2023年08月04日更新
クリニックのM&A・事業承継の成功・失敗事例まとめ!業界動向・成功ポイントも解説
この記事では、クリニック・病院におけるM&A・事業承継のポイントについて詳しく解説します。クリニック・病院をM&A・事業承継する際の相談先や、M&A・事業承継が行われる理由、業界動向や成功させるポイントなども紹介しますので、参考にしてください。
目次
1. クリニック・病院のM&A・事業承継
本記事ではクリニック・病院のM&A・事業承継を成功させるポイントなどを紹介します。まずはクリニック・病院の定義や、M&A・事業承継の意味を解説します。
クリニック・病院とは
病院とは20床以上の病床を有する医療施設で、クリニックとは19床以下の病床を有する医療施設、または病床を持たない医療施設のことです。
クリニック・病院業界の現状
クリニック・病院業界は、いろいろな理由によってM&Aが増加している現状です。主な理由は下記になります。
- 診療報酬の引き下げによる収益減
- 事業承継による後継者問題
- 医師不足で優秀な人材の確保が困難
- 耐震問題から生じる修繕・設備投資の資金難
M&Aとは
M&Aとは、Mergers and Acquisitionsの頭文字をとったもので、事業の買収・売却や合併を行うための手法を総称した呼び方です。
株式会社の場合は株式の売買、個人事業のクリニックである場合は事業用資産の売買、持分の定めがある医療法人の場合は出資持分の売買によってM&Aを行います。
事業承継とは
経営者が後継者に事業を引き継ぐことを事業承継といいます。
近年は、クリニックや病院における経営者(院長)の高齢化により廃業を余儀なくされるケースも見られますが、廃業ではなく事業承継を選択する経営者も増えてきました。
地域の医療サービスを維持するため地方自治体も事業承継を推進し、クリニックや病院の事業承継件数も増加しています。
しかし、廃業件数に比べると事業承継の実績案件数はまだ少ない現状です。事業承継は、院長が誰に事業を引き継ぐかにより、以下の3種類に分けられます。
- 親族内事業承継
- 親族外事業承継
- M&Aによる事業承継
親族内事業承継
院長の子どもなど、親族にクリニックや病院の経営を引き継ぐことを親族内事業承継と呼びます。近年は、勤務医として働き続けることを望む若手医師が増え、開業医である親も子どもにクリニックや病院を継がせたがらないケースが多いため、親族内事業承継の割合は減少傾向です。
親族外事業承継
副院長などの関係者に、クリニックや病院の経営を引き継ぐケースを親族外事業承継と呼びます。同じクリニックや病院で働いている医師が後継者となれば、院長のやり方や考え方、患者の現状などがある程度わかっているので、引き継ぎがスムーズに行える点がメリットです。
しかし、後継者となる医師がクリニックや病院を受け継ぐための資金的リスクを背負うことや、経営者の覚悟を持てるかどうかが課題といえます。
M&Aによる事業承継
仲介会社などのM&A専門家から後継者となる個人や法人を探してもらい、クリニックや病院を売却する方法が、M&Aによる事業承継です。
クリニックや病院の経営者間でも、M&Aによる事業承継のメリットが広く認知され始め、廃業ではなく事業承継を選択する経営者が増えています。
開業する場合も新規開業より事業承継による開業の方がメリットが大きいケースもあるため、買い手需要も増加している状況です。
2. クリニック・病院のM&A・事業承継の成功/失敗事例
ここからは、実際に行われたクリニック・病院のM&A・事業承継を、成功事例と失敗事例に分けて紹介します。
成功事例
まずは、円滑なM&A・事業承継が行われた以下の事例を見ていきましょう。
- 徳洲会によるベテル泌尿器科クリニックの事業譲受
- 三井物産によるIHH Healthcare Berhadの株式取得
- DYM Medical Serviceによるセントラルグリーンジャパニーズクリニックの買収
- メディカルネットによるSuccess Soundの買収
- 社会医療法人北斗による熊谷総合病院の事業譲受
徳洲会によるベテル泌尿器科クリニックの事業譲受
