調剤薬局業界のM&Aの現状は?盛況の理由や事例から相場まで解説!

取締役
矢吹 明大

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。

本記事では、調剤薬局業界のM&Aについて現状から買収価格の相場・案件・廃業件数・事例を紹介します。また、調剤薬局のM&Aを行うメリット・M&Aを成功させるポイント・おすすめのM&A仲介会社情報も解説します。M&Aを検討中の方は必見の内容です!

目次

  1. 調剤薬局業界のM&Aについて
  2. 調剤薬局業界の現状
  3. 調剤薬局業界でM&Aが盛んな理由
  4. 調剤薬局業界のM&A事例9選
  5. 調剤薬局M&Aの価格相場
  6. 調剤薬局M&Aのメリット
  7. 調剤薬局M&Aのデメリット
  8. 調剤薬局M&Aの流れとフロー
  9. 調剤薬局M&Aにかかる期間と長引く原因3選
  10. 調剤薬局のM&Aを成功させるポイント
  11. 調剤薬局業界のM&A仲介会社を選ぶ方法
  12. 調剤薬局のM&A・売却案件
  13. 調剤薬局業界のM&Aのまとめ
  14. 調剤薬局業界の成約事例一覧
  15. 調剤薬局業界のM&A案件一覧
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1. 調剤薬局業界のM&Aについて

近年の調剤薬局業界では、度重なる調剤報酬・薬価制度の改正により、大きな動きが見られます。業務体系の見直しが遅れると、大手企業であっても従来のように利益を確保できない状況です。

M&Aによる買収・売却を実施する場合でも、制度の改正に対応する必要があります。業界の動向をしっかりと把握しつつ、売買のタイミングを見極めましょう。本章では、まず調剤薬局業界の基本情報などを取り上げます。

調剤薬局業界の基本情報

ここでは、調剤薬局業界の基本情報を紹介します。取り上げるのは、業界定義・主要企業・現在の市場環境に関する情報です。業界情報や制度内容を見直しながら、業界の動きを確認しましょう。

調剤薬局業界の定義

調剤薬局の定義は、「医師の診断に基づいた処方箋にしたがって薬を調合する薬局」です。調剤薬局を開くには、都道府県知事の許可および管理者の設置などが義務付けられます。

調剤薬局の別称は、「保険薬局」です。健康保険法に基づき、保険診療による処方箋を受ける意義があります。保険薬局の指定を受けるには、都道府県に設置されている地方厚生局への申請が求められます。

調剤薬局業界の構造

ここでは、近年の調剤薬局業界の構造を把握するために、調剤薬局の売上高ランキングを掲載します(2023年度データ)。ここで紹介する売上高は、調剤薬局事業のみの数値です。調剤薬局以外の事業を行っている企業の場合、それらの数値は含みません。

企業名 売上高(百万円) 前年度比(%) 店舗数(件)
アインホールディングス 321,577 113.6 1,209
日本調剤 280,161 105.5 718
クオール 155,370 101.5 892
メディカルシステムネットワーク 104,366 102.9 428
東邦ホールディングス 92,346 100.6 543
スズケン 87,742 98.8 577
トーカイ 49,334 106.0% 149
ファーマライズホールディングス 42,327 100.7 300
シップヘルスケアホールディングス 30,499 105.4 123
メディカル一光 23,094 101.6 95
※持ち株会社の場合は、単独決算ではなく調剤薬局事業の連結決算数値です。
※店舗数は調剤薬局のみであり、調剤薬局機能のないドラッグストアなどは除外しています。
出典:エムスリーキャリア「【最新!2023年版】調剤薬局 売上高ランキング」

調剤薬局業界の事業特性

調剤薬局業界では、調剤するための薬を製薬会社や医薬品の卸売会社などから仕入れます。このうち、製薬会社は、品質を保つために外部の企業に物流を委託するケースが大半です。

