2023年06月12日更新
歯科の事業売却や事業譲渡について!メリットや注意点は?成功事例も調査
歯科医院は、既存の医院を事業承継先にすると患者を引き継ぐことができ、大きなメリットを得ることも可能です。本記事では、歯科医院の事業売却・事業譲渡や事業承継について、そのメリットや注意点などを解説します。また、実際に事業承継を行った成功事例の紹介しています。
目次
1. 歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継
歯科医院は、新規で開設すると設備投資などの費用が大きく、さらに顧客を一から開拓しなければなりません。
一方、事業売却・事業譲渡や事業承継で既存の歯科医院を獲得すれば、新規開設のデメリットを回避できます。
歯科医院は院長の高齢化や競争激化による診療所の減少などもあり、今後は事業売却・事業譲渡や事業承継が増えると考えられます。
今後もし歯科医院を開設するのであれば、事業売却・事業譲渡や事業承継といった選択肢を意識することも重要になるでしょう。
歯科の事業売却や事業譲渡とは
事業譲渡とは会社や個人事業を売買するM&A手法の一つで、株式ではなく事業資産を金銭で売買する取引です。事業売却は事業譲渡とほぼ同じ意味であり、売り手側からの視点で話す時に使われることがあります。
歯科医院は医療法人か個人事業主のどちらかなので、事業売却・事業譲渡か持分ありの場合は出資持分の譲渡(持分譲渡)でM&Aを行うことになります。
個人事業主の場合は必ず事業売却・事業譲渡を使うことになりますが、医療法人の場合は事業売却・事業譲渡と持分ありの場合は持分譲渡、どちらの手法でも使うことができます。
歯科の事業承継とは
事業承継とは、現経営者が引退して後継者に経営を譲り渡すことです。後継者となり得るのは、現経営者の親族、従業員や役員、現経営者と関係性のない第三者の3パターンで、それぞれ親族内事業承継・親族外事業承継・M&Aによる事業承継と呼びます。
最も一般的な事業承継は親族内事業承継ですが、近年は少子化などの影響により、親族外事業承継やM&Aによる事業承継が増えてきています。
事業売却・事業譲渡と事業承継の違い
事業売却・事業譲渡と事業承継は、言葉が似ているので混同しがちですが、意味は全く違います。
事業売却・事業譲渡は、歯科医院などを売却する時に使うM&A手法の名称です。株式や出資持分ではなく、事業資産を売却・譲渡するM&Aの手続き内容を表しています。
対して、事業承継は歯科医院などを後継者に譲り渡すという、経営者の交代を意味する用語です。どのM&A手法を使うかに関わらず、経営を後継者に譲り渡せば全て事業承継となります。
2. 歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継が増えている理由
近年は歯科医院の事業売却・事業譲渡や事業承継が増えているといわれていますが、その理由としては、以下の3点が考えられます。
【歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継が増えている理由】
- 院長の高齢化による引退
- 診療所の廃止が増えている
- M&A・事業承継は増加傾向にある
院長の高齢化による引退
厚生労働省の調査によると、2014年の歯科医院の院長の平均年齢は約52歳となっています。1990年ごろは約46歳だったので、平均年齢がかなり上昇していることが見てとれます。
60歳以上の比率は約25%であり、引退を考える年齢に差しかかっている歯科院長が多いことが分かります。
歯科院長の高齢化による引退が増えているのは、事業売却・事業譲渡や事業承継が増加する大きな要因の一つとなっています。
診療所の廃止が増えている
歯科診療所の数は2012年と2013年は増えていましたが、2014年は減少に転じ、2019年の調査でも113施設の減少となっています。
歯科医院の廃止増加は、事業売却・事業譲渡や事業承継が増える一因になっていると考えられます。
M&A・事業承継は増加傾向にある
近年は歯科業界に限らず全業種でM&A・事業承継が増加傾向にあります。
この傾向は今後も続く可能性が高く、歯科医院のM&A・事業承継も今後さらに増えてくると予想されます。
