2023年04月12日更新
バリュードライバー分析とは?企業価値を向上させる戦略も詳しく解説!
本記事では、バリュードライバー分析を活用して企業価値を向上させる戦略などを解説するので、ぜひ参考にしてください。バリュードライバー分析とは、バリュードライバーの考え方を元に、企業価値や株価を向上させるアプローチです。企業価値向上について知りたい方は必見です。
目次
1. バリュードライバー分析とは
時価総額や株価、決算書など、さまざまな観点から企業価値は数値化されます。企業価値を数値化できるということは、計算式があるからです。
バリュードライバー分析は、この計算式を武器にして企業価値を高めるアプローチをさします。バリュードライバー分析の考え方は、経営者だけでなく投資家も重要なものとして、注目されています。
バリュードライバーとは
バリュードライバー(Value Driver)とは、企業価値に大きな影響を及ぼす要因のことです。英語のDriverには推進力や因子といった意味があり、直訳すると「価値(Value)の因子(Driver)」といったニュアンスになります。
バリュードライバーとして対象になるものは決算書の勘定項目から読み解き、一般的に以下が挙げられます。
- 売上伸び率
- 売上原価率
- 売上高販管費率
- 運転資本増減率
- 設備投資率
これらの項目からもわかるように、バリュードライバーとは企業の持つ成長性や資本コストといった捉え方も可能です。
バリュードライバーではないもの
上記で、企業価値向上の鍵ともなるバリュードライバーの主な項目を紹介しましたが、バリュードライバーには混同しやすい要素もあるので注意が必要です。ここでは、バリュードライバーと混同しやすい要素を確認しましょう。
売上高の成長
売上の伸び率は、バリュードライバーとして重要な項目です。しかし、重要なのは売上の伸び率であり売上高ではありません。単に売上高が成長したからといって、利益率まで比例して成長するわけではないので注意が必要です。
イノベーション(技術革新)の成長
バリュードライバーの考え方では、技術力も単純に利益に直結しないとみなします。実際に、技術力が高くても利益に苦しんでいる企業は多いでしょう。
2. バリュードライバー分析と企業価値を向上させる戦略
企業価値を測る際、一般的には以下4つの視点から分析します。これらは、それぞれ指標を表す計算式を用いて数値を算出できます。
企業価値に影響を与えるものと与えないものを理解し、効果的に企業価値を伸ばしましょう。
- 収益性
- 効率性(生産性)
- 安全性
- 成長性
収益性の向上
企業の収益性とは、いかに利益を上げているかということで、企業の収益性を計るには主に3つの指標があります。
- ROA
- ROE
- ROIC
3つの指標を高めることで企業の収益性は向上し、企業価値が高まって株価も上がります。
ROA
企業の収益性を計る指標の一つで、総資産利益率をさします。総資産がどれだけ効率的に使われているかを見るもので、この値が高いほど収益力が高いです。
ROAは「ROA(%)=当期純利益額÷総資産額×100」で求められます。例えば、当期利益額が5,000万円、総資産額が10億円の企業では「0.5億円÷10億円×100=5%」と計算でき、ROAは5%です。
ROAの数値は5%以上が優良企業の目安ですが、社会情勢や景気の流れにも影響を受けます。
【ROA数値の判断目安】
- ROA10%以上:大変優良
- ROA5%:優良
- ROA1%以上:普通
上記は原則的なもので、業種によってはROAが上がりにくいケースもあるでしょう。設備投資や固定資産などが多い製造業などは、資産額が大きくなるので、サービス業などと比べると低くなります。企業のROAを判断する場合は、同業他社と比較することが大切です。
ROAの高め方
ROAの計算式を使って考えると、ROA向上の打ち手としては利益を増やすか総資産を減らすかの2つです。
利益を増やすことは企業努力だけではどうしようもない部分も発生するため、ROAの改善には総資産額を減らすアプローチをとるほうが効果的でしょう。
【総資産額を減らす方法】
- 遊休資産や使っていない固定資産(土地や建物)の売却、処分
- 在庫整理(不良や不要の在庫を処分)
- 債権整理
- 借入金の早期返済
ROE
企業の収益性を見る指標の一つで、自己資本利益率をいいます。自己資本がどれだけ効率的に使われているかを見るもので、収益力の指標になる点では先述のROAと同じです。
ROEは自己資本利益率のことをさすので、「株主に対しての利益率」として見ることも可能です。ROAよりも株価に大きく影響を与える数値になります。
ROEは「ROA(%)=当期純利益額÷自己資本額×100」で求められ、ROAが総資産額を使って指標を求めるのに対してROEでは自己資本を使って計算します。投資家が純粋に自らの利益を判断できる基準です。
一般的にROEが10%以上で優良企業とされ、ROAと違って設備投資などの影響が少ないため、業種が違っても判断基準として比較できます。ROEは負債とは関連していないため、基本的には利益を増やすことで向上を図り、自社株買いでもROEを高められます。
ROIC
企業の収益性を見る指標の一つで、投下資本利益率のことです。ROICと書いてロイックと発音します。事業に投下した資金がどれくらいの利益を生んでいるのか測れて、「ROIC(%)=税引後営業利益÷投下資本」で求められます。