卸売会社では、自社内で医薬品の物流をまかない、各調剤薬局に運んでいます。卸売会社を利用すれば、数ある医薬品の中から、調剤薬局に応じた薬を提示してくれます。

薬局側の要望を把握してくれていたり、治験では現れなかった副作用などを踏まえて薬を提供してくれたりと、業務のサポート役としても重要な働きを担う存在です。

製薬会社と卸売会社の違い

製薬会社と卸売会社の違いは、取り扱う医療用医薬品の種類にあります。製薬会社は、自社で開発・製造した商品を調剤薬局に販売します。その一方で、卸売会社は、薬の運搬に特化しているため、多数の製薬会社から薬を仕入れて調剤薬局に販売するのです。

診療報酬・調剤制度の改正

近年の診療(調剤)報酬制度の改正では、調剤基本料の引き上げが明記されました。これにより、地域の医薬品供給拠点としての役割や地域医療への貢献度を高めるため、職員の賃上げを目指しています。
2024(令和6)年の診療(調剤)報酬制度の改正には、2020年の改正に引き続き、地域にかかりつけ薬局を増やすことで、薬剤師が患者の薬を管理し、重複による医療費の増加を抑える狙いがあります。

M&Aとは

M&Aとは、株式取得や事業譲受によって他社の経営権を獲得する取引です。メディアでの報道を見て、M&Aにネガティブイメージを持つ方もいるでしょう。しかし、非上場企業では友好的買収が行われることが一般的です。

調剤薬局業界の主なM&A手法

調剤薬局業界のM&Aでは、主に株式譲渡事業譲渡という2種類の手法が使われます。株式譲渡は、調剤薬局の運営会社をまるごと取得する際に用いられます。事業譲渡は、一部事業や店舗のみを切り離す際に用いられる手法です。

事業譲渡を行う場合は、譲受会社での許認可の取得、顧客である医師などへの継続的なサービス提供には留意しましょう。

事業承継の選択肢

近年、経営者の高齢化が原因で、事業承継を検討すべき調剤薬局が増加しています。事業承継には株式上場、後継者への承継、廃業といった方法があります。M&Aを通じた第三者への承継は、他の方法と比較して実行が容易であるため、選択肢としておすすめです。

調剤薬局の現状と今後については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】調剤薬局の調剤報酬改定から見る現状と今後、M&A検討時の銀行の役割も解説

2. 調剤薬局業界の現状

調剤薬局業界は、人材が確保しやすい業種だとされています。厚生労働省が発表した2022(令和4)年の「医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」によれば、薬剤師の数は増加傾向にある状況です。

2022年12月31日時点における薬剤師の数は、323,690人と発表されています。

薬剤師のうち薬局に勤めている割合は、59%です。薬局事業の働き手として、新卒の薬剤師を獲得できれば、人材不足の解消が望めます。

以上のことから、調剤薬局をM&Aで売却したいとお考えであれば、人材不足を解消した後に検討しても遅くはありません。

出典:厚生労働省「令和4年(2022年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 結果の概要 3 薬剤師」

法人と個人による薬局経営

調剤薬局業界では、法人と個人の双方が薬局を経営しています。厚生労働省がまとめた「かかりつけ薬剤師・薬局機能調査・検討事業」によると、調査に回答した内の88.6%が法人であり、個人経営の調剤薬局はわずか11.0%でした。

同じ会社・経営者による店舗の出店数を見ると、全体の22.6%が50を超える薬局を抱えています。一つの店舗を一人で経営している割合は24.5%でした。

このような情報から、調剤薬局の半分近くがグループ経営の薬局、もしくは個人経営の薬局である現状がうかがえます。

出典:厚生労働省「かかりつけ薬剤師・薬局機能調査・検討事業 かかりつけ薬剤師・薬局に関する調査報告書」

調剤薬局業界の市場状況

2016(平成28)年より、「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」に基づいて、薬品の価格が改められました。2018(平成30)年以降は、2年に1度の価格改定から1年ごとの改定に変わっています。

上記を受けて、先発医薬品・新薬などの価格が変更されて、薬品の売上高が低下しました。IQVIAジャパンのデータによると、2023(令和5)年度の日本医薬品市場の合計売上高は、11兆3,707億7,400万円です。

このうち、「薬局その他」に限った売上高は、3兆9,252億100万円(前年度比−2.6%)でした。このような現状により、調剤薬局業界では今後とも売上の低下が予想されます。調剤薬局の価値にも影響が及ぶものと見られます。

