや特許は、対象会社のみが使用できる資産です。つまり、自社でつくりあげることはできず、取得もできません

このような資産は、異業種への参戦・新規事業への展開を望む買収側には魅力的と映るため、独自のコンテンツや特許を所有している企業は敵対的買収の標的になりやすいです。

⑤買収防衛策が備わっていない

5つ目に取り上げる敵対的買収の標的になりやすい企業の特徴は、買収防衛策の不備です。買収前の防衛策には、持ち合い株の比率を高めたり株主への利益還元を行ったりといった対策が挙げられます。

買収を仕掛けられた後の対策には、業務・資本提携先の企業によるホワイトナイトや株式の保有比率を下げるポイズンピル、買収側が求める事業・資産を手放す焦土作戦などが一般的です。

これらの防衛策を講じていない・防衛策を講じるシミュレーションを行っていない企業は敵対的買収に対応できないとみなされるため、敵対的買収のターゲットになりやすいといえるでしょう。

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7. 敵対的買収M&Aの主な防衛策

敵対的買収を仕掛けられた場合には、どのような対策を講じればよいのでしょうか。防衛策を知りたい人に向けて、敵対的買収の主な防衛策を紹介します。

 

  1. ホワイトナイト
  2. ポイズンピル
  3. パックマン・ディフェンス
  4. 焦土作戦(クラウン・ジュエル)
  5. ゴールデンパラシュート
  6. マネジメント・バイアウト
  7. 第三者割当増資

①ホワイトナイト

1つ目に挙げる敵対的買収M&Aの主な防衛策は、ホワイトナイトです。ホワイトナイトをわかりやすく解説すると、友好的な関係にある企業に自社を買収してもらうことを意味しています。

ホワイトナイトの由来は、白馬の騎士です。助けにやって来るホワイトナイトを協力者に見立て、敵対的買収から自社を守ってくれる防衛策に当てはめています。

ホワイトナイトの目論見とは

敵対的買収を仕掛けられた側は、ホワイトナイトを通じて以下のような協力・対応に打って出ます。
 

  • 敵対的買収側の買い付け価格よりも高い株価での買収
  • 第三者割当増資の引き受け
  • 新株予約権の発行

ホワイトナイトはこれらの対策に応え、対象企業を買収します。では、ホワイトナイトはなぜ対象企業の助けに応じるのでしょうか。ホワイトナイトは、買収によるリスクの増加とシェアの低下を嫌って、対象企業の買収を買って出ています。

株式の保有割合に注意

ホワイトナイトは、敵対的買収を仕掛けられた企業の株式を一定数保有することになり、経営に参与したり発言権を強めたりする可能性が高まります。

友好的な買収とはいえ自社の経営権が脅かされる事態も想定されるため、助けを求める場合にはホワイトナイト側の真意をしっかりと把握しておく必要があるでしょう。

②ポイズンピル

2つ目に挙げる敵対的買収M&Aの主な防衛策は、ポイズンピルです。これは、事前に行う防衛策をさしています。

わかりやすく解説すると、既存の株主に新株予約権を発行しておいたり役員や従業員へストックオプションを与えておいたりすることで、安い価格での株式取得を促す方法です。これで買収側の保有比率が下げられるため、買収の回避につなげられます。

ただし、ポイズンピルの発動によって株価・株式の保有比率の低下を招くため、防衛策を選択する場合は株主への影響や経営権の維持など、敵対的買収以外のリスクも考慮しておきましょう。

③パックマン・ディフェンス

3つ目に挙げる敵対的買収M&Aの主な防衛策は、パックマン・ディフェンスです。わかりやすく解説すると、敵対的買収を仕掛けられた側が買収をやり返すことをさします。

これは、議決権を失わせることが狙いです。買収側の株式を取得して1/4以上を確保できれば買収を仕掛けられた企業への議決権が失われるため、買収を仕掛け返すことで買収を回避できます。

④焦土作戦(クラウン・ジュエル)

4つ目に挙げる敵対的買収M&Aの主な防衛策は、焦土作戦(クラウン・ジュエル)です。わかりやすく解説すると、焦土作戦は買収側が求める事業・資産を別の第三者に売り渡すことを意味しています。

目的の事業・資産が得られなければ買収を行う意味がないため、買収意欲をそぐために利用される手法といえます。

⑤ゴールデンパラシュート

5つ目に挙げる敵対的買収M&Aの主な防衛策は、ゴールデンパラシュートです。わかりやすく解説すると、ゴールデンパラシュートは経営陣に支払う退職金に経営を脅かすほどの金額を設定した防衛策のことをさします。

これで買収が成功に終わったとしても経営陣を交代させにくくなるため、敵対的買収を避けられます。

⑥マネジメント・バイアウト

6つ目に挙げる敵対的買収M&Aの主な防衛策は、マネジメント・バイアウトです。わかりやすく解説すると、マネジメント・バイアウトは役員や事業部門のトップによる買収のことで、敵対的買収を仕掛けられた側は自社の株式を集めて上場廃止を選びます。

非公開会社となれば株式の譲渡に制限を掛けられることから、敵対的買収を避けるための手段に選ばれています。

⑦第三者割当増資

7つ目に挙げる敵対的買収M&Aの主な防衛策は、第三者割当増資です。ホワイトナイトの項目でも出てきた手法ですが、ここではさらにわかりやすく解説していきます。

第三者割当増資は、特定の第三者に新株を発行することです。本来は増資を目的とする手段ですが、敵対的買収を仕掛けられている場合には株式の発行数を増やすために用いられます。

