2022年09月18日更新
事業譲渡の際に承継される契約関係は?債務・売掛金・買掛金・雇用関係・不動産も解説【契約書の書き方】
事業譲渡を行う場合、承継される契約関係はどういったものがあるのでしょうか。債権、売掛金、買掛金、雇用関係、不動産など事業譲渡の承継には必要な契約が数多く存在します。そこで、事業譲渡に必要な契約を簡単に解説いたします。
目次
1. 事業譲渡とは?
事業譲渡により事業を承継して、事業を継続する事例は少なくありません。事業譲渡とは、会社が保有している事業の一部ないしは全てを他の会社に渡すことです。事業譲渡には、事業承継を目的としている事業の契約の他にも、多くの契約が存在します。
そこで、ここでは事業譲渡による契約について、事業承継されるものや事業譲渡契約書の作成方法などを解説します。
事業譲渡で承継されるもの
事業譲渡を行うと、会社が保持していた事業の一部ないしは全てが、譲渡される側の保有物となります。事業譲渡により、事業承継が行われるのは、こういった要素があるからです。
事業譲渡の契約の承継には、債務、売掛金、買掛金、雇用契約、不動産契約、地位、許認可、取引先契約などがあります。
資産や人材だけではなく、債務に関する部分まで事業譲渡の対象となるでしょう。基本的には事業譲渡を行う会社間の同意により、事業の一部か全てかが決定します。
事業譲渡で承継されないもの
反対に、事業譲渡で承継されないものは、上記に上げたもの以外となります。事業譲渡される側が事業譲渡の一部に同意をしなければ、同意しない部分の契約は、事業譲渡により承継されません。
2. 事業譲渡による債務の承継
まずは事業譲渡による債務の承継です。債務の承継を行うには2つの手続きが存在します。それぞれの手続きを簡単に説明します。
債務を引き継ぐ手続き
債務を引き継ぐ手続きを紹介しましょう。
免責的債務引受
事業承継による債務の承継の1つに「免責的債務引受」の方法があります。この「免責的債務引受」は、債務が本来の債務者から離れ、債務の責任がなくなる方法です。この方式が取り入れられる場合、事業を承継される側の資金力が重要となります。
「免責的債務引受」による債務の承継は、債権者の同意が必要です。これが「免責的債務引受」による債務の承継です。
併存的債務引受
事業承継による債務の承継のもう1つに「併存的債務引受」の方法があります。これは、債務は承継されて、新たな事業承継者の債務に移転するものの、債務が移転した後も承継前の債務者が債務を負担する方法です。
「併存的債務引受」は、事業譲渡をする側とされる側の同意のみで決められますが、これは債権者が不利を被らないようにするためです。
株式譲渡による承継
株式譲渡による事業承継を行うことで、債務を承継できます。株式譲渡は、債務を自動的に引き継ぐ決まりです。
実は、株式譲渡による事業譲渡が一番簡単といいます。それは、事業譲渡を行う会社は、株式を譲渡するだけで他の資産や事業体系は移転などを行わないまま、事業を承継できるからです。株式譲渡による承継の場合、発行株式の51%が必要となります。
しかし、51%の株式保有率では会社にかかわる重要事項の決定権がありません。事業譲渡では、権限を与えられる全株式の3分の2以上にあたる67%の株式を譲渡することが条件となります。よって、全ての株式を譲渡し、事業譲渡を行う形が望ましいでしょう。
3. 事業譲渡による売掛金の承継
次に、事業譲渡による売掛金の承継を解説します。勘定科目で流動資産として区別される売掛金は、掛取引において販売した商品の代金を受け取る権利を表しています。
売掛金を譲渡する手続き
売掛金の譲渡は事業譲渡された会社について、債権譲渡通知や取引先の買掛金に対する確定日付に基づく同意が必要です。
4. 事業譲渡による買掛金の承継
それでは、次号譲渡による買掛金の承継はどういった方法なのでしょうか。買掛金とは掛け取引で購入した製品など対して支払う代金を意味しています。
買掛金を引き継ぐ手続き
買掛金の譲渡の場合、代金が支払われる権利を持っている相手の同意が必要となります。これがいわゆる「免責的債務引受契約」です。この「免責的債務引受契約」により、事業譲渡された会社に事業譲渡元の会社から支払いである債務が移動します。
しかし、もし支払いを受ける者が同意をしない場合、「免責的債務引受契約」が成立しません。その場合は、事業譲渡された会社が幾重にも重なる債務である「重畳(ちょうじょう)的債務」を引き受けます。
5. 事業譲渡による雇用契約の承継
それでは、事業譲渡による雇用契約の承継はどのような手続きとなるのでしょうか。従業員は会社にとって重要な財産ですから、知っておく必要があります。