クリニック・病院のM&A・事業承継は、徳洲会によるベテル泌尿器科クリニックの事業譲受です。
2022年3月、徳洲会は札幌市にあるベテル泌尿器科クリニックの事業譲受を行いました。今回のベテル泌尿器科クリニックの事業譲渡は、院長の体調不良により、従来通りの診療スタイルを維持できなくなったのが理由の一つです。
徳洲会グループは病院71施設、診療所・クリニック・介護施設など、総事業所数400施設を展開する医療法人です。譲受後も、医師、看護師、医療事務のスタッフを維持したまま地域医療に根ざした診療を行います。
三井物産によるIHH Healthcare Berhadの株式取得
クリニック・病院のM&A・事業承継は、三井物産によるIHH Healthcare Berhadの株式取得です。
2018年11月、三井物産は、アジア最大手の民間病院グループであるIHH Healthcare Berhadの株式を、筆頭株主であるKhazanah Nasional Berhadとの株式譲渡契約により追加取得しました。これにより三井物産はIHH社の筆頭株主となっています。
IHH社は、アジアの広範な地域で病院や専門クリニックなどの医療関連サービスを展開しており、三井物産は、2011年からIHH社に出資し事業拡大の支援を続けてきました。
2017年に三井物産が公表した中期経営計画では、ヘルスケア分野を成長戦略事業とし、IHH社の事業発展支援を中心に事業成長を図ります。
DYM Medical Serviceによるセントラルグリーンジャパニーズクリニックの買収
クリニック・病院のM&A・事業承継は、DYM Medical Serviceによるセントラルグリーンジャパニーズクリニックの買収です。
2018年1月、DYM Medical Serviceは、タイで日本人向け検診施設を運営するセントラルグリーンジャパニーズクリニックを買収しました。
DYM Medical Serviceは、WEBコンサルティング事業・人材関連事業・海外医療事業を展開するDYMのタイ関連会社で、タイで内科診療や小児科診療を行っています。
今回、セントラルグリーンジャパニーズクリニックを買収・合併することで婦人科診療や定期検診も開始し、タイ在住日本人の健康サポートをさらに進めています。
メディカルネットによるSuccess Soundの買収
クリニック・病院のM&A・事業承継は、メディカルネットによるSuccess Soundの買収です。
2017年8月、メディカルネットは、タイのバンコクで歯科クリニックを運営するSuccess Sound Co.,Ltdの株式を取得し、子会社化しました。
メディカルネットは、歯科医療情報ポータルサイトの運営や、歯科クリニックの経営支援、歯科関連企業のマーケティング支援などを行う会社です。
メディカルネットは、タイで歯科クリニックを運営するSuccess Soundを子会社化することで、海外における歯科医療関連事業の展開を図っています。
社会医療法人北斗による熊谷総合病院の事業譲受
クリニック・病院のM&A・事業承継は、社会医療法人北斗による熊谷総合病院の事業譲受です。
北海道帯広市の社会医療法人北斗は、2016年1月にJA埼玉県厚生連から熊谷総合病院を事業譲受しました。その後JA埼玉県厚生連は、破産を申請し解散しています。
北斗は、十勝エリアで病院以外にもクリニックや介護施設を運営していますが、熊谷総合病院の譲受により関東への進出を果たしました。
事業承継後熊谷総合病院は、PET-CTやMEGの設置など高度先進医療の導入や、病院の全面建て替えを行うなど、積極的な設備投資を進めています。
失敗事例
続いて、M&A・事業承継に苦戦した事例です。
- 桑名市の官民3病院の統合
- 医療法人清和会による斎藤病院の統合
桑名市の官民3病院の統合
クリニック・病院のM&A・事業承継失敗事例は、桑名市の官民3病院における統合です。
三重県桑名市の桑名市民病院と特別医療法人和心会平田循環器病院、医療法人山本総合病院は、2018年4月に桑名市総合医療センターとして統合され、全国でも珍しい経営母体の異なる官民3病院の自治体病院として再スタートしました。
