2022年12月23日更新
事業価値、企業価値、株式価値の違いや関係、算出方法を解説【英語も記載】
M&Aを検討する際は企業価値が重要とされていますが、事業価値や株式価値などの言葉を耳にする機会も多く混同されがちです。この記事では、事業価値・企業価値・株式価値における内容の違い、それぞれの関係性、具体的な算出方法などを解説します。
目次
1. 企業価値とは
M&Aでは売り手と買い手の交渉により取引価額を決定しますが、基準がなければ交渉がまとまる可能性は限りなく低いため、取引価額の目安として企業価値を用意する必要があります。
企業価値とは企業全体の価値のことです。企業価値の大半を占めているのは手掛けている事業の価値ですが、有価証券や遊休資産などの非事業用資産もあるため、それらの合計が企業価値となります。
企業価値はM&A交渉の土台となるので、売り手と買い手の双方が納得できる適切な値を算出しなければなりません。企業価値や関連性の深い事業価値・株式価値も理解しておく必要があります。
本記事では、企業価値、事業価値、株式価値におけるそれぞれの違いや算出方法を詳しく解説します。
2. 事業価値と企業価値、株式価値の違い
企業価値はM&Aの際に重要ですが、そのほかに関連性が高い要素として、事業価値や株式価値があります。どちらも適切な企業価値を把握するために必要な要素となるので、意味や違いを確認しましょう。
事業価値とは
事業価値とは、企業の事業や事業用資産の将来的な収益価値の総和です。事業用資産の単純な価値だけでなく将来的なキャッシュフローも加味するため、複雑な計算が必要です。
事業価値の算出において、決められた方法はありません。存続を前提として計算する場合はDCF(Discounted Cash Flow)法を利用するのが一般的ですが、そのアプローチにはさまざまなものがあるため、M&Aの条件や目的に合わせた方法を選択します。
企業価値は企業全体の価値、事業価値は事業や事業用資産の価値であるため、事業価値に非事業価値を足すと企業価値になります。
- 企業価値=事業価値(事業自体の価値)+非事業価値(事業以外の資産の価値)
非事業価値について
非事業価値とは、金融資産や遊休資産などの事業活動に使用されていない資産の価値をいい、金融資産は投資有価証券など、遊休資産は事業に使用されない土地や建物などの不動産のことです。
もともとは事業用に取得したものの、何かしらの要因で一時的に事業への使用を停止することは珍しくありません。将来的な収益価値に貢献していないため、事業価値とは別々に計上されます。
【非事業用資産の国税庁の基準】
- 棚卸資産、雑所得の起因となる土地および土地の上に存する権利
- 事業用資産の買換えの特例を受けるための目的で、一時的に事業用途に使ったと認められる資産
- 空閑地である土地や空き家である建物など
【非事業用資産の具体例】
- 余剰金:現金預金、別段預金
- 遊休資産:未使用の土地、建物
- 投資資産:有価証券、投資有価証券、貸付金
株式価値とは
株式価値とは、その名のとおり株式における価値のことです。株式発行で投資家から調達した資金や、企業の事業活動から生み出した利益で企業内に留まっている剰余金などがあります。
上場企業では株価の時価総額をさす言葉ですが、非上場企業の場合は証券取引所における取引実績がないため、株式価値を算出するのが難しい点が問題です。
株式価値における算出の際は「株式価値 = 企業価値-債権者価値」の計算式を用います。これは、企業全体の価値から債権者価値を差し引いて、株主が自由にできる資金を株式価値とする考え方によるものです。
この計算式について、企業価値を主語にして書き換えると以下になります。
- 企業価値=債権者価値(企業の債務の価値)+株式価値(企業の株式価値)
債権者価値について
債権者価値とは、企業が返済しなければならない債務(有利子負債)が該当します。負債なのに価値という点に違和感があるかもしれませんが、負債を負えるほどの価値があるといった解釈です。
銀行からの借入金や投資ファンドからの融資金など、企業が抱えている負債は全て債権者価値に含まれます。これらの借入金は、企業の収益力を期待されたことで提供されているので、企業の価値として換算されます。
株式会社の企業価値が属する対象は、債権者と株主です。企業価値を高める行為は、債権者価値と株式価値とを高めることになり、債権者と株主の両方が恩恵を得ます。企業の事業目的は企業価値を向上させることにあり、事業価値を高めるためにあらゆる手段をつくしています。
株主価値について
企業価値を調べていると、株主価値という言葉も目にするかもしれません。株主価値は、基本的には株式価値と同じく株主が自由にできる資産価値をさしている言葉なので、全く同義と捉えて問題ありません。
3. 事業価値、企業価値、株式価値の関係性
