医療法人の出資持分譲渡とは?価格算定方法からメリットとデメリットまで解説!

企業情報本部長 兼 企業情報第一本部長
辻 亮人

大手M&A仲介会社にて、事業承継や戦略的な成長を目指すM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、経営者が抱える業界特有のお悩みに寄り添いながら、設備工事業や建設コンサルタント、製造業、医療法人など幅広い業種を担当。

本記事では、医療法人の出資持分や出資持分譲渡の価格算定方法やメリット・デメリットを解説します。最近では、医療法人のM&Aも盛んに行われています。出資持分のある医療法人のM&Aでは、出資持分譲渡が多く利用されている状況です。M&Aを検討している方は必見です。

目次

  1. 医療法人における出資持分
  2. 出資持分あり・出資持分なしの医療法人の違い
  3. 出資持分がある医療法人の譲渡
  4. 出資持分のない医療法人の譲渡
  5. 医療法人の譲渡価格の3つの算定方法
  6. 医療法人の出資持分譲渡のメリットとデメリット
  7. 医療法人の出資持分譲渡は専門家に相談
  8. 医療法人の出資持分譲渡のまとめ
  9. 病院・医療法人業界の成約事例一覧
  10. 病院・医療法人業界のM&A案件一覧
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1. 医療法人における出資持分

近年、M&Aは企業規模を問わず活用されるようになってきており、医療法人でも多くのM&Aが行われています。

医療法人は通常の株式会社とは仕組みが異なるため、M&A実施を検討する場合は出資持分など医療法人の法的性質を十分に理解しておくことが大切です。

出資持分の有無により、医療法人の特徴やメリット・デメリットに違いがあるばかりでなく、M&Aの手法も変わります。

出資持分とはなにか

医療法人には、社団と財団の2種類があります。社団は人の集まりを重視するのに対し、財団は財産の集まりを重視します。社団医療法人は、出資持分の有無により分類可能です。

出資持分とは、設立時の出資者が出資割合に応じて、医療法人からの払戻しや残余財産の分配が可能な財産権であり、相続や譲渡が行えます。持分なし医療法人や財団医療法人には、出資持分の概念はありません。

医療法人の社員とは

医療法人の「社員」は、株式会社の株主によく似た存在です。何名の社員を置くべきかは医療法で決められているわけではありませんが、厚生省のモデル定款では3名以上が望ましいとされています。

実際に都道府県の大半では、社員の数が3名よりも少ない場合、医療法人制度の趣旨を考量すると好ましくないと判断されて指導対象となるケースが多いです。

医療法人には株主総会にあたる「社員総会」と呼ばれる機関があり、これによって定款の変更や理事の選任など重要な意思決定を行います。

社員には社員総会での決議権限がありますが、株式会社の株主と異なるのは拠出の有無および拠出額にかかわらず各人1票の投票権であること、配当は受け取れないことです。

社員になれるのは自然人や営利を目的としない法人に限られており、営利を目的とする法人は仮に出資しても社員にはなれません。

出資持分には払戻請求権がある

出資持分を所有している出資者は、定款の規定により医療法人に対して払戻請求権を有しています。

払戻請求権とは、医療法人が解散したときや出資持分を有している社員が除名・死亡・退社などにより資格を喪失したときに、出資持分の時価に相当する金銭の払戻しを請求できる権利のことです。

出資持分の具体的な払戻金額は、出資持分割合に応じて算定するケースと出資金額を限度とするケースがあり、医療法人の払戻請求時点での純資産額(資産と負債の時価の差益)をベースに算定します。

病院/医療法人の売却・売買については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

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2. 出資持分あり・出資持分なしの医療法人の違い

2007年に医療法が改正されて以降、出資持分がある医療法人は設立できなくなりました。現在あるのは、経過措置型医療法人としての持分あり医療法人です。

持分あり法人は、出資者による払戻しが可能なことが特徴です。出資持分は相続や譲渡ができるので、その際は相続税などが課されます。

これに対して、持分なし法人の場合、払戻しや持分の譲渡や相続はできません。ただし、持分なし法人でも基金拠出型医療法人の場合、基金の出資者は出資額を限度として払戻しを受けられます。

持分あり医療法人は、出資持分を放棄して一定の要件を充足することで、持分なし法人に移行することが認められています。

病院/医療法人の事業承継については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】病院/医療法人の事業承継!ポイントや注意点を解説!成功事例15選も紹介| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

3. 出資持分がある医療法人の譲渡

医療法人を譲渡する場合、出資持分がある医療法人と出資持分のない医療法人では譲渡方法や手続きが異なります。

出資持分がある医療法人の譲渡は「出資持分譲渡」によって行われ、医療法人のM&Aでも多く活用されている状況です。

この章では、出資持分がある医療法人の譲渡をテーマに、必要となる手続きや譲渡時の注意点などを解説します。

必要となる手続き

出資持分がある医療法人を譲渡する場合は、出資持分の譲渡手続きが必要です。出資持分のすべてを買い取って医療法人のオーナーの地位を取得することで、医療法人の法人格および経営権を引き継ぐことが可能です。