雇用契約を継続させる手続き
事業譲渡により事業を承継した場合は、基本的には事業を譲渡した会社へ、雇用を継続させる手続きを行うこととなります。事業譲渡したので、従業員は当然引き継がれると考えていると勘違いするかもしれません。従業員の譲渡は、お互いの同意が必要です。
事業譲渡を行った会社から、事業譲渡をされた会社へ従業員を引き継ぐ場合は必ず雇用契約を締結させなければなりません。すなわち、従業員は一度既存の会社を退職した後に、新たに譲渡先となった会社との雇用契約を行う必要があります。
この従業員の雇用契約は、譲渡される会社に対してもそうですが、譲渡先に移転する従業員の同意も必要です。まずは従業員を譲渡できるかどうかを、譲渡先の会社と同意し、その後に従業員に移転する同意を確認します。
6. 事業譲渡による不動産契約の承継
事業譲渡における不動産契約の承継は、どのように手続きが行われるのでしょうか。簡単に解説します。
不動産契約の移転手続き
事業譲渡により不動産の契約を移転する場合、不動産に関する法律に則(のっと)った手続きが必要です。不動産を譲渡した場合は、それにかかわる税金も発生しますので、必ずチェックしましょう。
不動産などの税金に関する手続きは、専門家を活用することをおすすめします。特に税務に関しては複雑な部分が多く、専門家であれば目に見えない部分まで、いままでの経験と実績によりスムーズに進められるでしょう。
7. 事業譲渡による契約上の地位の承継
事業譲渡により、契約上の地位の承継が必要となる場合もあります。地位の承継はどのような手続きになるのでしょうか。
契約上の地位の移転手続き
地位の移転手続きは、事業譲渡をされる会社側との同意がまずは必要です。会社側で地位の承継に同意を受けた後に、地位を承継する相手にも同意を得る必要があります。
もちろん、事業譲渡先では今までと同じ地位ではいられない可能性もあるでしょう。そうした同意も得る必要があります。
8. 事業譲渡による許認可の承継
事業譲渡によって、今まで保有していた許認可はどうなるのでしょうか。許認可の承継の契約を解説します。
許認可取得の手続き
事業承継により引き継げる許認可もありますが、中には承継できない許認可も存在します。この場合、許認可を新たに取得する必要があるでしょう。許認可の取得は時間を要することがあります。事業譲渡後に円滑に業務が遂行できなく可能性もあるため、事業に必要な許認可は、事前にリサーチして取得しましょう。
この場合も、どういった許認可に手続きが必要なのか、専門家などと相談するのがベストです。
9. 事業譲渡による取引先の承継
事業譲渡をしても、当然ながら以前の取引先とは関係が保たれています。そこで、事業譲渡による取引先との承継を解説します。
取引先を引き継ぐ手続き
事業譲渡による取引先の引き継ぎは、契約手続き上関係する者は、ライセンスや取引契約などです。これらの契約は、契約先である取引先の同意が必要となります。取引先から引き継ぎの承認を得た後に、改めて契約書を提示しましょう。
10. 事業譲渡契約書の作成のポイント
事業譲渡契約書を作成する際は具体的なポイントがあります。
事業譲渡契約書とは
事業譲渡は会社の事業を切り離し第三者に譲り渡すことであり、その際に交わすのが「事業譲渡契約」です。譲渡企業の事業のうちどの事業を譲渡するのかを特定する必要があり、譲渡対象によって契約書の中身や定めなければいけない点も違うでしょう。
事業譲渡契約書を作成する目的
事業譲渡はさまざまなケースが考えられます。例えば、「業績は順調ではあるが後継者がいない」といった理由や「不採算事業を切り離して残存事業にリソースを集中させたい」といった理由などが挙げられるでしょう。
このように会社が行っているすべての事業を譲渡するケース、一部の事業を切り離して譲渡するケースなどが想定され、事業譲渡の内容は当事者間の協議で自由に決定するのが可能です。昨今は、事業譲渡はM&A仲介会社など専門家へ依頼するのが多くなっています。
したがって個別事情に応じてどのような形で譲渡するか、事業譲渡に付随する項目(取引先・従業員)をどうするかなど、細かく協議し決定していく必要があるでしょう。その契約内容をまとめたものが、事業譲渡契約書です。
事業譲渡契約書は、当事者間の意思を反映し、互いが納得したうえで事業譲渡を実行するために必要な書類といえます。
事業譲渡契約書を作成する際の注意点
ここからは、実際に事業譲渡を行う際に作成される「事業譲渡契約書」の注意点をそれぞれ解説します。
- 譲渡内容
- 譲渡財産
- 譲渡による対価
- 雇用関係
- その他承継事項
- 表明保証
- 補償内容の確認
- 競業避止義務