3. 歯科を事業承継する際のポイント
歯科医院の事業承継を行う際は、ポイントを押さえておくことが重要になります。主なポイントとしては、以下の4点が挙げられます。
【歯科を事業承継する際のポイント】
- 引き継ぐ対象を決める
- 患者などのデータ引き継ぎ
- 各種手続きの引き継ぎ
- 後継者へのアドバイスなどを行う
引き継ぐ対象を決める
歯科医院の事業承継は、事業売却・事業譲渡か持分譲渡で行われます。持分譲渡は株式譲渡と同じ包括承継なので、引き継ぐ対象を決めることはできず、権利・義務・資産・負債全てを引き継ぎます。
一方、事業売却・事業譲渡で事業承継する場合は、まずどの資産を引き継ぐかを決める必要があります。
資産には建物や医療機器などの物質的なものだけでなく、患者のカルテや従業員なども含まれます。
例えば、診療所を新設して設備を新たに購入する場合は、あえて設備を引き継がないという選択肢もとることができます。
患者などのデータ引き継ぎ
歯科医院の事業承継では、患者のカルテなどのデータを引き継ぐ必要があります。事業承継後も患者が安心して歯科を利用できるように準備し、顧客が離れないようにしなければなりません。
個人事業の歯科医院がカルテを引き継ぐ場合は、個人情報保護の観点から患者の承諾を得る必要があります。
全ての患者に連絡をとって承諾を得るのは難しい場合もあるので、その場合は問診票に事業の承継に伴い「カルテの情報を提供することに合意する」といった欄を設けておくと手続きが簡略化できます。
各種手続きの引き継ぎ
歯科医院の事業承継では、カルテ以外にもさまざまな手続きの引き継ぎを行う必要があります。
後継者は手続き内容について分からないことが多いので、現経営者がしっかりとアドバイスすることが大切です。
後継者へのアドバイスなどを行う
歯科医院の事業承継は、設備やカルテなどの資産を譲渡したら終わりではありません。後継者は自分の歯科医院を持つのが初めてである場合も多いので、前院長が後継者に経営のアドバイスを行わなければなりません。
診療内容や方針についての説明だけでなく、患者からのクレーム対応の仕方、医療法を遵守した宣伝方法などもアドバイスします。
また、歯科医としてのアドバイスだけでなく、経営者としての財務や税務面でのアドバイスも大切です。
4. 歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継のメリット
歯科医院を事業売却・事業譲渡または事業承継する際は、そのメリットを正しく理解しておくことが大切です。
事業売却・事業譲渡を行う際は持分譲渡と比べた時のメリット、事業承継の場合は、後継者が親族か親族以外かによるメリットの違いを考慮する必要があります。
歯科の事業売却・事業譲渡のメリット
歯科医院の事業売却・事業譲渡のメリットは、個人事業主でも行うことができることと、譲渡する資産を選べることです。
医療法人の歯科医院なら持分ありの場合は持分譲渡ができますが、個人事業主では行うことができません。しかし、事業売却・事業譲渡なら個人事業主でも行うことができます。
また、持分譲渡は包括承継なので譲渡する資産を選べず、余計な負債や不要な設備なども引き継ぐことになります。
一方で事業売却・事業譲渡なら、売り手の合意が得られれば不要な資産を引き継がないことも可能です。
歯科の事業承継のメリット
事業承継のメリットは、今まで築いてきた伝統や技術・ノウハウ、顧客や取引先といった資産を歯科医院を廃業することなく引き継げることです。
事業承継のメリットは、後継者が親族か親族以外かでも変わってきます。例えば、後継者が親族なら早い段階から事業承継の準備ができ、人柄や適性もよく分かっているというメリットがあります。
後継者が親族以外であれば、幅広い選択肢から後継者を選べるメリットがあります。
5. 歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継の注意点
歯科医院の事業売却・事業譲渡または事業承継を行う際は、メリットだけを見るのではなく注意点も頭に入れておくことが大切です。
メリットと注意点の両方を考慮したうえで、メリットができるだけ大きくなるように計画を練っていきましょう。
歯科の事業売却・事業譲渡の注意点
