2026年01月14日更新
ガソリンスタンド業界のM&A動向と売却相場|成功のポイントや今後の展望を解説
ガソリンスタンド業界のM&A現状や動向、売却相場、メリットを解説。2026年に向けたEVシフトや需要減への対策として、事業承継や売却を検討する経営者が増えています。最新情報を踏まえた最適な出口戦略の検討にぜひお役立てください。
目次
1. ガソリンスタンド業界のM&A現状と将来性
ガソリンスタンド業界とは、揮発油脂・軽油・灯油といった石油製品を販売する事業者で形成される業界のことで、総務省の日本標準産業部類によれば燃料小売業に該当します。
ガソリンスタンドの事業者は供給する油を計れるようポンプに計器をつけ、自動車用のガソリン・軽油・灯油・液化石油ガスを販売する決まりです。
帝国データバンクが2018(平成30)年9月に公表した「ガソリンスタンド経営業者の実態調査」によれば、年商1億~10億円未満の事業者が5,657社と最も多く、全体の6割強を占めています。
2025年から2026年にかけて、ガソリンスタンド業界の景況感は依然として不透明な状況が続くと予測されます。2024年以降、政府による燃油価格激変緩和補助金の段階的な縮小や終了が議論されており、コスト増が経営を直撃する懸念が高まっています。
また、2026年にはさらなるEV(電気自動車)の普及や、低燃費車の増加が確実視されており、ガソリン需要の減少は避けられません。不安定な為替相場や中東情勢の影響による原油価格の高止まりも、小規模なガソリンスタンドの収益を圧迫する大きな要因となっています。
今後は、単なる給油所としての機能だけでなく、次世代エネルギーへの対応や、異業種との連携による新サービスの提供が生き残りの鍵となります。先行きの不透明さから、2026年以降を見据えた早期のリタイアや事業売却を選択する経営者も増加傾向にあります。
参考:帝国データバンク「ガソリンスタンド経営業者の実態調査」
帝国データバンク「特別企画:ガソリンスタンド業界の景況感に関する動向調査」
ガソリンスタンドのM&Aは可能か
ガソリンスタンドのM&Aは、今後さらに活性化すると予想されます。最大の要因は、2035年の新車販売電動化目標に向けた構造変化です。2025年からは既存のガソリン車からEVへのシフトが一段と加速し、燃料小売のみでの収益維持が困難になる店舗が急増すると見られています。
また、経営者の高齢化に伴う後継者不足も深刻です。2026年にかけて、親族内承継を断念した経営者が、第三者へのM&Aによって従業員の雇用や地域のインフラを維持しようとする動きが目立っています。倒産という最悪の事態を避けるための「出口戦略」として、ガソリンスタンドのM&Aは非常に現実的な選択肢となっています。
LPガス業界のM&A・買収・売却については下記の記事で紹介しています。あわせてご覧ください。
2. ガソリンスタンド業界で注視すべき4つの最新動向
近年のガソリンスタンド業界の動向を見ると、主な特徴として以下の4項目が挙げられます。
- ガソリンスタンド数は年々減少傾向にある
- プライベートブランドが店舗数を増やす
- 大手企業の提携が盛ん
- 多方面のエネルギー事業への参入が伺える
①ガソリンスタンド数は年々減少傾向にある
ガソリンスタンド(SS)の数は1994年度のピーク時から半数以下にまで減少しており、2025年から2026年にかけてもこの傾向は続くと予測されます。資源エネルギー庁の統計によると、直近の給油所数は3万カ所を大きく割り込んでおり、過疎地における「SS過疎地問題」も深刻化しています。
特に2025年度以降は、老朽化した地下タンクの改修期限を迎える店舗も多く、多額の投資が困難な個人経営店を中心に、廃業か売却かの決断を迫られるケースが増えるでしょう。業界全体で集約化が進み、1社あたりの運営規模が拡大する二極化が加速しています。
参考:資源エネルギー庁「令和5年度末揮発油販売業者数及び給油所数を取りまとめました」
②プライベートブランドが店舗数を増やす
近年、ガソリンスタンド業界では、プライベートブランドによる店舗数が増加しています。ここでいうプライベートブランドとは、石油の元請け以外の事業者・組合が運営するガソリンスタンドのことです。
元請けは原油を精製し石油を販売していますが、需給のバランスによっては供給量以上の石油を精製してしまうこともあります。
プライベートブランドは、その余った石油を安く買い取ることで低価格での石油の販売を可能にしています。
③大手企業の提携が盛ん
昨今、ガソリンスタンド業界では、大手同士の提携が盛んに行われています。例えば、2017(平成29)年4月には、JXホールディングスと東燃ゼネラル石油が合併し、JXTGホールディングスと商号を改めました。