出典:IQVIAジャパン グループ「2023年医薬品市場統計-売上データ 2023年会計年度(2023年4月~2024年3月)」

かかりつけ薬剤師・薬局の推進

厚生労働省は、地域医療の強化を図るために、かかりつけ薬剤師や調剤薬局の増加を推進しています。この目的は、調剤薬局の周辺に住む人たちの健康を薬によって管理することです。

かかりつけの薬剤師・調剤薬局に処方を任せれば、薬の服用による経過観察や薬の重複などの管理ができます。夜間・休日・在宅患者の電話対応や、緊急時の調剤などにも対応が可能です。

上記を踏まえると、近い将来に調剤薬局業界が衰退する可能性は低いといえます。

調剤業務におけるDX推進

調剤薬局業界はこれまでデジタル活用で他業界に大きく後れを取ってきましたが、最近ではDXに適応できない薬局は経営が難しくなるという声が増えています。認識の変化に追いつけないプレイヤーは淘汰される時代にあり、大きなビジネスモデルの変革が必要とされています。

【関連】小さな調剤薬局でも会社譲渡(株式譲渡)は可能!店舗を残す方法を紹介

3. 調剤薬局業界でM&Aが盛んな理由

調剤薬局業界では、薬価や報酬制度の改正による利益の落ち込みが予想されます。こうした状況の中で、業界のM&Aが盛んに実施されているため、その理由を把握しておくとよいでしょう。

買い手と売り手企業は、以下のような理由でM&Aによる譲渡・買収を望んでいます。

  • 買い手:業界生き残りを目的とした「かかりつけ薬剤師」の導入や「かかりつけ薬局」への移行
  • 売り手:個人経営薬局における後継者問題の解決、グループ内店舗の売却により従業員の雇用維持

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

調剤薬局業界M&Aの買い手側

近年の診療報酬改定により、厚生労働省は、かかりつけ薬局への切り替えを推進しています。これに合わせて、調剤報酬が引き下げられる門前薬局とグループ薬局は、生き残りを図るためにかかりつけ薬剤師の導入やかかりつけ薬局への移行を進めている状況です。

調剤薬局業界では、今後ともM&Aによる買収が増えていくものと予想されます。買収先としては、個人経営のかかりつけ薬局がターゲットとなるでしょう。これを受けて、個人・中堅グループの調剤薬局を中心に、地域のケアを行える調剤薬局が増加傾向です。

大手・中堅のグループ企業は、スケールメリットによる利益の獲得を望んでいます。利益が見込める個人薬局や、少数の姉妹店を営む薬局なども、買収の対象に挙がりました。

中堅グループも買収に積極的

診療報酬の改正スパンは、2年ごとから毎年に変更されました。今後は、さらに厳しい基準が突きつけられる可能性もあります。中堅グループも、生き残りをかけた買収に乗り出している状況です。

買収対象の調剤薬局は、主に調剤基本料1の条件に当てはまる個人・グループ企業の薬局です。

調剤薬局業界M&Aの売り手側

売り手側の多くは、経営者が高齢の個人薬局です。厚生労働省による2018(平成30)年の「医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」によれば、60歳以上の薬剤師が、全体の18.7%にも及びます。70歳を超えた薬剤師は、大学・企業・診療所に占める割合が減る一方で、薬局勤めの割合が高い状況です。

最近では、調剤薬局業界に限らず、親族内への事業承継の割合が減少しています。調剤薬局業界の売り手には、身内に後継者がいない経営者が多く存在するでしょう。

参考:厚生労働省「平成30年(2018年)医師・歯科医師・薬剤師統計の概況 3 薬剤師」

大手の調剤薬局も店舗を売りに出す

調剤報酬の引き下げに該当する調剤薬局では、従来のような利益を得られません。大手の調剤薬局でも、グループ内で基準をクリアするために、店舗を手放すケースが見られます。業界での生き残りや従業員の雇用維持を実現するには、一部の店舗を売却して、経営を維持する施策も効果的です。