税引後営業利益とは、税金(法人税など)が控除された営業利益のことで、「税引後営業利益=営業利益×(1-実効税率)」で計算可能です。税引後営業利益は金融費用を除く前の利益であるため、本業で稼ぐ力を純粋に表した数字といった見方です。投下資本は、「株式資本+有利子負債」で求めます。
効率性の向上
企業の効率性とは、企業が保有する資産をどれだけ効率的に使用・運用して売上や利益を上げられたかを意味します。
総資産回転率
企業の効率性を分析する指標の一つで、この数値が高いほど資産が効率的に売上を生み出しているといえるでしょう。総資産回転率は「総資産回転率=売上高÷総資産」で求められます。
【総資産回転率を向上させる対策】
- 総資産を増やさずに売上高を伸ばす
- 売上高を維持したまま総資産を減らす
有形固定資産回転率
企業の効率性を分析する指標の一つで、企業が保有する有形資産から、どれだけの資産を生み出せたかを計ることが可能です。有形資産の活用率ともいえるもので、「有形固定資産回転率(回)=売上高÷有形固定資産」で求められます。
【有形固定資産回転率を向上させる対策】
- 売上高を伸ばす
- 有形固定資産を減らす(土地や建物の売却、処分など)
有形固定資産回転率の分析が適さないケースがあるので注意が必要です。例えば、以下のケースがあり、これらの場合は有形固定資産の性質上、有形固定資産回転率の分析は適していません。
【有形固定資産回転率の分析が適さないケース】
- IT企業、人材企業のような「人」を資産としている会社
- 所有しないスタンスで経営している会社(FC展開が主、生産は外部委託が主など)
棚卸資産回転率・棚卸資産回転日数
企業の効率性を分析する指標の一つで、棚卸資産がどの程度効率よく販売されているかといった指標です。
この数値が高いほど、棚卸資産(新製品や在庫)の循環がスムーズにできているといえ、「棚卸資産回転率(回)=売上原価÷棚卸資産」で求められます。
棚卸資産は率ではなく、日数もしくは月数、年数で表すこともあり、それが棚卸資産回転日数です。棚卸資産回転期間とも呼ばれます。
棚卸資産回転日数は、棚卸資産が1回転するまでの期間を指標として表したものです。全ての商品を売るまでにかかる期間を表しているともいえます。
棚卸資産回転日数は「棚卸資産回転日数(日)=棚卸資産÷(売上高÷365)」、月数や年数を求める場合は「棚卸資産回転月数(月)=棚卸資産÷(売上高÷12)」または「棚卸資産回転年数(年)=棚卸資産÷(売上高÷1)」です。
棚卸資産回転率を向上させる主な対策としては、売上高を伸ばす、棚卸資産を減らす(不良在庫の確認および処分)が挙げられます。
安全性の向上
企業分析の安全性は、主に財務構造の健全性をさし、倒産の危険性や企業における支払い能力の高さなど、さまざまな点において重要な考え方となります。ここでは、企業の全体的な安全性を長期的に見る指標を解説しましょう。
自己資本比率
企業の長期的な安全性を分析する指標であり、この数値が高いほど企業の長期の安全性が高いといえます。
自己資本比率を求める計算式は「自己資本比率=自己資本÷総資本」と単純で、健全な自己資本比率の目安は30%以上で安定企業、50%以上で優良企業です。
【自己資本比率向上のための対策】
- 自己資本を増やす(利益を増やす)
- 総資本を減らす
D/Eレシオ
D/Eレシオとは負債資本倍率のことで、企業財務状況の健全性を分析する指標です。略してDERと呼ばれることもあり、Ratioは日本語で「比率」の意味になります。
Dept(負債)をEquity(資本)で割って求められ、計算式は「D/Eレシオ(倍)=有利子負債÷自己資本」です。
負債の比率を表す指標なのでこの数値が低いほど安全性が高く、高すぎると負債が多すぎると見られ、一般的に理想とされるのは1.0倍以下です。
- D/Eレシオが1.0倍の企業:自己資本に対して同程度の負債があることを意味する
- D/Eレシオが2.0倍の企業:自己資本における2倍の負債があることを示す
D/Eレシオ向上のための対策としては、有利子負債を減らす、自己資本を増やすなどが挙げられます。
成長性の向上
企業の成長性とは、過去から現在までの成長度合いです。会社の趨勢(すうせい)表を作成し、ある年度から他年度までの成長過程を分析することも有効です。
一般的には、売上高・経常利益・総資本の要素から成長性を分析します。年間の平均成長率を算出するCAGRの分析方法もあります。
成長性の指標
先述のとおり、企業における成長性の指標となるのは、売上高増加率・経常利益率・総資本増加率の3つです。これらは下の計算式で求められ、成長性を上げるためには、当期の数字をいかに向上させるかが重要になります。
- 売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
- 経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100
- 総資本増加率(%)=当期純利益÷総資本×100
CAGR
CAGRとは、Compound Annual Growth Rate(コンパウンド アニュアル グロウス レイト)の略です。年平均成長率という意味で、「シーエージーアール」と読みます。