歯科医院の事業売却・事業譲渡は、持分譲渡と違って包括承継ではないので、不動産や設備などを個別に売買します。
従業員の雇用も新たに契約し直す必要があるため、持分譲渡より手続きが複雑になり、手間がかかるのが注意点です。
歯科の事業承継の注意点
事業承継は経営者が交代するので、引き継ぎをうまく行うとともに、顧客が離れていかないように配慮することが大切になります。
顧客離れを起こさないためには、後継者に適性があるか見極めることが重要です。親族に後継者候補となる歯科医師がいても適正がないと判断したら、思い切ってM&Aを検討することも必要になります。
また、事業承継によって経営方針が大きく変わってしまわないようにすることも、顧客離れを防ぐ重要なポイントです。
意欲のある後継者は経営方針の改善を打ち出すことが多いですが、今まで培ってきた歯科医院のよさを壊さないように、バランス感覚を持って改善していくことが重要になります。
6. 歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継の成功事例
この章では、M&A総合研究所によって実際に行われた歯科医院の事業承継の中から、親族内事業承継とM&Aによる事業承継を5例紹介します。
①石川県の歯科医院の親族内事業承継の成功事例
石川県の歯科医院の親族内事業承継の成功事例です。後継者は前経営者の息子で、先代が立ち上げた医院の2代目となります。
東京の歯科大学を卒業して東京で勤務した後、30歳で退職して地元に帰ります。その後は先代のもとで8年間経験を積み、院長となり事業承継が成功しました。
事業承継後は、無理な経営方針の転換は行わないようにしながら、患者の快適性の追求など必要な改善は取り入れることで、順調な経営を維持しています。
②神戸市の歯科医院のM&Aによる事業承継の成功事例
神戸市の歯科医院の、M&Aによる事業承継の成功事例です。2009年に事業承継が行われた後、現在まで順調な経営が続いています。
後継者はもともとニュータウンでの開業を希望しており、神戸市のニュータウンにあるこちらの歯科医院が適していると判断しました。
1年間は勤務医として先代とともに働き、スタッフや患者とのコミュニケーションをしっかりとってから事業承継しています。
先代の経営者の経営方針を引き継ぐことで、先代のほとんどの患者を引き継ぐことに成功しています。
③大阪市の歯科医院の親族外事業承継の成功事例
大阪市の歯科医院の、M&Aによる事業承継の成功事例です。後継者はこの歯科医院の勤務医だった方で、親族外事業承継の事例となります。
開業して5年ほど先代が経営していましたが、多忙になったため医院を手放すことになります。一般に事業承継は前経営者の高齢による引退のケースが多いですが、この事例にように何らかの理由で若いうちに手放すこともあります。
事業承継を行う前に想定されるトラブルを前院長と話し合うなどして、スムーズに引き継ぎが行われるように配慮したのが成功の要因だと考えられます。
④三重県の歯科医院の親族内事業承継の成功事例
三重県の歯科医院の親族内事業承継の成功事例です。歯科医院の親族内事業承継は先代の息子が後継者となるケースが多いですが、この事例は先代の娘婿が後継者となっています。
先代は60代で、引退にともなう事業承継となっています。後継者育成の期間はなく、後継者はこの歯科医院での診療経験がない状態で引き継ぎました。
しかし、スタッフのフォローにより事業承継は成功し、先代の患者のほとんどを引き継いで順調な経営を続けています。
⑤歯科医院の親族内事業承継の成功事例
歯科医院の親族内事業承継の成功事例です。歯科医院の所在地などは非公開となっています。
親から子への親族内事業承継の事例ですが、このケースでは事業承継後も先代が勤務医として診療を続ける形態をとっています。
事業承継は早めに行うほうがメリットが大きいので、先代がまだ元気があるうちに事業承継するのはよい選択肢です。
個人事業でいくか法人化するべきか、資産の引き継ぎを譲渡・贈与・賃貸の中からどれで行うべきかを、綿密にシミュレートしたことが成功の要因となっています。
7. 歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継を成功させるポイント
