2025年08月24日更新
M&Aにおける株式譲渡の税金対策|家族間・親子間の株式譲渡のメリット・デメリットと手続きを解説
M&Aにおいて株式譲渡は、会社経営の承継に欠かせない手法です。特に家族間や親子間での株式譲渡は、事業承継対策として多く利用されています。本記事では、M&Aにおける株式譲渡の税金や手続き、メリット・デメリットについて詳しく解説します。
目次
1. M&Aにおける株式譲渡とは?
M&Aにおける株式譲渡とは、企業の合併や買収に伴い、株式の所有権を移転させる取引のことです。経営権の移転や事業拡大、事業承継など、様々な目的で活用されます。特に家族間や親子間では、事業承継の手段として株式譲渡が選ばれるケースが多く見られます。
家族間・親子間での株式譲渡では、一般のM&Aにおける株式譲渡と異なる点があるのでしょうか。
家族間における株式譲渡の種類と特徴
家族間での株式譲渡は、主に「相続」「贈与」「売買」の3つの方法があります。相続は被相続人の死亡に伴い株式が承継される方法、贈与は無償で株式を譲り渡す方法、売買は対価を支払って譲渡する方法です。それぞれ手続きや税金面で異なる特徴を持つため、状況に応じて最適な方法を選択する必要があります。
相続
相続は株式譲渡とは違い、経営者の遺言で親族の誰かへ株式を相続します。遺言書を作るとき、経営者は後継者との協議や相続の取り決めを前もって行わなければなりません。
相続の準備ができていなければ、後継者以外の法定相続人へ株式が相続されるなどして経営権が渡せないこともあります。少なくとも株式の過半数を引き渡せなければ、経営への影響力が弱まるでしょう。相続する資産に株式があるときは、早めに準備を行いましょう。
贈与
一般的に、家族間で株式をやり取りする場合、後継者の親族へ無償で株式を譲渡する贈与を実施します。株式を買う資金がいらないので、譲受側の負担が少なくなります。
相続では、経営者が亡くなった後に株式を相続しますが、贈与は経営者が生存していても可能です。つまり、経営者のタイミングで株式の引き渡しや事業承継ができます。贈与には贈与税がかかるので、株価対策を行い、プランを立てて贈与を行いましょう。
株式売買
家族間の株式譲渡でも株式売買の方法をとることがあります。株式売買を実施する際は、譲受側は株式価格に応じた資金を用意する必要があるので多くの資金力が要るため、資金がある後継者にのみ株式の譲渡が可能、ともいえます。
役員報酬を与えるなどして資金を用意させると、他の候補者に対する差別化になり、相続における遺留分の問題から株式を除することも可能なので、スムーズな相続となるでしょう。
株式売買による譲渡では、信頼できて資金力のある後継者へ株式を譲渡できるため、経営者が望む事業承継を実施しやすいです。
家族(親子/孫)間では株式贈与が一般的
M&Aや事業売却など第三者との株式譲渡では、売却の形式をとり、対価と引き換えに株式譲渡を行うのが一般的です。しかし、親子間や孫への譲渡など、家族間での株式譲渡を行う場合は、株式贈与の形で行われるのが一般的でしょう。
売買と贈与の違い
株式を引き渡す場合、売買と贈与の形式がありますが、売買と贈与では何が異なるのでしょうか。
いずれも保有する株式の所有権を他者に渡す手段ですが、売買は対価と交換で株式譲渡を行うのに対し、贈与は対価を必要としません。この違いが、課される税金などが異なる点に直結します。
2. 生前贈与による株式譲渡のメリット・デメリット
親子間などの家族間で自社株の株式譲渡を行う場合、売買や贈与など、どのような形で引き渡すのが良いのでしょうか。基本的には、家族間の株式譲渡は生前贈与を利用して行うことをおすすめします。その理由を、見ていきましょう。
事業承継でも、生前贈与が得になるケースが多いです。事業承継に関するまとめは、下記リンクも参考にしてください。
生前贈与のメリットとは?