CAGRを算出することで1年あたりどれくらい成長したのかという判断基準になり、「CAGR=(n年度の売上)÷(初年度の売上)^ {1÷(n-1)}-1」で求められます。
上記数式の^は乗数です。面倒な数式にみえますが、初年度の売上と算出したい年度(上記数式におけるnの部分)に数字を当て込むだけで計算可能です。
成長性の指標は、売上以外にも経常利益や総資本があります。上記における計算式の売上部分を経常利益または総資本として計算すれば、それぞれ算出可能です。
企業価値については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
3. バリュードライバー分析を用いた企業価値向上
バリュードライバー分析を活用して企業価値の向上を目指せます。この章では、バリュードライバーの概要や優先順位を決める方法を見ましょう。
バリュードライバーの概要
バリュードライバーとは、企業価値に大きく影響を与える要因のことで、決算書の勘定項目から読み解けることは先に述べたとおりです。バリュードライバー分析では、バリュードライバーになる要素の優先順位を考える必要があり、その際に有効な概念がROICツリーです。
ROICツリーはROICを分解してツリーを作ってできあがり、これを使って企業分析することをバリュードライバー分析といいます。
ROICは投下資本利益率です。ROICツリーの考え方では、まずROICを「売上高営業利益率(税引き前が一般的)」と「資本回転投下率」とに分解し、さらに細かい要素に分解していきツリーを作成します。
例えば、以下の流れで可能な限り分解します。下の①②を繰り返し、ROICを向上するバリュードライバー(特に強い影響を及ぼす要因)を見つけることが、ROICツリーの作成目的です。
- 売上高営業利益率→販管費率+原価率
- 販管費率→研究開発費率+人件費率+広告比率
バリュードライバー優先順位決定
バリュードライバーの優先順位を決定する際に「バリュードライバーの感応度分析」があります。これはバリュードライバーのどこが変化すれば、企業価値がどの程度変わるのかといった考え方です。
同じバリュードライバーでも変動値に比例して企業価値が変動するわけではありません。一つひとつのバリュードライバーにおける値を変化させても、企業価値の変動には差異が生じるでしょう。
他のバリュードライバーを一定にし、任意の各バリュードライバーを変化させ、企業価値を再度算出します。例を挙げると、売上高伸び率が10%変化したケースの感応度を見る場合、他のバリュードライバーを一定にし、売上高伸び率だけを10%上下させて企業価値を計算します。
これは、感応度を見るために10%としており、売上高伸び率を10%上げる必要はありません。
バリュードライバーを変化させたときに出る、企業価値の変化具合がバリュードライバーの感応度になり、全てのバリュードライバーの値を動かし、最も大きく変動したバリュードライバーが企業価値向上のために優先するべき要素です。
M&Aの企業価値評価(バリュエーション)については下記の記事で詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。
4. バリュードライバー分析を活用した経営
バリュードライバー分析を行うと、企業価値向上に効果的な対策の優先順位がわかります。優先される理由まで分析できれば、経営に生かしやすいでしょう。
バリュードライバー分析は、ROICツリーで絞り出した項目を分析して変動値の高い項目を優先的に改善する方法ですが、変動値の高い項目の利益と損失を明確にすれば、従業員も腹落ちしやすいです。
社内に幅広く共有して共通認識を作れば、企業一体となって改善に取り組めます。
例えば、バリュードライバーを活用した小売業界の会社では、平均在庫滞留日数が3日でした。営者が店舗を視察した際に「店舗の直近における在庫日数は何日か」と現場責任者に尋ねると、4日であることがわかり、経営者がすぐに対策を練って改善するように怒りました。
この経営者はバリュードライバーに敏感で、在庫の滞留日数が1日延びたときに発生する企業価値の下落率や株価の影響まで把握しており、店舗における優先順位をよくわかっていたため明確な指示を出しています。
経営管理は、指標が与える優先順位を考慮すると効率的かつ効果的な価値向上を見込むことが可能です。
5. バリュードライバー分析の先にM&Aの選択肢もある
自社で企業価値を高める方法もありますが、ほかの選択肢としてM&Aを検討する方法もあります。例えば、相乗効果のある他業種企業と合併すれば、事業拡大が見込めるだけでなく新しい事業への展開も行いやすいでしょう。M&Aには多くの手法があり、自社の目的に最適なものを選択するためには、専門家のアドバイス・サポートが有益です。
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6. バリュードライバー分析のまとめ
この記事では、バリュードライバー分析を解説しました。企業価値を向上させるためには、財務上の評価基準を高めることが大切です。バリュードライバー分析を活用すれば、効果的に企業価値の向上を目指せます。
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