調剤薬局のM&Aが増加している理由については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】調剤薬局の経営は厳しい・難しい?M&A増加の理由、業界動向も解説
  • 調剤薬局のM&A・事業承継

4. 調剤薬局業界のM&A事例9選

本章では、近年行われた調剤薬局業界のM&Aから、9件の事例を掲載します。

  1. メディカル一光による京寿薬品の株式取得
  2. メディカルシステムネットワークによるファーマシフトの完全子会社化
  3. スギHDによるI &Hの完全子会社化
  4. ウエルシアHDによるウエルシア薬局と金光薬品の合併
  5. 日本調剤によるヤジマメディカルブレーンとデュオンの吸収合併
  6. 日本調剤によるハート調剤薬局の吸収合併
  7. クオールホールディングスによる鹿児島県の調剤薬局3件の株式取得
  8. クオールホールディングスによるニチホスの完全子会社化
  9. クオールホールディングスによる勝原薬局の買収

それぞれの事例からポイントをつかんで、自社のM&A戦略策定に役立てましょう。

①メディカル一光による京寿薬品の株式取得

メディカル一光グループの連結子会社であるメディカル一光(三重県津市)は、2024年4月23日に開催された取締役会において、株式会社京寿薬品(京都府京田辺市)の発行済株式を全て取得し、子会社化することについて協議を開始することを決議し、京寿薬品の株主との間で基本合意契約を締結しました。

メディカル一光グループは、調剤薬局事業、ヘルスケア事業、医薬品卸事業などを展開しています。メディカル一光は、主に調剤薬局事業と医薬品卸事業を行っています。京寿薬品は、京都府南部の京田辺市を中心に調剤薬局「京寿薬局」を運営しています。

この株式取得により、メディカル一光グループは、京都エリアを三重県に次ぐ重要拠点として位置づけ、ドミナント戦略を展開しながら規模の拡大を図り、企業価値の向上を目指します。

当社連結子会社による株式会社京寿薬品の株式取得に関する協議開始のお知らせ

②メディカルシステムネットワークによるファーマシフトの完全子会社化

メディカルシステムネットワーク株式会社(MSN)は、2023年12月26日、ファーマシフト株式会社(FS)を完全子会社化しました。買収額は非公開です。

このM&Aの目的は、FSの調剤薬局経営ノウハウと、MSNの訪問診療・介護事業のノウハウを融合し、地域における包括的な医療・介護サービスの提供を目指すことです。
具体的には、MSNの訪問診療・介護サービスを利用する患者に対して、FSの調剤薬局で服薬指導を行う連携体制を構築することです。

このM&Aにより、地域住民の医療・介護ニーズにきめ細かく対応した、より質の高いサービスの提供と、経営効率の向上が期待されます。

③スギHDによるI &Hの完全子会社化

スギホールディングス株式会社(スギHD)は、2023年9月2日、I &H株式会社(I &H)を完全子会社化しました。買収額は約24億円です。
このM&Aの目的は、ドラッグストア事業の拡大です。

このM&Aにより、スギHDは関東・東北におけるドラッグストア事業の基盤を強化し、シナジー効果による収益拡大を目指します。

④ウエルシアHDによるウエルシア薬局と金光薬品の合併

2022年1月、ウエルシアHDは、完全子会社のウエルシア薬局と金光薬品を合併すると発表しました。6月に、ウエルシア薬局を存続会社、金光薬品を消滅会社とする予定です。

ウエルシアHDは、近畿から中国地方におけるグループの事業基盤をより強固なものとするため、2019年6月に金光薬品と経営統合していました。基幹システムとPOSレジ、商品政策、販売促進計画などの統合を進め、全面改装や調剤薬局の新規開局などを実施してきました。

新型コロナ感染症拡大の影響により、特に調剤薬局の売上が厳しい状況です。このM&Aは、本部機能の効率化、従業員の交流などにより、経営資源を有効かつ効率的に活用し、中国地方における売上シェア拡大を期待しています。

⑤日本調剤によるヤジマメディカルブレーンとデュオンの吸収合併

2021年11月、日本調剤は、100%子会社であるヤジマメディカルブレーンとデュオンを吸収合併すると発表しました。期日は2022年1月1日です。消滅会社となるヤジマメディカルブレーンとデュオン、両社の事業内容は薬局経営です。