将来の相続税対策として有効です。生存中に計画的に株式を移転できるため、承継リスクを軽減できます。一定額までは贈与税が非課税となります。
生前贈与のデメリットと注意点
贈与後3年以内に贈与者が亡くなった場合、相続財産として課税対象となる可能性があります。株式の分散による経営への影響を考慮する必要があります。
生前贈与のデメリットを防ぐ方法
生前贈与のデメリットを防ぐためには、どのような方法があるのでしょうか。一つは、事前に計画を立てて長期間での贈与を行うことで、被相続人が亡くなる3年以上前に贈与を終了させる方法が挙げられます。
もう一つは、法定相続関係にない孫などに贈与を行っておくことです。生前贈与が相続としてみなされるのは、共同相続人の間で贈与がある場合なので、相続関係にない個人に対して生前贈与を行うことで、デメリットを防げます。
遺贈のメリット
遺言書によって贈与を行うことを遺贈といいます。遺贈で株式譲渡をすることも可能で、そのメリットは、複数の相続人がいる場合、与える割合を指定したり、他の財産と株式を振り分けたりするなど、被相続人の考えを反映した分割を法的に行える点です。
遺贈の注意点(デメリット)
遺贈のデメリットは、遺言書による指定が必要であり、法令で定められた所定の形式が求められる点です。ミスがあれば無効となる可能性もあり、その場合は法律に沿った分割となってしまいます。
相続人がその権利を放棄することが可能で、その場合、他の相続人間で相続争いなどが発生する可能性があることもデメリットといえるでしょう。
自社株の株式譲渡に関するお悩みは、M&A総合研究所へご相談ください。M&A総合研究所は多くの中小企業におけるM&Aに携わっており、事業承継の相談も数多く承っています。経験や知識の豊富なM&Aアドバイザーが親身になって案件をフルサポートします。
料金体系は、成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を行っていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
3. 民事信託を活用した株式譲渡
生前贈与や遺贈とは別に、民事信託により自社株を贈与する手段もあります。この章では、民事信託の概要について見ていきましょう。
民事信託とは
民事信託とは、受託者が特定の人に対して、営利目的ではなく、また継続しない前提で引き受ける信託のことです。一般的に市場に出回っている「投資信託」などとは違い、自社株など財産の移転や処分を含めた管理について、家族間で行うことが前提となっています。
家族(親子/孫)間でも自社株信託は可能
民事信託を活用することで、柔軟な資産管理と承継を実現できます。受益者を指定することで、経営権の維持と円滑な事業承継を両立することが可能です。
これにより、被相続人が保有する自社株を誰に管理させるのか、またどのように利用されるべきなのか、をあらかじめ決定できます。その後における財産承継に関して、受託者が中心となって生前から話し合えるので、遺産相続も詳細に決定できる点がメリットです。
4. 株式譲渡にかかる税金の種類と計算方法
株式譲渡には、贈与税、譲渡所得税(所得税と住民税)、相続税など、様々な税金が関わってきます。株式の評価額や譲渡方法によって、課税額が大きく変動するため、事前に税理士等専門家への相談をおすすめします。
生前株式譲渡(贈与)にかかる税金
生前贈与に対してかかる税金としては、贈与税、譲渡益課税(所得税+住民税)が挙げられますが、非課税となる枠もあります。概要を解説します。
非課税
生前贈与は贈与税の対象となりますが、年に110万円までは非課税です。毎年110万円に満たない範囲で財産を贈与していく場合、税金は発生しません。
贈与税
生前贈与における贈与金額が年間110万円を超えた場合は、贈与税の課税対象となり、累進課税により税率が決定されます。仮に贈与が「みなし贈与」と認定された場合、税金が大きく増加することがあるため留意が必要です。
