2025年07月07日更新
M&Aによる事業承継の悩みとは?失敗例と専門家の選び方を徹底解説
後継者不在の解決策としてM&Aによる事業承継が増えています。しかし、多くの経営者様が悩みを抱えているのも事実です。本記事では、事業承継の代表的な悩みや失敗例を解説し、M&Aを成功に導くための相談先の選び方まで具体的にご紹介します。
目次
1. 事業承継の悩み
経営者が高齢化などを理由に引退を考える際、廃業か事業承継かという大きな決断を迫られます。会社を存続させたいと願う経営者の多くは、事業承継に関して何らかの悩みを抱えています。具体的にどのような悩みがあるのかを知り、事前に対策を講じることが、スムーズな事業承継の第一歩です。
事業承継のスケジュールについて
事業承継は、スケジュールがよく分からないと漠然とした不安や悩みが生まれます。多くの経営者にとって事業承継は経験のないことなので、まずはスケジュールをはっきりさせておくことが大切です。
1.事業承継にかかる期間
事業承継の全体像を把握するためには、プロセスを「準備期間」「実行期間」「承継後の統合期間(PMI)」の3段階で考えると分かりやすいです。中小企業庁の資料によれば、準備期間だけでも5年から10年を要することがあるとされています。
特に後継者教育には時間がかかり、従業員として経験を積ませる期間を含めると長期化する傾向があります。株式譲渡などの実行期間自体は、大きなトラブルがなければ数ヶ月から1年程度で完了しますが、M&Aによる事業承継では、最適な相手が見つかるまでに1年以上かかることも珍しくありません。
承継後の統合プロセスは、新体制を軌道に乗せるために2~3年かけて丁寧に行うのが理想的です。
2.事業承継の準備期間
事業承継の準備期間は、主に後継者教育に割かれることになります。特に親族を後継者にする場合は、最低でも数年間は会社で従業員や役員として働いてもらい、会社の業務や業界について知識と経験を蓄えてもらわなくてはなりません。
M&Aで事業承継する場合は、承継先が早い段階で決まっていない限り、準備期間をとれないことが多いです。この場合は事業承継後の統合プロセスで、後継者教育も行うことになります。
代わりにM&Aによる事業承継の場合は、買い手に自社を魅力的に見せるための会社の「磨き上げ」期間が必要になります。
3.事業承継の具体的な準備
事業承継の具体的な準備ですが、後継者がはっきり決まっていない場合は、まず後継者選びから始めなければなりません。
後継者の選び方は、親族・従業員といった内部の人間から選ぶ方法と、M&Aで外部から招へいする方法があります。
事業承継の具体的な準備のためには、事業承継計画書を作成することが大切です。準備期間を含め今後10年くらいの計画を大まかに決めることで、準備段階での悩みを軽減することができます。
後継者の問題について
事業承継は後継者がいないと成り立たないものなので、後継者選びは常に悩みの種となります。
M&Aによる事業承継の場合は幅広く後継者を探すことができますが、親族への事業承継の場合は適任者が見つからないケースも多いです。
引き継ぐ意思のある親族がいない、候補がいてもその人物が経営者に向いていない、そもそも後継者となる親族がいないといった悩みは、親族への事業承継ではよく見られます。
【事業承継の後継者に関する悩み】
- 親族に引き継ぎたいものがいない
- 後継者候補が経営者に向いていない
- そもそも後継者がいない
1.親族に引き継ぎたいものがいない
親族が皆ほかの職業についており、会社を継ぐ意思のある人がいないケースは多くみられます。
昔は家業を代々継ぐという価値観がまだ健在でしたが、現在はそれぞれが自分のやりたい仕事に就くことが多く、親の会社に後継ぎとして入社するケースが減ってきています。
子供が自由に自分のやりたい仕事をしているのに、それを辞めさせて後継者となるよう説得するのは難しいことが多いです。
2.後継者候補が経営者に向いていない
自分の息子などを後継者候補に見立て、教育期間として会社で従業員として働いてもらうと、そもそも彼が経営者に向いていないことが分かってくることもあります。
たとえ後継者候補がいても、その適性を見極めなくては事業承継を成功させることはできません。
経営者に向いていない人を無理やり後継者にしても会社は発展は難しく、後継者にさせられた人も不幸になるだけでしょう。
