2020年10月27日更新
株式交換の適格要件とは?適格要件の税制改正に関しても解説!

株式会社日本M&Aセンターにて製造業を中心に、建設業・サービス業・情報通信業・運輸業・不動産業・卸売業等で20件以上のM&Aを成約に導く。M&A総合研究所では、アドバイザーを統括。ディールマネージャーとして全案件に携わる。
平成28年度・29年度・31年度に税制が改正され、株式交換の適格要件にも変更点が出ています。本記事は株式交換の適格要件と、適格要件の税制改正について詳しく解説するものです。また、株式交換後の親会社・子会社・株主にかかる税金についても説明します。
1. 株式交換の適格要件とは
株式交換の適格要件とは、税制上の優遇が受けられる「適格株式交換」として認められるために必要な条件のことです。条件はいくつかあり、親会社が子会社の株式を何パーセント保有しているかなどによって、満たすべき条件が変わります。
適格要件を満たさなくても株式交換をすることは可能ですが、その場合は「非適格株式交換」となり、税制上の優遇が受けられなくなるのを覚悟せねばなりません。
株式交換とは、企業の株式を100%取得して、完全子会社にするためのM&A手法の1つであり、上図はそのイメージ図です。
子会社の全株式を手に入れる対価として、親会社は自社の株式や現金などを子会社の株主に譲り渡します。株式交換での対価は基本的に株式であるため、現金を用意しなくても会社を買収できるのが利点です。
適格要件と非適格要件とは
株式交換において、適格要件以外に非適格要件という用語が出てきます。では、適格要件と非適格要件は何が違うのでしょうか。
非適格要件とは、適格要件を満たしていないという意味です。つまり、適格要件を満たさない株式交換は全て非適格株式交換となり、非適格要件という要件が存在するわけではありません。
2. 株式交換の適格要件と非適格要件の税制処理の違い
株式交換は、適格要件を満たしているかどうかによって税務処理が異なり、適格要件を満たしている方が税制上優遇されるのは前述したとおりです。
適格株式交換と非適格株式交換では、親会社や子会社だけでなく、子会社の株主の税金も変わってくる場合があります。
そのため、株式交換を行うときは、適格要件と非適格要件の税務処理の違いを理解しておくことが重要です。具体的な違いについては、後の章で詳しく解説します。
3. 株式交換の適格要件の条件まとめ
株式交換の適格要件の条件は、「完全支配関係」「支配関係」「共同事業目的」のそれぞれの場合に対して、下表の丸印の要件を満たさなくてはなりません。
適格要件には「完全支配関係の継続もしくは支配関係の継続」「株式以外の不交付」など7種類があります。
完全支配関係の要件が一番少なく、次が支配関係、最も要件が多いのが共同事業目的です。
この章では、3種類の支配関係と7種類の適格要件について1つずつ詳しく解説していきます。
【株式交換の適格要件の条件】
適格要件 | 完全支配関係 | 支配関係 | 共同事業目的 |
完全支配関係の継続、もしくは支配関係の継続 | 〇 | 〇 | 〇 |
株式以外の不交付 | 〇 | 〇 | 〇 |
従業員の引き継ぎ | ー | 〇 | 〇 |
事業の継続 | ー | 〇 | 〇 |
事業の関連性 | ー | ー | 〇 |
株式の継続保有 | ー | ー | 〇 |
規模もしくは経営参画 | ー | ー | 〇 |
支配関係
株式交換の適格要件を理解するには、会社の「支配関係」について正しく知っておくことが重要です。
支配関係は3種類あり、どれに属するかによって適格要件が変わります。
【支配関係の種類】
- 完全支配関係
- 支配関係
- 共同事業目的
完全支配関係である
完全支配関係とは、子会社の全株式を親会社が保有している関係のことです。
完全支配関係は、株式を直接保有している場合だけでなく、間接的に保有している場合も含まれます。
間接的に保有するとは、例えば親会社「a社」とその子会社「b社」「c社」があって、c社の全株式をa社とb社で保有しているようなケースです。
つまり、a社自身はc社の株式を全て保有しているわけではありませんが、子会社b社と合わせれば100%の株式を所有しているので、事実上、c社を完全に支配していることになります。
支配関係である
株式交換の適格要件における支配関係とは、親会社が子会社の株式を50%超保有していることです。
株式を50%超保有していると取締役を選任できるので、事実上会社を支配することになります。
共同事業目的の株式交換である