しかし、統合に至るまでは長年失敗が続いています。統合計画は2006年から始まり、2009年には最初の統合が実現しました。ただし、この統合は当初候補とされた山本総合病院とではなく、平田循環器病院との統合となります。
統合しても理想とした病床数には届かず、さらなる統合を検討することになりました。その後、統合に悩んでいた山本総合病院が統合に応じ、桑名市総合医療センターが生まれます。
開院が予定よりも遅れ、費用も大幅に増加しました。結果的に計画が始まってから10年以上たって統合が実現し、現在は業績の改善を進めています。
医療法人清和会による斉藤病院の統合
クリニック・病院のM&A・事業承継失敗事例は、医療法人清和会による斉藤病院の統合です。
熊本県熊本市の医療法人斉藤会斉藤病院は、経営状態の悪化や施設の老朽化により厳しい状況であったため、清和会に相談を持ちかけ2011年4月に法人統合と移転新築を実現しています。
斉藤病院は移転新築と同時に、平成とうや病院と名称を変え、増床などの効果もあり単月黒字を達成しましたが、統合元の東野病院も統合をきっかけに水前寺とうや病院と名称を変えて再スタートしたものの、こちらは統合が悪影響となり経営不振が続きました。
両病院は統合過程で業務プロセスや作業手順の融合がうまくいかず、統合後しばらく組織の統一に苦戦しました。その後時間をかけて融合が進められ、経営も軌道に乗っています。
3. クリニック・病院のM&A・事業承継のポイント
クリニック・病院のM&A・事業承継を成功させるには、以下のポイントを押さえる必要があります。
- 許認可の引き継ぎ
- 行政との駆け引き
- 医師・看護師の雇用
- 買い手選定の幅
- クリニック・病院開設の各種手続き
- 最適なスキームの選定
- M&A・事業承継の専門家に相談
①許認可の引き継ぎ
個人事業経営のクリニックや病院をM&Aによって売買する場合は、許認可の引き継ぎに注意が必要です。
個人経営のクリニックや病院を売買する場合、資産を個別に売却するため、その際に各種許認可は引き継がれません。
許認可が原因で引き継ぎに支障が出ないよう、クリニックや病院の引き継ぎ完了日から逆算して各種許認可を取得しましょう。
②行政との駆け引き
一般的な企業と違い、個人事業のクリニックや病院を後継者に引き継いで再開するには、管轄行政の許可が要りますが、許可要件は地方自治体によって異なる部分もあります。
スムーズにクリニックや病院を再開できるよう、十分時間をかけて管轄行政側とコミュニケーションをとるなどの対策が必要です。
③医師・看護師の雇用
クリニックや病院のM&A・事業承継を行った場合、医師や看護師が辞めてしまうことがあり、特に小規模のクリニックや病院では前院長を慕って働いていた者が辞めることも少なくありません。
特に個人事業のクリニックや病院のM&A・事業承継の場合、承継時にいったん医師や看護師との雇用契約を終了させ、新たに雇用契約を締結しなおす必要があるので注意が必要です。
経営状態の良くないクリニックや病院を引き継いだ場合、医師や看護師の待遇を下げざるを得ないケースもあります。
クリニックや病院のM&A・事業承継が成功するかどうかは、医師や看護師の雇用を維持できるか否かが重要なので、不安や不満をため込ませないよう十分な関係構築を行いましょう。
④買い手選定の幅
一般的な企業の譲渡先を探す場合、他業界の企業も含めるなど、選定条件にある程度の幅を持たせることがあります。
しかし、クリニックや病院の場合、非医師・非医療法人による経営には厳しい規制が入るので、「譲渡条件は良くても最終的に譲渡できなかった」ともなりかねません。
クリニックや病院のM&A・事業承継を行う際、医師以外の買い手も選定条件に含める場合は、あらかじめ十分に検証することが必要です。
⑤クリニック・病院開設の各種手続き
買い手側はクリニックや病院の再開に支障が出ないよう、各種手続きを円滑に行わなければなりません。
特に患者のカルテ引き継ぎ、土地・建物の引き継ぎ、スタッフとの雇用契約は、行政のチェックや契約交渉に時間がかかる場合があります。クリニック・病院の場合は、必要な手続きを事前に確認し、早い段階から準備を進めましょう。