- 契約解除事項
①譲渡内容
事業譲渡を行う場合、全ての事業や資産を承継するとは限りません。事業譲渡を行う会社間で事業譲渡の内容に関して契約書にする必要があります。
もし、全ての事業などを譲渡するのであれば、それを譲渡内容とすれば良いですが、一部譲渡となった場合は、誰が見てもわかりやすい譲渡内容にしておく必要があります。それは、財務や法務の関係で書類を第三者に見せる可能性もあるからです。
②譲渡財産
事業譲渡は事業だけではなく財産なども承継できます。現金や不動産、そして資材なども「事業譲渡契約書」に明記しておくことが重要です。しかも、できるだけ具体的に財産に関する内容も記述する方が良いです。
特に譲渡財産の部分はトラブルになりやすいため、注意深く契約書を作成するように心がけましょう。
③譲渡による対価
事業譲渡が行われると、その対価として、事業譲渡された側の企業は現金などの支払いが行われます。この支払は双方の同意により価格が決められます。対価に対する算出方法もさまざまで、不動産や資材のほか企業価値や株価などが影響します。
双方で同意ができれば、その金額で事業譲渡が行われますが、同意ができない場合は、お互いに話し合いを繰り返す必要があるでしょう。事業譲渡の相場などもありますので、専門家に相談しながら話を進めると良いです。
④雇用関係
先にも解説しましたが、従業員の雇用関係は事業譲渡によって自動的に承継されるものではありません。それぞれの同意に基づき、雇用関係が発生します。事業譲渡契約書には雇用を保証する契約はできますが、雇用を引き継ぐ契約はできません。
あくまでも、雇用契約に関しては事業を譲渡された会社と従業員の間で契約されるものであることを覚えておきましょう。
⑤その他承継事項
上記に掲げた事業譲渡に関する承継事項以外にも、許認可や債務の譲渡など、細かい部分に至るまでしっかりと承継事項にまとめておきます。事業譲渡を円滑に進めるために、双方で良く話し合いを行い、しっかりと承継事項を作り上げることが重要です。
⑥表明保証
事業譲渡を行う際に、事業譲渡の内容を保証するのが「表明保証」です。この表明保証は、双方で保証を締結するか決めて行いますので、絶対に必要なものではありませんが、事業譲渡の契約を確約するものとなります。
必ず用意する書類ではないものの、譲渡内容を保証するものであり、譲渡する側はできる限り締結するようにしましょう。事業保障には「契約内容」と「手続きの方法」のほか、資産や債務などといった譲渡契約に関する内容が記載されます。
⑦補償内容の確認
事業譲渡契約書に基づき、事業譲渡に対する契約や義務の違反が合った場合の補償方法などの内容を確認しましょう。補償内容は多くの場合は金銭的な補償となります。
補償では事業譲渡に対する義務違反に対する内容や度合いによって、どの程度の補償を行うかなどもしっかりと取り決めておきましょう。
⑧競業避止義務
譲渡会社は、競業避止義務を負います。譲受会社と同一の区域内(市町村およびその隣接地)で譲渡日から20年間譲渡事業と同一の事業ができません。なお、競業避止義務の区域の範囲は当事者間の協議で自由に決定できるでしょう。
当事者の合意があれば禁止期間を30年にも延長でき、免除も可能です。したがって、法律の規定と異なった競業禁止を決めた場合はその内容を記載します。
⑨契約解除事項
事業譲渡が順調に進んでいたとしても、段階にかかわらず契約解除が行われる場合があります。契約解除になった場合の条件は、先の補償内容と合わせて決めておくと良いでしょう。
事業譲渡契約が解除された場合、今までのコストや時間が無駄になってしまいます。そうしたリスクを少しでも解消するために、契約解除事項もしっかりと決めておくことが重要です。
事業譲渡契約書の作成方法
事業譲渡の契約書を作成するためには、いろいろと複雑なものが多く、慣れていないと多くの時間を費やしてしまうでしょう。そのうえ、手続きに不備があればM&A進行にも影響がおよびます。
M&A総合研究所では、事業譲渡の契約や契約書の作成、事業譲渡による事業承継の円滑化など、事業譲渡をフルサポートいたします。
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11. 事業譲渡の際に承継される契約関係まとめ
ここまで事業譲渡契約書の作成方法や、事業譲渡に必要な契約を解説しました。事業承継は経営者にとって非常に重要な項目です。事業承継を円滑に行うためにも、ここであげた内容を参考にして、事業譲渡契約書を作成してみましょう。
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