日本調剤は、「真の医療分業の実現」を企業理念としています。全国で調剤薬局チェーンを展開し、良質な医療サービスを提供することを目的に事業展開しています。今回の合併は、調剤薬局事業の一元管理を狙いとして管理機能を強化し、さらなる経営の効率化を目指すことが目的です。

⑥日本調剤によるハート調剤薬局の吸収合併

2021年8月、全国で調剤薬局をチェーン展開する日本調剤は、ハート調剤薬局を、吸収合併により経営統合しました。ハート調剤薬局は日本調剤の100%子会社でしたが、本M&Aにより日本調剤に吸収されました。

M&Aの目的は、日本調剤が保有する調剤薬局の一元管理を強化し、経営の効率化を図ることです。

⑦クオールホールディングスによる鹿児島県の調剤薬局3件の株式取得

クオールホールディングス株式会社(クオールHD)は、2023年11月14日、鹿児島県にある調剤薬局3件の株式を取得しました。取得額は非公開です。
このM&Aの目的は、調剤薬局事業の拡大です。

このM&Aにより、クオールHDは九州における調剤薬局事業の基盤を強化し、シナジー効果による収益拡大を目指します。

⑧クオールホールディングスによるニチホスの完全子会社化

2021年4月、クオールホールディングスは、ニチホスの株式を追加取得して完全子会社化しました。本件M&Aの取得価額は非公開です。

クオールホールディングスは、調剤薬局の運営および医薬品の販売を手掛けていた「クオール」を前身とする持ち株会社です。2018年10月に持ち株体制に移行し、クオールよりクオールホールディングスへと商号を変更しています。

ニチホスは、買収側の連結子会社であり、薬局・在宅介護事業を経営している企業です。本件M&Aの目的は、優秀な人財の相互交流・ICTなどグループリソースの最大限の活用による、企業価値のさらなる向上にあります。

⑨クオールホールディングスによる勝原薬局の買収

2021年1月、クオールホールディングスは、勝原薬局の株式全てを取得し完全子会社化しました。本件M&Aの取得価額は非公開です。

売却側の勝原薬局は1915(大正4)年に創業され、兵庫県姫路市などで11店舗の調剤薬局を運営しています。100年以上にわたり「かつはら薬局」の屋号を用いて、地域の人々に親しまれながら地域社会に貢献してきました。

本件M&Aの目的は、地域医療・在宅医療に対する貢献にあります。人財相互交流やICTなどのグループリソースを最大限に活用しながら、企業価値のさらなる向上に努めると発表しました。

5. 調剤薬局M&Aの価格相場

調剤薬局のM&Aの価格相場は、店舗数やその立地、収益性、内装や設備等、建物の築年数、人的資源などにより決まるため、一概にいくらというのは難しいものです。次に、価格相場を決める基準を見ていきましょう。

価格相場を決める3つの基準

M&Aにおける調剤薬局の価格相場を決める基準は、以下の3点です。調剤薬局の譲渡・買収では、これら3つの相場を合わせた額を基準に取引価額が決められます。

  • 時価純資産価額
  • 営業権
  • 月の技術料と処方箋応需枚数

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

①時価純資産価額

価格相場を決める1つ目の指標は、時価純資産価額です。純資産とは、譲渡側が所有する全ての資産から、負債を差し引いた額をさします。

ここでいう資産には、売り手の薬局に備わる設備(調剤機器・調剤報酬明細書を作成するレセプトなど)および、不動産・在庫の医薬品などが該当します。時価純資産価額は、純資産を時価に換算して価値相場を算出する仕組みです。

②営業権

価格相場を決める2つ目の指標が、営業権です。営業権とは、譲渡する調剤薬局の営業利益から、貸借対照表に載らないリスクを引いたり、買収によって得られる付加価値を足したりして求めた額をさします。

営業権は、調剤薬局が1年に得た利益を企業の価値として評価します。通常、将来の見通しを考慮して、3~5年分の利益を見込んで算出されます。そのため、価格相場は「1年の営業権✕3~5年」で計算されます。