⑥最適なスキームの選定
クリニック・病院の規模や地域、M&Aを行う目的などさまざまな条件を踏まえて、M&Aの専門家はスキームを構築し、提案します。
専門家に自身の考えや不安点などをしっかり伝えると、より最適なスキームの構築が可能です。
⑦M&A・事業承継の専門家に相談
クリニックや病院のM&A・事業承継は、一般企業のケースとは異なり、特殊な状況下での引き継ぎを伴います。クリニックや病院のM&A・事業承継相手を自力で探すのは簡単ではありません。
M&A・事業承継の専門家が持つネットワークや専門知識などを活用すれば、スムーズな引き継ぎが可能です。
4. 医療・病院・クリニック業界のM&Aで押さえておくべきこと
医療・病院・クリニック業界のM&Aで押さえておくべきこととしては以下があります。
- 医療・病院・クリニック業界特有の資産を把握する
- 医療法人の類型により手続きが違う
- 買い手がかなり限定される
- 経営権のコントロールを理解する
医療・病院・クリニック業界特有の資産を把握する
医療・病院・クリニック業界特有の注意点としては以下があります。
- 診察内容
- 患者・カルテ数
- スタッフ数
- スタッフの引き継ぎ
診察内容
人気が高い診察内容は、内科と外科です。
美容外科や歯科医院は買い手市場から引っ張りだこ状態であり、譲渡数もかなり多くなっています。診察内容により継続的な利益が見込まれるのかどうかは判断基準の1つとなります。
患者・カルテ数
患者・カルテ数も利益を生み出す上で重要です。
買収するクリニッく・病院がどれだけの患者・カルテ数を保有しているのかは判断基準の1つとして上がります。今後10~20年スパンで考えた際に患者・カルテ数がどれだけ増減するのかもM&Aの際には考慮されるでしょう。
スタッフ数
現在、医療業界全体でスタッフ数が足りていないため買収は積極的に行われています。
患者やカルテ数のみならずスタッフ数をどれだけ確保できるのかもM&Aを行う上で大事な検討ポイントです。慢性的な一手不足を根本的に解決できる策がない以上、M&Aでスタッフ数を拡充しなければなりません。
スタッフの引き継ぎ
買収しスタッフ数を拡充しても、退職されてしまうと意味がありません。
人員の配置基準も設けられていますので、スタッフの引き継ぎは大切です。スタッフが残りたくなるような環境作りを徹底する必要があります。
医療法人の類型により手続きが違う
医療法人の類型によりM&Aの手続きが異なります。以下の類型におけるM&Aの手続きを解説します。
- 財団
- 社団
財団
財団医療法人には「株主に相当する出資持分」という概念自体が存在しませんが、意思決定権者は以下の3者と決まっています。
- 最高意思決定機関の理事会及び理事
- 理事の業務執行を監督・監査している監事
- 財団法人の運営が目的から逸脱していないかを監視する評議員
社団
社団の場合は、社員=株主とはならず出資自体を行わない社員も存在しています。
出資と社員は別々の存在であることを理解する必要があります。そのため、社団を買収する際には売り手の社員という立場からの退社手続きを踏む必要があります。
買い手がかなり限定される
クリニック・病院の場合、運営母体が医療法人のみとなってしまいますので買い手そのものがかなり限定的になります。
医療法人そのものを引き継ぐ形になりますので、買い手を見つけるのが一苦労です。さらに、他の医療法人を買収できるだけの資金力がある医療法人に限定されてしまうため、買い手探しに奔走する必要があります。
経営権のコントロールを理解する
経営権の有無関連でややこしいクリニック・病院業界ですが、以下の2つを理解しておきましょう。
- 直接経営
- 間接経営
直接経営
直接経営はその名の通り、資本面・社員総会面から経営を掌握する経営手法です。
出資持株を買い手医療法人が過半数を買い取ることで、資本面での掌握が可能です。続いて、売り手側の医療法人の社員総会における意見参道社員数が過半数になるように、社員を派遣することで社員総会面での掌握が可能になります。2点の側面から経営をコントロールする必要があります。