歯科医院の事業売却・事業譲渡や事業承継は新規開設にないメリットがありますが、手続きの過程でさまざまなトラブルが起こる可能性もあります。
想定されるトラブルを回避し、成功させるポイントを押さえておくことが大切です。特に以下のような点には注意して、事業売却・事業譲渡や事業承継を進めていきましょう。
【歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継を成功させるポイント】
- 患者の流出を防ぐ
- 状況に応じて専用機器や内装、外装を新しくする
- スタッフの流出を抑える
- スタッフの質を少しでも向上させる
- M&A成約まで集客を行い続ける
- M&Aの専門家に相談する
1.患者の流出を防ぐ
既存の患者を始めから獲得した状態で経営を始められるのは、歯科医院を事業売却・事業譲渡や事業承継で開設する大きなメリットです。
したがって、事業売却・事業譲渡や事業承継の際は、患者が流出してしまわないように注意する必要があります。
特に先代が高齢で引退間際の歯科医院は、体力や技術面などの問題で患者が離れ気味になっているケースもあります。
引退による事業承継で患者の流出を防ぐためには、できるだけ早く事業承継を行うことが大切です。
2.状況に応じて専用機器や内装、外装を新しくする
M&Aによる事業承継では、買い手に自社を魅力的に見せるための「磨き上げ」という作業で、売却価格を引き上げることができます。
歯科医院の場合は、機器や内装・外装を新しくすることで、それに費やした費用を上回る売却益を得られる可能性もあります。
機器や内装・外装のリニューアルは、磨き上げという意味だけでなく、従業員の職場環境や顧客の利便性向上というメリットもあります。
3.スタッフの流出を抑える
事業売却・事業譲渡や事業承継では、スタッフが職場環境の変化などに不満を持って退職してしまい、思うような経営ができなくなるケースがあります。
このような失敗を避けるためには、給与や職場環境などの雇用条件を整えることと、経営者の交代に対して不安を抱かせない配慮が重要になります。
4.スタッフの質を少しでも向上させる
磨き上げの一環として、スタッフの教育をしっかり行い質を向上させることも重要になります。
例えば、定期的な院内研修会の開催や、歯科医療事務講座など外部の講習会へ参加したり、能力に応じた給与体系を採用するといった対策が考えられます。
5.M&A成約まで集客を行い続ける
どうせM&Aで売却するのだからといって、集客をおろそかにしてしまうのはよくありません。
買い手は既存の患者を獲得できることを大きなメリットと捉えているので、売り手としてはM&Aの成約時までしっかりと新規開拓を行う必要があります。
6.M&Aの専門家に相談する
M&Aはまず買い手・売り手を探さなければならず、そのためには仲介会社などの専門家に相談する必要があります。
最近は自分で相手を探せるマッチングサイトも増えていますが、M&Aの手続きは法的拘束力のある書面の作成なども含まれるので、やはり専門知識のある仲介会社に相談したほうがよいでしょう。
M&A仲介会社のなかには、歯科医院や医療業界を専門に取り扱っているところもあります。また、中小企業に強いM&A仲介会社は、歯科医院など小規模な案件の経験が豊富なことが多いです。
8. まとめ
歯科医院の事業売却・事業譲渡や事業承継は増えてきており、手続きやメリットについて理解しておくことが重要です。ポイントを押さえたうえで、しっかりと準備して臨むことが成功にもつながります。
【歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継が増えている理由】
- 院長の高齢化による引退
- 診療所の廃止が増えている
- M&A・事業承継は増加傾向にある
【歯科を事業承継する際のポイント】
- 引き継ぐ対象を決める
- 患者などのデータ引き継ぎ
- 各種手続きの引き継ぎ
- 後継者へのアドバイスなどを行う
【歯科の事業売却・事業譲渡や事業承継を成功させるポイント】
- 患者の流出を防ぐ
- 状況に応じて専用機器や内装、外装を新しくする
- スタッフの流出を抑える
- スタッフの質を少しでも向上させる
- M&A成約まで集客を行い続ける
- M&Aの専門家に相談する