2022年06月01日更新
日本企業はM&Aが下手?海外M&Aは日本企業が世界一?
海外展開などに向けて大型案件を含め積極的にM&Aを実行している日本企業ですが、巨額ののれんの減損を計上するケースもあり、海外勢に比べてM&Aが下手なのではないかという見方もあります。なぜ日本企業はM&Aが苦手なのでしょうか?背景も含めて解説します。
1. 日本企業はM&A・買収が下手
日本企業は、1990(平成2)年以降からM&Aを積極化してきましたが、当初は国内企業同士(IN-IN型)のM&Aが中心でした。
近年では、海外事業への足掛かりとしてM&Aを積極的に実行している経営者も多く、件数、金額ともに国内企業から海外に対してM&Aを仕掛ける例(IN-OUT型)が増加傾向です。
一方、東芝がM&Aを行ったウエスチングハウス(WH)の減損や、日本郵政によるオーストラリアの物流子会社のM&Aとそののれんの減損など、当初想定したシナジーどころか多額の費用を結果として計上してしまう失敗事例も多くあり、「日本企業はM&A・買収が下手」ともいわれています。
なぜ日本企業はM&A・買収が下手といわれてしまうのでしょうか。要因としては、社内人材の不足やポストM&Aにおける統合の失敗、独特な日本型人事システムや文化的な問題などがあります。
M&Aが下手な要因①:社内人材の不足
日本企業はM&A・買収が下手といわれる要因の一つに社内人材の不足があります。将来有望な新興企業をさまざまな企業の中から発見して、その会社を適切な方法で買収する知識・能力を持つ人材が日本企業には少なく、買収を成功させるためには外部の専門家を雇う必要があるのが現状です。
一方、そのような能力を持つ専門家を雇うためには、CEOの報酬を超えるコストを支払う必要もあるため、多くの日本企業はこのコストを十分にかけず、社内の人材で賄ってしまうことによって、買収対象企業の目利きが不十分なままM&Aを実行し、失敗するケースがあります。
M&Aが下手な要因②:統合失敗
2つ目の要因は、ポストM&Aでの事業統合に失敗する例が多いことです。
特に、大手企業が実行するM&Aにありがちな話ですが、例えば新しい技術を求めてスタートアップ企業のM&Aを行った後、創業者に対して大手企業の人事システムやルールを押し付け、結果としてスタートアップ企業の経営陣が早期に会社を去ってしまい、当初想定していたシナジーが出せなくなってしまう事例があります。
給与などの待遇面も同様です。例えば、30代のスタートアップ企業の経営者に対し、社内の同年代と同等にとどまる賃金を支払っていれば、経営者は納得いかずにすぐに会社を去ってしまうでしょう。
また、新たな親会社の経営陣がスタートアップ企業に入り込み、社内の秩序を崩してしまうと、既存の人材が離れてしまうこともあります。
M&Aが下手な要因③:日本型人事システム
また、日本型の人事システムが障害となる場合もあります。日本企業は、年功序列で昇進する企業が多く、このためにオープンイノベーションには消極的です。これは株主からのプレッシャーが少ないことや、オープンイノベーションを促す税制などがないことも要因ではありますが、そのためM&Aにもあまり積極的ではありません。
このように、日本型人事システムが障壁となり、積極的なM&Aや、イノベーションの浸透がなかなか達成されず、結果としてM&Aの失敗につながっているものと推察されます。
M&Aが下手な要因④:文化的問題
日本の文化的背景により、M&Aを積極的に行ってこなかった点も、日本企業がM&Aが下手な要因の一つになります。
日本人は元来、農耕民族であり、コツコツと事業を作り上げていく経営者が多くいる一方、ある程度育て上げたら大企業に売るという手段を選択肢に入れている経営者は、欧米と比較して少ない状況です。
したがって、欧米と比較してM&Aの歴史が浅く、M&Aに慣れていないため、日本企業は相対的にM&Aの失敗が多くなっています。
M&Aが下手な要因⑤:ハゲタカファンドのイメージ
かつて日本国内ではM&Aにネガティブなイメージが根強く、現在も業績拡大の手段として受け入れにくい点が残っていることも要因の一つです。