こうすれば、買収側に株式を取得されても保有割合を下げられるため、買収を回避できるのです。

8. 敵対的買収の防衛成功例

敵対的買収を仕掛けられた企業は、どのように対応していたのでしょうか。敵対的買収を防衛した事例を知りたい人のために、5つの成功例をわかりやすく解説します。

日本では以下の企業が、他社のTOBを防いでいます。
 

  1. 東洋電機製造へのTOB
  2. 明星食品へのTOB
  3. 北越製紙へのTOB
  4. ニッポン放送へのTOB
  5. ブルドックソースへのTOB

①東洋電機製造へのTOB

1つ目に紹介する敵対的買収に対する防衛成功例は、日本電産による東洋電機製造へのTOBです。日本電産はTOBの意向を会見の当日に東洋電機製造へ伝えています。

これまで行われてきた友好なM&Aとは異なる手法であったため労働組合からの反発の声が上がり、日本電産は敵対的買収を諦めたとのことです。

②明星食品へのTOB

2つ目に紹介する敵対的買収に対する防衛成功例は、アメリカの投資ファンド、スティール・パートナーズ・ジャパン・ストラテジック・ファンドによる明星食品へのTOBです。

創業者一族と村上ファンドから大量の株式を買い占め明星食品にMBOを迫ったものの、同意しなかったためTOBを仕掛けます。明星食品はこれに反対し、敵対的買収へと発展しました。

明星食品は防衛策として同業の日清食品にホワイトナイトを依頼し、資本提携を試みます。すると、スティールはTOBへの応募がないことを理由に買収を断念しました。そして、日清による友好的TOBに応募し、保有する株式を手放しています。

③北越製紙へのTOB

3つ目に紹介する敵対的買収に対する防衛成功例は、王子製紙による北越製紙へのTOBです。王子製紙が経営統合を持ち掛けるも、北越製紙は拒否の態度を示しました。

買収に対抗するため、北越製紙は三菱商事への第三者割当増資により資本・業務提携を選びます。これを受けて王子製紙は、資本・業務提携の解消と条件に挙げた敵対的買収を発表しました。

しかし王子製紙は、日本製紙による株式の取得や新株を取得した三菱商事が北越製紙の筆頭株主になったことを受けて、敵対的買収を断念しています。

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④ニッポン放送へのTOB

4つ目に紹介する敵対的買収に対する防衛成功例は、ライブドアによるニッポン放送へのTOBです。フジテレビジョンがニッポン放送の子会社化を狙い、TOBを発表します。ところが、ライブドアとその子会社が35%の株式を取得してしまい、筆頭株主に躍り出ました。

フジテレビジョンはニッポン放送を通じたライブドアの支配を避けるため、TOBの目標比率を25%以上にまでに引き下げて、発行済み株式の36.47%を取得します。

株式の取得争いが激化するに見えましたが、事態はここから収束の一途を辿ります。ニッポン放送は新株予約権の発行が認められなかったため発行することを諦め、ライブドアはニッポン放送の株式取得を停止すると発表して和解に至りました。

ライブドアがニッポン放送の株式をフジテレビジョンに譲り、フジテレビジョンがライブドアへ出資をすることで事態が収束したとのことです。

⑤ブルドックソースへのTOB

5つ目に紹介する敵対的買収に対する防衛成功例は、スティール・パートナーズによるブルドックソースへのTOBです。スティール・パートナーズはブルドックソースの株式を取得するため、TOBを公表しました。

ブルドックソースはこれに対抗するため、防衛策・ポイズンピルを実行に移します。ポイズンピルの内容は、次のとおりです。
 

  • すべての株主に対して1株につき3つの新株予約権を発行する
  • スティール・パートナーズ以外の株主には1つの新株予約権に対し1株を発行する
  • スティール・パートナーズには金銭による交付を行う

ブルドックソースはこうした防衛策により、スティール・パートナーズの持ち株比率を1/4まで下げようとしました。

スティール・パートナーズは新株予約権の発行を不服とし申し立てをするも認められず、ブルドックソースによる防衛が成功しています。
 

敵対的買収ではターゲットになりやすい企業があるため防衛策が必須といえますが、防衛策を講じるには専門的な知識が必要です。

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9. まとめ

敵対的買収には以下のようなメリットがありますが、成功する確率は高くないのが現実です。

【買収側のメリット】

  1. 買収先企業の経営権を取得できる
  2. 会社のあり方を株主に問う
  3. 株式を高値で買収することもできる
  4. 買収計画が立てやすい
  5. 余分なコストが掛からない
【一般株主のメリット】
  1. 株価が跳ね上がり短期での利益が見込める
  2. 企業を直接応援できる

敵対的買収ではターゲットになりやすい企業があるため、防衛策が必須といえます。事前の準備や買収を仕掛けられてからの対策など、防衛策を講じるにはど専門的な知識が必要です。

【敵対集買収の防衛策】
  1. ホワイトナイト
  2. ポイズンピル
  3. パックマン・ディフェンス
  4. 焦土作戦(クラウン・ジュエル)
  5. ゴールデンパラシュート
  6. マネジメント・バイアウト
  7. 第三者割当増資

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