間接経営
医療法人の株式会社化は許可されておりませんので、間接経営という手法を使います。
医療法人の出資持分を掌握しているMS(メディカルサービス)法人が保有する株式を取得、もしくは診療報酬債権・不動産を担保に掌握するなどの方法があります。ただ、経営権の掌握はかなり限定的なものになります。
5. クリニック・病院をM&A・事業承継する際の相談先
クリニック・病院のM&A・事業承継を行う際は、以下の専門家などに相談が可能です。
- 地元の金融機関
- 地元の公的機関
- 地元の弁護士・税理士・会計士など
- マッチングサイト
- M&A仲介会社
①地元の金融機関
事業承継支援をしている地元金融機関に相談すれば、同じ都道府県内や近隣都道府県からM&Aによる事業承継相手を探してもらえます。
当該金融機関の取引先・融資先に条件の合う相手がいればスムーズに話が進みますが、地方のクリニックや病院の場合、同地域だけで最適な条件の相手とマッチングするのは難しい面もあるでしょう。
②地元の公的機関
各都道府県に置かれている事業承継・引継ぎ支援センターに相談すれば、後継者候補となる地元の医師や医療法人を探してもらうことも可能です。
ただし、基本的には同地域内のみから候補を探すため、地域やタイミングに大きく左右される面もあります。
③地元の弁護士・税理士・会計士など
事業承継支援も行っている地元の税理士や弁護士に相談する方法もあります。医療分野を得意とする事務所もあるので、ホームページなどで調べてから相談すると、独自のネットワークから相手を探してもらえるでしょう。
ただし、M&A・事業承継の手続きは提携する仲介会社に委託する形をとる事務所も多いので、事前に確認する必要があります。
④マッチングサイト
マッチングサイトなら、全国から相手を探せます。医療分野専門のマッチングサイトや利用料が無料のマッチングサイト、相談対応も行うマッチングサイトなどそれぞれ特徴があるので、複数比較するなどして、最適なマッチングサイトを選択しましょう。
⑤M&A仲介会社
M&A仲介会社の大きなメリットは、公には出回らない独自の全国ネットワークから相手を探せる点です。M&A・事業承継のトータルサポートを一貫して行うことも、他の相談先にはない特徴といえます。
6. クリニック・病院のM&A・事業承継が行われる理由
この章では、クリニック・病院のM&A・事業承継が行われる理由を、譲渡側と譲受側に分けて見ていきましょう。
譲渡側の理由・メリット
譲渡側の理由・メリットは、主に下記のとおりです。
後継者問題の解決
院長の高齢化が進み、多くのクリニックや病院が世代交代の時期を迎えていますが、子どもがクリニックや病院を継がないケースが増えたこともあり、後継者問題を抱えるクリニックや病院が多く存在します。
クリニックや病院は地域公益性が高く、容易に廃業を選択するのは難しいため、M&Aにより後継者問題を解決すれば地域医療を守ることにつながるでしょう。
医師・看護師などの人材不足
クリニックや病院では、後継者不足とともに医師や看護師などの人材不足も問題です。資本力のある医療法人は、クリニックや病院をM&Aにより取得することで、グループ間で医師や看護師を融通できる体制を整えています。
度々改正される医療制度の見直しによる影響
高齢者の増加による医療費の圧迫などに対応するため、国は診療報酬の見直しなど度重なる制度改正を行っている状況です。
制度改正によって経営が厳しくなったクリニックや病院は、M&Aによる譲渡を選択するケースも増えています。
建物や設備投資費のコスト増
長年の経営によって老朽化した建物・設備の修繕や、高性能化・高額化する医療機器への投資などで、クリニック・病院には多くのコストがかかります。
しかし、十分な費用を賄えないため、資本力がある相手とのM&Aを望むケースもあるのです。
医療法人向けの事業承継税制の実施
出資持分あり医療法人から出資持分なし医療法人への移行を促進するため、国は相続税と贈与税の納税猶予制度を設けています。
この制度を事業承継の際に利用し、負担を抑えるケースがあるのです。