出資持分の譲渡に伴い、従前の社員の退社や新規社員の入社の手続きを行い、社員の地位の承継を行います。その際は、旧理事長や旧理事などの旧役員の辞任および新役員の就任など、役員変更も併せて行います。

社員の交代は、持分を譲渡した後に退社する方法と払戻しを受けた後に退社する方法の2種類です。その後、買い手の社員が入社の手続きを行います。

定款変更や社員総会での出資持分譲渡承認決議、各種変更登記申請、定款変更に関する許認可の変更届などの手続きも必要です。

出資持分がある医療法人では、出資持分の譲渡による方法以外に、ほかの医療法人との事業譲渡合併や分割などの方法を選択することも可能です。

出資持分譲渡契約書

出資持分の譲渡を行うには、出資持分譲渡契約書の作成が必要です。出資持分譲渡契約書は、持分の売り手である現オーナーと持分の買い手である新オーナーとで協議して作成します。

出資持分譲渡契約書には、譲渡対価やクロージングの日など、諸条件を調整して決定した事項を記載します。

出資持分譲渡契約書に記載する主な事項は以下のとおりです。

  • 譲渡対象となる医療法人名や譲渡人・譲受人
  • 出資持分の金額
  • 譲渡価格や支払い方法
  • 契約日やクロージング日(受渡日)
  • 受渡条件

出資持分譲渡契約書には、持分の譲渡に関することだけでなく、具体的に社員や役員の変更の時期や方法、不動産や医療機器等の引渡しについても記載が必要です。

定款変更の許認可や登記申請に関すること、従業員の契約の引継ぎなど受渡条件も記載するのが一般的です。

出資持分譲渡契約書の作成は、出資持分譲渡に関する基本事項を協議のうえ基本合意書を締結し、デューデリジェンスを実施して諸条件の調整・決定後に行います。

譲渡時の注意点

出資持分の譲渡手続きは、合併や分割と異なり、医療法上で明確な規定がなされているわけではありません。

とはいえ、出資持分を譲渡するだけでは医療法人を完全に承継できず、社員や役員の交代的変更を併せて行うことが必要です。

スムーズに引継ぎを行うためにも、必要事項の詳細を当事者間で協議し、譲渡契約書に盛り込むことが重要です。

出資持分譲渡の場合、譲渡価格総額を決定し、出資持分の譲渡価格と退職金に割り振ります。

資産から負債を控除した純資産額をベースとして計算し、医療法人の承継が行われるまでの従業員給与や借入金の返済分を残しておけば、税務上の上限範囲内で承継前に退職金として受け取ることが可能です。

退職金で受け取る以外の金額を出資持分の譲渡対価として、出資持分譲渡契約書に記載します。出資持分の譲渡は、所得税法上、譲渡益に対して譲渡所得として課税対象となるため注意が必要です。

事業譲渡や合併の場合は行政の許可が必要となるため、手続きの期間も長くなる点がデメリットにもなりますが、持分譲渡では行政の許可は不要で届け出のみで済むため、手続きの期間が短い点がメリットの1つといえます。

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4. 出資持分のない医療法人の譲渡

出資持分のない医療法人の譲渡では、出資持分譲渡を利用できません。社員の入退社および役員変更を同時期に行い、法人格を承継する手法と事業譲渡や合併、分割の手法などを利用して譲渡することになります。

この章では、出資持分のない医療法人の譲渡をテーマに、必要となる手続きや譲渡時の注意点などを解説します。

必要となる手続き

社員の入退社および役員変更を同時期に行って法人格を承継する場合は、買い手側から理事長や理事・監事などの新しい役員を就任させるタイミングで社員として入社の手続きを行います。この場合、売り手側の旧役員は辞任し、旧社員は退社の手続きが必要です。

譲渡対価は、出資持分譲渡のように当事者間で直接やり取りできないので、医療法人からの払戻しを受けたり、退職金の支払いを受けたりして調整します。

ただし、医療法人の退職金は税務上の上限額が決まっているので、退職金の支払いで不足分がある場合は顧問料を追加で受け取る形です。

この方法以外に、出資持分のない医療法人の譲渡では、事業譲渡や合併・分割の手法を選択できます。基金拠出型の医療法人の場合には、基金拠出者の地位の譲渡をすることが可能です。

譲渡時の注意点

事業譲渡の場合、医療法人の法人格を承継するわけではないので許認可は承継できません。そのほか、営業権(のれん)の評価が難しい点、不動産や機材の承継を伴う場合は法人税や消費税が課される点などにも注意が必要です。

なぜ医療法人の営業権(のれん)の評価が難しいのかというと、営業権(のれん)の実態を超過収益力と捉えて、医療法人の将来性や従業員の能力、集客力などの無形資産を評価しなければならないためです。

合併や分割の方法を選択する場合は手続きもより煩雑になるため、専門家のサポート下で進めていくとよいでしょう。

病院・医療法人のM&Aについては下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】病院・医療法人のM&A(売買)動向!特徴や手法、価格相場、成功させるポイントを解説【最新事例あり】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