3.そもそも後継者がいない
近年は少子化が進んでいるので、そもそも後継者となる子供や身近な親族がいないケースが増えています。
親族に後継者がいない場合は、M&Aで第三者に事業承継することになります。M&Aによる事業承継は国が積極的に後押しして制度を整えているので、自分は子供がいないから廃業するしかないと決めつけず、まずは事業承継の専門家に相談することが大切です。
事業承継に関する相談者について
事業承継を検討する際に悩みの種となるのが、相談する相手がいないという問題です。
事業承継は同じ人が人生で何度も経験することではないので、事業承継を専門とする業者でもない限り、詳しい知識や経験のある人がいないのが普通です。
また、中小企業経営者は責任感の強さなどから他者への相談に消極的なことが多く、一人で抱え込んで悩んでしまうケースもよくみられます。
【事業承継の相談者に関する悩み】
- 相談相手が身近にいない
- 従業員や役員は相談者として頼りない
1.相談相手が身近にいない
中小企業庁の調査によると、事業承継の相談相手は顧問税理士や公認会計士が多く、その次に親族や友人、金融機関や公的機関と続きます。
普段から交流のある顧問税理士などに相談するのはおすすめですが、税理士や公認会計士は必ずしも事業承継の専門家ではないので、悩みの相談相手として適していないこともあります。
顧問税理士に相談できず、親族や友人にも事業承継に詳しい人がいないとなると、悩みを相談する相手がいなくなってしまいます。
実際このような状態に陥っている経営者は多く、一人で悩み続けたまま事業承継のタイミングを逸してしまうことになります。
身近に相談相手がいない場合は、M&A仲介会社や事業引継ぎ支援センターといった、事業承継を専門にしている業者や公的機関に相談するのがおすすめです。
2.従業員や役員は相談者として頼りない
従業員や役員は身近な相談相手ではありますが、経営の立場に立ったことがない人から有益なアドバイスが得られるのはまれで、従業員が経営者に対して積極的なアドバイスはしづらいのが実際のところです。
2. 事業承継の悩みを解決するには専門知識を持った相談者が必要
前述の通り、事業承継に関する悩みを経営者一人で、あるいは社内だけで解決するのは非常に困難です。だからこそ、M&Aや事業承継に精通した専門家への相談が不可欠となります。例えば、M&A仲介会社や事業承継・引継ぎ支援センターは、豊富な実績に基づいた客観的なアドバイスが期待できます。
また、M&Aは法務・税務・財務など多岐にわたる専門知識を要する契約行為です。潜在的なリスクを回避し、円滑に手続きを進めるためにも、専門家のサポートは必須と言えるでしょう。
3. M&A・事業承継でよくある5つの失敗パターンと回避策
事業承継に関する不安の多くは、「どのような失敗が起こりうるか」が分からないことに起因します。事前に典型的な失敗パターンを把握しておくことで、リスクを予測し、対策を講じることが可能です。この章では、事業承継で実際に起こりがちな失敗例を5つ挙げ、その原因と回避策について具体的に解説します。
①旧経営者が経営権を手放さない事例
旧経営者が事業承継後も過半数の株式を保有し、事実上の経営権を保持し続けている事例です。事業承継では原則として後継者に株式を譲渡し、後継者が経営権を持たなければなりません。
この事例では、後継者が社長に就任した後も旧経営者が会長として実権を握り、現社長が思うような経営ができない状態となっています。
現社長は旧経営者に株式を譲渡してほしいと思っていますが、自分の父親でもありなかなか言い出せないまま10年ほどが経過してしまいました。
事業承継では、旧経営者はきっぱりと経営から退き、後継者に経営を任せなければなりません。実権を握り続けることに固執してしまうのでは、事業承継の成功は難しくなります。
②準備不足の事例
事業承継の準備を何もしないまま高齢になってしまい、後継者がおらず廃業の危機に瀕してしまった事例です。
旧経営者は会社の役員を務めている弟に一旦は事業承継しましたが、その弟も体調を崩し経営者を退くことになり、次の後継者がみつからない状態となりました。
事業承継は、旧経営者が高齢になる前から準備を行う必要があります。準備は長くて10年程度かかるといわれているので、もし70歳で事業承継するつもりなら、60歳ごろから準備を始めなければなりません。