2019(平成31年)年4月には、出光興産と昭和シェル石油が株式交換を行い、昭和シェル石油の子会社化によって経営統合しています。
これらの大手企業は、同業者と経営統合することで輸送効率を高めてシナジー効果を得ることを主な目的としています。
④多方面のエネルギー事業への参入が伺える
ガソリンスタンド業界では、2026年のGX(グリーントランスフォーメーション)推進に向けた投資が活発化しています。従来の化石燃料販売だけでなく、EV急速充電器の設置や水素ステーションへの転換、さらには再生可能エネルギーを活用した地域電力の供給拠点としての役割が期待されています。
大手各社はカーボンニュートラルの実現に向け、合成燃料(e-fuel)の実装試験や、バイオ燃料の供給体制構築を加速させています。M&Aにおいても、こうした次世代エネルギーインフラとしての価値を持つ店舗や、地域の配送ネットワークを維持している事業者が高く評価される傾向にあります。
太陽光発電のM&Aについては下記の記事で紹介しています。あわせてご覧ください。
3. ガソリンスタンドの譲渡で活用される主なM&A手法
事業譲渡
事業譲渡とはガソリンスタンド事業に関する権利義務を譲渡する方法で、譲渡する資産・負債・営業権などを選んだうえで契約します。
ただし、揮発油販売業者(ガソリンスタンド事業者)が事業のすべてを買い手に譲渡しなければ揮発油販売業者の地位は承継されないため、給油所の一部を譲り渡す場合は事業者の交代手続きが必要です。
地位を承継した買い手は、経済産業大臣に事業譲渡による地位承継に関して変更登録をしなければなりません。事業譲渡によるM&Aを選択する場合は、譲渡する権利義務を定めるほか、譲渡に伴う手続きも把握しておきましょう。
株式譲渡
株式譲渡とは、自社の株式を第三者に売却することで会社の経営権を譲り渡すことです。会社そのものを丸ごと譲り渡すことになるため、すべての権利義務が買い手に承継されます。
株式譲渡でガソリンスタンドを譲渡すると、すべての権利義務が買い手に移るため、事業譲渡と違って揮発油販売業者の地位も承継される仕組みです。
しかし、株式譲渡によるM&Aでは法人の代表者が変わり、経済産業大臣に変更届を出さなければならないので、この点には注意しておきましょう。
4. ガソリンスタンドのM&Aにおける譲渡価格相場と算出の仕組み
ガソリンスタンドのM&Aによる売却価格の相場はガソリンスタンドの財務状況・店舗数・従業員数などによって異なり、百万円未満~数億円といった具合に幅広い相場が想定されています。
本章では、M&Aでの譲渡価格の算出方法や譲渡価格を決める要素を解説します。
ガソリンスタンドの譲渡価格は個人で算出できるか
ガソリンスタンドをM&Aで譲渡する際の価格は、個人でも算出可能です。一般的に譲渡価格の算出は、以下のような特別な計算手法を組み合わせて金額を導き出します。
- 時価純資産法
- 類似業種比準法
適正な相場を把握したい場合は、M&A仲介会社などの専門家に依頼しましょう。
時価純資産法
時価純資産法では、ガソリンスタンド会社が保有する資産・負債を時価に置き換え、資産から負債を引いた時価純資産額を用いて譲渡価格を算出します。
資産から負債を引いた値を発行済みの全株式数で割って、1株あたりの株価を求める方法であり、ガソリンスタンド会社の事業規模が小さい場合は時価純資産法による評価が大きなウエイトを占めるのが特徴です。
類似業種比準法
類似業種比準法では、同じガソリンスタンド業を営んでいる上場企業の株価をもとに自社の株価を算出します。株価を算出する際は1株あたりの配当金・利益・純資産の要素が用いられ、3つの要素から上場会社と比較して自社の株価を求めます。
株価の評価では、事業規模の大きい会社ほど類似業種比準法が大きなウエイトを占めるため、該当するガソリンスタンドの事業会社がM&Aの譲渡価格を算出する際は、時価純資産法よりも類似業種比準法による評価の比重が大きくなる点を把握しておきましょう。
ガソリンスタンドの譲渡価格を決める要素
ガソリンスタンドの譲渡価格を決める要素には、以下の3つがあります。
- 立地条件
- 利用者の数
- スタッフの充実
立地条件
1つ目の要素は、立地条件です。「承継するガソリンスタンドが幹線道路に面している」「近隣に競合店がない」など、良い立地で事業を運営していれば、譲渡価格が高くなる傾向にあります。
車以外の移動手段がない地域にある場合、ガソリンスタンドの利用が見込まれ、譲渡価格が高くなりやすいでしょう。
利用者の数
