2022年12月18日更新
新型コロナによるM&A市場はどうなる?影響はある?
拡大一辺倒だと思われていたM&A市場ですが、新型コロナウィルス感染拡大問題の勃発により日本経済は大きなダメージを受け、それに比例して2020年のM&A市場は前年よりも縮小しました。コロナがM&Aに与えた影響を分析し、今後の動向を考察します。
1. 新型コロナによるM&A市場はどうなる?
この章では、新型コロナによるM&A市場はどのようになるのか見ていきましょう。
2020年前半時点でみられるM&A市場の変化
2020年1~2月の段階では、前年を少し上回るペースでM&Aが成立していました。しかし、3月に新型コロナウィルス緊急事態宣言が発令されます。近年において、コロナウィルスのような世界的な疫病蔓延の経験は誰にもなく、経済界も様子見という状態でした。
それが、4月、5月、6月と時間が進むにつれ、コロナウィルスは簡単に終息するものではなく、経済は大きな打撃を受けるのはやむを得ないという認識が浸透していきます。それを受けて、M&Aを計画していた企業はこれを無期延期あるいは中止とする措置を取りました。
M&A交渉中だった企業も多くが交渉を打ち切り、M&Aを保留または中止に踏み切っています。その結果、2020年前半期全体として、M&A件数は前年よりも大きく減少しました。
2020年後半のM&A市場の動向
そのまま減少状態が続くかと思われたM&A市場ですが、2020年後半期には変化が生じました。消極的に何もしないままでは、ますます経済が落ち込むだけであり、これを打破するためにも積極的な経営戦略を取るべきだと各企業が感じて動き出したのです。
M&Aも経営戦略の一環ですから、これまでと同等あるいはそれ以上の積極性を持って各社がM&A市場に戻ってきました。
大型M&Aはあまり実施されず、小規模・中規模のM&Aが多くを占めていることの表れといってよいでしょう。その一因として、コロナウィルス問題で経営難に陥った中小企業が多く、廃業を避けるためM&Aを選択したケースが増加したと考えられます。
リーマンショック時に起こったM&A市場の変化
2008年のリーマンショック時は、以前よりもM&Aの成約まで時間がかかり、M&Aコストが増加したことから、案件数の減少や規模の縮小が目立っていました。
実際、当事のM&A仲介会社においては、M&A仲介による手数料収入が大きく落ち込み、各企業への資金調達やリストラの助言などが業務の中心になっていたほどです。
その後、大手中小問わず多くの企業がダメージを残し、M&A市場の縮小も2011年まで続きました。しかし、2012年からは立ち直った企業の海外M&A案件や、団塊世代の経営者引退による事業承継案件の増加により、全体的にM&A市場は回復基調に向かっていきます。
2. 新型コロナによる各M&A市場への影響
前章では、M&A市場全体に対して新型コロナウィルスが及ぼした影響について述べましたが、ここではM&A市場をより細分化して、新型コロナウィルスから受けた影響を見ていきましょう。
スタートアップ企業への影響
スタートアップは、革新的な技術開発やビジネスモデルの確立をもって収益を確定する特徴があるため、元から赤字経営で開発を進める傾向にあります。
しかし、新型コロナウィルスの影響で、資金調達先であるベンチャーキャピタルや個人投資家からの融資が停滞する事態が発生しました。なかには数ヶ月先の運転資金まで確保が難しいところもあり、事業存続に不安を抱えるスタートアップも多いのが実情です。
政府主導におけるコロナ対策の中小企業支援は、売上が減少しなければ適用されないこともあり、コロナ終息が読めない現状では、スタートアップ企業は厳しい状況に立たされています。
海外M&A市場への影響
新型コロナウィルスの流行によって、海外M&A市場も縮小しています。日本企業による海外企業の買収件数はコロナ流行前だと毎月10~15件前後でしたが、現在は月に2~3件と大きく落ち込んでいる状況です。
一方で、欧州やオーストラリアでは海外企業とのM&A(クロスボーダーM&A)を規制する動きが強まっています。中国系企業やファンドが、コロナウィルスの影響で体力が弱まった欧州企業に対し強い買収姿勢を見せており、その防衛策でしょう。
また、コロナの影響により、米中のように外交関係が悪化する国も見受けられます。コロナが長引いて海外M&A規制を強める国が増えれば、日本企業による海外企業の買収が行いづらくなるのは避けられません。