みなし贈与では、譲渡人や譲受人のどちらかに譲渡した認識がなくても、贈与があったものとみなして課税されます。例えば、相場より非常に低い価格で株式などを子供に売却した場合、その時価と譲渡価額との差額を贈与分とみなされるでしょう。
上記の場合、通常であれば税金がかからない部分に対し、高税率の贈与税が課されるため、税金が非常に大きくなってしまいます。低価格での株式譲渡を行う際は十分に注意しましょう。
譲渡益課税(所得税+住民税)
株式を売買により譲渡し譲渡益がある場合は、譲渡人に対して所得税15%、住民税5%、合計20%の税金が課税されます。なお、2037(令和19)年までの時限措置として、復興特別所得税0.315%が加わるので、その間における合計税率は20.315%です。
株式譲渡(相続)にかかる税金
相続による株式譲渡にかかる税金は、相続税、譲渡益課税があります。
相続税
相続によって株式譲渡が発生した場合は、相続の金額に対して相続税が課税されます。
譲渡益課税(所得税+住民税)
株式を相続によって取得し、その後売却した場合は、譲渡益に対して課税され、譲渡益は譲渡によって得た対価から取得価額を差し引くことで計算されますが、この取得費に相続税額を加算することが可能です。
これは、相続税に加え譲渡益に対して課税されることで税負担が過剰になることを防ぐための制度で、特に相続税を支払うために売却を行う場合に、利用する意味があります。
5. 生前贈与による株式譲渡の手続き
具体的に、親子間などの家族間で生前贈与により株式譲渡を行う場合は、どのような手続きが必要なのでしょうか。
株式の評価額は最も安価な評価
生前贈与では、年間110万円までの範囲が非課税となるため、株式の評価額が重要です。株式の評価額は、上場株式の場合、贈与される日の最終価格、贈与される月内の①✕日数の平均価格、贈与される前月内の①✕日数の平均価格、贈与される前々月内の①✕日数の平均価格のいずれか最も安価な評価で決定されます。
それぞれどのように計算されるのか見ていきましょう。
贈与される日の最終価格
まずは贈与される日の最終価格を調べます。ここで使用される最終価格は、その株式を取り扱っている金融商品取引所が公表する価額を採用されます。
贈与される月内の①✕日数の平均価格
第2に、贈与される月の最終価格における平均をとります。これも、株式を取り扱っている金融商品取引所が公表する価格を使用します。
贈与される前月内の①✕日数の平均価格
第3に、贈与される月の前月におけるマーケットの最終価格における平均をとります。これも、株式を取り扱っている金融商品取引所が公表する価額を使用します。
贈与される前々月内の①✕日数の平均価格
最後に、贈与される月の2カ月前におけるマーケットの最終価格における平均をとります。これも、株式を取り扱っている金融商品取引所が公表する価額を使用すします。
これら4つの価格を比較し、最も低い価格が株式の価格です。この価格における評価は、銘柄ごとに1株単位で行います。
贈与契約書の作成
価格が決まった後に、贈与契約書を作成します。贈与契約は、贈与者と受贈者の合意があれば口頭でも成立します。しかし、相続などが発生する可能性がある場合は、相続税の計算にも使用する可能性があるため、契約書を作成しておくことが必要です。
贈与契約書の形式は特に決まりはありませんが、最低限、贈与者と受贈者の氏名、贈与に対する意思、贈与日、贈与対象、贈与の方法などを記載する必要があります。それぞれについて見ていきましょう。
贈与者と受贈者の氏名
贈与契約では、贈与者と受贈者がいますが、それぞれが誰なのか明記します。これは後に相続などが発生した場合の計算でも重要であるため、記載が必要です。
贈与に対する意思を明記
次に、贈与に対する意思を明記する必要があります。贈与契約は、贈与者と受贈者の意思と合意によって成立するため、契約の要件を満たしたかどうかを確認するためにも、贈与に対する意思の明記が必要です。