③月の技術料と処方箋応需枚数

価格相場を決める3つ目の指標が、月の技術料と処方箋の応需枚数です。1カ月当たりの調剤技術料がわかれば、売上に占める技術料を算出できます

処方箋を受け付ける枚数を知ると、調剤薬局の売上が把握可能です。価格相場の決定には、技術料と処方箋の応需枚数が重要視されます。

企業価値評価の3つの方法

調剤薬局をM&Aで買収する際の価格は、企業価値評価により決定されます。企業価値評価の3つの方法は以下のとおりです。

  • コストアプローチ:企業の純資産をもとにして評価する方法です。簿価純資産法や時価純資産法などがあります。
  • インカムアプローチ:企業の将来期待される収益をもとにして評価する方法です。DCF法や配当還元法などがあります。
  • マーケットアプローチ:市場価格をもとにして評価する方法です。市場価額法や、類似会社比準法などがあります。

調剤薬局のM&A手数料については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】調剤薬局のM&A手数料を徹底解説!相場や詳細、仲介会社を選ぶポイントも

6. 調剤薬局M&Aのメリット

本章では、調剤薬局業界のM&Aで売り手と買い手が知っておきたいメリットを順番に取り上げます。

買い手側のメリット4選

M&Aで調剤薬局の買収を検討する際は、メリットを知ったうえで実行に移すことが大切です。調剤薬局のM&A・買収で得られるメリットには、以下の4つが挙げられます。

  • 仕入れ額を抑えられる
  • 従業員と取引関係の確保
  • 短期間での開業が可能
  • 薬の管理による患者の囲い込み

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

①仕入れ額を抑えられる

複数の店舗を所有すると、製薬会社や卸業者からの仕入れ額を抑えられます。

一度の注文で大量の医薬品を仕入れると、流通にかかるコストが抑えられます。個人経営の店舗よりも医薬品の単価を下げられるでしょう。

②従業員と取引関係の確保

既存の薬局から事業を引き継いでしまえば、即戦力となる従業員および、処方箋を出している病院との関係を確保できます。従業員の採用や処方箋枚数を獲得する手間が省けるため、スムーズに事業を開始できるでしょう。

③短期間での開業が可能

M&Aでは、内外装の工事費用・設備と医薬品の購入費・従業員の採用・取引先・患者なども買収額に勘案されます。つまり、短い期間での開業が可能になるわけです。

④薬の管理による患者の囲い込み

かかりつけ薬剤師を雇用していたり、かかりつけ調剤薬局として営業していたりする店舗を選べば、地域住民の利用を促せます。こうした薬局では、患者ごとに薬を管理します。薬の数や量・詳しい薬の情報を伝えることで、次回の来店につなげられるでしょう。

顧客の獲得が期待できるうえに、市場の流れに合わせた利益の獲得が可能です。

売り手側のメリット4選

M&Aで薬局を売却したり、事業を手放したりする場合も、メリットを十分に理解することが大切です。M&Aを通じた調剤薬局の譲渡には、以下4つのメリットが挙げられます。

  • 後継者が見つかる
  • 創業者利益を得られる
  • 雇用と取引を引き継いでもらえる
  • グループ薬局の力を借りられる

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

①後継者が見つかる

医薬分業が進んだ1997(平成9)年から20年以上の月日が経過しました。この時期に薬局を開業した経営者の多くは、健康問題を抱える年齢に差し掛かっています。

しかし、後継者が必要でも、個人経営の店舗であれば、親族や従業員の中にふさわしい人物が見つからないケースも少なくありません。M&Aで自社を売却すれば、企業への薬局経営の引継ぎが可能です。

②創業者利益を得られる

自社の売却を望んでいる経営者は、売却益の獲得も目的の一つに掲げています。株式譲渡による税金は20%程度と低いため、まとまった資金を手元に残せるでしょう。

老後の生活費として十分な資金が得られる可能性があります。新しい事業を立ち上げる経営者も、自社の売却を希望するケースが見られます。得られた売却益は、新事業立ち上げの資金に充てられるためです。

