2025年07月16日更新
調剤薬局のM&A・売却完全ガイド|成功のポイントや相場、動向を徹底解説
事業承継など目的は違っても調剤薬局を売る場合において、誰もができるだけ高い金額を願うものです。そこで本記事では、調剤薬局の譲渡動向や相場などを分析し、調剤薬局を高く売るポイントなどについて紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1. 調剤薬局のM&Aで用いられる主な手法
この記事では、調剤薬局を高く売るポイントや、調剤薬局業界で売却が行われている理由などについて解説します。まずは、調剤薬局の定義、よく利用される事業売却の手法を確認しましょう。
調剤薬局とは
調剤薬局とは、医師の診断による処方箋に基づいて薬を調剤し、患者に受け渡す薬局のことです。保険診療に基づいた医師の処方箋について調剤を行うことから、保険薬局とも呼ばれています。
調剤薬局は、調剤による薬の受け渡しのほか、薬剤師がつくる薬局製造販売医薬品・処方箋が不要なOTC薬品(要指導医薬品・一般用医薬品)の販売や、セルフメディケーション(自身による健康管理)に対する相談にも対応可能です。
事業売却とは
事業譲渡とは、会社の事業の一部または全部を第三者に譲渡するM&A手法です。譲渡する資産・負債の範囲を個別に選択できるため、売り手は手元に残したい事業や資産を維持できます。複数の店舗を運営している場合に特定の店舗のみを売却するなど、柔軟なスキーム設計が可能な点が特徴です。
会社売却を選択する場合
株式譲渡とは、会社の株式を売却して経営権を買い手に移転させるM&A手法です。会社全体を包括的に承継するため、許認可や従業員の雇用契約なども原則として引き継がれます。事業譲渡に比べて手続きが簡便で、オーナー経営者が引退する際の事業承継や、創業者利益を獲得したい場合に適しています。
調剤薬局M&Aを取り巻く業界動向と課題
ここでは、調剤薬局の動向を見ましょう。
診療報酬・薬価改定による経営環境の変化
調剤薬局は、国が実施する医療費削減施策により、診療報酬や薬価における減額改訂の流れが続き、薬剤師の調剤報酬も同じく減っている状態です。特に特定の病院からの処方箋を主に調剤している薬局(門前薬局)は、大きく減額され、本来のビジネスモデルでは経営が困難となっています。
近年の規制緩和で、大手薬局グループが医療モールを建てて病院や調剤薬局を誘致し、処方箋を集中して扱うビジネスモデルもあります。しかし、集中率が高いと判断されて門前薬局と同じく調剤報酬の減額対象となる可能性があり、経営環境は厳しい状態です。
薬価も、ジェネリック医薬品により薬価自体が低価格で患者へ提供されています。ジェネリック医薬品を推奨する国の動きがあり、患者も以前ほどジェネリック医薬品への抵抗がないので、ジェネリック医薬品を選ぶ患者も少なくありません。
後継者問題・人材不足
中小の調剤薬局では、オーナー自身が薬剤師として現場を支えているケースが少なくありません。しかし、親族に薬剤師資格を持つ後継者がいない、あるいは承継の意思がない場合が多く、事業承継は深刻な課題です。薬学部の6年制移行により薬剤師の育成には時間がかかり、地域によっては人材確保そのものが困難になっています。この薬剤師不足は大手チェーンにとっても例外ではなく、業界全体の課題です。
大手ドラッグストアチェーンの台頭と競争激化
大手ドラックストアが調剤薬局へ進出していることも、中小・個人の調剤薬局に影響を与えています。大手のドラックストアは、日用品や一般用医薬品を売り、調剤薬局も併設している店舗が少なくありません。
併設の調剤薬局では薬剤師が調剤を行っているので、買い物のついでに調剤を依頼できます。大手ドラックストアの調剤薬局を利用する患者が増えている状況です。
厚生労働省が、2015年10月に策定した「患者のための薬局ビジョン」では、従来の門前薬局から、かかりつけ薬局や地域密着の薬局へ転換を行う方針が示されました。
かかりつけ薬剤師、薬局が持つべき機能は、ICT(情報通信技術)を生かした服薬情報の一元的、継続的把握、24時間対応・在宅対応、医療機関などとの連携です。こうした方針に対応可能な中小・個人の調剤薬局は、より経営が厳しくなるといえます。
2. 調剤薬局M&Aの売却価格・相場の算出方法