譲受側の理由・メリット
譲受側の理由・メリットは、主に下記のとおりです。
医師・看護師などの確保
クリニック・病院を買収すると、譲受側は対象先の医師・看護師なども受け入れることになります。人手不足となっている医療業界の有資格者の確保は人材面の課題解決となり、大きなメリットが得られるでしょう。同一地域でクリニック・病院の買収が行われた場合、地域内でのグループの存在感向上が期待できるでしょう。
診療領域を拡大できる
専門的な知識が必要とされる医療現場では、診療領域拡大におけるに専門医師の確保、設備投資など広範囲の投資が必要となってきます。クリニック・病院を買収した場合、一から新しい診療領域を立ち上げるよりも、迅速な立ち上げが可能です。
スピーディーに新規事業へ進出できるのが一般的な企業のM&Aです。それと同様に、医療法人のM&Aにおいても譲受側のメリットとして、スピーディーな展開が可能となるでしょう。
専門性を強化できる
既に保有している診療領域でのクリニック・病院を買収した場合、人的リソース確保とともに専門性を強化できるメリットがあります。この方法は、得意分野を伸ばすパターンのM&Aの手法であり、買収後の展開もスムーズに進められるでしょう。企業買収にある既存部門の強化は、医療法人において有効です。
病床規制・地域参入障壁の回避
医療費の膨張を防ぐため、開設やベッド数の増設(増床)を行う際は、開設地域の都道府県知事などから許可を受ける必要があります。クリニック・病院側が事業拡大のため病床数拡大を目指しても、行政の病床規制対策により拡大は簡単ではありません。
しかしクリニック・病院を買収すると、グループとして病床数を確保できるメリットがあります。そのため、クリニック・病院の買収は規制下で難しい病床規制・地域参入障壁の回避ができる、といった側面も存在します。
コスト削減が期待できる
買収による規模拡大は、物品の購買力が強化されるため価格交渉力が上がります。そのため、買収の重要な効果の一端としてコスト削減が期待できるでしょう。取り扱い物品数が膨大なクリニック・病院では、企業のM&A以上に効果が得られます。
7. クリニック・病院の売却価格
この章では、クリニック・病院の売却価格を見ていきましょう。
時価純資産価額法
時価純資産価額法は、M&Aでよく用いられる方法です。病院、クリニックを売った場合の「資産」から、今支払うといくらになるかという「負債」を引いた「純資産」の時価相当額で、評価価格を計算します。
ただし、純資産のみで計算すると利益が出ていても赤字が出ていても同金額となるので、将来見込まれる利益を時価に逆算し、純資産に足して調整するのです。
将来見込まれる利益は、営業権、のれん代などと呼び、帳簿に載らない病院のブランド力、収益力、技術力などをいいます。
DCF法
DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)は、現在の病院・クリニックにおけるキャッシュフローに将来の収益性をプラスし、有利子負債などのリスクを引いて価値を計算する方法です。
病院・クリニックの将来性をプラスすることに重点を置くため、予測可能な範囲内の項目となるので、前提条件の設定により算出する価格が変わります。しっかりした事業計画があれば、評価価格も高くなるといえます。
取引事例法
売却側の病院・クリニックで過去にあった株式の取引実績に基づいて評価を計算する方法が、取引事例法です。取引事例法を用いる際は、過去の取引価格が妥当であるかどうかを検討してください。
8. クリニック・病院のM&A・事業承継の案件例
この章では、クリニック・病院におけるM&A・事業承継の案件例を紹介します。紹介するのは、千葉県にある住宅街に隣接した歯科クリニックが、事業の存在に対する不安により、譲渡を希望している案件です。
売上高は5,000万〜1億円、営業利益は1,000万〜5,000万円で、1,000万〜5,000万円の譲渡価格を望んでいます。
院長は高齢のため経営権の譲渡を検討しており、院長は経営を任せる人に引き継いで、すぐに引退するのではなくフェードアウトすることを予定している状況です。