③相続トラブルの事例
旧経営者が遺言書を作成せずに死亡したため、相続トラブルが発生してしまった事例です。
この事例では、親族の中に問題のある人物がいたため、相続トラブルが起こってしまうことになります。
問題の人物に資産を分配しないように試みましたが、この人物が拒否したため法定割合での相続となり、問題のある人物に資産が相続されてしまいました。
親族に問題のある人物がいる場合はもちろん、そうでなくても遺言書を作成しておくことは非常に大切です。
④親族内での派閥争いの発生
親族内で派閥争いが起き、事業承継が失敗してしまった事例です。遺言書を作成しないまま旧経営者が急死し、複数の親族に株式が分散してしまいました。
そのため、親族同士で過半数の議決権を得るための派閥ができ、後継者になる予定だった人物が社長を解任させられてしまいました。
親族間の人間関係などを考慮して、こういったトラブルが起こらないように早めに対処することが大切です。
⑤従業員から反発を受ける事例
従業員が経営者の交代に反発し、経営がうまくいかなくなってしまった事例です。旧経営者は自分の息子を後継者とすべく準備を進めていましたが、従業員からの評判は良くなく、反対意見が出ている中で事業承継を決行しました。
さらに、息子が新社長に就任した際、自分が後継者となることに反対した役員を解任してしまったため、事態はさらに悪化することになります。
事業承継は旧経営者と後継者の同意だけでなく、従業員からも受け入れてもらえる体制を整えることが大切です。
4. M&Aによる事業承継を成功させるためのポイント
M&Aは後継者問題を解決する有効な手段ですが、成功させるにはいくつかのポイントを押さえる必要があります。ここでは、M&Aによる事業承継のメリットと注意点、そして基本的なプロセスについて解説します。
M&Aで事業承継を行うメリット
M&Aを活用することで、親族や社内に後継者がいない場合でも、外部から最適な候補者を探し、事業の存続を図れます。また、オーナー経営者は株式譲渡によって創業者利益を獲得でき、従業員の雇用や取引先との関係も維持できる点が大きなメリットです。
M&Aで事業承継を行う際の注意点・デメリット
一方で、M&Aには注意点も存在します。希望する条件に合う買い手が見つからない可能性や、交渉が長期化するリスクがあります。また、企業文化の異なる会社同士が統合するため、従業員の間に軋轢が生じたり、重要な人材が流出してしまったりするデメリットも考慮し、丁寧なPMI(経営統合プロセス)が不可欠です。
M&Aによる事業承継の基本的な流れ
M&Aによる事業承継は、一般的に「①専門家への相談と準備」「②譲受企業の探索(マッチング)」「③トップ面談・交渉」「④基本合意の締結」「⑤デューデリジェンス(買収監査)」「⑥最終契約の締結・クロージング」という流れで進みます。各ステップで専門的な判断が求められるため、専門家と連携しながら慎重に進めることが重要です。
5. 事業承継の悩み解決するための相談先とそれぞれのメリット
法律の相談なら弁護士、税金の相談なら税理士と相談先がはっきり決まっているのに対して、事業承継はそもそも誰に相談すべきかという悩みがつきまといます。
事業承継の悩みの主な相談先としては、M&A仲介会社、金融機関など、以下の5つの選択肢が考えられます。
【事業承継の悩みの相談先】
- M&A仲介会社・M&Aアドバイザー
- 地元の金融機関
- 地元の士業
- 地元の公的機関
- M&Aマッチングサイト
1.M&A仲介会社・M&Aアドバイザー
M&Aによる事業承継を検討している場合、M&A仲介会社やFA(ファイナンシャルアドバイザー)が最も頼りになる相談先です。これらの専門家は、M&Aを成功させるためのノウハウを豊富に有しています。
ただし、M&A仲介会社は売り手と買い手の間に立って成約を目指す一方、FAはどちらか一方の利益を最大化するために活動する点で役割が異なります。親族内承継のみを検討している場合は、対応範囲外となることもあるため注意が必要です。
メリット
M&A仲介会社・M&Aアドバイザーは、M&Aを専門として日々多くの案件を手がけているので、経験と知識が非常に豊富なのがメリットです。
M&Aによる事業承継のさまざまな成功・失敗例を経験しているので、的確なアドバイスを提供することができます。
2.地元の金融機関