調剤薬局をできるだけ高く売ることを考察するとき、売却相場を把握しておかなければ金額における良し悪しの判断もできないでしょう。しかし、M&Aの現場では、個別のケースでそれぞれ条件が異なるので、体系的な相場価格が定まっていません。
ただし、売却価額を決めるファクターや計算方法はある程度、確立されています。そのファクターと計算方法を見ましょう。
企業価値を左右する3つの評価要素
調剤薬局の売却価額を求めるにあたり、重要となるファクターは以下の3つです。
- 技術料と処方箋応需枚数
- 時価純資産価額
- 営業権
それぞれの内容を説明します。
技術料と処方箋応需枚数
ほかの業種にはない、調剤薬局ならではのファクターが、技術料と処方箋応需枚数になります。技術料とは、薬剤師が調剤を行った場合の請求費に含まれる費用のことです。一方、処方箋応需枚数とは、その調剤薬局が応じた処方箋の数になります。
技術料の価額とひと月あたりの処方箋応需枚数がわかっていれば、両者を掛け合わせることで当該調剤薬局のだいたいの月間売上高がつかめ、同業者ならその規模感も把握できるといえるでしょう。
時価純資産価額
調剤薬局だけでなく一般の会社における企業価値を計る簡易な方法として、貸借対照表における総資産額から負債額を差し引く方法があります。
その金額が時価純資産額です。現在時点で、該当する調剤薬局の企業価値がつかめます。
営業権
営業権とは、別称で「のれん」とも呼ばれます。M&Aにおいては買収対象企業の売却価額を決定するにあたって、重要なファクターです。
M&Aの現場では、この数値を導き出すにあたって専用の算出方法を用います。算出方法は1つではなく、大きく分けて以下の3種です。
- コストアプローチ
- インカムアプローチ
- マーケットアプローチ
3種の中で、さらに細かくいろいろな算出方法が存在し、M&Aの専門家はそれらを複合的に用いて、対象企業の適正価額を導き出します。
それらは、とても専門性が高いためM&Aアドバイザーに任せるしかありませんが、簡易的に営業権の数値を計算する場合は以下です。
営業権の価値は、一般的に「実質的な収益力(EBITDAなど) × 年数倍(通常2~5年程度)」で簡易的に算出されます。この年数倍率は、立地条件、近隣医療機関との関係性、将来性など、個別の要因によって変動します。正確な価値算定には専門家によるデューデリジェンスが不可欠です。
3. 調剤薬局をM&Aで高く売却するための5つのポイント
調剤薬局を高く売る場合、どのような点を押さえておけばよいのでしょうか。ここでは、調剤薬局を高く売るためのポイントを5つ紹介します。
【調剤薬局を高く売るポイント】
- 黒字経営を続ける・売り上げを伸ばす
- 商品(処方箋)の単価を上げる
- 不必要な経費を抑える
- 医療施設などと良好な関係を持つ
- 需要のあるときに売却する
①安定した黒字経営と売上の向上
1つ目のポイントは、黒字経営を続ける・売り上げを伸ばすことです。調剤薬局業界では、国によって1年ごとに行われる報酬の改定や薬剤師不足などの影響により、経営不振・財務状況の悪化に陥っている店舗も少なくありません。
赤字を計上していたり売り上げが芳しくなかったりすれば、買い手の興味を引くのは難しくなります。かかりつけ薬局への移行や在庫の管理を徹底するなどして、黒字経営の継続と売り上げのアップを図ると、高値での売却も可能です。
②処方箋単価の向上と各種加算の取得
2つ目のポイントは、商品(処方箋)の単価を上げることです。調剤薬局では、処方された薬の調剤や薬の指導などによって商品の単価が異なります。調剤薬局を高く売るためには、単価を上げて売り上げを伸ばす必要もあるでしょう。
薬局の維持と調剤に対する技術料を評価した基本調剤料では、地域支援体制・後発医薬品調剤体制加算を目指し、調剤料では一包化・自家製剤加算などで処方箋の単価を上げることが可能です。
ほかにも、服薬の調整を提案する服用薬剤調整支援料や、医療機関と患者へ情報提供を行う服薬情報等提供料、患者の服用履歴を管理する薬剤服用歴管理指導料の加算などがあります。
国が推進するかかりつけ薬剤師も、服用指導のかかりつけ薬剤師指導料の加算などがあるため、自社に見合った加算を選択して単価のアップを図るとよいでしょう。
③不必要な経費を抑える
3つ目のポイントは、不必要な経費を抑えることです。具体的な方法には、医薬品の過剰在庫を抑え、薬剤師の残業を減らすことなどがあります。