5. 医療法人の譲渡価格の3つの算定方法

医療法人の譲渡価格は、1,000万円未満のケースがある一方で、1億円を超えるケースもあります。医療法人の譲渡価格も、株式会社同士のM&A同様に、当事者間で協議して決定します。医療法人の譲渡価格の算定方法は主に以下の3種類です。

  1. 純資産価額方式
  2. 収益還元方式(DCF方式)
  3. 取引事例比較方式

1つ目の純資産価額方式は、純資産価値(資産と負債の時価を算定した差益)に、営業権価値(のれん代)を加算して算出する方式です。

のれん代とは、対象の医療法人が有する将来性や最新医療器具設備、従業員の能力、集客力、立地の利便性などの無形資産を評価した金額です。

2つ目の収益還元方式(DCF方式・ディスカウントキャッシュフロー方式)とは、事業計画に基づく将来の収益性を盛り込んだキャッシュフローの数年分を予測して算出する方式をさします。

3つ目の取引事例比較方式とは、実際に行われたM&A取引の事例を参考にして、適切な類似事例と比較したり、いくつかの買収事例の平均価格を用いたりして算出する方式です。

各算定方式には、メリット・デメリットがあります。譲渡価格の算定はどの算定方式を採用してもよいですが、どの方法で算出しても医療法人の規模や状態で譲渡価格は異なります。

病院・医療法人のM&A・買収・売却については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【関連】病院・医療法人のM&A・買収・売却!価格相場やスキーム・手法を解説!【成功事例あり】| M&A・事業承継ならM&A総合研究所

6. 医療法人の出資持分譲渡のメリットとデメリット

医療法人の出資持分譲渡には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。これらを考慮する際は、譲渡する際の出資持分の時価評価と将来の払戻請求権の2点から検討する必要があります。

自身が売り手側なのか買い手側なのかによっても変わってきます。医療法人の出資持分譲渡を検討している際は、メリットだけでなくデメリットにも目を向けて検討することが大切です。この章では、医療法人の出資持分譲渡のメリットとデメリットを解説します。

メリット

医療法人の出資持分譲渡を行う場合、買い手側は出資持分に基づく将来の払戻請求権行使によって期待利益を見込むことが可能です。

今後は出資持分のある医療法人を設立できないため、持分ありの医療法人を求めている買い手にとっては存在そのものに価値がある場合もあります。

売り手側にとっても、将来の払戻金を期待した買い手候補や持分ありの医療法人を希望する買い手が見つかる可能性がある点がメリットです。

出資持分譲渡では医療法人のあらゆる権利義務を包括的に承継するので、スムーズに行えて手続きが簡便であることなどもメリットとして挙げられます。

行政手続きも、原則として保健所・法務局・税務署などへの所定の届け出のみで済むので、不動産・医療機器・従業員との契約・患者との契約・カルテなどを引き継げば、診療をすぐに再開できます。

買い手は売り手に支払う役員退職金を適正な金額であれば経費に算入できるので、法人税を節税可能です。

デメリット

出資持分の譲渡金額にはメリットが多いですが、デメリットも十分考慮しておくことが大切です。医療法人の持分譲渡では、純資産額をベースとして時価評価されるので取引価格は高額になりやすいです。

医療法人は他業種と比較して利益率が高く、配当も認められていないので、内部留保が貯まりやすくなります。その結果として時価純資産が増えてしまい、これも出資持分の評価額が上がる要因です。

持分あり法人には希少価値があることもあり、譲渡金額が高騰する事例も多いです。買い手側としては、高額な譲渡金額を用意しなければならないことがデメリットといえます。

出資持分の譲渡金額が高額になれば、買い手側では資金調達が必要となるケースもありますが、金額によっては金融機関から融資を受けるのが難しいです。

出資持分譲渡に関するデメリットとして、医療法人の法人格をそのまま承継するので、譲渡後に偶発債務や簿外債務が発覚するリスクも挙げられます。

病院/医療法人の事業譲渡・売却の手続きやメリット・デメリット、動向については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

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7. 医療法人の出資持分譲渡は専門家に相談

医療法人のM&Aは特殊な部分が多く、医療法人の出資持分譲渡を進めるためには、M&Aだけでなく法律や税金などの知識と煩雑な手続きも必要です。

医療法人の出資持分譲渡を検討している場合は、M&A仲介会社など専門家に相談することをおすすめします。

M&A総合研究所は、主に中小・中堅規模のM&Aを扱うM&A仲介会社で、さまざまな業種で成約実績を有しています。

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当社の料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。

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8. 医療法人の出資持分譲渡のまとめ

医療法人の譲渡を検討する場合、まず出資持分を十分に理解し、どのようなメリット・デメリットがあるかを知っておくことが大切です。

M&Aは、どの専門家にサポートを依頼するかによっても、M&Aの成否に大きく影響します。中でも、医療法人のM&Aは一般企業のM&Aに比べて専門性が高いため、なるべく早い段階からM&A仲介会社などに相談してサポートを得ながら進めましょう。

9. 病院・医療法人業界の成約事例一覧

10. 病院・医療法人業界のM&A案件一覧

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