地元の地方銀行や信用金庫といった、金融機関の事業承継担当に悩み相談を持ちかけることもできます。
最近は事業承継・M&Aに強い職員を置く金融機関も増えており、相談しやすい体制が整ってきています。
ただし、金融機関は融資が主な業務なので、M&Aによる事業承継は売り手と利益相反になる可能性があるのは注意したい点です。
メリット
経営者にとって地方銀行や信用金庫は普段から付き合いがあることが多いので、事業承継の悩みも相談しやすいのがメリットです。
M&Aも地元に根差したネットワークを持っていることが多く、地元の有力企業を紹介してもらえることもあります。
3.地元の士業
事業承継を実行するためには、株式の譲渡や資産の相続など、さまざまな法律関連の手続きが必要になります。また、相続税や贈与税の悩みも事業承継にはつきものです。
よって、弁護士や税理士といった地元の士業事務所は、こういった悩みを相談する相手として最適です。
ただし、士業事務所は必ずしも事業承継やM&Aの専門家ではないので、事業承継・M&A全般に関する悩みの相談先としては向いていないこともあります。
メリット
士業事務所は法律・税務・会計などそれぞれの専門分野のスペシャリストなので、その分野について的確なアドバイスを受けられるのがメリットです。
また、普段から付き合いのある顧問弁護士や顧問税理士なら、悩みを相談しやすいメリットもあります。
4.地元の公的機関
事業承継は国も重要な課題と位置付けており、全国にさまざまな公的支援機関を設置しています。代表的なものが「事業承継・引継ぎ支援センター」や「商工会議所」で、事業承継に関する悩み相談からM&Aの相手探しまで幅広く支援しています。
ただし、M&Aの実行フェーズでは提携する民間のM&A仲介会社を紹介されることが多いため、M&Aによる事業承継を決めている場合は、初めからM&A仲介会社へ相談するほうがスムーズな場合もあります。
メリット
公的機関はコストがかからず、悩みを気軽に相談しやすいのが大きなメリットです。
また、公的機関は中小零細企業の事業承継を得意としているので、金融機関などで相談を受け付けてもらえなかった小さな会社でも相談できるメリットがあります。
5.M&Aマッチングサイト
M&Aマッチングサイトとは、M&Aを行いたい買い手と売り手が情報交換し、よい相手がみつかれば交渉してM&Aを成約できるサービスです。主に中小零細企業や個人事業のM&Aで活用されています。
多くのM&Aマッチングサイトでは、買い手と売り手のマッチングだけでなく、専門家によるアドバイスやサポートも提供しています。
専門家のサポートは別料金になるのが一般的ですが、自分だけでマッチングサイトを利用するのが不安な場合は、悩みの相談先として利用できます。
メリット
M&Aマッチングサイトは、仲介会社や金融機関によるM&Aに比べて、仲介手数料が安く済むのがメリットとなります。
一般的なマッチングサイトの仲介手数料は、売り手が完全無料で、買い手は成約価額の2から3%程度となるケースが多いです。
M&A仲介会社の場合、小規模な案件なら売り手・買い手ともに5%程度となるのが一般的なので、それに比べると全体的に安くなっています。
ただし、別料金で専門家のサポートを受けた場合はトータルのコストが高くなる可能性もあるので、マッチングサイトを利用する際は料金体系をよく確認しておく必要があります。
6. まとめ
事業承継は、多くの経営者にとって初めての経験であり、悩みが尽きないのは当然です。M&Aを含めた事業承継を成功に導くためには、起こりうる失敗を事前に把握し、対策を立てることが重要です。そして何より、自社の状況に合った信頼できる専門家を見つけ、早期に相談することが成功への鍵となります。
この記事で紹介した相談先を参考に、まずは第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。
【事業承継の後継者に関する悩み】
- 親族に引き継ぎたいものがいない
- 後継者候補が経営者に向いていない
- そもそも後継者がいない
【事業承継の相談者に関する悩み】
- 相談相手が身近にいない
- 従業員や役員は相談者として頼りない
【事業承継の悩みの相談先】
- M&A仲介会社・M&Aアドバイザー
- 地元の金融機関
- 地元の士業
- 地元の公的機関
- M&Aマッチングサイト