2000(平成12)年代には、外資系ファンドなどにより日本企業がM&Aの対象となる事例が相次ぎ、「敵対的買収」として報道されましたが、この「ハゲタカファンド」のイメージが強く、そもそも業績拡大の手段としてのM&Aをネガティブにとらえる経営者もいることがM&Aの浸透を妨げています。
M&Aが下手な要因⑥:お金の話題のタブー視
また、そもそもお金を話題にすることそのものが日本でタブー視されているという点もM&Aを拡大しにくくする背景の一つです。日本ではコツコツと事業を積み上げて拡大していくことが美徳とされる文化があり、ゼロから起業する大変さをお金で解決するといった発想に対して背徳感があります。
こうした文化的背景が、お金を出すことで比較的早く事業を拡大する手段であるM&Aの拡大を妨げ、日本企業がM&A下手となった一因だといえるでしょう。
2. 日本企業の2019年海外M&A動向
M&A下手といわれる日本企業ですが、特に海外展開の加速という観点からM&Aは積極的に活用が進んでいます。少子高齢化の進行に伴い、日本の国内市場が縮小していく中、企業にとって生き残りをかけて行われる戦略であると言い換えることもできるでしょう。
こうした背景に伴い、足元のM&Aの実行金額は増加傾向にあり、2018(平成30)年に日本企業が実施した海外M&Aの総額は世界一となりましたが、直近の2019(令和元)年では日本企業による海外M&Aの総額はどのように推移したのか、また他国のM&Aはどのような状況にあるのか振り返ります。
日本企業による海外M&Aの推移
日本企業と海外企業とのM&Aは、クロスボーダーM&Aとも呼ばれます。このクロスボーダーM&Aには2種類があり、それは日本企業が海外企業をM&Aする「IN-OUT型」と、海外企業が日本企業をM&Aする「OUT-IN型」です。
日本企業による海外M&Aの推移は、リーマンショックや欧州金融危機の時期に減少に転じたものの、2014(平成26)年からは増加傾向にあり、日本国内の景気回復・好業績を背景に、日本企業が海外展開に向けてM&Aを積極化していることが見て取れます。
こうした海外M&Aの増加の背景としては、日本市場が少子高齢化に伴い、縮小傾向にあることです。そのため、これまでは内需型の産業であった生命保険会社なども、海外M&Aを積極的に実行・検討しています。
特に近年の傾向としては、AI・IoTの普及を背景に、人工知能(AI)やビッグデータなどの情報技術(IT)を扱う企業へのM&Aが増加しているほか、サービスに関連する事業の強化を狙った案件が多いことも特徴です。
他国のM&A事情
他国の状況を見ると、近年では中国企業によるM&Aが活発でした。欧米の企業を対象に、コア技術を狙った買収を繰り返し実行し、欧米の政府から規制がかけられる場面もあったほどです。
しかし、足元の中国企業による海外M&Aは減少しています。これは、中国企業が海外M&Aを実行する際には、中国元を売り外貨に変換したうえで買収を行うため、資本が流出することを中国政府が懸念したためです。このため、中国企業による海外M&Aは2017(平成29)年に前年比42%の1,214億ドル(約13兆円)と大きく減少し、以後もそのまま減少傾向にあります。
これに対し、日本企業による海外M&Aの金額規模は、2018年に過去最高の約19兆365億円、2019年で約10兆3千億円です。成立するM&Aの内容によって金額の上下はあるでしょうが、成立件数は続伸状態にあり、今後も年間10兆円規模以上で推移すると予想されます。
なお、中国企業のM&Aについては、直近の事例も含めてまとめた以下の記事もご参照ください。
M&Aのご相談はM&A総合研究所まで
公表されているM&Aは上場企業関連のものばかりです、実際には非上場の中小企業でも積極的にM&Aは行われています。
今後は中小企業においても、海外企業をM&Aしたり、逆に技術や開発力が注目されて海外企業からM&Aを受けたりするケースも増えてくると考えられます。
M&A総合研究所は、中小企業のM&Aパートナーとして経営者をサポートしています。M&Aの豊富な知識と経験を持つアドバイザーが、理想的なM&A実現に向けフルサポートを行います。
当社は完全成功報酬制(※譲渡企業のみ)となっております。無料相談はお電話・Webより随時お受けしておりますので、M&Aをご検討の際はお気軽にご連絡ください。
3. 2019年日本企業による海外M&A金額ランキング