③雇用と取引を引き継いでもらえる

M&Aによる譲渡を選ぶと、従業員の雇用を引き継いでもらえます。後継者が見つからない場合、売却したい旨を仲介業者などに伝えれば、従業員の雇用先確保が可能です。

M&Aによる売却では、懇意にしている病院や患者との関係も引き継がれます。特に個人の経営者の場合、廃業で生じる周囲の不利益を気にして、営業を止められずにいるケースも少なくありません。

M&Aによる譲渡を選択すれば、これまでの関係性を維持しつつ、心置きなく経営から退けます。

④グループ薬局の力を借りられる

M&Aを通じたグループ企業への譲渡では、薬剤師の確保・スケールメリットによる仕入れ額の抑制なども実現できます。大手・中堅の薬局グループに売却したい旨を願い出れば、「働き手の薬剤師が集まらない」「仕入れが高く付くため利益が少ない」などの問題から解放されます。

以上、M&Aによるメリットを紹介しました。M&Aによる売却を行う際は、交渉相手探し・デューデリジェンス(企業の監査)への対応など、綿密な準備・手続きが必要です。

M&A総合研究所では、調剤薬局業界の会社売却・事業承継に豊富な知識と経験を持つM&Aアドバイザーが案件ごとに専任として、徹底サポートします。無料相談はお電話・Webより受け付けていますので、調剤薬局のM&Aをお考えの際は、お気軽にお問い合わせください。

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7. 調剤薬局M&Aのデメリット

本章では、調剤薬局業界のM&Aのデメリットを、買い手側と売り手側の順番に取り上げます。

買い手側のデメリット

調剤薬局業界M&Aの買い手企業のデメリットは、通常のM&Aと同様のリスクを負う点です。合併や株式譲受を行う場合には、買い手企業は売り手企業の簿外債務や裁判など、マイナスの財産を引き継ぐリスクがあります。

M&Aの契約を結ぶ前に、買い手側は売り手側に対してデューデリジェンスを実施し、しっかりとリスクを把握しておきましょう。

売り手側のデメリット

売り手側企業のデメリットは、買い手企業次第でM&A後の処遇や外部からの印象が変わる点です。調剤薬局の専門性を持ったスタッフは処遇によっては自社に留まらない場合があります。

買い手企業の印象が悪い場合には、ドクターからの理解が得られず、取引停止される可能性があるため、留意が必要です。

8. 調剤薬局M&Aの流れとフロー

調剤薬局をM&Aは、基本的には通常のM&Aと同様の手順です。M&Aの検討を始める際、まずはM&Aアドバイザーとの面談・契約を行います。M&Aアドバイザーとは、M&Aの支援事業を行っている会社です。M&A仲介会社、コンサルティング会社、銀行、証券会社などです。

M&Aアドバイザーから提示された匿名による買い手企業または売り手企業候補から、交渉を進めたい企業を選定します。その後、当該企業と秘密保持契約を締結し、詳細資料を共有します。

ここからは、M&Aアドバイザーのサポートを受けつつ、候補企業と直接やり取りに進みましょう。具体的には、社長面談、基本合意契約締結、デューデリジェンスを行います。

条件の調整が済み、最終合意に至ったら最終契約書を締結します。実際の効力発生日は、数カ月後に設定することが多いです。

9. 調剤薬局M&Aにかかる期間と長引く原因3選

調剤薬局業界でのM&Aは、一般的に完了までに6カ月から1年ほどの期間を要します。多くの経営者は、短期間でのM&A完了を望みますが、いくつかの原因によって交渉が長引くおそれがあります。交渉が長引く主な原因は、以下の3点です。

  1. 落ち込んだ業績
  2. 高すぎる譲渡希望価額
  3. 権利関係の交渉

それぞれの項目を順番に詳しく紹介します。

①落ち込んだ業績

買い手は、業績が良く利益を上げられる調剤薬局を探しています。長期間にわたり業績が落ち込んでいる薬局には、買い手が付くまでに時間がかかるでしょう。ただし、営業権などの資産価値を有している場合には、業績が落ち込んでいてもスムーズな売却が可能です。

②高すぎる譲渡希望価額

自社に見合わない譲渡額を提示すると、買い手が購入を避けてしまいます。たとえ売却に適する要素があったとしても、買い手を逃してしまい、売却のチャンスを失いかねません。

③権利関係の交渉

調剤薬局の売却を実行に移す際は、株主や物件の所有者および、病院や診療所などからの許可が必要です。しかし、売却によって得られる利益が失われる場合、これらの権利者は交渉に反対します。

したがって、納得する条件を提示したり、交渉による理解を求めたりと、M&Aが長期にわたってしまうケースが想定されました。

調剤薬局のM&Aの流れについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】調剤薬局のM&Aの流れを解説!手続きにどれくらいの期間がかかる?