50%以下の株式しか保有していない会社同士でも、共同事業が目的の株式交換の場合は、条件を満たせば適格株式交換を行うことが可能です。
ただし、満たすべき条件は、完全支配関係や支配関係に比べて厳しくなります。
適格要件
株式交換の適格要件には以下の7種類があります。この節では、これら7つの要件について1つずつ詳しく解説します。
【株式交換の適格要件】
- 完全支配関係の継続、もしくは支配関係の継続
- 株式以外の不交付
- 従業員の引き継ぎ
- 事業の継続
- 事業の関連性
- 株式の継続保有
- 規模、もしくは経営参画
完全支配関係の継続、もしくは支配関係の継続
株式交換前に存在していた完全支配関係、もしくは支配関係が、株式交換後も継続することです。
この要件は、完全支配関係・支配関係・共同事業目的、全ての場合において満たさなくてはなりません。
株式以外の不交付
株式交換では、親会社が子会社の全株式を取得し、その対価として親会社の株式を子会社株主に譲り渡すのが一般的です。
しかし、株式交換では、必ずしも子会社に親会社の株式を交付する必要はありません。例えば、子会社に金銭を支払ったり、親会社のそのまた親会社の株式を子会社に交付したりする三角株式交換もできます。
なお、三角株式交換による株式の交付でも、適格要件を満たすことは可能です。以前、金銭の交付は適格要件を満たしませんでしたが、平成29年度の税制改正で、条件によっては適格要件を満たせるようになりました。
基本的には、株式以外の不交付は適格要件の1つですが、改正により金銭の交付でも適格要件として認められる場合があるのが注意点です。
従業員の引き継ぎ
従業員の引き継ぎは、支配関係・共同事業目的の株式交換での適格要件の1つです。
完全支配関係ではない子会社が株式交換で完全子会社となると、それをよしとしない従業員が辞めてしまうことがあります。
しかし、適格要件を満たすためには、大部分の従業員が引き続き会社に残ってくれることが必要です。
もちろん、従業員の何割が会社に残るかは正確に把握できない部分もありますが、目安として、従業員の80%以上が引き続き子会社で働く見込みである場合、適格要件を満たすと定められています。
事業の継続
完全子会社となる会社の主要な事業が、株式交換後も継続されることです。
この要件は、支配関係・共同事業目的の株式交換に課せられるもので、もともと完全支配関係にある場合は該当しません。
事業の関連性
親会社と子会社の主要な事業が、お互い関連性を持っている必要があります。事業が複数ある場合は、そのうちの1つが関連性を持っていれば十分です。
例えば、製造と販売というように業態が異なっていても、同じ製品を扱っているなら関連性があるとみなされます。
この要件は、共同事業目的の株式交換にのみ課せられ、完全支配関係・支配関係の場合には課せられません。
株式の継続保有
共同事業目的の株式交換では、対価として交付される親会社の株式を、株主がその後も継続して保有する見込みであることが、適格要件として課せられます。ただし、完全支配関係・支配関係の場合は、この要件は課されません。
かつては、80%以上の株式が継続して保有される必要がありましたが、税制改正で条件が緩和されています。
改正により、親会社と同じ企業グループの企業が株式を50%以上継続保有する場合、その他の株主が20%以上の株式を売却する意向だとしても、適格要件を満たせるようになりました。
規模、もしくは経営参画
共同事業目的の場合のみ、規模や経営参画に関する適格要件が課せられます。具体的には、親会社と子会社の規模が5倍を超えないこと、子会社の役員が株式交換後も退任せずに残ることです。
子会社の役員は1人でも残っていれば、その他の役員が全員退任したとしても要件を満たします。
この要件は、どちらか1つが満たされていればよく、両方を満たす必要はありません。つまり、規模が5倍以上違う企業でも、経営参画があれば適格要件を満たすとみなされます。
4. 株式交換の適格要件に関する税制改正とは
株式交換の適格要件はここ数年で改正され、条件が徐々に緩和され株式交換が実施しやすくなりました。
この章では、平成28年、平成29年、平成31年/令和元年の税制改正において定められた、株式交換の適格要件関連の改正内容について概要を記します。
平成28年度の税制改正
平成28年度の税制改正で、特定役員の継続要件と、子会社の株式の所得価額についてのルールが変更されました。
これにより、共同事業目的の適格要件が満たしやすくなり、事務処理も簡略化されたのです。以下では、この2つの改正点について解説します。