それでは、直近2019年の日本企業による海外M&A(IN-OUT型)は、どのような案件があったのでしょうか。金額の大きい順にベスト3を紹介します。
2019年日本企業による海外M&A金額ランキング第1位
2019年の日本企業による海外M&A金額ランキング1位は、アサヒグループホールディングスがベルギーのAnheuser-Busch InBev SA/NV グループが保有するオーストラリアでのビール製造販売およびその関連事業(以下、ビール事業)の買収です。
このオーストラリアでのビール事業は関係する会社の数が123社にもおよぶもので、アサヒグループホールディングスはそれら全社の全株式を取得しています。そして、このM&Aの総費用は約1兆2,096億円です。
国内ビール市場は現状以上の拡大は望めず、シェア争いを続けるしかありません。アサヒグループホールディングスは長中期的な経営方針として、ビール事業を国際展開し拡大を図っていくのが既定路線です。
今回買収されたAnheuser-Busch InBev SA/NV グループのオーストラリアでのビール事業は、「Great Northern」や「Carlton」などオーストラリアでもトップクラスのビールブランドを抱えています。
アサヒグループホールディングスとしては、すでにオーストラリアにおいてもビール事業を順調に展開していますが、同等規模の事業展開をしているグループ企業を傘下に加えることで、オーストラリアでのビール市場において抜きんでた存在となることを目指すM&Aです。
2019年日本企業による海外M&A金額ランキング第2位
2019年の日本企業による海外M&A金額ランキング第2位は、ソフトバンクグループによるアメリカのThe We Companyへの出資拡大です。純粋なM&Aとは異なりますが、ソフトバンクグループおよびその子会社が出資するThe We Companyに対して、膨大な額の追加出資が行われるためランキングしました。
そして、その追加出資額は約1兆308憶円です。その内訳は、約5,426億円が新規資金調達として、約3,255億円がThe We Company既存株主に実施する株式公開買い付け用資金として、約1,627億円が既存の資金コミットメントになります。
The We Companyは、コワーキングスペースサービス「WeWork」を手掛けている会社です。ソフトバンクグループとしては、これまでも成長戦略としてきた得意の大型M&Aによる業績拡大の一手でしたが、この出資については失敗だったのではないかと指摘される渦中にあり、今後の成り行きが内外から注目を集めています。
2019年日本企業による海外M&A金額ランキング第3位
2019年の日本企業による海外M&A金額ランキング第3位は、三菱UFJ銀行によるドイツの大手銀行DZバンクの子会社DVBバンクが持つ航空機ファイナンス関連事業の買収です。買収額は発表当初は約7,000億円とされていましたが、最終的な合意実施額は約4,800憶円となりました。
なお、買収実施にあたっては、三菱UFJ銀行の持ち株会社である三菱UFJフィナンシャル・グループの持分法適用会社となる東銀リースも、三菱UFJ銀行とともに出資し事業承継者に加わり、事業基盤や従業員などを全てそのまま引き継いでいます。
そして、実際の航空機インベストメントマネジメント事業と航空機資産管理事業は、東銀リースが主体を持って運営していく予定です。三菱UFJフィナンシャル・グループとしては、航空機ファイナンス事業をグループ全体の成長戦略を担う柱の一つとして企図しています。
4. 日本企業のM&Aまとめ
日本企業はM&Aが下手といわれていますが、そこには文化的な背景や人材の不足などの要因がありました。一方、日本市場が今後、少子高齢化に伴って縮小していく中、生き残りや事業承継といった観点から、M&Aという経営戦略はますます重要な選択肢となっていくことが推察されます。
しかし、日本企業の中にはM&Aを成功に導く人材が不足しているため、M&Aに対して適切な目利きをすることが非常に難しく、M&Aアドバイザリーなどを有効活用することがM&Aの成功に向けては必須といえるでしょう。
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