2つ目の要素は、ガソリンスタンドの利用者数です。幹線道路や中心街に店舗を構えていても、利用者数が少なければ継続した経営は難しいです。
ガソリンスタンドの利用者数が多ければ安定した経営も見込めるため、M&Aの譲渡価格に反映されて高い価格での売却も期待可能です。
スタッフの充実
3つ目の要素は、ガソリンスタンドで働いているスタッフが充実していることです。ガソリンスタンドの会社・事業を承継するにあたり、新たにスタッフを雇えば、採用のための費用がかかるうえに業務指導も行わなければなりません。
M&Aで売り手側の従業員を引き継いでいれば、雇用対策費もかからず即座に業務を任せられます。ガソリンスタンドのM&Aでは、営業に必要なスタッフを雇用できていることも譲渡価格を決める要素の1つです。
5. ガソリンスタンドのM&Aを成功させるための重要ポイント
ガソリンスタンドの譲渡を有利に進め、成約に導くためには事前の準備が欠かせません。ここでは、2026年以降の市場環境を踏まえた成功のポイントを3つ解説します。
適切な売却タイミングの見極め
ガソリンスタンドの価値は、周辺環境や制度変更に大きく左右されます。近隣での競合出店計画や、自治体による道路整備計画などを踏まえ、収益性が維持できているうちに交渉を開始することが重要です。2025年以降に予定されている補助金制度の変更なども加味し、経営体力が残っている段階での決断が、より高い譲渡価格の実現につながります。
経営状況の透明化と資料の整理
買い手となる企業は、財務諸表だけでなく、地下タンクの検査履歴や土壌汚染のリスク、固定客の構成などを厳しくチェックします。特に、環境リスクに関する資料が整っていないと、デューデリジェンス(資産査定)で大幅な減額や破談を招く恐れがあります。過去の修繕履歴やメンテナンス状況を整理し、いつでも提示できるようにしておくことが信頼獲得の第一歩です。
業界に精通したアドバイザーの選定
ガソリンスタンドのM&Aは、揮発油販売法などの専門的な法規制や、特有の商慣習が絡む複雑な取引です。そのため、一般的なM&A仲介会社ではなく、燃料小売業の知識が豊富で、石油元売り各社との関係性も理解しているアドバイザーに依頼することが推奨されます。2026年以降の業界再編動向に詳しい専門家であれば、最適な買い手とのマッチングが期待できます。
6. ガソリンスタンドのM&Aをする5つのメリット
ここでは、ガソリンスタンドのM&Aを行うメリットを解説します。ガソリンスタンドのM&Aを行うことで、主に以下の5つのメリットを得られる可能性があります。
- 後継者問題の解決
- 従業員の雇用確保
- 地域利用客の利便性の確保
- 個人保証・担保の解消
- 競争によるストレスからの解放
後継者問題の解決
1つ目のメリットは、後継者問題の解決です。経営者の高齢化に伴い事業承継を考えても、親族や従業員に適任者がいなかったり、後継者候補側で株式の取得費用が用意できなかったりなどの理由で、事業承継を行えないケースも少なくありません。
しかし、M&Aでガソリンスタンドの会社または事業を譲渡できれば、譲渡先が経営を引き継いでくれるため、後継者問題の解決が可能です。
従業員の雇用確保
2つ目のメリットは、従業員の雇用を確保できることです。もしも廃業を選択すれば、従業員は解雇しなければならないため、経営者としては心苦しいものです。
M&Aを活用すれば、ガソリンスタンドの譲渡先に自社従業員の雇用を継続してもらえます。事業譲渡を選択した場合でも、雇用契約を結び直すことで雇用は継続されます。
地域利用客の利便性の確保
3つ目のメリットは、地域利用客の利便性の確保です。ガソリンスタンドの少ない地域では、1つ店舗がなくなれば利用者は遠方まで給油に行かなければならないケースが考えられるでしょう。
M&Aによってガソリンスタンドの譲渡を行えば、地域利用客の利便性を確保できます。買い手企業は一定数の地域利用者を確保できるため、承継後の事業計画が立てやすくなるメリットもあります。
個人保証・担保の解消
4つ目のメリットは、経営者の個人保証・担保の解消です。事業承継で親族や従業員へガソリンスタンドの経営を承継しても、負担の大きな個人保証・担保までは引き継いでもらえないケースがあります。
M&Aによる譲渡であれば、譲渡契約に個人保証・担保の解消を条件として盛り込んで金融機関と交渉したうえで買い手に移行されれば、売り手は個人保証・担保が解消されるため、大きなメリットが期待できます。
競争によるストレスからの解放
5つ目のメリットは、競争によるストレスから解放されることです。近隣店舗との価格競争・セルフスタンドとの差別化・燃費の向上による利用者の減少など、ガソリンスタンドを経営するうえでは常にさまざまなストレスがつきまといます。