国内M&A市場への影響
国内M&A市場においてはM&A交渉の長期化や見直しが続いています。コロナ以前より進められていた交渉は成約したものも多いですが、コロナ発生以降の新規案件着手は慎重姿勢を崩さない企業が多いのも現実です。
しかし、リーマンショック時のように、数年先までコロナ影響によるM&A市場の縮小が続くとは限りません。業界別に経営状況を見てみると、新型コロナウィルスの影響で業績が悪くなっている業種がある一方、業績が向上している業種もあります。
また、業績が悪化した中小企業が、廃業だけは避けるために積極的に会社売却を実施する動きもあり、単純にM&A市場が低迷・縮小したままと考えるのは早計です。
新型コロナの影響によりM&A件数が減った業界
コロナウィルスの影響によりM&A市場が縮小してしまっている業界とは、いい換えればコロナのために業績が悪化した業界といえます。具体的には以下の業種です。
- 飲食店
- マッサージ店
- 旅館、ホテルやその他の旅行関連業
- イベント企画
- アパレル
- 店舗の企画開発業
つまり、3密を避けるために自粛要請など事実上の営業規制を受けた業種です。これらの中には、経営がひっ迫したために会社売却を模索するところもありますが、業界全体としていつ状態が上向くか予測できないため、買い手候補も躊躇しています。
新型コロナの影響によりM&A件数が増えた業界
コロナ禍でも逆に業績が上がった業種では、M&Aも活発化しています。具体的には以下の業種です。
- IT系
- EC(ネット通販)
- 医療業界
- 医療器具関連企業
- ドラッグストア
IT系は業務がリモートワークに適しており、従業員の在宅ワーク化によって業務が滞ったりせず業績に影響が出ません。ECの巣ごもり需要による活況は報道のとおりです。医療系は、まさしくコロナが注目させた業種といえるでしょう。
資金がある大手企業の場合、業績が芳しくない事業があれば、コロナ禍でも活況である上記の事業に進出しようと考えてもおかしくありません。M&Aは有力な手段であり、今後はコロナの影響を受けた業界再編が起きる可能性も大きいでしょう。
3. 新型コロナの影響により停滞したM&A市場への対応
新型コロナウィルス流行によって各M&A市場に大きな変化が見られ、各企業のM&A戦略は変更を余儀なくされました。コロナ以前よりM&Aを進めていた企業のなかには、交渉が停滞しているところも少なくありません。
コロナ終息への先行きが見えないなか、新たなM&A市場の兆候に着目するとともに、新型コロナで停滞したM&A市場への対応について、売却側・買収側それぞれの視点から解説します。
新型コロナの影響によりスモールM&Aが増加傾向
M&A市場には、大企業が巨額を投じて行う大規模M&Aもあれば、個人事業や小規模会社を売買取引するM&Aもあります。小規模事業の売買取引の呼称が、スモールM&Aです。コロナ禍において、スモールM&Aは以前よりも活況となっています。
この遠因は、働き方改革でサラリーマンでも副業を行いやすくなったことですが、それに拍車を掛けたのがコロナ禍でのリモートワークの浸透です。近年のM&A市場では、取引希望者同士がダイレクトに交渉が行えるマッチングサイトが注目されていました。
リモート環境の拡充とマッチングサイトの存在、副業の自由化、独立の模索などが相まって、スモールM&Aを実施する個人や小規模会社が一気に増えたと考えられます。
売却を検討していた企業の対応
ここからはM&Aによる売却を行おうとしていた企業について考えましょう。M&Aの売却側企業は、M&A成約のタイミングを中心にして、その後の計画を立てています。
しかし、従業員の引き継ぎや獲得した売却益の運用方法など、計画的に進めていたものがコロナの影響により、ずれが生じてしまいました。売却側企業が新型コロナウィルスから受けた具体的な影響と、考えられる対策について解説します。
売却戦略への影響
新型コロナによる売却側への影響は、M&A長期化による、その間の経営維持コストの負担増です。M&Aスキーム(手法)のうち、特に株式譲渡で会社を丸ごと売却しようと考えている経営者は、基本的に引退を考えています。