企業価値の大半は事業価値です。企業は利益を生み出すために事業活動を行うので、自然と事業価値が高められます。株主価値も企業価値を構成する要素の1つであり、非上場企業の場合は、株式価値を算出するための基準が企業価値です。
企業価値という大枠のなかで、それぞれの要素が計算式でつながっています。企業価値を正しく理解するためには、事業価値と株式価値の意味や算出方法も把握するとよいでしょう。
4. 事業価値、企業価値、株式価値の算出方法
上場企業の時価総額は「株価×株式発行数」で算出できますが、非上場企業は企業価値評価の方法を用いて算出します。この項では、事業価値、企業価値、株式価値の算出方法を見ましょう。
事業価値の算出方法
事業価値の算出方法で最も一般的なものはDCF法です。DCF法には、将来のフリーキャッシュ・フローやリスクの予測について客観性に欠ける課題もありますが、事業の継続を前提としている場合に優れた算出方法です。
DCF法による事業価値の計算式自体は簡単ですが、計算式に使用する値を算出することが必要になります。
【事業価値の算出方法(DCF法)】
- 事業価値=将来のフリーキャッシュ・フロー(将来の収益的価値)/割引率
フリーキャッシュ・フローは、過去数年分の賃借対照表や損益計算書、キャッシュ・フロー計算書を参考に算出します。将来的に期待できる価値を算出するため、綿密な事業計画が必要です。
割引率は、負債と自己資本の割合により加重平均した資本コストであり、基本的に加重平均資本コスト(WACC)が用いられ、以下の式で算出できます。
【割引率の算出方法】
- 割引率(WACC)=有利子負債総額/(有利子負債総額+時価総額(または株主資本))× 負債コスト×(1-税率)+時価総額(または株主資本)/(有利子負債総額+時価総額(または株主資本))×株主資本コスト
企業価値の算出方法
企業価値は、事業価値に非事業価値を加算することで算出できます。前述のDCF法で算出した事業価値に、金融資産や遊休資産などの非事業価値を加えましょう。
【企業価値の算出方法】
- 企業価値=事業価値 + 非事業価値
定期預金などはそのままの金額を加算しますが、不動産や投資有価証券などは時価評価しなくてはなりません。
株式価値の算出方法
非上場企業が株式価値を算出する方法は数多くありますが、代表的な3つの手法を解説します。
【株式価値の算出方法】
- DCF法
- 株価倍率法
- 修正純資産法
DCF法
事業価値の算出方法でも述べたDCF法は、将来的な収益価値を参考とする考え方であり、合理的な計算法として広く利用されているものです。
DCF法で算出した事業価値に非事業価値を加算して企業価値を算出し、債権者価値を差し引いて株式価値を割り出します。
【株式価値の算出方法】
- 株式価値=企業価値(事業価値+非事業価値)-債権者価値(有利子負債)
株価倍率法
株価倍率法とは、類似する上場企業の利益・売り上げ・純資産などを基準として株価を算出する方法です。市場を参考にするため客観性に優れ、M&A交渉において納得感を得られやすい特徴があります。
具体的な算出方法は、対象となる上場企業を10社前後選出した後、それぞれの財務数値に株価倍率をかけるものです。株価倍率法で利用されることが多い株価倍率には下表の5つがあります。
株価倍率 | 算出方法 | 適用企業 |
PER(株価収益率) | 株式時価総額/当期純利益 | ・利益のある企業 ・ベンチャー企業(黒字企業限定) ・スタートアップ企業(黒字企業限定) |
PBR(株価純資産倍率) | 株式時価総額/純資産額 | ・利益のない企業 ・特別損失額が大きい企業 |
PSR(株価売上高倍率) | 株式時価総額/売上高 | ・ベンチャー企業 ・スタートアップ企業 |
PCFR(株価キャッシュフロー倍率) | 株式時価総額/キャッシュフロー | ・利益のある企業 ・減価償却を考慮するべきと判断した企業 |
PEGレシオ | PER/1株あたりの利益成長率 | ・ベンチャー企業 ・スタートアップ企業 |
修正純資産法
簡易的に賃借対照表の純資産を株式価値と見なす方法です。より適正な値に近づけるために、資産と負債は時価評価したうえで差し引きを行います。
【株式価値の算出方法】
- 株式価値(純資産)=資産-負債
非常にシンプルな計算式で、手元に賃借対照表さえあればすぐに算出できます。しかし、将来的な収益価値を加味していないため、会社の存続を前提とする評価方法には適していません。
M&Aと事業価値、企業価値、株式価値の相談先
M&Aで必須である企業価値・事業価値・株式価値の算出は非常に難しく、M&Aの課題ともいえます。交渉では相手側から納得感を得なければならないので、M&A専門家のサポートを受けるのがおすすめです。
M&A総合研究所は、M&A・事業承継の仲介サポートを手掛けるM&A仲介会社です。中小企業のM&Aに数多く携わっており、M&A仲介における豊富な実績を有しています。
M&A総合研究所では、豊富な経験と知識を持つM&Aアドバイザーが、案件をフルサポートしており、会社の状況に合わせた企業価値・事業価値・株式価値を算定します。