過剰在庫を抑える場合は、在庫管理システムの導入を検討しましょう。残ったままの医薬品や不足する医薬品を知らせてくれるため、過剰な在庫を減らして経費の削減を実現できます。
特に医薬品の在庫管理は重要です。不動在庫や過剰在庫はキャッシュフローを圧迫するため、在庫管理システムを導入し、発注を最適化することが求められます。また、後発医薬品への切り替えは国の推奨方針ですが、切り替え時期によっては一時的に在庫が増加するため、M&Aを検討している場合は専門家と相談しながら計画的に進める必要があります。
業務や人材配置の見直し・在庫を補充するシステム導入・常勤の代わりにパートを雇うといった対応によって、人件費の削減も可能です。
④医療施設などと良好な関係を持つ
4つ目のポイントは、医療施設などとの関係を維持することです。調剤薬局の近くに薬を処方する医療施設などがあっても、処方する薬を抱えていなければ患者に渡せません。これでは、処方した医療施設だけでなく患者にも影響が及んでしまいます。
医療施設などとよい関係を築くためには、近隣の医業施設などと定期的に情報交換を行うとよいでしょう。話し合う場を設け、問題への対処・処方した経緯・ほかの薬への切り替えなどを実施すれば、医療施設などとも良い関係を維持できます。
⑤需要のあるときに売却する
5つ目のポイントは、需要のあるときに売却することです。近隣で同業者が営業を始める・調剤報酬の改定を挟む・近隣のクリニックが廃業したタイミングなどでは、買い手が買収をためらうため、売却に適した時期とはいえません。
調剤薬局をできるだけ高く売るためには、近隣に新しいクリニックができた・処方箋の応需枚数が増えている・近隣クリニックが世代交代を行ったなどのタイミングがベストといえるでしょう。
4. 調剤薬局オーナーがM&A・売却を決断する主な理由
調剤薬局の売却が行われる理由には、どのようなものがあるのでしょうか。ここでは、以下3つの理由を取り上げ解説します。
- 引退年齢になっても後継者がいない
- 薬局を残したい・廃業を避けたい
- 病気などにより経営を続けることが難しい
①引退年齢になっても後継者がいない
1つ目の理由は、引退年齢を迎えても後継者がいないことです。
調剤薬局オーナーで高齢の人は多いですが、後継者の意思や株式取得費の捻出などの問題もあり、親族・従業員への事業承継は難しいことが多いため、後継者が見つからないオーナーも少なくありません。
そこで、後継者問題を解決する手段として、第三者への事業承継(M&A)を選択するケースも増えています。
②薬局を残したい・廃業を避けたい
2つ目の理由は、薬局の存続と廃業の回避です。利用している患者や地域のために調剤薬局を残したいと希望するオーナーは少なくありません。
仮に廃業を選べば、自社の従業員は解雇しなければならず、廃業するための費用も必要です。調剤薬局の事業譲渡・会社売却を行えば、薬局を残し廃業を回避できます。
③病気などにより経営を続けることが難しい
3つ目は、病気などによって経営継続が難しいケースです。調剤薬局のオーナーには高齢に達している方も多く、年齢に伴う病気の発症や持病の悪化、体力の低下といった問題を抱えていることも少なくありません。
「これまでのように経営に携わるのは難しい」と判断した場合に、第三者への事業承継(M&A)を選択することもあります。
5. 調剤薬局M&Aのメリットとデメリット
調剤薬局のM&Aは、売り手と買い手の双方にメリットをもたらす一方で、注意すべき点も存在します。ここでは、それぞれの立場から見たメリットと、共通するデメリットを解説します。
売り手(譲渡側)のメリット
売り手にとって最大のメリットは、後継者問題の解決です。M&Aにより第三者に事業を引き継いでもらうことで、廃業を回避し、従業員の雇用や地域住民へのサービス提供を継続できます。また、オーナー経営者は株式や事業の売却によって創業者利益を確保でき、リタイア後の生活資金に充てることが可能です。大手資本の傘下に入ることで、個人では困難だった設備投資や人材育成が実現し、薬局がさらに発展する可能性も生まれます。
買い手(譲受側)のメリット
買い手は、M&Aによって事業規模を迅速に拡大できます。新規出店に比べて時間とコストを大幅に削減できるうえ、すでに地域に根付いている薬局を譲り受けることで、既存の患者や処方箋、優秀な薬剤師を確保することが可能です。複数の薬局を運営することによるスケールメリットを活かし、医薬品の共同購入によるコスト削減や、本部機能の集約による経営効率の向上も期待できます。