M&A取引が成立すれば会社の経営にかかわることもなく、会社を維持する財務面の苦労からも解放されるはずでした。財務的に限界がきており、会社売却を決断した経営者もいるでしょう。こうした状況下でM&A交渉が長期化すれば、財務面の悪化は明らかです。
考えられる対策
売却側が考えられる新型コロナへの対策は、一刻も早い成約を目指すことです。交渉が長引くと企業としての体力が削られてしまい、企業価値も下がってしまいます。コロナ不況で状況が悪くなる前に成約できれば、高い金額での売却も実現しやすいでしょう。
買収側より提示される条件を全て飲むのは厳しいですが、多少の譲歩をしてでも技術の承継・従業員の雇用先の確保をするためにも、早期の決断がポイントとなります。
買収を検討していた企業の対応
新型コロナの影響で買収側も厳しい状況です。買収側がコロナで受けている影響と考えられる選択肢をみていきます。
買収戦略への影響
新型コロナによる買収側への影響は、業績予想の複雑化です。通常、買収側は自社と売却企業の事業シナジーを想定してM&A戦略策定をしますが、コロナによる一時的な業績悪化が激しく、買収後の見とおしが立てづらくなっています。
買収側が上場企業であれば、株主からの同意も得なくてはなりません。買収に失敗して経営が傾けば、株主の損失となってしまうため、リスクを嫌う株主からの反対もM&Aの障害となります。
考えられる選択肢
買収側の考えられる選択肢は、綿密なM&A戦略です。買収後に想定している事業シナジーはコロナ状況下でも機能するのか、徹底的に戦略を練っておく必要があります。正当性・妥当性のあるM&A戦略であれば、買収に反対する株主からの賛同も得やすいはずです。
コロナ禍が回復するまで保留という選択肢もあります。M&A交渉が長期化することでコストは増加しますが、急いで成約するよりもコロナ禍の回復まで待ったほうがリスクを抑えられるからです。
M&Aのご相談はM&A総合研究所へ
新型コロナの影響で売却側・買収側の双方が厳しい決断を迫られています。コロナでM&Aが長期化するほど負担は増加していき、双方の業績変化も激しくなってしまうでしょう。
こうしたコロナ被害を抑えるために大切なのは早期の決断です。コロナ状況下におけるM&Aをご検討の際は、ぜひM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所は、主に中堅・中小企業向けの案件を取り扱うM&A仲介会社です。M&A総合研究所では、知識や経験の豊富なM&Aアドバイザーが、親身になって案件をフルサポートいたします。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談をお受けしておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
コロナの影響で業績予想が厳しい状況のなかでも、M&Aを目指す経営者の皆様に対して、真摯に対応いたします。
4. 新型コロナ以降のM&A動向
現在の新型コロナウィルス感染拡大問題の中、国内におけるM&Aが今後どうなっていくのか考察します。
M&Aの需要は今後ますます増加することが予測される
コロナ禍といっても、業績が好調な業種は多くあり、それらにおいてはM&Aも以前と変わらず活発に行われています。また、業績が不調な業種の場合、経営が行き詰まってしまった中小企業が積極的に売却に乗り出している状況です。
そして従来より、経営者が引退時期となった中小企業の事業承継手段としてM&Aが用いられるのは、有力な後継者がいない会社の場合、自明の理です。ベンチャー企業やスタートアップのイグジット戦略として、M&Aが用いられることも増えています。
コロナがいつ終息するのかは不明です。しかし、ワクチン接種も始まり、コロナとの共生の仕方も理解が進みつつある状況を考えれば、経済が好天化する可能性もゼロではなく、M&Aが下火になるとは限らないでしょう。
受診控えによる医療機関M&Aの件数増加
帝国データバンクによる「急増するクリニックの廃業、過去最多ペースで推移‐コロナ禍で長期化する受診控え、経営に大きな打撃」(2021年7月)を見ると、2021年1月〜6月までにトータルで267件が廃業となっています。
これは、過去最多のペースによる推移です。外出自粛、テレワークの浸透による医療経営の悪化が、大きな原因といえます。