このクリニックは、商業施設内に位置しているので、安定的に患者がくる点が強みとなっています。
9. クリニック・病院のM&A・事業承継する際におすすめの仲介会社
クリニックや病院のM&A・事業承継を円滑に進めるには、医療業界特有の事情に精通した専門家のサポートを受けることをおすすめします。
クリニック・病院のM&A・事業承継をお考えの際は、ぜひM&A総合研究所へお任せください。M&A総合研究所では、M&Aの知識や経験が豊富なM&Aアドバイザーが、親身になって案件をフルサポートいたします。
料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談をお受けしていますので、お気軽にお問い合わせください。
10. クリニックのM&A・事業承継まとめ
本記事では、クリニック・病院のM&A・事業承継について紹介しました。クリニック・病院のM&A・事業承継を成功させるには、以下のポイントを押さえる必要があります。
- 許認可の引き継ぎ
- 行政への丁寧な説明
- 医師・看護師の雇用
- 買い手選定の幅
- クリニック・病院開設の各種手続き
- 最適なスキームの選定
- M&A・事業承継の専門家に相談
クリニック・病院のM&A・事業承継を行う際は、以下の専門家などに相談が可能です。
- 地元の金融機関
- 地元の公的機関
- 地元の弁護士・税理士・会計士など
- マッチングサイト
- M&A仲介会社
クリニック・病院のM&A・事業承継は、主に以下の理由で行われます。
- 後継者問題の解決
- 医師・看護師などの人材不足
- 度々改正される医療制度の見直しによる影響
- 建物や設備投資費のコスト増
- 医療法人向けの事業承継税制の実施
11. 病院・医療法人業界の成約事例一覧
12. 病院・医療法人業界のM&A案件一覧
【北関東】グループホーム・小規模多機能居宅介護
介護・福祉・医療/関東・甲信越案件ID:1214公開日:2023年08月24日売上高
1億円〜2.5億円
営業利益
〜1000万円
譲渡希望価格
3,000万円
グループホーム、小規模多機能型居宅介護
【業歴75年以上】地域に根差した関東地方の調剤薬局
介護・福祉・医療/関東・甲信越案件ID:1165公開日:2023年08月08日売上高
1億円〜5億円
営業利益
1000万円〜5000万円
譲渡希望価格
4,800万円(応相談)
地域に根差した関東地方の調剤薬局
【クリニック開院支援/継続的な医大や医療メーカーとの取引多数】
介護・福祉・医療/建築・内装リフォーム/関東・甲信越案件ID:1055公開日:2023年06月08日売上高
5000万円〜1億円
営業利益
赤字経営
譲渡希望価格
1000万円〜5000万円
対象企業様は、クリニックの開院支援を行う企業で、開院場所の選定から設計、器具機材の手配までを一貫で行っております。 20年以上の業歴から、毎年一定数の開院依頼を医大先生から受けコンサルティング...
【九州北部/主要駅近】医療脱毛メインの美容クリニックの事業譲渡案件
介護・福祉・医療/美容・健康食品/専門サービス/九州・沖縄案件ID:1051公開日:2023年06月08日売上高
2.5億円〜5億円
営業利益
5000万円〜1億円
譲渡希望価格
2,000万円以上(応相談)
九州北部の主要都市部にて展開する美容クリニック事業でございます。
【首都圏・クリニック開院支援】医大や医療メーカーとの取引多数
医薬品卸・小売/建築・内装リフォーム/専門サービス/関東・甲信越案件ID:1026公開日:2023年05月27日売上高
5000万円〜1億円
営業利益
損益なし
譲渡希望価格
1000万円〜5000万円
・クリニックの開院支援コンサルティング ・開院場所のマーケティング選定から、設置・機器機材の手配までの開院までのすべての工程を支援
【関東・湯灌対応可能】自社雇用の看護師多数/訪問入浴介護事業
介護・福祉・医療/関東・甲信越案件ID:0608公開日:2023年02月07日売上高
1億円〜2.5億円
営業利益
〜1000万円
譲渡希望価格
1000万円〜5000万円
・訪問入浴事業 ・湯かん事業