M&Aの注意点・デメリット
M&Aにはデメリットやリスクも伴います。売り手にとっては、必ずしも希望通りの条件(価格、従業員の処遇など)で売却できるとは限りません。また、交渉の過程でM&Aの情報が漏洩し、従業員の不安や取引先の動揺を招くリスクもあります。買い手にとっては、譲り受けた薬局が想定通りの収益を上げられない、帳簿に現れない簿外債務が存在したなどのリスクが考えられます。M&A後の統合作業(PMI)がうまくいかず、組織文化の違いから従業員が離職してしまうケースも少なくありません。
6. 調剤薬局M&Aを成功に導く仲介会社の選び方
調剤薬局を売る場合、どのようなM&A仲介会社に相談すればよいのでしょうか。ここでは、M&A仲介会社を選ぶ4つのポイントについて掲示します。
【調剤薬局を売る際の仲介会社選びのポイント】
- 過去に調剤薬局のM&Aを行った実績がある
- M&Aの専門知識を持っている
- 手数料が明確に提示されている
- 担当者が信頼できる
①過去に調剤薬局のM&Aを行った実績がある
1つ目のポイントは、過去に調剤薬局のM&Aを行った実績の有無です。過去に調剤薬局のM&Aを仲介していれば、業界に関する知識と経験を備えていると考えられます。
業界に精通していれば、調剤報酬の改定をはじめとした事業環境の変化を踏まえて、自社に合った交渉先の紹介・適正な譲渡価格の提示・スキームの選択など、有効なアドバイス・サポートを受けられ、M&Aの成功率も上がるでしょう。
②M&Aの専門知識を持っている
2つ目のポイントは、M&Aの専門知識を備えていることです。
M&Aには、企業価値評価、法務、税務、会計など多岐にわたる専門知識が不可欠です。特に調剤薬局のM&Aでは、医療法や薬機法への理解も求められます。専門知識を持つ仲介会社であれば、適正な企業価値を算出し、従業員の雇用条件や近隣クリニックとの関係維持など、業界特有の論点にも配慮した交渉が可能です。
③手数料が明確に提示されている
3つ目のポイントは、手数料が明確に提示されていることです。仲介会社によっては、公式サイトに料金体系の記載がないところもあります。料金体系が不明瞭なまま依頼してしまうと、予想以上の費用を請求されたり、後でトラブルになったりする可能性もあるでしょう。
調剤薬局を売る際は、M&A仲介会社の公式サイトを調べて、手数料がはっきり記載されていることを確認し、わからない点は事前に質問することも大切です。
④担当者が信頼できる
4つ目のポイントは、信頼できる担当者であるかという点です。担当するスタッフが信頼性に欠ける場合、自社の希望をくみ取ってくれない・仲介会社の意向を押し付けられるなどの可能性もあります。
調剤薬局を売る際は、無料相談を通じて担当者の信頼性を確かめてください。話に耳を傾けてしっかりと希望をくみ取ってくれれば、仲介を任せられると判断できるでしょう。
⑤調剤薬局を売る際は、M&A総合研究所へ
調剤薬局の売却をご検討の際は、ぜひM&A総合研究所へご相談ください。主に中小・中堅規模のM&Aを手掛けるM&A総合研究所では、豊富な知識と経験を持つM&Aアドバイザーが親身になって調剤薬局のM&A・事業承継のフルサポートをします。
通常は半年~1年以上かかるとされるM&Aを、最短3カ月で成約した実績を有する機動力も強みです。料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を受け付けていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
7. 調剤薬局を高く売るポイントまとめ
調剤薬局の概要や、売却相場、売却の手法、売却の理由、高く売るポイントなどを紹介しました。調剤薬局では、後継者不足・事業の存続や廃業の回避・身体的な理由により売却を選択するケースが増えています。
自社の希望に合った条件で調剤薬局の売却を行うためには、M&A専門家のサポートが不可欠といえるでしょう。
8. 調剤薬局業界の成約事例一覧
9. 調剤薬局業界のM&A案件一覧
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