そのため、医療・介護業界の譲渡希望事業者は昨年より増えている状況です。入院施設を持たないクリニック(無床診療所)の割合が特に増え、新型コロナウィルス感染症拡大による患者減少の影響を多大に受けたことがわかります。
コロナ後も医療経営を改善する見込みは立っていないため、この傾向はしばらく続くでしょう。
材料高、人件費上昇による飲食店譲渡ニーズの増加
飲食店譲渡ニーズも増加しています。
2021年に緊急事態宣言およびまん延防止等重点措置による夜間営業の取りやめの影響により、居酒屋・バーは、2022年にかなり減りました。一方、ラーメン店や自社ブランドの飲食店などは増加しています。
原材料の高騰や、コロナ禍により一時的に従業員を減らした店舗が営業を再開したが人件費などの上昇により危機に陥っていることが背景です。
全体的に飲食店の譲渡ニーズは当分落ち着かないでしょう。
新型コロナ後は業界再編の活発化が予想される
コロナウィルスのまん延により業績が悪化してしまった業界の場合、残念ながら体力のない企業は淘汰されて大手に吸収されていく流れとなり、結果的に業界再編が進むと考えられます。
また、業績好調な業界の場合は、市場シェアをより拡大するために大手企業同士の統合、大手企業による中小企業の取り込み、それらに対抗するための中小企業同士の結託・統合などが進むでしょう。
資本力がある異業種からの参入も十分に予想されます。その際はM&Aが用いられるのが常であり、以外な組み合わせの統合が生まれる可能性もあります。その場合、業界再編はより活発化するでしょう。
海外拠点の再編・撤退戦略としてのM&A活用
海外拠点の再編や撤退は、事業部に任せた意思決定となるケースがよく見られます。コロナ禍で業績が伸びない拠点は、ポストコロナの状況が訪れた際、従前の計画が実現できるかどうか再点検しなければなりません。
中長期ビジョンにおいて、海外へどれくらい注力するべきか、必要とする経営資源を確保してきたか、を振り返るのに適したタイミングといえます。
海外事業の再構築では、各進出国や地域の位置づけについても、これからの市場成長性や取引先の経営環境などを踏まえて検討しましょう。検討の際は、外部環境と内部環境の両方から進めてください。
海外M&Aならではの特徴
海外M&Aならではの特徴として、下記の4つが挙げられます。
- 成長市場へのアクセス
- 売上創出の時間が短縮
- 投資額の明確性
- 撤退時の選択
新興国など市場の複雑な流通構造があれば、現地商流へのアクセスを確保できるでしょう。
ただし、海外M&Aを行う際は、国内M&Aとは違う点が多いため、国内と海外を同じものと考えて扱うと、後にトラブルになるといえます。戦略における明確な方針を基準として進めることが欠かせません。
女性経営者によるM&Aの推進
東京商工リサーチの「全国の女性社長が初めて50万人を突破 第10回「全国女性社長」調査」(2021年11月)を見ると、全国における女性社長が50万人を超え、女性社長率は14%超を記録しています。これにより、女性のさまざまな働き方や人生の選択肢を増やすために、M&Aが推進している状況です。
女性経営者が譲渡側となるケースも増加しています。生活スタイルの変化をきっかけとして、女性が事業や会社を手放すケースも増えているのです。
中小企業M&AにおけるPMIの普及
M&A後における会社の統合作業であるPMI(Post Merger Integration)は、M&Aを成功させる非常に重要な要素になりますが、実施するのは大企業がほとんどで、中小企業はあまり行っていませんでした。
しかし、近年は、特に小規模事業者におけるM&Aが広まったことにより、PMIの重要性が認識されています。中小企業庁は、2022年3月17日に「中小PMIガイドライン」を策定しました。同時に「中小PMI支援メニュー」により、普及するための体制を整えています。
5. 新型コロナによるM&A市場への影響まとめ
世界中に感染拡大し、まだ終息の気配が見えないコロナウィルスの経済への影響は大きく、それはM&Aでも例外ではありません。国内のM&Aだけでなく、海外企業とのM&Aが中止になっているケースも多く見受けられます。
コロナによる状況変化により、M&A市場は冷静な判断が求められています。リスクも伴いますが、うまく対処すればコロナ危機を乗り切ることも可能でしょう。
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