料金体系は成約するまで完全無料の「完全成功報酬制」です(※譲渡企業様のみ。譲受企業様は中間金がかかります)。無料相談を受け付けていますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
5. 事業価値、企業価値、株式価値の英語表記
企業に関する価値(value)を評価する方法を、英語ではバリュエーション(valuation)といいます。バリュエーションを使って算出する事業価値・企業価値・株式価値の英語表記は、以下のとおりです。
【事業価値・企業価値・株式価値の英語表記】
- 事業価値:BEV(Business Enterprise Value)
- 企業価値:EV(Enterprise Value)
- 株式価値:EQV(Equity Value)
M&Aは日本発祥の手法ではないため、使用される語句や表記が英語表記あるいはカタカナ表記で理解しづらいものも多く、なかには英語の略称で説明されていることもあります。
事業価値(BEV)・企業価値(EV)・株式価値(EQV)の3つは使用頻度も高いので、押さえておくとよいでしょう。
ほかに目にすることが多いのは、「EV/EBITDA倍率」などです。EBITDAは、税引き前利益に特別損益、支払利息、減価償却費を加算した値です。EV(企業価値)がEBITDAの何倍であるかを表すことで、株価比較の尺度を測れます。
企業価値とEVの違い
ここでは、企業価値とEVの違いを見ましょう。
EV(Enterprise Value)は企業価値と訳され、ほぼ同じ概念ですがやや内容が異なります。相違点は、計算式を見るとわかりやすいでしょう。
- 企業価値=株式価値+債権者価値
- EV=株式価値+債権者価値−現金や現金同等物
EVは企業価値の計算式から、現金や現金同等物を引いたものです。つまり、会社の購入にかかる正味金額は、現金を引くことになります。
ある企業の全株式を得るには、少なくとも時価総額と同等の額を準備する必要があり、会社を買うときは債権者へ借入金を返済する義務も負い借入金における分の金額もかかります。
しかし、買収対象企業の現預金は、借入金の返済に充てられるので、実際は現預金における分の買収資金は不要です。EVの計算式から、EVは一般的にいう企業価値よりも、買収の際に実際にかかる資金を表したものといえます。
6. M&Aの企業価値を高めるポイント
この章では、M&Aの企業価値を高めるポイントについて見ましょう。M&Aの企業価値を高めるポイントとして、下記が挙げられます。
- 収益力を向上させる
- 投資効率を改善する
- 財務を健全化させる
収益力を上げるには、営業力アップやコスト削減などの方法があるので、内製で行っていたものを外注に切り替えたり精密な生産管理で無駄を見つけたりするなどして、コストカットに取り組むとよいでしょう。
営業活動で用いていない資産は、投資の効率を悪化させている可能性が高いです。使用していない倉庫や置いたままの不良在庫など、つい放置しがちな遊休資産は、持っているだけでコストがかかるので、バランスシートから削る判断をしましょう。
上記でダイレクトに企業価値向上につながるのは、財務の健全化です。借入金を返済すると、負債を減らせるので企業価値が改善するでしょう。不要な借入金があれば、返済を検討してください。
7. 事業価値、企業価値、株式価値の違いや関係、算出方法まとめ
企業価値・事業価値・株式価値の違いや算出方法を解説しました。それぞれの価値は深い関係性があり、M&Aでは適切な価値を求める必要があります。
適切な価値を算出するためには、価値評価に使用する難しい計算式を使うことも少なくありません。価値が適切でないと交渉が進められないこともあるので、価値算出の際は専門家に相談することをおすすめします。
M&A・事業承継のご相談ならM&A総合研究所
M&A・事業承継のご相談なら経験豊富なM&AアドバイザーのいるM&A総合研究所にご相談ください。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴をご紹介します。
M&A総合研究所が全国で選ばれる4つの特徴
- 譲渡企業様完全成功報酬!
- 最短49日、平均6.6ヶ月のスピード成約(2022年9月期実績)
- 上場の信頼感と豊富な実績
- 譲受企業専門部署による強いマッチング力
M&A総合研究所は、成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A仲介会社です。
M&Aに関する知識・経験が豊富なM&Aアドバイザーによって、相談から成約に至るまで丁寧なサポートを提供しています。
また、独自のAIマッチングシステムおよび企業データベースを保有しており、オンライン上でのマッチングを活用しながら、圧倒的スピード感のあるM&Aを実現しています。
相談も無料となりますので、まずはお気軽にご相談ください。