【平成28年度の税制改正】
- 特定役員の継続要件に関する改正
- 株主が50人を超える完全子会社の株式取得価額に関する改正
特定役員の継続要件に関する改正
特定役員の継続要件について、改正前は子会社の役員が全員残らなければならなかったのが、改正後は1人でも残っていればよいことになり、共同事業目的の適格要件の内容が大幅に緩和されました。
改正前は、子会社の役員が1人でも辞めてしまうと適格要件を満たさなくなるため、共同事業目的の適格株式交換を実施するには慎重を期す必要がありましたが、この改正により共同事業目的の株式交換の実施性が向上したのです。
株主が50人を超える完全子会社の株式取得価額に関する改正
適格株式交換では、株主が50人以上いる子会社の株式の所得価額を算定するとき、簿価純資産価額を基準にします。
改正前は、株式交換直前の簿価純資産価額を使用しなければなりませんでしたが、改正後は前期末期の簿価純資産価額を使用できるようになりました。
これにより、株式交換直前の簿価純資産価額を改めて算出する手間が省け、事務手続きが簡略化されたのです。
ただし、この改正は、子会社の株主が50人以上いる場合にのみ適用される、限定的な規定であることには注意が必要になります。
平成29年度の税制改正
平成29年度の税制改正では、いわゆる「スクイーズアウト」に関する税制の整備が行われています。
スクイーズアウトとは、少数株主の保有株式を強制的に買い取って排除するM&A手法です。
【平成29年度の税制改正】
- 少数株主の株式取得に関する改正
少数株主の株式取得に関する改正
改正前は、親会社が子会社に交付するのは、必ず親会社の株式でなければなりませんでしたが、平成29年の税制改正では、株式だけでなく金銭の交付も認められています。
ただし、親会社が子会社の株式を3分の2以上保有している場合限定です。
この改正により、スクイーズアウトの手法である株式交換・全部取得条項付種類株式・株式併合・株式等売渡請求の税制が統一されました。
改正前は、株式交換によるスクイーズアウトは税制面で損だったため、全部取得条項付種類株式や株式併合が主に使われていましたが、今後は株式交換によるスクイーズアウトも増える可能性があります。
平成31年/令和元年度の税制改正
平成31年/令和元年度に実施された税制改正で株式交換が関連するのは、適格要件のうちの「関係継続要件」、すなわち支配関係の継続についてです。
ただし、株式交換後に逆さ合併(規模の小さい子会社を存続会社とする合併)が実施されるケースにおいての改正になります。
改正内容は、株式交換後に逆さ合併が見込まれるケースにおいて、関係継続要件は合併の直前までで判断することになりました。
改正前では、逆さ合併の場合、関係継続要件を満たせなくなるため非適格組織再編となり、税制上不利であったのが解消されたのです。
5. 株式交換の適格要件税務処理
株式交換で課税対象となり得るのは、親会社・子会社・子会社の株主です。株式交換では親会社の株主は何も変化がないので、課税されることはありません。
この章では、適格要件・非適格要件それぞれの場合における、親会社・子会社・子会社の株主の税務処理を解説します。
株式交換の適格要件における税務処理
まずは、株式交換の適格要件における税務処理について見ていきましょう。
完全親会社
株式交換の適格要件において、完全親会社に税金はかかりません。しかし、完全子会社の株主数が50人以上か50人未満かによって、取得した株式の取得価額が変わります。
取得価額によって資本金の増加額が違ってくるので、額を正しく算定しておくことが必要です。
以下、完全子会社の株主数が50人未満の場合と50人以上の場合について、それぞれ取得価額の算定方法を解説します。
【株式交換前の完全子会社の株主数が50人未満の場合の取得価額算定】
株主数が50人未満の場合は、株式交換をする直前での、それぞれの株主が持っている株式の帳簿価額を合計して、それに必要経費を加えたものを取得価額とします。
株式の帳簿価額はたいていの場合、直近の決算時の株価です。決算から時間が経って株価が変わっても、帳簿に記載されている帳簿価額を使用します。
【株式交換前の完全子会社の株主数が50人以上の場合の取得価額算定】
株主数が50人以上の場合、前期末期の簿価純資産価額に必要経費を加えたものが取得価額となります。
以前は株式交換直前の簿価純資産価額を使用していましたが、平成28年度の税制改正で、前期末期の簿価純資産価額を使用するようになりました。