贈与日の記載
次に、「いつ贈与をするのか」といった贈与日の記載が必要です。贈与日の設定は、先述のとおり、贈与されたものの価格を設定するために非常に重要な役割を果たしています。相続における税務調査などの際に、贈与がいくらだったのかを証明するため、必ず贈与日を記載しましょう。
贈与する株式
贈与するものは何か、も明記する必要があります。贈与価格を決定する場合に、モノが明確でなければそれを判断できません。贈与日の記載と同様に、贈与する対象の株式はどれで、数量は何株なのかを明記しましょう。
贈与する方法
最後に、贈与する方法を記載する必要があります。これら5つの記載がないと、贈与契約書を作成しても公正なものと認められない場合があるため必ず含めましょう。
なお、贈与する方法として、贈与をした証拠が残るように、金銭であれば銀行振り込み、株式であれば取引所できちんと贈与の証跡を残してもらうなどの対策をとることが重要です。そうすれば、贈与があったことを証明できます。
6. 相続による株式譲渡の手続き
親子間などの家族間で相続により株式譲渡が行われる場合の手続きとして、遺産分割、名義書換が必要です。
遺産分割
株式を相続するためには、まず遺産分割協議を行い、「遺産分割協議書」の作成をします。遺産分割協議書は、形式として決まったものはないものの、被相続人の名前、相続日、協議した相続人、および相続財産の処分内容を具体的に記載してください。
名義書き換えを行う
遺産分割協議書をベースに、株券発行会社に相続があった旨を届け出て、名義書換の手続きを行います。
この手続きは基本的には会社が委託している株主名簿管理人が行います。株主名簿管理人は、信託銀行や証券代行会社であることがほとんどです。ただし、株券が保護預かり口座に入っている場合は、株券を出庫して名義書換を行うか、証券会社をつうじて出庫せずに名義を書き換える場合もあります。
7. 売買による株式譲渡の手続き
対価を支払い、売買の形で親子間などの家族間で株式譲渡を行う場合、特別な手続きは必要なのでしょうか。売買による株式譲渡は、親子間などの家族間だからといって特別な手続きは必要なく、一般的な株式譲渡と同様の手続きを取ります。
8. 事業承継税制の活用
事業承継税制を活用することで、贈与税や相続税の納税猶予や軽減措置を受けることができます。要件を満たす必要があるため、事前に確認しておきましょう。2025年4月1日以降、事業承継税制の特例措置が拡充されています。
9. 専門家への相談の重要性
M&A、特に株式譲渡は複雑な手続きと税務が伴います。最適な方法を選択し、リスクを最小限に抑えるためには、M&Aアドバイザーや税理士などの専門家への相談が不可欠です。専門家のサポートを受けることで、スムーズかつ安全な株式譲渡を実現できます。
10. 株式譲渡におけるデューデリジェンスの重要性
デューデリジェンスとは?
M&Aにおけるデューデリジェンスとは、買収対象企業の財務状況、法務状況、事業状況などを詳細に調査するプロセスです。株式譲渡においては、譲渡対象となる株式の価値を適正に評価し、潜在的なリスクを洗い出すために不可欠な手続きです。
デューデリジェンスの目的
デューデリジェンスの主な目的は、以下のとおりです。
- 買収価格の決定:デューデリジェンスの結果に基づいて、適正な買収価格を算定します。
- リスクの特定:財務リスク、法務リスク、事業リスクなど、買収に伴う潜在的なリスクを特定します。
- 交渉材料の獲得:デューデリジェンスで発見された問題点を交渉材料として活用し、より有利な条件で取引を進めることができます。
デューデリジェンスの種類
デューデリジェンスには、財務デューデリジェンス、法務デューデリジェンス、事業デューデリジェンスなど、様々な種類があります。それぞれの専門家が、それぞれの分野における調査を行います。
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