M&Aでガソリンスタンドを譲渡すれば、競争によるストレスから解放されるので、精神的な安らぎを得る理由でM&Aに踏み切るケースもあります。
7. ガソリンスタンドのM&A事例
本章では、近年実施された主なガソリンスタンドのM&A事例を紹介します。
宇佐美鉱油によるグッドスピードへのTOB
2024年5月、宇佐美鉱油は、グッドスピード(以下「グッドスピード」)の普通株式および新株予約権を公開買付け(TOB)によって取得することを決定し、2024年4月11日から第1回公開買付けを開始していました。公開買付けは2024年5月23日に終了し、成功を収めました。
これに伴い、宇佐美鉱油は、2024年3月1日のプレスリリースで発表したとおり、2024年6月中旬に予定している第2回公開買付けを実施し、グッドスピードの全株式および新株予約権の取得を目指す予定です。
第2回公開買付けでは、対象となる株式1株当たりの買付価格を第1回の722円から850円へと引き上げ、約17.73%の上昇となります。
宇佐美鉱油は、石油製品の販売を行い、宇佐美グループの本部機能を担っています。一方、グッドスピードは、新車・中古車販売、買取、整備・鈑金、ガソリンスタンド、保険代理店、レンタカー事業を展開する企業です。
参考:株式会社グッドスピード株券等に対する公開買付けの開始に関するお知らせ
ウェルビングループによる綿仁のM&A
2022年9月、ウェルビングループは、静岡県沼津市に拠点を置く綿仁株式会社の株式を取得し、子会社化することを決定しました。取得価格はアドバイザリー費用を含めて約2億1,140万円となっています。
ウェルビングループは、車両販売や整備、ガソリンスタンドの運営を行うオート事業をはじめ、不動産事業、マーケティングコンサルティング事業、海外事業などを展開しています。
一方、綿仁は石油製品の販売、自動車の販売・賃貸、整備事業を展開しており、静岡県東部エリアで11店舗を運営しています。
今回のM&Aにより、ウェルビングループは、これまでの北関東エリア(埼玉県・茨城県)での事業展開をさらに広げ、南関東エリアへの進出を目指し、オート事業の成長を加速させる計画です。
参考:綿仁株式会社の株式の取得(子会社化)に関するお知らせ
大和自動車交通による宮園砿油のM&A
2022年5月、大和自動車交通は、宮園砿油との株式交換を通じて、宮園砿油を完全子会社化することを決定しました。これにより、大和自動車交通が親会社となり、宮園砿油がその子会社となります。株式交換の条件として、宮園砿油の株式1株に対し、大和自動車交通の普通株式3.1726株が割り当てられます。
大和自動車交通は、旅客自動車運送事業を展開しており、さらにグループ全体でガソリンスタンド事業、法人向けFCカード事業、不動産事業などを手掛けています。
一方、宮園砿油は、宮園自動車株式会社(東京都中野区)の子会社であり、ガソリンスタンドの運営やFCカード事業、不動産賃貸事業を行っています。
このM&Aにより、大和自動車交通は宮園グループの顧客基盤を取り込み、ガソリン取扱量の増加を目指します。また、不動産事業に関するノウハウを宮園自動車グループに提供することで、さらなるシナジー効果を期待しています。
参考:簡易株式交換による宮園砿油株式会社の完全子会社化に関するお知らせ
8. ガソリンスタンドのM&Aを成功させる5つのコツ
ガソリンスタンドのM&Aでメリットを最大限に獲得するためには、以下のようなコツを把握・実践することが大切です。
- 入念な準備を行う
- 自店舗の強みを洗い出して相手側にアピールできるようにする
- 情報漏えいを防ぐよう注意する
- M&Aまでに業績を上げておく
- M&Aの専門家に相談する
M&Aを成功させるには、スケジュールに余裕を持って準備に取り掛かることが必要不可欠です。M&Aの手続きをスムーズに進めるためには、法務・税務・会計など専門的に高度な知識が求められるため、M&Aの専門家に相談し、サポートを得ることをおすすめします。
9. ガソリンスタンドのM&Aのまとめ
ガソリンスタンド業界は事業環境の変化により廃業・倒産が増えていますが、このような事態を避けるべく今後はM&Aによる譲渡を選ぶ事業者が増加すると考えられます。
M&Aが成功すれば多くのメリットを得られますが、そのためにはガソリンスタンドのM&Aに精通したM&A仲介会社など専門家からサポートを受けることがおすすめです。
ガソリンスタンドのM&Aを行う際は、M&A仲介会社などの専門家に相談し、計画的に進めましょう。
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