簿価純資産価額とは、貸借対照表に記載されている資産から負債を引いた額です。時価を使わないので正確さに欠けますが、手続きが簡単でわかりやすいメリットがあります。
完全子会社
完全子会社は株式交換をしても株主が変わるだけなので、それに対する税金は課されません。
完全子会社の株主
適格要件を満たす株式交換では、完全子会社の株主に税金は課されません。
株式交換の非適格要件における税務処理
続いて、株式交換の非適格要件における税務処理について見ていきましょう。
完全親会社
非適格要件の場合も適格要件の場合と同じく、完全親会社に税金はかかりません。
ただし、取得した完全子会社の株式取得価額の算定方法は、適格要件の場合とは異なり時価を使用します。
【取得価額の算定方法】
算定方法 | |
適格要件 | 帳簿価額・簿価純資産価額 |
非適格要件 | 時価 |
適格要件の場合と違って、非適格要件では完全子会社の株主数による取得価額の変化はありません。株主数が50人未満でも、50人以上の時と同じく時価で取得価額を算定します。
完全子会社
非適格要件の株式交換では、完全子会社は時価評価損益に対して課税がなされます。時価評価の対象となる資産には、以下の5つがあります。
【時価評価の対象となる資産】
- 固定資産
- 土地(土地の上に存する権利を含む)
- 有価証券
- 金銭債権
- 繰延資産
また、時価評価資産の対象とならない資産は以下の3つです。他にも条件によっては、含み損のある子会社株式が除外されることもあります。
【時価評価の対象にならない資産】
- 売買目的の有価証券
- 含み損益が1,000万円以下の資産
- 帳簿価額が1,000万円以下の資産
完全子会社の株主
非適格要件の株式交換において、交付されるものが完全親会社の株式のみの場合は、完全子会社の株主に税金はかかりません。
金銭を含む場合は、親会社から交付される対価と、親会社に渡した子会社株式の時価との差額が利益とみなされます。
その利益に対して、株主が個人の場合は所得税、法人の場合は法人税が課されるのです。
個人の場合、株式に課される所得税は総合課税にもできますが、基本的には分離課税となり、税率は所得税・住民税・復興特別所得税を合わせて20.315%となります。なお、復興特別所得税(所得税額の2.1%)は、2037(令和19)年までの時限措置です。
法人の場合は、株式交換で得た譲渡益を他の事業所得と損益通算し、トータルの所得に対して法人税が課されます。
株式交換で譲渡益が出ても、他の事業が赤字で相殺される場合は法人税はかかりません。
法人税の税率は、法人税・地方法人税・住民税・事業税・復興特別所得税を合わせて約37%です。
【非適格株式交換で完全子会社の株主にかかる税金】
親会社から交付される対価 | かかる税金 |
株式のみ | なし |
金銭を含む | 所得税・法人税 |
6. 株式交換でのM&Aの相談先
株式交換の税務は非常に複雑なので、実施するときは会計士や税理士など専門家のサポートを得る必要があります。
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7. まとめ
株式交換の税務は、非常に複雑で税制も頻繁に改正されているので、会計士や税理士など専門家のサポートを受けつつ慎重に実施する必要があります。
税制の整備により、今後は株式交換によるM&Aが増加見込みです。企業再編を考えている経営者の方は、株式交換を有力なM&A手法の1つとして認識し、内容を熟知しておく必要があるといえるでしょう。
本記事の概要は、以下のとおりです。
【株式交換の適格要件の条件】
適格要件 | 完全支配関係 | 支配関係 | 共同事業目的 |
完全支配関係の継続、もしくは支配関係の継続 | 〇 | 〇 | 〇 |
株式以外の不交付 | 〇 | 〇 | 〇 |
従業員の引き継ぎ | ー | 〇 | 〇 |
事業の継続 | ー | 〇 | 〇 |
事業の関連性 | ー | ー | 〇 |
株式の継続保有 | ー | ー | 〇 |
規模、もしくは経営参画 | ー | ー | 〇 |
【平成28年度の税制改正】
- 特定役員の継続要件に関する改正
- 株主が50人を超える完全子会社の株式取得価額に関する改正
【平成29年度の税制改正】
- 少数株主の株式取得に関する改正
【平成31年/令和元年度の税制改正】
- 株式交換後の逆さ合併時における関係継続要件の緩和
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