10. 調剤薬局のM&Aを成功させるポイント

調剤薬局業界のM&Aは盛んに実施されていますが、薬価改定などにより業界の状況は大きく変化しています。調剤薬局のM&Aでは、タイミングや取引価格などを厳しく見るために、M&A仲介会社にサポートを受けることが成功のカギです。

調剤薬局のM&Aでは、通常のM&Aと異なり、取引先である医師との人間関係、薬価関係規制、薬剤師の確保などの特殊な論点が存在します。それらの論点について、M&Aアドバイザーと細かい検討を重ねることが、調剤薬局のM&Aを成功に導くポイントとなるでしょう。

調剤薬局の事業承継については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】調剤薬局が事業承継をするにはコツがあった!成功法を徹底解説!

11. 調剤薬局業界のM&A仲介会社を選ぶ方法

近年、調剤薬局業界のM&Aが活発化していることから、M&A仲介会社、金融機関、証券会社などが調剤薬局のM&Aに参入しています。参入したばかりのアドバイザーは、薬局に関する知識が乏しい場合が多く、期待通りのサービスが得られない可能性があります。

より良い売り手企業、買い手企業を見つけるためには、調剤薬局業界に精通するアドバイザーを選定すると良いでしょう。

12. 調剤薬局のM&A・売却案件

最後に、実際に公開されている調剤薬局のM&A案件として、都心の人気エリアにある調剤薬局の譲渡を取り上げます。

この調剤薬局は、門前のクリニックと良好な関係を維持しています。新規で新しいクリニックが近隣に開院予定のため、売上の増加・継続的な薬局運営が見込まれる点も強みです。すでに地域支援体勢加算を取っており、技術料も高い水準を維持しています。
 

売上高 5,000万〜1億円
譲渡希望価格 希望なし
譲渡理由 非公開

13. 調剤薬局業界のM&Aのまとめ

調剤薬局業界では、今後も活発なM&Aが引き続き実施されるものと予想されます。大手グループ薬局はスケールメリットの強化による利益の獲得を検討しています。中堅グループや複数店舗を抱えるオーナーは、ドミナント戦略などで特定エリアに出店を検討するケースが多いです。

個人の薬局では、高齢化・後継者や人材の不足・薬価の引き下げ・制度改正などの影響により、譲渡を希望する経営者が増加しています。M&Aを通じた譲渡先としては、ドミナント戦略に該当する店舗や、かかりつけ薬局などが選ばれやすいです。

特にグループ薬局では、今後の改定を見越して、採算の取れない店舗の売却・かかりつけ薬局の買収などを行っています。今後も調剤薬局の譲渡・買収が続くものと想定されます。本記事の要点は、以下のとおりです。

◯調剤薬局の定義
→医師の診断に基づいた処方箋にしたがって薬を調合する薬局

◯調剤薬局M&Aの価格相場を決める基準
→時価純資産価額
→営業権
→月の技術料と処方箋応需枚数

◯調剤薬局M&Aのメリット(買い手側)
→仕入れ額を抑えられる
→従業員と取引関係の確保
→短期間での開業が可能
→薬の管理による患者の囲い込み

◯調剤薬局業界M&Aのメリット(売り手側)
→後継者が見つかる
→創業者利益を得られる
→雇用と取引を引き継いでもらえる
→グループ薬局の力を借りられる

◯調剤薬局M&Aで交渉が長引く要因
→落ち込んだ業績
→高い譲渡額
→権利関係の交渉

14. 調剤薬局業界の成約事例一覧

15. 調剤薬局業界のM&A案件一覧

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